東京高裁令和元年11月28日判決(労働判例1215号5頁)

報道機関に対する記者会見における一審原告(元従業員)の各発言が、一審被告(使用者)の名誉または信用を毀損するものとして、一審被告の一審原告に対する損害賠償請求が認められた事例(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)一審被告は、英語及び中国語のコーチングスクールであるPの運営等を主たる事業とする、資本金1200万円、従業員数約22名の株式会社である。一審被告代表者は、昭和49年7月生まれの女性である。一審被告は、一審被告代表者の亡夫が設立した会社であり、一審被告代表者は、平成23年に夫が死亡した後、一審被告の監査役となり、平成26年4月、一審被告の代表取締役となった。
   一審原告は、昭和56年○月生まれの女性である。一審原告は、平成20年7月9日、一審被告との間で、期限の定めのない労働契約(以下「本件正社員契約」という。)を締結し、以後、Pにおいてコーチとして稼働していた。平成24年11月当時の本件正社員契約における一審原告の労働条件は、所定労働時間を1日7時間(完全フレックス制)、賃金等を1か月48万円(ただし、本給35万3640円、定額時間外手当12万6360円の合計)などとするものであった。

(2)一審原告は、平成25年1月、出産のために産前休暇を取得し、同年3月2日に長女を出産した後、産後休暇及び育児休暇(終了日は子が1歳に達する日の前日である平成26年3月1日)を取得した。その後、一審原告の育児休業期間は、6か月延長(終了日は子が1歳に達する日の前日である平成26年9月1日)された。

(3)一審原告は、平成26年9月1日、一審被告代表者、B(注:Pの執行役員)及びC社労士(注:一審被告の顧問社会保険労務士)と面談した上で、労働条件として、契約期間を「期間の定めあり(平成26年9月2日から平成27年9月1日まで)」、雇用形態を「契約社員」、始業・終業の時刻及び休憩時間を「原則水・土・日曜日/4時間勤務」,賃金を「月額10万6000円(クラス担当業務:7万6000円、その他業務:3万円)」などとする記載のある雇用契約書(以下「本件雇用契約書」という。)に署名し、これを一審被告に交付した(以下「本件合意」といい、本件合意に基づく雇用契約を「本件契約社員契約」という。ただし、合意の解釈については争いがある。)。一審原告は、保育園が決まれば週5日勤務の正社員に復帰できるのかと質問したが、Bは、クラススケジュールの問題がある旨述べ、C社労士は、正社員としての労働契約に変更するには一審被告との合意を要する旨述べた。

(4)一審原告は、平成26年9月8日、Bに対し、メールを送信して、○○にある保育園から同年10月に空きが出るとの電話連絡があった旨連絡した。また、一審原告は、同年9月9日、Bに対し、電話で、同年10月から週5日勤務の正社員として就労したい旨を申し出た。これ以降、一審原告は、一審被告に対し、「【P】コーチの従業形態:2014年4月以降」と題する書面(注:平成26年4月1日施行の一審被告の就業規則等の改定に合わせて作成された書面。一審被告は、同年2月26日、一審原告に対し、面談をし、個別に説明した。)の補足説明として記載されている「契約社員は、本人が希望する場合は正社員への契約変更が前提です」との内容に基づいて、週5日勤務の正社員に戻すように求め、何度か交渉をしたが、一審被告はこれに応じなかった。

(5)一審被告は、一審原告に対し、平成27年7月11日頃、同月12日以降自宅待機を命じ、同月31日差出しの内容証明郵便をもって、本件契約社員契約を同年9月1日限り期間満了により終了する旨通知した(以下「本件雇止め」という。)。

