横浜地裁平成30年9月13日判決(自保ジャーナル2035号103頁)

被告Bと被告Cとの間に客観的関連共同性が認められ、民法719条前段の共同不法行為が成立する場合、亡A、被告B及び被告Cの過失割合を検討するにあたっては、まず亡Aの死亡の直接の原因となった第2事故における亡Aの過失割合を検討し、その後、亡Aが横臥した経緯における亡Aの過失割合を検討する旨判示した事例(第1事件確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故が発生した。
 ア 第1事故
  ①発生日時 平成27年1月23日午前2時16分頃
  ②発生場所 横浜市内の信号機により交通整理の行われてる、東西に通ずる片側2車線(交差点手前では右折専用車線が設けられるため片側3車線となる)県道a号(指定制限速度50㎞)と南北に通ずる片側1車線の市道とが交わるb交差点(以下「本件交差点」という。)
  ③原告車  亡A(昭和63年4月生)運転の自家用普通自動二輪車(以下「Aバイク」という。)
  ④被告車  被告B運転の事業用大型貨物自動車(以下「Bトラック」という。)
  ⑤事故態様 亡Aが、Aバイクを運転して、本件交差点に向かって県道を東から西に走行し、被告Bが、Bトラックを運転して、本件交差点に向かって県道を西から東に走行していたところ、本件交差点内において、右折中のBトラックの左側面に、亡AとAバイクが衝突した。上記の第1事故発生後、被告Bは、Bトラックを移動させる際、亡Aの右大腿部をBトラックの走行するタイヤで圧迫した。
 イ 第2事故
  ①発生日時 平成27年1月23日午前2時17分頃
  ②発生場所 本件交差点
  ③原告車  Aバイク
  ④被告車  被告C運転の自家用普通乗用自動車(以下「C車両」という。)
  ⑤事故態様 Cは、C車両を運転して、本件交差点に向かって県道の第2車線を東から西に走行していたところ、先行車両が、第1事故の発生に気付いて極端に低速で走行していたことを認識した。しかし、Cは、本件交差点の対面信号が青信号であったことから、先行車両を追い抜くために、第1車線へと進路変更して、時速約50㎞で本件交差点に向かって走行したところ、本件交差点手前で本件交差点内に横臥する亡Aを認識し、急制動の措置を応じるととともにハンドルを右に転把したが、間に合わず、亡Aの胸部付近を輪禍し、亡Aに胸部大動脈破裂等の傷害を負わせた。

(2)第2事故発生後、亡Aは、D病院に救急搬送されたが、平成27年1月23日午前4時1分、D病院において死亡した。

(3)第1事件は、亡Aの母で相続人である原告E及び妹のF(以下「原告ら」という。)が、被告B、Bトラックの保有者で被告Bの使用者である被告Y会社及び被告C(以下「被告ら」という。)に対し、損害及び遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
   第2事件は、被告Y会社との間で、Bトラックについて、自動車保険契約を締結していた第2事件原告が、保険法25条の規定に基づく保険代位により、被告Y会社の原告Eに対する損害賠償請求権を、支払った保険金(車両修理費)の合計金額の範囲内で取得したとして、車両修理費相当額及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

(4)共同不法行為の成立
   第1事故と第2事故は、時間的場所的に近接し、第1事故が第2事故の原因となっており、第1事故及び第2事故と亡Aの死亡との間に因果関係が存在するということができる。したがって、被告Bと被告Cとの間に客観的関連共同性が認められ、民法719条前段の共同不法行為が成立する(争いなし)。


