大阪地裁令和2年3月26日判決(自保ジャーナル2072号135頁)

被告には、原告運転の自動二輪車が被告運転の貨物自動車を追い越すことの予見可能性も結果回避可能性もないとして、その注意義務違反を否認した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成30年5月12日午前9時45分頃
 イ 発生場所 大阪府守口市内路上
 ウ 原告車  A(平成9年8月生まれ。本件事故当時20歳。)運転の普通自動二輪車
 エ 被告車  被告会社が所有し、被告Bが運転する中型貨物自動車
 オ 事故態様 被告車は、概ね南北に延びる片側2車線の道路(以下「本件道路」という。)の第2車線を南進しており、原告車は、本件道路の第1車線を南進していたところ、原告車が横転し、Aの頭部が被告車の左後輪によって轢かれ、Aが死亡した。
   なお、原告らは、Aの両親であり、各2分の1ずつの割合で、Aを相続した。

(2)本件事故態様は、以下のとおりである。
 ア 本件事故前、被告車は第2車線を走行しており、その後方には、ダンプカー様の形状のトラック(以下「後続トラック」という。)が走行していた。第1車線上において被告車の左前方を走行していた車両(以下「C車」という。)の後方には、白色のワゴン車(普通自動車。以下「D車」という。)が走行していた。
   前後関係は、C車が先頭、C車の右後方に被告車、被告車よりも後方にD車(C車とD車との間の距離は約13.8m)、D車の右後方に後続トラックとなっていた。
 イ 原告車は、第1車線を南進してきたD車に接近し、ブレーキを踏んで減速して、後続トラックの後尾の左横あたりまで進行した。この時点における原告車の速度は、D車及び後続トラックと同程度であった。
   原告車は、そこからブレーキを解除して加速し、後続トラックの左前部とD車の右後部との間を走行して第2車線へ進路変更を行い、後続トラックの前方に出て、D車を追い越した上で第1車線に進路変更を行った。
   原告車は、第1車線への進路変更を完了した後、ブレーキを踏みつつ進行し、被告車の左横まで進行したが、被告車の左横において、右側へ倒れて転倒した。Aは、原告車が転倒した直後に頭部を被告車の左後輪によって轢過された。
 ウ 被告車は、原告車の転倒後、少なくとも10秒程度は、停止することなく第2車線を走行し続けた。


 【争点】

(1)被告Bの自動車運転上の過失の有無(争点1)
(2)被告Bの救護義務違反の有無(争点2)
(3)Aの人的損害(争点3)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、被告らは、争点(1)について、以下のとおり主張した。
   本件事故態様は、Aが、本件道路において、交通の流れに反する速度超過の状態で第2車線を走行した上、第1車線に進路変更を行って、被告車を第1車線から追い抜いて第2車線に入ろうとしたが、被告車とC車との間に十分な通行余地が存在しなかったことから、急制動の措置を講じたところ、操作不能となり、転倒滑走して、第2車線に投げ出され、第2車線走行中の被告車の左後輪に頭部を轢過されて死亡したというものである。
   かかる事故態様からすれば、被告車が、Aを轢過することを回避することは不可能であり、本件事故は、Aの一方的な過失によって発生したものである。よって、被告Bに過失はない。


