東京高裁平成27年11月11日判決(労働判例1129号5頁)

発注者・元請人及び元請人・下請人の各業務委託契約並びに下請人・原告の雇用契約が、二重偽装請負(労働者供給契約)にあたるとの原審の判断を覆した事例

【事案の概要】

(1)被控訴人株式会社DNPファインオプトロニクス(以下「被控訴人A」という。)は、訴外株式会社DNPミクロテクニカ(以下「訴外B」という。)と、訴外Bは、被控訴人日本ユニ・デバイス株式会社(以下「被控訴人C」という。)と、それぞれ基板製造に関する業務委託契約(以下「本件各業務委託契約」という。)を締結した。

(2)控訴人は、平成17年2月4日、被控訴人Cと雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結し、被控訴人AのD工場にて、勤務していた。

(3)控訴人は、平成21年1月31日、被控訴人Cから解雇された後、被控訴人Aに対し、本件契約及び本件各業務委託契約はいわゆる偽装請負であるから公序良俗に反して無効であり、控訴人と被控訴人Aとの間に黙示の雇用契約が成立しているとして、控訴人が被控訴人Aとの間で雇用契約(労働契約)上の権利のあることの確認等を求めた。

(4)原審が控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が本件各控訴をした。

【争点】

(1)控訴人と被控訴人Aとの間の黙示の雇用契約の成否
(2)被控訴人らによる共同不法行為の成否
(3)被控訴人A、訴外B及び被控訴人Cの各取締役らによる任務懈怠の有無
であるが、以下、(1)についての裁判所の判断のみを示す。

【裁判所の判断】

(1)判断枠組みについて
   控訴人は、本件雇用契約及び本件各業務委託契約について、いわゆる偽装請負であり、職安法44条及び労基法6条に違反し、ひいては公序良俗に反するから、いずれも無効であると主張する。
   控訴人と被控訴人Aとの間に黙示の雇用契約が成立したか否かを判断する上で、本件雇用契約及び本件各業務委託契約の効力が直接関連するものではないけれども、請負契約という法形式に沿う実態があるか否かは、黙示の労働契約の成否について判断する際に考慮すべき事情とも重なるものといえるから、当事者の主張に即して検討を進めることとする。

(2)本件雇用契約及び本件各業務委託契約について、いわゆる偽装請負であることを前提として、いずれも無効であるといえるか否かについて
 ア 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人に委ねられているから、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない(最高裁平成21年12月18日判決・パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件参照)。
 イ 被控訴人Aは、基本的に、バンプ印刷工程のように製造条件が完全に標準化されていない作業や、目視による微細な品質判定が要求される作業等については、「コア業務」として被控訴人Aの従業員に行わせており、作業内容が標準化された比較的単純定型作業であるバンプ後工程については、コア業務以外の業務(製造付帯業務)として訴外Bや被控訴人Cの従業員に行わせていた。そして、控訴人が担当した工程はバンプ後工程である貫通工程等であり、作業に当たって作業予定表及び製造指示書を参照するほかに逐一指示を要しないものであって、一つの設備において同時に複数人が作業することはなかった。
   また、被控訴人Cの従業員の勤怠管理は専ら同社が行っており、同社は、現場管理者、工程リーダー及びシフトリーダーを配置し、独自にスキル評価を実施したり教育を行ったりして、班編成に意見を反映させ、配置転換を行うなど、基本的な労務管理を行っていた。
   さらに、本件D工場のバンプ工程で使用する設備や機材は、訴外大日本印刷又は被控訴人Aが所有するものであり、被控訴人Cの従業員が使用するクリーンスーツ等も被控訴人Aから無償で貸与されたものであったけれども、作業着やネームプレートについては被控訴人Cの指定したものがあり、被控訴人Cの従業員が使用するクリーンルーム前室やエアシャワーゾーンについても、基本的に被控訴人Aの従業員が使用するものと区別されていた。
 ウ 以上の事実によれば、被控訴人Cは自らその従業員に対する指揮命令を行っていたということができる。
   したがって、本件について、本件雇用契約及び本件各業務委託契約について、いわゆる偽装請負であることを前提として、いずれも無効であるという控訴人の主張は、採用できない。

