東京地裁平成31年2月8日判決(判例秘書【L07430173】)

パブリシティ権侵害による損害額について、基本契約の終了以前の事情、同解除後の原告の肖像写真等の使用期間等を斟酌して相当な額を認定した事例(控訴後控訴棄却)


【事案の概要】

(1)原告Jは、アメリカ合衆国ニューヨーク州出身のファッションデザイナーである。
   原告会社は、原告Jの肖像等の商業的利用につき、独占的利用権及び許諾権を有している。なお、原告会社の代表者であるAは、原告Jの配偶者である。
   被告は、衣料品、服飾雑貨の企画、製造加工、販売及び輸入等を業とする株式会社である。

(2)被告は、平成8年頃、原告ら又は原告会社との間でライセンス契約を締結し、平成9年3月、日本におけるJブランド(以下「本件ブランド」という。)の1号店を開店し、同ブランドは、1990代後半になって、その知名度が急速に高まった。
   原告会社と被告は、平成17年(2005年)9月2日、契約期間を同年10月18日から平成24年(2005年)10月17日までとするサービス契約を締結した。同契約において、被告は、広告制作費として、原告会社に対し、各契約年度の10月16日に年15万ドル(最後の2契約年度は17万ドル)を支払うことが定められた。
   原告会社及び「S Aファミリー トラスト」(注:原告らから「J・S」関連商標の管理委託を受けている会社)と被告は、平成19年(2007年)4月13日、韓国等を除くアジア地域における、原告Jに関連する全ての商標権(別紙商標権目録記載の各商標を含む。)や、各商標に関連する全てのグッドウィル等を、4500万ドルの対価で無期限に譲渡する旨の契約(以下「商標権譲渡契約」という。)を締結した。
   原告会社と被告は、同日、契約期間を同日から平成29年(2017年)4月12日までとし、原告会社がブランド相談業務、広告制作業務等の業務を提供し、被告がその対価を支払う旨を定める修正サービス契約を締結した。その内容は、概ね、以下のとおりである。
 ア 業務手数料
   被告は、本契約に基づき提供される業務の対価として、次のとおり、各契約年度の初めに、年間手数料を支払う(注:各年度80万ドルから100万ドルであるが、詳細は省略する。)。
 イ 業務
   原告会社が各契約年度において提供する広告制作業務等の内容は、以下のとおりである。
  a)広告制作業務 省略
  b)サンプル 省略

(3)被告は、平成25年(2013年)2月8日頃、原告会社に対し、同日付け通知書により、原告会社が修正サービス契約で定められたデザインサンプルの提供をせず、これにつき前払を受けた45万ドルの返還もしないなどとして、同月26をもって同契約を解除する旨の本件契約の解除の意思表示をした(以下「本件解除」という。)。
   原告会社は、本件解除までに、平成9年(1997年)春夏シーズンから平成25年(2013年)春夏シーズンまでの間、被告に対し、シーズンごとの宣伝広告物、ファッション雑誌等に広く掲載されて利用されるファッションイメージ写真である別紙原告写真目録記載1~126までの各写真(以下「原告写真」という。)のデータを順次交付し、これらを別紙被告商品目録記載の商品(以下「被告商品」という。)の宣伝広告及び販売促進のために利用することについて許諾していた(利用許諾の範囲及び期間については争いがある。)。

(4)被告は、URL「http://(省略)」をトップページとする「J オフィシャルホームページ」と題するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)を運営している。
   平成27年頃の被告ウェブサイトのCONCEPTページに、「ABOUT J」のタイトルの下に被告表示1(注:原告Jの氏名)、その右に被告表示2(注:原告Jの肖像写真)がそれぞれ表示されていた。
   被告は、被告ウェブサイトのGALLERYページに、平成9年(1997年)春夏シーズンから平成25年(2013年)春夏シーズンまでのファッションイメージ写真である原告写真を複製した被告写真を掲載していた。

