大阪地裁令和2年3月26日判決(自保ジャーナル2072号135頁)

被告には、原告運転の自動二輪車が被告運転の貨物自動車を追い越すことの予見可能性も結果回避可能性もないとして、その注意義務違反を否認した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成30年5月12日午前9時45分頃
 イ 発生場所 大阪府守口市内路上
 ウ 原告車  A(平成9年8月生まれ。本件事故当時20歳。)運転の普通自動二輪車
 エ 被告車  被告会社が所有し、被告Bが運転する中型貨物自動車
 オ 事故態様 被告車は、概ね南北に延びる片側2車線の道路(以下「本件道路」という。)の第2車線を南進しており、原告車は、本件道路の第1車線を南進していたところ、原告車が横転し、Aの頭部が被告車の左後輪によって轢かれ、Aが死亡した。
   なお、原告らは、Aの両親であり、各2分の1ずつの割合で、Aを相続した。

(2)本件事故態様は、以下のとおりである。
 ア 本件事故前、被告車は第2車線を走行しており、その後方には、ダンプカー様の形状のトラック(以下「後続トラック」という。)が走行していた。第1車線上において被告車の左前方を走行していた車両(以下「C車」という。)の後方には、白色のワゴン車(普通自動車。以下「D車」という。)が走行していた。
   前後関係は、C車が先頭、C車の右後方に被告車、被告車よりも後方にD車(C車とD車との間の距離は約13.8m)、D車の右後方に後続トラックとなっていた。
 イ 原告車は、第1車線を南進してきたD車に接近し、ブレーキを踏んで減速して、後続トラックの後尾の左横あたりまで進行した。この時点における原告車の速度は、D車及び後続トラックと同程度であった。
   原告車は、そこからブレーキを解除して加速し、後続トラックの左前部とD車の右後部との間を走行して第2車線へ進路変更を行い、後続トラックの前方に出て、D車を追い越した上で第1車線に進路変更を行った。
   原告車は、第1車線への進路変更を完了した後、ブレーキを踏みつつ進行し、被告車の左横まで進行したが、被告車の左横において、右側へ倒れて転倒した。Aは、原告車が転倒した直後に頭部を被告車の左後輪によって轢過された。
 ウ 被告車は、原告車の転倒後、少なくとも10秒程度は、停止することなく第2車線を走行し続けた。


 【争点】

(1)被告Bの自動車運転上の過失の有無(争点1)
(2)被告Bの救護義務違反の有無(争点2)
(3)Aの人的損害(争点3)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、被告らは、争点(1)について、以下のとおり主張した。
   本件事故態様は、Aが、本件道路において、交通の流れに反する速度超過の状態で第2車線を走行した上、第1車線に進路変更を行って、被告車を第1車線から追い抜いて第2車線に入ろうとしたが、被告車とC車との間に十分な通行余地が存在しなかったことから、急制動の措置を講じたところ、操作不能となり、転倒滑走して、第2車線に投げ出され、第2車線走行中の被告車の左後輪に頭部を轢過されて死亡したというものである。
   かかる事故態様からすれば、被告車が、Aを轢過することを回避することは不可能であり、本件事故は、Aの一方的な過失によって発生したものである。よって、被告Bに過失はない。


