東京高裁令和元年11月28日判決(労働判例1215号5頁)

報道機関に対する記者会見における一審原告(元従業員)の各発言が、一審被告(使用者)の名誉または信用を毀損するものとして、一審被告の一審原告に対する損害賠償請求が認められた事例(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)一審被告は、英語及び中国語のコーチングスクールであるPの運営等を主たる事業とする、資本金1200万円、従業員数約22名の株式会社である。一審被告代表者は、昭和49年7月生まれの女性である。一審被告は、一審被告代表者の亡夫が設立した会社であり、一審被告代表者は、平成23年に夫が死亡した後、一審被告の監査役となり、平成26年4月、一審被告の代表取締役となった。
   一審原告は、昭和56年○月生まれの女性である。一審原告は、平成20年7月9日、一審被告との間で、期限の定めのない労働契約(以下「本件正社員契約」という。)を締結し、以後、Pにおいてコーチとして稼働していた。平成24年11月当時の本件正社員契約における一審原告の労働条件は、所定労働時間を1日7時間(完全フレックス制)、賃金等を1か月48万円(ただし、本給35万3640円、定額時間外手当12万6360円の合計)などとするものであった。

(2)一審原告は、平成25年1月、出産のために産前休暇を取得し、同年3月2日に長女を出産した後、産後休暇及び育児休暇(終了日は子が1歳に達する日の前日である平成26年3月1日)を取得した。その後、一審原告の育児休業期間は、6か月延長(終了日は子が1歳に達する日の前日である平成26年9月1日)された。

(3)一審原告は、平成26年9月1日、一審被告代表者、B(注:Pの執行役員)及びC社労士(注:一審被告の顧問社会保険労務士)と面談した上で、労働条件として、契約期間を「期間の定めあり(平成26年9月2日から平成27年9月1日まで)」、雇用形態を「契約社員」、始業・終業の時刻及び休憩時間を「原則水・土・日曜日/4時間勤務」,賃金を「月額10万6000円(クラス担当業務:7万6000円、その他業務:3万円)」などとする記載のある雇用契約書(以下「本件雇用契約書」という。)に署名し、これを一審被告に交付した(以下「本件合意」といい、本件合意に基づく雇用契約を「本件契約社員契約」という。ただし、合意の解釈については争いがある。)。一審原告は、保育園が決まれば週5日勤務の正社員に復帰できるのかと質問したが、Bは、クラススケジュールの問題がある旨述べ、C社労士は、正社員としての労働契約に変更するには一審被告との合意を要する旨述べた。

(4)一審原告は、平成26年9月8日、Bに対し、メールを送信して、○○にある保育園から同年10月に空きが出るとの電話連絡があった旨連絡した。また、一審原告は、同年9月9日、Bに対し、電話で、同年10月から週5日勤務の正社員として就労したい旨を申し出た。これ以降、一審原告は、一審被告に対し、「【P】コーチの従業形態:2014年4月以降」と題する書面(注:平成26年4月1日施行の一審被告の就業規則等の改定に合わせて作成された書面。一審被告は、同年2月26日、一審原告に対し、面談をし、個別に説明した。)の補足説明として記載されている「契約社員は、本人が希望する場合は正社員への契約変更が前提です」との内容に基づいて、週5日勤務の正社員に戻すように求め、何度か交渉をしたが、一審被告はこれに応じなかった。

(5)一審被告は、一審原告に対し、平成27年7月11日頃、同月12日以降自宅待機を命じ、同月31日差出しの内容証明郵便をもって、本件契約社員契約を同年9月1日限り期間満了により終了する旨通知した(以下「本件雇止め」という。)。

