前橋地裁令和元年5月15日判決(判例タイムズ1473号207頁)

運転者が、記名被保険者との支配従属関係の下に運転代行業務に従事して労務を提供していたことから、同人の「業務に従事中の使用人」に該当するものとして、自動車保険契約の運転者年齢条件(26歳以上補償)特約の適用による保険会社の免責を認めた事例(控訴)


【事案の概要】

(1)原告X1と原告X2は、平成4年2月21日に婚姻し、同年9月○日には長女Aを、平成9年11月○日には長男Bをそれぞれもうけた。
   原告らは、平成19年11月12日、協議離婚し、原告X1は、原告X2、A及びBと別居した。

(2)原告X1は、平成21年頃、運転代行業を始め、原告X2との間で、原告X1が原告X2に対し、毎月10万円を支払うこと、原告X2が毎週金曜日及び土曜日に原告X1の運転代行業(随伴者)に従事することを合意した。原告X1は、原告X2が運転代行業務に従事する都度、原告X2に対して売上げの一部を支払っていた。
   Aは、X2の依頼を受けて、原告X1の運転代行業務に従事することもあった。その場合、原告X1は、その日の売上げの30パーセントを報酬として原告X2に支払い、原告X2は、その報酬を、Aに対し、小遣いや電話代名目で支払っていた。

(3)原告X1は、同人所有の自家用普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)を契約自動車とする任意保険に加入していなかったところ、平成27年2月12日、損害保険業等を目的とする株式会社である被告との間で、一般自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
   本件保険契約には、人身傷害事故の補償があり、また、以下の内容の運転者年齢条件(26歳以上補償)特約が附帯されている。
   「記名被保険者が個人である場合は、当会社は、この特約により、次のいずれかに該当する者のうち、本件証券記載の運転者年齢条件に該当しない者が契約自動車を運転している間に生じた事故による損害または傷害に対しては、保険金を支払いません。
   ① 記名被保険者
   ② 記名被保険者の配偶者
   ③ 記名被保険者またはその配偶者の同居の親族
   ④ ①から③までのいずれかに該当する者の業務(注)に従事中の使用人
  (注)業務 家事を除きます。」

(4)原告X2は、平成27年2月14日(土曜日)、原稿X1の運転代行業務に従事する予定であったが、インフルエンザにり患して発熱したBを病院に連れて行かなければならなくなった。そこで、原告X2が、Aに対し、自らの代わりに原告X1の運転代行業務に従事するように依頼したところ、Aは、これを了承した。
   原告X1は、同日午後8時30分頃、Aを自宅に向かえに行き、同日午後9時頃から、随伴者である本件自動車を運転するAとともに、運転代行業務を開始した。なお、原告X1とAは、同日、Aの報酬についての話をしていなかったものの、これまでと同様、Aに対して原告X21を介して報酬が支払われることが前提とされていた。
   Aは、同月15日午前3時50分頃、群馬県高崎市(略)において、Cが運転する事業用中型貨物自動車及びDが運転する事業用中型貨物自動車との間で交通事故(以下「本件事故」という。)を起こした。
   Aは、本件事故によって頚髄損傷の傷害を負い、同月20日、これにより死亡した。

