東京地裁令和2年2月20日判決(コピライト710号30頁)

ログイン型SNSにおいて、当該ログイン状態を利用して投稿行為が行われたことの証明がなされていないことから、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求が認められなかった事例(確定)


【事案の概要】

(1)氏名不詳者は、別紙投稿記事目録記載1ないし5の各投稿日欄の日付において、同目録の各内容欄記載の写真(以下「本件各写真」という。)を含む記事をインターネット上のウェブサイトである「インスタグラム」に投稿した(以下、同目録の番号に合せて「本件投稿行為1」ないし「本件投稿5」といい、本件投稿行為1ないし5を併せて「本件各投稿行為」という。)。
   本件各写真は、複数の写真をつなぎ合わせる形で構成されているところ、本件各写真には、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の各写真が利用されている。

(2)本件各写真が投稿された上記ウェブサイト(以下「本件サイト」という。)に記事を投稿するためには、予めユーザ名及びパスワード等を登録してアカウントを作成し、登録したユーザ名及びパスワードを用いてアカウントにログインする必要がある。
   本件各投稿行為は、いずれも「○○」というユーザ名のアカウント(以下「本件アカウント」という。)にログインした状態でなされた。

(3)本件サイトにおいては、あるアカウントに複数の者が同時にログインすることが可能であり、当該アカウントに対し複数のアクセス元からのログインが併存し得る。

(4)原告は、本件サイトを運営する訴外フェイスブック・インクから、本件アカウントへログインするための情報が発信された発信日時及び発信元のIPアドレスの開示を受けたところ、その内容は別紙発信者情報目録1(1)ないし(13)のとおりであった(以下、同目録記載1(1)ないし(13)で特定される各ログインを併せて「本件各ログイン」という。)。

(5)原告は、経由プロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、本件各写真の投稿に用いられたアカウント同一のアカウントへのログインに用いられた別紙発信者情報目録1の各IPアドレス(以下「本件各IPアドレス」という。)を同目録記載1の発信日時頃に割り当てられていた者に係る同目録記載2の情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を求めた。
   なお、被告は、本件各発信者情報を保有している。


