【交通事故】名古屋地裁令和3年11月26日判決(自保ジャーナル2112号119頁)

直進車が赤信号で交差点に進入し、右折車が右折の青矢印信号で交差点に進入した場合において、基本的には直進車の一方的過失を認めつつ、右折車にも対向直進車の動静を注視すべき義務に違反した過失がある旨判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)令和27年1月13日午前0時7分頃、次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生場所 名古屋市内の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)付近路上。本件交差点は、南北方向に片側3車線の道路(以下「南北道路」という。)があり、東西方向には片側1車線の道路(以下「東西道路」という。)が交差している。
   原告車両 原告Aが運転し、原告X会社が所有する事業用普通乗用自動車(タクシー・クラウンコンフォート)
   被告Y会社車両 被告Bが運転し、被告Y会社が所有する事業用普通乗用自動車
   被告C車両 被告Cが運転し、訴外Dが所有する自家用普通乗用自動車
   事故態様 原告車両が、東西道路を西から東に向かって進行する予定で、本件交差点で信号待ち停車していたところ、
   南北道路を南進して本件交差点を右折した被告Y会社車両と南北道路を北進して本件交差点に直進進入した被告C車両が衝突し(以下「本件事故1」という。)、
   その衝撃で被告C車両及び被告Y車両原告車両に衝突した(以下「本件事故2」といい、本件事故1と併せて「本件各事故」という。)

(2)被告Cと被告W保険会社が締結していた自動車保険契約には、他者運転危険特約(以下「本件特約」という。)が付保されていた。
   本件特約には、要旨、以下の定めがある。
 ア 第4条
      被告W保険会社は、記名被保険者等が、自ら運転者として運転中の他の自動車を契約車両とみなして、契約車両の保険契約の条件に従い、普通保険約款総合自動車補償条項賠償責任条項を適用する。
 イ 第2条
   「他の自動車」とは、契約車両以外の自動車であって、(中略)をいう。
   但し、次のいずれかに該当する者が所有する自動車又は常時使用する自動車を除く。
  a)記名被保険者(以下略)

(3)本件各事故の当事者は、それぞれ以下の訴えを提起した。
 ア ①事件
   原告X会社は、被告B、被告Y会社及び被告Cに対し、連帯して、原告車両修理費用、休車損害その他の損害額145万3,255円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
 イ ②事件
  a)被告Y会社は、被告Cに対し、被告車両時価額その他の損害額28万1,000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  b)被告Y会社は、被告W保険会社に対し、被告車両時価額その他の損害額28万1,000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
  ウ ③事件
   原告Aは、被告B、被告Y会社及び被告Cに対し、連帯して、治療費、通院交通費その他の損害額13万8800円(注:既払金66万3,910円控除後の残額)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。


