東京地裁平成29年3月13日判決(労働判例1189号129頁)

労働者が、違法な退職強要行為によりうつ病を悪化させた場合、労働基準法19条1項の趣旨から、休職期間満了に伴う当然退職扱いは許されない旨判示した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)原告(昭和39年〇月生)は、平成14年6月に資格取得講座を開設する会社を退職後、非正規社員として稼働しながら、税理士の資格取得を目指して勉強を続けていた。そして、原告と株式会社E(以下「被告会社」という。)は、平成25年3月4日、被告会社の顧問であるK公認会計士(以下「K会計士」という。)の紹介で、同年1月1日付けで、期限の定めのない雇用契約を締結した。
   被告会社は、介護保険法に基づく居宅サービス事業等を目的とする会社である。被告会社は、本社に総務部、経理部等を置くほか、首都圏を中心に合計21箇所の事業所を設置している。

(2)原告は、被告会社に入社後、主としてCの指導の下、同人とともに、帳簿入力その他の経理業務を行っていたが、仕事の覚えは芳しいものではなかった。また、原告は、Cが平成25年6月17日から産休に入ったため、上記業務を概ね1人で担当することとなったが、その処理に誤りが多いことから、同年7月頃からは、FやAらが原告の経理業務を補助したり確認したりするようになった。原告は、この頃から、勤務中に過呼吸状態になることや精神状態が不安定になることがあり、応接室で横になって休憩することもあった。
   原告は、平成25年秋頃から平成26年3月にかけて、Fらから従前の経理業務のほかに、銀行とのファクタリング契約の更新手続その他の業務を指示され、これを行った。しかし、原告の経理業務には、処理の誤りなどが多く、Fがこれについて注意指導しても改められず、同様の誤りを繰り返していた。
   原告は、平成26年1月6日、本社が暫く休業していたため、通常よりも多量な経理業務を処理していたところ、不安、めまい、ふるえ、過呼吸等の症状が出たため早退した。原告は、同月8日、D医師の診察を受けたところ、同医師の診断は、ごく軽症であって就労継続も可能というものであった(なお、原告の傷病手当金の支給申請書におけるD医師の意見欄では、原告のうつ病発症時期は、平成26年1月頃とされている。)。しかし、原告は、同月13日頃にも、勤務時間中に無意識に上体を大きく回すなど精神的に不安定な状態が続いていた。

(3)原告は、平成26年1月頃から同年3月頃までの間、種々の業務上のミスを発生させた。そこで、被告会社は、平成26年5月初め頃、原告を経理業務の主担当から外し、これを同年4月21日に育休から復帰したCと経理業務の経験がある派遣社員のJに行わせ、原告については、経理業務の補助と電話対応業務等を行わせることとした上、同年5月8日、原告に対し、経理業務に使用するパソコンが設置されている席から他の席への移動を命じた(本件配転命令1)。
   被告会社の代表取締役である被告乙は、平成26年5月21日、原告に対し、「もう経理の仕事はない。自分で何ができるか考えろ。」などと述べた(本件退職強要行為1)。このような状況の元、原告は、同月26日以降、出勤をせず、L弁護士に被告会社との交渉を委任した。L弁護士は、同年6月11日、被告会社に対し、原告に対する退職強要行為を止め、経理業務に復帰させるよう要求した。これを受けて、Bは、L弁護士との間で、復帰後に原告が担当する業務内容等について相談をした。
   被告乙、B及びAは、平成26年6月16日、原告と面談した。この際、被告乙は、原告に対し、時折大声を出して一方的に捲し立てた。また、Bは、原告に、今後の業務内容等についての誓約書を書かせた(本件退職強要行為2)。

