東京地裁平成31年2月8日判決(自保ジャーナル2048号117頁)

大型の冷蔵冷凍車の中古車市場は存在することから、原告車の時価を、減価償却の方法によらずに、中古車市場における販売価格を参照して算定た事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成28年7月19午後7時25分頃
 イ 発生場所 愛知県小牧市内B高速道路上り線路線上
 ウ 原告車  原告が所有し、Aが運転する大型貨物自動車(冷蔵冷凍車)
 エ 被告車  Cが運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 被告車が高速道路を逆走して原告車と正面衝突した。

(2)原告は、貨物運送を目的とする会社である。
   被告DはCの妻(相続分2分の1)、被告E、同F及び同GはCの子(相続分各6分の1)である。
   被告保険会社は、Cとの間で保険契約を締結した者であり、同保険契約上の直接請求権に基づき、本件事故について、原告の被告Dらに対する判決の確定を条件として、原告に対して被告Dらが負担する損害賠償額を支払う義務を負う。

(3)原告車は、車両総重量2万4,950㎏の冷蔵冷凍車であり、初度登録は平成21年12、本件事故時点までの走行距離は約103万8,000であった。
   本件事故による原告車の損傷の修理には1,235万2,705円を要する。


【争点】

   原告の損害額
(1)車両損害(争点1)
(2)休車損(争点2)
(3)営業損害(取引の打切り)
(4)営業損害(余剰人員の給与)
(5)保管料
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、争点1に関する被告らの主張は、以下のとおりである。
 ア 冷蔵冷凍車については、中古車市場が形成されておらず、同等の車両を取得し得る価格を算定することが困難であるため、原告車の時価減価償却の方法によって算定すべきである。
   原告車は、初度登録が平成21年、走行距離が100万㎞以上の冷蔵冷凍車であり、本件事故時において、既に相当な距離を走行し、耐用年数(4年又は5年)を超過して使用していた。そうすると、原告車の時価は、新車価格2,460万円の1である246万円とすべきであり、これは修理費(注:1,235万2,705)を下回るため、経済的全損として、車両損害は246万円となる。仮に耐用年数を冷蔵冷凍車の平均車齢である10として定率法を用いて計算しても、本件事故時(経過年数7年)の時価291万8,848である。


【裁判所の判断】

(1)車両損害(争点1)
 ア 原告は、平成21年12月、H社から冷凍食品等の運送業務を受注することができることとなり、冷蔵冷凍庫である原告車を購入した。
   原告車は、車両総重量2万4,950㎏の冷蔵冷凍車(初度登録平成21年12)であり、4軸低床、総輪エアサスペンションなど、H社が要求する仕様に対応して製造され、専らC社から受注する運送業務に使用されていた。
   原告車については、平成24年12月にエンジン、エアサスペンション及びパワーステアリング等の交換がされ、平成27年7月には、側面衝突の交通事故に遭ったため、平成28年1月にパネル交換等がされた。原告車の本件事故時点までの走行距離は約103万8,000であった。
 イ インターネット上の中古車販売サイトは、原告車と同社種である大型冷蔵冷凍車について、
  ・平成28年12月に税込価格1,263万6,000円(平成19年式、走行距離48万8,000㎞)で販売されていたもの
  ・平成29年6月に税込価格1,361万円(初度登録平成20年3月、走行距離38万5,000㎞)で販売されていたもの
  ・平成30年2月に税込価格756万円(平成22年式、走行距離68万8,000㎞)で販売されていたものがある。
   平成30年2月に販売されていた前記2台と同じウェブサイトでは、価格は応相談として、同車種の冷蔵冷凍車が他に14台販売されていた。
   他方で、原告が平成28年8月に株式会社Iから取り付けた中古の冷蔵冷凍車の見積書では、
  ・本体価格1,500万円(初度登録平成23年9月、走行距離68万8,120㎞)
  ・本体価格1,050万円(初度登録平成21年9月、走行距離29万4,591㎞)
  ・本体価格880万円(初度登録平成17年12月、走行距離69万9,096㎞)
の3台が提示された。
 ウ 以上の事実によれば、大型の冷蔵冷凍車の中古車市場は存在するといえるから、原告車の時価は、減価償却の方法によって算定すべきではなく、中古車市場における販売価格を参照して算定するのが妥当である。
   そして、原告車は、初度登録から本件事故まで約7年を経過し、その走行距離が100万㎞を超えている車両であって、前記イの各車両と比べても使用期間又は走行距離が長いこと、他方で、エンジン等の交換がされていることを考慮すると、原告車の時価800万円であると認められる。
   これに加えて、原告車と同等の冷蔵冷凍車を取得するには、消費税相当額64万円を要するほか、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、その他諸費用として60万円を要すること、原告車と同じ業務に使用するにはH社が要求する仕様を踏まえた整備が必要であり、その費用として50万円を要することが認められるが、これを上回る費用を要すると認めるに足りる証拠はない。
   したがって、原告車と同等の車両の取得に要する費用は、車両の時価に前記各費用を合わせた974万円であり、これは原告車の修理費(1,235万2,705円)を下回るから、原告車は経済的全損といえ、本件事故による車両損害974万円である。

