東京地裁平成30年3月9日決定(判例タイムズ1466号198頁)

原告が自らのアカウントに登録したギフト券について、実体法上の権利を承継したと認められないことから、アカウントの利用を停止する措置により、原告の損失及び被告の利得が生じたとはいえない旨判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)原告は、自然人の男性である。
   アマゾンジャパン合同会社は、電子商取引を目的としてインターネット上で運営されているウェブサイト(以下「本件サイト」という。)で商品等を販売する合同会社であり、被告はAmazonギフト券(以下「本件ギフト券」という。)を発行、販売する株式会社であり、いずれもAmazon Services LCCの関連会社である(以下、Amazon Services LCCと併せて「アマゾン」という。)。

(2)本件サイトの利用者が本件サイトを利用して商品等を購入するには、所定の情報を入力してアカウントを開設する必要がある。アカウントの開設ページには、利用者が本件サイト上でアカウントにログイン(サインイン)することにより、アマゾンの利用規約(以下「本件規約」という。)等に同意したとみなされる旨明示されている。
   本件規約には、「アマゾンは、その裁量の下で予告なく、サービスの拒否、アカウントの停止等を行う権利を留保します」と定めた規定がある。なお、同一の利用者が複数のアカウントを開設することは禁じられていない。

(3)本件ギフト券は、本件サイトでアマゾン等が販売する商品等を購入する際、その購入代金の全部又は一部の支払方法として利用することを予定した、被告が発行する前払式支払手段(資金決済に関する法律3条1項1号)に当たる。アマゾンは、本件ギフト券を本件サイトのほか、アマゾンが承認したウェブサイト、店舗等を介して販売している。
   本件ギフト券には、個別に券面額、ギフト券番号、有効期限が定められている。アマゾンは、サーバー上でギフト券番号に基づき、当該ギフト券の存否・金額等を自動的に確認して、本件ギフト券の使用を管理している。

(4)本件ギフト券の大まかな利用手順は、次のとおりである。
 ア 本件サイトの利用者が、本件サイト又はアマゾンが承認した販売者等から本件ギフト券を購入したり贈られたりすると、被告が送信又は発行するメール又はプラスティックカード等を通じて、本件ギフト券のIDに相当するギフト券番号を入手することができる。利用者は、本件サイト上で自己のアカウントにギフト券番号を入力して、本件ギフト券を登録することができる。
 イ 本件ギフト券を登録すると、その券面額がアカウント残高に加算される。利用者は、本件サイトで商品等を購入する際、アカウント残高の限度で、商品等の購入代金を支払うことが可能になる。利用者は、いったん本件ギフト券を登録すると、登録を取り消したり、登録先のアカウントを変更することはできない。なお、本件ギフト券をアカウントに登録することなく、直接、商品等を購入する際にギフト券番号を入力して当該商品等の購入代金を支払うことも可能である。

(5)本件サイトには、本件ギフト券について、アマゾンと利用者との間に適用することが予定されたAmazonギフト券細則(以下「本件細則」という。)が定められている。本件細則の一部は、要旨次のとおりである。
 ア 本件ギフト券は、本件サイトにおいてのみ使用可能であり、使用には本件サイトのアカウントを開設する必要があり、本件サイトにおいてアマゾン等が販売する商品等の購入に利用できる。
 イ 法律で要求されている範囲を除き、本件ギフト券に金額を補充すること、本件ギフト券を再販売その他対価をもって譲渡すること、換金すること、他のアカウントで使用することはできない(以下、この条項の有償譲渡を制限する部分を「本件有償譲渡禁止条項」という。)。これらの制限に反して取得された本件ギフト券は、アマゾンは、使用を断る場合がある。アカウント残高は譲渡できない。本件ギフト券は、返金及び返品できない。
(中略)
 エ 本件ギフト券が詐欺その他の不正行為により作成され又は入手された場合、アマゾンは、関連する利用者のアカウントを閉鎖し、当該本件ギフト券の使用を保留又は拒否し、他の支払方法を要求することができる。

(6)Gは、インターネット上で本件ギフト券を始めとする各種ギフト券等の買入・販売を行う、アマゾンの承認を受けていない取引サイトである。原告は、平成28年6月14日から同月23日までの間、Gから券面額合計234万円相当の本件ギフト券を購入した。
   原告は、本件サイトにおいて14個のアカウント(以下「本件各アカウント」という。)を開設しており、上記で購入した本件ギフト券を券面額221万7400円の限度で本件各アカウントに登録した。
   アマゾンは、平成28年6月23日、本件各アカウントの利用を停止する措置(以下「本件停止措置」という。)を採った。