(4)被告会社が、平成26年6月17日以降、原告に対し、預金口座の残高確認等の業務をさせていたところ、Aは、同年8月12日、原告に対し、被告会社が計画中であった立川分社化パイロットプロジェクトに関するレポート(以下「本件レポート」という。)を1週間以内に提出するよう命じた。原告は、K会計士からの助言も参考として、同月19日、A及びBに対し、本件レポートを提出した。
   A及びBは、同日、原告と面談した。この際、A及びBは、原告に対し、本件レポートの内容が分かりにくいなどと述べるとともに、「お願いしている方が間違い?」、「ご自分でこれはできるというのはないんですか。」などと述べた。原告は、「掃除とかですね、皿洗いとかできるかなと。」などと述べた(本件退職強要行為3)。
   A及びBは、平成26年8月26日、原告と面談を行った。この際、Aは、原告に対し、同人を同年9月1日付けで立川事業所に異動させ、清掃スタッフとして介護施設等の清掃業務に従事させるとともに(本件配転命令2)、その雇用条件を正社員からパート社員に変更するとの提案をした上で(本件雇用条件変更)、同月28日午後3時までに回答をもらうこととして面談を終了した(本件退職強要行為4)。

(5)原告は、平成26年8月27日、D医師の診察を受け、病名「うつ病」、同年1月頃より不安、めまい、ふるえ、過呼吸、職場の対人関係の葛藤等があり、同月8日に同院を初診、精神症状が改善しないため、同年8月27日より向後1か月間の自宅療養と外来通院治療を必要とするとの診断を受けた。
   原告は、同月28日、被告会社に電話をかけて、Aに対し上記診断の概略を伝えた。
   その後、被告会社は、原告から郵送で上記診断書の提出を受けたことから、原告に対する配転命令を発令せず、同人に対し、就業規則40条ないし42条に基づき、同月27日から同年11月26日までの間の本件休職辞令を発令した。
   なお、原告は、同年8月27日から現在まで、被告会社に出勤しておらず、被告会社は、同日以降の賃金を支払っていない。


【争点】

(1)違法な退職強要行為、配転命令及び雇用条件変更命令の有無、雇用契約上の義務の不存在確認請求・慰謝料請求・将来の退職強要行為の差止請求の可否(争点1)
(2)本件休職の帰責性、地位確認請求及び賃金請求の可否(争点2)
(3)未払割増賃金の有無及び付加金請求の可否(争点3)
   以下、上記(1)及び(2)についての裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(3)について、裁判所は未払割増賃金32万3237円及びこれと同額の付加金の支払請求を認めた。


【裁判所の判断】

(1)争点(1)について
   原告は、被告乙、A及びBは、違法な退職強要行為1ないし4を繰り返し、業務上の必要性のない本件配転命令1、2及び本件雇用条件変更命令を行ったと主張するので、以下検討する。
 ア 本件退職強要行為1及び本件配転命令1
   被告乙ないしその意を受けたA及びBが、原告を経理業務の主担当から外したことは、原告を退職に追い込もうとするなどの不当な目的によるものとは認め難く、業務上の必要性に基づくものと認められ、原告に通常甘受し難い不利益を与えるものとも認められないから、不当ないし違法ということはできない。
   また、被告乙が、原告に対し、経理の仕事はないとか、自分で何ができるか考えろと述べたことは、被用者に対する配慮に欠ける面はあるものの、退職を強要するものとまではいえず、直ちに違法不当ということはできない。
   したがって、被告乙、A及びBによる原告に対する違法な本件退職強要行為1及び本件配転命令1は、認めることはできない。
 イ 本件退職強要行為2
   原告が経理業務の主担当から外されたことに不満を持ち、あっせんの申立てをしたり、弁護士に交渉を委任すること自体は何ら不当なではなく、被告会社が原告を経理業務の主担当から外した経緯等を踏まえても、上記乙やBによる本件退職強要行為2(注:その詳細につき、別紙2・労働判例1189号・145頁以下参照)が正当化される余地はなく、その態様の悪質性からしても違法というほかない。
 ウ 本件退職強要行為3、4、本件配転命令2及び本件雇用条件変更命令
   被告会社が原告に対し、立川事業所において清掃スタッフとして勤務することを命ずる旨の本件配転命令2やこれに伴い原告の雇用条件を正社員からパート社員に変更する旨の本件雇用条件変更命令を発令したと認めることはできない。
   しかし、A及びBは、本件退職強要行為2やその後の処遇に委縮する原告に対し、上記配転命令発令の可能性に言及しつつ、辞職を迫ったものであり(注:その詳細につき、別紙3及び同4・労働判例1189号・146頁以下参照)、その態様等に照らして、本件退職強要行為3、4を正当化することはできず、違法と認められる。
 エ 雇用契約上の義務の不存在確認請求の可否
   上記ウによれば、被告会社は、本件配転命令2を発令したと認めることはできず、現時点においても、これを前提とした主張はしていないから、本件訴えのうち、原告が、被告会社立川事業所において清掃スタッフとして勤務する雇用契約上の義務のないことの確認を求める部分は、確認の利益が認められず、不適法却下を免れない。
 オ 慰謝料請求の可否
   上記イ及びウによれば、被告乙、A及びBによる本件退職強要行為2ないし4は違法であり、原告に対する不法行為に当たる。
   被告らの不法行為による原告の損害は、合計33万円と認めるのが相当であり、他にこの認定を覆すに足りる証拠は存在しない。
 カ 将来の退職強要行為の差止請求の可否
   原告の被告らに対する将来の退職強要行為の差止請求は、認めることができない(詳細略)。

