神戸地裁伊丹支部平成30年11月27日判決(自保ジャーナル2039号1頁)

後遺障害逸失利益等の算定における中間利息控除のための基準時は、本件事故時ではなく、症状固定時であるなどと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成22年7月22午後7時40分頃
   発生場所 兵庫県伊丹市内の交差点
   原告車両 原告A(平成7年9月生)運転の自転車
   被告車両 被告運転の普通貨物自動車
   事故態様 原告自転車が、本件交差点に設置された横断歩道を、青信号に従って西から東に向けて直進中、被告車両が、本件交差点を東から南に向けて左折しようとして、横断歩道上の原告自転車に衝突した。

(2)原告Aは、本件事故により、左急性硬膜下血腫、脳挫傷、頭蓋骨骨折、遷延性意識障害、外傷性水頭症等の傷害を受けた。
   原告Aは、本件事故から869 日目である平成24年12月6(注:原告Aは、満17歳)、B病院の医師から、「傷病名」を「頭部外傷」、「精神・神経の障害」について、「意識障害あり。開眼はしているが、発語なく、反応なし。四肢麻痺があり、四肢の随意的な動きはまったくない。嚥下はある程度可能であるが、主たる栄養は胃ろうによる経管栄養である。視力、聴力は測定不能。全介助状態である。」、「上肢・下肢および手指・足指の障害」について、「自動運転は全くない」、「障害内容の増悪・緩解の見通し」について「症状の改善の見込みはない」との内容で、症状固定の診断を受けた。

(3)原告Aは、平成25年2月12日、C保険会社から、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」として、後遺障害1級1に該当するとの認定を受けた。
   原告Aは、D家庭裁判所a支部において、平成28年4月16日確定の後見開始の審判を受け、成年後見人として、原告E(原告Aの父。身上監護事務を分掌)及びF弁護士(財産管理事務を分掌)が専任された。

(4)原告E及び原告G(原告Aの母)は、原告Aの両親であり、原告Hは原告Aの姉であり、原告Iは原告Aの兄である。


 【争点】

(1)過失相殺
(2)原告Aの損害(とりわけ将来治療費、付添看護費、将来介護費、将来雑費、後見関係費用)
(3)他の原告らの近親者慰謝料(とりわけ兄弟姉妹の慰謝料請求を認めるべき特段の事情)
   以下、上記(2)及び(3)についての裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(1)について、裁判所は、本件事故は、被告の一方的過失によるものとして、過失相殺はしないと判示した。


