大阪地裁平成29年11月16日判決(判例時報2409号99頁)

控訴人が、ホームページ等からAの画像を削除することなく掲載し続けた行為が、Aのパブリシティ権に係る被控訴人の独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると判示した事例(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)被控訴人(原告)は、フィットネスプログラム「Ritmix」を中国、台湾地域で運営する株式会社である。また、被控訴人代表者の配偶者であるAは、同地域を担当するRitmixのマスタートレーナーであり、日本、中国及び台湾で活躍している。
   控訴人(被告)は、フィットネス関係の衣料品を製造販売する株式会社である。

(2)被控訴人代表者及び控訴人代表者は、平成26年12月以降、フィットネスウェアを共同して製造販売することなどについて協議した。
   控訴人は、平成27年1月8日、Aの写真撮影を行って、控訴人のウェアを着用したAの画像をホームページ等に掲載した。
   控訴人代表者は、同月19日、原告代表者に対し、被告の広告モデル(ライダー)に適用されている様式に基づいて作成した「MJDJVAアドバイザリースタッフ(ライダー)契約書」の案を送付した。しかし、被控訴人代表者は、この契約書案について、Aは、控訴人の商品を着用した宣伝広告をしなければならない一方、その報酬としては単なる商品の現物支給しかないこと等、被控訴人の利益になるものではないと考えたため、それ以上、Aを広告モデルとして採用する契約(以下「ライダー契約」という。)の協議は進まなかった。
   また、平成27年2月、アルゼンチンにおいて、A等が出演してRitmixのDVD撮影が行われ、その際、出演者が着用するウェアとして、控訴人が被控訴人と協議して新規に製作したTシャツ及び控訴人の既製品であるズボンが採用された。
   その後、控訴人は、被控訴人に対し、同年3月25日付け「御通知」と題する書面(以下「本件通知」という。)を送付し、被控訴人との協議及び取引を終了し、全ての契約締結を見送る旨を伝えた。

(3)しかし、控訴人は、その後も、控訴人のウェアを着用したAの画像をホームページ等に掲載した。

(4)なお、Aは、そのパブリシティ権について、Aの夫が代表取締役を務める被控訴人に、独占的利用許諾をしており、被控訴人がAのパブリシティ権に関する契約の交渉、契約締結を行い、パブリシティ権から生じる対価を取得している。
   また、被控訴人代表者は、平成26年1月までに、「RITMINX」、「RM」等の台湾の商標権を取得し、「RITMOS」との中国の商標権を取得していた。


 【争点】

   原審における争点は、以下のとおりであった。
(1)被告は、原告との間の包括的な業務提携契約等の合意を一方的に破棄したとして、債務不履行責任を負うか及び損害額
(2)被告は、原告との間で、RitmixのDVD撮影に採用されたウェアを販売し、その売上げを折半する旨の契約を締結したか及び販売額の半金に相当する金額
(3)被告は、原告との間で、イベントの際に被告のウェアの販売を原告に委託し、原告に販売手数料を支払う旨の契約を締結したか及び販売手数料の額
(4)被告は、原告との取引終了後もAの画像をホームページに掲載してAのパブリシティ権を侵害し、原告に固有の損害を被らせたとして、不法行為責任を負うか及び損害額

