【労働】大阪地裁令和5年4月21日判決(判例タイムズ1514号176頁)

原告の所属タレントであった被告の労働者性を肯定して、労働基準法16条違反により、専属マネジメント契約における違約金条項を無効と判断した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)本訴原告・反訴被告(以下、単に「原告」という。)は、アーティスト、タレントの育成、マネジメント、イベントの企画、運営等を業とする株式会社である。
   本訴被告・反訴原告(以下、単に「被告」という。)は、芸能活動を行う個人であり、原告が専属的にマネジメント及びプロデュースする男性アイドルグループ「X」のメンバーであった者である。
   Aは、原告の役員でも従業員でもないものの、Xの活動に関与しており、Xのメンバーからは、「A社長」という呼称で呼ばれていた。
   Bは、原告代表者の息子であるところ、原告との間で専属マネジメント契約を締結し、「C」という芸名でXのメンバーとして芸能活動をしている。

(2)原告と被告は、平成31年1月5日、次の内容が含まれる専属マネジメント契約を締結した(以下「本件契約」という。ただし、本件契約の法的性質については後述のとおり争いがある。)。
 ア 2(マネジメントの委託)
   1 被告は、本件契約期間中、原告に専属的に所属するタレントとして、原告の指示に従い芸能活動を誠意に遂行するものとする
   2項 被告は、次のマネジメント業務(以下「本マネジメント業務」という。)を原告に対し専属的に委任し、原告はこれを受任する。
  ①~④ 略
  ⑤被告の芸能活動に基づき発生する報酬及び使用料等(その他名称を問わず被告の芸能活動に伴い発生する対価一切。)交渉、価格決定、請求、受領
  ⑥~⑧ 略
    3 本マネジメント業務は、原告の裁量及び判断に基づき、遂行するものとする。ただし、芸能活動の選択及び出演依頼等に対する諾否は、被告原告が協議のうえ、決定するものとする
   4項 本マネジメント業務は、本契約有効期間中は原告が独占的に行うものとし、被告は、原告以外の者にマネジメント業務をさせてはならない。
 イ 3(権利の帰属)
   本件契約期間中に行われた被告の芸能活動により生じた次の各号の権利は、地域及び期間を問わず、その発生と同時に原告に独占的に帰属し、若しくは被告から原告に無償譲渡する。
   (後略)
 ウ 4(報酬の支払)
   1
   本マネジメント業務に基づき、被告が芸能活動を遂行した場合、原告は被告に対し、当該活動に対する報酬を次のとおり支払う
  ①被告の個人としての芸能活動に対する報酬は、原告が2条2項5号に基づき受領する金員から、当該芸能活動に要した諸経費を控除して得た額の40%とする。ただし、原告は、被告の仕事の成果及び原告の負担等を勘案し、50%までの範囲内でこれを増額することができる。
  ②被告のグループとしての芸能活動に対する報酬は、原告が2条2項5号に基づき受領する金員から、当該芸能活動に要した諸経費を控除して得た額の10%とする。
   2項 略
   3
   原告が特に必要と判断した場合には、原告が任意に定める報酬を原告の自由意思に基づき、支払うことができる
 エ 6(レッスンの受講)
   被告は、タレントとしての資質向上等のため、適宜、原告の推奨するレッスンを受けなければならない。レッスンに要する費用は原告の負担とする。
 オ 7(費用の負担)
   被告の芸能活動遂行のために要した旅費交通費その他原告が認めるものは原告の負担とする
  (後略)
 カ 10(順守事項)
   被告は、次の各号に定める事項を順守しなければならない。
   (中略)
  ⑫被告が所属するグループ(X)から原告及び他のメンバーの承諾なく脱退し又はグループを解散させてはならない
 キ 11(就業の届出)
   被告は、原告を介しない芸能活動、性風俗その他被告の芸能活動に支障を及ぼすものを除き、原告に事前に届け出ることにより、副業、アルバイト等に就業することができる。
 ク 14(損害賠償)
   (前略)
   4 被告が2条1項、4項、10条⑫号、18条1項、2項のいずれかに違反した場合、被告は原告に対し、本条2項の損害賠償とは別に、違約金として、1回の違反につき、200万円を支払わなければならない(以下「本件違約金条項」という。)。