(5)原告らは、平成27年7月24日までに、Aの法定相続人として、被告に対して保険金請求の手続を完了した。


【争点】

(1)保険金請求権の有無(Aが記名被保険者である原告X1の「業務に従事中の使用人」に該当するか否か)
(2)保険金の額
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(保険金請求権の有無)について
 ア 「業務に従事中の使用人」について
   自動車保険契約における運転者年齢条件特約の例外規定の趣旨は、
  ①自動車が業務に使用される場合には、その運行による使用人の被災危険が一般的に高いために、その危険を自動車保険の担保から除外すること
  ②業務に従事中に被災した使用人の事故の補償は労災責任ないし労災保険の分野に委ね、不当な保険金請求を防止すること
にある。
   上記の趣旨からすると、「業務に従事中の使用人」は、契約関係が形式的に雇用関係を締結している労働者に限定されるものではなく、実質的に支配従属関係の下における労務の提供を行っている者も含むというべきである。
   そして、上記の判断にあたっては、
  ・記名被保険者等による業務指示等に対する諾否の自由の有無
  ・時間的及び場所的拘束性の有無・程度
  ・業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容
  ・報酬の有無
その他諸般の事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。
 イ 上記アに基づく本件の検討
  a)諾否の自由について
   以下の事実が認められる。
  ①原告X2がAに対して自らの代わりに原告X1の運転代行業務に従事するよう依頼した際、原告X2自身はこれに従事することができず、原告X1が代わりの者を見付けられていない状況であり、また、既に大事な顧客からの予約が入っていて、原告X1が当日の運転代行業を休業することができなかったことからすれば、本件事故当日、原告X2に代わって原告X1の運転代行業務に従事することができるのはAのみであったこと
  ②Aは、交際していたEに対し「今日は断れない。」などと話しており、本件事故当日、原告X2に代わって原告X1の運転代行業務に従事できるのが自分のみであることを認識していたこと
  ③Aは、本件事故以前にも原告X1の運転代行業務に従事したことがあり、原告X2に差支えがあるときには、同人の代わりに運転代行業務に従事することが想定されていたこと
  これらの事実によれば、本件事故当日の運転代行業務への従事の依頼について、Aの諾否の自由は相当程度制限されていたと認めるのが相当である。
  b)時間的及び場所的拘束性について
   Aは、業務時間帯である午後9時頃から翌日の午前6時頃まで、顧客から依頼があるまでの間は、原告X1と共に本件自動車内で待機し、(依頼のあった後には)目的地まで原告X1の運転する顧客の自動車の後を、本件自動車を運転して追従するという業務に従事していたことが認められる。
   以上によれば、Aは、顧客からの依頼が入るまでの間も、本件自動車内での待機を余儀なくされていて、業務時間帯である午後9時から翌日の午前6時まで時間的な拘束を受け、また、業務の場所も本件自動車内と限定されていたことが認められる。
   したがって、Aは本件事故当時、原告X1の運転代行業務において、時間的及び場所的な拘束を受けていたと認めるのが相当である。
  c)業務上の具体的な指揮監督について
   Aは、乗務記録簿を記入し、顧客から依頼が入るまでも本件自動車内で待機し、原告X1が顧客の自動車を代行運転する際は本件自動車を運転して追従する等の業務を行っていた。
   上記の業務は、運転代行業務を営む原告X1からAに対して指示されたものであり、その内容も、項目ごとに必要事項を記載する乗務記録簿の記入や待機場所を指示しての待機指示、走行順路を指定した運転指示など、いずれも具体的なものである。
   以上によれば、Aは、原告X1から業務上の具体的な指揮監督を受けていたと認めるのが相当である。
  d)報酬について
   Aは、本件事故以前に原告X1の運転代行業務に従事した際、原告X1から直接的ではないものの、相当額(原告X2以外の随伴者と同等の金額である。)の金銭を受け取っていた。
   したがって、本件事故当日も、Aが原告X1の運転代行業務に従事したことについて、Aに対し、上記同様の相当額の金銭が支払われることが、Aと原告らとの間で前提となっていたと認められる。
  e)小括
   上記aないしdによると、Aは、原告X1との支配従属関係の下に運転代行業務に従事し、労務を提供していたと認めるのが相当である。
   したがって、Aは、記名被保険者であるX1の「業務に従事中の使用人」に該当するため、運転者年齢条件(26歳以上補償)特約が適用される。
   本件事故当時、Aは22歳であり、運転者年齢条件に該当していないことから、被告は免責され、原告らに本件保険契約に基づく保険金請求権は認められない。

(2)結論
   以上によれば、その余の争点につき検討するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない(請求棄却)。