(2)休車損(争点2)
 ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、
  ・原告車の稼働による売上が、平成28年4月から同年6月までの3ヶ月間において、510万8,400円であったこと
  ・平成27年7月1日から平成28年6月30日までの事業年度において、原告の運送収入は2億7,109万1,000円、運送業務に係る変動費は1億7,988万4,000円(人件費、燃料油脂費、修繕費、事故賠償費、道路使用料及び「その他」の経費の合計額)であって、利益率は33%であったことが認められる。
   そうすると、原告車の稼働による利益は、1ヶ月につき56万1,924円(=510万8,400円÷3×33%)となる。
 イ また、証拠(略)によれば、原告は、原告車の他に大型の冷蔵冷凍庫を保有していなかったことが認められる。
   そして、原告車の損傷状況等に関する被告保険会社による調査が本件事故後約1ヶ月を経過した平成28年8月22日に行われたこと、前記(1)ウのとおり、取得した車両を原告車に替えて使用するには相応の整備を要することからすれば、原告車の買替えに要する相当な期間は4ヶ月間であると認められる。
 ウ したがって、本件事故によって、原告には4ヶ月にわたり原告車を使用することができなかったことによる休車損224万7,697円(=56万1,924円×4)が生じたと認められる。

(3)営業損害(取引の打切り)
   H社との間の取引は本件事故から6ヶ月以上の期間が経過した後に原告の申し入れによって終了したものであるから、この取引の終了による逸失利益は本件事故による損害とは認められない(詳細については、省略する。)。

(4)営業損害(余剰人員の給与)
   本件事故による損害とは認められない(詳細については、省略する。)。

(5)保管料
   前記(2)イで認定したとおり、原告車の買替えに要する期間は本件事故後4ヶ月間であるから、保管料として本件事故と相当因果関係が認められるのは、この期間に係るものに限られる。
   したがって、平成28年8月18日(注:修理工場における保管料の発生日である。)から3ヶ月分の保管料9万7,200円は、本件事故による損害であると認められる。

(6)結論
   以上によれば、原告の損害は、車両損害974万円、休車損224万7,696円及び保管料9万7,200円に弁護士費用120万円を加えた1,328万4,896円(注:請求額は、4,508万2,829円)となる(一部認容)。


 

東京地裁平成31年2月22日判決(自保ジャーナル2045号111頁)

自動二輪車を運転する原告は、必要がないのに急ブレーキをかけた結果、自車のコントロールを失って転倒したとして、原告に8割の過失を認めた事例(控訴中)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成26年6月2日午後8時35分頃
 イ 発生場所 東京都世田谷区(地番略)先の交差点(以下「本件交差点」という。)
 ウ 原告車  原告運転の普通自動二輪車
 エ 被告車  被告運転の普通乗用自動車
 オ 事故態様 原告車が、片側1車線の道路(以下「本件道路」という。)を走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に直進入する際に、左方の交差道路(以下「本件交差道路」という。)から本件交差点に左折進入しようとした被告車との衝突を避けようとして転倒した(なお、被告車が交差点内に進入したかどうかは争いがある。)。

(2)原告(昭和43年7月生、本件事故時45歳。)は、本件事故により、右鎖骨骨折、右第2助骨骨折、右大腿部打撲等の傷害を負った。原告は、Bセンターその他の医療機関及びC整骨院に、平成26年6月2日から平成28年2月2日まで(注:症状固定後の通院を含む。)入通院した。
   Bセンターの医師は、平成27年1月30日、以下の内容を記載した後遺障害診断書を作成した。
 ア 症状固定日 平成27年1月14日
 イ 傷病名 右鎖骨骨折
 ウ 自覚症状 右鎖骨周囲しびれ、右小指前腕にしびれ、右手筋力低下
 エ 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果 感覚神経伝達速度低下、MRIで右肩板部分断裂、右肩しびれ、右手筋力低下
 オ 関節機能障害 肩:屈曲 右100度、左180度 伸展 右30度、左50度

