東京高裁令和元年7月19日決定(判例タイムズ1475号59頁)

名誉毀損を理由とするURL等情報の削除請求については、原則として、独立の表現行為に当たる検索結果自体の名誉毀損該当性を問題とすべきであり、URL等情報に基づき更に操作をした結果として表示される個々の具体的投稿自体の名誉毀損該当性が判断の対象となるものではないと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)抗告人(一審債権者)は、平成29年1月23日までは「A」の名称で、個人向けギフトを販売するインターネット上のショッピングモールを運営する株式会社であり、同日以降は、バレンタインチョコのみに対象を絞って、「B」の名称で営業している。抗告人は、運営するショッピングモールで商品の販売を希望する者との間で出店契約を締結し、出品者のために商品のホームページの作成、販売の代理を行う。
   相手方(一審債務者)は、インターネットのウェブサイトの情報検索サービス「Google」(以下「本件検索サービス」という。)を運営する米国法人である。

(2)本件検索サービスは、インターネット上のウェブサイトを検索し、ウェブサイトを識別するための符号であるURLを検索結果として表示するサービスで、検索する文字列を本件検索サービスの所定の入力欄に入力し、検索プログラムを実行すると、当該文字列の全部又は一部を含むウェブサイトのリンク先URL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(スニペット)(以下これらを併せて「URL等情報」と総称する。)が表示される。

(3)本件検索サービスの利用者が、抗告人の名称を入力して検索すると、当該利用者に対し、検索結果として、別紙検索結果目録(略)記載の各「収集元URL」にかかるURL等情報(以下、併せて「本件検索結果」といい、それぞれ「本件検索結果1」、「本件検索結果2」という。)が表示される。本件検索結果の表題及びスニペットには、抗告人の「詐欺行為について」、抗告人の「詐欺営業」などの表現が含まれている(なお、本件検索結果1については、スニペットの表示はない。)。

(4)本件検索結果1で表示されるURLのウェブサイト(以下「本件収集元ウェブサイト」という。)は、「詐欺被害報告and集団訴訟呼びかけ掲示板」とのタイトルで、詐欺や集団訴訟に関する情報を交換するウェブサイト内に存在する掲示板の一つであり、抗告人に関する詐欺被害の情報を投稿することを目的とするものである。抗告人との取引において詐欺の被害にあったとする者による、被害の具体的内容が多数投稿されている。
   本件検索結果2で表示されるURLのウェブサイトは、「はてなブックマーク」という名称で、投稿者が、インターネット上にあるウェブサイトにコメントを付して紹介するサービスを提供するウェブサイト内にある投稿の一つであり、「A(○○)この会社の詐欺営業にあった肩のお話を…Yahoo!知恵袋」との記載がある。なお、同ウェブサイトが参照するYahoo!知恵袋のウェブサイトは現在削除され存在しない。

(5)抗告人は、相手方に対し、本件検索結果が抗告人の社会的評価を低下させるものであり、抗告人の名誉権を侵害すると主張して、人格権に基づく妨害排除請求により、これらの情報の仮の削除を求める仮処分を申し立てた(以下「本件申立て」という。)。
   原審(東京地裁平成31年4月19日決定・判例タイムズ1475号63頁)は、被保全権利1については、被保全権利が認められず、本件検索結果2については、被保全権利の疎明があるとはいえないとして、本件申立てを却下した。
   抗告人は、これを不服として却下決定に対する即時抗告を申し立てた。


【争点】

  名誉権侵害の成否(特に、名誉毀損を理由とするURL等情報の削除請求について、個々の具体的投稿自体の名誉毀損該当性が判断の対象となるか否か)
  以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)社会的信用の低下
 ア 抗告人は、本件収集元ウェブサイトの個々の投稿内容を検討の対象とすべきであり、これらが違法であると主張する。
   しかし、抗告人が本件において仮の削除の対象とするのは本件検索結果なのであるから、本件検索結果自体について、これによる社会的信用の低下が認められるか否かを検討すべきである(抗告人は、最高裁平成29年1月31日決定を引用するが、同決定は、プライバイシーに基づく検索結果の削除の可否についての判断を示したものであって、名誉毀損が問題となる本件には適切ではない。)。
 イ 本件検索結果の表題ないしスニペットには、債権者の「詐欺行為について」あるいは債権者の「詐欺営業」という表現があり、これを閲覧した一般の閲覧者は、本件検索結果により、債権者が詐欺ないし詐欺と評価し得るような行為をしたとの印象を受ける。
   よって、本件検索結果は、債権者の社会的評価を低下させるものであるといえる。
 ウ なお念のために、本件収集元ウェブサイトの内容が抗告人の社会的信用を低下させるか否かについても検討する。
   本件検索結果の表題及びスニペットに表示されているとおり、本件収集元ウェブサイトには、抗告人が詐欺ないし詐欺と評価し得るような行為をしたとの印象を一般の閲覧者に与える内容が記載されているから、本件収集元ウェブサイトの内容を全体としてみれば、抗告人の社会的評価を低下させるものであるといえる(ただし、個々の投稿という単位で見た場合には、個々の投稿が抗告人の社会的評価を低下させるものであるとは限らない。)。

