東京高裁平成30年6月18日判決(判例時報2416号19頁)

歯科医院に対する批判的意見等を述べた「Googleマップ」への書込みが、受忍限度を超えて債権者の社会的評価を低下させるとはいえない旨判示した事例(確定)


【事案の概要】

   以下、【事案の概要】及び【原審の判断】において、「抗告人」を「債権者」、「被抗告人」を「債務者」と称する。

(1)債権者は、〇〇において「〇〇」という名称の歯科医院(以下「本件クリニック」という。)を経営する医療法人である。
   債務者は「Googleマップ」という地図情報サービスの地図上の店舗・施設等について感想・評価等の口コミを投稿するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)を管理・運営する法人である。

(2)氏名不詳者は、本件サイトに原決定別紙投稿目録記載の第1及び第2の各記事(以下、順に「本件記事1」「本件記事2」といい、これらを総称して「本件各記事」という。)を投稿した。

(3)債権者は、債務者に対し、本件各記事によって人格権(名誉権)が侵害されたとして、人格権に基づく妨害賠償請求権として、本件各記事を仮に削除するよう求めた。


【原審の判断】

   原審における主な争点は、下記のとおりであった。
  a)債権者の社会的評価が低下したか否か
  b)本件各記事の摘示事実の真実性
   以下、上記の各争点を含めて、原審の判断の概要を示す。


(1)被保全債権の存否
   本件各記事の投稿が債権者の名誉を毀損し、その社会的評価を低下させたといるかどうかは、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである(最高裁エ昭和31年7月20日判決、平成24年3月23日判決参照)。
   もっとも、他人の社会的評価を低下させる記事の投稿であっても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実の重要な部分が真実であるときには、上記行為は違法性が阻却されるというべきである(最高裁昭和41年6月23日判決、最高裁昭和58年10月20日判決)。
   また、摘示事実を前提とする意見ないし論評の表明としてされた記事の投稿についても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分が真実であり、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したものでないときは、その違法性が阻却されるものというべきである(最高裁平成9年9月9日)。
   そして、本件債務者のようなウェブサイトの管理・運営者は、通常、表現内容の真実性等の事実関係に関する資料を保有していないことや、手続的保障が十分とはいえない仮処分における表現行為の抑制であることなどから、請求者において違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情がないこと(上記各要件のいずれかの不存在)を疎明することが必要であると解される。
  ①本件記事1について
  a)社会的評価の低下
   一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として、本件記事1を全体としてみれば、同記事は、本件クリニックで治療を受けた投稿者が、担当医師の当日の治療及び翌日以降の対応に不満をもって、批判的意見等を記載したものに過ぎず、債権者が主張するように、患者を初心者の技術向上の踏み台や実験台にしていると捉えられ、医療事故被害を示唆するものではるとまで読むことはできない。
   これらに加え、本件サイトの本件クリニックに関するページは、主として、治療を受けるべき歯科医院を探している読者が、歯科医院を選択するための判断材料を得る目的で閲覧しているものと考えられるところ、そのような一般の閲覧者は、本件クリニックを評価する他の投稿記事をも閲覧しているのが通常であり、それらの投稿記事には本件クリニックの医師による適切な治療に対する満足や、医師の丁寧な対応を評価する内容のものもあれば、不満や批評を述べるものもあること、さらには、本件サイトのような、いわゆる口コミサイトが、消費者にとって双方向性の高いコミュニケーション手段となり、また、個人と事業者との間の情報の非対称性を弱める機能を有していること等を併せて考慮すると、上記程度の社会的評価の低下は受忍限度の範囲内であるというべきである。
  b)摘示事実の真実性 略
  c)公共性、公益目的当 略
  d)小括
   以上によれば、本件記事1が受忍限度を超えて債権者の社会的評価を低下させるとみることはできず、また、違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情がないとはいえないから、本件記事1について被保全権利は認められない。
  ②本件記事2について
  a)社会的評価の低下
   一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件記事2は、本件クリニックの費用や品質等に対する社会的評価を低下させるものということができる。
   この点について、債務者は、相場より高いという摘示自体は直ちに社会的評価を低下させるものではない旨主張する。けれども、歯科医院の治療費、特に保険適用外の治療費は高額となることがあるから、一般人にとっての関心事であり、その治療費が高いにも関わらず治療技術が低いということは、社会的評価を低下させるものといえるから、この点に関する債務者の主張は採用できない。
  b)摘示事実の真実性
   疎明資料(略)によれば、本件クリニックの治療費が他に比較して特段高額であるとは認められず、〇〇との摘示事実が真実であるとはいえない。
   また、疎明資料(略)及び審尋の全趣旨によれば、本件クリニックの開設以来の全診療録を調べた結果、〇〇とクレームを申し出た患者はいないことが一応認められ、〇〇との摘示事実が真実であるとはいえない。
   よって、本件記事2に摘示された事実は、その重要な部分において真実でないといえるから、この点について違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないものと一応認められる。
  c)小括
   以上によれば、本件記事2は債権者の社会的評価を低下させ、また、同記事を本件サイトに投稿する行為には、実質的違法性があるといえるから、同記事については被保全権利が認められる。

(2)保全の必要性の有無 
   本件記事2がインターネット上で閲覧可能な状態にある以上、債権者において、あえて長期間放置したなどの特段の事情がない限り、債権者には著しい損害又は急迫の危険があるものということができるところ、上記各記事について、そのような特段の事情は見当たらない。
(3)結論
   以上によれば、債権者の本件申立ては、①本件記事2を仮に削除する限度で理由があるから、30万円の担保を立てることを条件として認容するが、②本件記事1を仮に削除するよう求める申立ては理由がないから却下する。
   債権者は、上記②を不服として抗告した。


【裁判所の判断】

(1)当裁判所も、本件記事1は受忍限度を超えて抗告人の社会的評価を低下させるものではなく、抗告人の人格権(名誉権)を侵害するものではないと解する。
   そうすると、抗告人の本件記事1の仮の削除請求は却下されるべきものであるから、本件抗告は理由がないことに帰する。

(2)なお、念のために判断するに、本件記事1には違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないことの疎明もないというべきである。

(3)歯科医院の治療については、患者ごとのオーダーメイドであって、その出来具合についての巧拙の評価や満足度、費用の額についての納得度は、患者によって千差万別である。不満を述べる感想についても、歯科医院側はある程度受忍していくことが社会的に求められているところである。
   また、ウェブサイトへの書込みは、国民の表現の自由や知る権利の保障に関係する事柄であるから、社会的評価の低下や違法性阻却事由を窺わせる事情の不存在についての疎明があったと判断するには、これらの基本的人権の保障との兼ね合いにも配慮して慎重でなければならないというべきである。殊に、書込みをした者が当事者とならない本件においては、抗告人の疎明に対して被抗告人が実質的に反証していくことは、事実上不可能に近いことにも配慮し、非常に慎重でなければならないというべきである。

(4)結論
   本件抗告は理由がないから棄却する。