札幌地裁平成30年9月28日判決(労働判例1188号5頁)

ベルコ事件(控訴中)

【事案の概要】

1 被告は、冠婚葬祭互助会員の募集及び冠婚葬祭の請負等を主たる事業とする株式会社である。Aは、平成14年10月28日、被告との間で、被告の冠婚葬祭の互助会員募集業務や互助会入会契約の締約代理業務を受託する旨の契約(以下「代理店契約」という。)及び被告の運営する葬儀の役務提供に関する業務執行委託契約をそれぞれ締結し、上記各代理店締約は1年ごとに更新された(以下、この代理店契約に基づくAの事業体を「A代理店」という。)。
  原告甲及び同乙は、平成20年4月及び平成21年4月、Aとの間で、それぞれ1年間の期限の定めのある労働契約を締結し、同契約は、1年ごとに更新された。原告らは、葬儀施行に従事するとともに、葬儀に出席した者に対し、互助会契約の勧誘等の営業活動を行っていた(以下、これらの活動を行う従業員を「FA職」という。)。
  被告は、平成23年6月に支部制を導入し、各代理店との間で、特定の「支部」と呼ばれる地域の範囲内で営業を行うことを取り決めるようになった。そして、Aは、札幌市B地区及びその周辺(以下「B地区」という。)における営業活動を担当し、「B支部長」と呼ばれるようになった。また、被告は、地域ごとの代理店のとりまとめや被告との間の業務事項の連絡、各代理店の目標の達成の確認等に関する業務を第三者に委託しており、同業務の委託を受けた者は、その担当地域において「支社長」と呼称された。
  Aは、平成27年1月29日付けで、被告に対し、代理店契約及び業務執行委託契約の解約を申し入れ、同月31日、上記各契約は終了した。そして、被告との間で代理店契約を締結していた会社の代表取締役であるCが、同年2月1日頃、B地区での業務を引き継ぐことになった。しかし、Cは、原告らとの間で、いずれも労働契約を締結しなかった。

【争点】

(1)原告らと被告との間に労働契約が成立しているか。
  アAが被告の従業員の採用について委任を受けた商業使用人であったか(すなわち、被告が代理店契約をもってAに従業員との労働契約の締結を委任していたか)。
  イ(仮にAが被告の商業使用人とはいえず、これにより原告ら各自とAとの間の労働契約の効果が被告に帰属しないとしても)原告らと被告との間で黙示の労働契約が成立していたか。
  ウ(仮にAが代理商であるとしても)Aが代理商であると被告が主張することが信義則違反ないし権利濫用といえるか。
(2)以下 略

【裁判所の判断】

(1)原告らと被告との間に労働契約が成立しているか。 
 ア Aが被告の従業員の採用について委任を受けた商業使用人であったか。
   会社その他の商人の使用人とは、その商人に従属し、その者に使用されて労務を提供する者と解されるところ、これに該当するか否かは、当該商人との間の契約の形式にかかわらず、実質的に見て指揮命令関係にあるなどの事情から、当該商人から使用されて労務を提供しているといえるか否かによって判断すべきである。
   この点、Aについては、
  ・業務の方針や成果に関しては細部にわたって被告からの指示があり、これを拒否することは相当程度困難であった。
   被告は、支社長を通じるなどして、Aに対し、獲得すべき契約数その他の目標の設定、催しの実施、従業員の新規採用の可否のほか、従業員の解雇について一般的な準則を設定し、担当すべき業務についても指示指導を行っていた。こうした指示指導は、Aに対し、代理店主の地位が失われるおそれがあることを考慮に入れた上でこれに従うか否かの判断を迫るものであり、実際にAは上記のおそれを認識した上で承諾していた。
  ・具体的な労務の遂行方法や労務の時間、場所については一定程度の裁量があった。
   Aは、A代理店における各種催しの企画、従業員の採用等の際、被告に稟議を上げていた一方で、被告は稟議された事項につき金銭的な補助をするか否か及びその補助の範囲について判断するにとどまり、当該事項自体についての当否について判断しておらず、この点はAの裁量判断に任されていた。また、Aの労働時間、代理店の事務所所在地については、代理店契約において定められていなかった。
  ・業務の代替性は乏しかった。
   Aの業務については、一部業務につき従業員を用いることは想定されているが、業務を再委託することは許されていなかった。
  ・業務を自己の計算によって行い、報酬額が労務の成果と対応していた。
   Aは、代理店の収入となる各種手数料のほか、自らの年金収入の中からも支弁して、事務所の賃料その他の経費を負担していた。また、Aの報酬は上記手数料から各種経費を控除した残額であって、月次の変動がみられていたのであり、被告がAの報酬について源泉徴収を行ってもいなかった。
   したがって、Aは、被告に従属し、被告に使用されて労務を提供しているとはいえないから、Aが被告の使用人であるということはできない。

