神戸地裁伊丹支部平成30年11月27日判決(自保ジャーナル2039号1頁)

後遺障害逸失利益等の算定における中間利息控除のための基準時は、本件事故時ではなく、症状固定時であるなどと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成22年7月22午後7時40分頃
   発生場所 兵庫県伊丹市内の交差点
   原告車両 原告A(平成7年9月生)運転の自転車
   被告車両 被告運転の普通貨物自動車
   事故態様 原告自転車が、本件交差点に設置された横断歩道を、青信号に従って西から東に向けて直進中、被告車両が、本件交差点を東から南に向けて左折しようとして、横断歩道上の原告自転車に衝突した。

(2)原告Aは、本件事故により、左急性硬膜下血腫、脳挫傷、頭蓋骨骨折、遷延性意識障害、外傷性水頭症等の傷害を受けた。
   原告Aは、本件事故から869 日目である平成24年12月6(注:原告Aは、満17歳)、B病院の医師から、「傷病名」を「頭部外傷」、「精神・神経の障害」について、「意識障害あり。開眼はしているが、発語なく、反応なし。四肢麻痺があり、四肢の随意的な動きはまったくない。嚥下はある程度可能であるが、主たる栄養は胃ろうによる経管栄養である。視力、聴力は測定不能。全介助状態である。」、「上肢・下肢および手指・足指の障害」について、「自動運転は全くない」、「障害内容の増悪・緩解の見通し」について「症状の改善の見込みはない」との内容で、症状固定の診断を受けた。

(3)原告Aは、平成25年2月12日、C保険会社から、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として、後遺障害1級1に該当するとの認定を受けた。
   原告Aは、D家庭裁判所a支部において、平成28年4月16日確定の後見開始の審判を受け、成年後見人として、原告E(原告Aの父。身上監護事務を分掌)及びF弁護士(財産管理事務を分掌)が専任された。

(4)原告E及び原告G(原告Aの母)は、原告Aの両親であり、原告Hは原告Aの姉であり、原告Iは原告Aの兄である。


 【争点】

(1)過失相殺
(2)原告Aの損害(とりわけ将来治療費、付添看護費、将来介護費、将来雑費、後見関係費用)
(3)他の原告らの近親者慰謝料(とりわけ兄弟姉妹の慰謝料請求を認めるべき特段の事情)
   以下、上記(2)及び(3)についての裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(1)について、裁判所は、本件事故は、被告の一方的過失によるものとして、過失相殺はしないと判示した。


