名古屋高裁平成29年12月14日判決(自保ジャーナル2027号133頁)

ガウジ痕の位置等に基づいて、両車両の衝突地点及び事故態様を認定し、これらに関する原審の判断を覆した事例(確定)

【事案の概要】

(1)以下の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成24年7月30日午後3時15分頃
 イ 発生場所 愛知県豊田市内の路上(以下「本件交差点」という。)
 ウ 甲野車両 控訴人Aが所有し、控訴人Bが運転する普通乗用自動車
 エ 乙山車両 被被控訴人Cが所有し、被控訴人Dが運転する普通乗用自動車 
 オ 事故態様 中央線によって区分された片側1車線の道路(以下「本件道路」という。)を南から北に走行していた甲野車両の左前部と、北から南に向かって走行していた乙山車両の前中央部が、本件事故現場で衝突した(いずれの車両が中央線をはみ出して走行してきたかについて、争いがある。)。

(2)原審は、本件事故について、甲野車両が中央線を越えて、乙山車両の進行していた南行車線に進入してきたことにより発生したものであるから、控訴人Bには過失があるが、被控訴人Dには過失がないと判断し、控訴人らの請求をいずれも棄却するとともに、被控訴人Dの請求の一部と、被控訴人Cの請求の全部を認容した。
   そこで、控訴人らが、敗訴部分を不服として控訴した。

【争点】

(1)控訴人B又は被控訴人Dは、本件事故に関し、不法行為責任を負うか(本件事故の態様)
(2)控訴人ら又は被控訴人らの損害
であるが、以下、上記(1)について、裁判所の判断の概要を示す。

【当事者の控訴審における補充主張】

(1)控訴人らの主張
 ア 甲野車両と乙山車両の衝突地点は、
  ・北行車線上の中央線から0.7メートル離れた箇所に、停車した乙山車両の中央下付近に印象されているガウジ痕(以下「ガウジ痕A」という。)に甲野車両の右前輪タイヤが、
  ・南行車線上の中央線付近で、停車した乙山車両のほぼ前部下付近に、長さ0,4メートルの筋状で印象されたガウジ痕(以下「ガウジ痕B」という。)に甲野車両のミッションケース突起部が、それぞれ位置した地点である。
 イ 衝突前の甲野車両は北行車線上を進行しており、乙山車両は中央線を越えて北行車線を南進していた。
 ウ 衝突形態は、北行車線から右転把した状態の甲野車両の左前端部と北行車線から左転把した乙山車両の前部中央付近が正面衝突したものである。

(2)被控訴人らの主張
 ア 本件事故においては、
  ・(衝突地点とは明らかに異なる位置である)南行車線上の中央線から約1メートルの地点に、停車した甲野車両の右角前部よりやや北付近にあるガウジ痕(以下「ガウジ痕C」という。)
が印象されていることから分かるように、ガウジ痕は、最初の衝突地点でのみ印象されるものではない。それゆえ、ガウジ痕Aが印象された地点で2度目の衝突が生じたのであれば、最初の衝突地点が別の地点であることと何ら矛盾するものではない。
 イ 乙山車両は、右後輪のタイヤがパンクするほどの衝撃で縁石に衝突していながら、同車両には右後部及びガードパイプの損傷がほとんど見受けられない。よって、乙山車両は、タイヤ部分が縁石に接触した反動で道路側にはじき出され、最初の衝突によって左回転していた甲野車両の左前部と2次衝突を起こしたものである。

【裁判所の判断】

(1)原審における認定事実の補足(ガウジ痕について)
   ガウジ痕には、衝突の最大食い込み時にフレーム、トランスミッションカバー等の強固な金蔵部分の角部又は突起部が路面を垂直に直撃する場合に生じるチョップガウジ痕と、ナット、プロペラ、シャフトの角部等の突起した車両部品が強く路面に押し付けられた際に生じるグループガウジ痕などがあるが、ガウジ痕Aはチョップガウジ痕、ガウジ痕B及びガウジ痕Cはグループガウジ痕である。

(2)衝突形態について
   両車両の損傷状況に加えて、控訴人Bは、乙山車両と衝突する直前、右にハンドルを切っていること、乙山車両のバンパー左(向かって右)のフォグランプ取付位置に甲野車両のナンバープレート(中央部より右側に装着)の転写痕があることなどを考慮すると、両車両は、甲野車両が若干斜めになった状態で、その左前部と乙山車両の前部中央付近が衝突し、その姿勢を保ったまま変形した結果、甲野車両の中央部右側寄りの部分と乙山車両の左側が当たるに至ったものと認められる。