【裁判所の判断】

(1)争点1(被告Bの自動車運転上の過失の有無)について
 ア 被告Bの(原告車の進行を妨げないように)減速すべき注意義務について
  a)被告Bが原告車を認識し得たかについて
   被告Bが、本件事故以前に、後方から接近し、被告車の左側を進行する原告車の存在に気付いていたとは認められない(詳細は、省略する。)。
  b)注意義務違反の有無等について
   仮に、被告Bが原告車のエンジン音により、原告車が後方から接近してきていることを認識していたとしても、被告車は、片側2車線の第2車線を走行していたのであるから、原告車が第1車線を走行して被告車を追い越すであろうことを予測することは困難である。
   次に、原告車が第1車線へと車線変更を開始し始めた時点で、被告Bがかかる原告車の動きを視認していたのであれば、原告車が第1車線を走行して被告車を追い越そうとしていることを予測できた可能性はある。しかし、後続トラックの後続車両設置のドライブレコーダーの映像によれば、原告車が被告車の後方の第2車線上の走行を開始してから第1車線に進路変更を行うまでの時間は長くとも1ないし2秒程度であるから、そもそも、被告Bが、この間に被告車の後方を走行している原告車の動向に気付いた可能性は低いと考えられる上、仮に、これに気付いたとしても、原告車が第2車線から第1車線へと車線変更を開始してから、被告車の左横を走行するに至るまでの1ないし2秒程度の間に、原告車が第1車線から被告車を追い越すであろうことを予測して、これに対する対処を行うことはやはり困難であると考えられる。
   そうすると、被告Bが、原告車が第1車線を進行して被告車を追い越すことを予測することは困難であったといえるから、被告Bには予測可能性がなく、減速するなどして原告車の進行を妨げないようにする注意義務はない。また、仮に、これを予測できたとしても、予測が可能になってから結果が発生するまでの経過時間の短さに照らせば、その間に対処を行うことは困難であったといえるから、仮に、予測可能性があったとしても結果回避可能性がないといえ、いずれにしても注意義務違反はない。
 イ 被告Bの制限速度を遵守すべき注意義務について
  a)走行速度について
   本件事故現場の制限速度は明らかではないが、時速50㎞ないし60㎞のようである。
   本件事故当時の関係車両の速度は明らかではないが、相対速度としては、D車とC車はほぼ同じ速度で走行している。被告車は、第3車線から第2車線に進路変更を完了した時点ではD車と同程度の速度であるが、その後、やや加速し、D車及びC車よりも早い速度で走行している。
   原告車及び被告車の速度について、原告及び被告は、ドライブレコーダーの映像や航空写真等を元に計算を行い、それぞれ主張するものの、これらの計算には誤差が入り込むことが否定できず、かかる計算のみから原告車及び被告車の速度を断定することは困難である。
  b)(制限速度を遵守すべき)注意義務違反の有無等について
   上記のとおり、被告車の速度がC車及びD車よりも速かったことは否定できず、証拠上、被告車が制限速度を超過していた可能性は否定できないとしても、その速度が認定できない以上、被告Bが制限速度を超過していたと認めることは困難である。したがって、被告Bが、制限速度を遵守すべき注意義務に違反したとは認められない。
  c)なお、原告車が転倒した原因は、被告車とC車との間の間隔が狭かったことにあるかもしれないが、そもそも、そのような狭い部分を通り抜けようとする走行方法自体に問題があることは指摘せざるを得ず、A自身に過失があったことは否定できないし、車間距離とは無関係なAのハンドル操作の誤りによる転倒である可能性もないとはいえず、Aが死亡してしまった今や転倒の原因は不明であるといわざるを得ないから、被告車が本件事故当時よりは低速で走行しており、被告車とC車との間の間隔が本件事故当時よりは広く開いていたとしても、それによって原告車の転倒が回避できたともいえない。
   よって、仮に、被告Bに制限速度遵守義務違反があったとしても、その注意義務違反と本件事故との間に相当因果関係はない。
 ウ 小括
   以上のとおりであるから、被告Bには、原告らが主張する注意義務違反が認められないから、過失がない。したがって、被告Bは、本件事故について、不法行為責任を負わない。
 エ なお、被告Bは、被告車の運行に関して注意を怠らなかったこと、本件事故については被害者であるAに過失があったことが否定できないことは上記のとおりであり、本件事故が被告車の自動車の構造上の欠陥または機能の障害によるものではないことはいうまでもないから、被告会社は自賠法3条ただし書により免責される。

