東京高裁平成31年3月1日判決(労働判例1213号5頁)

法定年次有給休暇と会社有給休暇を区別することなくなされた時季指定は全体として無効であり、労働者は無効な計画的有給休暇制度を前提に付与された有給休暇の全てについてその時季を自由に指定することができると判示した事例(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)被控訴人(1審被告)は、語学教室であるS英会話スクールの経営、教育機関及び企業等における英語研修の受託等を業とする株式会社である。被控訴人の従業員講師は、平成30年時点で月給制約300名及び時給制約110名の合計約410名である。従業員講師は、1年契約の有期雇用社員であり、会社都合及び自己都合を含め、更新せずに1年で退職する者が60数名、1回のみ更新し2年程度で退職する者が50名程度いる。

(2)控訴人(1審原告)は、平成27年3月1日、被控訴人との間で、雇用期間を同年3月1日から平成28年2月28日までの1年間、賃金は月額25万7800円、月末締め翌月15日(銀行営業日ではない場合は次の営業日)とする労働契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結した。

(3)被控訴人の講師就業規則(以下「就業規則」という。)には、次の定めがある。
   「第15条(休日)休日は次のとおりとする。
  ①1週の内1日の法定休日を会社が指定する。原則として、法定休日以外にもう1日会社指定の休みを与える。
  ②国民の祝日。ただし、講師用カレンダーに従い、スクールが開いている日又はトレーニング日などは、祝日でも勤務日とする。
  ③下記の時季に設定される、会社の定める特別ホリデー(実際の期日は、講師用カレンダーに示される。)(以下略)」
   「第17条(有給休暇)勤続6か月に達した講師には、年間20日間の有給休暇を与える。ただし、スクール運営という社業の特性から、5日を超える有給休暇(15日間)については、取得する時季を指定して一斉に取得する計画年休とし、その時季は、講師カレンダーに示される。
   上記5日間の有給休暇は、講師の任意の時季に取れるものとする。ただし、もしその取得によりスクールの通常運営が阻害されると会社が判断する場合、会社は講師に対して取得時期の変更を指示することができる。」
   なお、雇用契約書にも、就業規則17条と同様の定めがある。

(4)被控訴人は、平成28年10月1日、就業規則にある計画的有給休暇制度に関する労使協定(以下「10月労使協定」という。なお、それ以前に労使協定の定めはない。)を定めたが、その有効性については争いがある。

(5)被控訴人は、平成29年1月9日、控訴人に対し、契約更新を拒絶する意思表示をした(以下「本件雇止め」という。)。
   控訴人は、平成29年6月1日送達の本訴状をもって、控訴人に対し、有期労働契約更新の申込みをした。控訴人は、現在、全国一般東京ゼネラルユニオンの組合員であり、全国一般東京ゼネラルユニオンS労働組合の執行委員長である。

(6)原審(東京地裁平成31年3月1日判決・労働判例1213号12頁)は、1審原告の請求を棄却したところ、同人が請求の認容を求めて控訴した。


   なお、原審は、1審原告による有給休暇の取得に関して、1審被告の主張する計画的年休に関する労使協定はなかったとの前提(ア)で、以下のとおり判示した。
「イ 休暇は、労働義務のある労働日について、その就労義務の免除を得た日のことであり、法律上労働者に必ず付与しなければならないと定められている法定有給休暇と、就業規則や労働契約の定めによって初めて成立する会社有給休暇があるところ、前提事実(略)によれば、被告は計画的年休を前提に法定有休休暇を超える日数の有給休暇を従業員に付与しており、法定有給休暇を超えた日数は会社有給休暇であるといえる。そして、法定有給休暇と会社有給休暇はその内容が異なり、法定休暇は、労使協定による計画休暇を除き労働者の希望する時季に与えなければならず、労働者が希望する日を特定して会社に通告することにより年休が成立して使用者の承認を必要としないのに対し、会社有給休暇は、請求の時季、請求の手続等労働者の休暇取得について制限を設けてもよく、使用者の承認によって初めて休暇が成立するとしてもよいものであることを踏まえると、計画的年休とした15日間に法定有給休暇を当てることはできないが、会社有給休暇は被告の承認した日すなわち計画的年休とした日に限り取得することができ、従業員が希望する時季に取得することはできず、法定有給休暇についてのみ従業員が希望する時季に取得することができると解するのが相当である。
 ウ そして、認定事実(注:①平成27年9月1日から平成28年8月31日までの間に休んだ日は、合計16日(うち計画的年休10日)、②平成28年9月1日から平成29年8月31日までの間に休んだ日は、合計36日(うち計画的年休4日、閉校日3日))に記載した原告の休暇等の状況によれば、原告は平成27年9月1日から平成29年8月31日の間、計画的年休(注:10日+4日=14日)や定休日(注:3日)以外に35日間(注:52日-14日-3日)の有給休暇、すなわち法定の有給休暇を14日超えて(注:10日+11日-35日=-14日)有給休暇の申請をしていたこと、被告は、平成28年11月以降有給休暇が残っていないため出勤を促すメールを原告に送信しており、原告は有給休暇と扱われないことを知りながら休暇の申請をしていたことが認められる。以上によれば、原告は上記期間において14日間の欠勤をしたと判断される。」


