知財高裁平成30年4月25日判決(判例時報2382号24頁)

リツイート行為が、控訴人の著作者人格権を侵害する行為であると認めたものの、最新のログイン時IPアドレス等の発信者情報該当性を否定した事例(上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)本件は、控訴人が、インターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」(以下「ツイッター」という。)において、被控訴人の著作物である原判決別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)が、
  ①氏名不詳者により無断でアカウントのプロフィール画像として用いられ、その後当該アカウントのタイムライン及びリツイート(投稿)にも表示されたこと、
  ②氏名不詳者により無断で画像付きツイート(ツイッターにおける短文投稿のこと)の一部として用いられ、当該氏名不詳者のアカウントのタイムラインにも表示されたこと、
  ③氏名不詳者らにより無断で上記②のツイートのリツイートがされ、当該氏名不詳者らのアカウントのタイムラインに表示されたこと
により、控訴人の本件写真についての著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)、公衆伝達権。以下、これらを総称して「本件著作権」という。)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権、名誉声望保持権。以下、これらを総称して、「本件著作者人格権」とう。)が侵害されたと主張して、
   「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記①~③のそれぞれについて、別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求めるものである。
   なお、別紙発信者情報目録の内容は、以下のとおりである。
 1 別紙流通情報目録(注:下記PDFファイル参照)記載に係る各流通情報を発信した者(別紙アカウント目録(略)記載の各アカウント保有者)の電子メールアドレス
 2 別紙流通情報目録記載に係る別紙アカウント目録記載の各ツイッターアカウントにログインした際のアイ・ピー・アドレスのうち、本判決確定の日の正午時点(日本標準時)で最も新しいもの
 3 上記第2項のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備から、被控訴人らの用いる特定電気通信設備に上記第2項のログイン情報が送信された年月日及び時刻
【改訂版】知財高裁H30.4.25判決

(2)原判決(東京地裁平成28年9月15日判決・判例時報2382号41頁)は、被控訴人米国ツイッター社に対する請求を、原判決別紙流通情報目録(略)記載1及び2の各アカウントの別紙原判決別紙発信者情報目録(第1)(略)記載の3の各発信者情報(注:電子メールアドレス)の開示を求める限度で認容し、被控訴人米国ツイッター社に対するその余の請求及び被控訴人ツイッタージャパンに対する請求をいずれも棄却したので、これを不服とする被控訴人が本件控訴を提起した。


 【争点】

(1)被控訴人ツイッタージャパンが別紙発信者情報目録の情報を保有しているか
(2)別紙アカウント目録(略)記載のアカウント1(以下「本件アカウント1」という。その他のアカウントについても、同じ。)及び本件アカウント2につき、ツイート及びタイムラインへの本件写真の表示(流通情報1(6)及び(7)、2(3)及び(4)により控訴人の本件著作権及び本件著作者人格権が侵害されたことが明らかであるか(プロバイダ責任制限法4条1項1号)
   なお、本件プロフィール画像設定行為及びタイムラインへの本件写真の表示(流通情報1(1)~(5)並びに本件ツイート行為2及び本件ツイート2(注:原判決のいうもの)への表示(流通情報2(1)及び(2)が控訴人の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害することは当事者間に争いがない。
(3)本件アカウント3~5につき、本件リツイート行為(流通情報3~5)により控訴人の本件著作権及び本件著作者人格権が侵害されたことが明らかであるか(プロバイダ責任制限法4条1項1号)等
(4)判決確定日時点における最新のログイン時IPアドレス及びこれに対応するタイムスタンプが、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令」(以下「省令」という。)4号の「侵害情報に係るIPアドレス」及び7号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当するものとして、プロバイダ責任制限法4条1項により開示されるべき「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか
(5)控訴人が発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(プロバイダ責任制限法4条1項2号)を有するか
   以下、本判決の主文を示したのちに、上記争点に関する裁判所の判断の概要を示す。