(6)一審原告は、平成27年10月22日、東京地方裁判所に本訴を提起し、一審原告訴訟代理人弁護士らとともに、厚生労働省記者クラブにおいて、記者会見(以下「本件記者会見」という。)をし、一審原告の指名は匿名としながら、一審被告の名称を公表して、本訴を提起したこと等を説明し、その中で、次のような発言(以下、各発言を総称して「本件各発言」という。)をした。
 ア 平成26年9月に育児休業期間終了を迎えたが、保育園が見付からなかったため休職を申し出たものの認められず、一審被告から週3日間勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られた(以下「本件発言①」という。)。
 イ やむを得ず契約社員としての雇用契約を締結したところ、1年後に雇止めされた(以下「本件発言②」という。)。
 ウ 子を産んで戻ってきたら、人格を否定された(以下「本件発言②」という。)。
 エ 上司の男性が、「俺は彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせるくらいのつもりで妊娠させる」と発言した(以下「本件発言③」という。)。
 オ 一審原告が労働組合に加入したところ、一審被告代表者が「あなたは危険人物です」と発言した(以下「本件発言⑤」という。)。

(7)一審被告は、平成27年10月23日、一審被告の公式ウェブサイトに、本件記者会見における一審被告の元従業員の主張は。全く事実と反する内容であり、元従業員は自らの意思で契約社員を選択したものであって、元従業員との雇用契約の終了は、飽くまで元従業員の問題行動が理由であり、育児休業の取得その他の出産・育児等を理由とした不利益な取扱い(マタニティハラスメント)に当たる事実は一切ない旨の記事を掲載した。

(8)原審(東京地裁平成30年9月11日判決・労働判例1195号28頁)は、本件合意によって本件正社員契約は解約されたものの、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとして、一審原告の契約社員としての地位の確認請求及び未払賃金等請求並びに慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求める限度理由があると判示した。

(9)一審被告は、一審被告の公式ウェブサイトに、平成30年9月12日、「今回出された第1審判決について、一部のマスコミの報道では、弊社のマタハラが認定されたかのように報じられているものがございますが、そのような事実はございません。」などの記載のある記事を掲載した。


【争点】

(1)本件合意の解釈及びその有効性
 ア 本件合意は本件正社員契約を解約するとの合意を含むものであか。
 イ 本件合意は均等法や育介法に違反し又は錯誤等により無効であるか。
 ウ 本件合意は停止条件付き無期労働契約の締結を含むものであるか。
 エ 本件合意は正社員復帰合意を含むものであるか。
(2)本件契約社員契約の更新の有無
   本件雇止めは、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると認められるか。
(3)一審被告による不法行為の有無
   一審被告が一審原告を契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連していた行為は違法であるか。
(4)一審原告による不法行為の有無(注:反訴請求に関するもの)
   一審原告が本件記者会見においてした本件各発言は内容虚偽のものであり、これにより一審被告の信用等が毀損されたか。
   以下、上記(4)についての裁判所の判断の概要を示す。


   なお、裁判所は、(1)本件合意は本件正社員契約を解約するとの合意を含むものであり、かつ、有効とした上で、(2)本件雇止めは、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるとして、本件契約社員契約は、期間満了により終了しているから、一審原告の契約社員としての地位の確認請求及び未払賃金等請求は、いずれも理由がないと判示し、また、(3)一審原告が就業規則違反と情報漏洩のため自宅待機処分となった旨を記載したメールを第三者に送信したことについてのみ不法行為が成立するとして、慰謝料5万円及び弁護士費用5000円の合計5万5000円並びにこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があると判示した。