(2)争点2(被告Bの救護義務違反の有無)について
 ア 被告Bが、本件事故以前に、後方から接近している原告車の存在に気付き得なかったことは、先に説示したとおりである。
   本件事故は、被告車の左後輪がAの頭部を轢過したものであるところ、被告車は中型貨物自動車であって長さが8.63m、車両重量が5、080㎏であることからすれば、人間の頭部を轢過したことによる被告車への衝撃はわずかなものであったと考えられ、運転席にいる被告Bが感じ取った本件事故による衝撃も大きくはなかったであろうことは想像するに難くない。
   加えて、本件事故後、C車が本件道路の第1車線上の左側に停止し、Aは本件道路の第1車線の中央付近に倒れていたこと、被告車は速度を緩めることなく第2車線を走行し続けていたこと等からすれば、被告Bが、何らかの物体を踏んだと考えて左サイドミラーにより後方を確認したとしても、被告Bからは原告車及びAの存在が視認できなかったと考えても不合理ではない。また、バックモニターの視界は、後方は被告車の後部から後方約10m程度であることや、Aの転倒場所等を踏まえれば、バックモニターによってもAの存在は確認できない。
 イ 以上のとおりであるから、原告らの主張を考慮しても、被告Bが、本件事故後、轢過したものが人間であることを認識していたと認めることは困難である。したがって、被告Bに、道路交通法72条1項前段の救護義務違反及び同条後段の報告義務違反は、いずれも認められない
   そうすると、本件訴訟や本件訴訟に至るまでにおける被告Bの言動等が虚偽であったと断定することはできず、この点について、被告Bの原告らに対する不法行為は認められない。よって、被告Bが原告らに対して慰謝料を支払うべき義務を負うとはいえない。

(3)結論
   以上のとおりであるから、その余については判断するまでもなく、本件請求はいずれも理由がない(請求棄却)。


 

福岡地裁平成31年2月28日判決(自保ジャーナル2061号90頁)

交差点での直進車と左方からの左折車との間の事故で、事故発生前に直進車も左折車も停止していたことから、個別事情を踏まえ、両運転者の過失割合を検討した事例(確定)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成28年7月27日午前9時50分頃
 イ 発生場所 福岡市内路上(以下「本件現場」という。)
 ウ 原告車  原告が運転する普通乗用自動車
 エ 被告車  被告が所有し、運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 被告車の左前部が、原告車に接触し(以下「本件接触」という。)、これにより原告車に右リヤドア、右リヤフェンダー擦過等の損害が生じた。

(2)本件現場付近は、別紙2交通事故現場見取図(略)のとおり、本件道路、本件道路と交差する2本の道路(以下、そのうちの原告車が進行してきた道路を、「本件交差道路」という。)等が変則的な交差点である(以下「本件交差点」という。)。
     本件事故が発生する前、被告車は本件道路を進行しており、原告車は、本件道路を本件交差点方面に進行していた。
   本件交差点には、信号機が設置されていないが、本件交差道路は、本件交差点の手前で一時停止規制されている。本件道路には、(被告車の進行方向から見て)本件交差点の先に所在する別の交差点において、対面交通信号(以下「本件信号」という。)がある。本件現場は、本件交差点から本件道路を本件信号方面に進行した位置である。


 【争点】

(1)被告の過失及び過失相殺
(2)原告の損害
   以下、上記(1)についての、裁判所の判断の概要を示す。


     なお、被告は、過失相殺について、以下のとおり主張した。
 ア 原告車と被告車はいずれも本件交差点前で一時停止し、その後、双方が発進したところ、本件交差道路には一時停止規制があり、本件道路には一時停止規制がなかったのであるから、原告車側には一時停止規制が働き、被告車が優先となる。
   したがって、原告車は、左折するに当たり右方の安全を十分確認し、直進の被告車の進路を妨害してはならない義務を負っていた(道路交通法43条)。それにもかかわらず、原告は、同義務を怠り、直進する被告車の進行を妨げる態様で左折しようとしたのであるから、原告の過失は大きい。
 イ 本件交差点は変則丁字路交差点と目すべきであり、前記事故態様からすると、本件事故について被告に軽度の前方不注視が認められるとしても、原告の過失割合は、85%というべきである。