【主文】

1  原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人米国ツイッター社は、控訴人に対し、
  ①被控訴人米国ツイッター社が運営するツイッターにおいて、別紙流通情報目録1(1)~(4記載のURLにアクセスしたクラインアントコンピュータ・モニター画面に、同目録(1)~(4「表示される画像」記載の各画像が表示されるように設定した本件アカウント1のアカウントの保有者
  ②ツイッターにおいて、クライアントコンピュータが、別紙流通情報目録1(5記載のURLのウェブページにアクセスした際に、タイムラインに表示される自ら投稿したツイート毎に表示される自らのプロフィール画像として、同目録1(5「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント1のアカウントの保有者
  ③ツイッターにおいて、クライアントコンピュータが別紙流通情報目録2(1記載のURLにアクセスした際に表示される、本件ツイート1に表示される画像として、別紙流通情報目録2(1「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント2のアカウントの保有者
  ④ツイッターにおいて、別紙流通情報目録2(2記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータ・モニタ画面に、同目録2(2「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント2のアカウントの保有者
  ⑤ツイッターにおいて、クライアントコンピュータが別紙流通情報目録2(3)及び(4記載のURLのウェブページにアクセスした際に、タイムラインに表示される本件ツイート1に表示される画像として、別紙流通情報目録2(3)及び(4「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント2のアカウントの保有者
  ⑥ツイッターにおいて、クライアントコンピュータが別紙流通情報目録3~5記載の各URLのウェブページにアクセスした際に、タイムラインに、別紙流通情報目録3~5「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した本件アカウント3~5のアカウントの保有者
   の電子メールアドレスを開示せよ。
(2)控訴人の被控訴人米国ツイッター社に対するその余の請求及び被控訴人ツイッタージャパンに対する請求をいずれも棄却する。

2以下 略


【裁判所の判断】

(1)被控訴人ツイッタージャパンが別紙発信者情報目録の情報を保有しているか
   被控訴人ツイッタージャパンが発信者情報を保有しているとは認められないから、控訴人の被控訴人ツイッタージャパンに対する請求はいずれも理由がない。