(6)一審原告は、平成27年10月22日、東京地方裁判所に本訴を提起し、一審原告訴訟代理人弁護士らとともに、厚生労働省記者クラブにおいて、記者会見(以下「本件記者会見」という。)をし、一審原告の指名は匿名としながら、一審被告の名称を公表して、本訴を提起したこと等を説明し、その中で、次のような発言(以下、各発言を総称して「本件各発言」という。)をした。
 ア 平成26年9月に育児休業期間終了を迎えたが、保育園が見付からなかったため休職を申し出たものの認められず、一審被告から週3日間勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られた(以下「本件発言①」という。)。
 イ やむを得ず契約社員としての雇用契約を締結したところ、1年後に雇止めされた(以下「本件発言②」という。)。
 ウ 子を産んで戻ってきたら、人格を否定された(以下「本件発言②」という。)。
 エ 上司の男性が、「俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる」と発言した(以下「本件発言③」という。)。
 オ 一審原告が労働組合に加入したところ、一審被告代表者が「あなたは危険人物です」と発言した(以下「本件発言⑤」という。)。

(7)一審被告は、平成27年10月23日、一審被告の公式ウェブサイトに、本件記者会見における一審被告の元従業員の主張は。全く事実と反する内容であり、元従業員は自らの意思で契約社員を選択したものであって、元従業員との雇用契約の終了は、飽くまで元従業員の問題行動が理由であり、育児休業の取得その他の出産・育児等を理由とした不利益な取扱い(マタニティハラスメント)に当たる事実は一切ない旨の記事を掲載した。

(8)原審(東京地裁平成30年9月11日判決・労働判例1195号28頁)は、本件合意によって本件正社員契約は解約されたものの、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとして、一審原告の契約社員としての地位の確認請求及び未払賃金等請求並びに慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度理由があると判示した。

(9)一審被告は、一審被告の公式ウェブサイトに、平成30年9月12日、「今回出された第1審判決について、一部のマスコミの報道では、弊社のマタハラが認定されたかのように報じられているものがございますが、そのような事実はございません。」などの記載のある記事を掲載した。


【争点】

(1)本件合意の解釈及びその有効性
 ア 本件合意は本件正社員契約を解約するとの合意を含むものであか。
 イ 本件合意は均等法や育介法に違反し又は錯誤等により無効であるか。
 ウ 本件合意は停止条件付き無期労働契約の締結を含むものであるか。
 エ 本件合意は正社員復帰合意を含むものであるか。
(2)本件契約社員契約の更新の有無
   本件雇止めは、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると認められるか。
(3)一審被告による不法行為の有無
   一審被告が一審原告を契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連していた行為は違法であるか。
(4)一審原告による不法行為の有無(注:反訴請求に関するもの)
   一審原告が本件記者会見においてした本件各発言は内容虚偽のものであり、これにより一審被告の信用等が毀損されたか。
   以下、上記(4)についての裁判所の判断の概要を示す。


   なお、裁判所は、(1)本件合意は本件正社員契約を解約するとの合意を含むものであり、かつ、有効とした上で、(2)本件雇止めは、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるとして、本件契約社員契約は、期間満了により終了しているから、一審原告の契約社員としての地位の確認請求及び未払賃金等請求は、いずれも理由がないと判示し、また、(3)一審原告が就業規則違反と情報漏洩のため自宅待機処分となった旨を記載したメールを第三者に送信したことについてのみ不法行為が成立するとして、慰謝料5万円及び弁護士費用5000円の合計5万5000円並びにこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があると判示した。


【裁判所の判断】

(1)本件記者会見は、本訴を提起した日に、一審原告及び一審原告訴訟代理人弁護士らが、厚生労働省記者クラブにおいて、クラブに加盟する報道機関に対し、訴状の写し等を資料として配付し、録音データを提供するなどして、一審被告の会社名を明らかにして、その内容が広く一般国民に報道されることを企図して実施されたものである。
   そして、報道機関に対する記者会見は、弁論主義が適用される民事訴訟手続における主張、立証とは異なり、一方的に報道機関に情報を提供するものであり、相手方の反論の機会も保障されているわけではないから、記者会見における発言によって摘示した事実が、訴訟の相手方の社会的評価を低下させるものであった場合には、名誉毀損、信用毀損の不法行為が成立する余地がある。
   一審原告は、記者会見は、報道機関に対するものであるから、記者らにとっては、記者会見における発言は、当事者が裁判手続で立証できる範囲の主張にすぎないと受け止めるものである、訴状を閲覧した報道機関からの取材に応じることと何ら変わるものではないなどと主張する。
   しかしながら、一審原告らは、報道機関からの取材に応じるのとは異なり、自ら積極的に広く社会に報道されることを期待して、本件記者会見を実施し、本件各発言をしており、報道に接した一般人の普通の注意と読み方を基準とすると、それが単に一方当事者の主張にとどまるものではなく、その発言には法律上、事実上の根拠があり、その発言にあるような事実が存在したものと受け止める者が相当程度あることは否定できない。実際、一審被告に対しては、マタハラ行為をしたとして苦情のメールがあったところでもある。そして、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告らは、本件記者会見において各発言をしたことが認められるから、その発言内容を事実として摘示したものというべきである。

