福岡地裁令和元年9月17日判決(自保ジャーナル2060号54頁)

MRI検査で椎間板突出が認められる頸椎に対応する神経根と頸部痛及び両腕から手のしびれとの間の対応関係を認め、原告の後遺傷害等級を自賠法施行令別表第二第12級相当と判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成28年8月2日午後11時頃
 イ 発生場所 福岡市内
 ウ 車両1  原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)
 エ 車両2  被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)
 オ 事故態様 赤信号で停止中の原告車の後部に、同一方向を後方から直進進行していた被告車の前部が衝突した。

(2)原告は、本件事故により、頸椎捻挫・腰椎捻挫の傷害を負った。
   原告は、本件事故後、次のとおり通院加療を受けた。
 ア A病院 平成28年8月2日
 イ Bクリニック 同月3日~平成29年1月31実通院日数78
 ウ C整骨院 平成28年8月12日~平成29年1月20日(実通院日数23日)

(3)原告は、被告加入の自賠責保険の保険会社から、平成29年5月26日付けで、原告主張の後遺障害のうち頸椎捻挫後の頸部痛及び頭痛等並びに腰痛捻挫後の腰痛等の各症状は、他覚的に神経系統の障害が証明されているとは捉え難いものの、将来において回復が困難と見込まれるとして、いずれも自賠法施行令別表第二第14級第9号に該当し、併合14級と判断する旨の通知を受けた。

(4)原告(昭和42年4月生まれの女性)は、本件事故当時、自宅において母親(当時83歳)と同居し、主にその家事や介護を行っていた。


【争点】

(1)原告に生じた後遺障害(争点1)
(2)本件事故と因果関係のある損害額(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(原告に生じた後遺障害)について
 ア 原告は、症状固定時において、頸部痛、首から肩にかけての疼痛、両腕から手のしびれ及び腰痛(以下「本件神経症状」という。)が生じていることが認められる。
   そして、平成28年9月7日、A病院において実施された頸椎MRI検査(以下「本件MRI検査」という。)の結果(注:A病院のD医師作成の画像診断報告書には、「頸椎には変形性変化が見られます。特にC6/7のレベルで骨棘(注:こつきょく)および椎間板突出が強く、脊柱管は狭窄しています。右優位です。C5/6のレベルでも正中からやや左側優位で狭窄が見られます。髄内に異常信号はありません。」との所見が記されている。)によれば、原告の頸椎について、C6/7及びC5/6において椎間板が突出していることが認められるところ、
   C7が支配する皮膚感覚帯は肩から腕の中央の背部及び人差し指及び中指とされ、
   C6が支配する皮膚感覚帯は肩から腕の外側及び親指とされているから、
   本件MRI検査で椎間板突出が認められる頸椎に対応する神経根と、本件神経症状のうち頸部痛及び両腕から手の知覚障害(しびれ)との間には対応関係があるということができる。
   この判断は、C5/6の左優位の椎間板突出が左上肢のしびれ、C6/7の成中~右優位の椎間板突出が右上肢のしびれの他覚所見となる旨のBクリニックの整形外科医であるE医師の所見にも沿うものである。
 イ また、本件事故は、被告車が原告車の後方から追突したものであり、停止中の原告車の運転席に座っていた原告には、後方から前方にかけて相応の力が加わったことが推認される上、原告は、本件事故前に、頸部痛、背部痛及び腰部痛並びに上肢のしびれの既往があったとは認められないから、本件神経症状は、本件事故によって出現するに至ったものと認めるのが相当である。
 ウ 以上によれば、本件神経症状のうち頸部痛及び両腕から手のしびれ(以下「本件後遺障害」という。)については、C5/6及びC6/7の椎間板突出との他覚的所見があり、一定期間での寛解が具体的に見込まれるといえないため、自賠法施行令別表第二第12級第13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に当たるものと認めるのが相当であり、これは、本件事故との間で因果関係のあるものと認められる。
 エ 腰痛については、その要因となる他覚的所見が認められないものであるが、原告は、Bクリニックにおける初診日(事故翌日である平成28年8月3日)から症状固定日(平成29年1月31日)までの間、頸部や腕部及び手のしびれほどではないものの、継続的に訴え続けていることが認められ、その訴える症状の時期、経過及び内容に特に不自然な点は見当たらないから、自賠法施行令別表第二第14級第9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当するものと認められる。
 オ 以上によれば、本件事故によって原告に生じた後遺障害の等級は、自賠法施行令別表第二第12級に相当することとなる。