   原判決(大阪地裁平成29年3月23日判決。なお、同判決は、判例時報2409号に参考判例として掲載されている。)は、上記(1)から(3)までに関する各請求については、理由がないとしていずれも棄却したが、(4)に関する請求については、110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容し、その余の請求を棄却した。
   これに対し、控訴人(原告)が、上記(4)に関する請求の敗訴部分を不服として控訴した。したがって、控訴審における審判の対象は、上記(4)に関する請求中の控訴人(原告)敗訴部分のみである。
   以下、上記についての、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)Aの画像の掲載による不法行為の成否
 ア 肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合、そのような肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用して、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為上違法となると解するのが相当である(最高裁平成24年2月2日判決参照)。
   また、パブリシティ権は、人格権に由来する権利の一内容を構成するもので、一身に専属し、譲渡や相続の対象とならない。しかし、その内容自体に着目すれば、肖像等の商業的価値を抽出し、純化させ、名誉権、肖像権、プライバシー等の人格権ないし人格的利益とは切り離されているのであって、パブリシティ権の利用許諾契約は不合理なものであるとはいえず、公序良俗違反となるものではない。
   そして、パブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しているような場合に、第三者が無断で肖像等を利用するときは、同許諾を受けた者は、その分損害を被ることになるから、少なくとも警告等をしてもなお、当該第三者が利用を継続するような場合には、債権侵害としての故意が認められ、同許諾を受けた者との関係でも不法行為が成立する。
 イ 以下、本件について検討する。
   まず、Aは、中国、台湾地域のマスタートレーナーとして認定され、台湾のテレビ番組にも出演し、平成28年9月25日に台湾で催されたRitmixのイベントでは、数百人と推測される参加者が集まっているところ、同イベントの写真入りパンフレットで、2名のマスタートレーナーのうちの1名として紹介された。
   また、控訴人がAの画像を掲載したのは、楽天市場等の日本人向けの販売サイトであるが、
  ①フィットネスウェアを専門に取り扱う控訴人が契約する約50人のライダーのうち、Ritmix関係のライダーは10人おり、Ritmix関係は控訴人の事業上一定の比重を占めていたとうかがわれ、このことから、日本でも相応のRitmix愛好家が存在するとうかがわれること、
  ②控訴人でインストラクター(注:Ritmixを一般のフィットネス愛好家に教授する講師のこと)をしているBは、RitmixのマスタートレーナーとしてのAのことを知っていたこと、
  ③被控訴人が開催したNASのイベントでも、Aは、イベントに参加したファンから相応の商品購入希望を得ていること、
  ④控訴人の商品が販売されているBecomeという通販サイトでも、広告として、「Ritmix・リトモスのMTA(注:マスタートレーナーAのこと)先生と台湾イントラも2015年1月に大阪でイベントレッスンを行ってくれました。」と記載され、Aの存在が広告効果を有することが前提とされていること
からすると、マスタートレーナーとしてのAの肖像等は、日本のRitmix愛好家の間でも一定の顧客吸引力を有していたと認められる。
   以上によれば、Aは、自己の肖像等の顧客吸引力を排他的に利用するパブリシティ権を有していると認めるのが相当である。
 ウ そして、前記【事案の概要】(2)(4)によれば、被控訴人は、Aから独占的にパブリシティ権の利用許諾を受けているところ、被控訴人代表者が中国、台湾において「Ritmix」等の商標権を取得していること、被控訴人代表者がAと控訴人との間のライダー契約のA側の交渉を行っていたことに鑑みると、控訴人も上記独占的利用許諾を認識できたものと認められる。
 エ 本件において、控訴人と被控訴人との間の協議が継続している間は、控訴人がAの画像をウェブサイト等に掲載することについて、被控訴人の承諾があったと認められる。
   しかし、控訴人が、平成27年3月25日付の本件通知を送付して、被控訴人との協議を終了させたことにより、被控訴人のAの画像の掲載についての承諾も当然に撤回されたものと認められる。
   しかるに、控訴人は、自ら本件通知をしながら、その後もホームページ等からAの画像を削除することなく掲載し続けており、それは、Aの肖像等を広告として使用したと評価できるのであるから、控訴人の行為は、Aのパブリシティ権に係る被控訴人の独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると認められる(なお、被控訴人は、Aの肖像権の侵害も主張するが、パブリシティ権を離れた純然たる肖像権の侵害をいうものとは解されない。)

(2)損害額
 ア 控訴人による掲載の期間
   被控訴人は、楽天市場で掲載されたAの画像が平成28年3月17日までに削除されたことを受けて、本件通知の日である平成27年3月25日から平成28年3月17日までに生じた損害の賠償を請求している。
   そして、前記引用した原判決(略)のとおり、平成27年6月25日の時点で、控訴人のフェイスブック、ブログ、ホームページ、ヤフーショッピングのページ、楽天市場のページにAの画像が掲載されていた。
   また、本件訴訟が提起され、控訴人が答弁書で控訴人が管理していた画像については削除したと主張した後の同年10月2日の時点においても、控訴人のホームページにAの画像が掲載されており、その後についても、Aの画像が控訴人の管理サイトから削除されたと明確に判明するのは、上記の楽天市場に係るものしかない。
   以上から、控訴人は、平成28年3月17日までの間、上記の各ページにAの画像を継続して掲載していたと推認するのが相当である。