(2)そこで、本件各発言が一審原告の名誉または信用を毀損するものといえるかにつき検討する(注:以下、本件発言①についての判断のみを示す。なお、裁判所は、本件発言②については、一審被告の社会的信用を低下させるものではなく、本件発言③ないし⑤については、一審被告の社会的信用を低下させるものと判示した。)。
 ア 本件発言①は、一審原告は、平成26年9月に育児休業終了を迎えたが、保育園が見付からなかったため、一審被告に対し、休職を申し出たものの認められず、一審被告から週3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られたものというべきであり、これに対応して、「育児休業を取った後に正社員から契約社員になることを迫られ」た(本件報道①(注:平成27年10月○日付けG新聞電子版))又は「育休開けに正社員から非正規社員への変更を迫られ」た(本件報道②(注:平成27年10月○日付けH新聞電子版))との報道がされたことが認められる。同発言部分は、一般読者の普通の注意と読み方によれば、一審被告が育児休業終了後復職しようとする一審原告に対し、正社員から契約社員への変更又は自主退職を迫ったとの事実を摘示するものであり、一審被告が育児休業後復職しようとする従業員に不利益な労働条件を押し付け、退職を強要するなど労働者の権利を侵害する企業であるかの印象を与えるものであるから、一審被告の社会的地位を低下させるものといえる。
 イ したがって、本件発言①、③ないし⑤は、いずれも一審被告の社会的評価を低下させるものというべきである(なお、本件報道②は、一審被告の会社名を明らかにしたものではないが、本件各発言は、一審被告の会社名を明らかにしてされたものである上、本件報道①及び③は、一審被告の会社名を明らかにしているから、本件報道②も他の情報と併せれば一審被告についての報道であることが容易に特定できるものである。)。

(3)事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分で真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信じるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日判決、最高裁昭和58年10月20日判決参照)。
   そこで、公共性、公益目的については、しばらく措き、本件発言①、③ないし⑤について、摘示された事実がその重要な部分について真実であるといえるか又は真実と信じるについて相当の理由があるといえるかを検討する(注:以下、本件発言①についての判断のみを示す。なお、裁判所は、本件発言④で摘示された事実については、真実であると認められると判示し、本件発言③及び⑤で摘示された事実については、真実であるとの立証があるとは認められず、一審原告において、真実と信じるについて相当の理由があるものとも認められないと判示した。)。
 ア 前記説示によれば、一審原告が一審被告との間で本件合意をしたことについては、一審原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものであって、一審被告が正社員であった一審原告に対し、契約社員に変更するか又は自主退職するかを迫ったものではないから、本件発言①で摘示された事実については、真実であるとは認められない。また、この点については、一審被告から、繰り返し、指摘をされているところであって、一審原告は、これについて有意な反論もできなかったこと、本件合意の成立過程に自ら関与していることなどからすると、一審原告において、真実と信じるについて相当の理由があるとも認められない。
 イ したがって、本件発言①、③及び⑤で摘示された事実については、真実であるとの立証があるとは認められず、一審原告において、真実と信じるについて相当の理由があるものとも認められない。そして、このように相当性がないことは、一審原告が、一審被告からマスコミに対し事実と異なる情報を提供しないように指導され、警告されていたこと(証拠略)、一審原告自身が、マタハラが脚光を浴びているとして、記者会見を一審被告に社会的制裁を与えて自己の金銭的要求を達成するための手段と考えている趣旨のメール(証拠略)を作成していることなどからも裏付けられる。

