さいたま地裁令和2年2月5日(コピライト708号61頁)

事業者の「判断」で自らの免責を認める本件規約は、消費者契約法12条3項の適用上、同法8条1項1号及び3号の各前段所定の消費者契約の条項(不当条項)に該当する旨判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)原告は、消費者契約法(以下「法」という。)13条1項の適格消費者団体である。
   被告は、インターネットを使ったポータルサイトであるMを運営しており、Mの会員に対し、オンラインゲームコンテンツのほか、Mの会員同士がサイト内でメール等によりやりとりをする機能などを提供している。Mのサービスのコンテンツは一部有料であり、M会員は、有料コンテンツを利用する場合には、利用料金を支払う必要がある。

(2)被告は、M会員との間で、被告がMにおいて提供する役務等に関して、「M会員規約」(以下「本件規約」という。)を含む契約(以下「本件契約」という。)を締結している。
   本件規約には、次の条項が存在する。
 ア 7条(M会員規約の違反について)
   1項 M会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、M会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
    c 他のM会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合
    e その他、M会員として不適切であると当社が判断した場合
   3 当社の措置によりM会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。
 イ 12条(当社の責任)
   4項 本規約において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりM会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します
   5項 当社は、当社の故意または重大な過失によりM会員に損害を与えた場合には、その損害を賠償します。

(3)消費者契約法には、次の条項が存在する。
 ア 3条(事業者及び消費者の努力)
   1項 事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。
    1号 消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること。
 イ 8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
   1 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
    1 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
    3 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項 
 ウ 12条(差止請求権) 
    適格消費者団体は、事業者又はその代理人が、消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で第8条から第10条までに規定する消費者契約の条項(括弧内略)を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者又はその代理人に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。(以下略)

(4)原告は、不特定かつ多数の消費者との間で本件契約を締結するに当たり、8条1に規定する消費者契約の条項に該当する条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い、又は行うおそれがあると主張して、被告に対し、法12条3項に基づき、別紙契約条項目録1及び2記載の契約条項(注:本件規約7条3項及び第12条4)を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止を求めるとともに、これらの行為の停止又は予防に必要な措置として、上記意思表示を行うための事務を行わないことを被告の従業員らに指示するよう求めた。