【裁判所の判断】

(1)原告Aの損害
 ア 損害額算定に当たっての先決判断
  ①将来治療費、将来介護費、後遺障害逸失利益等の算定における中間利息控除のための基準時
   標記の争点について、原告Aは症状固定時を主張し(注:労働能力喪失期間については、満17歳から満67歳までの50年に対応するライプニッツ係数18.2559から満17歳から満18歳までの1年に対応するライプニッツ係数0.9524を差し引いた17.3035によることとなる。)、被告は本件事故時(注:労働能力喪失期間については、満14歳から満67歳までの53年に対応するライプニッツ係数18.493から満14歳から満18歳までの4年に対応するライプニッツ係数3.546を差し引いた14.947によることとなる。)を主張する。
   当裁判所は、症状固定時をもって損害の価値の現在化をすべきものと判断する。仮に、事故時を基準として損害の価値の現在化のために中間利息を控除すれば、遅延損害金が単利で計算されるのに対して明らかに価値の現在化によって差し引かれる金額が多額になり、被害者が必要以上に不利益に扱われることとなることなどからは、現実に具体的な損害が発生するといえる症状固定時を損害の現在化の基準時とするのが相当というべきである。
   被告は、損害発生時期や遅延損害金の発生時期と同様に考えるべきである旨主張するが、上記のとおりであり、採用することはできない。
  ②年少女子の後遺障害逸失利益の算定における基礎収入
   当裁判所は、原告Aが本件事故時に14歳であったことから、平成24年度賃金センサス男女計・全年齢平均賃金を採用する。
  ③将来介護費の算定に当たり、障害福祉制度の存続を前提とすべきかどうか
   原告は、これを前提とせず、被告は、これを前提とすべきと主張する。しかしながら、ここでの問題は、職業介護費の算定の前提となる介護費用の単価を左右する介護報酬の金額が上昇するのか低下するかの蓋然性の問題であって、制度そのものの存続の蓋然性それ自体が問題であるとはいえない。
   そして、証拠(略)によれば、現状では介護報酬が低下する蓋然性があると認めるに足りない。そうすると、障害福祉サービスの単価が現状を維持するものとの前提で将来介護費について検討するのが相当である。
   なお、原告は、音楽療法の費用を将来介護費に含めて請求するところ、音楽療法が、原告Aにとっては、医学的にも有用であるものと認めるのが相当であるから、これを介護費に含めて請求することは認めるのが相当である。
 イ 将来治療費 197万2,843円
   原告Aは、症状固定後も、引き続き本件事故により生じた症状のため、身体機能を維持し、体調を管理するために脳外科、眼科、神経内科等の治療を必要としており、その内容も相当と認められる。よって、これに要する治療費は、本件事故と相当因果関係のある損害に当たり、口頭弁論終結後に要する治療費も、その請求をする必要があるというべきである。
 ウ 付添看護費 909万5,476円
   原告E及び原告Gが、原告Aのために付添看護をしたことについては、これに要したと認められる費用相当額が原告Aの損害となる。
   原告Gは、本来J病院勤務の看護師として就労していたにもかかわらず、原告Aの付添いをするために(その必要性・相当性は、原告Aの症状に照らせば優に認められる。)病院を退職せざるを得ず、これによって、平成21年度給与所得375万5,686円を喪失したのであるから、その填補の趣旨での損害を認めるのが相当である。そうすると、付添看護費の日額は、上記の原告Gの年収に基づく日額と一般的に認められる日額のうち高額な方とすべきであるところ、前者は1万0,289円(円未満切捨て)となり、後者は6,000円が相当であるから、高額な前者を採用する。
 エ 将来介護費 1億3,163万3,110円
  ①)原告Aが特別支援学校を卒業するまで(症状固定から3年間・ライプニッツ係数2,7232) 1,458万4,043円
   近親者介護費は、平日は日額1万円、訪問介護を利用しない土・日曜日は、2名で介護すべき部分があることも考慮して日額1万3,000円が相当である。
   また、職業介護費については、自宅に戻ってからK特別支援学校に入学するまでの期間も含めて、訪問介護サービスを利用していることから、1回5,398円を請求するので、これによる。
  ②原告Aの特別支援学校卒業から原告Gが67歳に達するまで(症状固定後4年目から20年目まで) 8,464万6,224円
   近親者介護費は、平日は日額8,000円、土・日曜日は、入浴介護と月2回施設介護費があることを考慮して日額1万円が相当である。
   また、職業介護費については、障害者総合支援法に基づく公費負担が現にされた部分は、現実に原告Aが負担した自己負担額を基準とすべきであるが、利用が増えている部分は割合的に増額するのが相当であるから、口頭弁論終結時点までは自己負担額の平均月額2万4,110円を増額した2万8,000円により、将来分については、公費負担部分を含むサービス費総額を基準とすべきであるが、これも割合的に増額するのが相当であるから、サービス費総額平均月額49万5,454円を割合的に増額した58万円により、損害として計上することとする。
  a)平成28年1月から同30年7月まで・ライプニッツ係数は症状固定後3年目から同5年7ヶ月目まで4.7647―2.7232=2.0415) 705万5,424円
   b)将来分・ライプニッツ係数は症状固定後5年8ヶ月目から20年目まで12.4622-4.7647=7.6975) 7,759万0,800円
  c)合計 8,464万6,244円
  ③原告Gが67歳に達した後(症状固定から21年目以降・ライプニッツ係数は19.3098―12.4622=6.8476) 3,240万2,843円
   原告E及び原告Gは、原告Aを現在と同様に自宅で介護し、2人が亡くなった後は原告H及び原告Iに介護に関わってほしいとの希望を持っており、原告H、及び原告Iも自宅での介護に協力する意向を有しているものの、既にそれぞれ配偶者がおり、今後子が出生した場合の生活状況がどうなるかは確定していないといわざるを得ない。そうすると、原告Aが主張するような自宅での介護は、相当に困難になっているものと考えられ、施設介護をも視野に入れた介護費の算定をすることもやむを得ないというべきである。
   そうすると、近親者介護費は、日額3,000円、職業介護費は日額1万円とするのが相当である。
  ④総合計 ①+②+③=1億3,163万3,110円
 オ 将来雑費 554万7,872円 
   原告Aの平均余命(注:症状固定時の原告Aは満17歳で、平成24年簡易生命表による平均余命は69.74年である。)に至るまで自宅介護が行われる蓋然性には疑問があることは前記エ③で説示したとおりである。よって、原告Gが67歳に達した後については、施設介護の可能性を踏まえれば、原告Aが計上する品目の雑費を必要としないものと考えるのが相当である。
   そうすると、自宅介護が行われるものと見込まれる原告Gが67歳に達するまで(症状固定後20年目まで・ライプニッツ係数12.4622)について、1ヶ月当たり3万7,098円で算定することとする。
 カ 後遺障害逸失利益 8,178万4,992円
  ①基礎収入 472万6,500円(前記ア②参照)
  ②労働能力喪失割合 100%(後遺障害等級1級1号)
  ③労働能力喪失期間 50年間(ライプニッツ係数17.3035。前記ア①参照)
  ④計算式 ①×1.0×③≒8,178万4,992円
 キ 後見関係費用
  ①申立て費用 6,199円
  ②成年後見人の報酬
   身上監護部分 0円(財産管理部分は別途)
   本件においては、F弁護士が成年後見人に選任されており、本件訴訟に勝訴した場合には、認容額の8~10%程度が報酬として付与されるものと解される。そこで、F弁護士の成年後見報酬は、一時金として弁護士費用とともに検討することとする(注:本判決は、弁護士費用(成年後見人報酬)として、2,090万円を認容した。)。
 ク 自賠責保険金の支払い(充当関係)
   原告Aは、平成25年2月12日付けで、自賠責保険金4,000万円を受領している。
   最高裁平成11年10月26日判決、最高裁平成12年9月8日判決は、自賠責保険金の支払によって元本債務に相当する損害が填補されない場合であっても、遅延損害金の請求は制限されない旨判示しており、これを請求することができる以上、自賠責保険金が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、まず遅延損害金の支払債務に充当され、残金があるときは元本に充当されるものと考えられる(民法491条1項)。
   被告は、被害者請求に基づいて支払われた自賠責保険金は、被害者の損害を填補するものではあるものの、加害者の被害者に対する損害賠償債務の「弁済」には該当せず、民法491条1項は適用されないと主張するが、独自の見解に立って判例を理解するものであって、採用することができない。