(2)争点(2)(本件アカウント1及び2における本件写真の表示(流通情報1(6)及び(7)、2(3)及び(4)による控訴人の著作権等侵害の明白性)及び争点(3)(本件リツイート行為(流通情報3~5)による著作権等の侵害の明白性)について
   事案に鑑み、争点(3)について判断し、その後に争点(2)について判断する。
 ア 事実関係等
   本件リツイート行為により本件アカウント3~5のタイムラインのURLにリンク先である流通情報2(2)のURLのインラインリンクが設定されて、同URLに係るサーバーから直接ユーザーのパソコン等の端末に画像ファイルのデータが送信され、ユーザーのパソコン等に本件写真の画像が表示されるものである。
   もっとも、ユーザーのパソコン等の端末に、本件写真の画像が表示させるためには、どのような大きさや配置で、いかなるリンク先からの写真を表示させるか等を指定するためのプログラム(HTMLプログラム、CSSプログラム、JavaScriptプログラム)が送信される必要があること、本件リツイート行為の結果として、そのようなプログラムが、リンク元のウェブページに対応するサーバーからユーザーのパソコン等に送信されること、そのことにより、リンク先の画像とは縦横の大きさが異なった画像や一部がトリミングされた画像が表示されることがあること、本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は、流通情報2(2)の画像とは異なるものであること(縦横の大きさが異なるし、トリミングされており、控訴人の氏名も表示されていない)が認められる。
 イ 公衆送信権侵害(著作権法23条1項)について
   控訴人が著作権を保有しているのは、本件写真であるところ、本件写真のデータは、リンク先である流通情報2(2)に係るサーバーにしかないから、送信されている著作物のデータは、流通情報2(2)のデータのみである。そして、公衆送信は、「公衆によって直接受信されることを目的として送信を行うこと」であるから、公衆送信権侵害との関係では、流通情報2(2)のデータのみが「侵害情報」というべきである。
   本件リツイート行為によってユーザーのパソコン等に表示される本件写真の画像は、それらのユーザーの求めに応じて、流通情報2(2)のデータが送信されて表示されているといえるから、自動公衆送信(公衆送信のうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。))に当たる。
   自動公衆送信の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ、情報を自動的に送信できる状態を作り出す行為を行う者と解されるところ(最高裁平成23年1月18日判決参照)、本件写真のデータは、流通情報2(2)のデータのみが送信されていることからすると、その自動公衆送信の主体は、流通情報2(2)のURLの開設者であって、本件リツイート者らではないというべきである。著作権侵害行為の主体が誰であるかは、行為の対象、方法、行為への関与の内容、程度等の諸般の事情を総合的に考慮して、規範的に解釈すべきであり、カラオケ法理と呼ばれるものも、その適用の一場面であると解される(最高裁平成23年1月20日参照)が、本件において、本件リツイート者を自動公衆送信の主体というべき事情は認め難い。
 ウ 複製権侵害(著作権法21条)について
   前記イのとおり、著作物である本件写真は、流通情報2(2)のデータのみが送信されているから、本件リツイート行為により著作物のデータが複製されているということはできない。
 エ 公衆伝達権侵害(著作権法23条2項)について
   著作権法23条2項は、公衆送信された後に公衆送信された著作物を、受信装置を用いて公に伝達する権利を規定しているものである。ここでいう受信装置がクライアントコンピュータであるとすると、その装置を用いて伝達している主体は、そのコンピューターのユーザーであると解される。よって、本件リツイート者らを伝達主体と評価することはできない。
 オ 著作者人格権侵害について
  a)同一性保持権(著作権法20条1項)侵害
   前記アのとおり、本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は、流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は、表示するに際して、本件リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどが指定されたために、上記のとおり画像が異なっているものであり、流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えられているものではない。
   しかし、表示される画像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1項1号にいう著作物ということができる。そして、上記のとおり、表示するに際して、HTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどを指定されたために、本件アカウントの3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像となったものと認められる。よって、本件リツイート者らによって改変されたもので、同一性保持権が侵害されている。
  b)氏名表示権侵害(著作権法19条1項)について
   本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像には、控訴人の氏名は表示されていない。そして、前記アのとおり、表示するに際して、本件リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどが指定されたために、本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像と異なり、控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められる。よって、控訴人は、本件リツイート者らによって、本件リツイート行為により、著作物の公衆への提供又は提示に際し、著作者名を表示する権利を侵害された。
  c)名誉声望保持権(著作権法113条6号)について
   本件リツイート者らは、控訴人の名誉声望保持権(著作権法113条6号)を侵害したとは認められない(詳細略)。
 カ 「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)及び「発信者」(同法2条4号)について
   前記オa)b)のとおり、本件リツイート行為は、控訴人の著作者人格権を侵害する行為であるところ、前記オa)b)認定の侵害態様に照らすと、この場合には、本件写真の画像データのみならず、HTMLプログラムやCSSプログラム等のデータ等のデータを含めて、プロバイダ責任制限法上の「侵害情報」ということができ、本件リツイート行為は、その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかである。そして、この場合の「発信者」は、本件リツイート者らである
 キ 争点(2)について
   本件アカウント2(3)(4)については、流通情報3~5と同様に、流通情報2(2)の画像が改変され、控訴人の氏名が表示されていないということができるから、著作者人格権の侵害がある。
   しかし、本件アカウント1の流通情報1(6)(7)については、流通情報1(3)の画像と同じものが表示されているから、著作者人格権の侵害があると認めることはできない。これらについて著作権の侵害を認めることができないことは、流通情報3~5と同様である。