(2)争点(2)について
 ア 平成26年1月頃発症したうつ病自体に業務起因性が認められるか否かは判然としない。しかし、原告は、その後も勤務自体は可能であったところ、被告乙、A及びBによる違法な本件退職強要行為2ないし4によりうつ病を悪化させ、職務に従事することができなくなったものと認められる。
   そうすると、原告は、業務上の事由による傷病により就業できなくなったものであり、就業規則40条(1)「業務外の傷病」には当たらない上、労働基準法19条1項の趣旨に照らすと、休職期間満了に伴う当然退職扱いは許されない。
 イ 上記(1)ウのとおり、被告会社の原告に対する本件雇用条件変更命令の発令は認められない。しかし、被告会社は、原告が休職期間満了に伴い退職したとして、本件雇用契約の終了を主張している。よって、原告の被告会社に対する地位確認請求は、原告が、被告会社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める限度で理由がある(注:他方、正社員として勤務する雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は認められない。)。
 ウ 上記アのとおり、原告は、本件退職強要行為2ないし4により。うつ病が重篤化して就労ができなくなったのである。よって、本件休職期間中の労務提供の不履行は、使用者である被告会社の責に帰すべき事由によるものであるから、原告は、民法536条2項に基づき、以下のとおり、被告会社に対する賃金請求権を有する(なお、原告が、(注:平成27年9月頃)傷病手当金の支給申請をし、これを受給していたとしても、これをもって原告が業務外の傷病であることを自認したとか、本件休職期間中の賃金請求権を喪失したと解することはできない。)。
  a)平成26年8月分の未払賃金(欠勤控除分) 2万9241円
  b)同年9月分以降の賃金 月額21万2000円(基本給15万7000円、業務手当5万5000円の合計。なお、原告は、平成26年8月27日以降、被告会社に出勤していないから、通勤費2万2940円の請求は認められない。)

(3)結論
   以上によれば、本件訴えのうち、原告が、被告会社立川事業所において清掃スタッフとして勤務する雇用契約上の義務のないことの確認を求める部分は、確認の利益がないからこれを却下し、原告のその余の請求は、主文第2項ないし第6項(略)の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する(一部認容)。


 

神戸地裁伊丹支部平成30年11月27日判決(自保ジャーナル2039号1頁)

後遺障害逸失利益等の算定における中間利息控除のための基準時は、本件事故時ではなく、症状固定時であるなどと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成22年7月22午後7時40分頃
   発生場所 兵庫県伊丹市内の交差点
   原告車両 原告A(平成7年9月生)運転の自転車
   被告車両 被告運転の普通貨物自動車
   事故態様 原告自転車が、本件交差点に設置された横断歩道を、青信号に従って西から東に向けて直進中、被告車両が、本件交差点を東から南に向けて左折しようとして、横断歩道上の原告自転車に衝突した。

