仙台地裁会津若松支部令和元年10月1日判決(自保ジャーナル2075号66頁)

事故態様に関する原告の主張の変遷は非常に不自然であり、その最終的に主張・供述する内容も原告が被告車両との接触を避けようとした行動として不合理なものであるとして、請求を棄却した事例(控訴審判決確定)


【事案の概要】

(1)原告は、以下の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生したと主張する。
 ア 発生日時 平成26年6月18日午後5時40分頃
 イ 発生場所 福島県会津若松市(地番略)付近交差点
   南北に走る片側2車線及び右折専用車線からなる国道a号線(以下「本件道路」という。)と、東西に走る片側1車線の道路が交差する信号機による交通整理の行われている交差点(以下「本件現場」という。)
 ウ 原告車両 原告(当時52歳)運転の自転車(以下「原告自転車」という。)
 エ 被告車両 被告(当時58歳)が運転する自家用普通乗用自動車
 オ 事故態様 本件現場において、原告自転車が本件道路を北に向かって直進中、対向車線から右折しようとした被告車両と接触しそうになり転倒した非接触事故。

(2)原告は左手関節の機能障害について、自動車損害賠償責任保障法(以下「自賠法」という。)施行令別表第二第12級6号に該当するとの認定を受けた。

(3)原告は、平成10年から平成30年8月23日まで交通事故による負傷歴が別紙交通事故一覧表(略)のとおり本件を含めて8件ある。


 【争点】

(1)本件事故態様及び被告の過失の有無(争点1)
(2)本件事故と原告の受傷との因果関係(争点2)
(3)損害(争点3)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)認定事実(事故に至る経緯等)
 ア 被告は、本県道路を南に向かって進行し、本件現場の対面信号が赤色であったため、前方の車2、3台に引き続き右折専用車線で停止した。その後、対面信号が青色に変わり、被告車両は、前車に続いて右折専用車線を少しずつ進行し、前車が右折するのに続いてその5、6m後ろで右折を開始し(別紙交通事故現場見取図(略)(以下「別紙図面」という。)②地点)、進行したところ、右折完了直前(別紙図面④地点)で、原告自転車を左前方約4.8mの地点(別紙図面【ウ】地点)(注:後記原告自転車の平均時速算定に用いられる。)に発見して危険を感じたためブレーキをかけ、そこから約4.6m進行した地点(別紙図面⑤地点)で、原告が転倒するのとほぼ同時に原告自転車と約40cmの距離を残して接触することなく、被告車両を停止させた。
 イ 別紙図面④地点での被告車両の速度(V)は、以下のとおり、時速14km(秒速3.88…m)から時速16km(秒速4.44…m)ほどであった(注:下記の式①②は判決文に記載無)。 別紙図面④地点から別紙図面⑤地点の距離(被告がブレーキをかけて停止するまでの停止距離)(S)が約4.6mであるから、反応時間(空走時間)(T0)を0.7秒間から0.9秒間として、摩擦係数を乾燥路面でタイヤの摩耗度(μ)が普通の場合の0.7として、これらを下記の式①に代入して計算する(ただし、g=9.8)。
   V=√2μg(S―V*T0)…①
   停止時間(T)は、下記の式②により、1.4秒間前後である。
   T=T0+V/μg…②