【争点】

(1)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項柱書)に当たるか否か(争点1)
(2)被告が「開示関係役務提供者」に該当するか(争点2)
(3)権利侵害の明白性(争点3)
(4)本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点4)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、争点1についての各当事者の主張は、概要、以下のとおりである。
  (原告の主張)
   「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、問題となっている情報を現実に発信した際に把握される発信者情報に限定されるべきではなく、不法行為に基づく損害賠償責任等を負う者に関する情報が含まれる。なぜなら、上記の解釈を行わない限り、各投稿時の情報を保存しない本件サイトのようなログイン型SNSにおいては他人の権利を侵害した者を特定することが不可能となり、被害者の当該加害者に対する正当な権利行為の可能性が絶たれるからである。
   本件各投稿行為をした者と本件アカウントへログインした者は同一人物である。また、仮に、別人であったとしても、本件アカウントにログインした者は、本件アカウントの管理運営について密接な関連性があり、本件各投稿行為をした際の事情を把握していると考えられる以上、本件各投稿行為について損害賠償責任等を負う者といえ、本件各発信者情報は、そのような者に係る情報である以上、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。
  (被告の主張)
   法が、発信者情報の開示請求権を創設した反面、発信者のプライバシーや表現の自由、通信の秘密等に配慮し、その権利行使の要件として権利侵害の明白正等の厳格な要件を定めた趣旨や、法4条1項の文言に照らすと、開示請求の対象は、開示請求者の権利を侵害したとする情報の発信者についての情報に限られると解すべきであり、権利侵害情報でない情報の発信(以下「非侵害発信」という。)に係る者の情報は、これが開示されることにより、侵害情報の発信者が特定される可能性があるとしても、発信者情報開示請求の対象にならないと解すべきである。
   そして、本件アカウントへのログインの際の情報の発信は非侵害発信であり、この発信に係る者の情報は、発信者情報開示請求の対象にならないと解すべきである。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項柱書)に当たるか否か)について
 ア 原告が開示を求める本件各発信者情報が本件アカウントへのログインの際のものであるとしても、当該ログインからログアウトまでの機会に当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われたことの証明がなされているといえる場合には、本件アカウントへのログインの際の情報は法4条1項柱書に規定する「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解するのが相当である。なぜなら、当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われたことの証明があった場合には、当該ログインに係る情報を「当該権利の侵害に係る発信者情報」と解することに文理上の障害はなく、また、かかる解釈は、権利の侵害を受けた者の正当な権利の行使を可能にするという立法趣旨にも合致するからである。
 イ そこで、本件ログイン(1)ないし(13)につき、当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われたことの証明がなされているか否かを以下検討する。
  a)本件ログイン(1)ないし(3)は、本件各投稿行為より時間的に後になされたものであり、当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われるということはそもそも不可能である。
  b)本件ログイン(4)ないし(13)は、本件各投稿行為より時間的に先行してなされているから、当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われた可能性は認められる。
   しかしながら、上記各ログインに関しても、本件サイトにおいては、同一のアカウントに対し、複数の端末からのログイン状態の併存が可能であることからすれば、いずれのログイン状態を利用して本件各投稿行為がなされたのか不明であり、ひいては、当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われたと認めるには至らないといわざるを得ない。
   また、本件においては、本件各投稿行為がなされた日からさかのぼって36日間(本件投稿行為1の場合)ないし46日間(本件投稿行為2の場合)の期間内に、本件ログイン (4)ないし(13)のとおり、複数のIPアドレスによるログインがあるものであって、投稿行為に用いられたアカウントに、投稿日から過去にさかのぼる相応の期間、唯一特定のIPアドレスによるログインしかなかったというような場合に当たるものでもない。
   これらによれば、本件各ログインの発信元のIPアドレス(本件各IPアドレス)相互の関係が証拠上不明であることを考慮するまでもなく、本件は、上記アで説示した場合には当たらないというほかない。
  c)以上からすれば、本件ログイン(1)ないし(13)につき、当該ログイン状態を利用して本件各投稿行為が行われたことの証明がなされているとはいえない。
   したがって、本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるとは認められないというべきである。

(2)結論
   その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない(請求棄却)。


 

東京高裁平成31年1月23日判決(判例時報2423号29頁)

アカウントへログインしたユーザーがログアウトするまでの間に記事を投稿しものとまでは認められないとして、ログイン情報の開示を認めなかった事例(確定)


【事案の概要】

(1)控訴人(1審原告)は、現在、Aという芸名で芸能活動をしている女子高生である。
   被控訴人(1審被告)は、電気通信事業を営む株式会社であり、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)2条3項の特定電気通信役務提供者に当たる。

(2)平成29年8月20日午前1時12分、被告を経由プロバイダとしながら、ツイッター内の別紙アカウント目録(略)記載のアカウント(以下「本件アカウント」という。)へログイン(以下「本件ログイン」という。)をした者がいる。
   控訴人の端末に表示されていた平成29年8月20日頃(控訴人の所有する端末に表示された投稿日時は午後2時21分及び午後5時4分)、本件アカウントへ「整形」という記載等を含む別紙投稿記事目録(略)記載の各記事(以下「本件各記事」という。)を投稿した者がいる。

(3)本件アカウントには、平成29年8月17日以降、本件各記事が投稿される前までに11回のログインがされており、その経過は別紙「ログイン状況」(略)記載のとおりである。本件各記事が投稿される直近のログイン(⑪)が被控訴人を経由したログインである。
   上記11回のログインのうち、7回(④ないし⑩)は被控訴人以外のプロバイダ(NTTドコモ)を経由したログインであり、いずれも本件ログインの前24時間以内(グリニッジ標準時の平成29年8月19日)にされていた。なお、本件各記事の投稿は、控訴人の主張を前提とすると、本件ログインから約13時間ないし16時間が経過した後にされたことになる。
  他方、本件ログインを含むその他の4回(①ないし③、⑪)は、いずれも被控訴人を経由してログインがされていた。