(2)他の原告らの近親者慰謝料
 ア 原告E及び原告G 各400万円
 イ 原告H及び原告I 各200万円
   原告H及び原告Iは、原告Aのきょうだいとして、両親にも引けを取らないだけの精神的苦痛を受けたものと認めるのが相当である(注:原告Hは、本件事故当時、大学生で、自宅を離れて養護学校の資格を取得する目的で看護大学に通っていたが、原告Aが日常生活の全介助を要する状態になったことから、看護師の資格を取得してb市内の病院の内科病連で勤務し、自分の看護師としての知識・経験を原告Gに伝えて原告Aの介護にも寄与していた。また、原告Iは、本件事故当時、高校生で、大学受験を控えていたにもかかわらず、原告E及び原告Gが自宅を空ける機会が多くなり、原告Aが日常生活の全介助を要する状態になったことから、理学療法士の資格を取得し、大学卒業後はb市内の病院に勤務しながら、原告Aの介護を手伝っていた。)。

(3)結論
   原告Aの請求は、2憶8,217万2,749円及びうち2憶6,127万2,749円に対する平成25年2月12日から、うち2,090万円に対する同22年7月22日から各支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却する(一部認容。請求額は、4億1,496万1,657円である。他の原告らの請求については、略)。


 

大阪地裁平成30年11月27日判決(自保ジャーナル2040号29頁)

