【労働】最高裁令和5年7月20日判決(判例タイムズ1513号80頁)

正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある旨判示した事例(破棄差戻し)


【事案の概要】

(1)上告人(第1審被告)は、自動車学校の経営等を目的とする株式会社であり、主たる事務所(本部)を設置するほか、複数の自動車教習施設を設置している。
   上告人は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条1項2号所定の継続雇用制度を導入しており、定年退職する正職員のうち希望する者については、期間を1年とする、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結し、これを更新して、原則として65歳まで再雇用することとしていた。

(2)被上告人(第1審原告)A及び同Bは、上告人と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結して、自動車教習所の教科指導員の業務に従事していた者(以下「正職員」という。)であったが、上告人を定年退職した後に、上告人と有期労働契約を締結して勤務していた者(以下「嘱託職員」という。)である。
   被上告人Aは、昭和51年頃以降、正職員として勤務し、主任の役職であった平成25年7月12、退職金の支給を受けて定年退職した。
   被上告人Aは、定年退職後再雇用され、同月13日から同30年7月9日までの間、嘱託職員として教習指導員の業務に従事した(注:被上告人Bの経歴も同様であり、省略する。)。

(3)上告人の就業規則等によれば、正職員の賃金は、月給制であり、基本給、役付手当等で構成されていた。このうち、基本給一律給功績給から成り、役付手当主任以上の役職に就いている場合に支給するものとされていた。また、正職員に対しては、夏季及び年末の年2回、賞与を支給するものとされ、その額は、基本給に所定の掛け率を乗じて得た額に10段階の勤務評定分を加えた額とされていた。
   平成25年以降の5年間における基本給平均額は、管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者については、月額14万円前後で推移していた。
   上記平均額は、上記の者のうち勤続年数が1年以上5年未満のもの(以下「勤続短期正職員」という。)については、月額約11万2000円から約12万5000円までの間で推移していたが、勤続年数に応じて増加する傾向にあり、勤続年数が30年以上のものについては、月額約16万7000円から約18万円までの間で推移していた。
   また、平成27年の年末から令和元年の夏季までの間における賞与の平均額は、勤続短期正職員については、1回当たり17万4000円から約19万6000円までの間で推移していた。

(4)上告人は、嘱託職員の労働条件について、正職員に適用される就業規則等とは別に、嘱託規程を設けていた。嘱託規程においては、嘱託職員の賃金体系は勤務形態によりその都度決め、賃金額は経歴、年齢その他の実態を考慮して決める旨や、再雇用後は役職に就かない旨等が定められていた。
   また、有期労働契約においては、勤務成績等を考慮して「臨時に支払う給与」(以下「嘱託職員一時金」という。)を支給することがある旨が定められていた。

(5)被上告人Aの基本給は、定年退職時には月額18万1640であったところ、再雇用後の1年間月額8万1738その後月額7万4677であった(注:被上告人Bの賃金も同様であり、省略する。以下同じ。)。
   被上告人Aは、定年退職前の3年間において、1回当たり平均23万3000賞与の支給を受けていたところ、再雇用後、有期労働契約に基づき、正職員に対する賞与の支給と同時期に嘱託職員一時金の支給を受けており、その額は、平成27年の年末以降、1回当たり7万3164円から10万7500円までであった。
   なお、被上告人らは、再雇用後、厚生年金保険法及び雇用年金法に基づき、老齢厚生年金及び高年齢雇用継続基本給付金を受給した。

(6)被上告人Aは、平成27年2月24日、上告人に対し、自身の嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しを求める書面を送付し、同年7月18日までの間、この点に関し、上告人との間で書面によるやり取りを行った。
   また、被上告人Aは、所属する労働組合の分会長として、平成28年5月9日、上告人に対し、嘱託職員と正職員との賃金の相違について回答を求める書面を送付した。

(7)被上告人らは、本件訴えを提起して、嘱託職員と正職員との間における基本給、賞与等の相違は労働契約法(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)20条に違反するものであったと主張して、上告人に対し、不法行為等に基づき、上記相違に係る差額について損害賠償等を求めた。