 【争点】

(1)①事件・③事件関係
 ア 本件各事故の事故態様及び被告Bの過失の有無共同不法行為の成否、被告Y会社の使用者責任の前提)(争点1)
 イ 原告X会社の損害額
  a)車両損害(事故車両がいわゆる経済的全損に至っているか)(争点2)
  b)休車損害(原告X会社に有休車・代替車両があったか否か)(争点3)
(2)②事件関係
   被告C車両が、本件特約の適用を受ける「他の自動車」に当たるか(被告W保険会社の損害賠償責任の有無)(争点4)
(3)③事件関係
   原告Aの損害額(治療費、文書料等)(争点5)
   以下、上記(1)及び(2)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)争点1(本件各事故の事故態様及び被告Bの過失の有無)について
 ア 次の事実を認めることができる。
  a)被告Bは、令和2年1月21日に実施された現場での実況見分において、要旨、以下のとおり、指示説明した(以下の各地点は、別紙交通事故現場見取図(原図)1の点である。)
  ・対面信号青信号で本件交差点に進入した地点は①地点
  ・対面信号が青信号から黄信号に変わった地点は②地点
  ・右折先を見始めた地点は③地点
  ・最初に被告C車両を発見した地点、危険を感じた地点、ブレーキをかけた地点④地点本件交差点の中央から若干右折方向に進んだ地点、その時の被告C車両ア地点本件交差点南側の横断歩道北端付近
  ・被告C車両と衝突した地点は④地点、その時の被告C車両はイ地点
 b)被告Cは、令和2年1月21日に実施された現場での実況見分において、要旨、以下のとおり、指示説明した(以下の各地点は、別紙交通事故現場見取図(原図)2の点である。)
  ・対面信号が青信号から黄信号に変わった地点は①地点
  ・最初に被告Y会社車両を発見した地点②地点、その時の被告Y会社車両ア地点
  ・信号機や進路遠方を見始めた地点は③地点
  ・赤信号に気付いた地点④地点本件交差点南側の横断歩道南端付近
  ・危険を感じた地点、ブレーキをかけた地点⑤地点、その時の被告Y会社車両はイ地点
  ・被告Y会社車両と衝突した地点は⑥地点、その時の被告Y会社車両はウ地点
 c)原告車両に搭載されていたドライブレコーダーの映像の解析結果は以下のとおりであった(注:表示時刻は、同映像上の表示時刻である。)
  ・00:07:01 被告Y会社車両が、対面信号青信号で、先行車両(タクシー)に追随して本件交差点に進入する。
  ・00:07:04 南北道路の信号機(注:被告Y会社車両の対面信号機)が黄色灯火になる。その時点で、被告Y会社車両は、先行車両(タクシー)に追随し、本件交差点北側の横断歩道から車体半分ほど前方にはみ出した地点に位置する。
  ・00:07:07~08 南北道路の信号機が右折矢印灯火(被告Cの対面信号機が赤色灯火)になる。その時点で、被告Y会社車両は、先行車両に追随して、本件交差点のほぼ中央付近まで進んでいる。
  ・00:07:09 被告Y会社車両と被告C車両が衝突する。なお、ドライブレコーダーの映像上、被告C車両は、相当の速度で被告Y会社車両に衝突した様子が窺える。 
 イ 前記アb)のとおり、被告Cの実況見分時の指示説明によれば、被告Cは、別紙交通事故現場見取図(原図)2④地点本件交差点南側の横断歩道南端付近)で対面信号機が赤信号であることに気付いたというのであり、
   被告Bの対面信号機が右折矢印(被告Cの対面信号機が赤色)に変わった時点での被告Y会社車両の位置が本件交差点のほぼ中央付近であること(原告車両に搭載されていたドライブレコーダーの映像の解析結果。前記アc))を前提すると、
   上記の被告Cの指示説明は、被告Bが実況見分時に指示説明した内容(前記アa))、すなわち、被告C車両を発見した地点が別紙交通事故現場見取図(原図)1④地点本件交差点の中央から若干右折方向に進んだ地点)で、その時の被告C車両は同図面のア地点本件交差点南側の横断歩道北端付近)であることと、各車両の位置関係の点で概ね整合し、信用できるというべきである。
   かかる被告Cの指示説明によれば、被告C車両は、本件交差点に進入する以前に本件交差点南側の横断歩道南端付近に至った時点で対面信号機が赤色を表示していたにもかかわらず、本件交差点に進入した事実が認められる。
   そうすると、基本的には、赤信号を無視した直進車である被告C車両の一方的過失というべきである。
 ウ 他方、前記アb)のとおり、被告Cの指示説明によれば、被告Cが最初に被告Y会社車両を発見した地点は別紙交通事故現場見取図(原図)2②地点、その時の被告Y会社車両ア地点と認められ、その時点で、被告Y会社車両からも対向方向から直進してくる被告C車両の動静を確認することが比較的容易であった状況が窺える(前記アc)のとおり、被告Y会社車両は本件交差点を右折する際、先行車両(タクシー)に追随していた事実があるが、少なくとも、先行車両が本件交差点の中央を右折通過した後は、対向車の動静を確認できる位置関係にあったというべきである。)。
   そして、前記アb)のとおり、被告Cが衝突直前の同図面の⑤地点で初めてブレーキをかけたことからすると、被告Bは、別紙交通事故現場見取図(原図)1④地点に至る以前に対向方向を確認していれば、被告C車両が相当の速度で本件交差点に進入してくることを認識し得たというべきである。
   それにもかかわらず、被告Bは、衝突直前の同地点に至って初めて被告C車両を発見したというのであり、被告Bにも、対向直進車の動静を注視すべき義務に違反した過失があると認められる。
 エ 前記ウのとおり、被告Bにも過失が認められ、本件各事故について、被告Cと被告Bの共同不法行為が成立する。
   そして、被告Y会社は、本件各事故発生当時、被告Bを使用して、その事業の執行として被告Y会社車両を運転させていたことによれば、本件各事故につき、被告Y会社は、原告X会社及び原告Aに対し、使用者責任を負うというべきである。

(2)争点2(原告X会社の車両損害)について
 ア 事故車両がいわゆる経済的全損に至っているかの判断に関して当該車両の時価相当額を認定することになる。
   そして、中古車市場における中古車の価額は、基本的に(個別的、具体的な価格算定の資料がないときを除き)その車の製造会社、車種、年式、使用状態、走行距離、その車種の需要度、市場の動向等の具体的要因により具体的、個別的に定めるものと解され、事故当時の車両価格は、事故車両と同一の車種・年式・型の車両について、インターネットの中古車関連サイトの販売価格情報等の資料を参考に判断するのが相当である。
 イ 原告車両は、平成26年2月初度登録のトヨタのクラウンコンフォートであり、平成31年2月時点の走行距離が31年5、800kmであったことが認められる。
   他方、令和2年11月時点で、上記原告車両と同一の車種・年式・型の車両である平成23~26年初度登録のクラウンコンフォート(走行距離は20.8万km~47万km)の販売価格は、概ね50~59万7,000円の範囲内にあり、その平均価格は、約55万円程度と認められるから、原告車両の本件各事故当時の時価額55万円と認める。
 ウ また、原告車両と色違いの同社種(クラウン)をタクシー仕様に全塗装する場合の塗装費用は、少なくとも34万1,000円~43万9,000円(いずれも税別。税込みにすると、37万5、100~48万2,900円)程度を要することが認められ、前記イの原告車両の時価額55に、上記の塗装費用最低限必要な買替諸費用数万円程度と認められる。顕著な事実)を加えた価額は、少なくとも、原告車両の修理費用94万9、069を上回ると認められるから原告車両は経済的全損には至っておらず、修理費用である94万9,069円を損害と認める。