【裁判所の判断】

(1)本件記者会見は、本訴を提起した日に、一審原告及び一審原告訴訟代理人弁護士らが、厚生労働省記者クラブにおいて、クラブに加盟する報道機関に対し、訴状の写し等を資料として配付し、録音データを提供するなどして、一審被告の会社名を明らかにして、その内容が広く一般国民に報道されることを企図して実施されたものである。
   そして、報道機関に対する記者会見は、弁論主義が適用される民事訴訟手続における主張、立証とは異なり、一方的に報道機関に情報を提供するものであり、相手方の反論の機会も保障されているわけではないから、記者会見における発言によって摘示した事実が、訴訟の相手方の社会的評価を低下させるものであった場合には、名誉毀損、信用毀損の不法行為が成立する余地がある。
   一審原告は、記者会見は、報道機関に対するものであるから、記者らにとっては、記者会見における発言は、当事者が裁判手続で立証できる範囲の主張にすぎないと受け止めるものである、訴状を閲覧した報道機関からの取材に応じることと何ら変わるものではないなどと主張する。
   しかしながら、一審原告らは、報道機関からの取材に応じるのとは異なり、自ら積極的に広く社会に報道されることを期待して、本件記者会見を実施し、本件各発言をしており、報道に接した一般人の普通の注意と読み方を基準とすると、それが単に一方当事者の主張にとどまるものではなく、その発言には法律上、事実上の根拠があり、その発言にあるような事実が存在したものと受け止める者が相当程度あることは否定できない。実際、一審被告に対しては、マタハラ行為をしたとして苦情のメールがあったところでもある。そして、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、一審原告らは、本件記者会見において各発言をしたことが認められるから、その発言内容を事実として摘示したものというべきである。

(2)そこで、本件各発言が一審原告の名誉または信用を毀損するものといえるかにつき検討する(注:以下、本件発言①についての判断のみを示す。なお、裁判所は、本件発言②については、一審被告の社会的信用を低下させるものではなく、本件発言③ないし⑤については、一審被告の社会的信用を低下させるものと判示した。)。
 ア 本件発言①は、一審原告は、平成26年9月に育児休業終了を迎えたが、保育園が見付からなかったため、一審被告に対し、休職を申し出たものの認められず、一審被告から週3日勤務の契約社員になるか自主退職するかを迫られたものというべきであり、これに対応して、「育児休業を取った後に正社員から契約社員になることを迫られ」た(本件報道①(注:平成27年10月○日付けG新聞電子版))又は「育休開けに正社員から非正規社員への変更を迫られ」た(本件報道②(注:平成27年10月○日付けH新聞電子版))との報道がされたことが認められる。同発言部分は、一般読者の普通の注意と読み方によれば、一審被告が育児休業終了後復職しようとする一審原告に対し、正社員から契約社員への変更又は自主退職を迫ったとの事実を摘示するものであり、一審被告が育児休業後復職しようとする従業員に不利益な労働条件を押し付け、退職を強要するなど労働者の権利を侵害する企業であるかの印象を与えるものであるから、一審被告の社会的地位を低下させるものといえる。
 イ したがって、本件発言①、③ないし⑤は、いずれも一審被告の社会的評価を低下させるものというべきである(なお、本件報道②は、一審被告の会社名を明らかにしたものではないが、本件各発言は、一審被告の会社名を明らかにしてされたものである上、本件報道①及び③は、一審被告の会社名を明らかにしているから、本件報道②も他の情報と併せれば一審被告についての報道であることが容易に特定できるものである。)。

(3)事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分で真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信じるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日判決、最高裁昭和58年10月20日判決参照)。
   そこで、公共性、公益目的については、しばらく措き、本件発言①、③ないし⑤について、摘示された事実がその重要な部分について真実であるといえるか又は真実と信じるについて相当の理由があるといえるかを検討する(注:以下、本件発言①についての判断のみを示す。なお、裁判所は、本件発言④で摘示された事実については、真実であると認められると判示し、本件発言③及び⑤で摘示された事実については、真実であるとの立証があるとは認められず、一審原告において、真実と信じるについて相当の理由があるものとも認められないと判示した。)。
 ア 前記説示によれば、一審原告が一審被告との間で本件合意をしたことについては、一審原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものであって、一審被告が正社員であった一審原告に対し、契約社員に変更するか又は自主退職するかを迫ったものではないから、本件発言①で摘示された事実については、真実であるとは認められない。また、この点については、一審被告から、繰り返し、指摘をされているところであって、一審原告は、これについて有意な反論もできなかったこと、本件合意の成立過程に自ら関与していることなどからすると、一審原告において、真実と信じるについて相当の理由があるとも認められない。
 イ したがって、本件発言①、③及び⑤で摘示された事実については、真実であるとの立証があるとは認められず、一審原告において、真実と信じるについて相当の理由があるものとも認められない。そして、このように相当性がないことは、一審原告が、一審被告からマスコミに対し事実と異なる情報を提供しないように指導され、警告されていたこと(証拠略)、一審原告自身が、マタハラが脚光を浴びているとして、記者会見を一審被告に社会的制裁を与えて自己の金銭的要求を達成するための手段と考えている趣旨のメール(証拠略)を作成していることなどからも裏付けられる。