(3)原告は、平成27年12月4日、自賠責保険の後遺障害認定手続において、右肩関節の拘縮による可動域制限については後遺障害等級12級6号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)に、右鎖骨周囲のしびれについては後遺障害等級14級9号(局部に神経症状を残すもの)に、それぞれ該当し(併合12級)、右小指及び前腕のしびれ、右手筋力低下については自賠責保険における後遺障害に該当しないと判断された。
   原告は、平成27年12月8日、自賠責保険金224万円の支払を受けた。


【争点】

(1)事故態様、双方の過失の有無及び割合(争点1)
(2)原告の損害(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、争点1に関する各当事者の主張は、以下のとおりである。
  (原告の主張)
   原告は、原告車を運転して本件道路を時速約50㎞で走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしていたが、被告車が本件交差道路上の横断歩道に車体前方がかかった位置に静止しているのを発見し、本件交差点に進入するために安全確認をしているものと考えて注視していた。そうしたところ、被告車が突然本件交差点に右折進入してきたため、原告は、被告車との衝突を避けるために急制動の措置を講じ、バランスを崩して転倒した。
  (被告の主張)
   被告は、被告車を運転して本件交差道路を走行し、本件交差点手前の停止線で一時停止して左右の安全確認をした上で、時速約5㎞で前進した時に、右方の本件道路から原告車がスピードを出して進行してくるのに気付き、本件交差道路上の横断歩道に車体が差し掛かる地点(注:本件交差点に進入する前の地点)で停止した。被告車は本件交差点に進入しておらず、原告車の進路にも進入していない。


【裁判所の判断】

(1)事故態様、双方の過失の有無及び割合(争点1)
 ア 認定事実
  a)本件道路は、制限速度が40㎞の片側1車線道路で、両側に外側線が引かれ、歩道が設置されている。走行車線(両側の外側線の間)の幅は対向2車線を合わせて6.1m、両側の外側線と歩道の間は各1.0m、原告車の進路左方の歩道の幅は約3.7mであって、本件交差点において対面に信号機が設置され、本件交差点手前の本件道路上には横断歩道及び停止線がある。
   本件交差道路は、制限速度が30㎞の道路で、両側に歩道が設置されている。車道の幅は4.9mであって本件交差点において対面に信号機はなく、一時停止の規制がされ、本件交差点手前の本件道路上には横断歩道及び停止線がある。
  b)被告は、平成26年6月2日午後8時35分頃、被告車を運転して本件交差道路を走行し、本件交差点に至った。被告は、本件交差点手前の停止線付近で停止した後、徐行して本件道路を走行する車両の動向を見ながら前進したが、その進路右方から本件道路を走行してくる原告車に気付いて停止した。被告車が停止した位置は、本件交差道路上の横断歩道から車体の前部が本件交差点側に約0.9m進入した地点であった。
  c)原告車は、その頃、原告車を運転し、本件道路をa方面からb方面に走行し、本件交差点に至った。原告は、時速約50㎞で走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしていたが、本件交差道路上の被告車を発見し、被告車が本件交差点に向かって進行してきたため、車線の中央付近を走行していた原告車の進路上に進入してくると考え、急ブレーキをかけて被告車との衝突を避けようとしたが、本件道路上の横断歩道及びマンホールで滑って転倒した。
 イ 被告は、本件交差点に進入する前の地点で停止したと主張し、平成26年6月14日に実施された実況見分では同様の指示説明をしているが、本件事故を目撃した第三者が、被告車は横断歩道寄り本件交差点側に進入していたと指示説明していることに反するものであるから、被告車の停止位置に関する被告の主張は採用することができない。
 ウ 以上の事実によれば、被告は、その進路右方から原告車が本件道路を走行してきて対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしているのに、本件交差点に被告車を進入させた過失があり、被告車が本件交差点に進入したことが原告車の転倒の誘因になったと認められる。
   もっとも、左右の見通しの悪い交差点において停止線で一時停止した後に交差道路の状況を見通すことができる位置まで前進すること自体は適切な運転であり、被告は、徐行して前進する間に原告車に気付いて、本件道路の走行車線の延長上にまでは至ることなく、被告車が横断歩道から本件交差点側に約0.9m進入した地点で被告車を停止させたのであるから、被告は一定の注意を払って進行していたといえる。
   他方で、原告は、制限速度を10㎞程度超過して走行してきた上、急ブレーキをかけたため、横断歩道及びマンホールで滑って転倒したものであるが、被告車は徐行して前進し、原告車の進路上にも走行車線にも進入することなく停止しているから、急ブレーキをかけて衝突を避ける必要はなかったといえる。そうすると、原告は、被告車が原告車の進路に進入してくると考え、必要がないのに急ブレーキをかけた結果、原告車のコントロールを失って転倒したといえるから、原告の過失は大きい。
 エ 前記の事故態様並びに過失の内容及び程度を考慮すると、本件事故については原告の過失が大きいというべきであるから、過失割合は、原告8割、被告2とするのが相当である。