(3)争点(4)(最新のログイン時IPアドレス等の発信者情報該当性)について
 ア 控訴人は、最新のログイン時IPアドレスが省令4号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に、同タイムスタンプが同7号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当し、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる旨主張する。
 イ この点、プロバイダ責任制限法4条1項は「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、・・・当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。・・・)の開示を請求することができる。」と定めているところ、同項は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」について開示を認めるとともに、具体的に開示の対象となる情報は総務省令で定めるとし、省令はこれを受けて、省令4号は「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス・・・及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号」と、同7号は「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とそれぞれ定められているのであるから、省令4号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」には当該侵害情報の発信に関係しないものは含まれず、また、当該侵害情報の発信と無関係なタイムスタンプは同7号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に当たらないと解するのが相当である。
   これを本件についてみると、本件アカウント1が開設されたのは平成25年4月1日であり、本件プロフィール画像設定行為がされたのは遅くとも平成27年1月21日であることなどが認められる。なお、控訴人が札幌地方裁判所に本件訴えを提起したのは、平成27年3月25日である。
   そうすると、控訴人が開示を求める最新のログイン時IPアドレス及びタイムスタンプは、本件において侵害情報が発進された上記各行為と無関係であり、省令4号及び7号のいずれにも当たらない。したがって、別紙発信者情報目録記載2及び3(【事案の概要】(1)参照)についての控訴人の被控訴人米国ツイッター社に対する請求は理由がない。
 ウ これに対し、被控訴人は、ツイッターにおいては、被控訴人らが唯一保有している最新ログイン時IPアドレス及びこれに対するタイムスタンプが開示されなければ、控訴人の権利を侵害した侵害情報発信者を特定する途を絶たれることになる(注:控訴人は、被控訴人らが提供するツイッターサービスにおいては、記事の投稿に係るIPアドレス及びタイムスタンプは取得されず、記事投稿直前のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの情報が取得される。逆に、記事投稿時のタイムスタンプは公開されているが、記事投稿時のIPアドレスが保有されていないため、IPアドレスが不明な投稿時のタイムスタンプは発信者特定において意味をなさないと主張している。)などと主張する。
   しかし、プロバイダ責任制限法4条及び同法の委任による省令は、発信者が有するプライバシーや表現の事由、通信の秘密等の権利・利益と権利を侵害された者の差止め、損害賠償等の被害回復の利益との調整を図るために設けられた規定であって、プロバイダ責任制限法は、その範囲で発信者情報の開示を求める権利を認めているものである。そして、前記イ判示のとおり、プロバイダ責任制限法4条及び省令において開示を求める権利が認められているものの中に、最新ログイン時IPアドレス及びこれに対するタイムスタンプは含まれていない。したがって、控訴人の主張は、立法論にとどまるものというほうかなく、失当である。
   なお、プロフィール写真として無断使用された場合、全ツイート記事へ画像表示されるとしても、侵害行為としては、プロフィール画像として写真の画像ファイルをアップロードしたことで完結しており、その後画像表示が継続されることが当然に侵害行為となるということはできない。

(4)争点(5)(発信者情報の開示を受ける正当な理由の有無)
   以上のとおり、控訴人は本件アカウント1~5に本件写真を表示させた者に対し著作権又は著作者人格権の侵害を理由として権利行使し得るところ、上記の者の特定に資する情報を知る手段が他にあるとは認められないから、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。

(5)結論
   控訴人の請求は、被控訴人米国ツイッター社に対して、主文1(1)の電子メールの開示を求める限度で理由がある(原判決変更)。


【追記】

   令和元年10月3日、最高裁判所にて、本件の記録を閲覧し、別紙流通情報目録PDFファイル及び別紙ツイート目録(注:「ツイート1」として、本件アカウント2によるツイートのみが記載されているもの)に関する記載を改訂した。


 

東京地裁平成30年3月29日判決(判例時報2387号121頁)