(2)原告Aは、本件事故により、左急性硬膜下血腫、脳挫傷、頭蓋骨骨折、遷延性意識障害、外傷性水頭症等の傷害を受けた。
   原告Aは、本件事故から869 日目である平成24年12月6(注:原告Aは、満17歳)、B病院の医師から、「傷病名」を「頭部外傷」、「精神・神経の障害」について、「意識障害あり。開眼はしているが、発語なく、反応なし。四肢麻痺があり、四肢の随意的な動きはまったくない。嚥下はある程度可能であるが、主たる栄養は胃ろうによる経管栄養である。視力、聴力は測定不能。全介助状態である。」、「上肢・下肢および手指・足指の障害」について、「自動運転は全くない」、「障害内容の増悪・緩解の見通し」について「症状の改善の見込みはない」との内容で、症状固定の診断を受けた。

(3)原告Aは、平成25年2月12日、C保険会社から、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として、後遺障害1級1に該当するとの認定を受けた。
   原告Aは、D家庭裁判所a支部において、平成28年4月16日確定の後見開始の審判を受け、成年後見人として、原告E(原告Aの父。身上監護事務を分掌)及びF弁護士(財産管理事務を分掌)が専任された。

(4)原告E及び原告G(原告Aの母)は、原告Aの両親であり、原告Hは原告Aの姉であり、原告Iは原告Aの兄である。


 【争点】

(1)過失相殺
(2)原告Aの損害(とりわけ将来治療費、付添看護費、将来介護費、将来雑費、後見関係費用)
(3)他の原告らの近親者慰謝料(とりわけ兄弟姉妹の慰謝料請求を認めるべき特段の事情)
   以下、上記(2)及び(3)についての裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(1)について、裁判所は、本件事故は、被告の一方的過失によるものとして、過失相殺はしないと判示した。