(4)本件各記事が投稿された後、控訴人は、自己のツイッターのアカウントにおいて本件アカウントをブロックしたところ(ブロックしたアカウントからは控訴人をフォローできなくなる)、本件アカウントに「(略)」などとの記載がなされた。
   その後、本件カウントは閉鎖されているが、本件アカウントでは、平成29年10月頃までに、少なくとも196件のツイートがされており、同月頃にされたツイートの内容は、本件各記事との関連性は認められない(甲10。なお、被控訴人は、甲第10号証のアカウントと本件アカウントが別のアカウントである可能性を指摘したが、本件アカウントのユーザー名(ID)は複雑なものであり、別人が使用するとは考えにくいこと、共に2017年8月に登録とされているところ、同一名では別の者が同時に登録できないことなどから、採用されなかった。)。

(5)控訴人(1審原告)は、氏名不詳者によるツイッターへの投稿により、名誉が毀損され、プライバシーを侵害されたことが明らかであると主張し、被控訴人(1審被告)に対し、法4条1項に基づき、本件ログインをした者の氏名又は名称等、別紙発信者情報目録(略)記載の各情報(以下「本件ログイン情報」という。)の開示を求めた。
   原審は、本件ログイン情報は、法4条1項の発信者情報に当たらないと判断して、控訴人の請求を棄却したため、控訴人が控訴した。


 【争点】

(1)権利侵害の明白性の有無(争点①)
(2)開示の正当理由の有無(争点②)
(3)被控訴人(1審被告)の開示関係役務提供者性(争点③)
(4)控訴人が開示を求める情報(注:原審のいう「本件ログイン情報」)の発信者情報該当性(争点④)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、原審は、争点④に関し、以下のとおり判示した。
 ア 発信者情報の開示請求権について定めた法4条1項の趣旨は、特定電気通信による権利侵害情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者に、権利侵害情報を流通させた発信者に関する情報の開示請求権を、開示関係役務提供者に対するものとして認め、権利を侵害されたとする者の利益を保護する一方で、その権利行使に際しては、権利侵害の明白性等の厳格な要件の充足を求め、憲法上保障されている発信者の通信の秘密等の利益保護に十分な配慮をする点にあると解される。
   よって、同項に基づく開示請求の対象は、開示請求者の権利を侵害したとする情報の発信者の情報に限られると解するのが相当である。この解釈は、同項但書きの「当該権利の侵害に係る発信者情報」という文理にも合致する。
 イ 原告(注:控訴人。以下同じ。)は、ツイッターの場合、ログイン時のIPアドレスしか記録されないから、ログイン情報を発信者情報に含めないと、ツイッターへの投稿で権利を侵害されても、一切、発信者情報の開示を請求し得ないことになり、不当である旨主張する。
   しかし、ログイン情報を発信者情報と解し得る規定は、法4条や同条1項が委任する特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条1項の発信者情報を定める省令の中に見いだせないのであって、原告が法令に定めのない発信者情報の開示請求権を有すると解することもできない以上、立法による解決を待つしかないというべきである。
   原告の前記主張は、採用することができない。