(3)被告は、平成31年1月5日から、Xに加入し、以降、Xのメンバーとして、芸能活動を継続した。しかし、Xの売上から経費を控除すると赤字となっていたため、被告に対して、本件契約4条1項に基づく報酬は支払われなかった。
   もっとも、原告代表者及びAの判断で、本件契約4条3項に基づき、メンバーに固定給が支払われており、被告は、原告から、
  ・平成31年1月及び同年2月は月額6万円
  ・平成31年3月から令和元年6月までは月額12万円
  ・令和元年7月から令和2年2月までは月額13万円
  ・令和2年3月から同年6月までは月額16万円
の報酬が支払われた。

(4)被告は、令和元年12月23日、メンタルクリックを受診して、適応障害と診断された。そして、被告は、令和2年2月28日のアニバーサリーライブが終わった頃から、Xを脱退したいと思うようになった。
   Xは、同年8月9 日のコンサートに向け、同年6月15日にリハーサルが予定されていたが、被告は、当該リハーサルを欠席した。Bは、被告が同年6月15日のリハーサルを無断欠席したことを原告に報告した上で、再度被告に連絡をとったところ、被告は、Xを脱退したいと言った。
   同年7月4、被告とA、B及びXのスタッフ1名と話合いの機会が設けられた。その話合いの場で、被告は、Aに対し、被告が適応障害と診断されており、精神的にXの活動を続けていけない旨述べた。これに対し、Aは、本件契約の契約期間である3年間Xのメンバーとして活動するか、違約金を支払って辞めるかの2択であると述べた
   被告は、同年8月4日、原告に対し、診断書を撮影した画像を提出し、同月9日のコンサートに出演したくないと述べ、実際に同コンサートに出演しなかった。
   被告は、同月18日、原告に対し、本件契約の解除を通知し、Xを脱退した
   その後、被告は、同月23日に予定されていたXのイベントにも、同年9月5日に予定されていたXのイベントにも出演しなかった。

(5)原告は、本訴請求を提起して、被告が本件契約の義務違反を5回したとして、同契約で約定した違約金1000万円から未払報酬11万円を控除した989万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
   被告は、本件反訴を提起して、原告に対し、本件契約労働契約であるとして、未払賃金11万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。


【争点】

(1)被告による本件契約違反の有無(争点1)
(2)本件違約金条項労働基準法16(注)に違反して無効であるか(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。