 【争点】

(1)事故態様及び過失割合
(2)亡Aの損害及び原告らの固有の損害
(3)第2事件原告の取得した損害賠償請求権
   以下、上記(ただし、(2)については、人身損害に対する各自賠責保険からの支払の充当についてのみ)についての、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、(1)に関し、原告らは、以下のとおり主張した。
 ア 本件における亡A、被告B及び被告Cの過失割合を検討するにあたっては、まず亡Aの死亡の直接の原因となった第2事故における亡Aの過失割合を検討し、その後、亡Aが横臥した経緯における亡Aの過失割合を検討することが相当である。
 イ 第2事故における亡Aの過失割合
   第2事故は、路上横臥者等の事故といえる(なお、同類事故の過失割合は、別冊判例タイムズ38号【48図】によれば、基本過失割合は亡A50%、被告C50%とされている。)。そして、亡Aの過失割合は30%を超えることはない。
 ウ 亡Aが横臥した経緯における亡Aの過失割合
   亡Aが横臥する原因となった第1事故は、交差点に青信号で進入して右折を開始したBトラックと交差点に黄色信号で進入したAバイクが衝突したという事故である。(なお、同類事故の過失割合は、別冊判例タイムズ38号【177図】によれば、基本過失割合は亡A60%、被告C40%とされている。)。そして、亡Aの過失割合は40%を超えることはない。
 エ 本件における亡Aの過失割合は、第2事故の責任の30%のうち、40%に相当する12%を超えることはない。したがって、被告らは、連帯して本件事故による亡Aの損害のうち88%相当を賠償する責任を負うべきである。


【裁判所の判断】

(1)事故態様及び過失割合
 ア 亡Aは,本件交差点を時速約89㎞の速度で、対面信号が黄色表示の時に進入したこと、被告Bが、対面信号が青色表示の時に右折を開始したことが認められ、亡Aには黄色信号で交差点に進入したこと、30㎞以上の制限速度違反があったことの過失がある。
   一方、被告Bには、対向車両の確認義務違反、また、Aバイク及び亡AとBトラックが衝突後に、路上に横臥する亡Aをヘルメットだと思い込み、Bトラックを移動させ、亡Aの右大腿部をタイヤで圧迫したという過失がある。
   以上から、第1事故の過失割合は、亡A70%、被告B30%となる。
 イ C車両が亡Aを輪禍した事故(第2事故)については、夜間に発生した路上横臥者等の事故であり、基本的には、車両と路上横臥者は同等の過失であると考えられる。そして、県道a号が幹線道路と認められることは、被告Cに有利に考慮すべき事情であるといえる。しかし、被告Cは、先行車両が事故に気付いて極度に減速していたにもかかわらず、先行車両を追い抜くために進路変更し、時速約50㎞で本件交差点に進入して亡Aを輪禍するに至っていることから、著しい過失がある。よって、第2事故の過失割合は、亡A50%、被告C50%となる。
 ウ そうすると、原告らの主張のとおり、亡Aが死亡するに至った直接の原因となったのは第2事故であると認められるところ、第2事故における亡Aの過失割合は50%であり、亡Aが路上に横臥する原因となった第1事故の亡Aの過失割合は70%であるから、本件の絶対的過失割合は、亡A35%、被告B15%、被告C50%となる。

(2)亡Aの損害及び原告らの固有の損害
 ア 前提
  ①亡Aの人的損害(ただし、過失相殺後。以下、同じ) 47,287,912円
  ②原告Eの人的損害 2,275,842円
  ③原告Fの人的損害 650,842円
  ④合計 50,214,596円
 イ C車両加入の自賠責保険からの支払 26,751,055円
   平成28年10月26日に支払われた。
   事故日から同日までの遅延損害金は4,417,373円となるので、まずこれに充当する。
   残額の22,333,682円を亡Aの人的損害元本に充当すると、残損害額合計は27,880,914円(亡Aの人的損害24,954,230円、原告Eの損害2,275,842円、原告Fの損害650,842円)となる。
 ウ Bトラック加入の自賠責保険からの支払 26,751,055円
   平成28年10月28日に支払われた。
   上記イの残損害額合計27,880,914円に対する、C車両加入の自賠責保険からの支払日の翌日である平成28年10月27日から同月28日までの遅延損害金は7,618円となるので、まずこれに充当する。
   残額の26,743,437円を亡Aの残損害額、亡Aの相続人である原告Eの損害に順次充当すると、残損害額合計は1,137,477円(原告Eの損害486,635円、原告Fの損害650,842円)となる。
 エ 損害及び弁護士費用合計
  ①原告E
  a)相続により取得した亡Aの物的損害 198,900円
  b)原告Eの残損害          486,635円
  c)弁護士費用             68,553円 
  d)合計               754,088円(認容額)
  ②原告F
  a)原告Fの残損害          650,842円
  b)弁護士費用             65,084円 
  c)合計               715,926円(認容額)