【裁判所の判断】

(1)原告Aの損害
 ア 損害額算定に当たっての先決判断
  ①将来治療費、将来介護費、後遺障害逸失利益等の算定における中間利息控除のための基準時
   標記の争点について、原告Aは症状固定時を主張し(注:労働能力喪失期間については、満17歳から満67歳までの50年に対応するライプニッツ係数18.2559から満17歳から満18歳までの1年に対応するライプニッツ係数0.9524を差し引いた17.3035によることとなる。)、被告は本件事故時(注:労働能力喪失期間については、満14歳から満67歳までの53年に対応するライプニッツ係数18.493から満14歳から満18歳までの4年に対応するライプニッツ係数3.546を差し引いた14.947によることとなる。)を主張する。
   当裁判所は、症状固定時をもって損害の価値の現在化をすべきものと判断する。仮に、事故時を基準として損害の価値の現在化のために中間利息を控除すれば、遅延損害金が単利で計算されるのに対して明らかに価値の現在化によって差し引かれる金額が多額になり、被害者が必要以上に不利益に扱われることとなることなどからは、現実に具体的な損害が発生するといえる症状固定時を損害の現在化の基準時とするのが相当というべきである。
   被告は、損害発生時期や遅延損害金の発生時期と同様に考えるべきである旨主張するが、上記のとおりであり、採用することはできない。
  ②年少女子の後遺障害逸失利益の算定における基礎収入
   当裁判所は、原告Aが本件事故時に14歳であったことから、平成24年度賃金センサス男女計・全年齢平均賃金を採用する。
  ③将来介護費の算定に当たり、障害福祉制度の存続を前提とすべきかどうか
   原告は、これを前提とせず、被告は、これを前提とすべきと主張する。しかしながら、ここでの問題は、職業介護費の算定の前提となる介護費用の単価を左右する介護報酬の金額が上昇するのか低下するかの蓋然性の問題であって、制度そのものの存続の蓋然性それ自体が問題であるとはいえない。
   そして、証拠(略)によれば、現状では介護報酬が低下する蓋然性があると認めるに足りない。そうすると、障害福祉サービスの単価が現状を維持するものとの前提で将来介護費について検討するのが相当である。
   なお、原告は、音楽療法の費用を将来介護費に含めて請求するところ、音楽療法が、原告Aにとっては、医学的にも有用であるものと認めるのが相当であるから、これを介護費に含めて請求することは認めるのが相当である。
 イ 将来治療費 197万2,843円
   原告Aは、症状固定後も、引き続き本件事故により生じた症状のため、身体機能を維持し、体調を管理するために脳外科、眼科、神経内科等の治療を必要としており、その内容も相当と認められる。よって、これに要する治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害に当たり、口頭弁論終結後に要する治療費も、その請求をする必要があるというべきである。
 ウ 付添看護費 909万5,476円
   原告E及び原告Gが、原告Aのために付添看護をしたことについては、これに要したと認められる費用相当額が原告Aの損害となる。
   原告Gは、本来J病院勤務の看護師として就労していたにもかかわらず、原告Aの付添いをするために(その必要性・相当性は、原告Aの症状に照らせば優に認められる。)病院を退職せざるを得ず、これによって、平成21年度給与所得375万5,686円を喪失したのであるから、その填補の趣旨での損害を認めるのが相当である。そうすると、付添看護費の日額は、上記の原告Gの年収に基づく日額と一般的に認められる日額のうち高額な方とすべきであるところ、前者は1万0,289円(円未満切捨て)となり、後者は6,000円が相当であるから、高額な前者を採用する。
 エ 将来介護費 1億3,163万3,110円
  ①)原告Aが特別支援学校を卒業するまで(症状固定から3年間・ライプニッツ係数2,7232) 1,458万4,043円
   近親者介護費は、平日は日額1万円、訪問介護を利用しない土・日曜日は、2名で介護すべき部分があることも考慮して日額1万3,000円が相当である。
   また、職業介護費については、自宅に戻ってからK特別支援学校に入学するまでの期間も含めて、訪問介護サービスを利用していることから、1回5,398円を請求するので、これによる。
  ②原告Aの特別支援学校卒業から原告Gが67歳に達するまで(症状固定後4年目から20年目まで) 8,464万6,224円
   近親者介護費は、平日は日額8,000円、土・日曜日は、入浴介護と月2回施設介護費があることを考慮して日額1万円が相当である。
   また、職業介護費については、障害者総合支援法に基づく公費負担が現にされた部分は、現実に原告Aが負担した自己負担額を基準とすべきであるが、利用が増えている部分は割合的に増額するのが相当であるから、口頭弁論終結時点までは自己負担額の平均月額2万4,110円を増額した2万8,000円により、将来分については、公費負担部分を含むサービス費総額を基準とすべきであるが、これも割合的に増額するのが相当であるから、サービス費総額平均月額49万5,454円を割合的に増額した58万円により、損害として計上することとする。