 イ 損害額の算定
   被控訴人が独占的に利用を許諾されたAのパブリシティ権は、肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利であるから、被控訴人は、控訴人の行為により、画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害を受けたものと認められる。
   そこで、被控訴人がAの画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭の額について検討する。
   前記引用した原判決(略)のとおり、控訴人は、他の約50名のライダーに適用される契約書の書式に基づいて、Aに関するライダー契約書を作成し、1か月当たり、通常販売価格で6万円程度を上限とする商品の無償提供を提案しており、ライダーに控訴人の商品の販売促進を依頼する場合の対価として、上記商品提供程度の経済的負担を見込んでいたとみることができる。
   一方、被控訴人は、自ら利益にはならないと考えて上記の提案には応じておらず、広告宣伝の際にAの画像の掲載を許諾する場合に、上記の金額を超える対価を想定したと認められる。
   このような事情に加え、Aの顧客吸引力の程度、内容、Aの画像の掲載場所の数、掲載期間等を総合して考慮すると、Aの画像の掲載により被控訴人に生じた損害額は、1か月当たり10万円と認めるのが相当である。
   この点、被控訴人は、控訴人が、Buyee」の英語版、台湾語版、中国語版の各ホームページや、楽天グローバルマーケット、becomeのホームページにAの画像を掲載した旨指摘する。しかし、控訴人代表者は、これらのページを知らず、自らが掲載したものではない旨供述している。そして、控訴人が上記の画像を掲載したと認めるに足りる証拠はないから、これらの掲載状況を損害額算定の際に考慮するのは相当ではない。

(3)結論
   以上によれば、被控訴人の請求は、控訴人に対し、Aの画像を掲載した不法行為に基づく損害賠償として110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(控訴棄却)。


 

東京地裁平成30年3月29日判決(判例時報2387号121頁)

本件イラストは、本件写真素材の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえないことから、本件写真素材の複製にも翻案にも当たらないと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)原告は、写真、CG、動画、イラスト等の映像コンテンツの販売、撮影業務等を目的とする株式会社である。
(2)原告は、〇〇という題名の写真素材CD(以下「本件写真素材CD」という。)を、訴外株式会社A(以下「訴外A」という。)等のウェブサイトにおいて、定価4万1040円(税込み)で販売している。本件写真素材CDには合計75点の写真素材が収録されており、その一つに「コーヒーを飲む男性」という題名の、別紙1(判例時報2387号129頁参照)の写真素材(以下「本件写真素材」という。)が収録されている。
(3)被告は、平成27年10月頃、同人誌イベントに出品する小説同人誌の裏表紙を作成するために、インターネットで「コーヒーを飲む男性」の画像を検索し、表示された本件写真素材のサンプル画像を参照して、イラスト(以下「本件イラスト」という。)を描き、別紙2(同128頁参照)のとおり、当該小説同人誌の裏表紙に掲載した。そして、被告は、同月1月18日、同人誌イベントに当該小説同人誌を出品して、50冊を販売した。
(4)ところが、被告は、平成28年7月、訴外人物からの指摘を受けて、本件写真素材が本件写真素材集CDに収録されていることを知った。そこで、被告は、訴外Aに対し、本件イラストの作成に際して、本件写真素材のサンプル画像を参照したことを謝罪し、使用料の支払を申し出る内容のメールを送付した。すると、訴外Aは、原告に連絡するよう指示した。そこで、被告は、原告に同趣旨のメールを送付した。
   上記の被告からの申出に対し、原告は、当初、損害賠償金として本件写真素材の販売価格(注:2万7000円)の20倍に当たる54万円の支払を求めた、その後、本件写真素材の販売価格とアートリファレンス料(構図や表現方法を参照して新たな作品を制作する際に、著作者から許可を取得する代行手数料)(注:3万2400円)の合計5万9400円の5倍である、29万7000円の支払を求めた。しかし、被告がこれに応じなかったため、原告は、本訴を提起した。