(4)損害
   本件各発言に基づく報道は、語学スクールを経営する一審被告があたかもマタハラ企業であるような印象を与えて社会的評価を低下させるものであり、実際に、一審被告を非難する意見等も寄せられたのであるから、本件核発言に基づく報道によって一審被告の受けた影響は小さくないが、本件各発言に基づく報道の中には一審被告の主張も併せて紹介したものがあったことや一審被告の公式ウェブサイトにおいて一審被告の見解を表明して反論していることなど本件に現れた一切の事情を考慮すると、一審原告らによる本件発言①、③及び⑤がされ、これに基づく報道がされたことにより、一審被告が被った名誉または信用を毀損されたことによる無形の損害は、50万円と認めるのが相当である。

(5)結論
   一審被告の不法行為に基づく損害賠償請求は、一審原告に対し、無形の損害50万円及び弁護士費用5万円の合計55万円並びにこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある(一部認容)。


 

札幌地裁令和元年10月30日判決(労働判例1214号5頁)

雇止め事由である原告による新人の同僚へのハラスメントを否認して、雇止めを無効と判示した事例(控訴審継続中)


【事案の概要】

(1)原告は、平成4年4月に被告が運営するA幼稚園の教諭として勤務し、平成27年3月末日に60歳で定年退職した後、同年4月1日から、定年後の再雇用契約により被告に勤務し、平成29年4月1日以降は、3歳児の園児のクラスである年少組のB組の補助担任業務に就いていた。
   被告は、学校法人であり、原告が勤務していたA幼稚園を含む複数の学校を設置し、幼児教育を行っていた。
   訴外Cは、平成28年6月20日から10日間程度、A幼稚園で教育実習を行い、被告から勧誘を受けて、平成29年4月1日に被告に雇用された。Cは、A幼稚園にてB組の担任業務に就いていたが、同年10月26日、D園長に対し、今年度をもって退職するとの意向を伝え、平成30年1月末日に退職した。

(2)原告と被告は、平成28年4月1日及び平成29年4月1日に、上記の内容で再雇用契約を更新した(以下「本件再雇用契約」という。)。
   なお、原告と被告は、再雇用契約に当たり契約書を作成したことはなく、労働条件について特段確認されることもなかった。

(3)被告における60歳定年退職後の再雇用規程(以下「本件規程」という。)には、次のとおりの規定がある。
   適用基準(第5条)
   1項 再雇用契約の締結は、再雇用申請書を提出した教職員であって、次の各号に掲げる適用基準のすべてを満たす者を対象とする。
   ①再雇用を希望し、勤務に精勤する意欲がある者
   ②直近の健康診断において業務遂行に問題がない者
   ③勤続5年以上の者で、業務に必要な資格・技能等を有する者
   2項 再雇用契約更新時の基準についても、第1項を適用する。
   契約期間(第6条)
   再雇用契約の期間は1年間とし、更新を妨げる特段の事情がない限り、65歳に達するまで更新することができる。

(4)E理事長は、平成29年10月18日、原告と面談し、Cに対するハラスメントにより今年度で原告を雇止めする旨を告げた。
   被告は、原告に対し、平成30年2月9日付けの雇用契約の終了予告通知書にて、本件再雇用契約を、平成30年3月31日をもって終了し、更新をしない旨通知した(以下「本件雇止め」という。)。
   原告は、本件雇止めを不当として、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求める本訴を提起した。