(3)争点3(原告X会社の休車損害)について
 ア 原告X会社に有休車・代替車両があったか否かについては、保有タクシーの台数、運転手との対応関係などの諸事情を総合的に考慮して検討するのが相当である。
 イ 原告X会社は、令和2年1月時点で、55台のタクシーを保有し、実働営業社員(運転手)は78存在していたこと、本件各事故前2ヶ月である令和元年11月の実働率は83.94%同年12月の実働率は85.51%であることが認められる(なお、原告X会社は、平成30年11月~平成31年1月の運輸実績も提出するが、本件各事故から1年以上前のものであり、それらを参照するのは相当ではない。)。
 ウ 前記イによれば、原告X会社のタクシーは、本件各事故当時、概ね85%の実働率であり、55台のうちの15%程度が実働状態になく、また、実働営業社員は保有車両台数を23上回る78名存在していたから、保有車両数及び運転者数のいずれの点からも、有休車が存在していたと認められる。
 エ 原告X会社は、清掃、点検整備の必要性も考慮すると、有休車が損するとは評価でいない旨主張するが、清掃、点検整備は、実働している車両についても同様に必要な作業であるから、それをもって有休車が存在しないと評価することは困難である。
 オ 前記アの検討によれば、原告X会社は、原告車両の休車期間中、有休車を活用することによって休車損害の発生を回避することができたというべきであるから、休車損害の発生は認められない。

 (4)争点4(被告戊田車両が,本件特約の適用を受ける「他の自動車」に当たるか)について
 ア 被告戊田車両の所有者である八郎は,(本件各事故当時,被告戊田と一緒に暮らしていた)妹の訴外庚山春子(以下「春子」という。)に対し(他人に貸すことを前提に),被告戊田車両を自由に使ってよい旨伝えた上でこれを貸与しており,まず,八郎から春子に対する被告戊田車両の包括的な使用許可の事実が認められる。
   そして,春子は,本件各事故以前から,被告戊田と交際してほぼ同居しており,被告戊田は,令和2年1月4日以降,(現実に同車両を借用したのは3回ほどにとどまっていたものの)春子が通勤等で不在の時には,キーの所在を同人に聞くなどして,いつでも同車両を使用できる状態にあったことが認められ,かかる事実から,春子もまた,被告戊田に対して,被告戊田車両の使用を包括的に許可していた様子が窺える。
 イ したがって,被告戊田車両は,本件特約第2条の記名被保険者が常時使用する自動車と認められ,同特約にいう「他の自動車」に当たらず,同車両には本件特約は適用されない。

(5)結論
 ア ①事件
   原告X会社の請求は、被告B、被告Y会社及び被告Cに対し、連帯して、原告車両修理費用その他の損害額104万3,975円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(一部認容)。
 イ ②事件
  a)被告Y会社被告Cに対する請求は、理由がある(全部認容)。
  b)被告Y会社被告W保険会社に対する請求は、理由がない(請求棄却)。
  ウ ③事件
   原告Aの請求は、被告B、被告Y会社及び被告Cに対し、連帯して、治療費、通院交通費その他の損害額13万4,800円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(一部認容)。


【コメント】

   本裁判例は、被告Cの運転する被告C車両(直進車)が赤信号で交差点に進入し、原告Aの運転する原告車両(右折車)が右折の青矢印信号で交差点に進入したことを前提に、基本的には被告Cの一方的過失を認めつつ、原告Aにも対向直進車の動静を注視すべき義務に違反した過失がある旨判示した事例です。
   この点、別冊判例タイムズ38(緑の本)234頁には、「直進車が赤信号で交差点に進入し、右折車が右折の青矢印信号で交差点に進入した場合には、直進が禁止され、右折のみが許されることになる(令2条1項)から、基本的には赤信号を無視した直進車の一方的過失というべきであるが、(中略)右折待機車としても、対向直進車の動静を確認することは比較的容易であるといえるから、わずかに前方を注視すれば直進車の進入を認識し得るのにこれをしなかったというような場合については、右折車にも若干の過失を認める余地があろう。」と記載されています。