大阪地裁令和元年9月12日判決(判例秘書登載)

何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するツイートは、特段の事情の認められない限り、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解されると判示した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。なお、反訴請求については省略する。)は、平成20年2月6日に大阪府知事に就任し、その後、大阪市長に就任していたが、本件投稿がなされた平成29年10月29日以前に、知事、市長を退任し、弁護士、テレビのコメンテーターなどとして活動している者である。
   本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。)は、平成29年10月29日以前から、デジタルコンテンツの企画等を目的とし、インターネットを利用して報道等を行う株式会社Aの代表取締役であり、また、ジャーナリストとして活動する者である。

(2)被告は、平成2019年10月29日、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)において、以下の内容の投稿(以下「本件投稿」という。)をした。なお、本件投稿当時,被告のアカウントのフォロワー数は18万人を超えていた。
   「Retweeted △△大阪市解体の住民投票は中止な(@△△):
    X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」
    http://(以下略)
    X1氏が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」
   被告は、遅くとも本件提訴時(平成29年12月15日)までに、本件投稿を削除した。

(3)本件投稿は、ツイッターにおいて他人がした投稿を引用する形式で自己のアカウントから投稿する方法(リツイート)によりなされた投稿であり、本件投稿の引用元となった投稿は,平成29年10月28日になされた以下の内容の投稿(以下「本件元ツイート」という。)である。なお、本件元ツイートは、デイリースポーツに掲載された「X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」」との記事を引用したものである。
   「X1氏、B議員の党代表「茶化し」2度目...C代表「20歳も年下に我慢している」
    headlines.yahoo.co.jp/(以下略)
    X1氏が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」


【争点】

(1)本件投稿による名誉毀損の有無(争点1)
(2)本件投稿による違法性阻却事由の有無(争点2)
(3)原告の損害の有無・内容(争点3)
(4)本件提訴が訴権の濫用に当たり、被告に対する不法行為を構成するか(争点4)
(5)被告の損害の有無・内容(争点5)
   以下、本訴請求に関する上記(1)から(3)までについての裁判所の判断の概要を示す。


   なお、被告は、争点1に関する本件投稿の行為主体について以下のとおり主張した。
   リツイートの機能には、自らの意見を発信する以外に、リツイートをした者が第三者の投稿内容(元ツイート内容)を紹介して拡散することも含まれる。その拡散の目的には、元ツイートの内容に賛同する意思表示の場合もあれば、内容に批判的であるからこそ紹介する場合、リツイートをした者の単なる備忘録的な目的の場合など、様々な場合がある。被告は、本件元ツイートを情報提供の趣旨でリツイートしたに過ぎないから、本件投稿は本件元ツイートの投稿者の発言とみるべきであって、当然に被告の投稿(発言)と同視して評価して、被告を本件投稿の行為主体とみることはできない。