(5)原告らは平成27年9月4日、被告を相手方として、東京地方裁判所に対し、仮処分(以下「本件仮処分」という。)の申立てをした。同申立てにおいて、原告らは、被告表示1及び2を被告ウェブサイトに表示する行為について、原告Jが保有し原告会社が独占的管理権を有するパブリシティ権を侵害するなどと主張して、被告ウェブサイトへの被告表示1及び2その他表示の差止め等を求めた。同裁判所は、平成28年3月8日、原告らの申立てを認容する決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした。
   被告ウェブサイトは、遅くとも平成28年2月5(注:本件仮処分の審尋期日)頃までには改定されて、CONCEPTページやGALLERYページが削除された。ただし、被告ウェブサイトの英語版(以下、「被告英語版ウェブサイト」といい、被告ウェブサイトと併せて「被告ウェブサイト等」という。)のCONCEPTページには、同年7月26日時点において、被告表示1及2が表示されていた。被告は、同年8月24日(注:後記第1事件の訴状の受領日)頃、同ウェブページを外部から閲覧できないようにするなどの措置を講じた。

(6)原告らは、被告に対し、平成28年8月頃、被告のウェブサイトに被告表示1及び2を掲載した行為は原告Jのパブリシティ権を侵害するなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償(予備的に不当利得請求権)として合計6億3008万4000円の支払いなどを求める訴えを提起した(以下「第1事件」という。)。
   原告会社は、被告に対し、自らが原告写真の著作権を有するところ、被告は被告ウェブサイトに原告のファッションイメージ写真(被告写真)を掲載して原告会社の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償(予備的に不当利得請求権)として合計19億6352万2007円の支払いなどを求める訴えを提起した(以下「第2事件」という。)。


【争点】

   第1事件及び第2事件において、争点は合計14個と多岐に渡る。そこで、第1事件における以下の争点(ただし、下記(2)については、パブリシティ権侵害に基づく利用料相当損害に限る。)に絞って、これらについての裁判所の判断の概要を示す。
(1)パブリシティ権侵害の有無
(2)原告らの損害及び損害額


   なお、第2事件について、裁判所は、
   被告が、被告写真を平成25年2月27日から平成28年2月5日頃まで被告ウェブサイト等に掲載することにより、原告会社の有する著作権(公衆送信権)を侵害したものと認める一方、
   原告会社の損害額については、被告写真1枚当たりの単価を1年当たり1万円と認めた上で、修正サービス契約が本件解除により終了した日の翌日である平成25年2月27日以降に被告ウェブサイトのGALLERYページに掲載されていた被告写真は126枚であること、同日からGALLERYページが削除された平成28年2月5日までの期間が約3年間であることから、被告の不法行為に基づく利用料相当損害額は、378万円(=1万円×126枚×3年間)と認めるのが相当と判示した。


【裁判所の判断】

(1)パブリシティ侵害の有無
 ア 原告Jの肖像等の顧客吸引力の有無
   原告Jの肖像等は、被告商品を含むファッション関係の商品について、その販売等を促進する顧客吸引力を有するものと認められる。
   したがって、原告Jは、これらの商品に関し、その顧客吸引力を排他的に利用する権利であるパブリシティ権を有する。
 イ 原告らの同意、承諾の有無
  a)本件解除までの間について
   原告Jの肖像写真、経歴、コメントなどを選定し、被告に使用するよう積極的に慫慂したのは原告側であり、原告らは、被告が提供した原告Jの肖像写真等が被告商品の宣伝広告に利用されることを十分に認識し、これを承諾していたというべきである。
   そして、Aは、被告ウェブサイトの開設及びその内容について事前に被告側から説明を受けていたのであるから、被告表示1及び2を被告ウェブサイトに掲載することについても承諾していたものと認めるのが相当である。
  b)本件解除後について
   被告は、本件解除後も、原告らは被告表示1及び2の使用を許諾していたと主張する。
   しかし、被告表示2が原告J個人の肖像写真であり、事業に利用されるものとはいえ、協力関係や取引関係にない相手に対してもその使用を無限定に許諾するとは考えにくい性質のものであることも考え併せると、原告らは、原告らと被告が本件ブランド事業を協力して推進していることを前提にして、その期間において原告Jの肖像写真等の使用を許諾したもの、すなわち、当事者の合理的意思解釈としては、その許諾期間を原告らと被告との協力関係または取引関係が解消されるまでとする旨の黙示の合意があったと認めるのが相当である。
   原告らと被告との間の修正サービス契約は、本件解除により平成25年2月26日をもって終了し、原告側と被告との取引関係は解消され、両者間の信頼関係も損なわれるに至っていたのであるから、被告表示1及び2の使用許諾も本件解除により終了したものというべきである。
  c)以上によれば、被告が本件解除による修正サービス契約の終了後に被告ウェブサイトのCONCEPTページに被告表示1及び2を表示した行為は、原告Jのパブリシティ権を侵害するものであるということができる。