【裁判所の判断】

(1)原告Aの損害
 ア 損害額算定に当たっての先決判断
  ①将来治療費、将来介護費、後遺障害逸失利益等の算定における中間利息控除のための基準時
   標記の争点について、原告Aは症状固定時を主張し(注:労働能力喪失期間については、満17歳から満67歳までの50年に対応するライプニッツ係数18.2559から満17歳から満18歳までの1年に対応するライプニッツ係数0.9524を差し引いた17.3035によることとなる。)、被告は本件事故時(注:労働能力喪失期間については、満14歳から満67歳までの53年に対応するライプニッツ係数18.493から満14歳から満18歳までの4年に対応するライプニッツ係数3.546を差し引いた14.947によることとなる。)を主張する。
   当裁判所は、症状固定時をもって損害の価値の現在化をすべきものと判断する。仮に、事故時を基準として損害の価値の現在化のために中間利息を控除すれば、遅延損害金が単利で計算されるのに対して明らかに価値の現在化によって差し引かれる金額が多額になり、被害者が必要以上に不利益に扱われることとなることなどからは、現実に具体的な損害が発生するといえる症状固定時を損害の現在化の基準時とするのが相当というべきである。
   被告は、損害発生時期や遅延損害金の発生時期と同様に考えるべきである旨主張するが、上記のとおりであり、採用することはできない。
  ②年少女子の後遺障害逸失利益の算定における基礎収入
   当裁判所は、原告Aが本件事故時に14歳であったことから、平成24年度賃金センサス男女計・全年齢平均賃金を採用する。
  ③将来介護費の算定に当たり、障害福祉制度の存続を前提とすべきかどうか
   原告は、これを前提とせず、被告は、これを前提とすべきと主張する。しかしながら、ここでの問題は、職業介護費の算定の前提となる介護費用の単価を左右する介護報酬の金額が上昇するのか低下するかの蓋然性の問題であって、制度そのものの存続の蓋然性それ自体が問題であるとはいえない。
   そして、証拠(略)によれば、現状では介護報酬が低下する蓋然性があると認めるに足りない。そうすると、障害福祉サービスの単価が現状を維持するものとの前提で将来介護費について検討するのが相当である。
   なお、原告は、音楽療法の費用を将来介護費に含めて請求するところ、音楽療法が、原告Aにとっては、医学的にも有用であるものと認めるのが相当であるから、これを介護費に含めて請求することは認めるのが相当である。
 イ 将来治療費 197万2,843円
   原告Aは、症状固定後も、引き続き本件事故により生じた症状のため、身体機能を維持し、体調を管理するために脳外科、眼科、神経内科等の治療を必要としており、その内容も相当と認められる。よって、これに要する治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害に当たり、口頭弁論終結後に要する治療費も、その請求をする必要があるというべきである。
 ウ 付添看護費 909万5,476円
   原告E及び原告Gが、原告Aのために付添看護をしたことについては、これに要したと認められる費用相当額が原告Aの損害となる。
   原告Gは、本来J病院勤務の看護師として就労していたにもかかわらず、原告Aの付添いをするために(その必要性・相当性は、原告Aの症状に照らせば優に認められる。)病院を退職せざるを得ず、これによって、平成21年度給与所得375万5,686円を喪失したのであるから、その填補の趣旨での損害を認めるのが相当である。そうすると、付添看護費の日額は、上記の原告Gの年収に基づく日額と一般的に認められる日額のうち高額な方とすべきであるところ、前者は1万0,289円(円未満切捨て)となり、後者は6,000円が相当であるから、高額な前者を採用する。
 エ 将来介護費 1億3,163万3,110円
  ①)原告Aが特別支援学校を卒業するまで(症状固定から3年間・ライプニッツ係数2,7232) 1,458万4,043円
   近親者介護費は、平日は日額1万円、訪問介護を利用しない土・日曜日は、2名で介護すべき部分があることも考慮して日額1万3,000円が相当である。
   また、職業介護費については、自宅に戻ってからK特別支援学校に入学するまでの期間も含めて、訪問介護サービスを利用していることから、1回5,398円を請求するので、これによる。
  ②原告Aの特別支援学校卒業から原告Gが67歳に達するまで(症状固定後4年目から20年目まで) 8,464万6,224円
   近親者介護費は、平日は日額8,000円、土・日曜日は、入浴介護と月2回施設介護費があることを考慮して日額1万円が相当である。
   また、職業介護費については、障害者総合支援法に基づく公費負担が現にされた部分は、現実に原告Aが負担した自己負担額を基準とすべきであるが、利用が増えている部分は割合的に増額するのが相当であるから、口頭弁論終結時点までは自己負担額の平均月額2万4,110円を増額した2万8,000円により、将来分については、公費負担部分を含むサービス費総額を基準とすべきであるが、これも割合的に増額するのが相当であるから、サービス費総額平均月額49万5,454円を割合的に増額した58万円により、損害として計上することとする。
  a)平成28年1月から同30年7月まで・ライプニッツ係数は症状固定後3年目から同5年7ヶ月目まで4.7647―2.7232=2.0415) 705万5,424円
   b)将来分・ライプニッツ係数は症状固定後5年8ヶ月目から20年目まで12.4622-4.7647=7.6975) 7,759万0,800円
  c)合計 8,464万6,244円
  ③原告Gが67歳に達した後(症状固定から21年目以降・ライプニッツ係数は19.3098―12.4622=6.8476) 3,240万2,843円
   原告E及び原告Gは、原告Aを現在と同様に自宅で介護し、2人が亡くなった後は原告H及び原告Iに介護に関わってほしいとの希望を持っており、原告H、及び原告Iも自宅での介護に協力する意向を有しているものの、既にそれぞれ配偶者がおり、今後子が出生した場合の生活状況がどうなるかは確定していないといわざるを得ない。そうすると、原告Aが主張するような自宅での介護は、相当に困難になっているものと考えられ、施設介護をも視野に入れた介護費の算定をすることもやむを得ないというべきである。
   そうすると、近親者介護費は、日額3,000円、職業介護費は日額1万円とするのが相当である。
  ④総合計 ①+②+③=1億3,163万3,110円
 オ 将来雑費 554万7,872円 
   原告Aの平均余命(注:症状固定時の原告Aは満17歳で、平成24年簡易生命表による平均余命は69.74年である。)に至るまで自宅介護が行われる蓋然性には疑問があることは前記エ③で説示したとおりである。よって、原告Gが67歳に達した後については、施設介護の可能性を踏まえれば、原告Aが計上する品目の雑費を必要としないものと考えるのが相当である。
   そうすると、自宅介護が行われるものと見込まれる原告Gが67歳に達するまで(症状固定後20年目まで・ライプニッツ係数12.4622)について、1ヶ月当たり3万7,098円で算定することとする。
 カ 後遺障害逸失利益 8,178万4,992円
  ①基礎収入 472万6,500円(前記ア②参照)
  ②労働能力喪失割合 100%(後遺障害等級1級1号)
  ③労働能力喪失期間 50年間(ライプニッツ係数17.3035。前記ア①参照)
  ④計算式 ①×1.0×③≒8,178万4,992円
 キ 後見関係費用
  ①申立て費用 6,199円
  ②成年後見人の報酬
   身上監護部分 0円(財産管理部分は別途)
   本件においては、F弁護士が成年後見人に選任されており、本件訴訟に勝訴した場合には、認容額の8~10%程度が報酬として付与されるものと解される。そこで、F弁護士の成年後見報酬は、一時金として弁護士費用とともに検討することとする(注:本判決は、弁護士費用(成年後見人報酬)として、2,090万円を認容した。)。
 ク 自賠責保険金の支払い(充当関係)
   原告Aは、平成25年2月12日付けで、自賠責保険金4,000万円を受領している。
   最高裁平成11年10月26日判決、最高裁平成12年9月8日判決は、自賠責保険金の支払によって元本債務に相当する損害が填補されない場合であっても、遅延損害金の請求は制限されない旨判示しており、これを請求することができる以上、自賠責保険金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、まず遅延損害金の支払債務に充当され、残金があるときは元本に充当されるものと考えられる(民法491条1項)。
   被告は、被害者請求に基づいて支払われた自賠責保険金は、被害者の損害を填補するものではあるものの、加害者の被害者に対する損害賠償債務の「弁済」には該当せず、民法491条1項は適用されないと主張するが、独自の見解に立って判例を理解するものであって、採用することができない。