(5)被告は、本訴訟において、主としてCの陳述書(以下「C供述」という。)、G(注:Cの母)の証言及び陳述書(以下「G証言」という。)及びD園長の陳述書及び証言を根拠とし、本件雇止めの事由として、原告のCに対する以下のハラスメントを主張した
  ①平成29年5月の子どもの日の前頃、鯉のぼりの作成に関するD園長への報告時におけるCとの打合せ時の態度を翻す発言
  ②同月初旬頃、給湯室のガスの元栓の閉め忘れの責任がCにあると決めつけるなどの発言
  ③同月11日の避難訓練の反省会後の、Cの危機管理能力が低いという発言
  ④同月の母の日の前頃、原告の指示に従って行った園児の椅子の向きについて、教務主任から注意を受けた際の、指示をしたことを否定する発言
  ⑤同月中旬頃の制作の時間、事前の確認どおりに原告に園児の名前を呼ぶことを依頼した際、できるわけないと否定した発言
  ⑥同月24日、保育参観後の反省会で、Cが勝手に別の行動をしたとの発言
  ⑦同月下旬頃、運動会における親子競技のテーマに関し、D園長から再考をするよう指示を受けた際の、Cとの打合せ時の態度を翻す発言
  ⑧同年8月28日の歌の時間、園児らの面前で顔面麻痺により歌えなくなったCに対する発言
  ⑨同年12月初旬頃、職員室で作業をしていたCに対し定規を投げて渡した行為


【争点】

(1)本件雇止めの効力
 ア 本件雇止めの事由の存否(争点1)
 イ 本件雇止めの事由が存在する場合、それが更新を妨げる特段の事情といえるか否か(争点2)
 ウ 本件雇止めが無効である場合、原告の契約の満了時期(争点3)
 エ 賃金額(争点4)
(2)不法行為の成否及び損害額(争点5)
   以下、争点1から3までについての、裁判所の判断の概要を示す。 


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件雇止めの事由の存否)について
 ア ハラスメント①ないし⑧までについては、いずれについても、被告主張の原告によるハラスメントがあったと認めることはできない(詳細については、省略する。)。
   ハラスメント⑨については、Cに対し、原告が以前に指摘していたにもかかわらず指摘どおりに行わないからとの理由で30㎝の長さの定規を投げて渡すという行為は、ハラスメントと評価できる。しかしながら、原告は、かかる行為以前に、理事長から次年度の契約を更新しないことを告げられているのであるから、本件雇止めの事由とみることは相当でないというべきである。
   したがって、被告主張のハラスメント①ないし⑨について、いずれもハラスメントと認めることはできない。 
 イ この点、被告は、原告は何かが起こると一方的にCの責任にして自らには責任がないとの態度を取り続けていた、ハラスメント①ないし⑨以外にも数多くのハラスメントがあった旨主張し、これに沿う、C供述、G証言もある。
   確かに、原告のCに対する言動には、ごく短期間のうちに、適切とは言えず、ややもすると配慮に欠けるものが何度かあったことは否定できない。また、原告が幼稚園で採られている方法を画一的に実施せずに、原告の視点から園児を指導するようCに指示したり、訓練の手順を誤解するなどの確認不足による行動を取ったことで、Cが教務主任や園長から指導、注意を受ける事態を招くなどしたことにより、Cに混乱を生じさせたり、不満や不快な思いを抱くことが重なったであろうとは推察される。
   しかしながら、原告とCの具体的なやり取りや発言経過が不明確である点を措くとしても、原告は、新人であるCに対し、単なる補助者としてだけではなく、指導や助言を行う立場でもあったのだから、このような立場から、経験を活かして厳しい姿勢や言葉で対応することが、必ずしも指導を超えるハラスメントとなるものとはいえない。
   また、子の成長・発達状況や環境を踏まえて柔軟な対応をすることが、必ずしも園の教育方針に反する不適切な内容と評されるものとはいえない。
   そして、ハラスメント①ないし⑨以外のものとして被告が主張するところは、CおよびGにおいてその内容、頻度において具体的に明示し難いものであることに加え、たとえかかる事象があったとしても、C供述からもうかがわえるCの職場環境や周囲への相談状況等を踏まえると、原告の言動のみをCの心因的負担の要因とみるのが相当とはいい難い。
   そうすると、ハラスメント①ないし⑨については、その事実を認めることができないか、認定できる限度においても個々についてはハラスメントたりえないものであるところ、これらを総合的に検討しても、雇止めの事由として認めることはできず、他に、これを認めるに足りる証拠はない。
 ウ したがって、被告の主張を踏まえても、本件雇止めの事由を認めることはできず、更新を妨げる特段の事情の該当性について判断するまでもなく、本件雇止めは無効である。

