知財高裁平成28年4月27日判決(判例時報2321号85頁)

被告旧プログラムは、原告プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有することから、これを複製又は翻案したと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)原審の各請求の概要
 ア 原審A事件
   被控訴人(1審原告)は、原判決別紙被告プログラム目録一記載のプログラム(以下「被告旧バージョン」という。)のうち接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「被告旧接触角計算(液滴法)プログラム」という。)は、控訴人(一審被告)Nが、同X(注:Nの従業員であり、被控訴人の元従業員)の担当の下に、原判決別紙原告プログラム(以下「原告プログラム」という。)のうち接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「原告接触角計算(液滴法)プログラム」という。)を複製又は翻案したものであり、控訴人Nが被告旧バージョンを搭載した製品(自動接触角計)を製造、販売することは、被控訴人の原告接触角計算(液滴法)プログラムに対する著作権を侵害する行為であるなどと主張して、控訴人N及び同Xに対し、連帯して、1084万2000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
 イ 原審B事件 略
 ウ 原審C事件 略

(2)原判決の内容
 ア A事件
   原判決は、被告旧接触各計算(液滴法)プログラムは、プログラムの著作物である原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものと認められる旨を判示して、被控訴人のA事件請求を、控訴人N及び同Xに対し、損害賠償金として、連帯して190万1258円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した(一部認容)。
 イ B事件 略
 ウ C事件 略

(3)控訴及び附帯控訴
   控訴人らは、原判決中の敗訴部分を不服として、その取消しを求めて本件控訴を提起した。また、被控訴人は、附帯控訴して、原判決中の敗訴部分の取消しを求めた。