(3)第2事件原告の取得した損害賠償請求権
   第2事件原告は、平成27年6月1日、被告Y会社との間で締結していた、Bトラックについてその車両損害を補填する旨約定された自動車保険契約に基づいて、被告Y会社に対し、Bトラックの修理費用266,803円(内消費税19,763円)を支払った。
   第1事故の過失割合は、亡A70%、被告B30%と認められるから、過失相殺後の損害額は186,762円(円未満四捨五入)となる。よって、第2事件原告が保険法25条に基づく保険代位により取得する損害賠償請求権の額は186,762円となる。そして、亡Aの損害賠償債務を原告Eが相続することについては争いがない。
   以上によれば、第2事件原告の原告Eに対する請求は、186,762円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(一部認容)。


 

東京高裁平成31年2月13日判決(労働判例1199号5頁)

国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】・【争点】

原審である、東京地裁平成30年6月14日判決(労働判例1199号44頁)参照


【第1審原告らの主張】

(1)雇用契約上の地位確認について(第1審原告A,同K及び同Lについて)
 ア 原判決は、定年到達とともに雇用契約を終了したとされ、定年後一度も有期雇用契約を結んでいない者(第1審原告A,同K及び同Lについて)については、労契法19条の類推適用はできず、権利濫用の法理によっても有期雇用契約が締結されたということはできないと判示する。
 イ しかし、本件において第1審被告会社が、第1審原告らから別件訴訟を提起されたことを理由に再雇用を拒否したものであることからすると、(定年後再雇用は、無期契約から有期契約への橋渡しの場面であり、有期契約から有期契約への橋渡しを想定する労契法19条の直接適用はないとしても、)定年後再雇用の場合においても、雇用継続の合理的期待を保護すべきであるから、同条が類推適用され、上記第1審原告らは、定年到達前と同様の隔日勤務のフルタイムの雇用形態での雇用関係が成立するというべきである。
   また、同条を類推せずとも、第1審被告会社の定年後再雇用拒否は、定年制度、労働者供給契約上の権利を濫用するものでありし、労組法7条に反する違法な行為である。よって、第1審被告会社には、信義則上、上記第1審原告らの再雇用の申込みを承諾すべき義務があり、就業規則21条1項の合理的解釈に基づく労働条件により、定年後再雇用契約が成立するというべきである。
 ウ 原判決によれば、定年後に一度でも再雇用契約を締結した労働者には、労契法19条の保護が及ぶ一方で、定年後の再雇用者には、労契法19条や権利濫用論の保護が及ばないことになるが、その結論は余りに不当であり、著しく正義にもとるものである。

(2)雇用契約上の地位確認について(第1審原告D及び同Iについて)
   上記第1審原告らは、有期雇用契約が複数回積み重なっており、第1審被告会社も事前に上記原告第1審原告らに対して雇止めをする意向を示しておらず、実際に、第1審原告Dは、第1審被告会社に雇止めされた後も他社において就労している。
   したがって、75歳という一事をもって上記第1審原告らの雇止めを正当化することはできず、地位確認請求が認められるべきである。


【第1審被告らの主張】

(1)原判決主文2項から5項について(雇用契約及び賃金支払請求権の終期)
 ア 原判決は、「本判決確定の日」までの賃金請求権を認めた。しかし、労契法19条による有期契約を認めるとすれば、同条により直近の有期契約の内容がその労働条件となるから、第1審個人原告らの契約終了時(雇止め時)の翌日から従前の労働契約の内容、すなわち、1年間の有期契約となるはずである。
   したがって、同条に基づき「みなされる」期間を超えて、労働契約上の地位が存在するとか賃金請求権が発生するということはあり得ず、上記期間を超えた部分について労働契約上の地位を認めたり、本件判決確定日まで賃金請求権を認めることは違法である。
 イ また、原判決でも75歳を超えた第1審原告らの期待権は存在しないとされているところ、平成30年4月〇日に74歳となる第1審原告E、同年5月〇日に74歳となる同Fなどは、みなされた契約期間終了時点で75歳を超えてしまい、当然、本判決の確定日において75歳を超えることは明らかである(他の第1審原告においても同様である。)。

