福岡地裁小倉支部平成29年4月27日判決(労働判例1223号17頁)

配転命令やその前後の諸事情について、「やむを得ない事由」が存するか否かという視点から判断を加えて、有期労働契約社員に対する解雇を無効と判断した事例(上告審にて高裁に差戻し)


【事案の概要】

(1)原告は、昭和44年○月○日生まれの女性であり、夫と北九州A地区内に居住している。
   被告は、ビルの管理等を目的とする株式会社であり、関係会社と組合を組織して、北九州市から指定管理者としての指定を受け、A1市民会館、A2市民会館等の管理業務を行っている。

(2)被告においては、被告九州支店のA1市民会館社員及びA2市民会館社員の就業に関する基本事項を定めたものとして、「会館社員就業規則」(以下「就業規則」という。)が定められ、そこには以下のとおり規定されていた。
 ア 異動(第42条)
   被告は、業務の都合により会館社員の職種を変え、あるいは職場を異動させることがある。会館社員は、正当な理由がなければこれを拒むことができない。
 イ 解雇(第48条)
   会館社員は、次の各号の一に該当することとなった場合には、解雇とする(1項)。
  a)業務の能力が著しく劣り、出勤が常でないなど業務運営の障害になると被告が判断したとき(1号)
  b)その他前各号に準じるやむを得ない事由がある場合(3号)

(3)原告は、平成22年4月1日、被告との間で期間の定めのある雇用契約を締結し(以下「本件雇用契約」という。)、A1市民会館において、受付の業務を開始した。被告発行の労働条件通知書には次の記載がある。
 ア 雇用期間 平成22年4月1日から平成23年3月31日まで
 イ 勤務場所 A1市民会館 但し、業務上の都合により異動させることがある。
 ウ 業務内容 A1市民会館 受付係 但し、業務上の都合により変更させることがある。
 エ 更新の有無 更新する場合がある。以下略
   原告は、被告との間で雇用契約を4回更新した。

(4)被告は、平成26年5月8 日、原告に対し、口頭で、同年6月1日付けでA2市民会館の受付係へ異動するよう告知した(以下「本件配転命令」という。)。これに対し、原告は、同年5月11日付けで、被告に対し、本件配転命令は労働条件通知書の内容に反した人事異動であるなどとメールで抗議した。
   これを受けて、被告は、5月13日付けの「6月1日付 人事異動の件」と題する書面にて、①本件配転命令の理由A1市民会館の体制の強化及び人間関係問題の解決であること、②本件配転命令は労働条件通知書の勤務場所欄の但し書の場合に当たることなどと回答した。
   被告は、平成26年5月21日、改めて本件配転命令の辞令書を原告に交付し、同月27日、同年6月1日以降、A2市民会館に出勤しなければ欠勤扱いとなり、そうした事態が一定期間続くと懲戒処分の対象となると書面で告知し、同年6月1日、原告がA2市民会館にもA1市民会館にも出勤しなかったため、電話でこれから1週間出勤しなければ解雇すると伝えた。

(5)被告は、平成26年6月6日、原告代理人に対し、就業規則48条1項1号及び3号を理由として、同月9日付けで原告を解雇し、解雇予告手当を支払う旨を通知した(以下「本件解雇」という。)
   被告作成の同月16日付け解雇理由証明書には、原告が平成26年6月1日付けで発令したA2市民会館受付係に異動とする業務命令に正当な理由なく従わずに6月1日にA2市民会館に出勤せず、その際、「今後1週間出勤しなければ解雇する」と警告されたにもかかわらず、その後も何の連絡もなく出勤しなかったことが就業規則48条1項1号及び3号に該当すると記載されている。

(6)原告は、本件配転命令が違法無効であり、本件解雇も無効なものであるとして、被告に対し、雇用契約上の地位の確認並びに本件解雇の日から判決確定の日までの未払賃金及び遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。


【争点】

   本件解雇がやむを得ない事由(労働契約法17条1項)によるものといえるか否か(特に、その前提となった本件配転命令が権利を濫用したものか否か)