【裁判所の判断】

(1)本件投稿による名誉毀損の有無(争点1)
 ア 本件投稿の行為主体(責任の帰属主体)について
   本件投稿は、リツイートの形式で、何ら被告によるコメントを付すことなく投稿されたツイートであるところ、被告は、この点を指摘して、本件投稿は本件元ツイートの投稿者の発言とみるべきであると主張する。
   そこで検討するに、ツイッターにおいては、投稿者は、自己の発言を投稿するのみならず、他者の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿(リツイート)することができるところ、リツイートの際には、自己のコメントを付して引用することや、自己のコメントを何も付さずに単に元ツイートをそのまま引用することもできる。そして、投稿者がリツイートの形式で投稿する場合、被告が主張するように、元ツイートに賛同する目的でこれを引用する場合や、元ツイートの内容を批判する目的で引用する場合など、様々な目的でこれを行うことが考えられる。
   しかし、他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合、何らのコメントも付加しないで元ツイートを引用することは考えがたく、投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることを明らかにするべく、当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。したがって、何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは、ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、例えば、前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など、一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り、リツイートの投稿者が、自身のフォロワーに対し、当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である。
   そうすると、本件投稿においては、上記特段の事情は認められないから、本件投稿で引用された本件元ツイートの内容は、本件投稿の投稿者である被告による、本件元ツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、被告は、本件投稿の行為主体として、その内容について責任を負うというべきである。
   仮に、被告が本件投稿を行った主観的意図がフォロワーに対する情報提供という点にあったとしても、前記のとおり、一般の閲読者と閲読者の普通の注意と読み方を基準とすると、何のコメントも付さないままリツイートするという本件投稿の態様からすれば、その情報提供には本件元ツイートの内容に賛同する被告の意思も併せて示されていると理解されるべきである。
 イ 本件投稿の名誉毀損行為該当性について
  (ア)一般に、名誉毀損の成否が問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかについては、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものであり、そのような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである。
   また、人の社会的評価を低下させる表現は、事実の摘示であるか、意見ないし論評の表明であるかを問わず、人の名誉を毀損するというべきであるところ、ある表現における事実の摘示又は意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてその意味内容を解釈して判断すべきものと解される(以上につき、最高裁平成16年7月15日判決等参照)。
   そこで、これらを前提に、以下、本件投稿が原告に対する名誉毀損行為に該当するかについて検討する。
  (イ)本件投稿の性質について
  (a)本件投稿は、「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」事実を摘示する表現と認めるのが相当である。
  (b)これに対し、被告は、仮に、本件投稿が被告の表現と理解されるべきとしても、本文末尾の「忘れたのか!恥を知れ!」との部分を表現の核心部分とする原告の言動に対する被告の意見論評であるなどと主張する。
   しかし、「忘れたのか!恥を知れ!」との表現部分は、原告の言動を非難する表現ではあるものの、自己の見解を具体的に述べるものではなく、抽象的に非難する言葉を記載しただけのものであり、それが、「X1氏が30代で大阪府知事になったとき,20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき,自殺にまで追い込んだこと」という、それ自体原告の社会的評価を低下させる事実を記載した文言に続くものであることからすると、本件投稿を全体としてみた場合、上記(a)に説示したとおり、表現の中心的部分は「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示する部分というべきであるから、上記被告の主張は採用できない。
 ウ 本件投稿による原告の社会的評価の低下の有無について
   上記イのとおり、本件投稿は、被告が「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示するものであるところ、本件投稿の一般の閲読者の注意と読み方を基準とすれば、同事実は、原告について、部下職員を自殺に追い込むようなパワーハラスメントを行った人物であるとの印象を与えるものであるから、本件投稿は原告の社会的評価を低下させる表現であると認められる。
 エ 以上に検討したところによれば、本件投稿は、被告の原告に対する名誉毀損行為に該当する。

(2)本件投稿による違法性阻却事由の有無(争点2)
   事実を摘示してする名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分において真実であるとの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、その行為者において上記事実の重要な部分を真実と信じるについての相当の理由があれば、その故意または過失は否定されるものというべきである(最高裁昭和58年10月20日判決等参照)。
   この点、被告は、原告の主張に対応する真実性の抗弁(原告の主張する摘示事実を前提とし、それが真実である旨の主張)の主張をしていない。しかし、当事者の主張内容に鑑み、念のため、これを本件投稿についてみても、本件投稿による被告の名誉毀損行為について、真実性の証明による違法性阻却は認められず、被告の故意、過失も否定されない(なお、仮に、本件投稿を被告の意見論評を表現するものと解する余地があったとしても、その前提となる重要な事実は、前記(1)イ(イ)(a)に説示したとおりであり、それが真実であるとか、被告がそれを真実と信じていたとは認められないから、やはり違法性は阻却されず、被告の故意、過失も否定されない。)。