 【争点】

(1)本件写真素材は著作物に当たるか
(2)原告は本件写真素材の著作権者か
(3)被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したか
(4)著作権侵害による損害の有無及び額
   以下、上記についての、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、被告は、原告の請求が不法行為に当たるとして、9万2200円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める反訴を提起したが、棄却された(詳細は省略)。


【裁判所の判断】

 (1)争点(1)(本件写真素材は著作物に当たるか)について
 ア 写真は、被写体の選択・組合せ・配置・構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の協調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現であり、そこに撮影者等の個性が何らかの形で表れていれば創作性が認められ、著作物に当たるというべきである。
 イ 本件写真素材は、別紙1のとおり、右手にコーヒーカップを持ち、やや左にうつむきながらコーヒーカップを口元付近に保持している男性を被写体とし、被写体に左全面上方から光を当てつつ焦点を合わせ、背景の一部に柱や植物を取り入れながら、全体として白っぽくぼかすことで、赤色基調のシャツを着た被写体人物が自然と強調されたカラー写真であり、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現において撮影者の個性が表れているものといえる。
   したがって、本件写真素材は、上記の総合的表現を全体としてみれば創作性が認められ、著作物に当たる

(2)争点(3)(被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したか)について
 ア 原告は、被告が本件写真素材を原告に無断でトレースし、小説同人誌の裏表紙のイラストに使用して、当該小説同人誌を販売した行為は、原告の本件写真素材に係る著作権(複製権、本案件及び譲渡権)を侵害していると主張する。
 イ 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解すべきである。
   また、翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解すべきである(最高裁平成13年6月28日判決参照)。
 ウ 本件イラストは、別紙2のとおり、A5版の小説同人誌の裏表紙にある3つのイラストスペースのうちの一つにおいて、ある人物が持つ雑誌の裏表紙として、2.6㎝四方のスペースに描かれている白黒のイラストであって、背景は無地の白ないし灰色となっており、薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の画面中央部を縦断して加入され、また、文字も加入されているものである。
 エ 前記(1)イで説示した本件写真素材の創作性を踏まえれば、本件写真素材の表現上の本質的特徴は、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に認められる。
   一方、前記【事案の概要】(3)のとおり、本件イラストは本件写真素材に依拠して作成されているものの、本件イラストと本件写真素材を比較対照すると、両者が共通するのは、右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の、右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分のみである。
   他方、本件イラストと本件写真素材の相違点としては、
  a)本件イラストはわずか2.6㎝四方のスペースに描かれているにすぎないこともあって、本件写真素材における被写体と光線の関係(被写体に左全面上方から光を当てつつ焦点を合わせるなど)は表現されておらず、かえって、本件写真素材にはない薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入されている、
  b)本件イラストは白黒のイラストであることから、本件写真素材における色彩の配合は表現されていない、
     c)本件イラストはその背景が無地の白ないし灰色となっており、本件写真素材における被写体と背景のコントラスト(背景の一部に柱や植物を取り入れながら全体として白っぽくぼかすことで、赤色基調のシャツを着た被写体人物が自然と強調されているなど)は表現されていない、
   d)本件イラストは上記のとおり小さなスペースに描かれていることから、頭髪も全体が黒く塗られ、本件写真素材における被写体の頭髪の流れやそこへの光の当たり具合は再現されておらず、また、本件イラストには上記の薄い白い線が人物の顔面中央部を縦断して加入されていることから、鼻が完全に隠れ、口もほとんどが隠れており、本件写真素材における被写体の鼻や口は再現されておらず、さらに、本件イラストでは本件写真素材における被写体のシャツの柄も異なっている
こと等が認められる。
   これらの事実を踏まえると、本件イラストは、本件写真素材の総合的表現全体における表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等)を備えているとはいえず、本件イラストは、本件写真素材の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない。
 オ したがって、本件イラストは、本件写真素材の複製にも翻案にも当たらず、被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したものとは認められない。
   なお、原告は、譲渡権侵害も主張するが、本件イラストが本件写真の複製及び翻案には当たらないため、本件イラストを掲載した小説同人誌を頒布しても譲渡権の侵害とはならない。