 【争点】

(1)本件規約7条3項の法8条1項1号及び3号該当性(争点1)
(2)本件規約12条4項の法8条1項1号及び3号該当性(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件規約7条3項の法8条1項1号及び3号該当性について)
 ア 契約条項が不明確な場合と法12条3項における消費者契約の不当条項該当性の判断の在り方
   法12条3項の差止請求は、その対象となる消費者契約の中に、8条から10条までに規定する消費者契約の条項(以下「不当条項」という。)が含まれていることがその要件とされているところ、この不当条項該当性の有無を判断するに当たっては、その前提として、当該消費者契約の中の特定の条項の意味内容を定める必要が生じる。
   この点、法は、消費者と事業者とでは情報の質及び量並びに交渉力に格差が存することに照らし、法3条1項において、事業者に対し、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じないもの明確なものであって、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮することを求めていることに照らせば、事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、当該条項につき、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残ることがないように努めなければならないというべきである。
   加えて、差止請求制度は、個別具体的な紛争の解決を目的とするものではなく、契約の履行などの場面における同種紛争の未然防止・拡大防止を目的として設けられたものであることをも勘案すると、差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められる場合において、事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは、法12条3項の適用上、当該条項は不当条項に該当すると解することが相当である。
 イ 本件規約7条1項c号及びe号について
   本件規約7条1項c号は「他のM会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」、e号は「その他、M会員として不適切であると当社が判断した場合」について、被告が会員資格取消措置等をとることができる旨を規定している。
   この点、被告は、上記各号の「判断」とは「合理的な根拠に基づく合理的な判断」を意味し、そのように解釈することが一般的な契約実務である旨主張している。
   しかしながら、c号の「他のM会員に不当に迷惑をかけた」という要件は、その文言自体が、客観的な意味内容を抽出し難いものであり、それに続く「と当社が判断した場合」という要件の「判断」の意味内容は、著しく明確性を欠くと言わざるを得ない。すなわち、上記要件の文言からすると、被告は上記の「判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地があるのであって、上記の「判断」が「合理的な根拠に基づく合理的な判断」といった通常の裁量の範囲内で行われると一義的に解釈することは困難であると言わざるを得ない。
   また、e号は、「その他、M会員として不適切であると当社が判断した場合」との要件であるが、「その他」との文言によりc号を含む各号と並列的な関係ある要件として規定されつつも、c号と同じ「判断した場合」との文言が用いられていることから、c号の解釈について認められる上記の不明確性を承継するものとなっている。
   以上のとおり、上記各号の文言から読み取ることができる意味内容は、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められると言わざるを得ない。
 ウ 本件規約7条3項と法8条該当性について
   本件規約7条3項は、「当社の措置によりM会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。」と規定している。
   被告は、被告の「合理的な根拠に基づく合理的な判断」により、本件規約7条1項c号又はe号が適用され、会員資格取消措置等をとった場合、被告は、当該会員に対して、サービスを提供する債務を負わず、そうである以上、債務不履行もあり得ず、損害賠償責任を負うこともないのであるから、本件規約7条3項は、同条1項c号又はe号の適用により、被告に損害賠償責任が発生しないこと確認的に定めたものであり、免責条項ではないと主張する。
   しかしながら、上記各号の文言から読み取ることができる意味内容は、著しく明確性を欠き、複数の解釈の可能性が認められ、被告は上記の「判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地があることは、上記イで判示したとおりである。
   そして、本件規約7条3項は、単に「当社の措置により」という文言を使用しており、それ以上の限定を付されていないことからすると、同条1項c号又はe号該当性につき、その「判断」が十分に客観性を伴っていないものでも許されるという上記の解釈を前提に、損害賠償責任の全部の免除を認めるものであると解釈する余地があるのであって、「合理的な根拠に基づく合理的な判断」を前提とするものと一般に解釈することは困難である。
   そうすると、本件規約7条3項は、同条1項c号又はe号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められると言わざるを得ない。
   そして、証拠(略)によれば、M会員からは、全国消費生活情報ネットワークシステムに対し、被告によりMサイト上のゲームの利用の一部を停止されたが、被告に問い合わせても理由の説明がされず、かつ、すでに支払った利用料金2万円の返金を拒まれているなどの相談が複数されていることが認められるところ、被告は、「当社の責めに帰すべき事由による場合を除き」といった文言(注:本件規約4条3項に追加された文言と同旨のもの)を付加するような修正をせずに、その不明確さを残しつつ、当該条項を自己に有利な解釈に依拠して運用しているとの疑いを払拭できないところである。
 エ 小括
   以上によれば、法12条3項の適用上、本件規約7条3項は、法8条1項1号及び3号の各前段に該当するところ、本件訴えに至る経緯等及び弁論の全趣旨によれば、被告は、不特定かつ多数の消費者との間で本件規約7条3項を含む「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれ」(法12条3項)があると認められる。

(2)争点2(本件規約12条4項の法8条1項1号及び3号該当性)
   本件規約12条4項は、法8条1項1号及び3号の各前段に該当しない(詳細については、省略する。なお、法8条1項1号及び3号の各後段該当性については、原告により主張されていない。)。

(3)結論
   以上によれば、その余の争点(本件規約7条3項の法8条1項1号及び3号の各後段該当性)につき判断するまでもなく、原告の請求のうち、別紙契約条項目録1記載の条項(注:本件規約7条3)を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止めを求める請求等については理由がある(一部認容)。


 

知財高裁令和元年6月7日判決(判例秘書登載)

特許法102条3項に基づく損害は、当該特許権の実施許諾契約による通常の実施料率に比べて高額に算定される旨判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)被控訴人(1審原告)は、名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明に係る2件の特許権(特許第4659980号及び特許第4912492号。以下、それぞれ「本件特許権1」及び「本件特許権2」という。)を有している。

(2)被控訴人は、①控訴人らが製造、販売する原判決別紙「被告製品目録」記載の炭酸パック化粧料(以下「被告各製品」という。)は、本件特許権1及び本件特許権2に係る発明(以下「本件核発明」という。)の技術範囲に属し、それらの製造、販売が上記各特許権の直接侵害行為に該当するとともに、②控訴人Nが被告各製品の一部に使用する顆粒剤を製造、販売した行為は、上記各特許権の間接侵害行為(特許法101条1号及び2号)に該当するなどとして、控訴人らに対し、同法100条1項及び2項に基づく被告各製品及び顆粒剤の製造、販売等の差止め及び廃棄並びに、別紙「請求一覧」のとおり、特許登録日から各項記載の日までの期間の不法行為に基づく損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた。

