札幌地裁平成29年6月23日判決(自保ジャーナル2028号18頁)

原告の請求により、将来介護費用の他、逸失利益についても定期金賠償が認められた事例(控訴審判決後上告受理申立中)

【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成19年2月3日午後1時15分頃
 イ 発生場所 北海道千歳市内の市道(以下「本件市道」という。)
 ウ 被害者  歩行者(平成14年〇月〇〇日生)   
 エ 加害車両 大型貨物自動車(以下「本件車両」という。)
 オ 事故態様 原告X1が、本件市道を横断中、被告Y1の運転する本件車両と衝突した。

(2)原告X1(当時4歳)は、本件事故により、脳挫傷、びまん性軸索損傷、左中指末節骨骨折等の傷害を負い、受傷直後はJCS200の状態にあり、札幌医科大学附属病院(以下「札幌医大病院」という。)に入院した当初も、意識障害、呼吸障害が続いた。しかし、原告X1は、平成19年2月19日頃から、意識障害が改善し、同月22日、小児科に転科した。
   原告X1は、札幌医大病院で実施されたリハビリテーションにより歩行可能となったものの、発語稚拙、歩行ふらつきの状態にあったほか、左手外傷後瘢痕拘縮についての治療を受けた。原告X1は、同年4月25日、札幌医大病院を退院した(同年2月3日から、82日間)。その間、原告X3(注:原告X1の母)は、同年4月以降は休職して、原告X1の入院治療に毎日付き添っていた。
   原告X1は、同年5月16日から同年7月30日までの間(76日間)、北海道立子ども総合医療・療育センター(以下「子ども医療センター」という。)に入院し、引き続き、日常生活動作等に関するリハビリテーションを受けた。また、原告X1は、同年8月27日から同月28日までの間(2日間)、札幌医大病院に入院した。その間、原告X3は、原告X1の入院治療に毎日付き添ったほか、同年9月3日から同月21日までの間(19日間)、退院後の家庭で行うリハビリテーションの習得を目的として、子ども医療センターに原告X1とともに入院した。
   子ども医療センターを退院後、原告X1は、引き続き、札幌医大病院、子ども医療センター及びAクリニックで、歩行運動障害等についてリハビリテーションを中心とした通院治療を受けた。しかし、X1は、平成24年12月27日、症状固定となった。この間、原告X3は、原告X1の通院に付き添った。

(3)子ども医療センター所属のB医師作成の後遺障害診断書及び神経系統の障害に関する医学的意見書等によると、原告X1は、日常生活動作において粗大運動等については課題が少ない状態になるまで発達しているが、手指巧緻性の低下、片足立ち困難、軽度バランス障害があり、多動、衝動性があり、コミュニケーション及び自己統制は困難であり、家庭、地域社会等における全般的活動状況及び適応において支援が必要と指摘されている。

(4)自賠責保険による後遺障害の認定は、以下のとおりである。
   原告X1については、頭部画像に明らかな脳損傷の所見が認められ、受傷当初から意識障害が継続して認められることや、その後の症状経過を踏まえると、本件事故に起因する脳損傷による高次脳機能障害が残存しており、その障害の程度については、心理検査結果報告書、WISC―Ⅳ検査結果報告書、日常生活状況報告書その他の資料を含めて総合的に評価し、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」に該当するとして、後遺障害等級3級3号に該当する。他方、原告X1の左手指の瘢痕については、自賠責保険における後遺障害等級には該当しない。

【争点】

(1)本件事故の態様及び過失割合
(2)損害の発生及びその額

【裁判所の判断】

(1)本件事故の態様及び過失割合
  ・被告Y1は、本件事故現場付近にある✕✕会館又はその周囲から、場合によっては人が道路に出てくる可能性があることを予見することは十分に可能であった。
  ・本件事故当時、本件事故現場付近は圧雪アイスバーンの状態にあり、急な飛び出しがあるとこれを回避することは困難であった。
  ・被告Y1の供述及び陳述(以下「陳述等」という。)によっても、被告Y1は、本件市道の制限速度を若干上回る速度で本件車両を走行させ、これにより原告X1に重篤な障害を残す脳挫傷等の傷害を負わせた。
   他方、
  ・原告X1が当時4歳の幼児であったから、原告X3は、その保護者として、原告X1が道路に飛び出すことがないように看視、監督すべきであったのに、本件事故が起きるまで原告X1の挙動について把握していなかった(被害者側の過失)。
   そして、原告X1は、本件車両がわずか19.6mの距離に接近している状態で本件市道を横断したこと、その他一切の事情を考慮すると、被告Y1と原告X1側の過失割合は、前者に8割の過失があるというべきである。