【裁判所の判断】

(1)原告車及び被告車に対する入力方向
 ア 原告車には、5時方向からの入力と、1時半ないし2時方向からの入力があったものと認められる。
 イ 被告車には、11時方向からの入力と、7時方向からの入力があったものと認められる。

(2)争点(1)(被告の過失及び過失相殺)について
 ア 本件接触時点での各車両の速度について
   原告は、原告車は本件接触時、徐行していた旨主張する。そして、原告本人及び被告本人の各供述及び弁論の全趣旨によれば、原告車も被告車も本件信号が青色表示になったのを契機に発進したところ、本件接触地点までの被告車の移動距離が原告車の移動距離より大きいことからすると、本件接触時においては、被告車の方が原告車より速度が大きかったと考えられる。
 イ ノーズダイブについて
   被告は、本件事故時において、原告車が急制動し、これによりノーズダイブを起こし、本件接触後、再び前進を始めたとし、これを前提として、原告車の位置関係について主張する。
   この点、ノーズダイブの傷の特徴として、後方下がりの連続した直線の線状痕になり、線状根は一定の角度になり、それぞれの直接損傷は均一の幅に印象されることが認められる。そして、原告車の右側面の傷が後方下がりになっていることからすると、これらの傷のうち、前記1時半ないし2時方向からの入力による前方から後方のものについては、原告車が制動装置を取った際についたものと考えることができる。
   しかし、①原告車には5時方向の傷があり、被告車には11時方向の傷があること、②原告本人及び被告本人の各供述によれば、被告は本件事故による衝突前にブレーキを踏んだのに対し、原告は衝突後にブレーキを踏んだこと、③一般に、自動車の制動措置を取るときには空走時間があること等に照らすと、原告車がノーズダイブをしていたとしても、それは、本件接触後に生じた可能性が否定できない。
 ウ 本件接触時の状況について
   以上を前提として、本件接触時の状況について検討する。
   原告は、原告車は、別紙③の地点でいったん停止した後、本件信号が青色表示になったことから徐行又は低速で発進したところ、被告車に追突され、原告車5時方向からの入力による傷が発生した旨主張する。
   これに対し、被告は、原告車が被告車より高速で走行しており、いったん被告車が原告車に衝突し、被告車11時方向からの入力による傷が発生した後、原告車の速度の方が速かったため、被告車を追い抜き追い越したことで、被告車に7時方向からの入力による傷が生じた旨主張する。
   しかし、前記のとおり、被告車11時方向からの入力があることが認められるところ、これに対応して原告車に対し、5時方向からの入力があったと見るのが自然である。そして、両車両の各入力方向からすると、被告車が、原告車の後方から走行し、原告車に接触したと考えるのが自然である。
 エ 過失相殺について
  a)事故態様
   以上の検討によれば、本件事故においては、本件信号が赤色表示であったため、本件道路を走行していた被告車は本件交差点の手前で停止しており、原告車はいったん本件道路の一時停止線前で停止し、その後別紙②地点まで進み停止していたところ、
   本件信号が青色表示に変わったため、原告車は本件道路に進入し、被告車も発進したが、原告車に気付きブレーキをかけたものの、原告車の後方から原告車に接触し、その後停止し、他方、原告車は、接触後ブレーキをかけ、停止したことが認められる。
  b)一般論
   このことからすると、本件事故は、本件道路と本件交差道路が交差する本件交差点で発生した直進車と左方からの左折車との間の交通事故である。このような場合、左折車が徐行し、直進車についてはある程度の減速をしていることを前提とし、徐行又は減速していないことを修正要素として過失割合を論ずることが一般的である。
   しかし、本件事故においては、直進車も左折車も本件信号が青になるのを待って停止していたのであり、直進車が走行していることを前提とする上記一般的な場合とは事情を異にすると考えられ。したがって、本件においては、個別事情を踏まえ、原告と被告の過失割合を検討することとする。
  c)検討
  ①被告の過失について
   本件事故の前記事故態様、殊に、原告車が先に本件交差点に進入していたところ、被告が後方からこれに接触し、その直後停止し、原告がその更に後に停止したと考えられることからすると、直進車である被告には、前方にいる左折車の動静を確認した上で発進する注意義務があると考えられるにもかかわらず、これを怠った前方不注視の過失があるというべきである。
   そして、被告本人の供述によれば、被告は、自分(被告)が優先すると思って前進したことが認められる一方、被告が発進した時点での本件交差点の状況に関する具体的な説明がないことに鑑みると、被告は、別紙【ア】の地点から発進する際に、原告車の動静を確認しようとした形跡はうかがわれない。
   このことに加え、
  ・本件交差道路は本件交差点で終了し、本件道路は一方通行道路であることから、本件交差道路から本件交差点に入る車両は左折するしかなく、本件道路を走行する車両の運転者としてもこのことを認識できたと考えられること
  ・現に、原告車は、被告車の前方で、本件道路に左折進入する態勢で、一時停止線を越えた位置で停止していたこと
  ・一般に、直進車が交差点の手前において信号待ちしている場合、左方から左折進入する車両の運転者は、一時停止規制があったとしても、直進車に路を譲られた等の考えの下、直進車の通過を待たず、当該道路に左折進入しようとする事態は容易に想定できること等
からすると、被告の過失の程度は重大である。 
  ②原告の過失について
   前記のような状況下では、左方からの左折車である原告は、自分(原告車)が直進車である被告車の進路上に進路変更していくことになり、その進路を妨害する度合いが大きいことから、本件交差点に左折進入するにあたり、前方及び右方を十分注意して、被告車の動静を確認した上で発進する注意義務があると考えられる。
   そして、原告本人の供述等によれば、原告は、本件交差点に進入する際、被告が頭を下に向けていたのを視認したことが認められるところ、このような状況では、被告が原告車の存在を認識していたかどうか、ひいては、原告車に道を譲っているかどうかが明らかであったということはできない。したがって、原告にも、別紙②の地点から発進した際に、前方不注視の過失があったというべきである。
  ③小括
   以上の状況、殊に、本件は、原告車が被告車の進路上に進路変更していく事案である一方で、被告が発進する際、原告車の動静を確認しようとした形跡がうかがわれないのに対し、原告は被告車の動静を確認しようとしたといえることその他本件で現れた一切の事情を考慮すると、原告と被告の過失割合は、20:80が相当である。