【裁判所の判断】

(1)争点④(控訴人が開示を求める情報の発信者情報該当性)について
 ア 控訴人は、法が権利を侵害された被害者の救済の目的で制定された経緯、法4条やその委任する省令において発信者情報としてログイン情報を除くという規定がないことに照らせば、発信者情報にはログイン情報も含まれると解すべきである旨主張する。
   これに対し、被控訴人は、4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」は、開示請求権者の権利を侵害したとする通信の過程において把握される発信者情報に限定されるべきであり、控訴人が開示を求める情報は、これと異なり本件ログインの際のものであるから、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないと主張する。
   この点、法4条1項の文言上、開示の対象となるのは、「権利の侵害に係る発信者情報」である。
   しかし、例えば、権利の侵害に係る投稿の前に、ログインが一つしかないなど、当該ログインを行ったユーザーがログアウトするまでの間に当該投稿をしたと認定できるような場合には、当該ログインに係る情報を発信者情報と解することは妨げられるものではなく、発信者のプライバシー等の利益を考慮し、一定の厳格な要件のもと、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者の救済を図る法の趣旨に照らせば、そのようなログインに係る情報も、法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得ると解される。
 イ そこで、本件各記事の投稿について、本件ログインを行ったユーザーが、本件アカウントからログアウトするまでの間に行ったものであると認められるか否かについて検討する。
  a)控訴人は、本件アカウントの投稿は、一貫して控訴人が整形していることについて言及していることや、まとまった時間に投稿されていることに照らせば、複数人がアカウントを共有して投稿しているというというよりも、個人が投稿していると言える旨主張する。しかし、
  ・本件アカウントの名称は、「〇〇応援隊」という、複数のユーザーにより共有されていることと矛盾しないものであること
  ・本件アカウントには、少なくとも7件の投稿(ツイート)が行われているが、本件各記事が投稿された前後にどのような投稿がされていたかは証拠上明らかでないこと
  ・平成29年8月17日以降、本件アカウントには、本件各記事の投稿がされるまでに11回のログインがあり、そのうち4回は被控訴人を経由するものであるが、7回は被控訴人以外のプロバイダを経由してされていること
に照らせば、本件アカウントが複数のユーザーの共有である可能性もあるところである。
   また、上記いずれのログインについても、対応するログアウトの日時は明らかではなく、ツイッターでは、フォローしているアカウントのツイートを閲覧するなどのため長時間投稿をせずにログイン状態が継続していることも想定されることからすれば、本件ログインより以前になされたログインによって、本件各記事の投稿が行われた可能性も十分にあるということができる。
  b)また、控訴人は、直近にログインした端末から投稿するのが自然である旨主張する。
   しかし、本件ログインが行われたのは、平成29年8月20日午前1時12分であるところ、本件各記事が投稿されたのは、同日午後2時21分、午後5時4分であって、本件ログインの13時間ないし16時間も後にされたものであり、ログインと投稿の連続性を認められるほど時間的な近接性がなく、そもそも上記のとおり長時間ログイン状態を継続していることも想定されるのであるから、必ずしも本件各記事の投稿が本件ログインによりされたことを裏付ける事情になるものではない。
  c)更に、本件各記事の投稿後も、平成29年10月頃までに、本件アカウントには合わせて196件のツイートがされ、投稿には控訴人の容姿の変化に関するものとは無関係なものも含まれていることに照らせば、本件各記事の投稿時点でも、本件アカウントに本件各記事を投稿したユーザーとは別のユーザーが存在した可能性を排斥することはできない。
  d)よって、本件各記事の投稿は、本件ログインを行ったユーザーが、本件アカウントからログアウトするまでの間に行ったものであるとまで認めることはできない。
  e)なお、本件各記事の投稿をした者以外の者のIPアドレスに係る住所、氏名等の個人情報を開示した場合には、その者の通信の秘密を侵害する結果を招くことに鑑みれば、開示を求める情報が法4条1項に規定する権利の侵害に係る情報に該当するか否かは、慎重な検討が求められると解され、別のユーザーにより投稿された可能性が一定程度存する以上、開示が認められない場合があっても、やむを得ないというべきである。
 ウ 以上によれば、控訴人が開示を求める本件ログインに係る情報が、法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」ということはできない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求には理由がない。

(2)結論
   控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない(控訴棄却)。


 

東京高裁平成30年6月13日判決(判例時報2418号3頁)

侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報でも、当該侵害情報の発信者のものと認められるのならば、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」にあたると判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)控訴人(1審被告)は、宗教法人であるAの代表役員であり、Xという通称を使用して書籍の出版等の活動を行っている者である。
   一方で、控訴人は、自ら、ツイッター上に、アカウント名を「X(本名x)、ユーザー名を「@〇〇」、プロフィールを「本名、x。△年生まれ。スピリチャル研究家にして、事業家、教育者、(中略)など、多彩な顔を持つ。Xは神霊家としての名前(中略)書籍も多数。」などとし、顔写真を掲載したアカウントを開設して、使用している。このアカウント(以下「控訴人アカウント」という。)は、平成23年5月に開設された。

(2)被控訴人は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)2条3項所定の特定電気通信役務提供者(特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者)である。

