【労働】最高裁令和2年10月13日判決(労働判例1229号90頁)

退職金の複合的性質やその支給目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることが不合理であるとまで評価することができない旨判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)上告人兼被上告人(二審被控訴人兼控訴人、第1審被告。以下「被告」という。は、東京地下鉄株式会社(以下「東京メトロ」という。)の完全子会社であって、東京メトロの駅構内における新聞、飲食料品、雑貨類等の物品販売等の事業を行う株式会社である。なお、被告は、平成12年10月、営団地下鉄グループの関連会社等の再編成に伴い、売店事業を行っていた財団法人地下鉄互助会(以下「互助会」という。)から売店等の物販事業に関する営業を譲り受けるなどした。
   被上告人兼上告人(二審控訴人兼被控訴人、第1審被告。第1審原告C(以下「原告C」という。)は平成16年4月、同B(以下「原告B」という。)は同年8月、それぞれ後記(2)の契約社員Bとして被告に採用され、契約期間を1年以内とする期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)の更新を繰り返しながら、被告の直営する東京メトロの駅構内の売店における販売業務(以下「販売業務」という。)に従事していた。

(2)被告においては、従業員は社員(以下「正社員」という。)、契約社員A(注:平成28年4月に職種限定社員に変更)及び契約社員Bという名称の雇用形態の区分が設けられ、それぞれ適用される就業規則が異なっていた。
   正社員は、期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結した労働者であり、定年は65であった。平成25年度から同28年度までにおける被告の正社員(同年度については職種限定社員を含む。)は560〜613名であり、うち売店業務に従事していた者は15〜24名であった。
   契約社員Aは、主に契約期間を1年とする有期労働契約を締結した労働者であり、同期間満了後は原則として契約が更新され、就業規則上、定年更新の上限年齢をいう。以下同じ。)65と定められていた。
   契約社員Bは、契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した労働者であり、同期間満了後は原則として契約が更新され、就業規則上、定年は65と定められていた。

(3)被告においては、雇用形態の区分ごとに、賞与及び退職金の支給に関して定められていた。
   正社員には、年2回の賞与及び退職金が支給されていた。賞与は、平成25年度から同29年度までの各回の平均支給実績として、本給の2か月分に17万6000円を加算した額が支給された。退職金は、被告の作成した退職金規程により、計算基礎額である本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものと定められていた。
   契約社員Aには、年2回の賞与(年額59万4000円)が支給されていたが、退職金は支給しないと定められていた。なお、契約社員Aについては、平成28年4月に職種限定社員に名称が改められ、その契約が無期労働契約に変更された際に、退職金制度が設けられた。
   契約社員Bには、年2回の賞与(各12万円)が支給されていたが、退職金は支給しないと定められていた。

(4)原告Cについては平成26年3月31日、原告Bについては同27年3月31日、いずれも65歳に達したことにより上記契約が終了した。
   原告らは、訴えを提起して、被告と無期労働契約を締結している労働者のうち売店業務に従事している者と原告らとの間で、退職金等に相違があったことは労働契約法20(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったなどと主張して、被告に対し、不法行為等に基づき、上記相違に係る退職金に相当する額等の損害賠償等を求めた。

(5)原審(東京高裁平成31年2月20日判決・労働判例1198号5頁)①被告においては、契約社員Bは原則として契約が更新され、定年が65歳と定められており、実際に原告らは定年により契約が終了するまで10年前後の長期間にわたって勤務したこと、②契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員として無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことを考慮すれば、少なくとも長年の勤務の功労報酬の性格を有する部分に係る退職金、具合的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理であると判示して、原告らの退職金に係る不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも一部認容した。
   これに対し、原告ら及び被告が上告した。


【争点】

   売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で、契約社員Bである原告らに対してこれを支給しないという労移動条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

   原審の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1)判断枠組み
   労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期限の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。
   もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

(2)検討
 ア 被告は、退職する正社員に対し、一時金として退職金を支給する制度を設けており、退職金規程により、その支給対象者の範囲や支給基準、方法等を定めていたものである。そして、上記退職金は、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ、その支給対象となる正社員は、被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり、また、退職金の算定基礎となる本給は、年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたのである。
   このような被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば、上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報酬等の複合的な性質を有するものであり、被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。
 イ そして、原告らにより比較の対象とされた売店業務に従事する正社員と契約社員Bである原告らの労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該業務の責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると、正社員は、販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代替業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは、売店業務に専従していたものであり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。
   また、売店業務に従事する正社員については、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても、業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかったものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったことが否定できない。
        さらに、被告においては、全ての正社員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが、売店業務に従事する正社員と、被告の本社の各部署や事業所等に配置された配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは、職務の内容及び変更の範囲につき相違があったものである。そして、平成27年1月当時に売店業務に従事する正社員は、同12年の関連会社等の再編成により被告に雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め、売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたものであり、上記再編成の経緯やその職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難や事情があったことがうかがわれる。このように、売店業務に従事する正社員が他の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては、被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえる。また、被告は、契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員B及び契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。
   これらの事情については、原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり、労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下、職務の内容及び変更の範囲と併せて職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。
 ウ そうすると、被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、原告らがいずれも10年前後の勤続年数を有していることをしんしゃくしても、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。
   なお、契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ、その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの、このことがその前に退職した契約社員Bである原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であることの評価を基礎付けるものとはいい難い。また、契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや、契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば、無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって、上記の判断を左右するものでもない。

(3)結論
   原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する被告の論旨は理由があり、他方、原告らの論旨には理由がなく、原告らの退職金に関する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないから棄却すべきである(一部棄却・一部破棄自判)。


【コメント】

   本判決は、退職金の複合的性質及び支給目的並びに労働契約法20条所定の諸事情を考慮することにより、労働条件の相違が不合理と評価することができないとの結論を導いていますが、その判断過程は必ずしも明瞭なものではないように思われます。なお、本判決には、「1審被告の正社員に対する退職金の性質の一部は契約社員Bにも当てはまり、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に大きな相違はないことからすれば、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができる」との裁判官宇賀克也の反対意見があります。

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