主治医から症状固定日を予告された後の可動域数値が信用できないことを前提に、原告の症状固定日と左肩関節の可動域制限に関する後遺障害等級を認定した事例(甲事件確定)


【事案の概要】

(1)甲事件:原告A、被告B、乙事件:原告B‘保険会社、被告A

(2)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成24年12月25日午前7時50分頃
   発生場所 兵庫県伊丹市内の信号機のない交差点(以下「本件事故現場」という。)
   原告車両 A(甲事件原告兼乙事件被告。以下「原告」という。)運転の原動機付自転車
   被告車両 B(甲事件被告。以下「被告」という。)運転の普通乗用自動車
   事故態様 本件事故現場において、南北に走る道路を北方向に向かって進行する原告車両と東西に走る道路を西方向に向かって進行する被告車両が衝突した。

(3)原告は、事故当日の平成24年12月25日、C病院に搬送され、CTやレントゲン撮影により骨盤骨折及び左上腕骨近位部骨折が指摘され、手術のためにB大学病院に転院して、入院した。原告は、12月26日、骨盤骨折及び左上腕部骨折の手術を受けた。
   原告は、上記手術の後、神経・循環障害なく経過し、平成25年1月4日からリハビリが開始された。原告は、2月5日、C病院に転院して、引き続きリハビリを受けた。B大学病院退院の際のサマリーには、術後経過良好、可動域は120度前後という記載がされた。原告は、3月14日、リハビリ継続のため、D病院に転院した。
   原告は、D病院においては、作業療法士と理学療法士によるリハビリを受けていた。原告は、6月11日、D病院を退院したが、同日付けの診療情報提供書には、経過良好とされ、左肩の現在の可動域は、他動で屈曲、外転ともに170度、自動で屈曲160度、外転150度となっていた。
   原告は、6月12日からE整形外科への通院を開始し、平成27年2月18日まで実日数285日のリハビリを受けた。しかし、同病院でのリハビリは1回当たり10分から15分程度のもので、かつ、D病院と比べてリハビリの種類が少なかった。
   原告は、E整形外科への通院期間中の平成25年7月3日から4日にC病院に入院し、左上腕部の抜釘を受けた。その後、原告は、上腕骨の状態につき、問題があるという説明を受けたことはなかった。

(4)原告が、平成25年6月12日にE整形外科への通院を開始してからの原告の治療に関し、以下の事実が認められる。
  ①E整形外科のEA医師作成に係る平成26年7月30日付け「労災リハビリテーション評価計画書」には、「著名な改善はなく、概ね症状固定と思われる」と記載されている。  
  ②EA医師作成に係る平成26年8月27日付け「意見書と題する書面」には、「左肩の可動域宣言、疼痛、筋力は改善するも、現時点では改善傾向は乏しい」「同年8月末、現時点で概ね症状固定の状態と考える」などと記載されている。
  ③原告は、8月29日、C病院に通院し、CA医師の診察を受けたところ、9月26日を症状固定日とする予定である旨聞いた。
  ④原告は、9月26日、CA医師に対し、9月から週3回、鍼やリハビリに行っており、もう少し続けたいので、11月初旬を症状固定日にしようと思っている旨話した。
  ⑤原告は、11月14日、CA医師から、次回の診察の際に、症状固定の用紙を持参してもらうよう言われ、その際に測定を行うことになった。しかし、原告は、次回の診察に当たる12月19日、CA医師に対し、平成27年1月の第4週に測定し、同年1月末に症状固定したい旨述べた。
  ⑥CA医師作成に係る後遺障害診断書(以下「本件後遺障害診断書」という。)には、症状固定日は平成27年2月20日と記載されている。

(5)損害保険料率算出機構は、平成27年9月11日、原告の左上腕骨骨折に伴う左肩関節の機能障害につき、本件後遺障害診断書に記載されている数値(他動値で屈曲左80度、右160度、外転左60度、右180度)を採用し、患側(左)の可動域が健側(右)の可動域角度の1/2以下に制限されていることから、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として、後遺障害等級10級10号(併合9級)に該当する旨判断した。