(4)損害
   本件各発言に基づく報道は、語学スクールを経営する一審被告があたかもマタハラ企業であるような印象を与えて社会的評価を低下させるものであり、実際に、一審被告を非難する意見等も寄せられたのであるから、本件核発言に基づく報道によって一審被告の受けた影響は小さくないが、本件各発言に基づく報道の中には一審被告の主張も併せて紹介したものがあったことや一審被告の公式ウェブサイトにおいて一審被告の見解を表明して反論していることなど本件に現れた一切の事情を考慮すると、一審原告らによる本件発言①、③及び⑤がされ、これに基づく報道がされたことにより、一審被告が被った名誉または信用を毀損されたことによる無形の損害は、50万円と認めるのが相当である。

(5)結論
   一審被告の不法行為に基づく損害賠償請求は、一審原告に対し、無形の損害50万円及び弁護士費用5万円の合計55万円並びにこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある(一部認容)。


 

大阪高裁平成30年12月21日判決(労働判例1198号32頁)

ハマキョウレックス(第二次差戻後控訴審)事件(確定)

【事案の概要】

(1)被控訴人は、一般貨物自動車運送事業等を営む株式会社である。
   控訴人は、平成20年10月6日頃、被控訴人との間で、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「契約社員」又は「有期契約労働者」という。)であり、乗務員(トラック運転手、配車ドライバー)として被控訴人の業務に従事している。上記労働契約は、その後順次更新されている(以下「本件労働契約」という。)。

(2)契約社員である控訴人については、被控訴人と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「正社員」又は「無期契約労働者」という。)と比較すると、それぞれ異なる就業規則が適用されることにより、賃金の内容が相違している。
   そして、控訴人の勤務しているD支店においては、労働契約法の一部(注:同法20条を含む。)を改正する法律が施行された、平成20年4月1日から同27年11月30日までの期間(以下「本件期間」という。)中、正社員である乗務員に対して月額1万円の皆勤手当が支給されていたが、契約社員である乗務員の控訴人には支給されなかった。

(3)第一次差戻後控訴審は、正社員に支給された諸手当のうち、住宅手当及び皆勤手当の不支給については、労働契約法20条違反とは認めず、同支給額相当の損害賠償請求を棄却した(大阪高裁平成28年7月26日判決・労判1143号5頁)。

(4)これに対し、第一次差戻後上告審は、正社員に対し上記皆勤手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働契約の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断した。
   そして、同上告審は、控訴人の平成25年4月1日以降の皆勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し、控訴人が皆勤手当の支給要件を満たしているか否か等について、更に審理を尽くさせるため、同部分につき大阪高等裁判所に差し戻す旨の判決をした(最高裁平成30年6月1日判決・ハマキョウレックス(差戻審)事件・労判1179号20頁)。
   よって、第二次差戻後控訴審である当審の審判の対象は、不法行為に基づく本件期間の皆勤手当に係る損害賠償請求の当否のみである。

