最高裁令和2年2月28日判決(労働判例1224号5頁)

被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に求償することができると判示した事例(高裁に差戻し)


【事案の概要】

   以下のとおりであるが、上告人(二審被控訴人、一審原告・反訴被告)が本訴を提起するまでの経緯については、大阪地裁平成29年9月29日判決の【事案の概要】参照。

(1)一審は、原告の本訴請求を839万2222円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容し、被告の反訴請求を棄却したので、これを不服とする被告が控訴した。

(2)原審(大阪高裁平成30年4月27日判決・労働判例1224号12頁)は、
  ①民法715条1項は、本来の損害賠償義務を負うのは、被用者であることが前提とされていること、
  ②民法715条3項の求償権が制限される場合と同じ理由をもって、逆求償という権利が発生する根拠とまですることは困難であること、もっとも、
  ③使用者が被用者と共に民法709条の責任を負い、被用者と共同不法行為にある場合には、共同不法行為者間の求償として、これが認められることがあることを述べた上で、
   本件事故発生に関し、控訴人(一審被告)に共同不法行為者といえる過失があったとは認められず、被控訴人(一審原告)から控訴人(一審被告)に対する求償は認められないと判示して、一審判決中、本訴請求の控訴人(一審被告)敗訴部分を取り消して、これを棄却し、反訴請求についても控訴を棄却した。これを不服とする被控訴人(一審原告)が上告した。


【争点】

   被用者の使用者に対する逆求償の可否
   以下、裁判所の判断を示す。


【裁判所の判断】

   原審の判断(【事案の概要】(2)参照)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1)被用者の使用者に対する逆求償の可否について
   民法715条1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである(最高裁昭和32年4月30日判決、最高裁昭和63年7月1日判決)。このような使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき関係にあると解すべきである。
   また、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、使用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加賀以降の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができると解すべきであるところ(最高裁昭和51年7月8日判決)、上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。
   以上によれば、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に求償することができるものと解すべきである。

(2)結論
   以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。原判決中、上告人の本訴請求に関する部分は破棄を免れない。そして、上告人が被上告人に対して求償することができる額について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻す(原判決破棄・差戻し)。


【補足意見】

   以下、補足意見の要旨を示す。

(1)裁判官菅野博之、同草野耕一の補足意見
 ア 当審が原審に求めている審理事項は、本件事故よる損害に関して各当事者が負担する額である。その際に考慮すべき諸事情のうち本件においてまず重視すべきものは、上告人及び被上告人各自の属性と双方の関係性である。
   この点、使用者である被上告人が自家保険政策(注:被上告人が、自己の営む運送事業に関して、損害賠償責任保険に加入せず、賠償金を支払うことが必要となった場合には、その都度自己資金によってこれを賄ってきたことを採ってきたことは、本件における使用者と被用者の関係性を検討する上で、被用者側の負担の額を小さくする方向に働く要素であると考えられる。
 イ 事案によっては、各当事者が負担すべき額を検討するに当たって、①不法行為の加害者でもある被用者の負担金額が矯正的正義の理念に反するほどに過少なものとなったり、あるいは、②今後同種の業務に従事する者らが適正な注意を尽くして行動することを怠る誘因となるほどに過少なものとなったりすることがないように配慮する必要がある場合もある。
   しかし、上告人が本件事故に起因して様々な不利益を受けていることからすれば、本件は、上記①及び②の点に関する配慮が必要な事案ではないと考えられる。

(2)裁判官三浦守の補足意見
   貨物自動車運送事業に関し、被用者が使用者に対して求償することができる額の判断に当たり考慮すべき点について付言する。
 ア 貨物自動車運送事業法は、この事業の運営を適正かつ合理的なものとすること等を国土交通大臣による許可制とし(3条)、その許可基準の一つとして、その事業を自ら適確に、かつ、継続して遂行するに足る経済的基盤及びその他の能力を有するものであること」を定めている(6条3号)。
   そして、国土交通大臣は、その審査に当たり、貨物の運送に関し支払うことのある損害賠償の支払能力を審査することが省令で明確化されたが(令和元年国土交通省令第27号により追加された貨物自動車運送事業法施行規則3条の6第3号)、これは、貨物自動車運送事業が、その事業の性質上、貨物自動車による交通事故を含め、事業者が貨物の運送に関し損害賠償義務を負うべき事案が一定の可能性をもって発生することを前提として、事業者がその義務を十分に果たすことが事業を適確かつ継続的に遂行する上で不可欠と考えられることによる。したがって、事業者がその許可を受けるに当たっては、計画する事業用自動車の全てについて、自動車損害賠償保険等に加入することはもとより、一般自動車損害保険(任意保険)を締結するなど、十分な損害賠償能力を有することが求められる(「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可及び事業計画変更認可申請等の処理について」(平成15年2月14日付け国自貨第77号)参照)。
 イ 使用者が事業用自動車について任意保険を締結した場合、被用者は、通常その限度で損害賠償義務の負担を免れるものと考えられ、使用者が、経営上の判断等により、任意保険を締結することなく、自らの資金によって損害賠償を行うこととしながら、かえって、被用者にその負担をさせるということは、一般に、上記の許可基準や使用者責任の趣旨、損害の公平な分担という見地からみて相当でないというべきである。