(3)結論
   以上によれば、原告の請求は、217万1,073円(注:請求額414万9,000円)及びこれに対する遅延損害金の支払を 求める限度で理由がある(一部認容)


 

最高裁令和2年2月28日判決(労働判例1224号5頁)

被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に求償することができると判示した事例(高裁に差戻し)


【事案の概要】

   以下のとおりであるが、上告人(二審被控訴人、一審原告・反訴被告)が本訴を提起するまでの経緯については、大阪地裁平成29年9月29日判決の【事案の概要】参照。

(1)一審は、原告の本訴請求を839万2222円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容し、被告の反訴請求を棄却したので、これを不服とする被告が控訴した。

(2)原審(大阪高裁平成30年4月27日判決・労働判例1224号12頁)は、
  ①民法715条1項は、本来の損害賠償義務を負うのは、被用者であることが前提とされていること、
  ②民法715条3項の求償権が制限される場合と同じ理由をもって、逆求償という権利が発生する根拠とまですることは困難であること、もっとも、
  ③使用者が被用者と共に民法709条の責任を負い、被用者と共同不法行為にある場合には、共同不法行為者間の求償として、これが認められることがあることを述べた上で、
   本件事故発生に関し、控訴人(一審被告)に共同不法行為者といえる過失があったとは認められず、被控訴人(一審原告)から控訴人(一審被告)に対する求償は認められないと判示して、一審判決中、本訴請求の控訴人(一審被告)敗訴部分を取り消して、これを棄却し、反訴請求についても控訴を棄却した。これを不服とする被控訴人(一審原告)が上告した。