(2)他の原告らの近親者慰謝料
 ア 原告E及び原告G 各400万円
 イ 原告H及び原告I 各200万円
   原告H及び原告Iは、原告Aのきょうだいとして、両親にも引けを取らないだけの精神的苦痛を受けたものと認めるのが相当である(注:原告Hは、本件事故当時、大学生で、自宅を離れて養護学校の資格を取得する目的で看護大学に通っていたが、原告Aが日常生活の全介助を要する状態になったことから、看護師の資格を取得してb市内の病院の内科病連で勤務し、自分の看護師としての知識・経験を原告Gに伝えて原告Aの介護にも寄与していた。また、原告Iは、本件事故当時、高校生で、大学受験を控えていたにもかかわらず、原告E及び原告Gが自宅を空ける機会が多くなり、原告Aが日常生活の全介助を要する状態になったことから、理学療法士の資格を取得し、大学卒業後はb市内の病院に勤務しながら、原告Aの介護を手伝っていた。)。

(3)結論
   原告Aの請求は、2憶8,217万2,749円及びうち2憶6,127万2,749円に対する平成25年2月12日から、うち2,090万円に対する同22年7月22日から各支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却する(一部認容。請求額は、4億1,496万1,657円である。他の原告らの請求については、略)。


 

東京地裁平成30年9月25日判決(労働判例1207号56頁)

国・茂原労基署長(株式会社A)事件(確定)


【事案の概要】

(1)株式会社A(以下「本件会社」という。)は、平成25年7月25日に設立された株式会社であり、和洋食レストラン「〇〇」(以下「本件店舗」という。)の経営等を業とする。
   亡B(以下「被災者」という。昭和34年〇月生まれ)は、平成25年9月26日、本件会社との間で、雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結し、店長として調理業務に従事していた者である。
   原告は、被災者の配偶者である。

(2)被災者の本件店舗における労働条件、賃金等は次のとおりであった。なお、本件雇用契約は、口頭でされており、雇用契約書は作成されていない。
 ア 所定労働時間
   午前10時30分から午後10時30分までの8時間(そのうち午後2時30分から午後5時までの2時間30分は休憩時間であり、午後3時から午後5時までは店舗自体を閉店した〔ただし、土日祭日を除く。〕。)
 イ 支給賃金
   本件会社は、被災者に対し、平成25年11月26日から平成26年2月25日の間、次の名目で月額31万4100円の賃金等を支払った。なお、超過手当と深夜業手当とを合わせて以下「本件固定残業代」という。
   基本給 15万5000円
   役職手当 5万円
   超過手当 10万円
   深夜業手当 5000円
   通勤手当 4100円