(2)争点3(本件雇止めが無効である場合、原告の契約の満了時期)
 ア 本件規程は、被雇用者の希望や健康上の問題等の適用基準を満たし、更新を妨げる特段の事情がない限り、65歳まで更新することができるとされている。そして、
  ・公的年金の支給開始年齢の引き上げに伴い無収入となる者が生じる可能性を防ぎ、65歳未満の定年を定めている事業主に対し65歳までの雇用を確保するために、高年齢者雇用安定法9条1項が、定年の定めをしている事業主に対し、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、定年の引き上げ及び定年の定めの廃止とともに、継続雇用制度の導入のいずれかを講じなければならないこととされたこと
  ・被告においても、本件規程が、高年齢者雇用安定法9条1項に則り規定されたものであることを認めていることに加え、
  ・本件規程の適用基準が、上記のとおり、いずれも勤務内容を問題とするものではないこと
  ・証拠上、他に具体的な審査基準や手続が設けられているとは認められないこと
に照らせば、かかる運用基準を満たす者については、65歳まで継続して雇用されると期待することについて、合理的な期待があると認めるのが相当である。
   そして、原告においても、再雇用契約に当たり、これまで契約書は作成されず、特段の手続も取られていないといえることを踏まえると、65歳まで継続して雇用されると期待することについて合理的な期待があったと認められるのであるから、原告のかかる期待は保護されるというべきである。
 イ したがって、原告の本件規程に基づく再雇用契約は、平成30年4月1日も更新され、本訴訟継続中の平成31年4月1日にも更新されたとみるのが相当である。

(3)結論
   原告の請求は、原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認すること及び平成30年4月1日から本判決確定の日まで、毎月20日限り月額○○円の割合による金員並びにこれらに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある(一部認容)。


 

東京高裁平成31年3月1日判決(労働判例1213号5頁)

法定年次有給休暇と会社有給休暇を区別することなくなされた時季指定は全体として無効であり、労働者は無効な計画的有給休暇制度を前提に付与された有給休暇の全てについてその時季を自由に指定することができると判示した事例(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)被控訴人(1審被告)は、語学教室であるS英会話スクールの経営、教育機関及び企業等における英語研修の受託等を業とする株式会社である。被控訴人の従業員講師は、平成30年時点で月給制約300名及び時給制約110名の合計約410名である。従業員講師は、1年契約の有期雇用社員であり、会社都合及び自己都合を含め、更新せずに1年で退職する者が60数名、1回のみ更新し2年程度で退職する者が50名程度いる。

(2)控訴人(1審原告)は、平成27年3月1日、被控訴人との間で、雇用期間を同年3月1日から平成28年2月28日までの1年間、賃金は月額25万7800円、月末締め翌月15日(銀行営業日ではない場合は次の営業日)とする労働契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結した。

(3)被控訴人の講師就業規則(以下「就業規則」という。)には、次の定めがある。
   「第15条(休日)休日は次のとおりとする。
  ①1週の内1日の法定休日を会社が指定する。原則として、法定休日以外にもう1日会社指定の休みを与える。
  ②国民の祝日。ただし、講師用カレンダーに従い、スクールが開いている日又はトレーニング日などは、祝日でも勤務日とする。
  ③下記の時季に設定される、会社の定める特別ホリデー(実際の期日は、講師用カレンダーに示される。)(以下略)」
   「第17条(有給休暇)勤続6か月に達した講師には、年間20日間の有給休暇を与える。ただし、スクール運営という社業の特性から、5日を超える有給休暇(15日間)については、取得する時季を指定して一斉に取得する計画年休とし、その時季は、講師カレンダーに示される。
   上記5日間の有給休暇は、講師の任意の時季に取れるものとする。ただし、もしその取得によりスクールの通常運営が阻害されると会社が判断する場合、会社は講師に対して取得時期の変更を指示することができる。」
   なお、雇用契約書にも、就業規則17条と同様の定めがある。

(4)被控訴人は、平成28年10月1日、就業規則にある計画的有給休暇制度に関する労使協定(以下「10月労使協定」という。なお、それ以前に労使協定の定めはない。)を定めたが、その有効性については争いがある。

