神戸地裁平成31年1月16日判決(自保ジャーナル2047号48頁)

主治医作成の照会書に対する回答等の記載は原告の治療経過・症状経過と明らかに矛盾するとして、自賠責の判断と異なり、原告の頸椎の回旋運動は参考可動域角度の2分の1に制限されていないと判断した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
 ア 発生日時 平成23年1月27日午前8時頃
 イ 発生場所 Y県○市付近の東西に延びるアスファルトによる舗装のされた平坦な片側1車線の道路(以下「本件道路」という。)
 ウ 原告車  原告(本件事故発生当時50歳)が所有し,運転する普通乗用自動車
 エ 被告車  被告が保有し,被告に属するY県警察に勤務する警察官が運転する普通乗用自動車(パトカー)
 オ 事故態様 被告車が本件道路の東行車線を緊急走行していたところ,凍結していた路面によりスリップし,対向車線(西行車線)を走行していた原告車に衝突した。

(2)原告は,本件事故により,軸椎骨折,左第1~第4中足骨骨折,左足楔状骨骨折,右第5中足骨骨折,歯牙損傷の傷害を負い,A病院(整形外科),B整形外科クリニック等で入通院治療を受けた。

(3)原告は,平成24年4月18日,B整形外科のb医師から,軸椎骨折,左第1~第4中足骨骨折,左足楔状骨骨折,右第5中足骨骨折を傷病名とする後遺障害診断を受けた。同日測定された頸部の可動域(他動)は,屈曲:50°,伸展:65°,右側屈:45°,左側屈:40°,右回旋:50°左回旋:45°であった(なお,頸部の参考可動域は,屈曲:60°,伸展:50°,右側屈:50°,左側屈:50°,右回旋:60°左回旋:60°である。)。
   原告は,平成24年4月23日,A病院のa医師から,軸椎骨折,両足中足骨骨折,左気胸を傷病名とする後遺障害診断を受けた。同日測定された頸部の可動域は,屈曲:45°(自動他動とも),伸展:30°(同左),右側屈:15°(自動他動不明),左側屈:15°(同左),右回旋:15°(同左),左回旋:15°(同左)であった。

(4)原告は,平成25年11月20日付けで,自賠責保険の後遺障害等級事前認定手続において,下記ア,イの判断に基づき,別表併合11級に該当すると判断された。
 ア 軸椎骨折後の脊柱の障害について
   提出された画像上,椎体に及ぶ歯突起の骨折が認められ,明らかな脊椎圧迫骨折,脱臼等を残しているものと同様に捉えられることから,「脊柱に変形を残すもの」として 別表第二11級7号に該当する。
   なお,頸椎部の運動障害については,B整形外科クリニック及びA病院の後遺障害診断書上,頸椎部の可動域に優意な差が認められることから,後遺障害診断書記載の可動域角度をもって評価することは困難である。
 イ 左足楔状骨骨折及び左第1~第4中足骨骨折後の左足部痛,歩行時痛の症状について
   別表第二14級9号に該当する(詳細については,省略する。)。

(5)原告は,平成26年6月20日,上記事前認定の結果に納得のいかない点があるとして,原告代理人作成の照会状を持参の上,A病院を受診した。同日付けのa医師による「ご照会状」に対する回答では,頸部の可動域角度について,屈曲:45°(自動他動不明),伸展:30°(同左),右側屈:30°(同左),左側屈:30°(同左),右回旋:25°(同左),左回旋:25°(同左)であった。

(6)原告は,平成26年12月15日付けで,上記(4)の事前認定手続における判断に対する異義申立てを行い,上記(5)の測定結果等の後遺障害を裏付ける資料を提出した。原告は,下記ア,イの判断に基づき,別表併合8級に該当すると判断された。
 ア 軸椎骨折後の脊柱の障害について
   頸椎部の運動障害について,新たに提出されたa医師作成の平成26年6月20日付け「ご照会状」の回答によれば,頸部の回旋運動が参考可動域の2分の1に制限されていることが認められ,頸部画像から認められる頸椎の変形癒合環軸椎の狭小化に照らすと,上記回旋運動制限と本件事故との相当因果関係は否定し難く,「脊柱に運動障害を残すもの」として別表第二8級2号に該当する。
   なお,軸椎骨折後の脊柱の変形障害は,上記(4)アのとおり別表第二11級7号に該当するが,自賠責の認定基準に従って,別表第二8級2号の評価に含まれている。
 イ 左足楔状骨骨折及び左第1~第4中足骨骨折後の左足部痛,歩行時痛の症状について
   別表第二14級9号に該当する(詳細については,省略する。)。