(3)争点(2)(原告は本件写真素材の著作権者か)について
   以上から、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求には理由が認められないが、以下、念のため争点(2)についても判断する。
 ア①原告は、平成19年5月17日、(住所は省略)在住のカメラマンとの間で、期間を1年とする撮影請負契約を締結した。同請負契約12条には、「乙(判決注:カメラマン)は本契約で撮影した作品の一切の権利を甲(判決注:原告)に譲渡する。」との記載がある(甲20)。
  ②本件写真素材は、原告の企画のもと、同年11月14日、(住所は省略)で撮影された(甲19)。
  ③原告は、同年頃、写真素材等を自ら又は販売代理店を通じて販売等するため、カメラマンやイラストレーター等著作者との間で、当該著作者から提供される著作物の第三者への使用許諾を含む非独占的使用許諾契約を締結することがあり、同契約では著作権は第三者に留保されていた(甲24,26、乙96)。
 イ 前記(1)イのとおり、本件写真素材は創作性を有しており、著作物に当たるところ、その創作性はカメラマンの撮影によって生じたものであるから、本件写真素材の著作権は、原始的には本件写真素材を撮影したカメラマンに帰属する。
   これに対し、原告は、本件写真素材を撮影したカメラマンと締結した請負契約書において、当該カメラマンが当該契約で撮影した作品の一切の権利を原告に譲渡する旨の規定があることにより、原告が当該カメラマンから著作権を含むすべての権利を譲渡されたことが明らかであると主張する。
   確かに、前記ア①のとおり、原告が(住所は省略)在住のカメラマンとの間で締結した請負契約書(甲20)には同趣旨の規定の存在が認められる。しかしながら、前記ア②のとおり、本件写真素材が撮影されたのは平成19年11月14日であるところ、上記カメラマンが同日に本件写真素材の撮影をしたことを示す証拠は何ら存在しない(なお、この点については、被告から年度も立証を求められたものの、原告から証拠が提出されなかったものである。)。
   一方で、前記ア③のとおり、原告は、本件写真素材の販売に当たっては、カメラマン等の著作者との間で非独占的使用許諾契約を締結することがあり、同契約では著作権は著作者に留保されていたものと認められる。そうすると、本件写真素材についても、著作権は著作者に留保され、原告は非独占的使用許諾のみを受けていた可能性も否定できず、原告が本件写真素材の著作権を有しているものと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
 ウ したがって、原告を本件写真素材の著作権者であると認めることはできず、これに反する原告の主張は採用できない。
   なお、一般に、非独占的使用権者は、使用許諾を受けた著作物に係る著作権の侵害者に対して、損害賠償を請求することはできないことを念のために付言する。

(4)結論
   以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却する。


 

神戸地裁平成30年1月30日判決(交通民集51巻1号108頁)

駐車区画から退出する車両の運転者は、停止状態から発進することから、通路走行車両の運転者よりも重い注意義務があると判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平28年2月17日午後4時30分頃
 イ  発生場所 兵庫県三木市a店(以下「本件店舗」という。)駐車場(以下「本件駐車場」という。)
 ウ 原告車両 自家用普通乗用自動車
   運転者  原告A(事故当時39歳)
   所有者  原告B
   被告車両 自家用普通乗用自動車
   運転者  被告(事故当時65歳)
 オ 事故態様 道路から右折して本件駐車場に進入し、駐車区画に駐車しようとした原告車両の右フロントドア付近と、本件駐車場の駐車区画から後退して駐車場を出ようとした被告車両の後面右側が衝突した。

(2)原告Aは、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右半身打撲と診断され、平成28年2月19日から同年5月14日まで、C整形外科に通院した(原告Aが本件事故により受傷したか否か及び通院期間等の相当性は主要な争点である。)。


 【争点】

(1)本件事故態様及び被告の過失の有無、過失割合
(2)損害の有無及びその算定
   以下、上記についての、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、被告は、(1)に関して、本件事故時に原告車両が停止していなかったことを主張し、(2)に関して、原告Xが受傷するような外力は加わっていないことを主張した。