【裁判所の判断】

(1)争点1(被告Bの自動車運転上の過失の有無)について
 ア 被告Bの(原告車の進行を妨げないように)減速すべき注意義務について
  a)被告Bが原告車を認識し得たかについて
   被告Bが、本件事故以前に、後方から接近し、被告車の左側を進行する原告車の存在に気付いていたとは認められない(詳細は、省略する。)。
  b)注意義務違反の有無等について
   仮に、被告Bが原告車のエンジン音により、原告車が後方から接近してきていることを認識していたとしても、被告車は、片側2車線の第2車線を走行していたのであるから、原告車が第1車線を走行して被告車を追い越すであろうことを予測することは困難である。
   次に、原告車が第1車線へと車線変更を開始し始めた時点で、被告Bがかかる原告車の動きを視認していたのであれば、原告車が第1車線を走行して被告車を追い越そうとしていることを予測できた可能性はある。しかし、後続トラックの後続車両設置のドライブレコーダーの映像によれば、原告車が被告車の後方の第2車線上の走行を開始してから第1車線に進路変更を行うまでの時間は長くとも1ないし2秒程度であるから、そもそも、被告Bが、この間に被告車の後方を走行している原告車の動向に気付いた可能性は低いと考えられる上、仮に、これに気付いたとしても、原告車が第2車線から第1車線へと車線変更を開始してから、被告車の左横を走行するに至るまでの1ないし2秒程度の間に、原告車が第1車線から被告車を追い越すであろうことを予測して、これに対する対処を行うことはやはり困難であると考えられる。
   そうすると、被告Bが、原告車が第1車線を進行して被告車を追い越すことを予測することは困難であったといえるから、被告Bには予測可能性がなく、減速するなどして原告車の進行を妨げないようにする注意義務はない。また、仮に、これを予測できたとしても、予測が可能になってから結果が発生するまでの経過時間の短さに照らせば、その間に対処を行うことは困難であったといえるから、仮に、予測可能性があったとしても結果回避可能性がないといえ、いずれにしても注意義務違反はない。
 イ 被告Bの制限速度を遵守すべき注意義務について
  a)走行速度について
   本件事故現場の制限速度は明らかではないが、時速50㎞ないし60㎞のようである。
   本件事故当時の関係車両の速度は明らかではないが、相対速度としては、D車とC車はほぼ同じ速度で走行している。被告車は、第3車線から第2車線に進路変更を完了した時点ではD車と同程度の速度であるが、その後、やや加速し、D車及びC車よりも早い速度で走行している。
   原告車及び被告車の速度について、原告及び被告は、ドライブレコーダーの映像や航空写真等を元に計算を行い、それぞれ主張するものの、これらの計算には誤差が入り込むことが否定できず、かかる計算のみから原告車及び被告車の速度を断定することは困難である。
  b)(制限速度を遵守すべき)注意義務違反の有無等について
   上記のとおり、被告車の速度がC車及びD車よりも速かったことは否定できず、証拠上、被告車が制限速度を超過していた可能性は否定できないとしても、その速度が認定できない以上、被告Bが制限速度を超過していたと認めることは困難である。したがって、被告Bが、制限速度を遵守すべき注意義務に違反したとは認められない。
  c)なお、原告車が転倒した原因は、被告車とC車との間の間隔が狭かったことにあるかもしれないが、そもそも、そのような狭い部分を通り抜けようとする走行方法自体に問題があることは指摘せざるを得ず、A自身に過失があったことは否定できないし、車間距離とは無関係なAのハンドル操作の誤りによる転倒である可能性もないとはいえず、Aが死亡してしまった今や転倒の原因は不明であるといわざるを得ないから、被告車が本件事故当時よりは低速で走行しており、被告車とC車との間の間隔が本件事故当時よりは広く開いていたとしても、それによって原告車の転倒が回避できたともいえない。
   よって、仮に、被告Bに制限速度遵守義務違反があったとしても、その注意義務違反と本件事故との間に相当因果関係はない。
 ウ 小括
   以上のとおりであるから、被告Bには、原告らが主張する注意義務違反が認められないから、過失がない。したがって、被告Bは、本件事故について、不法行為責任を負わない。
 エ なお、被告Bは、被告車の運行に関して注意を怠らなかったこと、本件事故については被害者であるAに過失があったことが否定できないことは上記のとおりであり、本件事故が被告車の自動車の構造上の欠陥または機能の障害によるものではないことはいうまでもないから、被告会社は自賠法3条ただし書により免責される。

(2)争点2(被告Bの救護義務違反の有無)について
 ア 被告Bが、本件事故以前に、後方から接近している原告車の存在に気付き得なかったことは、先に説示したとおりである。
   本件事故は、被告車の左後輪がAの頭部を轢過したものであるところ、被告車は中型貨物自動車であって長さが8.63m、車両重量が5、080㎏であることからすれば、人間の頭部を轢過したことによる被告車への衝撃はわずかなものであったと考えられ、運転席にいる被告Bが感じ取った本件事故による衝撃も大きくはなかったであろうことは想像するに難くない。
   加えて、本件事故後、C車が本件道路の第1車線上の左側に停止し、Aは本件道路の第1車線の中央付近に倒れていたこと、被告車は速度を緩めることなく第2車線を走行し続けていたこと等からすれば、被告Bが、何らかの物体を踏んだと考えて左サイドミラーにより後方を確認したとしても、被告Bからは原告車及びAの存在が視認できなかったと考えても不合理ではない。また、バックモニターの視界は、後方は被告車の後部から後方約10m程度であることや、Aの転倒場所等を踏まえれば、バックモニターによってもAの存在は確認できない。
 イ 以上のとおりであるから、原告らの主張を考慮しても、被告Bが、本件事故後、轢過したものが人間であることを認識していたと認めることは困難である。したがって、被告Bに、道路交通法72条1項前段の救護義務違反及び同条後段の報告義務違反は、いずれも認められない
   そうすると、本件訴訟や本件訴訟に至るまでにおける被告Bの言動等が虚偽であったと断定することはできず、この点について、被告Bの原告らに対する不法行為は認められない。よって、被告Bが原告らに対して慰謝料を支払うべき義務を負うとはいえない。

(3)結論
   以上のとおりであるから、その余については判断するまでもなく、本件請求はいずれも理由がない(請求棄却)。