【知的財産】東京地裁令和3年12月24日判決(判例タイムズ1500号231頁)

原告標章(ロゴタイプ)は、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情がないとして、美術の範囲に属する著作物には該当しない旨判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)原告は、昭和51年4月28日に設立され、商業施設、文化施設等の企画、設計、監理及び施工などを目的とする株式会社である。
   被告は、化粧品、美容用品、美容機器等の企画、製造及び販売などを目的とする株式会社である。被告は、現在、女性ホルモンの減少に伴い生ずる様々な不快症状を抑えることを効能とする、女性のデリケートゾーン全体のケアをするジェル(以下「被告商品」という。)の販売を主な事業としている。
   本件口頭弁論終結日時点における被告代表者であったB(以下「B」という。)は、被告とは別に、飲食店の経営などをしてきた実業家である。Bは、昭和の末頃から広くテレビ出演するなど活躍しており、社会的に信用もある著名な人物である。

(2)原告は、遅くとも平成12年4月頃までに、商業施設の内装や什器のデザインなどに係る原告の事業のロゴデザインとして、別紙1記載の原告標章(注:判例タイムズ1500号242頁参照)の使用を始め、同年12月14日、ANOWA.CO.JPのドメイン名の登録を受け、これを原告の事業のためのウェブサイトに使用している。
   原告は、平成28年1月8日、ANOWA.JPのドメイン名の登録を受けたほか、令和元年9月13日、原告標章からなる図案及び標準文字「アノワ」について、「店舗内装のデザインの考案、店舗什器のデザインの考案、小売店舗のデザインの考案」を指定役務(第42類)として、それぞれ商標登録を受けた。

(3)被告は、平成30年6月14日、法人の目的を現在のものに変更するとともに、その商号を「株式会社山神」から被告商号である「株式会社アノワ」に変更し、これが同月20日に登記された。
   被告は、令和元年5月14日、ドメイン名ANOWA41.JP(以下「被告ドメイン名」という。)を登録し、現在まで、これを使用したウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)を運営している。
   被告商品は、令和2年1月7日発行のファッション雑誌において、「膣内フローラをジェルで整える」という文句を添え、別紙2記載の被告商標1(注:判例タイムズ1500号242頁参照)が付された被告商品が写真とともに紹介された。
   被告は、令和2年6月頃、被告サイトにおいて、別紙5(注:判例タイムズ1500号243頁参照)のとおり、被告標章1が付された被告商品の写真を掲載するほか、別紙2記載の被告標章1ないし3(注:判例タイムズ1500号242頁参照)を使用するなどして被告商品を宣伝していた。
   被告は、遅くとも令和3年5月頃、被告標章1を含まず、横書きの2行に「ANOWA 41」、「DOCTOR’S COSMETIC」と記載する被告商品を販売した。

(4)原告は、本件訴訟を提起して、被告に対し、被告が、被告商品などに被告標章1ないし3を付していることが、原告標章に対する原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして、著作権法112条に基づき、その妨害排除と妨害予防を求めるなどした。