(2)原判決において、第1審被告会社との間で労働契約上の地位を認められた第1審原告らについて
 ア (第1審原告B,同E,同Gについて)
   第1審被告会社は、原判決言渡後の平成30年7月11日付けで、原判決において雇用契約上の地位が認められた第1審原告ら7名(同B,同C、同E、同F、同G、同H及び同J)に対し、仮就労の指示命令を行ったが、第1審原告B、同E及び同G(他社就労者)は全くこれに応じていない。
   この点、タクシー業務適正化特別措置法に基づき、タクシー乗務員は、1社しか登録できないことからしても、同業他社でタクシー乗務員として就労している者については、第1審被告会社との関係で労働契約上の地位を認めることはできないはずである。上記第1審原告らが仮就労命令に応じていないことからすれば、同人らに第1審被告会社に対する労務提供の意思も能力もないことが立証されたというべきである。
 イ (第1審原告Jについて)
   第1審被告会社と第1審原告C、同F,同H及び同Jとの間では、平成30年9 月13日、仮処分命令申立事件(東京地裁平成30年(ヨ)第21050号)の中で、同年10月18日から就労を行う旨の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。しかし、同Jは、他社で就労しているからとして労務提供を行なっておらず、第1審被告会社に対する労務提供の意思がないことが具体的に明らかである。よって、同人については、労働契約上の地位及び賃金請求権が発生しない。少なくとも、(原審で中間収入の控除が認められた、第1審原告E,同G及び同Hと同様に)民法536条に基づき中間収入の控除がされるべきである。
 ウ (第1審原告C,同F及び同Hについて)
   第1審被告会社との間で本件和解の成立した第1審原告ら(第1審原告Jを含む。)については、上記和解において、平成30年10月18日から仮就労することや労働条件(処遇)が具体的に定められているから、仮に上記4名の雇止めが無効となったとしても、和解対象期間は原判決の認定した賃金請求権は発生しない。
 エ (第1審原告Bについて)
   第1審原告Bは、平成27年2月16日から平成28年2月15日までの契約期間に約9か月間欠勤したのであるから、労務の提供が不可能であることは明らかである(なお、同第1審原告は、期間満了が同日であり、その半年後の同年10月28日になって初めて労災申請を行ったが、労基署は11日間の休業のみ業務に起因すると認めたに過ぎない。)。
   この点、原判決は第1審原告Bの欠勤が「業務による疾病」であるから、長期の欠勤をもって労契法19条にいう客観的合理的な理由に該当しないとする。しかし、第1審原告Bの上記9か月間の休業(欠勤)のうち、業務上の疾病とされた(みなされた)期間は11日間に過ぎないから、これを除く期間の欠勤は私傷病欠勤である。
   したがって、上記の長期間の欠勤は、第1審被告会社が同第1審原告の契約更新をしない理由となり、労契法19条にいう客観的合理的理由となるというべきである。


【裁判所の判断】

(1)雇用契約上の地位確認について(第1審原告A,同K及び同Lについて)
 ア 期間の定めのない雇用契約が定年により終了した場合であっても、労働者からの申込みがあれば、それに応じて期間の定めのある再雇用契約を締結することが就業規則等で明定されていたり、確立した慣行となっていたりしており、かつ、その場合の契約内容が特定されているということができる場合には、使用者が労働者一般に対して、特段の欠格事由のない限り、再雇用する旨の黙示の意思表示をしていると解されるときはもちろん、そうでなくても、労働者において雇用契約の定年による終了後も再雇用契約により雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があるから、労働者から再雇用契約締結の申込みがあったにもかかわらず、使用者が再雇用契約を締結せず、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、使用者が再雇用契約を締結しない行為は権利濫用に該当し、その場合に、労契法19条の基礎にある法理や解雇権濫用法理の趣旨ないし使用者と労働者との間の信義則に照らして、期間の定めのない雇用契約が定年に終了した後、上記の特定されている契約内容による期間の定めのある再雇用契約が成立する余地はあるものというべきである。
 イ しかしながら、本件において、第1審被告会社を定年退職した従業員は、雇用継続のために第1審被告会社と新たに再雇用契約を締結するのであり、その場合には、従業員は、その勤務形態について、定年前から存在する隔日勤務と日勤勤務とのどちらかを選択することに加え、定年前から存在するフルタイム(11出番)と定年前には存在しなかった短時間勤務(8出番)のどちらを選んで希望し、従業員の希望と第1審被告会社の車両の空き状況を踏まえて、両者の合意により勤務形態を含めた労働条件が決定されるのである。すなわち、定年後の再雇用の場合には、定年前にはない短時間勤務という勤務形態がある一方で、車両の空き状況等によっては、従業員の希望どおりの勤務形態では第1審被告会社が再雇用契約を締結できない場合もあるから、従業員からの申込みと希望があれば、そのとおりの条件の再雇用契約を締結することが確立した慣行となっていたとまでは認め難い。
 ウ また、上記第1審原告3名は、再雇用契約における勤務形態についての希望等を何ら示していないから、上記第1審原告ら3名と第1審被告会社との間で成立するとみなされる再雇用契約(有期雇用契約)の内容を特定することができないといわざるを得ない。
 エ もっとも、上記第1原告ら3名と第1審被告会社との間の定年後の有期雇用契約の成立を認めることはできないものの、第1審被告会社における本件雇止め等の主要な動機が、第1審個人原告らが第1審被告会社に対し残業代の支払を請求し、その支払を求めるために別件訴訟を提起したことにあると認められることなどからすると、上記第1審原告ら3名についても、労働条件はともかく再雇用契約が締結される相当程度の可能性はあったものというべきである。それゆえ、第1審被告会社の本件再雇用拒否によってこれが侵害されたことについて、上記第1審原告ら3名はその精神的損害の賠償を求めることができるというべきであって、この点は、同人らが請求している慰謝料額の算定において考慮すべきである。