(3)ツイッター上に、氏名不詳者により、アカウント名を「X」、ユーザー名を「@●●」、プロフィールを「Xのプライベートアカウントです。(以下略)」とし、上記(1)と同じ顔写真を掲載したアカウントが開設されている(以下、このアカウントを「本件アカウント」、本件アカウント内にある控訴人の通称名を使用したアカウント名、プロフィール及び上記顔写真を「本件プロフィール等」といい、本件プロフィール等を投稿した者を「本件発信者」という。)。本件アカウントは、平成27年12月に開設された。

(4)控訴人は、ツイッターの運営会社であるツイッター・インク.(米国法人。以下「ツイッター社」という。)を相手方として、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプのうち、平成27年12月以降のもので、ツイッター社が保有するもの全てについて、仮の開示を求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てたところ、同裁判所は、平成29年4月12日、その旨の仮処分決定をした。

(5)ツイッター社は、平成29年4月20日、上記(4)の仮処分に基づき、控訴人に対し、IPアドレス及びタイムスタンプを開示した(以下、これらのうち別紙発信者情報目録(略)中の「(別紙)IPアドレス・タイムスタンプ目録」に記載されたものを、ぞれぞれ、「本件IPアドレス」、「本件タイムスタンプ」といい、これらを併せて「本件IPアドレス等」という。)。
   本件IPアドレスは、被控訴人が保有するものである。すなわち、本え件タイムスタンプの年月日及び時刻(日本時間で平成29年1月28日午前3時10分17秒から同年3月28日午前零時48分46秒まで)に、被控訴人の提供するインターネットサービスにより本件IPアドレスが割り当てられて、電気通信の送信がされたことになる。

(6)控訴人が、本訴を提起して、法4条1項に基づき、本件発信者の氏名又は名称及び住所の開示を求めたところ、原判決(東京地裁平成29年11月24日判決。判例時報2418号7頁)は、以下に引用するとおり述べて、原告の請求を棄却した。
   「法の定めの趣旨に鑑みると、法4条1項所定の発信者情報開示請求の要件は厳格に解すべきであり、『当該特定電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者』(開示関係役務提供者)に当たるというためには、当該特定電気通信役務提供者が用いる特定電気通信設備が当該侵害情報の流通に供されたことが必要であるというべきである。
   これを本件についてみると、本件各送信は、原告の主張する侵害情報である本件投稿の後にログインされたものであることが明らかであるから、被告の管理する特定電気通信設備が当該侵害情報の流通に供されたとはおよそ認め難く、被告を本件投稿との関係で『開示関係役務提供者』であると認める余地はないといわざるを得ない。」


 【争点】

(1)被控訴人が控訴人の権利の侵害に係る発信者情報を保有しているといえるか
(2)本件プロフィール等によって被控訴人の権利が侵害されたことが明らかといえるか
(3)上記(1)の発信者情報が控訴人の損害賠償請求権の行使のために必要である又は上記発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか
   以下、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、被控訴人は、上記(1)に関して以下のとおり主張した。
   ログイン情報にすぎない本件IPアドレスが割り当てられた電気通信の送信に係る契約者情報は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」には当たらない。
   ツイッターによるログイン型投稿について、当該侵害情報の流通に供された送信の保有がなく、これが特定できないことから、発信者情報の開示に至らないとしても、それは、ツイッターという一つのサービスの仕組みに関する問題にすぎない。


