札幌地裁令和元年12月25日判決(自保ジャーナル2065号75頁)

原告と被告車が原告が主張する態様で2回接触したとの事実は、同事実が実況見分調書に記載されていないことなどから認められない旨判示した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

   原告の主張(請求原因)によると、事案の概要は、以下のとおりである。

(1)交通事故(以下「本件第1事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成29年3月31日午前5時55分頃
 イ 発生場所 札幌市内の交差点(以下「本件交差点」という。)付近のa通(以下「本件道路」という。)路上
 ウ 原告車  原告が運転し、B株式会社が所有するレンタカーである普通乗用自動車
 エ 被告車  被告が運転する準中型貨物自動車
 オ 事故態様 以下のとおりである。 本県道路をb方面に向かって走行していた原告車は、本件交差点を左折しようと考えていたところ、対面信号機(以下「本件信号機」という。)が赤色灯火であったため、これに従って、本件交差点付近の本件道路の第1車線に停止していた。原告は、本件信号機が青色灯火に変わったため、原告車を発進させようとしたが、原告車に先行して本件第1車線上に停止していた被告車が発進しなかったため、クラクションを鳴らし、パッシングをしたものの、依然として被告車は発進しなかった。そこで、原告車は、やむなく本件第1車線から本件道路の第2車線(以下「本件第2車線」という。)に進路変更し、本件2車線から本件交差点に進入し、左折を開始した後、被告車の前方に差し掛かろうとした地点において、被告車が急発進した。
   原告は、急発進した被告車との衝突を回避するため、原告車のハンドルを切り、アクセルを踏むなどの措置を取ったものの、本件交差点付近の路面が、凍結した状態(アイスバーン状態)であったため、原告車は滑り、本件交差点付近の縁石に乗り上げ、原告車右前部が損傷した。

(2)本件第1事故の発生後、以下の各接触事故が発生した(以下、これらの各接触事故を併せて、「本件第2事故」という。)。
 ア 発生日時 平成29年3月31日午前5時55分頃
 イ 発生場所 札幌市内のa通路上(本件交差点をb方面に直進した本件道路上。以下「本件第2事故現場」という。)
 ウ 原告   (原告車から降車した)原告
 エ 被告車  被告が運転する準中型貨物自動車
 オ 事故態様 以下のとおりである。
   原告は、本件第1事故による原告車の損傷について話し合うため、本件第2事故現場付近に被告車を停止させ、被告車の運転席側窓枠に右手及び左肘を差し入れたところ、被告が被告車を発進させたため、原告は、同窓枠に右手及び左肘をぶつけた(以下「本件第1接触」という。)。
   原告は、本件第1接触後も、左肘及び右手首を被告車の運転席側窓枠に差し入れた状態で、更に被告に苦情を述べたところ、被告は被告車の前進を継続し、原告は、再び同窓枠に左肘及び右手首をぶつけた(以下「本件第2接触」という。)。

(3)原告は、以下の損害を被った。
 ア 本件第1事故により、原告車が損傷し、合計22,000円の損害を被った
 イ 本件第2事故により、右手及び左肘につき、捻挫、打撲等の傷害を負い、その治療に関連して合計358,809円の損害を被った。
 ウ 合計380,809円


【争点】

(1)本件第1事故について被告の不法行為の成否(争点1)
(2)本件第1事故における原告の損害及びその額(争点2)
(3)本件第2事故について被告車の運行によって原告が受傷したか否か(争点3)
(4)本件第2事故における原告の損害及びその額(争点4)
(5)本件第2事故において被告は被告車の運行に関し注意を怠らなかったか否か(争点5)
   以下、主に争点3についての裁判所の判断の概要を示す。
   なお、裁判所は、争点1について本件第1事故に係る被告の不法行為は成立しないから、争点2について判断するまでもなく、本件第1事故に関する原告の請求は理由がないと判示した。