【争点】

(1)原告の損失及び被告の利得の有無
(2)被告の利得の法律上の原因の有無
   以下、裁判所の判断の概要について示す


   なお、被告は、争点(2)について、以下のとおり主張した。
   本件停止措置により原告が使用を制限された本件ギフト券は、そもそも原告が有償で取得したものであるから、アマゾンは、本件細則に基づき、その使用を拒絶することができる。
   本件ギフト券の有償譲渡が認められれば、有償譲渡の取引の活発化を招き、本件ギフト券(ギフト券番号)をギフト券権利者から不法に入手した者に換金の場を与え、犯罪行為やマネーロンダリングを助長することになるのであって、本件有償譲渡禁止特約は合理的な規定であり、消費者契約法10条により無効になることはない。


【裁判所の判断】

 (1)原告の損失及び被告の利得の有無
 ア 原告が本件各アカウントに登録した本件ギフト券(ギフト券番号)は、いずれも被告が発行した真正なものであることは当事者間に争いがない。そのこと前提として、以下、本件停止措置により、本件各アカウントに登録された本件ギフト券の使用が困難になり、原告が民法703条所定の損失を受けたと認められるか判断する。
 イ 原告は、本件ギフト券について、民法85条の物又はこれに準ずるものとして、現金のような価値自体に相当すると主張する。
   しかし、本件ギフト券の内容は、購入者が被告に予め対価を支払い、購入者又はその指定する受取人が被告からサーバーで管理されるギフト券番号等の発行を受け、これを本件サイトの自己のアカウントに登録するなどして、当該ギフト券番号に係る券面額の限度で本件サイトにおけるアマゾン等に対する商品等の売買代金債務等の弁済に利用できると認められ、購入者と被告との間の合意に基づき形成される被告に対する実体法上の権利であると解される。そして、その権利の行使(利用)は、インターネット上でギフト券番号という情報を利用して行われるもので、有価証券のように権利を表章する有体物としての媒体が存在しない以上、本件ギフト券自体が民法85条の物又はこれに準ずるものに当たるという解釈には無理があるといわざるを得ず、原告の主張は採用できない。
 ウ ところで、原告は、本件各アカウントに本件ギフト券の登録を済ませている。しかし、本件細則には、本件ギフト券(ギフト券番号)の登録者をその権利者として確定させるという趣旨の条項は見当たらず、かえって、本件細則上、不正に入手された本件ギフト券番号について、アマゾンはその使用を拒絶することが可能であるとされていることなどからすれば、本件ギフト券が本件各アカウントに登録されたことをもって、原告に実体法上の権利又は法的利益(価値)が付与されると認めることも困難である。
 エ したがって、原告は、本件ギフト券を本件各アカウントに登録しており、アカウント残高にその価値が表示されるに至ってはいたが、これは、原告が本件ギフト券に係る権利又は法的利益を有することを示すものではない。よって、原告が民法703条所定の損失を受けたと認められるためには、当該権利等を承継したことが認められる必要がある。
 オ そして、原告は、Gから本件ギフト券に係る権利の譲渡を受けたことが認められる。しかし、Gに本件ギフト券に係る権利を譲渡した譲渡人は特定されておらず、被告から本件ギフト券の発行を受けた購入者又はその指定を受けた受取人等からGに至るまでの取引経過は不明であり、Gに本件ギフト券に係る権利が承継されたと認めるに足りないといわざるを得ない。
 カ したがって、原告が本件各アカウントに登録した本件ギフト券について、実体法上の権利を承継したと認めるに足りず、本件停止措置により、原告の損失及び被告の利得が生じたことをいう原告の主張は理由がないが、本件ギフト券に関する権利関係の特殊性にかんがみ、念のため、争点(2)について判断する。

(2)被告の利得の法律上の原因の有無
   以下、アマゾンによる本件停止措置が本件規約に基づくものとして適法と認められるかについて判断する。
   アマゾンが、平成28年6月頃、マイクロソフト社のオフィス(Home and Business2013)(以下「本件商品」という。)を特価品として購入数量を1人10個までに制限して販売していたところ、原告は、その購入数量制限を免れるために、本件アカウントを利用し、アカウントの閉鎖により本件ギフト券が無効になることを明示した2度の警告をアマゾンから受けたにもかかわらず、10日足らずのうちに3度目の違反に及んだ。よって、原告の購入数量違反は、故意によるものであると認められる。そして、本件各アカウントの利用を継続することが、本件サイトにおけるアマゾンによる特価品の販売を円滑に進めるための妨げになるおそれが高いこと、アマゾンによる警告にも効果が認められなかったことに照らすと、本件各アカウントの閉鎖(永続的停止)もやむを得ないといわざるを得ない。
   したがって、本件停止措置は、本件規約に基づき、アマゾンに認められる本件サイトを運営するための裁量の範囲内の行為として適法であるというべきである。
   そうすると、本件有償譲渡禁止特約違反の被告の主張に関して判断するまでもなく、本件停止措置により生じた被告の利得が法律上の原因を欠くことをいう原告の主張は理由がない。

(3)結論
   原告の被告に対する不当利得返還請求権に基づく請求は理由がない(請求棄却)。