(3)原判決(注:大阪地方裁判所平成30年6月28日判決・判例秘書登載)は、被控訴人の控訴人らに対する差止め及び廃棄請求を認容するとともに、控訴人らに対する損害賠償請求の一部を認容し、その余の請求を棄却したため、控訴人らが控訴した。
被控訴人は、控訴審において、控訴人らに対する差止め及び廃棄請求を取り下げた。


【争点】

(1)被告各製品は本件各発明の技術範囲に属するか(構成要件1-1C及び2-1-Cの充足性)(争点1-1)
(2)被告各製品は本件各発明の技術範囲に属するか、間接侵害の成否(構成要件1-1A充足性等)(争点1-2)
(3)から(6)まで 争点2から5まで 略
(7)原告の損害(争点6)
 ア 特許法102条2項(争点6-1)
 イ 特許法102条3項(争点6-2)
   以下、争点6についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)特許法102条2項(争点6-1)
 ア 特許法102条2項について
  a)特許法102条2項は、「特許権者が…故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者…が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害との因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証には困難が伴い、その結果、妥当な損害の填補がされないという不都合生じることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その損害の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。
そして、特許権者に、侵害者による特許権侵害がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
  b)被控訴人は、平成11年9月以降、「○○」等の商品名でジェル罪と顆粒剤からなる2剤混合型の炭酸パック化粧料を製造、販売している。これらの製品(以下、併せて「原告製品」という。)は、本件発明1-1及び本件発明2-1の実施品である。
   これによれば、本件において、被控訴人に、控訴人らによる特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在することが認められ、特許法102条2項の適用が認められる。
  c)そして、特許法102条2項の上記趣旨からすると、同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。
   もっとも、上記規定は推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅されるものということができる。
 イ 侵害行為により侵害者が受けた利益の額
  a)利益の意義
   特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
被控訴人は、被告各製品(以下、控訴人Nとの関係では顆粒剤を含む。)に係る、本件特許1の登録日である平成23年1月7日から、控訴人ごと及び製品ごとに別紙「請求一覧」各項記載の日までの期間(以下「本件損害期間」という。)の控訴人らの売上高及び経費は、別紙「売上高・経費一覧表」の「売上高」欄及び「争いのない経費」欄記載のとおりであるとして、同項所定の利益の額につき、別紙「損害額一覧表」の「被控訴人主張額」「2項による損害額」欄記載のとおり主張する。
  b)売上額
   被告各製品に係る本件損害期間の控訴人らの売上高が別紙「売上高・経費一覧表」の「売上高」欄記載のとおりであることについては、当事者間に争いはない。
  c)控除すべき経費
   前記のとおり、控除すべき経費は、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要になったものをいい、例えば、侵害品についての原材料費、仕入費用、運送費等がこれに当たる。これに対し、例えば、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経緯費には当たらない。
   そして、被控訴人は、本件損害期間に係る上記原材料費、仕入費用及び運送費用等控除すべき経費として別紙「売上高・経費一覧表」の「争いのない経費」欄記載のとおり主張し、この額の限度では当事者間に争いがない。
控訴人らは、同別紙「控訴人らの主張する経費」欄記載のとおり、さらに控除すべき経費を主張するので、以下において判断する・
  (a)控訴人KMの宣伝広告費(被告製品5)
   控訴人KMは、被告製品5についてのプロモーション代として108万9837円を支出したことが認められ、これは同製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものといえるから、同製品の売上高から控除すべき経費に当たる。
  (b)他の控訴人の他の経費
   いずれについても、控除すべき経費とみるのは相当でない。
  d)小括
   したがって、別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」「2項による損害額」欄記載の額が、控訴人らの特許権侵害行為により被控訴人が被った損害の額と推定される。
 ウ 推定覆滅事由について
  a)推定覆滅の事情
   特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば、
  ①特許権者と侵害者の業務態様等に相違があること(市場の同一性)
  ②市場における競合品の存在
  ③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)
  ④侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)
などの事情について、特許法102条1項ただし書の事情と同様、同条2項についても、これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。
   また、特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても、推定覆滅の事情として考慮することができるが、特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置づけ当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。
  b)控訴人らは、被告各製品は原告製品に比べて顕著に優れた効能を有すると主張する。
   侵害品が特許権者の製品に比べて優れた性能を有するとしても、そのことから直ちに推定の覆滅が認められるのではなく、当該優れた効能が侵害者の売上げに貢献しているといった事情がなければならいというべきである。
被告各製品と原告製品は、いずれも本件発明1-1及び本件発明2-1の実施品であり、炭酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させ、得られた二酸化炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ、皮膚に適用して二酸化炭素を皮下組織等に供給することにより、美肌、部分肥満改善等に効果を有するものであると認められるのであり、被告各製品が原告製品に比して顕著に優れた効能を有し、これが控訴人らの売上げに貢献しているといった事情を認めるには足りず、ほかにこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
  c)被控訴人らの主張するその余の点についても、特許法102条2項の推定覆滅事由とはならないものであり、以上によれば、本件において同項の推定の覆滅は認められない。なお、本件特許権1及び本件特許権2の内容に照らし、一方のみを侵害していた期間と両方を侵害していた期間で損害額を異にするものではない。
 エ 以上より、本件各特許権侵害について、特許法102条2項により算定される損害額は、別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」「2項による損害額」欄記載のとおりである。