(6)原告は、本件事故により人的及び物的損害を被ったとして、被告に対して、自賠法3条(人的損害に限る)及び民法709条に基づき、損害賠償金等の支払を求めた(甲事件)。
   B‘保険会社は、本件事故により発生した車両損害につき車両保険金を支払ったとして、原告に対し、保険法25条に基づき、支払った保険金等の支払を求めた(乙事件)。


【争点】

(1)原告及び被告の責任原因、過失相殺の可否(争点1)
(2)原告の症状固定時期(争点2)
(3)原告の後遺障害等級(左上腕骨骨折に伴う左肩関節の状態についての後遺障害等級該当性)(争点3)
(4)本件事故と相当因果関係のある原告の損害額(争点4)
(5)被告車両の損害額(争点5)
   以下、上記(1)から(3)までについての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)原告及び被告の責任原因、過失相殺の可否(争点1)
   原告の走行する道路が優先道路であることや、原告車両が原動機付自転車であるのに対し、被告車両が普通乗用自動車であることに照らせば、被告の過失が原告の過失と比較して圧倒的に大きく、過失割合は原告が10%、被告が90とするのが相当である。

(2)原告の症状固定時期(争点2)
   【事案の概要】(4)①ないし③によると、EA医師及びCA医師は、平成26年夏頃には、原告の症状が固定していると考えていたことが認められる。それにもかかわらず、本件後遺障害診断書には、症状固定日が平成27年2月20日と記載されているが、これは、【事案の概要】(4)④及び⑤のとおり、原告が症状固定の判断を先送りしてほしいという意向を有していたためと考えられる。
   これらの事情に加え、後述のとおり、平成26年8月29日に症状固定を伝えられた後の測定から、左肩関節可動域の数値が一層悪くなり、その推移が不自然であることに照らすと、原告の症状は、平成26年8月末には固定していたと認められる。

(3)原告の後遺障害等級(左上腕骨骨折に伴う左肩関節の状態についての後遺障害等級該当性)(争点3)
 ア 別紙左肩関節可動域制限表(裁判所認定分)(略。以下同じ。)のとおり、D病院におけるリハビリを経て、同院の最終評価時である平成25年6月10日の時点で、左肩関節の屈曲、外転はともに(自動値)150度(以上)まで改善した。にもかかわらず、その後は、一時的には改善するものの、概ね可動域が縮小していった。そして、最終的には、本件後遺障害診断書のとおり、他動値で屈曲80度、外転60度にまで至っている。このような原告の症状の推移は、一般的な推移とは異なる。
 イ 他方、以下の事情が認められる。
  ①D病院の理学療法士及び作業療法士作成に係る平成25年6月11日付け診療情報提供書には、「現在のROMはpassive肩関節 屈曲170度外転170(中略)となっています。(中略)現時点ではやや外旋位での使用練習を行い上記のような可動域での運動は可能です。しかし、持久性に乏しいこともあり、持続的な空間保持は困難な状態です。」とされていること
  ②EA医師作成に係る平成25年8月27日付けリハビリテーション評価計画書に「現在肩関節可動域に改善がみられるも、リハビリを実施しないと、関節の可動域の制限が著明になる。」、平成26年7月30日付け労災リハビリテーション評価計画書に「リハビリを中断すると、ROM制限が著明になり、運動時の疼痛も増加する。」とされていること
  ③D病院の退院後の可動域が悪化した理由につき、EA医師は、疼痛を伴っており、疼痛域を超えて左肩関節を動かす頻度、左上肢の使用頻度が減ったことが考えられる旨、CA医師は、退院後に継続的な可動域訓練ができなくなり、拘縮が進んだものと思われる旨それぞれ回答していること
  ④E整形外科におけるリハビリは、実日数285日と日数は多かったものの、D病院と比較して、頻度が少なく、1回当たりの時間が短く、リハビリの種類も少なかったことから、D病院で改善した可動域を維持するには不足していたと考えられること
   以上の事情に照らすと、D病院の退院後の可動域が悪化した理由につき、不合理とまでいうことはできない。
 ウ ただし、上記のとおり、原告は、平成26年8月29日に、同年9月26日を症状固定日とする予定である旨CA医師から聞かされているところ、別紙左肩関節可動域制限表(裁判所認定分)のとおり、同年8月27日に測定された可動域が屈曲120度、外転110度だったのが、その後の測定から数値が一層悪化して、屈曲及び外転とも全て100度以下になっているのでありこれはあまりに不自然な推移である。
   そうすると、症状固定日を予告された後の可動域数値は信用することができず、EA医師が、同年8月27日の時点で原告の左肩の改善傾向は乏しく、同年8月末で概ね症状固定と考えていたことも併せ考慮すると、その直近の測定日である同年8月27日の屈曲120度、外転110度を後遺障害認定の基準とするのが相当である。
 エ よって、左肩関節の可動域制限については、患側(左側)が健側(右側。ただし、平成26年8月27日には、計測されていないので、参考可動域である180度を基準とするのが相当である。)の3/4以下となっているので、後遺障害等級12級6「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害と残すもの」に該当する。
 オ そして、骨盤骨折による骨盤骨の変形につき、骨折後の著しい変形癒合が認められ、「骨盤骨に著しい変形を残すもの」として、後遺障害等級12号5号に、骨盤骨折に伴う右股関節の機能障害につき、その可動域が健側(左股関節)の可動域の可動域角度の3/4以下に制限されていることから、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として、後遺障害等級12級7号にそれぞれ該当する。
   よって、原告の後遺障害等級は、併合11級に該当する。