(2)雇用契約上の地位確認について(第1審原告D及び同Iについて)
   原判決が説示するとおり、本件において75歳以降の者について有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないのであって、上記第1審原告らについては労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。

(3)原判決主文2項から5項について(雇用契約及び賃金支払請求権の終期)
 ア 労契法19条の適用がある場合には、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件での労働契約が成立することになるから、本件雇止め時に成立した有期労働契約はそれぞれ1年間のものとなる。しかし、その際に成立した1年間の有期労働契約が終了する時点でも、当該第1審原告らが75歳を超えるまでは労契法19条が適用され、同条の要件を満たせば、更に1年間の有期労働契約が成立することになるというべきである。
   したがって、本件においてはなお当該第1審原告らが有期雇用契約が更新されるものと期待することに合理的な理由があるというべきであり、また、本件雇止め時とは異なって第1審被告会社がこれを拒絶することについて客観的合理的な理由が生じるとは認められないから、労働契約上の地位及び賃金請求権が1年間を超えて認められないとする第1審被告会社の主張は採用することはできない。
 イ もっとも、第1審被告会社との間で本件和解の成立した第1審原告ら(同C,同F,同H及び同J)については、和解条項の中で平成30年10月18日から仮就労することを目指し、その際の労働条件についても定めているところ、和解成立後タクシー労働に従事した日から1年を経過した日(ただし、更新することができる。)又は本案事件確定までは上記第1審原告らと第1審被告会社との間の雇用契約における賃金支払は、本件和解に従って行われるというべきであり、一方、同和解の中で、和解金として同月27日支払分までの仮払金相当額(後に清算するもの)を支払う旨取り決められていることからすると、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき期間は、同月分(同月27日支払分)までとするのが相当である。
 ウ 原判決が説示するとおり、75歳を超えた者について有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないから、第1審原告E及び同Gについても、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権は、それぞれ75歳を超えた時点で成立していた有期雇用契約が終了するその最終月の賃金支払日と、本判決確定の日のうちいずれか早く到来する日までとするのが相当である。