(2)損害(特許法102条3項)(争点6-2)
 ア 特許法102条3項について
  a)被控訴人は、選択的に、別紙「損害額一覧表」の「被控訴人主張額」「3項による損害額」欄記載のとおり、特許法102条3項により算定される損害額も主張している。特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定したものである。
  b)特許法102条3項は、「特許権者…は、故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定する。そうすると、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
 イ その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
  a)特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については、平成10年法律第51号による改正前は「その特許発明により通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ、「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして、同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。
特許発明の実施許諾契約においては、技術的範囲の属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で、被許諾者が最低保証額を支払い、当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し、技術的範囲に属し当該特許が無効とされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には、侵害者が上記のような制約を負うものではない。
   そして、上記のような特許法改正の経緯に照らせば、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
   したがって、実施に対し受けるべき料率は、
  ①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率、それが明らかでない場合に業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、
  ②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性
  ③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様
  ④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針
等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべきである。
  b)本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料率は、本件訴訟に現れていないところ、
  ①本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が、国内企業のアンケート結果では5.3%で、司法決定では6.1%であること
及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決金を売上高の10%とした事例があること
  ②本件発明1-1-及び本件発明2-1は相応の重要性を有し、代替技術があるものではないこと
  ③本件発明1-1-及び本件発明2-1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること
  ④被控訴人と控訴人らは競業関係にあること
など、本件訴訟に現れた事情を考慮すると、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、本件での実施に対し受けるべき料率10%を下らないものと認めるのが相当である。なお、本件特許権1及び本件特許権2の内容に照らし、一方のみの場合と両方を合わせた場合でその料率は異ならないものと解すべきである。
 ウ 以上より、本件各特許権侵害について、特許法102条3項により算定される損害額は、別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」「3項による損害額」欄記載のとおりである。

(3)結論
   控訴人KM(被告製品5)については、前記(2)で認定した特許法102条3項に係る損害額が、前記(1)で認定した同条2項に係る損害額よりも高いから、同条3項に係る損害額(及び弁護士費用)をもって被控訴人の損害額と認めるべきことになる。
   他方、その余の控訴人らについては、いずれも前記(2)で認定した同条2項に係る損害額の方が高いから、この金額を(及び弁護士費用)もって被控訴人の損害額と認めるべきことになる。


 

知財高裁平成28年4月27日判決(判例時報2321号85頁)

被告旧プログラムは、原告プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有することから、これを複製又は翻案したと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)原審の各請求の概要
 ア 原審A事件
   被控訴人(1審原告)は、原判決別紙被告プログラム目録一記載のプログラム(以下「被告旧バージョン」という。)のうち接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「被告旧接触角計算(液滴法)プログラム」という。)は、控訴人(一審被告)Nが、同X(注:Nの従業員であり、被控訴人の元従業員)の担当の下に、原判決別紙原告プログラム(以下「原告プログラム」という。)のうち接触角計算(液滴法)プログラム」(以下「原告接触角計算(液滴法)プログラム」という。)を複製又は翻案したものであり、控訴人Nが被告旧バージョンを搭載した製品(自動接触角計)を製造、販売することは、被控訴人の原告接触角計算(液滴法)プログラムに対する著作権を侵害する行為であるなどと主張して、控訴人N及び同Xに対し、連帯して、1084万2000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
 イ 原審B事件 略
 ウ 原審C事件 略

