名古屋高裁平成30年2月27日判決(自保ジャーナル2021号118頁)

医師の指示または症状管理に基づかない接骨院での施術に係る施術費等について、事故との間の相当因果関係が否定された事例(確定)

【裁判所の判断】

 以下に記載する原審(2審)の認定判断を、いずれも正当として是認した(上告棄却)。

原審(2審)の、富山地方裁判所平成29年6月21日判決は、以下のとおりであった。

【事案の概要】

 次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
  発生日時 平成27年9月25日午前10時55分頃
  発生場所 富山市路上
  被控訴人(原告)車両 普通乗用自動車
  控訴人(被告)車両 普通乗用自動車
  事故態様 発生場所において、前方車両に引き続いて停止していた被控訴人車両に後方から控訴人車両が追突した。

 被控訴人は、平成27年9 月26日、A整形外科医院(以下「A医院」という。)のB医師により、頚椎捻挫及び腰椎捻挫と診断された。そして、被控訴人は、同日から同年11月13日までの間に、A医院に7回通院して治療を受けた。
 また、被控訴人は、C接骨院(以下「本件接骨院」という。)のDにより、頚部捻挫、右肩関節捻挫及び腰椎捻挫と判断された。そして、被控訴人は、同年11月11日から平成28年3月31日までの間に、本件接骨院に69回通院して施術(以下「本件施術」という。)を受けた。

 【争点】

(1)本件事故と相当因果関係のある損害
  (被控訴人の主張)
   被控訴人は、A医院での治療によっては痛みが改善しなかったため、本件接骨院に通院して本件施術を受けたから、本件施術には必要性及び合理性がある。また、本件施術により被控訴人の症状は改善したから、施術の有効性も認められる。さらに、施術期間及び施術費用も約4ヶ月強で約40万円と相当であることから、施術の相当性もある。
   よって、本件施術費用は、本件事故と相当因果関係のある損害である。
  (控訴人の主張)
   本件事故により被控訴人に生じたとされる腰椎捻挫は、平成27年10月23日に治癒し、頚椎捻挫は同年11月13日に痛みの軽減により治療が中止された。被控訴人は、A医院のB医師に対して本件接骨院への通院を告げず、自己の判断で本件接骨院への通院を開始したから、本件施術は医師の指示または症状管理に基づかない。また、本件施術の頻度からは、施術の効果も不明である。
   よって、本件施術には医学的な必要性と合理性が認められず、その有効性にも疑問がある上、施術期間及び施術費用も相当とはいえないから、本件施術費用と本件事故との間には相当因果関係は認められない。

(2)控訴人が本件施術費用について本件事故との間の相当因果関係を否定する主張をすることが信義則に反するか
  (被控訴人の主張)
   被控訴人は、控訴人が保険契約を締結していたD保険会社(以下「本件保険会社」という。)に本件接骨院への通院を伝えた上で施術を受け、本件保険会社との間で治療期間の前後を通じて施術費用を支払う前提でのやり取りがされていた。
   したがって、本件訴訟において控訴人が突然本件接骨院における施術費用について本件事故との相当因果関係を否定する主張をすることは、信義則に反し、許されない。
  (控訴人の主張)
   本件保険会社は、本件事故後、被控訴人に医師の症状管理を受けることを求めていたのであって、同管理を受けなくても本件接骨院における施術費用を支払う等と述べたことはない。

【裁判所の判断】

(1)本件事故と相当因果関係のある損害
   交通事故との間に相当因果関係が認められる治療関係費用は、医師による治療に係るものであることを原則とするが、柔道整復師等、それ以外の者による施術も、施術者が柔道整復師法等資格に関する法律による資格を有することを前提に、
  ・医師の指示又は症状管理下に実施される場合、あるいは、
  ・当該施術に付き、必要性、有効性が認められるとともに、施術内容の合理性、施術期間の相当性、施術費用の相当性を満たすものである場合には、
これによる施術関係費用も事故と相当因果関係のある損害と認められる。

   本件施術は、医師の指示又は症状管理の下にされたものではないので、以下、本件施術の必要性等につき検討する。
  ・本件施術の必要性について
   まず、腰椎捻挫については、既にA医院通院中の平成27年10月23日、B医師により治癒した旨診断されているから、腰部に対する施術は本件事故による傷害に対するものとしては必要性が認められない。
   また、右肩関節捻挫については、B医師の診断において認められていなかったものであるから、これに対する施術については、本件事故との相当因果関係が認められない。
   他方、頚部捻挫(頚椎捻挫)については、被控訴人は、本件接骨院への通院を開始した時点において、僧帽筋の緊張とこれに関する痛みがあり、被控訴人はこれを解消するために本件接骨院への通院を開始したことが認められる。
   しかし、①A医院での治療の結果、痛みの軽減が得られ、治療の効果が上がっていたこと、②B医師が、平成27年12月19日、後遺障害の発生はない旨の診断をしていること、③B医師が、平成29年2月10日、被控訴人代理人の質問に対し、書面よりされた回答の内容からすれば、B医院での治療中止後、被控訴人の頚椎捻挫の治療のために本件接骨院での施術が必要であったとは認められない。
  ・本件施術の有効性について
   頚椎捻挫に限定しても、本件施術は、C医師により痛みの軽減が見られ、後遺障害の発生もない旨の診断までされていたものについて、痛みが著明であるとしてされ、通院終盤において、通院頻度を従前以上に高くさせたものであって、その有効性には疑問がある。
   以上によれば、本件施術は、医師の指示又は症状管理の下されたものではない上、その必要性及び有効性について立証があったとはいえないから、本件接骨院における施術費用は本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

(2)控訴人が本件施術費用について本件事故との間の相当因果関係を否定する主張をすることが信義則に反するか
   本件保険会社の担当者は本件接骨院に対して被控訴人への施術の終了時期を問い合わせたり、施術費用をも含む内容の提案をしたりしていた。
   しかし、本件保険会社の上記対応は、本件事故による損害賠償が訴訟によらず早期に解決することを前提として執られたものとみることができるものであり、本件保険会社が無条件に本件接骨院での施術費用を支払う旨約束したこと及びこれがあったからこそ被控訴人が本件施術を受けたものとは認められない。
   それゆえ、被控訴人の信義則に係る主張は、認められない。