知財高裁令和2年2月20日判決(コピライト709号57頁)

パブリシティ権の形成における一審被告の寄与等を考慮して、その侵害によって生じた損害額(使用料相当額)についての原審の判断を是認した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

   原審(東京地裁平成31年2月8日判決)の【事案の概要】のとおりである。
   なお、一審原告会社及び一審被告は、それぞれ敗訴部分を不服として控訴したが、一審原告Aは、敗訴部分につき控訴しなかった。


【争点】

   原審と同様、争点は多岐に渡るので、以下の争点(ただし、下記(2)については、パブリシティ権侵害に基づく利用料相当損害に限る。)に絞って、これらについての裁判所の判断の概要を示す。
(1)パブリシティ権侵害の有無
(2)一審原告らの損害額


【裁判所の判断】

(1)基本的な観点
 ア 両当事者は、平成9年から平成25年までの間、本件ブランドを用いた日本での婦人服販売事業のための契約関係にあり、本件ブランドの知名度の向上について共通の利益を有していた。被告各表示の素材となった一審原告Aの肖像写真及び紹介文並びに被告写真に複製された原告写真は、上記事業における本件ブランドの宣伝公告の目的のために、一審原告側から提供された素材である。そして、その提供に当たっては、当時の両当事者は協力関係にあったという背景から、使用の目的、態様及び期間等について、文書等による明確な取極めはされていなかった。
 イ 平成25年の修正サービス契約の解除(本件解除)により両当事者間の契約関係が解消された時点において、これらの素材は、被告ウェブサイト上及び店舗内の被告各表示及び被告写真として現に用いられていた。そのことは、一審原告側においても了知していた可能性が高いし、仮に了知していなかったとしても、被告ウェブサイトの閲覧及び店舗の訪問によって容易に知りうる状態にあった。
 ウ 契約関係の解消後も、一審被告は、日本国内のJS商標を既に譲り受けていた以上、本件ブランドの下での婦人服販売事業をそれ以前とほぼ同じ態様で継続することが可能であり、そのことは一審原告側も了知していた。そうすると、契約関係の解消後も、被告各表示及び被告写真をそれまでと同様に使用し続けることを、一審被告は予定しており、一審原告側も、これを予想していたか少なくとも予想し得たといえる。
   また、JS商標は一審原告Aの氏名と同一であるから、JS商標及び各商標に関連するグッドウィルを商標権譲渡契約によって譲り受けた上で行う一審被告の事業活動は、その需要者層に、一審原告A個人がこれに関与しているとの認識又は印象を必然的に生じさせるものであったといえる。このような状況は、契約関係の終了後においても直ちに変わるものではない。
 エ このように、本件事案は、長期間にわたり契約関係にあった当事者が、必ずしも明確に定めてこなかった事柄が問題となり、それが原因となってパブリシティ権侵害行為、著作権侵害王位及び不正競争行為(いずれも法的性質としては不法行為)として損害賠償等が請求されている、というものである。そうすると、権利侵害の成否や損害額の算定の判断に当たっても、契約関係にない権利者と侵害被疑者との間の訴訟におけるものとは異なり、契約関係にあった当時の事情を踏まえた合理的な意思解釈が必要とされる。

(2)パブリシティ権侵害の有無
 ア 一審原告Aのパブリシティ権の侵害の有無
   一審原告Aにパブリシティ権が成立し、かつ、一審被告が、これを利用する目的を有していたと認められることは原判決が説示するとおりである。
 イ 一審原告らによる同意、承諾の有無
  a)本件解除前について
   一審原告らによる同意、承諾が認められることは原判決を引用して説示したとおりである。
  b)本件解除後について
   一審原告らによる同意、承諾が認められないことは原判決を引用して説示したとおりである。