【裁判所の判断】

(1)本件事故態様及び被告の過失の有無、過失割合
 ア 本件事故態様
  a)本件駐車場は、本件店舗側に駐車区画として5区画が設けられ、本件駐車場と本件車道との間には幅員約5.6mの歩道(以下「本件歩道」という。)が設けられ、本件歩道と本件駐車場との間には有蓋側溝が設けられている。本件車道から本件駐車場に出入りするための特別の進入・退出口は設けられていない。
  b)原告Aは、本件車道を南進して本件駐車場手前で右折し、本件車道に進入しようとし、本件歩道上を本件駐車場に向けて走行していた際、本件駐車場の北から2区画目に、車両前方を本件店舗側に向けて駐車していた被告車両が、後進しようとするのを発見した。
  c)原告Aは、本件駐車場の北から4番目の駐車区画手前の通路部分に進入し、被告車両が駐車していた区画の南側(本件駐車場の北から3番目の区画)駐車しようとし、被告車両の動静をうかがったところ、被告車両は、左折後進して原告車両の方へ向かってきており、原告Aは原告車両を別紙図面(略。以下同じ。)の㋐の位置に停止したところ、被告車両は一旦停止したが、なおも後進を続けたため、同図面の✕付近で、被告車両の右後角部辺りを原告車両の右フロント付近に衝突させた。原告車両は衝突後にクラクションを鳴らした。
  d)被告は、被告車両の保有者であるところ、被告車両を本件駐車場から発進するため、上記駐車区画から後進させようとし、その際は、目視で後方を確認したが、その後は被告車両に備え付けられたカメラのモニター画面を見ながら後進を続けた。
   もっとも、被告の供述によれば、本件衝突前にはギアをニュートラルに入れていたため、上記モニター画面は作動しておらず、また被告は、少なくともモニター画面を見始めてからは直接目視で又はルームミラーやドアミラーを通じて、後方を確認することは一切なかった。したがって、被告は、本件事故まで原告車両の存在に全く気付いておらず、制動装置をとることもなかった。
  e)被告車両は、本件事故により右後角部に損傷が生じ、見かけ上損傷は酷くはないが、バックドアパネルの修理、リアバンパカバーの取替等を要し、修理費用として13万5000円を要した。
   他方、原告車両は、右フロントドアに相当の凹みが生じており、右ドアミラーが倒れた際、ミラーベースと接触しミラー内側が損傷する等の損傷を受け、これらの取替を要し、修理費用12万9000円を要した。
イ 被告の過失の有無
  本件事故は、被告車両の保有者である被告が、本件駐車場から発進するため、駐車区画に駐車していた被告車両を後進させる際、後方確認不十分のまま後進を続けて過失により、折から本件駐車場内で被告車両の動静を見るために停止していた原告車両に衝突させたものと認められる。よって、被告には、自賠法3条に基づき原告Aに生じた人身損害及び民法709条に基づき原告Bに生じた物的損害を賠償する責任がある。
ウ 過失割合
 a)店舗駐車場においては複数の車両が出入庫を行い、その動きも複雑となる場合が多い。そのため、駐車のため駐車場内通路を走行する車両及び駐車区画から退出する車両ともに、通路内走行車両や駐車区画出入車両の動静に注意し、衝突を回避できるような速度と方法で通路を走行し又は出入庫すべき義務があるというべきである。そして、駐車区画から退出する車両の運転者は、停止状態から発進することになるから安全確認等がより容易であるといえ、通路走行車両の運転者よりも重い注意義務があるというべきである。
   加えて、本件のように退出車両が後進する場合には、車両後方の視界が前進する際よりも制限されるため、退出車両の運転者は、よりいっそう慎重に走行すべき義務があるといえる。
   さらに、前記認定のとおり、本件駐車場は、通路の左右に駐車区画が設置されているわけではなく、道路の一方(本件店舗側)に駐車区画があるうえ、通路部分は、本件歩道や本件車道に向かって見通しがよいことも考慮すると、駐車区画から退出する車両の運転者である被告は、通路走行車両の有無及び動静をより容易に確認できるということができる。
   しかるに、前記認定のとおり、被告は、自車の進行方向である後方を全く見ていなかった上、通路部分で停止していた原告車両に衝突したのであるから、被告の注意義務違反の程度が著しいといえ、上記のとおり本件事故時には停止状態であった原告Aとしては、事故の発生を未然に防ぎ、これを回避する措置はほぼ期待できなかったといえる。
  b)もっとも、原告Aとしても、本件駐車場の通路に進入する前に被告車両が後進して駐車区画から退出しようとしていることを確認しているのであるから、原告車両停止位置である通路部分まで原告車両を進入させずにその手前で停止させるべきである。また、原告Aは、停止後も被告車両の動静を注視しており、被告車両が原告車両に向かって後進し、危険を感じたのであるから、被告の注意を促すためにクラクションを鳴らすなどの措置をとるべきであったといわざるを得ない。
   よって、これらの過失を斟酌すれば、原告らに生じた損害の5%を過失相殺として減じるべきである。
  c)この点、被告は、原告車両が停止していたことを否認する。
   しかし、被告は、本件事故発生まで原告車両の有無にすら気付いていなかったのであるから、原告車両の動静については、特にその内容等に不自然なところがない限り、原告A本人の供述(陳述書の記載を含む。以下同じ。)に準拠せざるを得ない。そして、同供述に特段不自然なところはない。