【裁判所の判断】

(1)被控訴人が控訴人の権利の侵害に係る発信者情報を保有しているといえるか
 ア まず、本件IPアドレス等は、本件アカウントにログインした(ログイン情報を送信した)際に割り当てられたものであり、本件プロフィール等の侵害情報そのものを現実に送信した際に割り当てられたものではない。
   この点について、被控訴人は、ログイン情報の送信に係る契約者情報は、法4条1項所定の発信者情報には当たらない旨主張する。
   しかし、
  ①ツイッターの仕組みは、設定されたアカウントにログインし(ログイン情報の送信)、ログインされた状態で投稿する(侵害情報の送信)、というものであり、侵害情報の送信にログイン情報の送信が不可欠となること、
  ②法4条1項は、「侵害情報の発信者情報」と規定するのではなく、「権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅をもって規定しており、侵害情報そのものから把握される発信者情報だけではなく、侵害情報について把握される発信者情報であれば、これを開示することも許容されると解されることに照らせば、
ログイン情報を送信した際に把握される発信者情報であっても、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得るというべきである。
   被控訴人の上記主張は、採用することができない。
 イ 次に、本件IPアドレス等は、侵害情報である本件プロフィール等の投稿の後に割り当てられたものであり、本件プロフィール等の投稿の前に割り当てられたものではない。
   そこで検討すると、法4条1項は、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の事由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となるため、発信者情報の開示請求について、厳格な要件を定めているものと解されるから、法4条1項の発信者情報をたやすく拡張して解釈することは相当でない。
   しかし、上記のとおり、法4条1項は、侵害情報そのものから把握される発信者情報でなくても、侵害情報について把握される発信者情報であれば、これを開示の対象とすることも許容されると解される。
   そして、侵害情報そのものの送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、当該発信者情報の発信者のものと認められるのであれば、その開示は不当ではないと解されるし、
   また、開示対象となる発信者情報は、本件省令(注:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条1項の発信者情報を定める省令。なお、本件省令1号及び2号は、「発信者その他の侵害情報の送信に係る者」を開示対象として規定している。)で定められるものに限定列挙されており、いたずらに拡大されないように定められている。
   このことに、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るという法4条の趣旨(最高裁平成22年4月8日判決)に照らすと、
侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、当該侵害情報の発信者のものと認められるのであれば、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得ると解するのが相当である。
 ウ そこで続いて、本件IPアドレスから把握される発信者情報が、侵害情報である本件プロフィール等の投稿者のものと認められるか否かを検討する。
   この点、本件アカウントは平成27年12月に開設されたものであるのに対し、本件IPアドレス等は、上記開設時から1年以上も後の平成29年1月28日から同年3月28日まで(日本時間)のものであること、被控訴人の保有する本件IPアドレス等は、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプの一部に過ぎず、本件IPアドレス以外にも、相当数、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプが存在することが認められる。
   しかし、一般に、同一人が、複数のプロバイダからのIPアドレスを割り当てられながら、1年以上同じアカウントにログインを続けることは、珍しいことではない。そして、上記のとおり、ツイッターの仕組みは、設定されたアカウントにログインし(ログイン情報の送信)、ログインされた状態で投稿する(侵害情報の送信)というものであるから、時的な先後関係にかかわらず、ログイン等と投稿者は同一である蓋然性が高いことが認められる。
   一方、本件アカウントは、後記(2)のとおり、控訴人本人になりすました本件プロフィール等をトップページに表示し続けながら、ツイートを非公開として使用されてきたもので、法人が営業用に用いるなど複数名でアカウントを共有しているとか、アカウント使用者が変更されたとか、上記の同一性を妨げるような事情は何ら認められない。
   このような事実からすると、本件IPアドレスを割り当てられてログインした者は、本件プロフィール等を投稿した者と推定するのが相当であるから、本件IPアドレス等から把握される発信者情報は、侵害情報である本件プロフィール等の投稿者のものと認めるのが相当である。
 エ そうすると、被控訴人は、控訴人の権利の侵害に係る発信者情報を保有しているということができる。

(2)本件プロフィール等によって被控訴人の権利が侵害されたことが明らかといえるか
   本件プロフィール等は、控訴人アカウントとは別に、控訴人の通称のほか、控訴人アカウントに掲載されているものと同じ顔写真を使用し、しかも、「Xのプライベートアカウントです。(以下略)」などと、あたかも、控訴人アカウントを公的なもの、本件アカウントを私的なものとして、いずれも控訴人が自ら開設したものであるかのように装っているものであると認められる。
   このような事実関係からすると、本件プロフィール等によって、控訴人の権利が侵害されていることは明らかというべきである。

(3)上記(1)の発信者情報が控訴人の損害賠償請求権の行使のために必要である又は上記発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか
   控訴人は、本件発信者に対する人格権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の準備をしていると認められるから、そのために上記(1)の発信者情報が必要なことは明らかである。

(4)結論
   原判決を取り消した上、控訴人の請求を認容する(請求認容)。