【被告の主張】

   本件配転命令に関して、被告は以下のとおり主張した。
 ア A1市民会館では、原告と当時A1市民会館の館長であったD(以下「D元館長」という。)との間にトラブルが生じ、被告がそのトラブルの解決に乗り出していたところであったが、原告が被告の契約相手である北九州市に同トラブルに関する苦情等を持ち込んだため、北九州市から被告に対して、次期の管理委託契約も見合わせるといった趣旨の話まで出されてしまい、早急にA1市民会館の運営体制の見直しを行う必要が生じていた。そのような中、D元館長は、この事態について責任をとるため平成26年7月をもって自主退職することになり、他方、新しい館長を採用するに当たって、その経験不足を補うために、A2市民会館のG氏を副館長にして補佐させる必要が生じたものである。
 イ また、原告は、本件労働契約を更新して間もないころから、D元館長以外にも、他の従業員(特に舞台スタッフ)との軋轢が高まっており、原告の言動などを理由として退職を申し出る者が現れる事態となった。そのため、被告が原告に対し、人間関係を円滑にするよう努力してほしいと要請したにもかかわらず、原告は、「お客様に迷惑をかけなければ人間関係がぎくしゃくしても問題はない」などと明言して態度を改めなかったため、A1市民会館の職場環境改善のためには原告を異動させるしかなく、原告をG氏の異動により欠員が生じたA2市民会館へ移動させてその就労の場を確保するとともに、A3市民会館を含めた3つの市民会館における職員の適正数を維持することとし、本件配転命令を発したものである。