(2)原告X1の損害
 ア 原告X1の治療費 292万9060円
 イ 原告X1の入院雑費 26万8500円
 ウ 通院交通費 104万5357円
 エ 装具費用等 44万4540円
 オ 症状固定前の付添看護日費、介護費用 1149万5000円
  ①原告X3が休職していた平成19年9月末日まで
   上記【事案の概要】(2)の原告X1の治療経過からすると、原告X1は、本件事故時は4歳であり、受傷後は意識がなく、意識が回復した後も重篤な傷病のために、原告X3が休職して原告X1の入院治療に毎日付き添っていたものと認められる。よって、原告X3が休職していた平成19年9月末日までの入院付添費及び自宅付添費に関しては、1日当たり8000円をもって相当と認める。
  ②平成19年10月1日以降
   原告X1の治療経過及び症状固定時における障害等に鑑みれば、原告X1の治療に関しては、通院のための付添の必要性はもとより、自宅における日常生活においても、原告X3らによる声がけや援助が必要であったと認められる。よって、平成19年10月1日以降の通院付添費及び自宅付添費に関しては、1日当たり5000円をもって相当と認める。
 カ 不動産賃借料 0円
 キ 将来介護費用(定期金賠償)
   上記【事案の概要】(3)の原告X1の症状固定時の状況等によれば、原告X1は、本件事故に起因する脳外傷による高次脳機能障害が残存し、平成19年6月11日付けの知能検査(WPPSI)では全IQ79、平成26年1月8日付けの知能検査(WISC―Ⅳ)では全検査69点であり、知的検査はやや遅れであり、年齢が上がるに従って学習に付いていけなくなり、小学校5年生以降は特別支援学級に進学していること、食事や排泄は自立、入浴もほぼ自立しており、1人でバスで移動し、近所への買い物一応は可能であるが、他方で、易怒性、固執性があり、感情の起伏があって粗暴になることもあり、対人関係の構築は難しく、また、金銭管理も困難であり、原告X3の援助によって通学のための準備ができていることの各事実が認められる。
   上記認定事実によれば、高次脳機能障害の後遺障害のある原告X1が、将来にわたって完全に自立した生活を送ることができる見込みがあるとは到底認めがたく、日常生活を送る上で他人の看取や支援が必要であると認められるから、将来にわたって介護の必要性があると認められる(注:介護費用の認定額は、後記シ③参照)。
 ク 逸失利益(定期金賠償)
   上記【事案の概要】(3)の原告X1の症状固定時の状況等によれば、原告X1は、本件事故により労働能力を完全に喪失したと認めることができる。そうすると、原告X1の症状固定時(平成24年12月27日)の賃金センサス(男子・学歴計・全労働者平均賃金)529万6800円を基礎収入とし、原告X1が後遺障害逸失利益に関して毎月22日限りの定期金賠償を求めているから、原告X1が就労可能となる年齢に達する日(平成32年〇月〇〇日)から原告X1が67歳に達する日(平成81年〇月〇〇日)までの間、毎月22日限り、44万1400円が後遺障害逸失利益として支払われるべきである。
 ケ 慰謝料 
  ①入通院慰謝料 310万円
  ②後遺障害慰謝料 1990万円
 コ 損害の填補及び充当
   原告X1については、a平成26年3月12日、自賠責保険により2219万円が支払われたこと、b被告Y3(注:被告側の任意保険会社)から治療費として468万5944円が支払われたことが認められる。そこで、aについては法定充当し、bについては元本に充当すると、原告X1の損害(ただし、弁護士費用を除く。)は、以下のとおりとなる。
  ①将来介護費用(ただし、平成25年1月(注:症状固定日は、平成24年12月24日)分から平成28年10月分まで(注:口頭弁論終結時まで)を含む。)及び逸失利益、弁護士費用を除く損害金の合計 3918万2457円
  ②過失相殺後の残額(=①×0.8) 3134万5965円
  ③bを②に元本充当 2666万0021円(=3134万5965円―468万5944円)
  ④aを③に法定充当 1393万9806円(=2666万0021円―(2219万円―946万9785円(③の7年38日間の遅延損害金)))
 サ 弁護士費用 900万円
 シ 小括
  ①将来介護費用及び逸失利益を除く損害額
   2293万9806円(=1390万9806円+900万円)
  ②平成25年1月分から平成28年10月分まで(46月間)の介護費用
   335万8000円(=9万1250円×46×0.8)
  ③将来介護費用(定期金賠償)
   毎月27日限り、以下の金額
  a)平成28年11月から平成30年3月(X1の義務教育期間終了)まで、7万3000円(=9万1250円×0.8)
  b)平成30年4月から平成46年6月(X3が67歳に到達)まで、20万1666円(≒25万2083円×0.8)
  c)平成46年7月以降X3が死亡するまで、24万3333円(≒30万4166円×0.8)
  ④逸失利益(定期金賠償)
   平成32年9月から平成81年8月まで、毎月22日限り、35万3120円

(3)原告X2(注:原告X1の父)及び原告X3の損害
 ア 慰謝料 各120万円(=150万円×0.8)
 イ 弁護士費用 各12万円
 ウ 小括 各132万円

【控訴審の判断】

   札幌高裁平成30年6月29日判決(判例タイムズ1457号73頁、自保ジャーナル2028号1頁)は、原告X1の将来介護費用(定期金賠償)のうち、義務教育期間終了後(上記【裁判所の判断】(2)シ③b及びc)について、①原告X1において、義務教育期間終了後も高等支援学校に進学し、また、②原告X1の成長に伴い介護の負担の程度が軽減することなどを考慮して、職業介護による介護費用及び親族介護による費用の日額を、いずれも20パーセント減額して、原審を変更したが、その余については、原審の判断を維持した(上告及び上告受理申立中)。