 【争点】

(1)原審A事件請求
 ア 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か(争点1)
 イからオまで 略
(2)原審B事件請求 略
(3)原審C事件請求 略
   以下、(1)アについての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)認定事実
 ア 原告プログラムの構造等
  a)原告プログラムは、接触角(静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で、液面と固体面とのなす角。液の内側にある角をとる。)を自動で測定するための自動接触角計に搭載するプログラムである。
   被控訴人は、自動接触角計である原判決別紙原告製品目録記載の各製品(以下「原告各製品」という。)を製造、販売しているところ、原告各製品は、試料(固体)ステージ、レンズ、カメラ及び液滴を作るための注射器を備え、専用のソフトウエアである原告プログラムを搭載している。
  b)原告プログラムは、プログラム言語Visual Basic Version 6(VB)を用いて記述された他機種対応型のプログラムである。
   原告接触角計算(液滴法)プログラムは、原告プログラムを構成するプログラムの一つであり、θ/2法、接戦法により液滴の接触角を計測するため、固体試料上に作成した液滴を水平方向から撮影した画像を解析し、端点、頂点、円弧状の左右三点の座標を求めて接触角を自動計測する機能を有している。
  c) 原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね原判決別紙「FAMAS ver3.1.0接触角(液滴法)計算部分(i2einにない機能も含む)」(以下「原告ツリー図」という。)のとおりである。
   原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち、θ/2法、接線法による接触角計算のための主要なプログラムである番号(1)ないし(16)の16個のプログラム(以下「本件対象部分」という。)のソースコードの内容は、【別添一〇―二】((3)針先検出法)その他の原判決別紙(以下、併せて「ソースコード対照表一」という。)の、各「FAMASソース(元のソースそのまま)」欄に記載のとおりである。
  d)原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、2525行からなり、このうい、本件対象部分のソースコードは、2055行である。
 イ 被告旧バージョンの構造等
  a)被告旧バージョンは、接触角計算機能を有するプログラムである。
   控訴人Nが製造販売する原判決別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」という。)は、液滴法により接触角を自動計測する自動接触角計であるところ、ハード面として、試料ステージ、レンズ、カメラ、液滴を作るための注射器を備えており、被告旧バージョンは、被告製品一ないし三及び六に搭載されていた。
  b)被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、被告旧バージョンを構成するプログラムの一つであり、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様の機能を有するほか、同プラグラムにない機能も有する。
  c)被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね原判決別紙「被告の旧バージョンにおける接触角計算メインのプログラム構造」(以下「被告旧ツリー図」という。)のとおりであるが(原告ツリー図の番号と同一の番号のものは原告プログラムと同様の機能を有するプログラムである。)、他に(番号10―1)のプログラムがあり、「(1)接触角計算メイン」から「(16)接線法計算」までの16個に番号(10―1)のプログラムを加えた各ソースプログラムの内容は、ソースコード対照表一の各「i2winソース(改変前)」欄に記載のとおりである。
  d)被告旧接触角(液滴法)プログラムのソースコードは、1923行からなり、このうち本件対象部分のソースコードは、1320行である。
 ウ 本件対象部分における共通点
  a)プログラム構造の対比
   原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分のソースコードは、(略)記載のとおりである。 
   被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分のソースコードは、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様に、
   「(1)接触角メイン」プログラムが、「(10)閾値自動計算」、「(2)液滴検出」、「(11)端点検出」、「(12)無効領域検出」及び「(13)頂点検出」の各プログラムを「Call」文で呼び出し、
   次いで、θ/2法による接触角計算を行う場合には「(15)接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行い、接線法による接触角計算を行う場合には、「(14)接線法用表面検出」プログラムを「Call」文で呼び出した後に「(15)接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行うものとして記載されており、
以上の点において両者は共通である。
  b)ソースコード全体における対比
   本件対象部分について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、以下の共通点がある。
  (a) それぞれの番号(1)ないし(16)のプログラムが、ほぼ同様の機能を有するものとして一対一に対応しており、各プログラムの内のブロック(ソースコード対照表一における「F1」、「I1」など)が機能的にも順番的にも、ほぼ一対一に対応している。
  (b) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの約44%(ソースコード対照表一の黄色部分)は、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと変数・構文ともに一致する。
   また、その約42%(ソースコード対照表一のオレンジ色部分)は、変数、関数又は定数の名称の相違、引数が付加されているなどの引数の数の相違、変数が配列化されているか否かの相違、配列の参照が関数化されているか否かの相違、条件判断に用いられているのが「if」文か「Select Call」文かといった相違があるものの、これらの相違を除くとおおむね一致している。
   さらに、両者のソースコードの記載の順序も、同一又は類似する部分が多い。
  c)ソースコード対照表一の【別添一〇―二】における対比
   本件対象部分のうち、ソースコード対照表一の【別添一〇―二】(「(3)針先検出」プログラム)について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、以下の共通点がある。
  (a)パラメータ(引数)や変数の名称
   被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは18個のパラメータ(引数)や変数を利用しているが、そのうち13個の名称が、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおけるものと同一である。
   また、そのうち2個は、名称が異なっているものの(「meas_para」と「ca_para」、「proc_count」と「draw_count」)、変数の一部が異なっているだけで、類似する(注:以下、「(b) パラメータ(引数)や変数の定義の順序」、「(c) パラメータ(引数)や変数の型」、「(d)構文」、「(e)針先検出ブロックにおける定義のねじれ」及び「(f)行連結文字「「」」の位置」について、同様の検討が行われているが、省略する。)。
 エ 他の表現の選択可能性(選択の幅)
  a)プログラム構造
   原告接触角計算(液滴法)プログラムや被告旧接触角計算(液滴法)プログラムに見られる処理を行うためのソースコードの記載方法としては、例えば、
  ①「(1)接触角メイン」プログラムが、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを呼び出し、
   次いで、これらがそれぞれ「(10)閾値自動計算」、「(2)液滴検出」、「(3)針先検出」、「(11)端点検出」等のプログラムを呼び出すように記載する方法、
  ②接線法による接触角計算を行うプログラムを、θ/2法による接触角計算を行うプログラムのサブプログラムとして記載する方法
  ③「(1)接触角メイン」プログラムを経由せず、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを外部から直接に呼び出すように記載する方法など、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
   また、そもそも液滴法による接触角計算に必要な機能のうちどの機能をサブルーチン化して個別のプログラムとして構成するか、各プログラム中でどのようにブロックを構成するかについても、原告接触角計算(液滴法)プログラムの方法以外にも、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
  b)各プログラムにおけるアルゴリズム
   原告接触角計算(液滴法)プログラムの「(10」閾値計算」のアルゴリズムは、背景における左右の代表2点における輝度を測定し、その平均値を基準に白黒判定の閾値を決定するというものである。
   閾値計算の方法としては、上記方法以外に、一般的手法として、モード法(画像の輝度ヒストグラムを作成し、二つのピーク位置の間にある最も深い谷の輝度を閾値とする方法)やPタイル法(画像の二重化したい領域が全画像の領域に占める割合をパーセントで指定して二極化する方法)等がある。
   また、原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムと同様の方法によるとしても、閾値計算のための代表点の選定方法としては、二点ではなくより多くの点を選定したり、背景における左右の点ではなく、上下や斜めの点を選定するなど、複数の組み合わせが考えられる(注:以下、「(3)針先検出」、「(11)端点検出」、「(13)頂点検出」及び「(14)接線法用表面検出」の各アルゴリズムについて、同様の検討が行われているが、省略する。)。
  c)ソースコードの記述
   原告接触角計算(液滴法)プログラムで用いられているVBでプログラミングを行う際、変数、定数、関数及び定数などの名称は作成者が事由に決めることができ、名称の如何によりコンパイル後のオブジェクトコードに差異は生じないから、異なる名称を付した場合であっても、電子計算機に対して同様の指令を行うことができる。
   また、パラメータ(引数)や変数定義の順序も、作成者において自由に決めることができる。
   さらに、同様の処理をサブルーチン化するかどうかを選択することができるほか、変数を配列化したり、変数の参照をパラメータ(引数)や関数としたりすることが可能であるし、繰り返し処理を行う場合のループ文の種類は「For~Next」、「Do~Loop」等複数あり、条件判断を行う場合にも「if」文や「Select Case」文により行うことができ、どのような関数を用いるかを選択することができるなど、同一内容の指令についてのソースコードの記載の仕方や順序には、一定の制約の下であるが、ある程度の多様性がある。

