東京高裁平成30年11月1日判決(自保ジャーナル2051号167頁)

原判決が認めた被控訴人の主張に係る本件事故の発生原因は認められないとして、控訴人の同居人の過失を否認して、被控訴人の請求を棄却した事例(上告受理申立後確定)


【事案の概要】

(1)被控訴人(1審原告)は、別紙物件目録1記載の1棟の建物(以下「本件マンション」という。)の区分所有権者全員を組合員とし、本件マンションの維持・管理を目的とする管理組合である。
   控訴人(1審被告)は、別紙物件目録2記載の区分所有建物の賃借人である。
   控訴人は、平成25年8月27日、原告との間で、原告が管理する本件マンション敷地内の機械式駐車場(以下「本件駐車場」という。)のうち23番区画(以下「本件駐車区各区」という。)を、次の約定(略)で使用する旨の契約を締結した(以下、この契約を「本件使用契約」という。)。

(2)控訴人の同居人であるA(B国籍の女性)は、平成25年12月29日午後11時頃、自らが所有する普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)を本件駐車区画に駐車した。その後、本件車両は、本件駐車場から出庫されなかった。
   平成25年12月30位置午後0時15分頃、本件駐車場の22番区画の利用者であるDが、自らの車両を出庫させるために、原告が管理する機械式駐車装置(以下「本件駐車装置」という。)に設置されている操作パネルで、上記区画に係るパレットNo.22の呼出操作をしたところ、本件駐車区画に駐車されていた本件車両が落下し、本件駐車装置が損壊するという事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(3)本件駐車装置は、平成15年12月にC社により設置されたもので、地上2段地下1階の昇降横行式であり、車両を格納するパレットが、前列と後列に分かれて設置されている。このうち奥側の後列に設けられたパレットは、No.22、No.23(本件パレット)を含む合計5つあり、入口ゲート側の前列に設けられたパレットも、合計5つあり、各列に1つずつ駐車禁止スペース(駐車禁止パレット)がある。
   本件駐車場の入口ゲートには、入庫方法と注意を記した看板が設置されており、車両後輪を車止め(ストッパー)に完全にはまるまで後退して駐車すること等の指示が記載されている。
   本件駐車区画の利用者が、本件パレット(パレットNo.23)の呼出操作を行うと、本件駐車装置の後列右(注:本件駐車場奥から見たものをいう。以下同じ。)1階に本件パレットが配置されるとともに、前列右1階には駐車禁止スペースが現れて入口ゲートが開き、利用者はターンテーブルから車両を後退させて駐車禁止スペースを通り、本件パレットに入庫する。なお、1階後列の本件パレットと、1階前列の駐車禁止スペースとの接続部に設けられた横行レール(以下「本件横行レール」という。)との間には、わずかな隙間がある。
   本件車両は重量1,450㎏、全長4,345mm、全幅1,730mmであり、本件パレット上で本件車両を後輪が車止めに完全にはまるよう駐車した場合には、本件車両先端部と本件横行レールとの間に約200mmの距離ができる。
   本件駐車区画に本件車両を駐車した場合、本件駐車装置後列の5つのパレットの駐車場奥側から見た左右上下の配置状況は次のとおりとなる。
           左        右
   2階   パレットNo.16  パレットNo.22
   1階   パレットNo.17  パレットNo.23(本件パレット)
   地下1階 パレットNo.18  駐車禁止スペース

   被控訴人は、平成16年4月1日、C社との間で、本件駐車装置に係る保守点検業務契約を締結しており、本件事故発生の1ヶ月前である平成25年11月29日に、C社から受託した業者により、本件駐車装置の保守点検(但し、当該点検の具体的な方法は不明である。)が実施されているところ、その際特に異常は確認されなかった。