(注)労働基準法16 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない


【裁判所の判断】

   本件では、本件違約金条項の有効性が争われているため、争点(1)に先立ち争点(2)につき判断する。

(1)争点2(本件違約金条項が労働基準法16条に違反して無効であるか)について
   労働基準法における労働者に該当するかについては、契約の形式ではなく、実質的な使用従属性の有無に基づいて判断されることになるから、以下、検討する。 
 ア 指揮監督下の労働か否か
  a)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由
   本件契約上は、Xの芸能活動の選択及び出演依頼等に対する諾否は、被告原告が協議のうえ、決定するものとされていた(本件契約2条3項)。
   しかしながら、Xの知名度を上げる活動は基本的に全部受けることとされており、メンバーは、Xの活動としてライブ、レコーディング、リハーサル等の日程については、可能な限り調整して仕事を受けることを要請されていた。
   また、被告は、タレントとしての資質向上等のため、適宜、原告の推奨するレッスンを受けなければならないともされていた(本件契約6条)。そして、Aは、原告代表者から依頼を受けて、Xの芸能活動に深く関与していたところ、AからXへの具体的な指示も多数あった。
   さらに、被告には、本件契約期間中、原告に専属的に所属するタレントとして、原告の指示に従い芸能活動を誠実に遂行するものとする義務が課せられていたところ(本件契約2条1項)、これに違反すると200万円の違約金を支払わなければならないとされていたから(本件契約14条1項)、上記義務は、単なる努力義務ではなかった。
   そうすると、被告は、Aの指示どおりに業務を遂行しなければ、1回につき違約金200万円を支払わされるという意識のもとで、スケジュール共有アプリである「Time Tree(以下「タイムツリー」という。)に記入された仕事を遂行していたものであるから、これについて諾否の自由があったとは認められない
  b)業務遂行上の指揮監督の有無
   原告は、Aに委任して、Xの芸能活動がうまくいくように、Aが仕事を取ってきて、Xのメンバーに対して、主にBを通じて、仕事のスケジューリングを決めて、ある程度、時間的にも場所的にも拘束した上、Bを通じて又は直接、その活動内容について具体的な指示を与えており、前記のとおり、その指示に従わなければ、違約金を支払わされるという状況にあったから、原告の被告に対する指揮監督があったものと認められる。
  c)拘束性の有無
   前記のとおり、主にAが仕事を取ってきて、それをBに伝えて、基本的にBが受ける仕事を決めてタイムツリーに記入して仕事のスケジュールが決まり、また、Xの知名度を上げる仕事であれば、基本的に仕事を断らないという方針であったため、仕事と私用が重なる場合には、できる限り仕事を優先するということがメンバー間で了解事項となっていたことからすると、Aが取ってきた仕事を中心に、それに合せてスケジューリングを組んでおり、そのとおりの行動を要請されていたものであるから、その限度において、原告による被告の時間的場所的拘束性もあったと認められる。
  d)代替性の有無
   被告は、アイドルグループのメンバーとして芸能活動をしていたものであるから、労務提供に代替性はない
  e)まとめ
   以上のとおり、被告は、原告の指揮監督の下、ある程度の時間的場所的拘束を受けつつ業務内容に諾否の自由のないまま、定められた業務を提供していたものであるから、原告の指揮監督下の労働であったと認められる。
 イ 報酬の労務対償性
   被告は、原告から、 
  ・平成31年1月及び同年2月は月額6万円
  ・平成31年3月から令和元年6月までは月額12万円
  ・令和元年7月から令和2年2月までは月額13万円
  ・令和2年3月から同年6月までは月額16万円
の報酬が支払われている。
   このように、被告は、原告から報酬を月額定額支払われており、X加入当初低かった月額が、在籍期間が長くなるにつれて漸次増額されているものである。
   そうすると、前記のとおり、週に1日程度の休日を与えるほかは、あらかじめスケジューリングをして、時間的にも場所的にもある程度拘束しながら、労務を提供させていたものであるから、その労務の対償として固定給を支払っていたものと認めるのが相当である。
 ウ その他
   本件契約では、諸経費が被告の負担とされている(本件契約4条1項参照)ものの、前記認定のとおり、実際には、本件契約4条1項による報酬(注:原告が2条2項5号に基づき受領する金員を指すものと思われる。)から諸経費を控除すると赤字となることから、実質的な負担は原告がしていたこと、
   交通費等は、本件契約上も原告の負担であったこと(本件契約7条1項)、
   被告の芸能活動により生じた諸権利原告に帰属すること(本件契約3条)、
   本件契約上では、副業、アルバイト等は原告に事前に届け出ることにより就業することができる(本件契約11条)とされているものの、実際には、アルバイト等をすることはスケジュール的に困難であったこと、
   前記のとおり被告には固定給が支払われており、生活保障的な要素が強かったこと
なども使用従属性を肯定する補強要素となる。
 エ まとめ
   以上によれば、被告は、原告の指揮監督の下、時間的場所的拘束を受けつつ業務内容について諾否の自由のないまま、定められた業務を提供しており、その労務に対する対償として給与の支払を受けており、被告の事業者性も弱く、被告の原告への専従性の程度も強いものと認められるから、被告の原告への使用従属性が肯定されて、被告の労働者性が認められる
   したがって、本件違約金条項は、労働基準法16条に違反して無効である

(2)結論
   以上によれば、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がなく、被告の反訴請求は理由がある(本訴請求棄却、反訴請求認容)。


【コメント】

   本裁判例は、芸能プロダクションである原告の所属タレントであった被告の労働者性を肯定して、労働基準法16条に違反を理由に、専属マネジメント契約における違約金条項を無効と判示した事例です。
   本裁判例は、違約金条項による拘束があること、及び、実質的に固定給の支払がなされていたことを重視して、被告の労働者性を肯定したものと考えられます。同様の働き方をしているフリーランスの労働者性の判断において、参考になるものと思われます。