【争点】

   多岐に渡るが、主な争点は、原告標章の著作物性の有無である。
   以下、上記の争点についての、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)原告標章の著作物性の有無について
 ア 著作物性について
   著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。そして、商品又は営業を表示するものとして文字から構成される標章は、本来的には商品又は営業の出所を文字情報で表示するなど実用目的で使用されるものであるから、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情がない限り、美術の範囲に属する著作物には該当しないと解するのが相当である。
   これを本件についてみると、別紙1及び4(注:判例タイムズ1500号242,243頁参照)の記載によれば、原告標章は、
  ・一般的なセリフフォントを使用して、
  ・大きな文字で原告の商号をローマ字で表記した「ANOWA」の語を「ANO」及び「WA」の上下2行に分け、
  ・「A」の右下と「N」の左下のセリフ部分が接続し、
  ・「W」の中央部分が交差するよう配置した上、
  ・その行間(文字高さの3分の1)には、小さな文字で、英単語「SPACE」(空間)、「DESIGN」(デザイン)、「PROJECT」(プロジェクト)の3語を1行に配置し、
  ・その全体を9対7の横長の範囲に収めたロゴタイプ
であると認めることができる。
   上記事実認定によれば、原告標章は、文字配置の特徴等を十分に考慮しても、欧文フォントのデザインとしてそれ自体特徴を有するものとはいえず、原告の商号を表示する文字に業務に関連する単語を添えて、これらを特定の縦横比に配置したものにすぎないことが認められる。そうすると、原告標章は、出所を表示するという実用目的で使用される域を出ないというべきであり、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情を認めることはできない。
   したがって、原告標章は、著作権法2条1項1号にいう美術の範囲に属する著作物に該当するものとは認められない。
 イ 原告の主張に対する判断
  a)原告は、実用品に使用されるデザインであっても、不正競争防止法2条1項3号にいう「商品の形態」として保護される場合との均衡を考えた保護(注:判決文上、詳細不明。)を与えるべきであると主張する。 
   しかしながら、不正競争防止法は、事業者間の公正な競争などを確保し、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするのに対し、著作権法は、文化的所産の公正な利用に留意しつつ、文化の発展に寄与することを目的とするものであって、不正競争防止法と著作権法とは、その趣旨、目的を異にするものである。そうすると、不正競争防止法との均衡を考慮すべき旨の原告の主張は、著作権法の趣旨、目的を正解するものとは言えず、前記判断を左右するに至らない。
  b)原告は、原告標章の「ANOWA」というアルファベット5文字を選定したことに創作性があると主張する。
   しかしながら、「ANOWA」は、原告の商号のローマ字表記であり、我が国では営業表示をローマ字で記載することは一般的に行われているのであるから、原告の主張は、文字の組合せのアイデアを保護すべきことをいうものに帰し、著作権法で保護されるべき法益をいうものとはいえない。
  c)原告は、原告標章には、多様に選択し得る文字の配列や文字の比率の中から、安定感がある配置が採用されているなどと主張する。
   しかしながら、原告標章に採用された単語の配置や文字の比率によって、一定の安定感が生じているとしても、その安定感は、ロゴタイプという実用目的に資するのを超えて、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。
  d)原告は、原告標章の文字の配置や比率によって、「ANOWA」の部分が強調され、原告の事業がアピールされるとともに、均整のある美観を生じさせていると主張する。
   しかしながら、原告標章から原告の商号や事業がアピールされたとしても、標章としての実用目的に資するにすぎず、文字の配置や比率も、ロゴタイプのデザインとしては、ありふれたものといえるから、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。
  e)原告は、原告標章がV字型(逆三角形)の下方をカットしたような構図を採用することにより、躍動感を感じさせる美観を生じさせているなどと主張する。
   しかしながら、原告が指摘する構図は、「ANOWA」の文字を2行に分け、中央寄せにした配置とする場合に自然に生じるものにすぎず、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているものとはいえない。
  f)そのほかに、原告提出に係る準備書面を改めて検討しても、原告の主張は、上記にいう美的創作性の該当性につき独自の見解に立って主張するものにすぎず、いずれも採用することができない。
   そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求のうち、著作権侵害及び著作者人格権侵害に係る部分は、いずれも理由がない。

(2)結論
   原告の請求はいずれも理由がない(請求棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、商品又は営業を表示するものとして文字から構成される標章(ロゴタイプ)の著作物性について、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情がない限り、美術の範囲に属する著作物には該当しないとの一般論を示した上で、原告標章の著作物性を否認した事例です。
   なお、本裁判例がロゴタイプの著作物性が認められる範囲を上記特段の事情に該当する場合に限定したことについて、「商標権者は、指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に限り登録商標の使用をする権利を専有するにもかかわらず(同法5条)、登録商標が著作権法2条1項にいう著作物にも該当するとして著作権法との重複適用を認める場合には、当該商標登録を受けた商標権者に、当該指定商品等と同一でもなく類似もしないものに対しても、(中略)権利行使を認めることになる」との問題点があることが指摘されています([解説]・判例タイムズ1500号232頁参照)。
   この点、原告商標は、「店舗内装のデザインの考案、店舗什器のデザインの考案、小売店舗のデザインの考案」を指定役務(第42類)として、それぞれ商標登録を受けていましたが、化粧品、美容用品、美容機器等の企画、製造及び販売などを指定商品又は指定役務とする商標登録は受けていなかったと考えられます。