(3)控訴人と被控訴人Aとの間に、使用従属関係があり、実質的に控訴人が被控訴人Cに労務を提供し、同社が控訴人に賃金を支払う雇用契約関係が黙示に成立していたものと評価することができるか否かについて
   被控訴人Aが控訴人に対して具体的な指揮命令をする関係にあったといえないことは、上述したとおりである上、被控訴人Cは独自に採用手続を行っており、控訴人の採用手続についても被控訴人Aは関与していない。
   また、被控訴人Cは、その従業員の賃金についてそれぞれ雇用契約で定めるとともに、リーダー手当や慰労金等の独自の制度に基づいて賃金を支給しており、被控訴人Aにおいて被控訴人Cの従業員の賃金を決定していたことをうかがわせる事情は見当たらない。
   さらに、被控訴人Cはその従業員の配置転換等を行っていたほか、同社が控訴人を解雇し、控訴人が被控訴人Cを相手方として雇用契約上の地位確認等を求める旨の労働審判を申し立てたなどの本件紛争に至る経緯を見ても、本件において被控訴人Cが控訴人の具体的な就業を管理していたことは明らかである。
   以上の事実を総合すれば、本件において、控訴人と被控訴人Aとの間に雇用契約関係が黙示に成立していたものと評価することはできない。

原審では、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、二重偽装請負(労働者供給契約)であり、職安法44条及び労基法6条に違反すると認定していた。

以下、上記の争点に関する、原審(さいたま地方裁判所平成27年3月25日判決 労働判例1129号16頁)の判断を示す。

【原審の判断】

 (1)本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、二重偽装請負(労働者供給契約)であるか否かについて
 ア 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人に委ねられている。したがって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。
   そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職安法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないというべきである(最高裁平成21年12月18日判決参照)。
   これに対し、注文者、元請負人、下請負人、下請負人の雇用する労働者の4者の関係において、下請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ注文者と元請負人との間で請負契約という法形式が採られ、かつ、元請負人と下請負人との間で下請契約という法形式が採られていたとしても、これらを請負契約と評価することはできない。そして、この場合において、注文者と労働者との間及び元請負人と労働者との間にそれぞれ雇用契約が締結されていないのであれば、元請負人は、自己が雇用していない下請負人の雇用する労働者を、さらに業として注文者に派遣していることとなるというべきである。そうすると、上記4者間の関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当せず、職安法44条に違反することとなり、当該労働者が就業するのに介入して利益を得ることは労基法6条に違反することとなるものと解される。
 イ 本件では、以下の事実が認められる。
  ・原告ら被告Cの従業員は、被告Aの正社員が班長やサークル長を務める班体制において、被告Aの正社員らと混在した状況において業務を行っていた。
  ・原告ら被告Cの従業員は、基本的には被告Aが作成・配布する作業予定表や製造指示書に基づいて作業を行っており、種々の場面において被告Aから業務上の指示を受けていた。
  ・被告Aのサークル長が原告ら被告Cの従業員も含めて作業員全員のスキル評価をするなど、被告Aが被告Cの従業員のスキルを相当程度把握していた。
  ・原告が休日出勤した際に作業内容の指示等を行っていたのは、被告Aの正社員であった。
  ・被告A又はその親会社である訴外大日本印刷が必要な設備、機材及び作業員のクリーンスーツ等を準備し、提供していたほか、被告Aが被告Cの従業員による生産過程や生産結果について相当程度管理していた。
 ウ 以上によれば、注文者である被告A、元請負人であるB、下請負人である被告C、下請負人の雇用する労働者である原告の4者の関係において、被告Aがその事業所内において原告に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせていたということができるから、本件各業務委託契約を請負契約と評価することはできず、Bは、自己が雇用していない被告Cの雇用する原告をさらに業として被告Aに派遣していたこととなるというべきである。そうすると、上記4者の関係は、職安法4条6項にいう労働者供給を業として行うものとして、職安法44条に違反することとなり、原告が就業するのに介入して利益を得ることは労基法6条に違反することとなるものというべきである。

(2)本件雇用契約の有効性について
   しかし、職安法44条及び労基法6条の趣旨並びにその取締法規としての性質、さらには労働者を保護する必要性等に鑑みれば、職安法44条及び労基法6条に違反する行為がなされた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによって本件雇用契約が無効になることはないと解される。
   この点、本件雇用契約及び本件各業務委託契約が、二重偽装請負であり、職安法44条及び労基法6条に違反するとしても、本件においては、それを超えて、上記特段の事情の存在を肯定し得るだけの主張立証はないと言わざるを得ない。
   したがって、平成17年2月4日から平成21年1月31日までの間、本件雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。