京都地裁平成30年3月19日判決(自保ジャーナル2028号69頁)

主治医の症状固定の判断後に労災医員により測定された検査数値と本件事故との因果関係を否定して、労災で11級と認定された聴力障害の残存を否定した事例(確定)

【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成26年3月28日午前8時49分頃
   発生場所 京都市内交差点
   原告車  事業用中型貨物自動車(3トントラック)
        運転者 原告甲野
        所有者 原告会社
   被告車  自家用普通貨物自動車(軽トラック)
        運転者 被告乙山
        事故態様 南北に走る府道と東西に走る市道が交差する、信号機の設置されていない交差点(以下「本件交差点」という。)において、府道を北進していた原告車と、一時停止の規制がある市道を東進していた被告車が、出会い頭に衝突した。これにより、原告車は、交差点北東側歩道に乗り上げ、看板柱、ブロック塀、電柱、標識柱を損傷させた(現場イメージ図参照)。

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(2)原告甲野は、本件事故により、頭部打撲、頸椎捻挫、大腿部打撲傷、腰椎捻挫の傷病名で、次のとおり通院した。
 ア 医療法人社団A病院(以下「A病院」という。)
   平成26年3月28日、同年7月10日、平成27年1月10日
 イ 医療法人社団B診療所(以下「B診療所」という。)
   平成26年3月28日から平成27年2月28日まで(実通院日数209日)
   また、左耳鳴症、両側感音難聴等の傷病名で、次のとおり通院した。
 ウ 耳鼻咽喉科Cクリニック(以下「Cクリニック」という。)
   平成26年4月7日から平成27年2月23日まで(実通院日数15日)

(3)原告甲野は、B診療所から、平成27年3月10日の診察において、頸椎捻挫、腰椎捻挫、左上肢末梢神経障害の傷病名で、同年2月28日を症状固定日とする後遺障害診断を受けた(以下「本件診断書1」という。)。
   また、原告甲野は、Cクリニックから、平成27年3月9日の診察において、左耳鳴症、両側感音難聴、頸腕症候群の傷病名で、同年3月2日を症状固定日とする後遺障害診断を受けた(以下「本件診断書2」という。)。

(4)損害保険料率算出機構は、本件診断書1及び同2に基づき、以下のとおり判断して、併合14級と認定した。
  ①頸椎捻挫後の左頸部、肩甲部から手にかけてのしびれ感、左頸部痛等の症状:「局部に神経症状を残すもの」として、14級9号
  ②腰椎捻挫後の腰背部痛:「局部に神経症状を残すもの」として、14級9号
  ③左耳鳴:「難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるもの」として、14級相当
  ④両側感音難聴(聴力障害):非該当
   他方、労働者災害補償保険は、以下のとおり判断して、併合10級と認定した。
  ①頸部の神経症状:「局部に神経症状を残すもの」として、14級9号
  ②腰部の神経症状:「局部にがん固な神経症状を残すもの」として、12級の12
  ③耳鳴:「著しい耳鳴が常時存在するもの」として、準用12級
  ④聴力障害:「両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上」(労災医員測定値)と認められるため、「両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」として、11級の3の3

(5)人身損害の既払金
 ア 被告保険会社は、原告甲野の前記(3)の治療関係費118万3770円を負担するとともに、原告甲野に対し150万3316円(合計268万7086円)を支払った。
 イ 原告甲野は、労災保険から、①療養給付3万0250円、②休業給付281万6000円、③障害給付553万6868円を受領した。 

(6)物的損害の既払金
 ア 原告共済は、平成27年2月3日、原告会社に対し、原告車の車両損害について共済金42万円を支払った。
 イ 原告会社は、平成26年4月9 日から平成27年1月4日までの間、E株式会社のレンタカー(以下「本件代車」という。)を借り受け、被告保険会社は、そのレンタル料金103万6800円を支払った。

【争点】

(1)事故態様、原告甲野の過失の有無及び割合(全事件共通)
(2)原告甲野の損害(第1事件)
(3)被告保険会社による第三者損害の求償請求(第3事件)
(4)原告共済による原告車の車両損害の求償請求(第4事件)
(5)原告会社の損害(第5事件)と被告保険会社の原告会社に対する不当利得返還請求(第6事件)
であるが、以下、人身損害に関する(1)及び(2)についての、裁判所の判断の概要を示す。