(2)損害の有無及びその算定
 ア 原告Aの損害
  a)受傷の有無について
   原告Aは、本件事故によって、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右半身打撲の傷害を受け、その治療のため平成28年2月19日から同年5月14日まで、C整形外科に通院(実通院日数24日)した。
   被告は、原告Aの受傷を否認する。
   しかし、前記認定のとおり、原告車両の右フロントドアは相当程度凹んでおり、被告車両の見た目の損傷状況にかかわらず、原告車両の運転席にいた原告Aに相当の衝撃が加わったことは優に推認できる。また、外力の入力方向が原告の身体の右から左にかけてであることから、原告Aが被告車両の動静を見ていたとしても、なお原告Aに捻挫等を生じさせるような外力が加わったことは否定できないというべきである。
  b)必要な治療期間について
   被告は、平成28年月中(22日ころ)には原告Aの症状は軽快していた旨主張する。
   しかし、カルテには、平成28年2月22日欄に「痛み軽い」と、同月24日欄に「鎮痛剤なくても良いぐらい」との記載があるが、上記「痛み軽い」の後ろには「鎮痛剤少し効果あり」との記載がある。また、同じカルテによれば、原告Aは医師に対し、平成28年2月19日から3月1日まで会社を休んだことを訴えている上、原告Aは、その後も通院治療中、時折痛みを訴えており、医師も物理療法や投薬を継続していることが認められる。よって、被告の上記主張は採用できない。したがって、上記の通院期間は原告Aの受傷を治療するのに必要な期間であったというべきである。
  c)損害の算定
  ①治療費 2万7100円
  ②傷害慰謝料 48万円
   原告Aの受傷内容が他覚的所見に乏しいこと、通院期間が86日(実通院日数27日)であること等を考慮すれば、上記金額が相当である。
  ③休業損害 16万9502円
   前記a)の原告Aの通院状況、受傷内容等を総合すれば、原告Aは、平成28年3月末日まで(通院期間44日)、部分的に休業を余儀なくされ、その間の実通院日数17日について、平成27年度賃金センサスの女子・学歴計・全年齢平均賃金である372万7100円を365日で除した日額1万0211円の50%相当の、その余の27日について上記日額の30%相当の休業損害が発生したと認めるのが相当である。
   (計算式)3,727,100円÷365日=10,211円
        10,211円×(17日×0.5+17日×0.3)=169,502円
  d)合計額及び過失相殺
   上記の合計は、67万6602円となり、その5%を減ずれば、64万2771円となる。
 イ 原告Bの損害
   前記(1)アe)のとおり、原告車両の修理費として12万9000円を要し、これは原告Bの損害と認められる。
   過失相殺としてその5%を減ずれば、12万2550円となる。

(3)結論
   原告Aの請求は64万2771円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告Bの請求は64万2771円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある(一部認容)。