(8)原審(名古屋高裁令和4年3月25日判決・労働判例1292号23頁)は、要旨次のとおり判断し、被上告人らの基本給及び賞与に係る損害賠償請求を一部認容すべきものとした。
   被上告人らについては、定年退職の前後を通じて、主任の役職を退任したことを除き、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲相違がなかったにもかかわらず、嘱託職員である被上告人らの基本給及び嘱託職員一時金の額は、定年退職時の正職員としての基本給及び賞与の額を大きく下回り、正職員の基本給に勤続年数に応じて増加する年功的性格があることから金額が抑制される傾向にある勤続短期正職員の基本給及び賞与の額をも下回っている
   このような帰結は、労使自治が反映された結果でなく、労働者の生活保障の観点からも看過し難いことなどに鑑みると、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間における労働条件の相違のうち、被上告人らの基本給が被上告人らの定年退職時の基本給の額の60%を下回る部分、及び被上告人らの嘱託職員一時金が被上告人らの定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じて得た額を下回る部分は、労働契約法20にいう不合理と認められるものに当たる。


【争点】

(1)正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か(争点1)

(2)正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で賞与と嘱託職員一時金の金額が異なるという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

  原審の判断は是認することができない。その理由は、以下のとおりである。

(1)判断枠組み
 ア 労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結している労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が基本給賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。
   もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである(メトロコマース事件・最高裁令和2年10月13日判決・労働判例1229号90頁参照)。

(2)争点1(正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か)について
 ア 管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者の基本給の額について、勤続年数による差異が大きいとまではいえないことからすると、正職員基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。
   他方で、正職員については、長期雇用を前提として、役職に就き、昇進することが想定されていたところ、一部の正職員には役付手当別途支給されていたものの、その支給額は明らかでないこと、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その基本給は、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質を有するものとみる余地もある。
   そして、正職員に対して、上記のように様々な性質を有する可能性がある基本給を支給することとされた目的を確定することもできない。
   また、嘱託職員は定年退職後再雇用された者であって、役職に就くことが想定されていないことに加え、その基本給が正職員の基本給とは異なる基準の下で支給され、被上告人らの嘱託職員としての基本給が勤続年数に応じて増額されることもなかったこと等からすると、嘱託職員基本給は、正社員の基本給とは異なる性質支給の目的を有するものとみるべきである。
   しかるに、原審は、正職員基本給につき、一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったとするにとどまり、他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していない。
 イ また、労使交渉に関する事情労働契約法20にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては、労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される。
   上告人は、被上告人A及びその所属する労働組合との間で、嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたところ、原審は、上記労使交渉につき、その結果に着目するにとどまり、上記見直しの要求等に対する上告人の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯勘案していない。
 ウ 以上によれば、正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。

(3)争点2(正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で賞与と嘱託職員一時金の金額が異なるという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か)について
 ア 被上告人らに支給された嘱託職員一時金は、正職員の賞与と異なる基準によってではあるが、同時期に支給されていたものであり、正職員の賞与に代替するものと位置付けられていたということができるところ、原審は、賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない。
 イ また、上記(2)イのとおり、上告人は、被上告人Aの所属する労働組合等との間で、嘱託職員の労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたが、原審は、その結果に着目するにとどまり、その具体的な経緯勘案していない。
 ウ このように、上記相違について、賞与及び嘱託職員一時金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。

(4)結論
   原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
   そして、被上告人らが主張する基本給及び賞与に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すことにする(破棄差戻し)。


【コメント】

   本裁判例は、正職員と、上告人を定年退職した後に、上告人と有期労働契約を締結して勤務していた嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある旨判示した事例です。
   本裁判例は、上告人らが受給していた基本給が、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質をも有することを示唆しています。このような判断を前提とすると、上告人らが嘱託職員として従事した業務の内容が、正職員として従事した業務の内容と異ならなかった場合には、上記の労働条件の相違が不合理との推認がより強く働くものと考えられます。
   差戻し後の控訴審において、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的等を踏まえた上で、どのような判断を下すかが注目されます。