(3)ガウジ痕について
 ア ガウジ痕Aは、甲野車両の左前輪のタイヤのホイール内側のリムが外側に向かってめくれている部分によって印象されたものであることは、当事者間に争いがなく、この点は、ガウジ痕Aには、黒色と白色ないし銀色の部分があり、タイヤやリムによって印象されたものと考えられることからも裏付けられているものといえる。
   そして、ガウジ痕Aは、チョップガウジ痕であり、衝突の最大食込み時に自動車の金属部分が路面に直撃することによって生じるものであることからすると、ガウジ痕Aの位置に甲野車両の左前輪が存在するときに、甲野車両と乙山車両が最初に衝突したものと認められる。
 イ ガウジ痕Bは、グループガウジ痕であり、突起した車両部分が路面に押し付けられた際に生じるものであるところ、ガウジ痕Aとガウジ痕Bの距離が63センチメートルであるが、甲野車両の前輪ホイールリムの内側から52.5セントメートルの位置にミッションケースの突起部があることに、甲野車両が変形していることや衝突後の車両移動などを考慮すれば、ガウジ痕Bは、甲野車両のミッションケースの突起部によって印象されたものであると認められる。
 ウ 以上によれば、甲野車両と乙山車両は、ガウジ痕Aの位置に甲野車両の左前輪が存在するところで最初に衝突したものであり、ガウジ痕Bが甲野車両のミッションケース突起部で印象されたものであることからすると、甲野車両の左前輪がガウジ痕Aの位置にあり、同車両のミッションケース突起部がガウジ痕B付近の位置にあるときに衝突したのであると認められる。とすれば、甲野車両は、本件衝突時、北行車線から中央線を跨ぐ形で右に向けて存在していたことになり、甲野車両と乙山車両の上記衝突形態からすれば、乙山車両は、北行車線から中央線をやや跨ぐ形で存在していたことになる。
   よって、甲野車両と乙山車両の衝突地点は、本件道路の中央線に近いところであったと認めることができる。
 エ なお、ガウジ痕A及び同Bは、本件事故後に停止した乙山車両の下に印象されている。しかし、上記(2)で述べた、甲野車両と乙山車両の衝突形態からは、両車両とも左回りに回転する。そして、乙山車両は、甲野車両とほぼ同じ速度で進行しており、甲野車両の約1.7倍の重量であることから、右斜め前方へ押し出されるように移動すると考えられる。とすれば、ガウジ痕Aとガウジ痕Bが乙山車両の下にあることは、上記認定と矛盾するものではない。
   また、甲野車両は、乙山車両とは反対に、左回転しながら後退するものであることからすると、ガウジ痕Bやガウジ痕Cが印象されることも矛盾がないといえる。

(4)本件事故態様について
   以上によれば、本件事故は、控訴人Bが、甲野車両を運転して北行車線を北進していたところ、被控訴人Dの運転する乙山車両が北行車線を跨ぐようにして南進してきたため、ハンドルを右に切って回避しようとしたが回避しきれず、乙山車両と衝突したというものであるいえる。
   客観的に認められる事故態様に照らし、応訴人Bの実況見分における指示説明や陳述及び供述は概ね信用できるが、これに反する被控訴人Dの実況見分における指示説明や陳述及び供述は採用することができない。

(5)被控訴人らの主張(控訴審における補充主張を含む。)について
 ア これに対して、被控訴人らは、乙山車両が南行車線を南進していたところ、北行車線を北進してきた甲野車両が対向車線から中央線を越えて走行してきたため衝突し、乙山車両は、1度目の衝突後、左回転しながら右前方に移動した後、乙山車両の右後輪が本件道路西側縁石に衝突したことにより、道路側にはじき出され、最初の衝突によって左回転していた甲野車両の左前部と2次衝突したと主張する。
 イ しかし、甲野車両と乙山車両の衝突形態や本件道路に残されたガウジ痕の状態、車両の停止までの状況などを考慮すると、乙山車両が南行車線を南進していたとは認められないことは、上記(2)ないし(4)で説示するとおりである。
   それに加えて、甲野車両の車両重量は790キログラムであり、乙山車両の車両重量は1,410キログラムであるのに対し、甲野車両も乙山車両もほぼ同じ速度で走行していたのであるから、物体に働く力は質量の差によって影響され、衝突後、甲野車両の方が乙山車両よりも移動距離が大きくなると考えられること、衝突後、乙山車両は、左回転をしながら、右前方に移動するのに対し、甲野車両は、左回転をしながら後退するから、甲野車両が乙山車両の方へ行くような動きは生じないことからすると、甲野車両と乙山車両が2次衝突するとは考えにくく、被控訴人の主張は採用することができない。

(6)結論   
   以上によれば、本件事故は、乙山車両が中央線を跨ぐようにして北行車線を南進していたことにより発生したものであるから、専ら被控訴人Dの過失により生じたものというべきである(注)。

注)控訴審は、被控訴人らの請求をいずれも棄却するとともに、控訴人らの請求のそれぞれ一部を認容した。