(4)原判決において、第1審被告会社との間で労働契約上の地位を認められた第1審原告らについて
 ア (第1審原告B,同E,同Gについて)
   雇止めによって収入が途絶えた上記各第1審原告らは、生計を維持するためにやむなく就労していることが伺われなくもないし、第1審被告会社は、上記第1審原告らに対して仮就労命令を通知しながら、他方で当審においては上記各第1審原告らの労働契約上の地位についても争っているものであるから、上記第1審原告らがその地位に不安を感じて他社での就労をやめて第1審被告会社において就労することをしないこともやむを得ないものと認められ、これをもって第1審被告会社に対する労務提供の意思も能力もないということはできない。タクシー業務適正化特別措置法についていう点も、上記認定を左右するものということはできない。
 イ (第1審原告Jについて)
   第1審原告Jが他社で就労していることをもって、直ちに第1審被告会社に労務提供する意思がないとはいえないことは、上記アで他の第1審原告らについて説示したところと同様であるが、第1審原告Jは、第1審原告Cらとともに仮処分命令申立事件の中で和解をしており、平成30年11月分(同月27日支払分)以降の第1審被告会社との雇用関係における賃金支払は上記和解に従って行われるべきであり、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき終期は、同月10月分(同月27日支払分)迄とするのが相当であることは、上記(3)イにて説示したとおりである。また、他社での収入について民法536条により中間収入を(平均賃金の4割を限度として)控除すべきという点については、第1審被告会社の主張は理由がある。
 ウ (第1審原告C,同F及び同Hについて)
   上記第1審原告ら3名及び同Jについては、本件和解が成立していることから、有期雇用契約が更新されたものとみなされることにょる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき期間は、平成30年10月分(同月27日支払分)までとするのが相当であることは、上記(3)イにて説示したとおりである。
 エ (第1審原告Bについて)
   第1審原告Bの欠勤が長期間に及ぶこと、欠勤は業務中の交通事故に起因する部分があるものの、その欠勤期間のうち上記事故に起因する療養のため労働できなかったと認められたのは、診療実日数の11日間に過ぎないこと、本件雇止めの時点でも休業が続いている状況であったものであり、本件雇止め等の主要な動機が別件訴訟の提起にあると認められることを考慮しても、第1審被告会社が第1審原告Bを雇止めとすることについては客観的に合理的な理由があるということができる。
   したがって、同人については、有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。


 

東京地裁平成30年6月14日判決(労働判例1199号44頁)

国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)原告Aから同Lまでの原告らは、いずれも被告会社に勤務していたタクシー運転手である。原告Bから同Jまでの原告らは、別紙2(略。以下、同じ)の「定年到達日」記載の日に、就業規則第21条1項に基づき65歳の定年となったところ(原告D及び原告Eは、もともと有期雇用であった。)、以後、同原告らは、被告会社との間で有期雇用契約を締結して引き続き就労していた。
   原告組合(原告組合以外の原告らを「個人原告ら」ともいう。)は、kmグループ傘下の被告会社らの従業員で組織される労働組合である。
   被告会社は、平成23年1月、kmグループの傘下に入った会社であり、平成26年9月1日、商号を現在の「国際自動車株式会社」に変更した。
   被告乙山は、遅くとも平成18年4月から平成28年6月28日まで、被告丁原は、平成28年6月28日から平成29年3月31日まで、それぞれ被告会社の代表取締役の地位にあった者である。

(2)原告組合は、平成26年6月17日、被告会社との間で、労働者供給に関する基本契約(以下「本件供給契約」という。)を締結した(平成27年4月1日、同内容の契約を締結済)。本件供給契約第同2条2項では、「原告組合は、被告会社の申込みに応じて随時組合員を供給する。」と定められている。

(3)原告Aから原告Lまでの原告らを含む原告組合の組合員56名は、平成27年7月15日、被告会社に対して、未払賃金(残業代)の支払を催告し、平成28年1月12日、被告会社に対し、未払賃金(残業代)支払請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。
   被告会社は、別紙2の「雇止め等の日」欄記載の日までに、個人原告らに対し、定年後の再雇用をしない旨又は有期雇用契約を更新しない旨を通知し、同日付けで原告Bから原告Jまでを雇止めした(以下、「これらの雇止めを一括して「本件雇止め」ともいう。)。 
   また、原告A、原告K及び原告Lについては、定年後に有期雇用契約を締結することなく、定年に達した時点で雇用関係を終了させた(以下、この再雇用契約を締結しなかったことを一括して「本件再雇用拒否」ともいう。また、本件雇止め及び本件雇用拒否を合わせて、「本件雇止め等」ともいう。)。