(5)被控訴人は、平成29年1月9日、控訴人に対し、契約更新を拒絶する意思表示をした(以下「本件雇止め」という。)。
   控訴人は、平成29年6月1日送達の本訴状をもって、控訴人に対し、有期労働契約更新の申込みをした。控訴人は、現在、全国一般東京ゼネラルユニオンの組合員であり、全国一般東京ゼネラルユニオンS労働組合の執行委員長である。

(6)原審(東京地裁平成31年3月1日判決・労働判例1213号12頁)は、1審原告の請求を棄却したところ、同人が請求の認容を求めて控訴した。


   なお、原審は、1審原告による有給休暇の取得に関して、1審被告の主張する計画的年休に関する労使協定はなかったとの前提(ア)で、以下のとおり判示した。
「イ 休暇は、労働義務のある労働日について、その就労義務の免除を得た日のことであり、法律上労働者に必ず付与しなければならないと定められている法定有給休暇と、就業規則や労働契約の定めによって初めて成立する会社有給休暇があるところ、前提事実(略)によれば、被告は計画的年休を前提に法定有休休暇を超える日数の有給休暇を従業員に付与しており、法定有給休暇を超えた日数は会社有給休暇であるといえる。そして、法定有給休暇と会社有給休暇はその内容が異なり、法定休暇は、労使協定による計画休暇を除き労働者の希望する時季に与えなければならず、労働者が希望する日を特定して会社に通告することにより年休が成立して使用者の承認を必要としないのに対し、会社有給休暇は、請求の時季、請求の手続等労働者の休暇取得について制限を設けてもよく、使用者の承認によって初めて休暇が成立するとしてもよいものであることを踏まえると、計画的年休とした15日間に法定有給休暇を当てることはできないが、会社有給休暇は被告の承認した日すなわち計画的年休とした日に限り取得することができ、従業員が希望する時季に取得することはできず、法定有給休暇についてのみ従業員が希望する時季に取得することができると解するのが相当である。
 ウ そして、認定事実(注:①平成27年9月1日から平成28年8月31日までの間に休んだ日は、合計16日(うち計画的年休10日)、②平成28年9月1日から平成29年8月31日までの間に休んだ日は、合計36日(うち計画的年休4日、閉校日3日))に記載した原告の休暇等の状況によれば、原告は平成27年9月1日から平成29年8月31日の間、計画的年休(注:10日+4日=14日)や定休日(注:3日)以外に35日間(注:52日-14日-3日)の有給休暇、すなわち法定の有給休暇を14日超えて(注:10日+11日-35日=-14日)有給休暇の申請をしていたこと、被告は、平成28年11月以降有給休暇が残っていないため出勤を促すメールを原告に送信しており、原告は有給休暇と扱われないことを知りながら休暇の申請をしていたことが認められる。以上によれば、原告は上記期間において14日間の欠勤をしたと判断される。」


【争点】

   控訴人の雇止めの有効性、すなわち、
(1)本件雇用契約が労働契約法19条2号に該当するか否か
(2)本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないといえるか否かである。
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)本件雇用契約が労働契約法19条2号に該当するか否か
 ア 被控訴人は、従業員講師とは一律に1年間の有期労働契約を締結しているが、契約の更新を希望する講師との間では、遅刻が多かったり、授業の質が低いなどの事情がある場合を除き、通常は契約の更新をしている。
 イ 控訴人との間でも、平成27年3月1日に1年間の有期労働契約を締結し、その後、控訴人から授業観察の申出を拒否されたり、前日の午後11時29分になってから翌日のストライキを通知されたり、控訴人の授業を観察した上司が7項目について改善必要との講評をしたとの事情があったものの、その後の平成28年3月1日、控訴人と契約を更新した。
   このような経緯からすると、控訴人において本件雇用契約の契約期間の満了時に同契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったと認めるべきである。