  a)平成28年1月から同30年7月まで・ライプニッツ係数は症状固定後3年目から同5年7ヶ月目まで4.7647―2.7232=2.0415) 705万5,424円
   b)将来分・ライプニッツ係数は症状固定後5年8ヶ月目から20年目まで12.4622-4.7647=7.6975) 7,759万0,800円
  c)合計 8,464万6,244円
  ③原告Gが67歳に達した後(症状固定から21年目以降・ライプニッツ係数は19.3098―12.4622=6.8476) 3,240万2,843円
   原告E及び原告Gは、原告Aを現在と同様に自宅で介護し、2人が亡くなった後は原告H及び原告Iに介護に関わってほしいとの希望を持っており、原告H、及び原告Iも自宅での介護に協力する意向を有しているものの、既にそれぞれ配偶者がおり、今後子が出生した場合の生活状況がどうなるかは確定していないといわざるを得ない。そうすると、原告Aが主張するような自宅での介護は、相当に困難になっているものと考えられ、施設介護をも視野に入れた介護費の算定をすることもやむを得ないというべきである。
   そうすると、近親者介護費は、日額3,000円、職業介護費は日額1万円とするのが相当である。
  ④総合計 ①+②+③=1億3,163万3,110円
 オ 将来雑費 554万7,872円 
   原告Aの平均余命(注:症状固定時の原告Aは満17歳で、平成24年簡易生命表による平均余命は69.74年である。)に至るまで自宅介護が行われる蓋然性には疑問があることは前記エ③で説示したとおりである。よって、原告Gが67歳に達した後については、施設介護の可能性を踏まえれば、原告Aが計上する品目の雑費を必要としないものと考えるのが相当である。
   そうすると、自宅介護が行われるものと見込まれる原告Gが67歳に達するまで(症状固定後20年目まで・ライプニッツ係数12.4622)について、1ヶ月当たり3万7,098円で算定することとする。
 カ 後遺障害逸失利益 8,178万4,992円
  ①基礎収入 472万6,500円(前記ア②参照)
  ②労働能力喪失割合 100%(後遺障害等級1級1号)
  ③労働能力喪失期間 50年間(ライプニッツ係数17.3035。前記ア①参照)
  ④計算式 ①×1.0×③≒8,178万4,992円
 キ 後見関係費用
  ①申立て費用 6,199円
  ②成年後見人の報酬
   身上監護部分 0円(財産管理部分は別途)
   本件においては、F弁護士が成年後見人に選任されており、本件訴訟に勝訴した場合には、認容額の8~10%程度が報酬として付与されるものと解される。そこで、F弁護士の成年後見報酬は、一時金として弁護士費用とともに検討することとする(注:本判決は、弁護士費用(成年後見人報酬)として、2,090万円を認容した。)。
 ク 自賠責保険金の支払い(充当関係)
   原告Aは、平成25年2月12日付けで、自賠責保険金4,000万円を受領している。
   最高裁平成11年10月26日判決、最高裁平成12年9月8日判決は、自賠責保険金の支払によって元本債務に相当する損害が填補されない場合であっても、遅延損害金の請求は制限されない旨判示しており、これを請求することができる以上、自賠責保険金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、まず遅延損害金の支払債務に充当され、残金があるときは元本に充当されるものと考えられる(民法491条1項)。
   被告は、被害者請求に基づいて支払われた自賠責保険金は、被害者の損害を填補するものではあるものの、加害者の被害者に対する損害賠償債務の「弁済」には該当せず、民法491条1項は適用されないと主張するが、独自の見解に立って判例を理解するものであって、採用することができない。

(2)他の原告らの近親者慰謝料
 ア 原告E及び原告G 各400万円
 イ 原告H及び原告I 各200万円
   原告H及び原告Iは、原告Aのきょうだいとして、両親にも引けを取らないだけの精神的苦痛を受けたものと認めるのが相当である(注:原告Hは、本件事故当時、大学生で、自宅を離れて養護学校の資格を取得する目的で看護大学に通っていたが、原告Aが日常生活の全介助を要する状態になったことから、看護師の資格を取得してb市内の病院の内科病連で勤務し、自分の看護師としての知識・経験を原告Gに伝えて原告Aの介護にも寄与していた。また、原告Iは、本件事故当時、高校生で、大学受験を控えていたにもかかわらず、原告E及び原告Gが自宅を空ける機会が多くなり、原告Aが日常生活の全介助を要する状態になったことから、理学療法士の資格を取得し、大学卒業後はb市内の病院に勤務しながら、原告Aの介護を手伝っていた。)。

(3)結論
   原告Aの請求は、2憶8,217万2,749円及びうち2憶6,127万2,749円に対する平成25年2月12日から、うち2,090万円に対する同22年7月22日から各支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却する(一部認容。請求額は、4億1,496万1,657円である。他の原告らの請求については、略)。