(3)一審原告らの損害額
   原判決の認定した100万円という損害額につき一審原告会社は高額に過ぎる旨主張し、一審被告は低額に過ぎる旨主張する。
   そこで検討するに、本件においては、以下のような事情を考慮する必要があると考えられる。すなわち、
 ア 本件証拠中、例えば甲28には、一審原告Aについて、「世界12ヶ国に進出。どの国でも高い人気を獲得している。」という記載がある一方で、「日本は世界最大のマーケット」という記載もある。
   そして、後掲各証拠(略)によれば、「世界12ヶ国に進出」というその実態は、一審原告Aの生地である米国ニューヨーク市のソーホー地区に平成5年ころから直営の実店舗を有しているほかは、米国を含む各国のデパート等に断続的に商品を卸したり、ネットショップに商品が掲載されているにとどまる。一審原告側が運営するウェブサイトには、店舗の所在場所として18か国のデパート等が挙げられているが、その中には商品の実際の取扱いを確認できないものが多い上、取扱いがある場合でもデパートの店内に本件ブランドを冠した売場を確保してはない。そして、一審原告側が主要国の大都市の目抜き通りに独自の路面店を構えていること等を示す証拠はない。
   なお、一審原告Aの日本国外での活動に関する証拠(略)は、いずれもウェブサイトへの掲載であるところ、ウェブサイトは紙媒体と異なり、掲載可能な記事数が極めて多い媒体である。また、一審原告Aが出展したファッションショーは、いわば「地元」であるニューヨーク市でのものである上に、出展料を支払えば参加資格に制限はない(一審被告前代表者本人尋問)。
 イ 一審原告Aの世界的な名声については上記アのとおり一定の留保を付けざるを得ないのに比して、日本国内での名声(特に被告商品の需要者層におけるもの)は、それなりに高いと認められる。
   もっとも、本件ブランドの日本での立上げ以前から一審原告Aが日本の需要者層に広く知られていたことを示す証拠は見当たらないのに対し、それ以降は一審被告を先駆けとする各ライセンシーが本件ブランドのビジネスに深く関わってきたことからすれば、日本における一審原告Aの名声には、各ライセンシーによるマーケティングの成果という側面が多分にある。一審原告Aの日本国内での名声を示すものとして一審原告側から提出されている証拠(略)も、各ライセンシーによる上記と同様のマーケティングに影響されたものである可能がある(例えば、外見上は出版社が編集したムックである甲8にも、Editorial cooperatorとして、複数名の一審被告の関係者が関与している。)。
   そして、各ライセンシーがそのマーケティングに当たり、一貫して、一審原告Aを被告表示2~4のとおりの容貌・経歴・信条を有する人物として需要者層に印象付けようと努めてきたことは本件各証拠から明らかであるから、一審原告Aが「世界的に有名な」ファッションデザイナーであるとの名声が日本において形成されるについては、各ライセンシーの寄与、中でもその先駆けである一審被告の寄与が相当程度に大きかったと認められる。
 ウ 上記ア及びイの事情によれば、一審原告Aの肖像等が顧客誘引力を有し同人にはパブリシティ権が認められるとしても、それらは、いわゆる超一流のファッションデザイナーのものと同列ではないし、パブリシティ権の形成に当たって一審被告がライセンシーとして寄与してきたという経緯を考慮すべきである。
 エ 一審原告らは、一審原告Aのパブリシティ権の価値が高く、その侵害による損害が大きい旨の主張を裏付けるため、過去の裁判例及び文献の記載を多数援用する。しかしながら、過去においてパブリシティ権の価値が検討された事案の多くは、きわめて知名度が高い権利者(その多くは、知名度の高さが「公知の事実」に近いような芸能人、運動選手等である。)の名称及び肖像等が有する顧客誘引力を、その知名度の形成に寄与してない他者が利用した事案であるから、これらの事案を通じて形成された法理論及びマーケティング理論並びに個別の事案における裁判所の判断は、本件にそのまま適用できるものではない。もっとも、一審原告Aの我が国における認知度は、それなりに高いことからすると、その形成に当たって一審被告の貢献が大きいことを考慮しても、パブリシティ権侵害に対する損害賠償の額を余りに少額とすることもまた相当ではないというべきである。
   上記ア~エで検討した点を踏まえると、一審原告Aのパブリシティ権侵害によって生じた使用料相当損害の額は、原判決が説示するとおり、100万円と評価するのが相当であって、これに反する一審原告会社及び一審被告の主張は、いずれも採用することができない。