(2)原判決の内容
 ア A事件
   原判決は、被告旧接触各計算(液滴法)プログラムは、プログラムの著作物である原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものと認められる旨を判示して、被控訴人のA事件請求を、控訴人N及び同Xに対し、損害賠償金として、連帯して190万1258円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した(一部認容)。
 イ B事件 略
 ウ C事件 略

(3)控訴及び附帯控訴
   控訴人らは、原判決中の敗訴部分を不服として、その取消しを求めて本件控訴を提起した。また、被控訴人は、附帯控訴して、原判決中の敗訴部分の取消しを求めた。


 【争点】

(1)原審A事件請求
 ア 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムを複製又は翻案したものであるか否か(争点1)
 イからオまで 略
(2)原審B事件請求 略
(3)原審C事件請求 略
   以下、(1)アについての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)認定事実
 ア 原告プログラムの構造等
  a)原告プログラムは、接触角(静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で、液面と固体面とのなす角。液の内側にある角をとる。)を自動で測定するための自動接触角計に搭載するプログラムである。
   被控訴人は、自動接触角計である原判決別紙原告製品目録記載の各製品(以下「原告各製品」という。)を製造、販売しているところ、原告各製品は、試料(固体)ステージ、レンズ、カメラ及び液滴を作るための注射器を備え、専用のソフトウエアである原告プログラムを搭載している。
  b)原告プログラムは、プログラム言語Visual Basic Version 6(VB)を用いて記述された他機種対応型のプログラムである。
   原告接触角計算(液滴法)プログラムは、原告プログラムを構成するプログラムの一つであり、θ/2法、接戦法により液滴の接触角を計測するため、固体試料上に作成した液滴を水平方向から撮影した画像を解析し、端点、頂点、円弧状の左右三点の座標を求めて接触角を自動計測する機能を有している。
  c) 原告接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね原判決別紙「FAMAS ver3.1.0接触角(液滴法)計算部分(i2einにない機能も含む)」(以下「原告ツリー図」という。)のとおりである。
   原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち、θ/2法、接線法による接触角計算のための主要なプログラムである番号(1)ないし(16)の16個のプログラム(以下「本件対象部分」という。)のソースコードの内容は、【別添一〇―二】((3)針先検出法)その他の原判決別紙(以下、併せて「ソースコード対照表一」という。)の、各「FAMASソース(元のソースそのまま)」欄に記載のとおりである。
  d)原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードは、2525行からなり、このうい、本件対象部分のソースコードは、2055行である。
 イ 被告旧バージョンの構造等
  a)被告旧バージョンは、接触角計算機能を有するプログラムである。
   控訴人Nが製造販売する原判決別紙被告製品目録記載の各製品(以下「被告各製品」という。)は、液滴法により接触角を自動計測する自動接触角計であるところ、ハード面として、試料ステージ、レンズ、カメラ、液滴を作るための注射器を備えており、被告旧バージョンは、被告製品一ないし三及び六に搭載されていた。
  b)被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、被告旧バージョンを構成するプログラムの一つであり、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様の機能を有するほか、同プラグラムにない機能も有する。
  c)被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのプログラム構造は、おおむね原判決別紙「被告の旧バージョンにおける接触角計算メインのプログラム構造」(以下「被告旧ツリー図」という。)のとおりであるが(原告ツリー図の番号と同一の番号のものは原告プログラムと同様の機能を有するプログラムである。)、他に(番号10―1)のプログラムがあり、「(1)接触角計算メイン」から「(16)接線法計算」までの16個に番号(10―1)のプログラムを加えた各ソースプログラムの内容は、ソースコード対照表一の各「i2winソース(改変前)」欄に記載のとおりである。
  d)被告旧接触角(液滴法)プログラムのソースコードは、1923行からなり、このうち本件対象部分のソースコードは、1320行である。
 ウ 本件対象部分における共通点
  a)プログラム構造の対比
   原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分のソースコードは、(略)記載のとおりである。 
   被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分のソースコードは、原告接触角計算(液滴法)プログラムと同様に、
   「(1)接触角メイン」プログラムが、「(10)閾値自動計算」、「(2)液滴検出」、「(11)端点検出」、「(12)無効領域検出」及び「(13)頂点検出」の各プログラムを「Call」文で呼び出し、
   次いで、θ/2法による接触角計算を行う場合には「(15)接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行い、接線法による接触角計算を行う場合には、「(14)接線法用表面検出」プログラムを「Call」文で呼び出した後に「(15)接触角計算」プログラムを「Call」文で呼び出してこれを行うものとして記載されており、