(4)結論
   甲事件:請求額21,630,710円、認容額6,065,715円(一部認容)
   乙事件:請求額175,000円、認容額17,500円(一部認容)


 

東京高裁平成30年4月25日判決(判例時報2416号34頁)

車両保険金は、まず物的損害の全体のうち被害者の過失割合に相当する部分に充当され、その残額が加害者の過失割合に相当する部分に充当される旨判示した事例(一部変更)


【事案の概要】

  以下、【事案の概要】においては、「上告人」を「控訴人」と、「被上告人」を「被控訴人」と称する。

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平27年4月2日午前10時頃
 イ 発生場所 東京都目黒区〇〇先路上
   首都高速中央環状線内回りの本線(大井方面行き)から高速3号渋谷線(東名方面行き)に接続する車線が分かれる分岐点(ゼブラゾーンが始まる位置。以下「本件分岐点」という。)付近
 ウ 控訴人車 控訴人X1が運転し所有する普通乗用自動車
 エ 被控訴人車 被控訴人会社が所有し被控訴人Y1が運転する中型貨物自動車
 オ 事故態様 控訴人車が首都高速中央環状線内回りの本線2車線中の第2車線(以下、単に「本線」という。)から高速3号渋谷線に接続する分岐車線(第1審判決別紙図面の斜線部分。以下、単に「分岐車線」という。)に進路変更したところ、控訴人車の後方で本線から分岐車線に進路変更した被控訴人車の左前角付近と、控訴人車の右後角付近が接触した。

(2)控訴人X2は、控訴人X1との間で、被保険者を控訴人X1、被保険自動車を控訴人車、保険金額を30万円とする自動車保険契約を締結しており、平成28年11月4日、同契約に基づく車両保険金として、本件事故による控訴人車の修理費用として28万9200円を支払った。

(3)被控訴人Y2は、被控訴人会社との間で、被保険者を被控訴人会社、被保険自動車を被控訴人車とする自動車保険契約(以下「本件契約」という。)を締結しており、平成27年7月1日、同契約に基づく車両保険金として、本件事故による控訴人車の修理費用77万8850円(免責分10万円を控除した額)を支払った。
   なお、本件契約に適用される普通保険約款中の代位に係る規定において、被上告人Y3に移転せずに被保険者又は保険金請求権者が引き続き有する債権は、被上告人Y3に移転した債権よりも優先して弁済されるものとする旨が定められている。