 【争点】

(1)事故態様及び過失割合(争点1)
(2)原告の後遺障害の程度(争点2)
(3)損害額(争点3)
   以下,上記(2)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)軸椎骨折後の脊柱の障害について
 ア 原告は,頸部の回旋運動が,参考可動域の2分の1に制限されているから,軸椎骨折により生じた原告の頸部の可動域制限は「脊柱に運動障害を残すもの」として別表第二8級2号に該当する旨主張する。
   確かに,平成24年4月23日の診断に基づいてa医師が作成した後遺障害診断書には,頸部の可動域角度として,回旋が左右とも15°であった旨,平成26年6月20日付けのa医師による「ご照会状」の回答には,回旋が左右とも25°であった旨記載されており,これらに基づいて,異義申立ての手続では別表第二8級2号に該当すると判断されている。
 イ しかし,原告は,平成23年4月5日にハローベストの装着を終えた際に,a医師によって頸部の回旋状態を確認されたが,特段問題にされておらず,フィラデルフィアカラーを外した同年7月頃も問題にされた形跡はなく,a医師が同月30 日頃に作成したB整形外科クリニック宛の照会状にも頸部の可動域制限に関する記載はない。
   また,a医師は,リハビリを不要と判断しており,実際,原告が希望して通院したB整形外科クリニックにおいて,直ちに頸部のリハビリを開始しなければならない状態ではなく,通院から5ヶ月経過した平成24年1月24日から頸部のリハビリが開始された。
   さらに,頸部のリハビリが開始された後,原告は頸部回旋の可動域制限を特段訴えておらず,平成24年2月には,後ろを向くこともできるなどの改善が見られた。
 ウ 仮に頸部回旋の可動域角度が左右とも15°で程度又は25°程度であるとか、原告が陳述書に記載し又は本人尋問において陳述するように頸部の屈曲・伸展に強度の可動域制限があるとすれば、日常生活を営む上で著しい不自由・不具合が生じるはずであるが、B整形外科クリニックやGセンター(注:原告は、平成24年11月30日から平成25年3月27日まで、Gセンター整形外科に通院した。)におけるリハビリの経過において、原告によるそのような訴えはなく、いずれの医療機関においても理学療法士によって日常生活動作は問題ないと評価されている上、これに沿うように、原告は、平成23年9月頃からパン屋の店頭で接客業務に従事している。
 エ a医師作成の後遺障害診断書及び平成26年6月20日付けの照会書に対する回答に記載された可動域角度は、以上の経過に矛盾するかのような内容となっているところ、自動と他動で同一の角度となる部分があるから、同診断書及び同回答に記載された頸部回旋の可動域角度は、自動と変わらない方法で測定された疑いが残る。この点を措くとしても、同診断書及び同照会書に対する回答に記載された頸部回旋の可動域角度は、上記のとおり、上記イ及びウの原告の治療経過・症状経過と明らかに矛盾することから、直ちにこれを採用することはできない。
 オ 原告は、ハローベストやフィラデルフィアカラーを装着していたことによる頸部の拘縮の可能性を指摘する。
   しかし、フィラデルフィアカラーを外してから1年以上経過したGセンターにおけるリハビリの経過及び頸部の可動域測定の結果(注:Gセンターで、平成24年11月30日に測定された頸部の可動域角度は、屈曲:30°、伸展:40°、右回旋:50°左回旋:60°であった。)からは、原告の上記指摘は理由がない。
 カ なお、a医師による平成29年4月5日の測定結果(右回旋:20°左回旋:25°)、Gセンターにおける平成29年2月3日の測定結果(右回旋:20°左回旋:20°)は、上記同様、いずれも上記認定の原告の治療経過・症状経過と明らかに矛盾するから、採用することはできない。
 キ 以上によれば、原告の頸椎の回旋運動が参考可動域角度の2分の1に制限されているということはできない。頸部の可動域角度について、B整形外科クリニックにおいてされた測定結果及びGセンターにおいて平成24年11月30日にされた測定結果は、上記判断に沿うものである。
 ク 他方で、画像上、原告に椎体に及ぶ歯突起の骨折が認められ、明らかな脊椎圧迫骨折、脱臼等を残しているものと同様に捉えられるから、軸椎骨折後の脊柱の障害につき、「脊柱に変形を残すもの」として別表第二11級7号に該当すると認められる。

(2)左足楔状骨骨折及び左第1~第4中足骨骨折後の左足部痛,歩行時痛の症状について
   別表第二14級9号に該当する後遺障害と認める(詳細については,省略する。)。

(3)その他の症状等について
   別表第二所定の後遺障害と認めることはできない(詳細については,省略する。)。

(4)争点2についての結論
   原告に別表第二11級7号及び14級9号の後遺障害が認められるから,原告の後遺障害は,併合11級と評価すべきである。