(4)本件事故直後、本件パレットに係る左右各1本のバランスチェーン(注:本件駐車装置においては、昇降モニターが動くことにより連結軸が回転し、それによって左右の昇降チェーンが巻き上げ・巻き下げられ、パレットが上昇又は下降する。その際、バランスチェーンが前後左右のバランスをとる役割を果たす。)のうち、左側のバランスチェーンが破断していた。右側のバランスチェーンは、パレットに固定されているスプロケット(歯車)から外れている状態であった。
   本件駐車装置の地下1階において、本件パレットは、右側を下にして傾いた状態となっており、本件車両は、本件パレットから前方から脱輪して、フロントバンパーの右ヘッドライト下部付近が、スプリンクラー管(本件パレットの真ん中付近に位置しているもの)を挟み込みながら地下1階の前列のパレットNo.25に接触していた。
   本件車両のナンバープレートを取り付けるライセンスプレートベースは、脱落して、右側面にゆがみが生じていた。フロントバンパーには、ナンバープレートによって隠れていた部分に多数の擦過痕があり、これらの擦過痕には左下から右上ないし右下から左上に傾斜しているものがかなりある。また、フロントバンパーには、右ヘッドライト下付近や、左側面にも擦過痕があるほか、左角底部にもヘッドライト下あたりからタイヤハウス直前までの部分に擦過痕があった。ただし、本件車両のフロントバンパー底部の車体との接合部にははずやゆがみが生じていなかった。
   前記(3)のとおり本件パレットとわずかの隙間をもって近接している本件横行レールの鋼材には、特に損傷や擦過痕等が見られなかった。
   本件駐車装置に関する平成29年12月5日撮影の写真では、本件パレットの前方右端の土手部分が左側に傾き、これとパレットのフロア部分との接続部にゆがみが生じていること破断したバランスチェーンに付属しているリングプレートと呼ばれる部材に、内側から外側へのゆがみが生じていることが確認できる。


