東京地裁平成29年5月8日判決(労働判例1187号70頁)

東京商工会議所(給与規程変更)事件(確定)

【事案の概要】

 被告が、就業規則を変更し、年齢に応じて昇給する「年齢給」等を内容とする年功序列型賃金体系を改め、「役割給」等を内容とする成果主義型賃金体系を導入したところ、被告の正職員である原告が、かかる就業規則の変更(以下「本件変更」という。)は、原告にとって不利益変更にあたり、合理性を欠き無効であると主張して、①本件変更前の就業規則に基づく賃金を受給する地位の確認と、②本件変更により具体的に減額された給与及び賞与部分について未払賃金が発生しているとして、その支払いを求めた事案。

【争点】

 本件変更が合理性を有するものとして労働契約法10条に基づき原告を拘束するか否か、具体的には、①本件変更の必要性、②本件変更による不利益の内容及び程度、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合との交渉の状況その他の事情を考慮した合理性の有無

【裁判所の判断】

 以下のとおりに諸事情を考慮した結果、本件変更の合理性を認めた(請求棄却)。

(1)本件変更の必要性
 被告における本件変更前後の全職員の給与総額が減少していないことなどから、本件変更は、賃金配分の見直しを目的としたものと認められる。そして、賃金体系をどのようなものにするかは、使用者側の経営判断に委ねられているところ、年功序列型から成果主義型の賃金体系に変更するとした経営判断自体に合理性がないとはいえない。よって、変更の必要性が認められる。

(2)本件変更による不利益の内容及び程度
 原告は、本件変更の前後で、調整給を除いた支給額が月額ベースで約11%減額されるなど、小さいとはいえない不利益を受けている。しかし、本件変更は、評価次第で増額・減額のいずれもあり得る制度変更であり、原告のように一度減額されてもその後の努力次第で増額の余地も残されているものであるから、本件変更時の減額幅をそのまま制度変更の合理性の判断に投影させるのは相当ではない。よって、上記の原告の賃金の減額幅は、賃金体系変更の合理性を否定する決定的要素とまでは考えられない。

(3)変更後の就業規則の内容の相当性
 被告における新たな賃金体系は、成果主義に立脚して、どの従業員に対しても人事評価の結果次第で等しく昇級及び昇給の機会が与えられるという意味で公平性がある。また、それぞれの等級の役割に関する定義の内容を見ても、等級が上がるごとに徐々にリーダーシップの発揮やマネジメントの役割が求められていくというもので、一般的な合理性が認められる。
 他方、本件変更と併せて実施された新たな人事評価制度の内容は、被考課者が考課者と面談して策定した成果目標等を目安としつつ、その達成度を考課者が被考課者の自己評価も踏まえて評価し、その結果、現等級以上の役割を果たしているかが数値化して検討できるようになっており、さらに、その結果が被考課者に開示され、異議申立てもできる、というものである。
 かかる仕組みは、できる限り客観性と透明性を保って人事評価をしようとするものといえ、本件変更の合理性を判断するに当たり、人事評価制度として必要とされる程度の合理性を備えたものといえる。 

(4)労働組合との交渉の状況その他の事情
 被告には、非管理職である従業員が全員加入する職員労働組合(以下「本件組合」という。)があり、原告も組合員となっている。そして、被告は、本件変更の約1年前には本件組合に対して人事制度改正の概要に関する内規の改正案の提示を行っているところ、これらに前後して本件組合からも数次にわたり意見が示され、被告は、その意見も一部反映させながら具体的な制度設計を進めている。そして、労働基準監督署に就業規則の変更を届ける段階に至っても、本件組合から本件変更それ自体に関しては、特段異議が示されていない。
 また、被告は、本件変更の8か月前には調整給の支給対象者に対して特別の説明会を開催し、別途通知書を交付し、各人の役割給・調整給のシミュレーションを示すなど、丁寧な説明の機会を設けている。そして、原告以外の職員から、特段の異論や不満が表明されたことはない。
 これらの経過は、本件変更の合理性を基礎づけるものといえる。