(2)違法性阻却事由の存否
 ア 本件収集元ウェブサイトは、詐欺や集団訴訟に関する情報を交換するウェブサイト内に存在する掲示板の1つで、詐欺被害に関する情報を共有することを目的とするものであり、本件検索結果は、同ウェブサイトを検索結果として表示するものであって、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的であると認められる。
   本件検索結果のタイトルないしスニペット及び本件収集元ウェブサイトで「詐欺」という表現が用いられているところ、詐欺という言葉は、具体的な事実関係を前提とした評価であるから、意見ないし論評であると解される。したがって、本件では、詐欺の前提となる事実の重要な部分が真実でないか、または詐欺という表現が意見論評としての域を逸脱しているか否かを検討すべきである(注:本決定の引用に係る原決定による検討内容については、省略する。)
 イ 本件収集元ウェブサイトに投稿された多くの投稿について、名誉毀損の成立が否定される以上、本件収集元ウェブサイトのURL等情報の削除を求める請求は、その前提を欠くとうべきである。

(3)補足
   以下、抗告理由に鑑み、補足する。
 ア 抗告人は、①抗告人が、本件収集元ウェブサイトの個別の投稿の内容についての違法性を主張したにもかかわらず、原決定は、これら個別の投稿が事実摘示型の名誉権侵害に当たるか否かを判断することなく、専ら本件検索結果の表題及び抜粋に表示された「詐欺行為」ないし「詐欺営業」という記載の適法性についての判断を行ったら、これは、処分権主義に違反している、②インターネット掲示板における投稿の違法性の判断は、投稿ごとに判断するというのが裁判所の運用であるにもかかわらず、原決定は、あたかも本件収集元ウェブサイトの掲示板の投稿内容が一つの投稿であるかのような取扱いをしているから、裁判所の一般的な運用とも整合しない旨主張する。
   しかし、①原決定は、本件検索結果の仮の削除を求める抗告人の申立てについての判断を示しているのであるから、何ら処分権主義に違背するものとはいえない。また、②抗告人は、本件収集元ウェブサイトの個々の具体的な投稿の削除を求めているわけではなく、本件検索結果(本件収集元ウェブサイトのURL等情報)の削除を求めているのであるから、個々の具体的な投稿の削除を求める場合と判断手法が異なるのも当然である。
   よって、抗告人の上記主張は失当である。
 イ 抗告人は、本件収集元ウェブサイトに反真実の疎明がある投稿が一部存在するといった前提に立った上で、違法な投稿が1つでも存在する場合には、その他の投稿が適法であるか否かにかかわらず、本件検索結果の削除が認められるべきである旨主張する。
   しかし、本件検索結果の提供は、検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたプログラムにより行われるものであって、検索事業者自身による表現行為という側面を有するものであるし、検索事業者による検索結果の提供は、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしているから、検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ、その削除を余儀なくされるということは、上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
   このような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると、名誉毀損を理由とするURL等情報の削除請求については、原則として、独立の表現行為に当たる検索結果自体の名誉毀損該当性を問題とすべきであり、URL等情報に基づき更に操作をした結果として表示される個々の具体的投稿自体の名誉毀損該当性が判断の対象となるものではないと解すべきである(個々の具体的投稿行為の名誉毀損該当性を問題としたいのであれば、当該投稿を対象とした削除請求をする途があることはいうまでもない。)。例えば、検索結果と個別の投稿が実質的に一体とみられるような特段の事情があれば、当該投稿の名誉毀損該当性が問題となることも考え得るが、本件においてこのような事情は見当たらない。したがって、本件収集元ウェブサイトの投稿のうち1つでも名誉毀損に該当するものがあった場合に、直ちにURL等情報の削除請求が認められると解することはできない。
   なお付言するに、仮に、本件検索結果の削除の可否を判断する上で、本件収集元ウェブサイトの投稿内容の名誉毀損該当性をも考慮の対象とするとしても、本件は、そもそも、前記(1)及び(2)のとおり、本件収集元ウェブサイトが詐欺被害に関する情報を共有するといった公益目的のウェブサイトであり、多くの投稿については違法性阻却事由の存在が認められるものである上、抗告人の指摘する一部の投稿(注:詐欺との評価が相当ではない、商品が売れない等の単なる苦情を内容とする投稿)についても、それらは、各投稿者が実際に体験した抗告人との間のトラブルに基づき、各人の認識している内容等を比較的穏当な表現ぶりで記載したものであって、少なくとも、名誉毀損に該当することが明らかであるとか、権利侵害の程度が高いといった評価をすることはおよそできない事案なのであるから、本件検索結果の削除請求が認められる余地はないというべきである。

(4)結論
   抗告人の本件申立は却下すべきであり、原決定は相当であって、本件抗告は理由がない(抗告棄却)。