以上の点において両者は共通である。
  b)ソースコード全体における対比
   本件対象部分について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、以下の共通点がある。
  (a) それぞれの番号(1)ないし(16)のプログラムが、ほぼ同様の機能を有するものとして一対一に対応しており、各プログラムの内のブロック(ソースコード対照表一における「F1」、「I1」など)が機能的にも順番的にも、ほぼ一対一に対応している。
  (b) 被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードの約44%(ソースコード対照表一の黄色部分)は、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと変数・構文ともに一致する。
   また、その約42%(ソースコード対照表一のオレンジ色部分)は、変数、関数又は定数の名称の相違、引数が付加されているなどの引数の数の相違、変数が配列化されているか否かの相違、配列の参照が関数化されているか否かの相違、条件判断に用いられているのが「if」文か「Select Call」文かといった相違があるものの、これらの相違を除くとおおむね一致している。
   さらに、両者のソースコードの記載の順序も、同一又は類似する部分が多い。
  c)ソースコード対照表一の【別添一〇―二】における対比
   本件対象部分のうち、ソースコード対照表一の【別添一〇―二】(「(3)針先検出」プログラム)について、原告接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムのソースコードを対比すると、以下の共通点がある。
  (a)パラメータ(引数)や変数の名称
   被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは18個のパラメータ(引数)や変数を利用しているが、そのうち13個の名称が、原告接触角計算(液滴法)プログラムにおけるものと同一である。
   また、そのうち2個は、名称が異なっているものの(「meas_para」と「ca_para」、「proc_count」と「draw_count」)、変数の一部が異なっているだけで、類似する(注:以下、「(b) パラメータ(引数)や変数の定義の順序」、「(c) パラメータ(引数)や変数の型」、「(d)構文」、「(e)針先検出ブロックにおける定義のねじれ」及び「(f)行連結文字「「」」の位置」について、同様の検討が行われているが、省略する。)。
 エ 他の表現の選択可能性(選択の幅)
  a)プログラム構造
   原告接触角計算(液滴法)プログラムや被告旧接触角計算(液滴法)プログラムに見られる処理を行うためのソースコードの記載方法としては、例えば、
  ①「(1)接触角メイン」プログラムが、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを呼び出し、
   次いで、これらがそれぞれ「(10)閾値自動計算」、「(2)液滴検出」、「(3)針先検出」、「(11)端点検出」等のプログラムを呼び出すように記載する方法、
  ②接線法による接触角計算を行うプログラムを、θ/2法による接触角計算を行うプログラムのサブプログラムとして記載する方法
  ③「(1)接触角メイン」プログラムを経由せず、θ/2法による接触角計算を行うプログラムや接線法による接触角計算を行うプログラムを外部から直接に呼び出すように記載する方法など、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
   また、そもそも液滴法による接触角計算に必要な機能のうちどの機能をサブルーチン化して個別のプログラムとして構成するか、各プログラム中でどのようにブロックを構成するかについても、原告接触角計算(液滴法)プログラムの方法以外にも、他の複数の記載方法を採用することが可能である。
  b)各プログラムにおけるアルゴリズム
   原告接触角計算(液滴法)プログラムの「(10」閾値計算」のアルゴリズムは、背景における左右の代表2点における輝度を測定し、その平均値を基準に白黒判定の閾値を決定するというものである。
   閾値計算の方法としては、上記方法以外に、一般的手法として、モード法(画像の輝度ヒストグラムを作成し、二つのピーク位置の間にある最も深い谷の輝度を閾値とする方法)やPタイル法(画像の二重化したい領域が全画像の領域に占める割合をパーセントで指定して二極化する方法)等がある。
   また、原告接触角計算(液滴法)プログラムのアルゴリズムと同様の方法によるとしても、閾値計算のための代表点の選定方法としては、二点ではなくより多くの点を選定したり、背景における左右の点ではなく、上下や斜めの点を選定するなど、複数の組み合わせが考えられる(注:以下、「(3)針先検出」、「(11)端点検出」、「(13)頂点検出」及び「(14)接線法用表面検出」の各アルゴリズムについて、同様の検討が行われているが、省略する。)。
  c)ソースコードの記述
   原告接触角計算(液滴法)プログラムで用いられているVBでプログラミングを行う際、変数、定数、関数及び定数などの名称は作成者が事由に決めることができ、名称の如何によりコンパイル後のオブジェクトコードに差異は生じないから、異なる名称を付した場合であっても、電子計算機に対して同様の指令を行うことができる。
   また、パラメータ(引数)や変数定義の順序も、作成者において自由に決めることができる。
   さらに、同様の処理をサブルーチン化するかどうかを選択することができるほか、変数を配列化したり、変数の参照をパラメータ(引数)や関数としたりすることが可能であるし、繰り返し処理を行う場合のループ文の種類は「For~Next」、「Do~Loop」等複数あり、条件判断を行う場合にも「if」文や「Select Case」文により行うことができ、どのような関数を用いるかを選択することができるなど、同一内容の指令についてのソースコードの記載の仕方や順序には、一定の制約の下であるが、ある程度の多様性がある。