本件イラストは、本件写真素材の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえないことから、本件写真素材の複製にも翻案にも当たらないと判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)原告は、写真、CG、動画、イラスト等の映像コンテンツの販売、撮影業務等を目的とする株式会社である。
(2)原告は、〇〇という題名の写真素材CD(以下「本件写真素材CD」という。)を、訴外株式会社A(以下「訴外A」という。)等のウェブサイトにおいて、定価4万1040円(税込み)で販売している。本件写真素材CDには合計75点の写真素材が収録されており、その一つに「コーヒーを飲む男性」という題名の、別紙1(判例時報2387号129頁参照)の写真素材(以下「本件写真素材」という。)が収録されている。
(3)被告は、平成27年10月頃、同人誌イベントに出品する小説同人誌の裏表紙を作成するために、インターネットで「コーヒーを飲む男性」の画像を検索し、表示された本件写真素材のサンプル画像を参照して、イラスト(以下「本件イラスト」という。)を描き、別紙2(同128頁参照)のとおり、当該小説同人誌の裏表紙に掲載した。そして、被告は、同月1月18日、同人誌イベントに当該小説同人誌を出品して、50冊を販売した。
(4)ところが、被告は、平成28年7月、訴外人物からの指摘を受けて、本件写真素材が本件写真素材集CDに収録されていることを知った。そこで、被告は、訴外Aに対し、本件イラストの作成に際して、本件写真素材のサンプル画像を参照したことを謝罪し、使用料の支払を申し出る内容のメールを送付した。すると、訴外Aは、原告に連絡するよう指示した。そこで、被告は、原告に同趣旨のメールを送付した。
   上記の被告からの申出に対し、原告は、当初、損害賠償金として本件写真素材の販売価格(注:2万7000円)の20倍に当たる54万円の支払を求めた、その後、本件写真素材の販売価格とアートリファレンス料(構図や表現方法を参照して新たな作品を制作する際に、著作者から許可を取得する代行手数料)(注:3万2400円)の合計5万9400円の5倍である、29万7000円の支払を求めた。しかし、被告がこれに応じなかったため、原告は、本訴を提起した。


 【争点】

(1)本件写真素材は著作物に当たるか
(2)原告は本件写真素材の著作権者か
(3)被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したか
(4)著作権侵害による損害の有無及び額
   以下、上記についての、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、被告は、原告の請求が不法行為に当たるとして、9万2200円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める反訴を提起したが、棄却された(詳細は省略)。


【裁判所の判断】

 (1)争点(1)(本件写真素材は著作物に当たるか)について
 ア 写真は、被写体の選択・組合せ・配置・構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の協調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現であり、そこに撮影者等の個性が何らかの形で表れていれば創作性が認められ、著作物に当たるというべきである。
 イ 本件写真素材は、別紙1のとおり、右手にコーヒーカップを持ち、やや左にうつむきながらコーヒーカップを口元付近に保持している男性を被写体とし、被写体に左全面上方から光を当てつつ焦点を合わせ、背景の一部に柱や植物を取り入れながら、全体として白っぽくぼかすことで、赤色基調のシャツを着た被写体人物が自然と強調されたカラー写真であり、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現において撮影者の個性が表れているものといえる。
   したがって、本件写真素材は、上記の総合的表現を全体としてみれば創作性が認められ、著作物に当たる

(2)争点(3)(被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したか)について
 ア 原告は、被告が本件写真素材を原告に無断でトレースし、小説同人誌の裏表紙のイラストに使用して、当該小説同人誌を販売した行為は、原告の本件写真素材に係る著作権(複製権、本案件及び譲渡権)を侵害していると主張する。
 イ 複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照)、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解すべきである。
   また、翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解すべきである(最高裁平成13年6月28日判決参照)。
 ウ 本件イラストは、別紙2のとおり、A5版の小説同人誌の裏表紙にある3つのイラストスペースのうちの一つにおいて、ある人物が持つ雑誌の裏表紙として、2.6㎝四方のスペースに描かれている白黒のイラストであって、背景は無地の白ないし灰色となっており、薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の画面中央部を縦断して加入され、また、文字も加入されているものである。
 エ 前記(1)イで説示した本件写真素材の創作性を踏まえれば、本件写真素材の表現上の本質的特徴は、被写体の配置や構図、被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に認められる。
   一方、前記【事案の概要】(3)のとおり、本件イラストは本件写真素材に依拠して作成されているものの、本件イラストと本件写真素材を比較対照すると、両者が共通するのは、右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の、右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分のみである。
   他方、本件イラストと本件写真素材の相違点としては、
  a)本件イラストはわずか2.6㎝四方のスペースに描かれているにすぎないこともあって、本件写真素材における被写体と光線の関係(被写体に左全面上方から光を当てつつ焦点を合わせるなど)は表現されておらず、かえって、本件写真素材にはない薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入されている、
  b)本件イラストは白黒のイラストであることから、本件写真素材における色彩の配合は表現されていない、
     c)本件イラストはその背景が無地の白ないし灰色となっており、本件写真素材における被写体と背景のコントラスト(背景の一部に柱や植物を取り入れながら全体として白っぽくぼかすことで、赤色基調のシャツを着た被写体人物が自然と強調されているなど)は表現されていない、
   d)本件イラストは上記のとおり小さなスペースに描かれていることから、頭髪も全体が黒く塗られ、本件写真素材における被写体の頭髪の流れやそこへの光の当たり具合は再現されておらず、また、本件イラストには上記の薄い白い線が人物の顔面中央部を縦断して加入されていることから、鼻が完全に隠れ、口もほとんどが隠れており、本件写真素材における被写体の鼻や口は再現されておらず、さらに、本件イラストでは本件写真素材における被写体のシャツの柄も異なっている
こと等が認められる。
   これらの事実を踏まえると、本件イラストは、本件写真素材の総合的表現全体における表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係、色彩の配合、被写体と背景のコントラスト等)を備えているとはいえず、本件イラストは、本件写真素材の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない。
 オ したがって、本件イラストは、本件写真素材の複製にも翻案にも当たらず、被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したものとは認められない。
   なお、原告は、譲渡権侵害も主張するが、本件イラストが本件写真の複製及び翻案には当たらないため、本件イラストを掲載した小説同人誌を頒布しても譲渡権の侵害とはならない。