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【裁判所の判断】

(1)事故態様、原告甲野の過失の有無及び割合(全事件共通)
   原告甲野と被告乙山の過失内容・程度、とりわけ被告乙山の方が、相対的に速度が早く、一時停止規制を見落とすなど前方不注視の程度も看過できないことを踏まえると、原告甲野と被告乙山の過失割合は、10:90と認められる。
   この点、被告乙山は、事故状況や最終停止地点に照らすと、原告車の方が被告車より高速度であったと主張するが、原告車の重量が圧倒的に大きいことから、採用できない。
   また、原告甲野は、自らの過失がない旨を主張するが、原告甲野自身も衝突するまで被告車に気づいていない点、見通しの悪い交差点であるにも関わらず徐行していない点(道路交通法42条)は看過できないことから、採用できない。

(2)原告甲野の損害(第1事件)
 ア 原告甲野は、本件事故により後遺障害が残り、その程度は、前記の損害保険料率算出機構の認定のとおり、併合14級である。
 イ この点、原告甲野は、労働者災害補償保険における認定に沿って主張するが、採用できない。
  ①聴力障害:D病院(労災医員測定値)における標準純音聴力検査(6分式、単位はdB)の測定結果に基づけば、「両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上」に該当する。
   しかし、原告甲野は、受傷当初から専門医であるCクリニックで継続的に検査、治療を受け、主治医である同医院医師から平成27年3月2日に症状固定したと診断されたものであり、その治療経過や後遺障害診断に特段不自然不合理な点はない。そして、本件診断書2の作成に係る平均純音聴力レベルについては40dB以上の難聴がなかったものと認められるから、その後に、別の病院で検査を受け、検査数値が悪化していたとしても、悪化した医学的機序を明確に説明できない限りは(なお、被告乙山提出の医師の意見書では、受傷後1年を経過した聴力が悪化することは考えられないとされている。)、悪化した数値に本件事故との因果関係があるとは認めがたい。
  ②耳鳴:原告甲野の主張する耳鳴は、前記①の症状固定後に原因不明で悪化した聴力に伴って生じたものであるから、本件事故との因果関係は認定できない。
  ③腰部の神経症状:原告甲野が訴える腰痛等について、本件全証拠を精査しても、外傷性の異常所見があることを窺わせる証拠はなく、神経学的検査における異常所見も見当たらず、かえって、B診療所の照会回答書には、原告甲野の他覚的所見は初診時も終診時もなかった旨が明記されている。そうすると、12級の神経症状の認定はできない。
 ウ 原告甲野の損害額について
  ・治療関係費 121万4020円(=118万3770円+3万0250円)
  ・通院交通費 9万6520円
  ・本件診断書1及び本件診断書2の診断書代 9700円
  ・休業損害 432万4833円(=55万円÷30日×337日×0.7)
   原告甲野は、本件事故当時、F会社で貨物自動車の運転手として働いており、月額55万円の収入を得ていた。他方、受傷内容、治療期間が長期間に及ぶことなどに照らすと、原告甲野主張の337日間(注:平成26年3月29日から平成27年2月28日まで)の全休のうち7割の限りで相当因果関係のある休業損害を認めるのが相当である。
  ・後遺障害逸失利益 142万8735円
  ・傷害慰謝料 107万円
  ・後遺障害慰謝料 150万円
  ・過失相殺
   原告甲野の損害については、前記(1)記載のとおり10%の過失相殺をするのが相当であって、減額後の金額は、次のとおりとなる。
  ①治療関係費、通院交通費、後遺障害診断書代
   118万8216円(=(121万4020円+9万6520円+9700円)×(1-0.1))―A
  ②休業損害、後遺障害逸失利益
   517万8211円(=(432万4833円+142万8735円)×(1-0.1))―B
  ③傷害慰謝料、後遺障害慰謝料
   231万3000円(=107万円+150万円)×(1-0.1))―C
  ・素因減額 しない
  ・損益相殺
  ①労災療養給付の既払控除
   118万8216円(A)-療養給付3万0250円=てん補後の残額115万7996円
  ②労災休業給付と労災障害給付の既払控除
   517万8211円(B)-(休業給付281万6000円+障害給付553万6868円)
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   よって、てん補後の残額はない
  ③被告保険会社の既払控除(損害元金の算定)
   (前記①のてん補後の残額115万7996円+231万3000円(C))
   -被告保険会社による既払金合計268万7086円=損害元金78万73880円
  ・弁護士費用 7万8000円
  ・原告甲野の人身損害合計額 86万1880円(=78万3880円+7万8000円
 エ 結論
   原告甲野の、被告乙山に対する請求(第1事件)は、86万1880円及び遅延損害金の限度で理由がある(注:請求額は2316万7899円)。