(3)原告の損害の有無・内容(争点3)
 ア 慰謝料 30万円
   被告は、テレビや雑誌で活動する著明なジャーナリストで、本件投稿がなされた被告のツイッターのフォロワー数は18万人を超えており、このように社会的影響力のある被告による本件投稿は、一般人のツイートとは異なり、拡散力、信用力が大きいものと考えられること、本件投稿のその後の拡散(本件投稿に対するリツイート)状況は不明であるものの、インターネット上の表現の特質として、インターネット上から完全に削除することは事実上不可能であること、被告は、遅くとも本件投稿の約1か月半後の本訴提起時(平成29年12月15日)までには本件投稿を削除していることのほか、原告及び被告の社会的地位ないし活動状況等、本件に現れた本件投稿に関する一切の事情を総合考慮すれば、被告の本件投稿による名誉毀損行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額は、30万円と認めるのが相当である。
 イ 弁護士費用 3万円

(4)結論
   以上によれば、原告の本訴請求は、33万円およびこれに対する遅延損害金を求める限度で理由がある(一部認容)。


 

東京高裁平成30年6月18日判決(判例時報2416号19頁)

歯科医院に対する批判的意見等を述べた「Googleマップ」への書込みが、受忍限度を超えて債権者の社会的評価を低下させるとはいえない旨判示した事例(確定)


【事案の概要】

   以下、【事案の概要】及び【原審の判断】において、「抗告人」を「債権者」、「被抗告人」を「債務者」と称する。

(1)債権者は、〇〇において「〇〇」という名称の歯科医院(以下「本件クリニック」という。)を経営する医療法人である。
   債務者は「Googleマップ」という地図情報サービスの地図上の店舗・施設等について感想・評価等の口コミを投稿するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)を管理・運営する法人である。

(2)氏名不詳者は、本件サイトに原決定別紙投稿目録記載の第1及び第2の各記事(以下、順に「本件記事1」「本件記事2」といい、これらを総称して「本件各記事」という。)を投稿した。

(3)債権者は、債務者に対し、本件各記事によって人格権(名誉権)が侵害されたとして、人格権に基づく妨害賠償請求権として、本件各記事を仮に削除するよう求めた。


【原審の判断】

   原審における主な争点は、下記のとおりであった。
  a)債権者の社会的評価が低下したか否か
  b)本件各記事の摘示事実の真実性
   以下、上記の各争点を含めて、原審の判断の概要を示す。