(3)争点(2)(原告は本件写真素材の著作権者か)について
   以上から、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求には理由が認められないが、以下、念のため争点(2)についても判断する。
 ア①原告は、平成19年5月17日、(住所は省略)在住のカメラマンとの間で、期間を1年とする撮影請負契約を締結した。同請負契約12条には、「乙(判決注:カメラマン)は本契約で撮影した作品の一切の権利を甲(判決注:原告)に譲渡する。」との記載がある(甲20)。
  ②本件写真素材は、原告の企画のもと、同年11月14日、(住所は省略)で撮影された(甲19)。
  ③原告は、同年頃、写真素材等を自ら又は販売代理店を通じて販売等するため、カメラマンやイラストレーター等著作者との間で、当該著作者から提供される著作物の第三者への使用許諾を含む非独占的使用許諾契約を締結することがあり、同契約では著作権は第三者に留保されていた(甲24,26、乙96)。
 イ 前記(1)イのとおり、本件写真素材は創作性を有しており、著作物に当たるところ、その創作性はカメラマンの撮影によって生じたものであるから、本件写真素材の著作権は、原始的には本件写真素材を撮影したカメラマンに帰属する。
   これに対し、原告は、本件写真素材を撮影したカメラマンと締結した請負契約書において、当該カメラマンが当該契約で撮影した作品の一切の権利を原告に譲渡する旨の規定があることにより、原告が当該カメラマンから著作権を含むすべての権利を譲渡されたことが明らかであると主張する。
   確かに、前記ア①のとおり、原告が(住所は省略)在住のカメラマンとの間で締結した請負契約書(甲20)には同趣旨の規定の存在が認められる。しかしながら、前記ア②のとおり、本件写真素材が撮影されたのは平成19年11月14日であるところ、上記カメラマンが同日に本件写真素材の撮影をしたことを示す証拠は何ら存在しない(なお、この点については、被告から年度も立証を求められたものの、原告から証拠が提出されなかったものである。)。
   一方で、前記ア③のとおり、原告は、本件写真素材の販売に当たっては、カメラマン等の著作者との間で非独占的使用許諾契約を締結することがあり、同契約では著作権は著作者に留保されていたものと認められる。そうすると、本件写真素材についても、著作権は著作者に留保され、原告は非独占的使用許諾のみを受けていた可能性も否定できず、原告が本件写真素材の著作権を有しているものと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
 ウ したがって、原告を本件写真素材の著作権者であると認めることはできず、これに反する原告の主張は採用できない。
   なお、一般に、非独占的使用権者は、使用許諾を受けた著作物に係る著作権の侵害者に対して、損害賠償を請求することはできないことを念のために付言する。

(4)結論
   以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却する。