【裁判所の判断】

(1)認定事実
 ア 本件第1事故について
   被告は、平成29年3月31日、本件道路上をb方面に向けて被告車を走行させていたところ、同日午前5時55分頃(本件第1事故の発生前)、本件信号機が赤色灯火であったことに従い、本件第1車線上の、本件交差点手前の先頭車両の位置で停止し、助手席に置いてあった業務資料に目を通していた。同時点において、原告がレンタカー会社から借りて運転していた原告車は、被告車の直後に停止しており、原告は、本件信号機が青色灯火に変わったら、本件交差点を左折しようと考えていた。
   原告車は、本件信号機が青色灯火に変わったにもかかわらず、被告車が発進しなかったことから、本件第2車線に進路を変更し、被告車の右側から回り込むようにして本件交差点の左折を開始したが、本件交差点内及びその付近の路面がアイスバーン状態であったことから、原告車は滑り、本件交差点b方面角付近の車道と歩道を隔てる縁石に衝突し、原告車は右前部等を損傷した。
 イ 本件第2事故について
   原告は、本件第1事故発生直後、本件道路を直進する被告車を追走して被告車を追い越し、原告車を被告車の前に停止させ、原告車から降車し、被告に対し、本件第1事故についての話し合いのために声を掛けた。その際、被告は、被告車の窓を全開にし、また、原告と被告車は約30~40cm離れていた。
   被告は、被告車を発進させ、約90cm右斜め前方に進行させた。その際、原告の身体と被告車は接触していた(なお、接触の有無及びこの接触が(原告が主張する態様の)本件第1接触として認められるか否かについては、後記オにおいて説明する。)。
   その後、原告は後退し、被告は、1度被告車を停止させた。その後も、原告は、被告に対し、人身事故であるなどと述べて被告に声を掛け続けたが、被告は、これに取り合うことなく、被告車を発進させ、本件第2事故現場から立ち去った(なお、本件第2接触が存在したか否かについては、後記カにおいて説明する。)。
 ウ 実況見分の実施
   原告及び被告は、平成29年4月6日に実施された実況見分(以下「本件実況見分」という。)において、警察官に対し、本件第1接触に係る原告及び被告車の位置関係ついては、上記ア、イのとおり指示説明をした一方、本件第2接触に係る説明はしなかった。
 エ 原告の主訴の内容
   原告は、平成29年4月1日、D整形外科(以下「本件整形外科」という。)を受診し、受傷経緯に関し、青色灯火になっても発進しないトラックを追い掛け、停止させて文句を言ったら、発車されて接触したなどと説明した。その際の原告の主訴は、(平成29年3月3日午前7時25分頃に遭った交通事故によって生じた本件整形外科に通院してリハビリ中の)腰痛が増強したこと、右手首痛があること、右掌が腫れぼったいこと、左掌に痺れがあり、ビリビリすることであった。
   このような原告の主訴を受けて、本件整形外科の医師は、同日、原告について、2週間の通院科加療を要する腰椎捻挫及び両手捻挫と診断した。
 オ 本件第1接触についての補足説明
  a)原告の身体と被告車の接触の有無
   被告は、原告の身体と被告車が接触したことはなかった旨供述する。
   しかし、本件第2事故の6日後に実施された本件実況見分においては、原告の身体と被告車が接触した旨説明し、その接触場所についても具体的に指示説明していることからすると、被告の上記供述は採用できない。
   よって、被告が被告車を1度目に発進させた際、原告の身体と被告車が接触していた事実はあったと認められる。
  b)原告が被告車の運転席側窓枠に右手及び左肘を差し入れていたか否か
   原告は、被告が本件第1事故についての話合いに応じようとせず、被告車を発進させようとしたことから、被告車の運転席側窓枠に右手及び左肘を差し入れて、その発疹を抑止しようとしたところ、被告が被告車は発進させたため、原告は、同窓枠に右手及び左肘をぶつけた旨主張するとともに、本件訴訟提起後に本件第1接触に関する再現をした際にも、被告車の運転席付近に身体を接着させるような態様で同窓枠に右手及び左肘を差し入れている動作をしている。
   しかしながら、原告は、本件第2事故の翌日に本件整形外科を受診しているところ、その際に、少なくとも左肘のしびれや痛みについては、全く訴えていない(上記エ)。この点に関し、原告は、本件第2事故の直後には気にするような痛みはなかったので、そのまま仕事に向かったが、3、4時間後くらいから左肘にしびれと若干の痛みが発生し、寝ても治らなかったので受診した旨供述しており、本件整形外科受診時の主訴と矛盾している。
   また、本件第2事故の6日後に実施された本件実況見分の際、原告は、本件第1接触に関し、被告車が進んだ距離は約90cmと説明したにもかかわらず(前記イ、ウ)、原告本人尋問においては、2、3mくらいであったと述べている。
   さらには、本件第1接触の状況についても、原告の陳述書においては、単に「左肘や右手を相手車両窓枠にぶつけました。」とのみ述べられている上、原告による本件第1接触の再現時にも上記供述に沿う状況が説明されているだけであるにもかかわらず、原告本人尋問においては、右手については被告車の運転席側窓枠に打ち付けるような形で複数回ぶつけた旨供述するなど、原告の本件第1接触についての供述は、状況が拡大する方向で変遷しているのであって、本件訴訟開始後における原告の一連の供述は、これを裏付ける客観的証拠なしには直ちに採用し難いというほかない。
   一方、本件実況見分における原告の指示説明は、本件第2事故から近接した時点において行われている上、原告と被告車の位置関係について、原告及び被告の指示説明が一致していることからすれば、信用性が高いとうべきである。
   これらによれば、原告の身体と被告車が接触した事実自体は存在したとは認められるものの、それが、原告が主張する本件第1接触の態様であった、すなわち、原告が被告車の運転席側窓枠に右手及び右肘を差し入れていたところ、被告車が発進したため、同窓枠に右手及び右肘をぶつけたと認めるに足りる的確な証拠は存在しないのであって、同事実を認めることはできない。
 カ 本件第2接触についての補足説明
   原告は、本件第1接触後、被告が被告車を停止させたことから、逃走を阻止するため、再度、被告車の運転席側窓枠に左肘及び右手首を差し入れていたところ、被告が被告車を発進させて走り去ったことから、原告は、同窓枠に左肘及び右手首をぶつけた旨主張するとともに、本件訴訟提起後に本件第2接触に関する再現をした際にも、被告車の運転席付近に身体を接触させるような態様で同窓枠に左肘及び右手(首)を差し入れていた動作をする。
   しかしながら、原告は、本件実況見分においては、本件第2接触があったという説明は全くしていないところ(前記ウ)、仮に、本件第1接触のみならず、本件第2接触があったというのであれば、本件実況見分の際に、原告がその旨の説明をしないことはおよそ考え難いし、説明したのであれば、その旨が実況見分調書に記載されないはずがない。そして、本件第2接触があったにもかかわらず、本件実況見分に際して、原告がその旨の説明をしなかった合理的理由も見当たらないし、他に本件第2接触があったと認めるに足りる的確な証拠もないのであって、そうすると、同事実を認めることはできない。

(2)本件第2事故について被告車の運行によって原告が受傷したか否か(争点3)  
   上記(1)において説示したとおり、本件第1接触及び本件第2接触が生じたと認めることはできず、これらによって原告が受傷したとも認められないから、争点4及び同5について判断するまでもなく、本件第2事故に関する原告の請求は理由がない。

(3)結論
   原告の請求はいずれも理由がない(請求棄却)。