(1)被保全債権の存否
   本件各記事の投稿が債権者の名誉を毀損し、その社会的評価を低下させたといるかどうかは、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである(最高裁エ昭和31年7月20日判決、平成24年3月23日判決参照)。
   もっとも、他人の社会的評価を低下させる記事の投稿であっても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実の重要な部分が真実であるときには、上記行為は違法性が阻却されるというべきである(最高裁昭和41年6月23日判決、最高裁昭和58年10月20日判決)。
   また、摘示事実を前提とする意見ないし論評の表明としてされた記事の投稿についても、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分が真実であり、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したものでないときは、その違法性が阻却されるものというべきである(最高裁平成9年9月9日)。
   そして、本件債務者のようなウェブサイトの管理・運営者は、通常、表現内容の真実性等の事実関係に関する資料を保有していないことや、手続的保障が十分とはいえない仮処分における表現行為の抑制であることなどから、請求者において違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情がないこと(上記各要件のいずれかの不存在)を疎明することが必要であると解される。
  ①本件記事1について
  a)社会的評価の低下
   一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準として、本件記事1を全体としてみれば、同記事は、本件クリニックで治療を受けた投稿者が、担当医師の当日の治療及び翌日以降の対応に不満をもって、批判的意見等を記載したものに過ぎず、債権者が主張するように、患者を初心者の技術向上の踏み台や実験台にしていると捉えられ、医療事故被害を示唆するものではるとまで読むことはできない。
   これらに加え、本件サイトの本件クリニックに関するページは、主として、治療を受けるべき歯科医院を探している読者が、歯科医院を選択するための判断材料を得る目的で閲覧しているものと考えられるところ、そのような一般の閲覧者は、本件クリニックを評価する他の投稿記事をも閲覧しているのが通常であり、それらの投稿記事には本件クリニックの医師による適切な治療に対する満足や、医師の丁寧な対応を評価する内容のものもあれば、不満や批評を述べるものもあること、さらには、本件サイトのような、いわゆる口コミサイトが、消費者にとって双方向性の高いコミュニケーション手段となり、また、個人と事業者との間の情報の非対称性を弱める機能を有していること等を併せて考慮すると、上記程度の社会的評価の低下は受忍限度の範囲内であるというべきである。
  b)摘示事実の真実性 略
  c)公共性、公益目的当 略
  d)小括
   以上によれば、本件記事1が受忍限度を超えて債権者の社会的評価を低下させるとみることはできず、また、違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情がないとはいえないから、本件記事1について被保全権利は認められない。
  ②本件記事2について
  a)社会的評価の低下
   一般閲覧者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件記事2は、本件クリニックの費用や品質等に対する社会的評価を低下させるものということができる。
   この点について、債務者は、相場より高いという摘示自体は直ちに社会的評価を低下させるものではない旨主張する。けれども、歯科医院の治療費、特に保険適用外の治療費は高額となることがあるから、一般人にとっての関心事であり、その治療費が高いにも関わらず治療技術が低いということは、社会的評価を低下させるものといえるから、この点に関する債務者の主張は採用できない。
  b)摘示事実の真実性
   疎明資料(略)によれば、本件クリニックの治療費が他に比較して特段高額であるとは認められず、〇〇との摘示事実が真実であるとはいえない。
   また、疎明資料(略)及び審尋の全趣旨によれば、本件クリニックの開設以来の全診療録を調べた結果、〇〇とクレームを申し出た患者はいないことが一応認められ、〇〇との摘示事実が真実であるとはいえない。
   よって、本件記事2に摘示された事実は、その重要な部分において真実でないといえるから、この点について違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないものと一応認められる。
  c)小括
   以上によれば、本件記事2は債権者の社会的評価を低下させ、また、同記事を本件サイトに投稿する行為には、実質的違法性があるといえるから、同記事については被保全権利が認められる。

(2)保全の必要性の有無 
   本件記事2がインターネット上で閲覧可能な状態にある以上、債権者において、あえて長期間放置したなどの特段の事情がない限り、債権者には著しい損害又は急迫の危険があるものということができるところ、上記各記事について、そのような特段の事情は見当たらない。
(3)結論
   以上によれば、債権者の本件申立ては、①本件記事2を仮に削除する限度で理由があるから、30万円の担保を立てることを条件として認容するが、②本件記事1を仮に削除するよう求める申立ては理由がないから却下する。
   債権者は、上記②を不服として抗告した。


【裁判所の判断】

(1)当裁判所も、本件記事1は受忍限度を超えて抗告人の社会的評価を低下させるものではなく、抗告人の人格権(名誉権)を侵害するものではないと解する。
   そうすると、抗告人の本件記事1の仮の削除請求は却下されるべきものであるから、本件抗告は理由がないことに帰する。

(2)なお、念のために判断するに、本件記事1には違法性阻却事由の存在を窺わせる事情がないことの疎明もないというべきである。

(3)歯科医院の治療については、患者ごとのオーダーメイドであって、その出来具合についての巧拙の評価や満足度、費用の額についての納得度は、患者によって千差万別である。不満を述べる感想についても、歯科医院側はある程度受忍していくことが社会的に求められているところである。
   また、ウェブサイトへの書込みは、国民の表現の自由や知る権利の保障に関係する事柄であるから、社会的評価の低下や違法性阻却事由を窺わせる事情の不存在についての疎明があったと判断するには、これらの基本的人権の保障との兼ね合いにも配慮して慎重でなければならないというべきである。殊に、書込みをした者が当事者とならない本件においては、抗告人の疎明に対して被抗告人が実質的に反証していくことは、事実上不可能に近いことにも配慮し、非常に慎重でなければならないというべきである。

(4)結論
   本件抗告は理由がないから棄却する。


 