(2)争点1(本件事故態様及び被告の過失の有無)について
 アa)本件事故に至る経緯について、原告は、「自転車で普通の速度で走行しており、対面信号は青色であったので、交差点をそのまま直進するつもりで、本件現場に進入しようとした。原告は、右折する車(被告の前車)があったが、その車が特にスピードを落とすこともなく時速30kmぐらいで右折したのを見て、その後ろを通って直進した。すると、被告車両が負っているのに気づいた。被告車両と被告の前車との車間距離は5、6mであった。原告が被告車両に気付いたのは別紙図面【イ】地点であり、そのときの被告車両は別紙図面③又は④地点にあった。」と主張し、これに沿う供述をする。
  b)以下、被告の前車も含めた当事者の位置関係について検討する。本件事故の実況見分での原告の指示説明及び原告の上記主張を前提とすると(なお、被告の前車の右折を見送った時の原告の位置について原告はその本人尋問で、分からないと供述した。)、原告の対向車線から本件現場の交差点を右折する自動車が原告の進路前方を通過するのは、別紙図面④地点付近であるから、それを5mちょっと先に見たという原告のその時の位置は、交差点の形状からも別紙図面【イ】地点が南限と考えられる。
   そして、原告が別紙図面【イ】地点で被告車両を別紙図面③地点に発見した時の両者の距離が10.7mであるから、被告の前車はちょうどその中間あたり(原告の5mちょっと先)を右折していったこととなる。
   この点、被告の前車と被告車両との車間距離は5、6mであったという被告の供述とも整合する。
   したがって、上記原告の主張及び供述から、原告が別紙図面【イ】地点にいたときに、直進方向を見ていた原告は、約5m先を被告の前車が右折していくのと同時に、その5、6m後方(別紙図面【イ】地点から10.7mの別紙図面③地点)に被告車両を見ていたと認められる。
  c)そうすると、原告は、被告の前車が右折していくのを見送った時に、被告車両に気付いていなかったと供述するが、上記のとおり被告の前車に関する原告自身の供述により認められる事実と矛盾し、信用できない。
   さらに、別紙図面【イ】地点で、被告車両に気が付いて衝突を避けるためハンドルを左に切ったと供述する一方で、原告は、被告の前車の後ろを直進しようとしたと供述しているが、これらの原告の供述の矛盾も明らかである。
 イa)次に、原告は、別紙図面【イ】地点で、被告車両を見付けてブレーキをかけると同時に思い切り左にハンドルを切ったと主張し、尋問では、左にハンドルを切ると同時に又は直後にブレーキをかけた、ブレーキをかけて自転車が左に流されていった旨供述する。
  b)しかし、原告が主張する普通の速度で走行している自転車であれば、ブレーキをかけて停止するまで10.4m(別紙図面【イ】地点から別紙図面【エ】地点までの距離)も要するはずもない上、ブレーキをかけたにもかかわらず自転車が停止せずに左に流されていった旨の供述は明らかに不自然で不合理である。見分状況書の原告の指示説明の「ブレーキをかけた地点」は空欄で原告が指示説明した事実が認められないこと、原告本人尋問以前に陳述された証拠(略)にも原告の陳述書にもブレーキに言及するところは全くなかったことに照らしても、原告の本人尋問におけるブレーキをかけたとの供述は信用できず、その主張は採用できない。
  c)なお、証拠(略)によれば、被告が別紙図面④地点から別紙図面⑤地点までの4.6mを進行した1.4秒間に、原告は別紙図面【ウ】地点から別紙図面【エ】地点の6.2mを平均時速15.9m(秒速4.428…m)程度で走行したことが認められる。
 ウa)さらに、原告は、転倒の態様について、尋問前の証拠では、「左足をつき、自転車はそのまま左方向へ勢い余って流れて行ったので、原告は体のバランスを崩して右半身を下にして、自転車に覆いかぶさるようにして転倒した」と主張していた。
  b)しかし、原告は、原告本人尋問当日に提出した原告の陳述書では「自転車はそのまま左方向に流されて行きました。自動車が目前50cmに迫り、『ぶつかる』と思い、思い切り右手で強くハンドルを押しました。その勢いで私は自転車から投げ出されるように地面に着いていた左足を軸に右半身を下にして転倒し道路に転げ廻りました」と述べ、本人尋問では、右手でハンドルを押した反動で投げ出されるように転倒し、その際には、顔は進行方向ではなく被告車両の方に向いていて、左足を軸に、右半身を下にして仰向けに倒れて転んでコロコロ転がったと、従前の主張と全く整合しない供述をした。
  c)その後、原告は、供述に合わせて「左足を地面に着いて、被告車両との接触を避けるために身体を被告車両から遠ざけようとしたところ、右足を後ろ側に回転してしまい(いわゆる後ろ回し蹴りのような右足の動きであっ。)、右背部から地面に転倒した」と主張するに至ったものである。
   しかし、このような原告の主張の変遷は非常に不自然であるというだけでなく、その最終的に主張・供述する内容も、原告が被告車両との接触を避けようとした行動とはおよそ理解できない不合理なものである。
 エ 以上のような原告の供述に係る矛盾や疑問点に照らせば、本件事故態様について、原告主張のとおりの事実は認めることができない。
   むしろ、原告が故意に本件事故の発生を意図して別紙図面【イ】地点から被告の前車が右折するのを追うようにして左にハンドルを切って走行し、被告の前車と被告車両との間、わずか5、6mしか車間距離がないところに速度を落とすことなく飛び出したことが認められる。本件事故において被告車両は原告自転車に接触することなく停止できたことを考慮すれば、本件事故の発生について被告に過失があったと認めることができない。
   そして、原告は、本件事故の前にも6件の交通事故を経験しているだけでなく、そのうちの直近3件の事故は原告が自転車を直進走行中に右左折する自動車との間の事故であるという点で本件事故と共通しており、さらにうち直近2件の事故が非接触事故であるという点で本件事故と態様が酷似しており、これらの事故を全てが偶然に発生したというには不自然な点が多すぎると言わざるをえない。
   したがって、被告は、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任を負うものではない。

(3)結論
   以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求には理由がない(請求棄却)。


【控訴審の判断】

   本判決を不服として被告が控訴したところ、控訴審(仙台高裁令和2年3月26日判決・自保ジャーナル2075号63頁)は、以下のとおり判示して、上記の控訴を棄却した。
   「当裁判所は、当審における控訴人の主張を検討してみても、原審同様、自転車を運転していた控訴人が本件現場の交差点において転倒したことについて、交差点を右折しようとしていた被控訴人の自動車運転行為に過失があったということはできないものと判断する。被控訴人の過失がないから、自転車の転倒により傷害を受けたと主張して損害賠償を求める控訴人の請求には理由がない。
   その理由は、原判決『事実及び理由』第三の説示のとおりである。
   控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。」