(2)原告らの損害及び損害額
 ア 原告らは、被告による被告表示1及び2の使用により、使用料相当額の損害を被ったと主張し、使用料相当損害額の算定方法としては、著作権法114条3項の類推適用により、売上高に相当な実施料率を乗じる方法によることが相当であると主張する。
   しかし、本件は、被告が原告らに無断で個々の商品に原告Jの肖像等を表示するなどして被告商品を販売したという事案ではなく、原告らが、修正サービス契約の終了までの間は、被告表示1及び2を被告ウェブサイトに掲載して使用することを許諾していたものの、同許諾は修正サービス契約の終了(平成25年2月26日)とともに終了したため、同日以降も同各表示の掲載を継続したことについてパブリシティ権侵害が成立するという事案である。
   本件事案のかかる事実関係の下においては、被告表示1及び2の使用許諾終了後の使用による損害を算定するに当たっては、同使用許諾の終了以前の状況、すなわち、原告らと被告との間の取引状況、原告Jの肖像等の使用の対価の有無及びその額、被告表示1及び2の使用態様、それによる被告の得た経済的な利益の有無及びその額等を総合的に考慮して、損害額を検討するべきであり、売上高に相当な実施料率を乗じる方法により使用料相当額を算定することは相当ではない。
 イ そこで、以下、修正サービス契約の終了以前の事情について検討する。
  a)修正サービス契約の終了前に置いて、原告と被告との間には、商標権譲渡契約、サービス契約、サービス修正契約など複数の合意がされ、その中で、原告側と被告との間の様々な権利や義務について対価の支払や履行義務が詳細に定められていたが、原告Jのパブリシティ権の使用や被告表示1及び2の使用についての対価の支払を要求したことはない。そうすると、原告らは、修正サービス契約の終了前において、被告に対し、被告表示1及び2を無償で使用することを許諾していたということができる。
  b)原告側は、商標権譲渡契約に基づき、被告に対し、別紙商標権目録記載の各商標権を含む商標及びこれに関連するグッドウィル等の権利を4500万ドルという高額の価格で譲渡しており、また、被告から、平成17年以降はサービス契約に基づき毎年15万ドル以上の対価の支払、平成19年以降は修正サービス契約に基づき広告制作業務等の対価として毎年80万ドル以上の支払を受けていたことが認められる。これによれば、原告らは、修正サービス契約の終了以前には、本件ブランドに関連する商標権の譲渡や広告制作などの業務の提供により相応の対価の支払を得ていたものと認められる。
  c)他方、被告表示1及び2は、原告Jの氏名及び1枚の肖像写真であり、被告表示2に係る写真は平成15年にB(注:被告前代表者)がAから受領して以来、一度もアップデートされていない上、被告表示1及び2は、被告ウェブサイトのトップページではなく、その下位層を構成するウェブページに表示されているにすぎない。そして、上記のとおり、被告表示1及び2は個々の被告商品に表示されているものではなく、被告ウェブサイト以外のテレビ、雑誌、新聞等において積極的に使用されたとの事実は認められない。
  d)本件ブランドに係る被告商品の売上についても、被告表示1及び2の使用が被告の売上に影響を及ぼしたことを客観的に示す証拠はなく、むしろ、被告の売上においては、原告側から譲り受けた「J」、「J S」などの文字を含む商標権その他の権利の使用が寄与するところが大きいと考えられる。
 ウ 以上の諸事情を含め、本件に現れたその他全ての事情を考慮すると、被告表示1及び2を修正サービス契約の終了後も使用し続けたこと被告商品の販売に全く寄与していないとまではえないものの、その貢献度はごくわずかにとどまるというべきである。
   そして、本件においては、修正サービス契約の終了以前に被告表示1及び2の使用が無償で許諾されており、使用料相当額の算定において参照し得る合意等も存在しないこと、原告らが同様の表示について他の第三者に使用許諾した事例なども存在しないことなどの事情が認められ、損害額の立証が事案の性質上極めて困難であるので、
   上記の諸事情、本件解除後の被告表示1及び2の使用期間、弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を斟酌しつつ相当な損害額を認定することとすると、
   原告Jのパブリシティ権侵害による損害額としては、被告表示1及び2が違法に使用されていた期間(平成25年2月26日から被告英語版サイトの外部閲覧を遮断する措置が採られた平成28年8月24日まで)を通じ、100万円と認定することが相当である。


 

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