【裁判所の判断】

(1)本件解雇がやむを得ない事由(労働契約法17条1項)によるものといえるか否かについて
 ア 本件労働契約は、期間の定めのある労働契約であるから、被告が原告をその期間途中において解雇するためには、「やむを得ない事由がある場合」でなければならず(労働契約法17条1項)、期間の定めの雇用保障的な意義や同条項の文言に照らせば、その合理性や社会的相当性について、期間の定めのない労働契約の場合よりも厳格に判断するのが相当というべきである。
   そして、本件配転命令当時、それまでの原告の態度等からすると、本件配転命令を拒否する可能性があり、ひいては本件解雇に至ることも想定されていたもの考えられることからすれば、これらが密接に関連するものということができる。
   よって、本件解雇の適否を判断するに当たっては、本件配転命令の必要性や濫用の有無のみに焦点を当てるのではなく、本件配転命令やその前後の諸事情について、「やむを得ない事由」が存するか否かという視点から判断を加えるのが相当というべきである。
   そこで、以下、「やむを得ない事由」の有無について検討する。
 イ この点、被告は、前記【被告の主張】のとおり主張する。
   確かに、D元館長が、平成25年9月17日、A1市民会館社員全員の回覧に付した、「受付業務の改善について」と題する書面(以下「本件回覧文書」という。なお、その記載内容は、①受付2人体制の時は、業務に支障があるものとして有給休暇の申請は承認しない、やむを得ない場合は、他の受付スタッフの勤務変更で対応する、②3人勤務を減らすために、本番当日の3人体制を見直す、③他のスタッフの応援でもって対処する、④全体の勤務体制検討の段階で、必ずしも本人の公休(注:法定休日)希望日を優先しないなどである。)を巡り、これに異を唱える原告ら女性従業員3名が福岡労働局や北九州市に相談に赴き、他方、原告を含む女性職員に対して不満を持つ舞台スタッフらの不満が噴出するなどした(原告に対する不満から退職を申し出る者まで現れた。)ことから、A1市民会館において、C支店長やB統括を交えたミーティングが持たれ、本件回覧文書が撤回されるとともに、D元館長が謝罪することになり、さらには、D元館長が事態の責任をとる形で退職するなど、事態の収拾に向けた大きな動きが見られるところである。
   そして、C支店長の供述によれば、原告を雇止めにすることも検討したが、原告が福岡労働局等へ赴いたことなどに対する報復人事と捉えられるのを避けるため、原告との雇用契約を更新し、その態度を改めるよう求めたものの、原告が「お客様に迷惑をかけなければ人間関係がぎくしゃくしても問題ない」などと明言して態度を改めなかったため、本件配転命令に踏み切り、さらに本件解雇に至ったというのである。
 ウ しかし、本件回覧文書は、有給休暇の取得に関わるものであるから、原告らが福岡労働局へ相談に赴くことが不適切な行為であるということはできない(ただし、福岡労働局での相談が切っ掛けになっているとはいえ、原告らが北九州市に相談に赴いた点は軽率であるとの非難を免れないものである。)。
   また、本件回覧文書の件は、ミーティングを重ねるなどした結果、本件回覧文書が白紙撤回され、D元館長が謝罪することで一応の解決が図られたものであり、この件でA1市民会館の業務運営が滞った事実は窺われない。他方、原告に嫌悪感を示す舞台スタッフらの不満が表面化するなどして、A1市民会館の従業員の一部で人間関係がかなり悪化したものと窺われる。しかし、平素の業務運営自体にまで支障を来したような事実は認められず、被告の指摘するA1市民会館の混乱というのも、客観的にみれば、主に、上記のような人間関係の悪化と、それに伴って一部従業員が退職してしまい、A1市民会館の業務運営に支障が生じるのではないかと危惧する点に集約されるものと考えられる。
 エ ところで、前記のとおり、被告は、原告が「お客様に迷惑をかけなければ人間関係がぎくしゃくしても問題はない」などと明言して態度を改めなかったため、本件配転命令に踏み切ったとするが、原告に対して嫌悪感を明らかにする従業員がいる一方で、原告と良好な人間関係を築いている従業員も存するのであるから、極めて主観的な一面を持つ人間関係について、どちらか一方に責任を負担させるような形で決着を付けることには慎重であるべきであり、先ずは、不満とする点に関する具体的な事実関係や理由を調査・確認すべきであり、その結果に基づき、当事者双方に対する適切な指導等を重ねるのが相当というべきである。
   この点、証拠を精査するも、上記人間関係の問題について、被告がいかなる具体的な事実関係を調査、確認し、これを基にどのような判断をしていたのかは判然とせず、舞台スタッフらが退職を考えるほど原告に対する嫌悪感を抱くようになった理由についても具体的な点は明らかにされているとはいえない。また、原告に対し、その態度を改めるようにとの指導が行われているが、具体的な指摘に乏しい指導に止まるものと見受けられ、他方、舞台スタッフに対してどのような指導が行われたのかは明らかではない。
   被告は、本件回覧文書を白紙撤回してD元館長に謝罪させ、さらにはD元館長との雇用契約を終了させることとして事態の収拾を図り、他方で、原告の雇用は継続したのであるから、しばらくは事態の成り行きを見守りながら対応を検討することもあり得るところであって(退職を申し出た舞台スタッフに対してはその旨説明するなどして慰留することもできたものと考えられる。)、本件配転命令に対しては、性急に過ぎるとの感を否めず、被告が事態の収拾に焦っていたようにも窺われるのである。
 オ 被告は、報復人事の誹りを免れるという理由があるにせよ、期間満了で終了する本件労働契約を更新したのであるから、次の更新時期まではそれを尊重して然るべきものである。
   そして、上記のような検討からすれば、被告においては、未だ具体的な事実関係の把握が乏しい上、人間関係の渦中にある原告らに対して、十分な指導が行われたとは認め難く、原告に対しては、その問題ある態度を具体的に把握し、原告にこれを指摘して改善を求め(例えば、無断録音を禁ずることもその一つと考えられるし、調査や指導の経過を記録にとどめることも重要である。)、これを重ねた上で改善が認められない場合に、解雇に踏み切るべきである。
 カ 他方、原告は、B統括ないしC支店長からパワハラを受けた旨主張するが、証拠を精査するも、パワハラと評価すべきほどの事実関係は認められない。
   しかし、前判示したところを総合すれば、本件解雇は、未だ合理性ないし社会的相当性のあるものとは認められず、「やむを得ない事由がある」と認めることはできないから、本件解雇は無効というべきであり、本件配転命令についても、なお必要性に疑義があるものというべきである。

(2)結論
   以上によれば、本件解雇は無効であり、被告が本件解雇以外に本件労働契約の終了原因を主張しない以上、原告は、雇用契約上の権利を有する地位にあるものというべきである(請求認容)。


 

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