東京高裁平成30年12月5日判決(判例タイムズ1461号115頁)

名誉棄損記事につき不法行為の成立を認めつつ、保護すべき社会的名声に乏しいことなどを理由として、各2万7000円の慰謝料を認容した事例(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)当事者等
 ア 第1審原告X1(以下「X1」という。)は、平成15年7月、当時、倉庫業・不動産業を廃業して投資会社に業態変更しようとしていたH社の執行役員に就任し、平成16年6月にH社の取締役に就任し、同年7月から平成19年9月までの間、H社の代表取締役を務めていた。
   X1は、平成24年4月、第1審原告会社の執行役員に就任し、同年6月、第1審原告会社の代表取締役に就任した。第1審原告会社は、通信機器等の事業を営む会社を支配・管理する持株会社であり、現在、JASDAQに上場している。
 イ 第1審原告X2(以下「X2」という。)は、平成16年10月、ファンドの組成・管理等を目的とするK株式会社(以下「K社」という。)に入社したが、平成17年12月、K社を辞めてH社に入社した。X2は、平成18年2月から、H社のファンドの管理等を担当する関連事業部長を務めていたが、平成20年10月に退社した。X2は、一時H社の100%子会社であるL社の取締役であった。
   X2は、平成21年6月、第1審原告会社の取締役に就任し、平成23年6月にいったん退社した後、平成27年6月、再び第1審原告会社の取締役に就任した。
 ウ 第1審被告(以下「被告」という。)は、平成9年4月、Zと婚姻し、平成11年頃、同人の紹介でX1と知り合った。
   Zは、平成15年6月、H社の取締役に就任し、平成16年2月から平成17年5月までH社の代表取締役であったが、平成18年9月にH社の取締役を退任した。

(2)K社の100%子会社であったB社は、M社が設立したC社との間で締結していた匿名組合契約の終了に伴い、C社から後に上場廃止となるD社発行の株券(以下「本件株券」という。)の償還を受けることになっていた。しかし、本件株券は、M社の事務所に保管中に持ち出された。その後、本件株券は、第1審原告X2によって、H社において借株として資金繰りに使用するために、H社の事務所内に持ち運ばれた。

(3)被告は、平成24年4月11日から同年8月までの間、インターネット電子掲示板に記事①から⑨まで(以下「本件各記事」という。)を投稿した。本件各記事は、平成25年2月までに電子掲示板から削除された。


 【争点】

(1)本件各記事の名誉棄損該当性
(2)本件各記事のうち、上記(1)でX1又はX2の名誉を棄損するものと認められた記事(以下「本件名誉棄損記事」という。)の違法性阻却事由の有無
 ア 事実の公共性及び目的の公益性
 イ 真実性・相当性
(3)第1審原告X1及び同X2の損害
   以下、裁判所の判断の概要(ただし、(1)については、本件名誉棄損記事に関する判示のみ)を示す。


【裁判所の判断】 

(1)本件各記事の名誉棄損該当性
 ア 本件記事①
   月刊「P」2011年(平成23年)12月号(以下「本件雑誌」という。)を引用する方法により、「昔は、脱税を幇助する国際間の金の運び屋に過ぎなかった」と記載されている。これは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、第1審原告X1の社会的評価を低下させるものといえる。
 イ 本件記事②
   本件雑誌を引用する方法により、「第1審原告X1がマネーロンダリングをしていた」との事実が摘示されている。マネーロンダリングとは、一般用語としては、取得原因を明らかにしたくないうしろめたさのある資金(犯罪収益に限られない)を、現金で移動したり、預金口座間を移動させたり、国境を越えて投資したりして取得原因が分からなくなるように装うことをいうものと解される。上記事実は、第1審原告X1の社会的評価を低下させるものである。
 ウ 本件記事④
   「第1審原告X1が、各種行政当局や捜査機関等による追求から逃れるため、資産を売却して隠匿した」との事実を摘示するものである。これは、第1審原告X1の社会的評価を低下させるものである。
 エ 本件記事⑥
   第1審原告X2が業務上横領により民事訴訟を提起され、刑事告発されたことを摘示するだけではなく、「主犯」、「どう考えてもあり得ない嘘までX2はついて逃げ切ろうとしており」、「横領を幇助」、「横領が発覚」との記載が含まれている。これらを全体として読めば、「第1審原告X2が業務上横領をした」との事実を摘示するものであるから、第1審原告X2の社会的評価を低下させるものである。
 オ 本件記事⑦
   「第1審原告X2が、不正な資産売却や粉飾決算処理を行った」、「第1審原告X2が、詐害行為に加担し、不正な会計処理やマネーロンダリングに従事した」との事実を摘示するものであるから、第1審原告X2の社会的評価を低下させるものである。
 カ 以上によれば、本件各記事のうち、本件記事①・②・④は第1審原告X1の名誉を毀損し、本件記事⑥・⑦は第1審原告X2の名誉を毀損するものと認められる。

