東京家裁令和元年7月26日決定(判例タイムズ1471号255頁)

執行猶予期間中である申立人が犯罪歴を募集企業に知られることで採用を拒否されるなどの不利益を回避することは、戸籍法107条の2にいう「正当な事由」に当たらない旨判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)申立人は、平成30年○月○日に公然わいせつの罪により懲役4月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。

(2)申立人は、逮捕時に報道された自己の氏名及び顔写真が現在もインターネット上に拡散されているため、就職の応募先にこれを知られていまい、就職することができない状態にあるとして、申立人の名をインターネット上で検索できる「B」から「C」に変更することを求めた。
   なお、戸籍法107条の2は、「正当な事由によって名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。」と定めている。


【争点】

   戸籍法107条の2の「正当な事由」があるか否か
   以下、裁判所の判断を示す。


【裁判所の判断】

 (1)犯罪歴は、企業にとって、企業への適応性や企業の信用の保持等企業の秩序維持の観点から重要な情報の一つであって、応募者が雇用契約に先立って申告を求められた場合には、信義則上真実を告知する義務を負うものであるから、現在執行猶予期間中である申立人が応募に当たり、当該犯罪歴を募集企業に知られることで採用を拒否されるなど一定の不利益を受けることがあっても、それは社会生活上やむを得ないものとして申立人において甘受すべきである。
   したがって、このような不利益を回避することを理由として名の変更をすることは許されず、戸籍法107条の2にいう「正当な理由」があるとは認められない。

(2)ところで、申立人は、インターネット上の記事は努力しても全て削除するのが不可能であること、公然わいせつ罪が軽微な犯罪であること、申立人が受けた刑には執行猶予が付されており、法的な贖罪を果たしていることなどを挙げ、申立人が受けている不利益は極めて過剰であるなどと主張する。
   しかしながら、前記のような犯罪歴の性質に鑑みれば、インターネット上の犯罪事実が一因となって採用を拒否されることがあったとしても、その不利益は応募者において甘受すべきものであって、それにもかかわらず、インターネット上の全記事の削除が不可能であるとの理由で名の変更を認めることは、前記告知義務に違反した応募を容認することにも繋がりかねず、相当でないことは明らかである。
   また、公然わいせつ罪が軽微な犯罪であるといえないのは勿論、いまだ執行猶予期間中である申立人が法的な贖罪を果たしたといえないことも明らかであるから、現状において申立人が望むような就職することができない状態にあるとしても、これをもって名の変更を認めるべきであるとはいえない。申立人の主張は採用することができない。

(3)結論
   本件申立てには理由がない(申立却下)。