【争点】

(1)本件労働契約に基づく控訴人の労働条件である皆勤手当の不支給の不合理性
(2)被控訴人の故意又は過失の有無
(3)控訴人の損害額
   以下、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(1)に係る控訴人の主張は、以下のとおりである。
   有期労働契約である本件労働契約と、被控訴人の正社員である乗務員と被控訴人との無期労働契約においては、①労働時間について相違はなく、②配車担当者の指示に基づいて配送業務を行うという点で業務内容も同一で、かつ配送業務の地域も異ならず、③配送業務を行う者の間に配転の有無や責任についての相違もない。
   にもかかわらず、皆勤に対してインセンティブを付与することで皆勤を奨励する趣旨の皆勤手当を、正社員である乗務員にのみ支給するという労働条件の相違は、業務内容及び業務に伴う責任の程度(以下、併せて「職務の内容」という。)や、職務の内容及び配置の変更の範囲等の事情を考慮しても,不合理と認められるものであるというべきである。
   かかる不合理な相違のある本件労働契約上の労働条件は、労働契約法20条によって無効である。それゆえ、控訴人に対し皆勤手当を不支給とした被控訴人の行為は、控訴人に対する不法行為を構成する。

【裁判所の判断】

(1)本件労働契約に基づく控訴人の労働条件である皆勤手当の不支給の不合理性
 ア 不合理性の判断基準
   労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより、労働条件に相違があり得ることを前提に、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の程度その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。
   また、同条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。
   そして、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に労働条件の相違が、不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
   なお、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される(最高裁平成30年6月1日判決。長澤運輸事件・労判1179号34頁)。
 イ 以下、皆勤手当の趣旨を踏まえて、契約社員と正社員との間で皆勤手当の支給の有無につき相違のあることが、労働契約法20条の定める考慮要素に照らし、「不合理と認められるもの」であるか否かを検討する。
  ①皆勤手当の趣旨
   皆勤手当は、正社員のうち乗務員のみに対し、全営業日を出勤したときに限り支給されるものである。この皆勤手当は、被控訴人が運送業務を円滑に進めるためには、実際に出勤する乗務員を一定数確保する必要があることから、乗務員に皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解される。
  ②考慮要素からする不合理の有無
  a)職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲
   被控訴人のD支店における乗務員(トラック運転手)の主な業務は、配車担当者の指示に基づいて配送業務を行うものであり、同業務及び同業務に伴う責任の程度において、契約社員と正社員との間で異なるところはない。したがって、皆勤手当の趣旨である運送業務を円滑に進めるために、実際に出勤する乗務員を一定数確保する必要性について、契約社員と正社員との間で差異が生じるものではない。
  b)その他の事情(他の賃金項目の有無及び内容との関連)
   被控訴人は、契約社員の時間給増減の評価のために、評価表作成基準及びそれに基づく支給基準(以下「本件運用基準」という。)を作成し、各項目の達成度を評価する制度を設けている。この制度に基づく時間給の増加が、前記アでいう「ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合」という事情、すなわち、契約社員である乗務員への皆勤手当不支給に対する合理的な代償措置と評価できるのであれば、かかる代償措置を踏まえて皆勤手当不支給が決定されているということができる(長澤運輸最高裁判決参照)、契約社員である乗務員に皆勤手当が支給されないことが、「不合理であると認められるもの」と評価するについての評価障害事実になる。
   しかし、本件運用基準による時給の増加は、そもそも皆勤の評価が直ちに賃金に反映するのか不確実な制度であるというだけでなく、控訴人のように再雇用がなされ、他の評価項目も年間を通じて高評価であり、皆勤の事実が事実上昇給に反映されていると見得る余地がある場合であっても、皆勤手当(月額1万円、年額12万円)と比べると、わずかの金額(最大でも月額504円(=15円(本件運用基準上の最大昇給額)×168(時間/月)×4点/20点)、年間6048円程度)に過ぎないのである。それゆえ、契約社員である乗務員について、皆勤を奨励する趣旨で翌年の時給の増額がなされ得る部分があることをもって、皆勤手当を不支給とする合理的な代償措置と位置付けることはできない。
   したがって、本件運用基準による時給の増額は、契約社員である控訴人に皆勤手当が不支給とされることが「不合理と認められるもの」と評価するについて、評価障害事実にはならない。
 ウ 以上から、皆勤手当の趣旨を踏まえると、契約社員と正社員との皆勤手当の支給における相違は、労働契約法20条に定める考慮要素(職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情)に照らし、不合理と認められるものに当たる。
   したがって、労働契約法20条に違反する皆勤手当の不支給は、均衡待遇を要求する控訴人の法的な利益を侵害するものとして、不法行為になり得る。