(2)複製又は翻案の成否
 ア 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号)、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同項1号)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その創作的な表現部分同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年6月28日判決)。
   したがって、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる場合には、複製又は翻案に該当する。
   他方、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないというべきである。
 イ 依拠性
   前記(1)記載のとおり、原告接触角計算(液滴法)プログラムをその構成要素として含む原告プログラムは、被控訴人の従業員であった控訴人Xが、主に担当して作成されたものであるから、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成した控訴人Xにおいて、原告接触角計算(液滴法)プログラムの存在及びその表現内容を認識していたことは明らかである。
   そして、控訴人Xが、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムをその構成要素として含む被告旧バージョンを作成するに際し、原告プログラムを参考にしたことを自認していることに加え、前記(1)認定の原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの同一性に照らせば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムに依拠して作成されたものであると認められる。
 ウ 創作的な表現の同一性
  a)プログラムは、その性質上、表現する記号が制約され、言語体系が厳格であり、また、電子計算機を少しでも経済的、効率的に機能させようとすると、指令の組み合わせの選択が限定されるため、プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。
   著作権法は、プログラムの具体的表現を保護するものであって、機能やアイデアを保護するものではないところ、プログラムの具体的記述が、表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一なるもの、ごく短いもの又はありふれたものである場合においては、作成者の個性が発揮されていないものとして、創作性がないというべきである。
   他方、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序からなるプログラム全体に、他の表現を選択することができる余地があり、作成者の何らかの個性が表現された場合においては、創作性が認められるべきである。
  b) 原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分は、
  ①前記(1)ウa)(プログラム構造の対比)のとおり、そのプログラム構造の大部分が同一であること
  ②前記(1)ウb)(ソースコード全体における対比)(a)のとおり、ほぼ同様の機能を有するものとして一対一に対応する番号(1)ないし(16)の各プログラム内ブロック構造において、機能的にも順番的にもほぼ一対一の対応関係が見られること
   ③前記(1)ウb)(ソースコード全体における対比)(b)及びc(ソースコード対照表一の【別添一〇―二】における対比)のとおり、これらの構造に基づくソースコードは、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分の約86%において一致又は酷似している上に、その記載順序及び組合せ等の点においても、同一又は類似している。
   そして、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は、これを全体として見たとき、前記(1)エ(他の表現の選択可能性(選択の幅))のとおり、指令の表現、指令の組合せ、指令の順序などの点において他の表現を選択することができる余地が十分にあり、かつ、それがありふれた表現であるということはできないから、作成者の個性が表れており、創作的な表現である。
  c)したがって、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が本件対象部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。

(3)結論
   以上によれば、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分を複製又は翻案したものである。