横浜地裁平成30年5月10日判決(労働判例1187号39頁)

神奈川SR経理労務センター事件 (控訴中)

【事案の概要】

 労働保険事務組合である被告の従業員であった原告らが、原告甲野はうつ状態を、原告乙山は適応障害を発症してそれぞれ休職したところ、休職期間満了日の時点で復職不可と判断された自然退職の扱い(以下「本件各退職扱い」という。)とされた。そこで、原告らは、本件各退職扱いは被告の就業規則の要件を満たさず無効であるなどとして、被告に対し、それぞれ①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②休職事由の消滅により復職した日の翌日からの未払給与及び③賞与等の支払を求めた。

【争点】

(1)本件各退職扱いの有効性
  (原告らが本件各退職扱いの時点で復職可能であったか否かについて)
  (原告らの主張)
 ア 原告らは、
  ・主治医であるA医師、B医師から、それぞれ復職可能との診断書を得ている。
  ・平成26年10月17日に横浜地裁で行われた前訴の本人尋問(原告甲野)、証人尋問(原告乙山)を受けた。
  ・産業医のB医師との面談でも、それぞれ復職の意思が強いことを積極的に伝えた。
 イ 原告らは、被告の正社員であり、職種・職務内容に特段の限定はないから、復職の可否は、他の軽易な業務への配点可能性も踏まえて判断すべきである。
 ウ したがって、原告らは、本件各退職扱いの時点でいずれも復職可能であったものであり、就業規則10条1項ただし書の「復職できない」との要件を満たさないから、本件各退職扱いはいずれも無効である。
  (被告の主張)
 ア 被告は、産業医C医師の職場復帰に関する意見書、面談記録表並びにA医師からの情報提供及びB医師からの情報提供B(以下、両者を併せて「本件各情報提供」という。)を考慮して、原告らの復職は不可能と判断した。C医師の判断によると、原告らは、他の職員と協力して業務を行うことが困難であるといえる。また、A医師及びB医師も、原告らには職場との調整が必要であるとの本件各情報提供をした。
 イ 被告の業務では周囲との協力が不可欠であるが、原告らの精神疾患からすれば、周囲とのコミュニケーションに支障が生じ、労務を提供することができない。
 ウ したがって、原告らは、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したとはいえない。

(2)未払給与の額 略

(3)賞与請求の当否 略

【裁判所の判断】

(1)本件各退職扱いの有効性
  (原告らが本件各退職扱いの時点で復職可能であったか否かについて)
 ア 原告らは、いずれも本件各退職扱いの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。
 イ これに対し、被告は、A医師からの情報提供書において、強い不安がある、職場との環境調整が必要との意見が述べられていることを指摘する。
   しかし、①A医師は、原告甲野のうつ状態発症の契機が「職場の某女性からのパワハラ被害」にあり、その「職場環境への悩みが解決されないまま」現在に至っていると認識していること、②退職扱いとされた当時、被告との間の前訴は、控訴審で審理が係属している状態であったことから、原告甲野が、職場復帰に強い不安を抱いていることは、むしろ当然である。
 ウ また、被告は、B医師からの情報提供書において、就業上の配慮として、職場内での環境調整が必要との意見が述べられていることを指摘する。
   しかし、B医師は、適応障害の発症の契機が原告乙山の職場環境にあると認識しており、その職場環境の悪化からくるストレスにより休職に至ったと認識していると認められることからすれば、上記意見を述べることは何ら不自然なことではない。
 エ C医師の意見書の信用性について
   被告は、原告らはいずれも本件各退職扱いの時点で復職不可の状態であったと主張し、これに沿うC医師の意見書及びC医師の証言がある。
   しかし、C医師自身も、意見書において、原告甲野について、「精神科領域の対応や治療を必要とするような状態ではない」と述べるとともに、原告らについて、面談時、医学的には病気ではなく、投薬等の医療行為も必要ではなかったと証言している(証人C医師)。
   また、C医師が復職不可とする理由は、結局のところ、休職前の状況からすると、職場の他の職員に多大な影響が出る可能性が高いというものに過ぎない(証人C医師)。
 オ 以上からすれば、原告らが、本件各退職扱いの時点までにいずれも従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたということができる。
   したがって、本件各退職扱いは、就業規則10条1項に違反し、いずれも無効である。

(2)未払給与の額 略

(3)賞与請求の当否 
   被告の賃金規程において、賞与は算定期間における職員の貢献度、勤務成績等を考慮して決定されると規定されていることからすると、被告における賞与は、被告が具体的金額の決定をして初めて労働者に賞与の具体的事情が発生するものと解される。
   この点、被告は、従業員に対し毎年2回それぞれ基本給の2か月分以上の賞与を支払っていた。しかし、そのような事情をもって被告から原告らに対し賞与として勤務成績等にかかわらず基本給の2か月分以上の金額を支払う旨の黙示的な合意がされていたと認めることはできない。
   したがって、原告らの賞与請求には理由がない。