【争点】

   被用者の使用者に対する逆求償の可否
   以下、裁判所の判断を示す。


【裁判所の判断】

   原審の判断(【事案の概要】(2)参照)は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1)被用者の使用者に対する逆求償の可否について
   民法715条1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである(最高裁昭和32年4月30日判決、最高裁昭和63年7月1日判決)。このような使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき関係にあると解すべきである。
   また、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、使用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加賀以降の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができると解すべきであるところ(最高裁昭和51年7月8日判決)、上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。
   以上によれば、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に求償することができるものと解すべきである。

(2)結論
   以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。原判決中、上告人の本訴請求に関する部分は破棄を免れない。そして、上告人が被上告人に対して求償することができる額について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻す(原判決破棄・差戻し)。


【補足意見】

   以下、補足意見の要旨を示す。

(1)裁判官菅野博之、同草野耕一の補足意見
 ア 当審が原審に求めている審理事項は、本件事故よる損害に関して各当事者が負担する額である。その際に考慮すべき諸事情のうち本件においてまず重視すべきものは、上告人及び被上告人各自の属性と双方の関係性である。
   この点、使用者である被上告人が自家保険政策(注:被上告人が、自己の営む運送事業に関して、損害賠償責任保険に加入せず、賠償金を支払うことが必要となった場合には、その都度自己資金によってこれを賄ってきたことを採ってきたことは、本件における使用者と被用者の関係性を検討する上で、被用者側の負担の額を小さくする方向に働く要素であると考えられる。
 イ 事案によっては、各当事者が負担すべき額を検討するに当たって、①不法行為の加害者でもある被用者の負担金額が矯正的正義の理念に反するほどに過少なものとなったり、あるいは、②今後同種の業務に従事する者らが適正な注意を尽くして行動することを怠る誘因となるほどに過少なものとなったりすることがないように配慮する必要がある場合もある。
   しかし、上告人が本件事故に起因して様々な不利益を受けていることからすれば、本件は、上記①及び②の点に関する配慮が必要な事案ではないと考えられる。

(2)裁判官三浦守の補足意見
   貨物自動車運送事業に関し、被用者が使用者に対して求償することができる額の判断に当たり考慮すべき点について付言する。
 ア 貨物自動車運送事業法は、この事業の運営を適正かつ合理的なものとすること等を国土交通大臣による許可制とし(3条)、その許可基準の一つとして、その事業を自ら適確に、かつ、継続して遂行するに足る経済的基盤及びその他の能力を有するものであること」を定めている(6条3号)。
   そして、国土交通大臣は、その審査に当たり、貨物の運送に関し支払うことのある損害賠償の支払能力を審査することが省令で明確化されたが(令和元年国土交通省令第27号により追加された貨物自動車運送事業法施行規則3条の6第3号)、これは、貨物自動車運送事業が、その事業の性質上、貨物自動車による交通事故を含め、事業者が貨物の運送に関し損害賠償義務を負うべき事案が一定の可能性をもって発生することを前提として、事業者がその義務を十分に果たすことが事業を適確かつ継続的に遂行する上で不可欠と考えられることによる。したがって、事業者がその許可を受けるに当たっては、計画する事業用自動車の全てについて、自動車損害賠償保険等に加入することはもとより、一般自動車損害保険(任意保険)を締結するなど、十分な損害賠償能力を有することが求められる(「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の許可及び事業計画変更認可申請等の処理について」(平成15年2月14日付け国自貨第77号)参照)。
 イ 使用者が事業用自動車について任意保険を締結した場合、被用者は、通常その限度で損害賠償義務の負担を免れるものと考えられ、使用者が、経営上の判断等により、任意保険を締結することなく、自らの資金によって損害賠償を行うこととしながら、かえって、被用者にその負担をさせるということは、一般に、上記の許可基準や使用者責任の趣旨、損害の公平な分担という見地からみて相当でないというべきである。