(4)原告B,原告E、原告G及び原告Hは、被告会社による雇止めの後、別紙3から別紙6(いずれも略)の「他収入」欄記載のとおり、他社で就労し、賃金を得た。


【争点】

(1)個人原告らと被告会社との雇用契約が、本件雇止め等にもかかわらず、労働契約法(以下「労契法」という。)19条の適用又は類推適用等により更新又は締結されたものとみなされるか。
 ア 本件供給契約に基づき供給された労働者に係る各有期雇用契約について、労契法19条が適用されるか。
 イ 個人原告らごとの争点について
 (ア) 定年到達とともに雇用契約関係を終了したとされ、一度も有期雇用契約を締結していない原告A、原告K及び原告Lについて
  a)労契法19条の類推適用又は権利濫用の法理により、有期雇用契約が締結されたとみなされるか。
  b)被告会社の上記原告らに対する再雇用拒否が、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められるか。
 イ) 原告Bから原告Jまでの各有期雇用契約について、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされるか。
(2)個人原告らの賃金請求権の有無及び額
(3)本件雇止め等の原告らに対する不法行為該当性及び原告らの損害額
であるが、以下、(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点(1)ア(本件供給契約に基づき供給された労働者に係る各有期雇用契約について、労契法19条が適用されるか)について
 ア 被告会社は、本件供給契約においては、被告会社が労働者供給の申込みを行うことが前提となっており、これを行うか否かは被告会社の裁量に委ねられているので、供給される労働者には有期雇用契約の更新についての合理的期待が生じる余地がないから、労契法19条の適用の基礎を欠く旨主張する。
 イ まず、本件供給契約は、被告会社が供給の申込みをした供給労働者と被告会社との間で、別途雇用契約を締結することを当然の前提としている。とすると、本件供給契約に基づく被告会社からの供給申込みが契機となるとしても、原告らと被告会社との契約関係は雇用契約であるから、その限りでは、労働契約法及び労働基準法の適用を否定すべき理由はない。 
 ウ 次に、被告会社の上記主張について検討する。
   本件供給契約は、契約書の2条2項に「甲(被告)の申込みに応じて」との文言はあるものの、被告会社に労働者供給を申し込むか否かの自由裁量を与え、申込みがなければ雇用契約が締結、更新されないという内容を合意したものではなく、有期雇用契約の契約期間の終了に伴う更新に当たっては、被告会社からの労働者供給申込みがなされなくても、他に同契約の更新を妨げる勤怠、健康等の問題がない限り、同契約が更新されるという、従前の有期雇用契約の更新手続や定年後の継続雇用の運用等を前提とした契約とみるのが、当事者の合理的意思解釈として妥当であり、その旨の黙示の合意があったと認められる。そうすると、上記の更新された有期雇用契約には、労契法19条が適用されると解される。

(2)争点(1)イ(ア)(定年到達とともに雇用契約関係を終了したとされ、一度も有期雇用契約を締結していない原告A、原告K及び原告Lについて、労契法19条の類推適用又は権利濫用の法理により、有期雇用契約が締結されたとみなされるか)について
 ア 労契法19条は、有期雇用契約について、同条1号、2号所定の要件があると認められ、当該労働者において遅滞なく当該有期雇用契約の更新申込み等を行った場合で、使用者の当該申込み拒絶が、客観的な合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、当該使用者は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすものであって、一定の要件の下に使用者の意思表示を擬制して、有期雇用契約につき、一種の法定更新を認めるものである。
  本件においては、上記原告ら3名の期間の定めのない雇用契約は定年により当然に終了したものであることや、原告らにおいて定年前の期間の定めのない雇用契約が定年後に有期雇用契約に転化すると主張していることを踏まえると、本件に労契法19条が類推適用されるとする原告らの主張は、同条の定める有期雇用契約の法定更新という枠組みとは大きく異なるものであり、類推適用の基礎を欠くというべきである。
 イ また、上記原告ら3名は、被告会社による再雇用拒否が権利濫用に該当するとして、期間の定めを除いて従前と同一の条件での有期雇用契約が成立したとみるべきであるとも主張する。
   しかし、定年後の再雇用の場合には、定年前にはない短時間勤務という勤務形態がある一方で、車両の空き状態等によっては、労働者の希望どおりの勤務形態(注:隔日勤務か日勤勤務か、フルタイムか短時間勤務か)では被告会社が雇用契約を締結できない場合もありうる。そして、被告会社は、上記原告ら3名との再雇用契約締結を拒否しており、再雇用契約における労働条件についての希望等は何ら示されていない。
   よって、本件再雇用拒否が権利濫用に当たるか否かを問うまでもなく、上記原告ら3名と被告会社との間で締結される再雇用契約の主要な労働条件である上記各勤務形態のいずれであるかという点を定めることができない以上、上記原告ら3名と被告会社との間で再雇用契約が成立したと認めることはできない。
 ウ 以上によれば、上記原告ら3名の、労働契約法上の権利を有する地位の確認及び労働契約に基づく賃金支払請求は、その余の点(注:争点(1)イ(ア)b)について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