 イ 原告らと被告との間で黙示の労働契約が成立していたか。
   原告らは、仮にAが被告の商業使用人といえず、これにより原告ら各自とAとの間の労働契約の効果が被告に帰属しないとしても、被告との間で黙示の労働契約が成立していたと主張する。
   そこで、以下、検討すると、
  ・原告らの採用過程
   原告らは、いずれもAが面接した上で自ら採用を決定したものであり、被告はその採用に関与していない。
  ・指揮命令の態様
   原告らは、葬儀施行の際に被告の関係者から個別具体的な指示を受けることや、業務遂行に関する一般的な準則に基づいて業務に従事するよう被告から指示を受けることはあったものの、大半の業務に関しては、Aの指示のもとでこれに従事していた。
  ・人事管理の態様
   Aが原告らのタイムカード、契約獲得数等を記載した文書等を被告に対して提出し、被告がFA職の成績を把握していたということができるが、原告らの労働時間や成績を管理し、何らかの具体的な指示を発した事実は認められない。また、D支社長らが、成績の良くないFA職について葬儀の施行を担当させないこと、休職期間の長い者を退職させるべきことなどの方針をAに伝達していたものの、原告らを含むFA職に対して直接の業務指示を行ったり、人事権を行使したりした事実は認められない。
  ・賃金の計算方法等
   原告らに対する基本給及び歩合給の算定方法等の賃金は、Aが定め、A代理店の売上から拠出されていた。また、原告らの社会保険料の納付や所得税の源泉徴収及び納付は、いずれもAが代表社員である会社において行っていた。
   以上の事実からは、被告が、原告らに対し、労務に関する指揮命令を行い、その対価として報酬を支払ったとみることはできない。したがって、原告らと被告との間で黙示の労働契約が成立したということはできない。

 ウ Aが代理商であると被告が主張することが信義則違反ないし権利濫用といえるか。
   原告らは、Aが代理商であるとしても、被告はA等の代理店主に代理商としての独立性を与えず、意のままに支配管理できる地位にあり、原告らの労働組合の結成を阻止ないし解散させる不当労働行為意思の下に上記地位を利用してAとの代理店契約を解約し、原告らとの労働契約をCに承継させなかったから、本件においてAが代理商であることを主張することは信義則違反ないし権利濫用であり、原告らに対する雇用責任を免れることはできないと主張する。
   しかし、上記に述べたことからすれば、被告が代理店主を意のままに支配し管理することができる地位にあったと認めることはできない。
   また、Aに対して支部長の地位を離れて後任を探すよう求めたのは、A代理店の経営状態が悪化していたことを理由とするものであるから、原告らの組合活動に対して不利益な取扱いをすることを目的としていたとは認められない。
   その他、被告においてAが独立した人格を有する代理商であることを主張することが信義則ないし権利濫用であることをうかがわせる事情はない。

(2)以上によれば、原告らと被告との間において労働契約が成立し、又はその効果が被告に帰属するとはいえないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない(請求棄却)。