(2)本件名誉棄損記事の違法性阻却事由の有無
 ア 事実の公共性及び目的の公益性
   本件名誉毀損記事の投稿は、公共の利害に関する事実に係り、主として公益を図る目的で行われたものであるといえる。
   この点、第1審原告らは、①第1審被告が、本件各記事を、匿名掲示板において、短時間のうちに繰り返し投稿したこと、②その際、複数のIDを使用して、本件各記事が複数人によって投稿されたかのような外観を作出していること、③第1審被告が使用したIDの中には第1審原告らを揶揄する文字列が含まれていることなどを総合すると、第1審被告が本件各記事を投稿した目的は、主として第1審原告らの悪評を流布することにあったと主張している。
   しかし、①本件各記事は、上場会社の役員又は元役員の経営者としての適格性や事業担当部長の適格性という公共性の高い事実に関するものであること、②第1審被告が使用したIDを除き、本件各記事には第1審原告らを揶揄するような表現は含まれていないことなどを考慮すると、第1審原告ら主張にかかる上記事情をもって、本件各記事を投稿した主たる目的が公益を図ることであったことを否定するには無理があるというほかない。よって、第1審原告らの上記主張は採用できない。
 イ 真実性・相当性
  a)本件記事①
   第1審原告X1は、平成21年に旧証券取引法違反の容疑で検察官から取り調べを受けた際、平成17年6月と11月の2回、H社の社長としてシンガポールに出張した際、顧客の依頼により、顧客名義の口座から出勤された現金各2000万円を預かり、これを税関に申告せず手荷物に入れて日本国内に持ち込み、後日日本国内で顧客に渡した、顧客の上記依頼の目的は、シンガポールの顧客名義口座に入金されたキャピタルゲインを現金で日本に持ち込むことにより、日本における課税を免れることにあり、第1審原告X1もその目的を理解していたなどと供述しているとおりある。
   よって、第1審原告X1が国境を越えて現金を移動させたこと、その目的が脱税の幇助など資金の出所を不明にするためにあったことは、真実であることの証明があるというべきである。
  b)本件記事②
   前記a)認定のとおり、第1審原告X1は、海外において預かった顧客の資金を、税関に申告することなく現金で日本国内に持ち込んでいたと認められる。そして、顧客の資金を現金で国境を越えて移動させて顧客資金の取得原因を不明にさせたこと、そのようなことを依頼する顧客は資金の取得原因を明らかにしたくないといううしろめたさを有していることが通常である。
   よって、第1審原告X1が当該顧客と共に一般用語でいうマネーロンダリングを行っていたことを真実であることの証明がある。
  c)本件記事④
   第1審原告X1がシンガポールの自宅(通称「〇〇 HOUSE」)を売却した事実は認められるが、その時期を的確に認めるに足りる証拠はない。また、売却時に税務当局や債権者等による追及を受ける状況にあったことや、その追及から逃れるためにシンガポールの自宅を売却したことを認めるに足りる証拠もない。
   そうすると、本件記事④の摘示事実が真実であるとは認められない。また、第1審被告において上記事実が真実と信じるについて相当の理由があると認めることもできない。
  d)本件記事⑥
   B社は、平成23年11月18日付けで、東京地方検察庁検察官に対し、第1審原告X2を業務上横領の容疑で刑事告発し、同検察官はこれを受理している。また、別件訴訟の判決においても、第1審原告X2がB社に返還すべき本件株券を、貸株としてH社に持ち込んでH社の資金繰りに使用させたことが認定されている。とすれば、仮に後に本件株券をB社に返還したとしても、本件株券をH社に貸株として利用させて、B社への返還が不可能となるリスクのある状態に置いたことは、他人の財産の預り主や受任者としての善管注意義務違反に当たるおとはもちろん、第1審原告X2が業務上横領をしたということにほかならない。
   よって、本件記事⑥の摘示事実(業務上横領)は真実であることの証明がある。
  e)本件記事⑦
   本件記事⑥の摘示事実のうち、第1審原告X2が、「不正な資産売却」を行い、「詐害行為に加担」した事実は真実であると認められる。
   他方、第1審原告X2が、「粉飾決算処理」を行い、「不正な会計処理やマネーロンダリングに従事」した事実が真実であると認めることはできず、第1審被告において同事実が真実と信じることについて相当の理由があると認めることもできない(詳細は省略)。
  f)以上によれば、本件名誉毀損記事のうち、第1審原告X1に関する本件記事④及び第1審原告X2に関する本件記事⑦の一部については不法行為が成立するが、その他の記事については違法性が阻却され、不法行為は成立しない。

