東京地裁平成29年11月29日判決(労働判例1191号59頁)

シンワ運輸東京(運行時間外手当・第1)事件(控訴審判決確定)

【事案の概要】

(1)被告は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社である。原告らは、いずれも被告と雇用契約を締結し、大型貨物自動車を運転して小麦粉を配送する業務に従事している者である。

(2)被告と原告らとの間の雇用契約の内容となる被告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)及び同規則の一部である被告の賃金規程(以下「本件賃金規程」という。)は、賃金等につき、概要、次のように定めていた。
   被告における賃金は、基本給、役付手当、補償手当及び最低賃金保障手当の基準内賃金と、時間外手当、休日出勤手当、深夜勤務手当、運行時間外手当及び通勤手当等の基準外賃金により構成されている。そして、乗務員については、時間外勤務手当、休日出勤手当及び深夜勤務手当(以下、これらを総称して「時間外手当」という。)を、運行時間外手当の中で支給し、同手当の支給額が時間外手当の金額に不足する場合には、その差額を支給するものとされていた(本件賃金規程第12条)。
   ここで、運行時間外手当とは、乗務員が車両を運行することにより、被告が受託先から得る運賃収入に一定の率(70%)を乗じて算出した額に対し、運送物及び車種によって異なる率(小麦粉の運送車については25%)を乗じて算出した金額の全額(※)を、時間外手当相当額として、乗務員に支給するものである(本件賃金規程第14条。以下「本件規定」という。)。
   ※)(運賃収入)×0.7×0.25

(3)被告は、その従業員に対し、毎月、運行時間外手当の額のほか、普通残業、深夜残業、休日普通勤務及び休日深夜勤務の各時間数とともに、これらの時間数を基に算定した時間外手当の額等を記載した給与明細書及び支給明細書(以下、これらをまとめて「給与明細書等」という。)を交付し、支給する運行時間外手当の額が上記のとおり算定された時間外手当の額に満たない場合は、別途、その差額を時間外手当として支給していた。
   なお、原告らについては、原告らの割増賃金請求期間中、支給された運行時間外手当の額が上記のとおり算定された時間外手当の額を下回ることがなかった。

【争点】

   本件規定に基づく運行時間外手当の支給により、時間外労働等に対する対価として労働基準法37条に定める割増賃金を支払ったといえるか否か。

【裁判所の判断】

(1)原告らは、運行時間外手当は、その算定方法からして原告らの労働時間との間に時間比例性がなく、実質的には歩合給であるとして、同手当の支給により労働基準法37条に定める割増賃金を支払ったということはできないと主張するので、以下、検討する。

(2)労働基準法37条は、同条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金の定めを同条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない(最高裁平成29年2月28日判決(国際自動車事件(労働判例1152号5頁)))。したがって、運行時間外手当についても、その算定方法から直ちに同手当の支給が割増賃金の支払いに当たらないということはできない。
   しかし、同手当の支給により労働基準法37条に定める割増賃金を支払ったといえるためには、そもそも、同手当が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものであるか否かを検討する必要がある。

(3)この点に関し、運行時間外手当について、その算定方法上、原告らの労働時間との間に時間比例性がないことは、同手当が時間外労働等に対する対価の趣旨で支払わられるものでないことを疑わせる事情となる。

(4)しかし、被告は、
  ・平成14年1月に被告が設立された当時の賃金規程から現在の本件賃金規程まで一貫して、運行時間外手当の全額を時間外手当相当額として支給し、労働基準法所定の計算方法により算定した時間外手当の額と差額が生じる場合には同差額を支給するものとされている。
  ・実際にも、従業員に対し、毎月、運行時間外手当の額と残業時間数を基に算定した時間外手当の額を記載した給与明細書等が交付されるとともに、上記差額が生じる場合には同差額が支給されていた。
   このことに加え、
  ・被告は、多数組合との間で、運行時間外手当が割増賃金として支給されるものであることを前提として、その算定の際の率等について協議を続け、平成25年11月1日、運行時間外手当が割増賃金として支給されるものであることを改めて確認する内容の労働協約を締結した。
  ・現在、原告らが加入する労働組合との間でも、平成26年4月11日、本件賃金規程を含む本件就業規則の内容を、同組合との労働協約とする内容の労働協約を締結した。
   よって、被告と原告らを含む従業員との間では、従前より運行時間外手当が時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われる旨の共通認識が形成され、実際にも同認識に従った運用がなされていたものと認められる。
   また、本件各証拠によっても、被告において、従業員の基本給等の基礎賃金を当初から意図的に低く設定したり、その後にこれを減額して運行時間外手当に振り替えたりしたといった事情は認められず、その算定方法以外に、運行時間外手当に所定労働時間中の労働に対する対価が含まれていることをうかがわせるような事情は認められない。
   以上によれば、運行時間外手当について、その全額が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものであると認められる。

(4)結論
   原告らの請求は、いずれも理由がない(請求棄却)。

【控訴審の判断】

  控訴審(東京高裁平成30年5月9日判決(労働判例1191号52頁))は、原告らの控訴を、いずれも棄却したが、その理由中で、前記【裁判所の判断】(3)を、下記のとおり改めた。

(1)この点に関し、控訴人(原告)らは、運行時間外手当は労働時間との間に時間比例性がなく、控訴人らが運転する大型貨物自動車の積載量との関連性の強い運賃収入を基に算定されており、実質的な歩合給であると主張する。
   しかし、上記のとおり、労働基準法37条は、使用者に対し、同条所定の方法によって算出された額を下回らない割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解される。
   そして、本件賃金規程12条ないし14条を全体としてみれば、被控訴人(被告)においては、①従業員の時間外手当について、それぞれの基準内賃金の合計額を基礎賃金として労働基準法37条所定の計算方法に沿って算出された割増賃金を支給するものとし、他方、②別途乗務員(運転手)については、運賃収入を基礎として計算した運行時間外手当の全額を上記時間外手当相当額すなわち割増賃金として支給することとし、③運行時間外手当の支給額が上記①の算定をした時間外手当(割増賃金)の金額に不足する場合には、その差額を支給することとし、④運行時間外手当の額が①の時間外手当(割増賃金)を超える場合であっても、その差額は運転手に取得させることとしていた。
   かかる割増賃金の算定及び支給方法によれば、運行時間外手当の額は労働基準法37条所定の計算方法によって算出される額を下回らないこととなり、同条に反する点は認められない。
(2)控訴人らは、使用者が支払う手当が労働基準法37条の割増賃金に当たるか否かを判断するに当たっては、当該手当の額と労働時間との比例性を重視すべきであると主張する。しかし、上記は本件賃金規程による割増賃金の算出及び支払方法を正解しないものであり、採用することができない。