(2)争点2(本件事故と因果関係のある損害額)について
 ア 治療費 96万6,126円
 イ 通院交通費 3万8,840円
 ウ 文書料 5,400円
 エ 休業損害 47万0,029円
  a)基礎収入
   原告は、高齢の母親と2人暮らしをしながら、母のための家事や介護をしていたことが認められ、その基礎収入は、家事従事者として、本件事故のあった平成28年の賃金センサス女性学歴計全年齢平均賃金である年収376万2,300円と認めるのが相当である。
  b)労働能力喪失率
   Bクリニックの医療記録によれば、原告は、本件神経症状により、平成28年8月中は、頸や腰を動かした際に強い痛みがある旨を訴え、痛みによる不眠を訴えており、前記の母のための家事や介護にも大きな支障が生じる状況であったことがうかがわれる。
   その後、原告は、同年9月7日には自動車の運転を行っていることがうかがわれ、9日には巧緻運動障害なしとされ、同月12日には頸を急にひねる動作ができない、同月16日には無理をすると痛いと述べているものの、特段の可動域制限が生じている状況はうかがわれず、同月23日以降は、E医師から積極的に運動することを勧められていることに照らすと、日常生活上の動作ができる状況となっていたことがうかがわれる。
   そこで、原告の家事及び介護の制約の程度については、平成28年8月については50%同年9月以降は、調子の悪い日や通院加療のための家事及び介護に一定の支障が生じていたことが想定されることから、通じて20%の制約が生じたものと認めるのが相当である。
  c)計算
   367万2,300円÷365×(30×0.5+(30+31+30+31+31)×2)
  =47万0,029円
 オ 後遺症逸失利益 406万7,189円
  a)基礎収入
   前記エa)のとおり、年収376万2,300円を用いるのが相当である。
  b)労働能力喪失率
   前記(1)のとおり、原告が、本件事故によって、自賠法施行令別表第二第12級に当たる後遺障害を残したものと認められることから、14%と認める。
  c)労働能力喪失期間
   原告に認められる後遺障害のうち他覚的所見のなるものが頸部痛及び両腕からの手のしびれであって、原告が本件事故当時49歳であったことにも照らすと、痛みやしびれが就労可能年数(67歳)まで存続するかや、これが存続するとしてもそのすべてを本件事故と相当因果関係のあるものとみることができるかには疑義が残り、これを10年とするのが相当である。
  d)計算
   367万2,300円×0.14×7.7217(10年間のライプニッツ係数)
  =406万7,189円
 カ 傷害慰謝料 89万円
 キ 後遺症慰謝料 290万円
 ク 損害の填補 
  a)任意保険 
   原告は、被告加入の任意保険会社から120万6,126円の支払を受け、これを元本に充当しているから、充当後の金額は812万1,458円となる。
  b)自賠責保険 
   原告は、平成29年5月30日、被告加入の自賠責保険会社を通じて、75万円の支払を受けているところ、これはまず本件事故日から同日までに生じた遅延損害金である33万5,983円(=812万1,458円×0.05÷365日×312日。1円未満切り捨て)から充当されるから、充当後の額は770万7,441円(=812万1,458円+33万5,983円-75万円)となる。
 ケ 弁護士費用 77万円

(3)結論
   以上によれば、原告の請求は、770万7,441円及びこれに対する最終弁済日の翌日である平成29年5月31日からの遅延損害金並びに77万円及びこれに対する事故日である平成28年8月2日からの遅延損害金を求める限度で理由がある(一部認容)。