(2)原告の損害(争点2)
 ア 治療費     560,525円
 イ 入院雑費      15,000円
 ウ 通院等交通費       34,249円
 エ 文書料      110,480円
 オ 逸失利益   16,780,750円
  a)基礎収入
   証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、
  ①原告が、本件事故当時、柔道整復師として、整骨院を経営し、平日の午前中は同院で施術を行うとともに、株式会社K(原告と代表取締役の2名で各50%出資して設立した訪問マッサージ業を目的とする株式会社である。)の取締役を務め、平日の午後は同社の会議に出席し、マッサージ師に対する施術指導を行っていたこと、
  ②原告の平成25年度の収入が青色申告特別控除前の事業所得46万6,017円及び役員報酬1,440万円であったこと、
  ③同社は、役員が原告と代表取締役の2名、正社員が8名(うちマッサージ師1名)、パートが3名(うちマッサージ師1名)、業務委託先のマッサージ師が23名であること、
  ④同社の代表取締役の報酬は年1,680万円であり、営業職及びマッサージ師に対する給与及び賞与は年500万円から580万円程度であったこと
が認められる。
   以上のことからすれば、株式会社Kの役員報酬1,440万円のうち労務対価分は600万円であると認められ、これと事業所得46万6,017円の合計額646万6,017円を基礎収入とするのが相当である。
  b)労働能力喪失率 14%
  c)労働能力喪失期間 22年間(対応するライプニッツ係数は13.1630)
 カ 入通院慰謝料  1,400,000円
 キ 後遺障害慰謝料    2,900,000円
 ク 小計       21,801,004円
 ケ 過失相殺    ▲17,440,803円(80%)
   コ 損害の填補   ▲1,908,506円
   損害後の残額  2,451,695円
   原告は、平成27年12月8日、自賠責保険金224万円の支払を受けたが、これはまず同日までの遅延損害金(33万1,494円)に充当され、その残額である190万8,506円が元本に充当される。
 サ 弁護士費用      240,000円
 シ 合計      2,691,695円

(3)結論
   原告の請求は、269万1,695円及びこれに対する平成27年12月9日(自賠責保険金の支払日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で理由がある(一部認容)。


 

大阪高裁平成31年1月22日判決(自保ジャーナル2042号16頁)

医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされていることから、右膝内側半月板損傷の機能障害に関し、後遺障害等級第12級相当の損害を認定した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
 ア 発生日時 平成27年8月7日午前11時36分頃
 イ 発生場所 京都府市宇治市内の道路(以下「本件道路」という。)
 ウ 甲車両  1審原告兼反訴被告(以下「1審原告」という。)が運転する普通乗用自動車
 エ 乙自転車 1審被告兼反訴原告(以下「1審被告」という。1962年3月生)が運転する自転車
 オ 事故態様 1審原告が、甲車両を運転し、本件道路を東から西に向かって走行し、対向車と離合するため道路左側に甲車両を寄せたところ、1審被告も、その頃、同一方向に向かって本件道路左端を走行していたため、乙自転車と甲車両の左側面後部が衝突した。