(2)本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないといえるか否か
 ア 休暇の取得について
  a)労働基準法39条1項及び2項により被控訴人が控訴人に与えなければならない法定年次有給休暇は、平成27年9月1日からの1年間について10日間、平成28年9月1日からの1年間について11日である。そして、有休休暇は、原則として、労働者の請求する時季に与えなければならないこととされている(同条5項本文)。
   もっとも、同条6項の要件を満たす労使協定があれば、年間5日間を超える部分については、与える時季を使用者が定めることができる。しかし、弁論の全趣旨によれば、平成28年10月までにそのような労働協定が結ばれたことはないと認められる。また、同月に結ばれた10月労使協定についても、労働者側の講師代表3名は講師以外の従業員の代表でなかった上、事業場である学校ごとに選ばれたものではなく、複数校をまとめたエリアごとの代表であったから、事業場の労働者の過半数を代表する者(労働基準法39条6項)に当たるとはいえず、したがって、労働基準法39条6項の要件を満たす労使協定とはいえない。
   そうすると、控訴人に与えられた法定年次有給休暇について、その時季を被控訴人が指定することはできず、控訴人を含む従業員が自由にその時季を指定することができたというべきである。
  b)次に、被控訴人は、就業規則において、被控訴人を含む講師に対し、法定年次有給休暇を超える年間20日間の有給休暇を与えると定めているところ、そのうち法定年次有給休暇の日数を超える部分である会社有給休暇(平成27年9月1日からの1年間については10日間、平成28年9月1日からの1年間については9日間である。)については、労働基準法の規律を受けるものではないから、被控訴人がその時季を指定するものとすることが許されると考えられる。
  c)ところで、被控訴人がその就業規則において定める計画的有給休暇制度においては、法定年次有給休暇と会社有給休暇とを区別することなく、年間の有給休暇20日間のうち、15日分について、被控訴人がその時期を指定することとされているところ、上記a)及びb)に説示したところによれば、被控訴人が時季を指定することができるのは会社有給休暇に限られ、法定年次有給休暇については、時季を指定することができない。そして、被控訴人は、法定年次有給休暇と会社有給休暇を区別することなく15日を指定しており、そのうちのどの日が会社有給休暇に関する指定であるかを特定することはできない。したがって、上記の指定は、全体として無効というほかなく、年間20日間の有給休暇全てについて、控訴人がその時季を自由に指定することができるというべきである。
  d)なお、被控訴人は、計画的有給休暇制度は全ての従業員講師から同意を得ていると主張するが、仮にそうであったとしても、そのことは以上の判断を左右するものではない。
   また、被控訴人は、計画的有給休暇制度が無効であるとされるのであれば、有給休暇として20日間を与える旨の規定も無効であるとも主張するが、有給休暇の日数とその時季の指定とは別の問題であるから、被控訴人の主張は採用できない。
   さらに、控訴人は、平成27年9月1日からの1年間と平成28年9月1日からの1年間でそれぞれ20日、合計40日の有給休暇が認められるとしても、控訴人は、被控訴人が(計画的有給休暇として)指定した35日(注:6日+29日)のほか、被控訴人が指定した日のうちの14日(注:10日+4日=14日)と合わせて、合計49日の休暇を取得したから、理由のない欠勤が9日もあることになると主張する。しかし、被控訴人が指定した日のうちの14日間については、被控訴人が就労を免除したものであるから、理由のない欠勤とみることはできない。したがって、被控訴人のこの主張も採用できない。
 e)以上によれば、控訴人が有給休暇として取得した休暇について、正当な理由のない欠勤であったと認めることはできない。
 イ 控訴人の勤務内容について
   被控訴人は、控訴人の勤務内容が不良であるとして、種々の主張をするが、いずれも雇止めをするかどうかの判断に際して重視することを相当とするようなものとは認められない(詳細略)。
 ウ 小括
   以上のア及びイの検討の結果によれば、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないといわざるを得ない。

(3)結論
   被控訴人は、本件雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件により契約締結の申込みを承諾したものとみなされるので、控訴人は、被控訴人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び平成29年4月1日から本判決確定の日まで毎月15日限り(その日が銀行営業日でない場合は次の営業日)限り25万7800円の賃金の支払いを求めることができる。
   以上によれば、控訴人の請求は理由があるから認容すべきである(認容(原判決取消し))。