【争点】

(1)本件事故の発生原因(争点1)
(2)被告の責任原因と原告の損害額(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、被控訴人は、上記(1)につき、
   本件事故は、Aが、本件車両の後輪を車止めまで後退させず、右前部を前側にはみ出させて駐車したため、パレットNo.22の呼出し操作の際に本件パレットが下降を始めたところ、本件車両の前端が本件横行レールに引っ掛かって前輪が宙に浮く状態となり、パレットの降下に伴いその引っ掛かりが外れたため前輪がパレットに落下し、本件車両右前部が本件パレットに落下した際の衝撃、車両の上下方向のバウンドにより、右のバランスチェーンが外れ、その結果、左のバランスチェーンが横方向の荷重により破断したものであると主張した。
   原審(東京地裁平成29年5月26日判決・自保ジャーナル2051号175頁)は、被控訴人の請求を認容したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件事故の発生原因)について
 ア 本件事故の発生原因に係る立証責任について
   被控訴人は、本件事故の発生につき被控訴人側の責めに帰すべき事由によるものではないことを控訴人側が主張立証すべきである旨主張する。
   しかしながら、被控訴人の請求は、控訴人の同居人が過失によって本件駐車場の施設に損害を与えたときは、控訴人がその損害賠償を負う旨を定めた本件使用契約に基づき、本件事故により損壊した本件駐車場に係る損害賠償を求めるものであるから、本件駐車装置の損壊の原因である本件事故が控訴人の同居者の過失により生じたものであることにつき被控訴人が立証責任を負うものと解するのが相当であり、このことは同損害賠償請求が債務不履行に基づく損害賠償としての性質を持つことにより何ら左右されるものではないとうべきである。
 イ 本件事故の発生原因について
  a)本件事故直後、本件車両のフロントバンパーには、ナンバープレートによって隠されていた部分に複数の擦過痕があったところ、被控訴人は、これが同部分と本件横行レールとの接触を示すものである旨主張する。
   しかしながら、本件事故直後、本件駐車装置の地下1階において、本件パレットが傾き、本件車両は、本件パレットから前方に脱落して、フロントバンパーの右ヘッドライト下部付近が、スプリンクラー管を挟みながら地下1階の前列のパレットに接触していたものであり、また、落下開始からこのような最終的な停止状態に至るまでの本件車両の動き方、力の作用の仕方、周囲の構造物等との接触の仕方には様々な可能性が考えられるのであるから、上記擦過痕が前列パレットやスプリンクラー管等の周囲の物体に接触して生じたものである可能性を否定できるとはいえない(なお、ライセンスプレートの脱落やゆがみの発生原因についても同様のことがいえる。)。
   また、上記擦過痕のうちには左下から右上ないし右下から左上に傾斜しているものがかなりあるところ、これにつき被控訴人は、本件車両が右前部分を前側にはみ出させて斜めに駐車されていたため傾斜が生じたものである旨主張する。しかしながら、被控訴人主張のように本件車両が斜めに駐車されていたことを裏付ける根拠があるとは言い難いし、そのような駐車を行った場合に、上記擦過痕と同様のものが実際に生じることが裏付けられているともいえない。
  b)次に、被控訴人は、本件車両右側前部が本件パレットに落下した際の衝撃や車両の上下方向のバウンドにより、右側のバランスチェーンが外れ、その結果、左側のバランスチェーンが横方向の荷重により破断したとの主張の根拠として、本件パレットの右前方に凹みが生じていることや、破断したバランスチェーンに付属しているリングプレートに内側から外側へのゆがみが生じていること等を挙げる。
   しかしながら、確かに本件パレットの前方右橋の土手部分が外側に傾き、これとパレットのフロア部分の接続部にゆがみが生じていることは認められるものの、このようなゆがみにつき、本件車両前部が本件横行レールに引っ掛かった後にこれが外れて本件パレットに落下したことによってのみ起きるものであるとはいえない控訴人主張のように、本件車両の地下1階の落下の際にこのようなゆがみが生じることも十分考えられるし、他方、被控訴人主張のように本件車両が右前部分を前側にはみ出させて斜めに駐車されていたと考える場合には、正常に駐車した場合に比べて前輪がパレットの中央寄りに位置することになり、本件車両のパレットへの落下によって本件パレット右端の上記接続部にゆがみが生じるか否かも疑問である。)。また、リングプレートのゆがみについては、被控訴人の主張によっても、右側のバランスチェーンが外れることにより左側のバランスチェーンに横方向の荷重が発生する仕組み、当該荷重の大きさやチェーンの破断を生じさせる可能性等、具体的な機序が明らかではない上、上記ゆがみが控訴人主張(注:控訴人は、リングプレートのゆがみは、内プレートの一方が切断され、残った内プレートに荷重がかかり、ブッシュ・ローラーとの結合部から下方向に引っ張られたことにより外側に反ったものと考えられると主張した。)のように内プレートの一方の破断自体によって生じ得ることも否定できず、これが右側のバランスチェーンが外れた場合以外に生じ得ないということはできない(なお、被控訴人は、本件車両が正しく駐車され、左側のバランスチェーンのみが破断した場合に起きるパレットと本件車両の落下状況についても主張する(注:被控訴人は、仮に、本件車両が正しく駐車されており、左側のバランスチェーンのいが破断した場合、本件車両は横転するように落下し、パレットは右側のバランスチェーンに吊されて空中に残るか、側方の壁にぶつかった反動で右側のバランスチェーンが外れ、本件車両の後に続いて落下するのが通常であり、落下後の本件車両が本件パレットの上に載っている状態とはならない蓋然性が高いと主張した。)が、これも何ら理論的な裏付けがないというほかなく、これを直ちに採用することはできない。)。
  c)以上の検討によれば、本件事故が控訴人の同居人であるAの過失により生じたものであると認めることはできないというべきである。

(2)結論
   以上の次第で、被控訴人の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないから棄却すべきである(原判決取消し)。
   なお、最高裁平成31年4月11日判決・自保ジャーナル2051号164頁は、本件を上告審として受理しないとの決定をした(上告不受理)。