東京高裁令和2年6月29日決定(判例タイムズ1477号44頁)

既にグーグルなどの検索サイトでは検索結果として表示されなくなっていることなどから、ツイッターに投稿された記事の削除請求を認めなかった事例(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)被控訴人(第1審原告)は、平成○年○月○日に建造物(女性脱衣場)侵入の被疑事実で逮捕(以下「本家逮捕」)された者である。
控訴人(第1審被告)は、インターネット上のウェブサイト(ツイッター)を管理運営する法人である。

(2)第1審原告の実名入りで本件逮捕に関する記事が複数投稿され、公衆に閲覧可能になっている。そのため、第1審原告は、本件逮捕というプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が侵害されていると主張し、第1審被告に対し、人格権及び人格的利益に基づく妨害排除請求として、原判決別紙投稿記事目録(略。以下、「本件投稿記事目録」という。)記載1から19までの各投稿記事(以下「本件各投稿記事」という。)の削除を求めた。

(3)原判決は、第1審原告の請求を全部認容した。そのため、これを不服とする第1審被告が控訴した。

(4)なお、本件投稿記事目録1から4まで及び17の各投稿記事は、平成30年頃までは閲覧できたが、現在、閲覧用URLを入力しても「このページは存在しません」「このツイートは削除されました」などと表示され、閲覧できない状態にある。そのため、第1審原告は、控訴審において、上記の各投稿記事が閲覧不能になっていることを理由に、これらに係る部分の訴えを取り下げた。他方、本件各投稿記事のうち上記の訴え取下げがあった部分を除いたものは、現在、ツイッターにおいて、第1審原告の氏名を入力して検索した場合、検索結果として表示され、閲覧することが可能な状態にある。
   また、インターネット上の検索サイトであるグーグルにおいて、第1審原稿の氏名を入力して検索した場合、平成30年頃までは、少なくとも本件投稿記事目録1の投稿記事に関する情報が検索結果として表示されていたが、第1審原告からのグーグルの運営事業者に対する検索結果の削除要請を受けて、現在、本件各投稿記事に関する情報が検索結果として表示されることはなくなった。


【争点】

   第1審原告による本件各投稿記事(ただし、訴えの取下げがあった部分を除く。以下同じ)の削除請求の可否
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)当裁判所は、第1審原告の請求は全部棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおりである。
 ア 判断基準
  a)個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となり、本件逮捕の事実も、第1審原告のプライバシーに属する事実であって、みだりに公表されないという法的保護を検討すべきである。
  b)第1審被告は、インターネット上のウェブサイトであるツイッターを管理運営し、一般のユーザーからの短文の投稿記事を受け付け、この短文の投稿記事を広く一般のユーザーに閲覧させるサービスを提供している。
全盛会におけるツイッターへの月間アクセス数は約39億回(平成29年6月当時)であって、全世界で6番目にアクセス数が多いウェブサイトである。一般の私人のほか、米国の現職大統領をはじめとして、各界の著名人、官公庁、民間企業も、ツイッターを利用して情報発信を行い、これを受信する者も非常に多数にのぼる。
   ツイッターには検索機能が付加されており、利用者が検索ワードを入力すると、投稿記事中からこれに対応するものが検索結果として表示される。この検索機能は、公衆がツイッター上の膨大な量の投稿記事の中から必要なものを入手することを支援し、ひいては投稿者による投稿行為の情報発信力も高めるものである。そうすると、ツイッターは、その検索機能と併せて、現代社会においてインターネット上の情報流津の基盤として大きな役割を果たしているということができる。ツイッターに投稿された記事の削除を命じることは、ツイッター上の記事の投稿及び閲覧並びに付属の検索機能を通じて果たされている、インターネット上の情報流通の基盤としての役割に対する制約になる。
   そうすると、プライバシーに属する事実を含む投稿記事を、ツイッター上に表示し、一般の閲覧に供する行為が違法か否かは、当該事実の性質及び内容、当該事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、当該投稿記事の目的や意義、当該投稿記事が掲載された時の社会的状況とその後の変化、当該投稿記事において当該記事を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と各投稿記事を一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきものである。
   そして、第1審被告に対して、ツイッター上の投稿記事の削除を求めることができるのは、比較衡量の結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られると解するのが相当である。
 イ 検討
   本件逮捕の事実を公表されない法的利益と各投稿記事の公表が続けられる理由に関する諸事情を比較衡量する。
  a)本件逮捕(平成○年○月○日)に係る被疑事実は、本件逮捕の前日に、女性の裸をのぞき見る目的で旅館の女湯脱衣場に侵入したというものである。建造物侵入罪の法定刑は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金というものであり、決して軽微な犯罪ではない。
   また、本件逮捕は、各種報道機関からインターネット上で実名報道されており、社会的に相応に高い関心を集めた事件であった。本件逮捕の被疑事実を罪となるべき事実とし、第1審原告を10万円に処する裁判が平成○年○月○日に確定し、同月○日に罰金が納付されており、被疑事実が存在したことが裁判により有権的に確定されている(なお、この裁判があったことは、報道その他により広く一般に知られる情報とはなっていない。)。
本件各投稿記事は、第1審原告が社会的に非難されるべき行為をした事実を摘示するものとして、公共の利害に関する事実に係り、公益を図る目的にあたるものに出たといえる。
  b)第1審原告は、重要な社会的地位や影響力を有するものではなく、現在は○○が経営する○○事務所の手伝いや○○店アルバイトに従事するにとどまっているが、本件逮捕後に地方公務員採用試験を受験して公務員になろうと試みたことはある。
  c)現時点(本件口頭弁論終結時)においては、広く利用されている検索事業者であるグーグルの機能を用いて検索しても、本件各投稿記事に関する情報が検索結果として表示されることはない。本件各投稿記事が引用するインターネット上の報道記事も、すでに削除されている。
   第1審原告が本件逮捕を理由に就職や交友関係などで不利益を受けたと考えている出来事は、いずれも平成○年以前(刑の消滅前)の出来事であって、グーグルなど一般的な検索事業者の提供する検索機能により本件逮捕の事実が知られたことが原因と推定される。そして、ツイッターの検索機能の利用頻度は、グーグルなど一般的な検索事業者の提供する検索機能ほどには高くないことは、公知の事実である。
   そうすると、本件逮捕の事実が伝達される範囲はある程度限られ、かつ、本件各投稿記事によって第1審原告が具体的被害を被る可能性も低下しているということができる。なお、第1審原告は、平成○年○月に婚姻したが、配偶者やその家族には本件逮捕や罰金刑確定の事実は伝えていない。
  d)以上の事実を総合すると、罰金の納付(平成○年○月○日)から5年が経過して刑の消滅の効果(刑法34条の2)が発生し、その後更に3年近くが経過したこと及び第1審原告が本件各投稿記事が一般の閲覧に供されることにより各種の社会的な不利益を受ける可能性が消滅したわけではないことを考慮しても、被疑事実の内容本件各投稿記事が公共の利害に係り公益目的で投稿されたこと既にグーグルなどの一般的な検索サイトでは本件逮捕の事実が検索結果として表示されることはなく、具体的な不利益を受ける可能性が低下していることなどに鑑みれば、本件において、本件各投稿記事を一般の閲覧に供する諸事情よりも本件逮捕の事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
   よって、第1審原告による本件各投稿記事の削除請求は理由がない。

(2)結論
   以上によれば、第1審原告の請求を認容した原判決の結論は失当であり、本件控訴は理由がある(原判決取消、請求棄却)。