【争点】

   控訴人の雇止めの有効性、すなわち、
(1)本件雇用契約が労働契約法19条2号に該当するか否か
(2)本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないといえるか否かである。
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)本件雇用契約が労働契約法19条2号に該当するか否か
 ア 被控訴人は、従業員講師とは一律に1年間の有期労働契約を締結しているが、契約の更新を希望する講師との間では、遅刻が多かったり、授業の質が低いなどの事情がある場合を除き、通常は契約の更新をしている。
 イ 控訴人との間でも、平成27年3月1日に1年間の有期労働契約を締結し、その後、控訴人から授業観察の申出を拒否されたり、前日の午後11時29分になってから翌日のストライキを通知されたり、控訴人の授業を観察した上司が7項目について改善必要との講評をしたとの事情があったものの、その後の平成28年3月1日、控訴人と契約を更新した。
   このような経緯からすると、控訴人において本件雇用契約の契約期間の満了時に同契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったと認めるべきである。

(2)本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないといえるか否か
 ア 休暇の取得について
  a)労働基準法39条1項及び2項により被控訴人が控訴人に与えなければならない法定年次有給休暇は、平成27年9月1日からの1年間について10日間、平成28年9月1日からの1年間について11日である。そして、有休休暇は、原則として、労働者の請求する時季に与えなければならないこととされている(同条5項本文)。
   もっとも、同条6項の要件を満たす労使協定があれば、年間5日間を超える部分については、与える時季を使用者が定めることができる。しかし、弁論の全趣旨によれば、平成28年10月までにそのような労働協定が結ばれたことはないと認められる。また、同月に結ばれた10月労使協定についても、労働者側の講師代表3名は講師以外の従業員の代表でなかった上、事業場である学校ごとに選ばれたものではなく、複数校をまとめたエリアごとの代表であったから、事業場の労働者の過半数を代表する者(労働基準法39条6項)に当たるとはいえず、したがって、労働基準法39条6項の要件を満たす労使協定とはいえない。
   そうすると、控訴人に与えられた法定年次有給休暇について、その時季を被控訴人が指定することはできず、控訴人を含む従業員が自由にその時季を指定することができたというべきである。
  b)次に、被控訴人は、就業規則において、被控訴人を含む講師に対し、法定年次有給休暇を超える年間20日間の有給休暇を与えると定めているところ、そのうち法定年次有給休暇の日数を超える部分である会社有給休暇(平成27年9月1日からの1年間については10日間、平成28年9月1日からの1年間については9日間である。)については、労働基準法の規律を受けるものではないから、被控訴人がその時季を指定するものとすることが許されると考えられる。
  c)ところで、被控訴人がその就業規則において定める計画的有給休暇制度においては、法定年次有給休暇と会社有給休暇とを区別することなく、年間の有給休暇20日間のうち、15日分について、被控訴人がその時期を指定することとされているところ、上記a)及びb)に説示したところによれば、被控訴人が時季を指定することができるのは会社有給休暇に限られ、法定年次有給休暇については、時季を指定することができない。そして、被控訴人は、法定年次有給休暇と会社有給休暇を区別することなく15日を指定しており、そのうちのどの日が会社有給休暇に関する指定であるかを特定することはできない。したがって、上記の指定は、全体として無効というほかなく、年間20日間の有給休暇全てについて、控訴人がその時季を自由に指定することができるというべきである。
  d)なお、被控訴人は、計画的有給休暇制度は全ての従業員講師から同意を得ていると主張するが、仮にそうであったとしても、そのことは以上の判断を左右するものではない。
   また、被控訴人は、計画的有給休暇制度が無効であるとされるのであれば、有給休暇として20日間を与える旨の規定も無効であるとも主張するが、有給休暇の日数とその時季の指定とは別の問題であるから、被控訴人の主張は採用できない。
   さらに、控訴人は、平成27年9月1日からの1年間と平成28年9月1日からの1年間でそれぞれ20日、合計40日の有給休暇が認められるとしても、控訴人は、被控訴人が(計画的有給休暇として)指定した35日(注:6日+29日)のほか、被控訴人が指定した日のうちの14日(注:10日+4日=14日)と合わせて、合計49日の休暇を取得したから、理由のない欠勤が9日もあることになると主張する。しかし、被控訴人が指定した日のうちの14日間については、被控訴人が就労を免除したものであるから、理由のない欠勤とみることはできない。したがって、被控訴人のこの主張も採用できない。
 e)以上によれば、控訴人が有給休暇として取得した休暇について、正当な理由のない欠勤であったと認めることはできない。
 イ 控訴人の勤務内容について
   被控訴人は、控訴人の勤務内容が不良であるとして、種々の主張をするが、いずれも雇止めをするかどうかの判断に際して重視することを相当とするようなものとは認められない(詳細略)。
 ウ 小括
   以上のア及びイの検討の結果によれば、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないといわざるを得ない。

(3)結論
   被控訴人は、本件雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件により契約締結の申込みを承諾したものとみなされるので、控訴人は、被控訴人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び平成29年4月1日から本判決確定の日まで毎月15日限り(その日が銀行営業日でない場合は次の営業日)限り25万7800円の賃金の支払いを求めることができる。
   以上によれば、控訴人の請求は理由があるから認容すべきである(認容(原判決取消し))。