(2)1審被告(本件事故当時53歳)は、a市交通局b営業所に勤務し、市バス業務を担当する地方公務員であるが、本件事故当時、主にデスクワークを担当していた。
   1審被告は、事故当日の平成27年8月7日、B病院で診察を受け、痛みのため右膝の屈曲が困難であると訴えたところ、同病院のA医師は、同日、本件事故での受傷について、「右膝挫傷」と診断した。
    1審被告は、その後、A医師の容認の下、自宅近くの接骨院で施術を受けていたが、B病院での診療の際には、右膝の違和感、階段降下時の膝崩れ、右膝屈曲時の膝の内側の痛みなどを訴えていた。そこで、A医師は、同年10月9日、MRI検査を行ったところ、右膝内側半月板損傷が疑われる所見があっため、同年10年16日、本件事故での受傷について、「右膝挫傷」に加え「右膝内側半月板損傷」と診断した。

(3)1審被告は、平成27年11月21日、B病院を受診し、マックマレー検査により内側半月板損傷を示す陽性所見が見られた。
   しかし、同年12月16に再度行われたMRI検査では、前回に認められた右膝内側半月板損傷が改善しているとの所見が得られた。そして、平成28年1月27にB病院を受診した際は、右膝間接の可動域が130度であり、マックマレー検査でも右膝内側半月板損傷を示す所見が「陰性」とされた。
   しかし、1審被告は、その後も、痛みや膝崩れといった右膝の症状を訴えており、右膝関節の関節可動域(屈曲)は、平成28年2月13日が90度、同年3月11日が100度であった。

(4)A医師は、受傷から半年以上が経過しても右膝の症状が緩解せず、これ以上保存的治療をしても治療効果が得られる見込みが乏しいと判断し、平成28年4月8日に症状が固定したとする後遺障害に関する診断書を作成した。同診断書では「右膝痛、屈曲位90度を超えると痛み、階段の昇降時に膝くずれ等あり、歩行時力が入りにくい」との自覚症状があるとされ、膝関節の屈曲可動域は健側(左)の130度に対して右が90度(自動、他動とも)とされた。
   損害保険料率算出機構(事前認定)は、同年5月11日までに、1審被告には、上記診断書において診断された後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残存するものと認め、かつ、右膝関節はその可動域が健側(左膝関節)の可動域角度の4分の3以下に制限されるとの機能障害があり、右膝の神経症状は昨日障害に包摂して評価されるべきものであって、本件後遺障害は全体として等級表12級7号に該当するものと認めた。

(5)1審被告の事故前及び事故後の給与収入は、平成26年分が820万9、203円、平成27年分が830万3,904円、平成28年分が817万8,968円であった。
   1審被告は、西暦2022年3月に60歳となり、同月末をもってa市を定年退職することになるが、特段の事情がなければ同年4月1日から5年間は再任用される可能性が高い。しかし、再任用職員に支給される給与は、通常、定年前支給額の半額程度となる。


 【争点】

(1)事故態様、当事者双方の過失の有無及び割合
(2)1審被告の損害(反訴)
 ア 1審被告の後遺障害
 イ 逸失利益
 ウ 慰謝料
   以下、上記についての裁判所の判断を示す(注:1審原告の損害(本訴)に関しては、原判決・本判決とも、甲車両の修理費5万3,028円を認めた。)。


   なお、上記(2)についての1審(京都地裁平成30年6月14日判決)の判断は、以下のとおりである。
 ア 1審被告の後遺障害
   事前認定おいて、右膝の関節機能障害について12級7号該当とされた。しかし、①右膝の半月板損傷は改善していて、器質的変化が残存したとはいえない(平成27年12月16日)。また、②関節可動域についてみても、初診時から約90度の屈曲が可能であったところ、治療期間中にいったん130度程度まで回復した後に、症状固定時の測定値90度に至ったことからすると(同年8月7日、平成28年1月27日、同年4月8日)、症状固定時の測定値をただちには採用し難い。
   そうすると、12裕7号該当は認められない。
   他方、被告の右膝の痛みの訴えは本件事故後一貫していて、かつ、MRI検査において右内側半月板損傷の可能性が認められたことを踏まえると、同症状は医学的に説明可能なものであるから、14級9「局部に神経症状を残すもの」に該当する。
 イ 逸失利益 111万7,765円
   基礎収入を平成26年(本件事故前年)の年収とし、労働能力喪失率5とした上で、今後の症状に対する慣れが期待できるから、労度能力喪失期間3年間(対応するライプニッツ係数は2.7232である。)と定める。
 ウ 慰謝料
  a)通院慰謝料    90万円
  b)後遺障害慰謝料 110万円