(3)争点(1)イ(イ)(原告Bから原告Jまでの各有期雇用契約について、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされるか)について、
 ア 75歳までの雇用契約更新に対する合理的期待
   平成19年7月24日の安全自動車労働組合(注:現原告組合)とANZENグループ(注:現被告会社)との団体交渉において、当時のM社長が、定年後の再雇用契約について、乗務員の安定的な確保と稼働率の上昇を図るために75歳まで契約更新を可能とし、60歳定年者の継続雇用について、勤怠、健康状態等に問題がない限り自動的に再雇用となることなどについて発言したなどの事実が認められる。上記のM社長の発言以降、定年到達後、被告会社に再雇用された労働者については、勤怠、健康状態等に問題がない限り75歳まで契約更新が可能となるという限度において、有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な期待(労契法19条)があると認められる。
 イ 75歳を超える原告ら(原告D、原告I)について
   上記の原告ら2名については、有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないから、その余の点について検討するまでもなく、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。
 ウ その余の個人原告らについて
 (ア) 定年後の有期雇用契約が複数回更新された原告ら(原告C、原告F、原告G、原告H及び原告J)について
   上記の原告ら5名については、労契法19条により有期雇用契約が更新されると期待することについて合理的な理由があるとみなすことができる。
 (イ) 定年後の有期雇用契約が1回も更新されていない原告Bについて
   有期雇用契約の更新が一度もされていない原告Bにおいても、一度再雇用としての有期雇用契約を締結した以上、契約更新への期待は既に現実化しているといえ、同様に更新を期待する合理的理由があると認められる。
 (ウ)  採用時から有期雇用契約を締結しそれが複数回更新された原告Eについて
   原告Eは、採用時から有期雇用契約が複数回更新されているから、有期雇用契約が更新されると期待されることについて合理的期待があると認められる。
  エ  被告会社による本件雇止めの動機について
   以下の経緯に加え、後記(略)の各原告の雇止めについての判断を併せ考慮すると、個人原告ら(原告Bから原告Jまでを含む)が残業代の支払を請求し、その支払を求めるために別件訴訟を提起したことが、本件雇止め等の主要な動機であることが認められる。
  (a)原告らが平成27年7月15日付けで被告会社に対して未払残業代の支払を催告する通知を送付した後、同年12月に入り、原告Aが、被告会社のN課長から別件訴訟の委任状への署名の趣旨を確認され、引き続き、平成28年1月16日に定年後再雇用をしない旨通告されたこと
  (b)この後原告組合が申し入れた団体交渉の場において、被告会社の当時の社長であった被告乙山が、会社に裁判を提起するような従業員については、信頼関係が保てないので再雇用や雇用継続をしない旨明言し、東京都労働委員会の調査期日においても、同様の内容を述べたこと
  (c)個人原告らが平成28年1月12日に別件訴訟を提起した後、被告会社が個人原告ら充てに、同訴訟が提起されたとの通知に接した旨の確認書を送付したこと
  (d)被告乙山の指示により、同訴訟の原告となった従業員らに対し個別面談が行われ、複数の原告が同訴訟を取り下げたこと
  (e)被告会社の一連の行為により、残業代請求を断念した労働者が相当数に及んでいること
 オ 他社において就労している原告ら(原告B,原告E、原告G及び原告H)について
   雇止めによって収入が途絶えた上記の原告ら4名は、生計を維持するためにやむなく就労していることがうかがわれなくもなく、本件全証拠によっても、上記原告らの就労の各事実をもって、被告会社における就労の意思及び能力を喪失したと認めることはできない。
 カ 75歳未満の各原告ら(原告B、原告C、原告E、原告F、原告G、原告H、原告J)についての小括(争点(1)の結論)
   それぞれの個別事情(略)に加えて、本件雇止めの主要な動機が別件訴訟の提起にあると認められることも考慮すると、被告会社主張に係る各事実をもって雇止めとする客観的合理的理由があるということはできず、社会通念上相当であるとも認められない。
   よって、上記の原告ら7名については、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされる。