大阪地裁令和元年9月12日判決(判例秘書登載)

何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するツイートは、特段の事情の認められない限り、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解されると判示した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。なお、反訴請求については省略する。)は、平成20年2月6日に大阪府知事に就任し、その後、大阪市長に就任していたが、本件投稿がなされた平成29年10月29日以前に、知事、市長を退任し、弁護士、テレビのコメンテーターなどとして活動している者である。
   本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)は、平成29年10月29日以前から、デジタルコンテンツの企画等を目的とし、インターネットを利用して報道等を行う株式会社Aの代表取締役であり、また、ジャーナリストとして活動する者である。

(2)被告は、平成2019年10月29日、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)において、以下の内容の投稿(以下「本件投稿」という。)をした。なお、本件投稿当時,被告のアカウントのフォロワー数は18万人を超えていた。
   「Retweeted △△大阪市解体の住民投票は中止な(@△△):
    X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」
    http://(以下略)
    X1氏が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」
   被告は、遅くとも本件提訴時(平成29年12月15日)までに、本件投稿を削除した。

(3)本件投稿は、ツイッターにおいて他人がした投稿を引用する形式で自己のアカウントから投稿する方法(リツイート)によりなされた投稿であり、本件投稿の引用元となった投稿は,平成29年10月28日になされた以下の内容の投稿(以下「本件元ツイート」という。)である。なお、本件元ツイートは、デイリースポーツに掲載された「X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」」との記事を引用したものである。
   「X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」
    headlines.yahoo.co.jp/(以下略)
    X1氏が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」


【争点】

(1)本件投稿による名誉毀損の有無(争点1)
(2)本件投稿による違法性阻却事由の有無(争点2)
(3)原告の損害の有無・内容(争点3)
(4)本件提訴が訴権の濫用に当たり、被告に対する不法行為を構成するか(争点4)
(5)被告の損害の有無・内容(争点5)
   以下、本訴請求に関する上記(1)から(3)までについての裁判所の判断の概要を示す。


   なお、被告は、争点1に関する本件投稿の行為主体について以下のとおり主張した。
   リツイートの機能には、自らの意見を発信する以外に、リツイートをした者が第三者の投稿内容(元ツイート内容)を紹介して拡散することも含まれる。その拡散の目的には、元ツイートの内容に賛同する意思表示の場合もあれば、内容に批判的であるからこそ紹介する場合、リツイートをした者の単なる備忘録的な目的の場合など、様々な場合がある。被告は、本件元ツイートを情報提供の趣旨でリツイートしたに過ぎないから、本件投稿は本件元ツイートの投稿者の発言とみるべきであって、当然に被告の投稿(発言)と同視して評価して、被告を本件投稿の行為主体とみることはできない。