(3)被災者は、平成26年3月〇日午後11時50分頃、自宅で倒れ、病院へ救急搬送されたが、翌〇日午前1時4分に直接死因「不整脈」により死亡した。

(4)原告は、平成26年9月4日、茂原労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)に対し、被災者は加重労働等により死亡したとして、労災保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料を請求した。

(5)監督署長は、平成28年7月8日付けで被災者の死亡が業務上の死亡であると認定して、原告に対し、同月15日付けで、遺族補償年金及び葬祭料のそれぞれにつき、給付基礎日額を1万0243円として算出した給付額を支給する旨の各処分をした。その後、監督署長は、上記の各支給処分を取り消した上で、改めて給付基礎日額を1万2166円として算出した給付額を支給する旨の各処分をした。

(6)原告は、前記(5)の各処分に関し、給付基礎日額の算定に誤りがある旨主張して、千葉県労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に対して、審査請求をしたところ、審査官は、上記の各支給処分を取り消した。そこで、監督署長は、平成29年2月22日付けで、改めて給付基礎日額を1万3330円として算出した給付額を支給する旨の各処分(以下「本件各処分」という。)をした。
   なお、 監督署長は、本件各処分における平均賃金及び給付基礎日額の計算において、①本件固定残業代を通常の労働時間の賃金(労基法37条1項参照)として算入せず、さらに、②本件固定残業代を基礎賃金から除外した上で、本件算定期間中の労働時間が別紙1「労働時間一覧表」(略)の「原告」の「実労働時間数」欄記載のとおりであることを前提として算出された割増賃金を算入した。

(7)原告は、本件各処分について給付基礎日額の算定に誤りがある旨主張して、審査官に対して、審査請求をした。しかし、審査官は、平成29年5月26日付けで、同審査請求を棄却する旨決定した。
   原告は、平成29年6月17日、本件訴えを提起した。 


【争点】

(1)本件固定残業代を通常の労働時間の賃金として算入すること及び割増賃金の基礎賃金に算入することの可否について、それら算入の前提として本件固定残業代が本件雇用契約の内容となっているか否か(争点1)
(2)割増賃金の算定基礎である本件算定期間中の労働時間数(争点2)
   以下、争点(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


   なお、裁判所は、争点(2)についても、「事案に鑑み」検討し、以下のとおり判示した。
   本件算定期間中の労働時間については、被告が主張するとおり、別紙1「労働時間一覧表」(略)の「被告」の「実労働時間数」欄記載のとおりに認定するのが相当である。そうすると、本件各処分において、被災者の上記労働時間数を前提として時間外労働等の割増賃金を計算し、これを平均賃金の算定基礎とし、給付基礎日額を算定した点に誤りはないこととなる。 


【裁判所の判断】

(1)判断枠組み
 ア 遺族補償給付及び葬祭料は、いずれも給付基礎日額を算定の基礎として支給額が決定されるところ、給付基礎日額は、労基法12条の平均賃金に相当する額とするとされ(労災保険法8条1項)、給付基礎日額の算定に当たっては、診断によって業務上の疾病の発生が確定した日等が労基法12条1項所定の算定事由発生日とされている(労災保険法8条1項)。そして、平均賃金は、算定事由発生日以前三か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額であり(労基法12条1項)、賃金は、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう(同法11条)。
 イ そうすると、「その労働者に対し支払われた賃金の総額」とは、労基法の適用を前提として、現実に既に支払われている賃金だけではなく、実際には支払われていないものであっても、算定事由発生日において、労基法の適用上支払われるべき既に債権として確定している賃金債権をも含まれると解される。よって、時間外労働、休日労働又は深夜労働(以下「時間外労働等」という。)が行われている場合には、同法37条所定の割増賃金も平均賃金の算定基礎に含まれることとなる。
 ウ そして、同法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けている趣旨は、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の機影を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとするものである。よって、割増賃金の算定方法が同条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下、これらの規定を「労基法37条等」という。)に具体的に定められているものの、同条は、労基法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない。そこで、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより、同条の割増賃金の全部又は一部を支払うこともできる。そして、雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである(最高裁平成30年7月19日判決・日本ケミカル事件・労働判例1186号5頁等)。