(2)複製又は翻案の成否
 ア 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同項1号)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その創作的な表現部分同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年6月28日判決)。
   したがって、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる場合には、複製又は翻案に該当する。
   他方、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないというべきである。
 イ 依拠性
   前記(1)記載のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムをその構成要素として含む原告プログラムは、被控訴人の従業員であった控訴人Xが、主に担当して作成されたものであるから、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成した控訴人Xにおいて、原告接触角計算(液滴法)プログラムの存在及びその表現内容を認識していたことは明らかである。
   そして、控訴人Xが、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムをその構成要素として含む被告旧バージョンを作成するに際し、原告プログラムを参考にしたことを自認していることに加え、前記(1)認定の原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの同一性に照らせば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムに依拠して作成されたものであると認められる。
 ウ 創作的な表現の同一性
  a)プログラムは、その性質上、表現する記号が制約され、言語体系が厳格であり、また、電子計算機を少しでも経済的、効率的に機能させようとすると、指令の組み合わせの選択が限定されるため、プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。
   著作権法は、プログラムの具体的表現を保護するものであって、機能やアイデアを保護するものではないところ、プログラムの具体的記述が、表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一なるもの、ごく短いもの又はありふれたものである場合においては、作成者の個性が発揮されていないものとして、創作性がないというべきである。
   他方、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序からなるプログラム全体に、他の表現を選択することができる余地があり、作成者の何らかの個性が表現された場合においては、創作性が認められるべきである。
  b) 原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分は、
  ①前記(1)ウa)(プログラム構造の対比)のとおり、そのプログラム構造の大部分が同一であること
  ②前記(1)ウb)(ソースコード全体における対比)(a)のとおり、ほぼ同様の機能を有するものとして一対一に対応する番号(1)ないし(16)の各プログラム内ブロック構造において、機能的にも順番的にもほぼ一対一の対応関係が見られること
   ③前記(1)ウb)(ソースコード全体における対比)(b)及びc(ソースコード対照表一の【別添一〇―二】における対比)のとおり、これらの構造に基づくソースコードは、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分の約86%において一致又は酷似している上に、その記載順序及び組合せ等の点においても、同一又は類似している。
   そして、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は、これを全体として見たとき、前記(1)エ(他の表現の選択可能性(選択の幅))のとおり、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序などの点において他の表現を選択することができる余地が十分にあり、かつ、それがありふれた表現であるということはできないから、作成者の個性が表れており、創作的な表現である。
  c)したがって、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が本件対象部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。

(3)結論
   以上によれば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分を複製又は翻案したものである。