【裁判所の判断】

(1)本件投稿による名誉毀損の有無(争点1)
 ア 本件投稿の行為主体(責任の帰属主体)について
   本件投稿は、リツイートの形式で、何ら被告によるコメントを付すことなく投稿されたツイートであるところ、被告は、この点を指摘して、本件投稿は本件元ツイートの投稿者の発言とみるべきであると主張する。
   そこで検討するに、ツイッターにおいては、投稿者は、自己の発言を投稿するのみならず、他者の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿(リツイート)することができるところ、リツイートの際には、自己のコメントを付して引用することや、自己のコメントを何も付さずに単に元ツイートをそのまま引用することもできる。そして、投稿者がリツイートの形式で投稿する場合、被告が主張するように、元ツイートに賛同する目的でこれを引用する場合や、元ツイートの内容を批判する目的で引用する場合など、様々な目的でこれを行うことが考えられる。
   しかし、他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合、何らのコメントも付加しないで元ツイートを引用することは考えがたく、投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。したがって、何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者が、自身のフォロワーに対し、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である。
   そうすると、本件投稿においては、上記特段の事情は認められないから、本件投稿で引用された本件元ツイートの内容は、本件投稿の投稿者である被告による、本件元ツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、被告は、本件投稿の行為主体として、その内容について責任を負うというべきである。
   仮に、被告が本件投稿を行った主観的意図がフォロワーに対する情報提供という点にあったとしても、前記のとおり、一般の閲読者と閲読者の普通の注意と読み方を基準とすると、何のコメントも付さないままリツイートするという本件投稿の態様からすれば、その情報提供には本件元ツイートの内容に賛同する被告の意思も併せて示されていると理解されるべきである。
 イ 本件投稿の名誉毀損行為該当性について
  (ア)一般に、名誉毀損の成否が問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかについては、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものであり、そのような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである。
   また、人の社会的評価を低下させる表現は、事実の摘示であるか、意見ないし論評の表明であるかを問わず、人の名誉を毀損するというべきであるところ、ある表現における事実の摘示又は意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてその意味内容を解釈して判断すべきものと解される(以上につき、最高裁平成16年7月15日判決等参照)。
   そこで、これらを前提に、以下、本件投稿が原告に対する名誉毀損行為に該当するかについて検討する。
  (イ)本件投稿の性質について
  (a)本件投稿は、「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」事実を摘示する表現と認めるのが相当である。
  (b)これに対し、被告は、仮に、本件投稿が被告の表現と理解されるべきとしても、本文末尾の「忘れたのか!恥を知れ!」との部分を表現の核心部分とする原告の言動に対する被告の意見論評であるなどと主張する。
   しかし、「忘れたのか!恥を知れ!」との表現部分は、原告の言動を非難する表現ではあるものの、自己の見解を具体的に述べるものではなく、抽象的に非難する言葉を記載しただけのものであり、それが、「X1氏が30代で大阪府知事になったとき,20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき,自殺にまで追い込んだこと」という、それ自体原告の社会的評価を低下させる事実を記載した文言に続くものであることからすると、本件投稿を全体としてみた場合、上記(a)に説示したとおり、表現の中心的部分は「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示する部分というべきであるから、上記被告の主張は採用できない。
 ウ 本件投稿による原告の社会的評価の低下の有無について
   上記イのとおり、本件投稿は、被告が「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示するものであるところ、本件投稿の一般の閲読者の注意と読み方を基準とすれば、同事実は、原告について、部下職員を自殺に追い込むようなパワーハラスメントを行った人物であるとの印象を与えるものであるから、本件投稿は原告の社会的評価を低下させる表現であると認められる。
 エ 以上に検討したところによれば、本件投稿は、被告の原告に対する名誉毀損行為に該当する。

(2)本件投稿による違法性阻却事由の有無(争点2)
   事実を摘示してする名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分において真実であるとの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、その行為者において上記事実の重要な部分を真実と信じるについての相当の理由があれば、その故意または過失は否定されるものというべきである(最高裁昭和58年10月20日判決等参照)。
   この点、被告は、原告の主張に対応する真実性の抗弁(原告の主張する摘示事実を前提とし、それが真実である旨の主張)の主張をしていない。しかし、当事者の主張内容に鑑み、念のため、これを本件投稿についてみても、本件投稿による被告の名誉毀損行為について、真実性の証明による違法性阻却は認められず、被告の故意、過失も否定されない(なお、仮に、本件投稿を被告の意見論評を表現するものと解する余地があったとしても、その前提となる重要な事実は、前記(1)イ(イ)(a)に説示したとおりであり、それが真実であるとか、被告がそれを真実と信じていたとは認められないから、やはり違法性は阻却されず、被告の故意、過失も否定されない。)。

(3)原告の損害の有無・内容(争点3)
 ア 慰謝料 30万円
   被告は、テレビや雑誌で活動する著明なジャーナリストで、本件投稿がなされた被告のツイッターのフォロワー数は18万人を超えており、このように社会的影響力のある被告による本件投稿は、一般人のツイートとは異なり、拡散力、信用力が大きいものと考えられること、本件投稿のその後の拡散(本件投稿に対するリツイート)状況は不明であるものの、インターネット上の表現の特質として、インターネット上から完全に削除することは事実上不可能であること、被告は、遅くとも本件投稿の約1か月半後の本訴提起時(平成29年12月15日)までには本件投稿を削除していることのほか、原告及び被告の社会的地位ないし活動状況等、本件に現れた本件投稿に関する一切の事情を総合考慮すれば、被告の本件投稿による名誉毀損行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額は、30万円と認めるのが相当である。
 イ 弁護士費用 3万円

(4)結論
   以上によれば、原告の本訴請求は、33万円およびこれに対する遅延損害金を求める限度で理由がある(一部認容)。