(2)被控訴人の故意又は過失の有無
 ア 以下の各事情によると、被控訴人は、労働契約法20条の施行時までには、同条の趣旨に合致するように、契約社員である乗務員の労働条件について、正社員である乗務員の労働条件と均衡のとれた処遇とするように取り組むべき注意義務があった。
  ・労働契約法20条は、規定の内容や趣旨からして、強行法規として私法上の効力を有し、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となると解されること。
  ・同条に違反する場合には、有期労働契約のうち上記のとおり労働条件の相違を設ける部分が無効になるだけでなく、不法行為となり得ることが、同条施行時(平成25年4月1日)よりも前に、厚生労働省労働基準局長の平成24年8月10日付け基発0810第2号「労働契約法の施行について」と題する通達や多数の文献によって指摘されていたこと。
  ・被控訴人は、労働契約法20条の施行前から、会社の業種や規模に相応する労務管理能力を有していたと推認されること。
  ・被控訴人と労働組合との交渉において、度々組合員である契約社員(パート労働者)の待遇改善を要求され、平成24年7月17日には、格差是正の件(手当支給)として、団体交渉の内容となっていたこと(控訴人本人(原審・第一次差戻後一審))。
 イ しかし、被控訴人が労働契約法20条の施行時までに何らかの形で上記取組みをしたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被控訴人は、控訴人に対して皆勤手当を支給しないという違法な取扱いをしたことについて、過失があったというべきである。
   そうすると、被控訴人は、控訴人に対し、上記不法行為により控訴人が被った損害を賠償すべき義務がある。

(3)控訴人の損害額
 ア 控訴人には、本件期間中、年次有給休暇を取得した日を含めて、欠勤扱いになった日はなく、皆勤手当の支給要件である「組合員が全営業日を出勤したとき」に該当するか又はそれと同視できる事情がある。したがって、控訴人は、本件期間の皆勤手当相当額32万円(=1万円×32(月))の損害を被った。
 イ この点、被控訴人は、控訴人が本件期間のうち、4日間について、当日欠勤(注:出勤日当日になって被控訴人に欠勤を申し出て欠勤すること)をしており、事後的に年次有給休暇が認められる場合であっても、4か月分については支給要件を満たさないなどと主張する。
   しかし、年次有給休暇を取得した場合に、賃金の減額その他不利益な取扱いをすること(このような不利益な取扱いには、本件において年次有給休暇取得を理由に皆勤手当を支給しない取扱いをすることも含まれる。)は、労働基準法附則136条(努力義務を定めたものと解される。)からすると、できるだけ避けるべきものである(最高裁平成5年6月25日判決・沼津交通事件・労判636号11頁)。
   そして、年次有給休暇の取得の場合に、事前の届出と事後の届出の場合で、皆勤手当の支給を区別することは、正社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規程(以下「本件正社員給与規程」という。)上明記されていない上、正社員である乗務員については、事後的な届出による年次有給休暇の場合であっても、皆勤手当が支給されていることが認められる(弁論の全趣旨)。したがって、本件正社員給与規程は、正社員である乗務員について、年次有給休暇の取得に関し、事後の届出であっても、皆勤手当の支給要件を充たすものとして取り扱われていると解される。そして、契約社員である乗務員についても、この点について別意に解する根拠はない。したがって、控訴人は、年次有給休暇を取得した上記4日の属する4か月分についても、皆勤手当の支給要件を充たすというべきである。

(4)結論
   平成25年4月1日から平成27年11月30日までの皆勤手当に係る損害賠償を求める控訴人の請求(当審における追加請求を含む。)は理由がある(認容。原判決一部変更)。