(4)原審の争点は、以下のとおりであった。
 ア 本件事故の態様と双方の過失の有無及び割合(争点1)
 イ 控訴人X1の損害(争点2)
 ウ 被控訴人会社の損害(争点3)
   原審は、争点1につき、双方の過失割合を、控訴人側7割、被控訴人側3割と判断した。
   また、原審は、争点2につき、控訴人X1の損害(車両損)を41万0550円であり、これに7割の過失相殺(△28万7385円)をすると12万3165円となると判示した上で、前記(2)のとおり、控訴人X2が車両保険金として28万9200円を支払済みであるが、そのうち28万7385円は控訴人X1の損害のうち過失相殺分の填補に充てられるから、控訴人X1が請求できる額は、41万0550円であり(過失相殺分28万7385円を含む。)から28万9200円を控除した12万1350円となり、控訴人X2の代位取得額は12万3165円から12万1350円を控除した1815円となると判示した(以上については、原審判決が確定した。)。
   他方、原審は、争点3につき、被控訴人会社の損害を、①修理費用87万8850円、②休業損害11万7988円の合計99万6838円であり、これに3割の過失相殺をすると、69万7787円(修理費用61万5195円、休業損害8万2592円)となると判示した上で、前記(3)のとおり、被控訴人Y3が車両保険金として上記修理費用から免責分10万円を控除した77万8850円を支払済みであるから、被控訴人会社が請求できる額は、修理費用のうち損害の填補がされていない10万円と過失相殺後の休車損害8万2592円の合計18万2592円となり、被控訴人Y3は、過失相殺後の修理費用61万5195円から免責分10万円を控除した51万5195円の限度で、被控訴人会社の控訴人X1に対する損害賠償請求権を代位取得したことになると判示した。


【争点】

   被上告人Y3による損害賠償請求権の代位取得の範囲  
   以下、上記の争点(以下「本件争点」という。)に関する、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、原判決の争点3に関し、被上告人(被控訴人)会社が請求できる額については、争われていない。


【裁判所の判断】

1 本件争点に関する原審の判断は、是認することができない。その理由は、以下のとおりである。

(1)交通事故の被害者が損害保険会社との間で締結した自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、特段の事情がない限り、交通事故によって生じた当該自動車に関する損害賠償請求権全体を対象として支払われるものと解するのが、当事者の意思に合致し、被害者の救済の見地からも相当である。
よって、車両損害保険条項に基づいて支払われた車両損害保険金は、当該交通事故に係る物的損害の全体を填補するものと解するのが相当である。

(2)本件事故においては、被上告人車に係る①修理費用87万8850円、②休業損害11万7988円の合計99万6838円が、被上告人車に関して被害者である被上告人会社が被った物的損害である。
   よって、被上告人Y3が支払った保険金は、これらの物的損害の全体を填補するものであるというべきである。

(3)そして、本件保険契約の被保険者である被上告人会社に本件事故の発生について過失がある場合には、車両損害保険条項に基づき、被保険者が被った損害に対して保険金を支払った被上告人Y3は、被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)が保険金請求権者に確保されるように、支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が、裁判基準損害額を上回るときに限り、その上回る部分に相当する額の範囲で、保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である(最高裁平成24年2月20日判決、同平成24年5月29日判決参照)。

(4)そうすると、過失相殺がされる場合には、被害者に支払われた保険金は、まず損害額のうち被害者の過失割合に相当する部分に充当され、その残額が加害者の過失割合に相当する部分に充当される(いわゆる裁判基準差額説)。  
   本件において、被上告人Y3が支払った車両保険金77万8850円は、被保険者である被上告人会社が被った過失相殺前の損害額99万6838円の、被上告人会社側の過失割合である3割に相当する29万9051円(99万6838円×0.3)にまず充当され、これを控除した残額である47万9799円(77万8850円―29万9051円)が、加害者の過失割合に相当する部分に充当される。
   結局、被上告人Y3は、被上告人会社に代位して、上告人X1に対し、47万9799円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることができるものである。

(5)したがって、原判決は、被上告人Y3が上告人X1に対して請求することができる金額を過大に算定しているから、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 2 結論
   以上のとおり、上告人X1の論旨には理由がある。そこで、以上に説示したところに従い、原判決中X1及び被上告人Y3に関する部分を、前記1(4)のとおり変更する(一部変更。なお、原判決中X1及び被上告人会社に関する部分は、変更されていない。)。