(3)第1審原告X1及び同X2の損害
 ア 慰謝料
  a)本件名誉毀損記事のうち、第1審原告X1及び同X2に対する不法行為が成立するのは、その一部(本件記事④及び⑦の一部)に止まる。また、本件各記事は、平成25年2月までに削除されている。さらに、不法行為が成立する記事についても、その投稿は、上場会社の経営者や事業部長としての適格性という公共性の高い事実に関するものであって、主として公益を図る目的で行われたものである。
  b) 第1審原告X1及び同X2については、問題の潜む上場企業(H社)の投資事業に業態変更した後の取締役又は事業部長として、その社会的評価はもともとたいして高くなかったことがうかがわれる。
   そして、第1審X1は、国境を越えた不正な現金移動などにより資金の出所を不明にする行為を実行するような人物であって、取締役としての忠実義務や善管注意義務を果たす資質や、受任者・受寄者としての善管注意義務を果たす資質に欠けることが明らかであって、保護すべき社会的名声に乏しい。
   同様に、第1審X2も、預かり資産(D社株式)のH社への不正貸与をするなど、取締役としての忠実義務や善管注意義務を果たす資質や、受任者・受寄者としての善管注意義務を果たす資質に欠けることが明らかであって、保護すべき社会的名声に乏しい。
   さらに、第1審X1については、第1審被告が本件各記事を投稿する前から、本件各記事と同じ内容を含む出版物が複数発行されていた。
  c)これらの事情を考慮すると、本件名誉棄損記事のうち一部について不法行為が成立するとしても、その違法性や名誉が毀損された程度は著しく低いといわざるを得ない。このほか、証拠によって認められる諸般の事情を考慮すると、本件記事④及び⑦の一部によって第1審原告X1及び同X2が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は、各2万7000円と認めるのが相当である。
 イ その他の損害
  a)調査費用 0円
  b)逸失利益 0円
  c)弁護士費用 各3000円

(4)結論
   第1審原告X1及び同X2の請求は、損害賠償各3万円の限度で理由があるが、第1審原告会社の請求の全部並びに第1審原告X1及び同X2のその余の請求は理由がないから、第1審原告X1及び同X2の請求を損害賠償金各120万円の限度で、第1審原告会社の請求を損害賠償金各70万円の限度で認容した原判決は、一部失当である(原判決変更)。