【裁判所の判断】

(1)事故態様、当事者双方の過失の有無及び割合
 ア 甲車両は、本件道路を、東から西に向かって走行していたが、1審原告は、前方に対向車を認め、その対向車をやり過ごすため、甲車両を、本件道路左(南)の有蓋側溝に設置された電柱(以下「本件電柱」という。)手前の本件道路左寄りに停止させようとし、ブレーキをかけ、左にハンドルを切って本件電柱の手前の位置に停止した。
   1審被告は、本件道路の左寄りを乙自転車に乗って走行していたが、急に甲車両が左に寄せて来たため、道路を塞がれ、停止することもできず、乙自転車の前かご、ハンドル右側、1審被告の右膝が、甲車両の左側面後部と衝突した。
   前記の事実は、京都府E警察署の警察官が平成27年8月18日に作成した「現場の見分状況書」(注:本件事故の11日後に、1審原告と1審被告の双方が現場に立ち会い、警察官に対してした説明に基づいて作成されたもの)の記載に沿うものである(注:1審原告は、本件事故の発生状況について、乙自転車は、本件電柱を超えて東から西に進行し始めた甲車両に、本件電柱よりも西側で衝突した旨主張していた。)。
 イ 前記認定事実に照らせば、本件事故は、主に、左側を走行する乙自転車に気付かないまま、急に甲車両の進路を変更し、乙自転車の進路を塞ぐように甲車両を走行させた1審原告の過失によって発生したものと認められる。
   ただし、甲車両がブレーキをかけ、すぐに停止している事実に照らせば、甲車両はかなり低速で走行していたものと推認される。1審被告も、本件道路のような狭い道路(幅員約4.5m、その左右(南北)に幅員0.8mの有蓋側溝がある。)を走行する場合には、他の車両の動静にも気を配る必要があるから、本件事故が発生するについては、低速で後方から接近してくる甲車両に対する1審被告の注意が足りなかったことは否定できない。
 ウ 本件事故の発生に寄与した双方の過失割合は、1審原告が9割、1審被告が1と認めるのが相当である(注:原判決と同じ。)。

(2)1審被告の損害(反訴)
 ア 1審被告の後遺障害
  (注:下記イにて、本件後遺障害による労働能力喪失率14%を認めていることから、後遺障害等級12に該当すると判断したものと推認される。)
   1審原告は、平成28年1月27日の右膝関節の可動域が130度であり、マックマレー検査の結果が陰性であったことから、1審被告には客観的な医学的所見によって裏付けられるような後遺障害はないと主張する。しかし、本件事故当日から症状固定時までの検査所見や治療経過を総合考慮して、A医師が、本件後遺障害が残存すると診断し、後遺障害に関する診断書を作成している事実に加え、医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされている事実(この事実は、当審証拠(略)により認められる。)によれば、平成28年1月27日の上記所見を捉えて本件後遺障害の存在を否定することは相当ではない。
 イ 逸失利益 1,133万4,446円
  a)平成28年簡易生命表によれば、54歳の男子の平均余命は28.91年であるから、1審被告は、平成28年4月8日の症状固定時(当時1審被告は54歳)においてなお14年間は就労可能であったと推認される。
  b)1審被告は、これまでのところ労働能力喪失に伴う減収が現実化していないし、定年退職までは減収が顕在化しない可能性が高いということができる。
   しかしながら、1審原告は、右膝の痛みや不安定さによって業務の支障が生じないように努力しているものと認められ、そのことが減収を食い止めている面も否定はできない。また、本件後遺障害の内容、部位及び程度と1審被告の職務内容に照らせば1審被告が定年退職後に高収入を得るために再任用以外の転職を試みた場合、本件後遺障害が不利益をもたらす可能性があるといわざるをえない。
  c)したがって、1審被告は、本件後遺障害により、上記14年間にわたり、症状固定時の給与収入817万8,968円の14%の得べかりし収入を失ったものと推認すべきであり、年5分のライプニッツ係数(9.8986)を用いて中間利息を控除し、逸失利益につき症状固定時の金額を算出すれば、1,133万4,446円となる。
 ウ 慰謝料
  a)通院慰謝料   130万円
  b)後遺障害慰謝料 260万円

(3)結論
  a)本訴請求については、1審原告及び1審被告の各控訴をいずれも棄却する。
  b)反訴請求については、上記(2)のとおりに原判決を変更し、1審原告の控訴を棄却する。