(2)検討
 ア 本件雇用契約は、口頭でされたにすぎず、これを証する契約書は作成されていない。また、本件会社名義の就業規則及び賃金規程は、本件会社の設立日(平成25年7月25日)よりも前の平成22年11月1日にいずれも施行されているなどの問題があることから、その効力を認めることはできない。
   さらに、本件会社の実質的経営者であったC(以下「C社長」という。)が被災者に対して、本件雇用契約締結時において本件固定残業代と割増賃金の関係について説明したことも証拠上窺われない。
 イ 以上に対し、被告は、
  ・本件固定残業代(「超過手当」、「深夜残業手当」)の名称からすれば、社会通念上、超過手当が時間外労働に対する手当、深夜業手当が深夜労働に対する手当と認識するこができること
  ・賃金台帳及び給料明細書に基本給及び役職手当とは別に本件残業代が記載されていること
  ・本件会社は被災者に対して給料明細書を交付していること
  ・本件固定残業代が現に支払われていたこと
からすれば、本件会社及び被災者は、本件固定残業代が時間外労働等の対価として支払われていたことをそれぞれ認識していた旨主張する。
   しかし、被災者が、上記のとおり、雇用契約書も就業規則もなく、しかも、本件雇用契約締結時において、本件会社から本件固定塹壕代についての説明がなされたことは窺われない状況において、わずか4か月程度の給与明細書の交付と本件固定残業代の受領のみをもって、本件雇用契約の締結に当たり、本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われることについてその内容を理解した上で、応諾するに至ったことを推認することまではできず、その他これを認めるに足りる証拠はない。
 ウ また、被告は、超過手当10万円は約67時間の時間外労働に対する割増賃金に相当するところ、被災者と本件会社との間において、本件会社が被災者に対して前職の月給21万円(注:被告は、C社長が本件雇用契約の締結に先立って被災者の前職の給料を確認しており、基本給の金額について本件雇用契約(基本給と役職手当)と前職の雇用契約とでおおむね整合すると主張している。)の2倍以上にあたる月給約46万円を支払う旨の雇用契約が成立していたとは考えられないから、時間外労働の対価として本件固定残業代を支払う旨の合意があった旨主張する。
   しかし、具体の固定残業代について、それが雇用契約の内容となっていることが否定された以上は、使用者の雇用契約締結時に有していた意図等の如何にかかわらず、法律上通常の労働時間の賃金として組み入れざるを得ないのである。その意味で、本件固定残業代が通常の労働時間の賃金に組み入れられた場合の賃金水準の問題を指摘する被告の上記主張は失当であり、採用することができない。
 エ 本件雇用契約の契約当事者の合理的意思を推認するための基礎事情との観点からしても、被告は、上記のとおり、超過手当10万円は約67時間の時間外労働に対する割増賃金に相当することのほか、被災者の本件算定期間中の時間外労働時間数は約123時間ないし約141時間であることを主張する。しかし、その主張を前提としても、超過手当においてあらかじめ想定される時間外労働時間数(約67時間)と被災者の実際の時間外労働時間数(約123時間ないし約141時間)から窺われる勤務状況との間に約2倍もの大きな乖離が見られるところであり、この点はかえって本件雇用契約において本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われていないことを推認させるものである。
 オ 以上の事情を総合的に考慮すると、本件雇用契約において本件固定残業代が時間外労働等に対する対価として支払われているものとはされておらず、ひいては本件固定残業代が本件雇用契約の内容となってはいないこととなる。
 カ したがって、平均賃金の算定基礎においては、まず、本件固定残業代を通常の労働時間の賃金として算入し、さらに、本件固定残業代を基礎賃金に含めた上で算出した割増賃金をも算入することになる。しかるに、監督署長は、これらの算入処理をすることなく、平均賃金及び給付基礎日額を算出し、これを前提として本件各処分をしている。よって、本件各処分には、平均賃金、ひいては給付基礎日額の算定の誤りがあるから違法であって取消しを免れない。

(3)結論
   本件各処分をいずれも取り消す。