大阪高裁平成30年1月26日判決(自保ジャーナル2020号58頁、判例タイムズ1454号48頁)

事故直後の救急隊員に対する説明等から、被告供述の信用性を否定して、被害者が、被告の運転する車両を避けようとして転倒した事実を認めた事例(確定)

【事案の概要】

  発生日時 平成24年10月23日午後4時10分頃
発生場所 兵庫県芦屋市路上
  関係車両 被控訴人(被告)Aが所有し、被控訴人(被告)B(昭和11年生)(以下「被告B」という。)運転の普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)
  被害者  C(昭和8年3月生)
  事故態様 Cは、道路を北から南に向けて歩行し、被告Bは、Cの進行方向の交差点(以下「本件交差点」という。)を東側から北側に右折進行した。Cは、本件交差点の北側道路上で、頭部に出血がある状態で発見された(以下「本件事故」という。なお、本件車両とCとの接触の有無などについては争いがある。)。Cは、上記発生日時の翌日、急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡した。
  控訴人(原告)(以下「原告」という。)は、Cの唯一の相続人である。

【争点】

(1)本件事故の態様
  (原告の主張)
   被告Bは、本件車両を運転して、本件交差点を右折するに当たり、歩行者であるCの身体に本件車両の右ドアミラーを衝突させ、Cを路上に転倒させた。このことは、本件車両の右ドアミラーが屈折しており、Cの胸部に皮下出血があることから明らかである。
   仮に衝突させていないとしても、被告BがCに近接した地点で本件車両を走行したため、これに動転して避けようとしたCを路上に転倒させた。
   以上のとおり、Cの転倒は被告Bの本件車両の走行によって引き起こされたものであり、その結果、Cは、民家の石垣に頭部を打ち付けて負傷し、死亡するに至った。
  (被告らの主張)
   本件車両の右側面に擦過痕・払拭痕がないことや微物の付着がないこと、本件車両の右ドアミラーとCに生じた皮下出血の位置には高低差があることから、本件車両がCに接触(衝突)していないことは明らかである。
   被告Bは、本件車両を運転して、本件交差点を右折する際、一時停止して、左方、前方及び右方の順に安全を確認して、右方に歩行者がいなかったことから、本件交差点を徐行して進行した。本件車両がCの身体に接触した事実やCに近接した地点を走行した事実はない。
   Cは、何らかの体調不良により顔面を電柱等にぶつけた後、後ろに転倒したため本件事故が発生したものであり、Cの転倒は被告Bの本件車両の走行によって引き起こされたものではない。

(2)被告Bの不法行為の有無
  (原告の主張)
   被告Bは、Cに本件車両を衝突させ、仮に衝突させていないとしても、Cに近接した地点で本件車両を走行して動転させることにより、本件事故を発生させた。
  (被告らの主張)
   被告Bは、本件交差点を右折する際、交差点手前で一時停止をして進行方向の安全を十分に確認し、歩行者であるCに危害を及ぼさないような速度及び方法で運転していたから、原告主張の注意義務違反はない。

(3)損害の額 略

【裁判所の判断】

(1)本件事故の態様
 ア 衝突の有無
   本件事故当日の実況見分で撮影された写真によれば、本件車両の右ドアミラーがやや内側に屈曲していたことが認められることから、右ドアミラーがCに衝突(接触)した可能性は否定できない。他方、上記実況見分では、本件車両の右ドアミラーに擦過痕や払拭痕は認められない。また、本件事故から約5ヶ月後に実施された微物検査では、本件車両からCの着衣等と同種の繊維片が検出されなかった。よって、右ドアミラーの上記屈曲状態をもって、直ちに本件車両がCに衝突したと認めることはできない。
   また、Cの死体解剖において、胸部正中やや右側に0.5㎝大から4×2㎝大の皮下出血が認められたところ、証拠(略)には、上記皮下出血は相当強い力で打撲を受けた結果であり、本件車両の右ドアミラーの衝突以外には考えられない旨の部分がある。しかし、証拠(略)には、右ドアミラーの地上高が93㎝ないし107㎝であるのに対し、上記皮下出血部位の足元からの高さが約119㎝であって、両者の間で約10㎝以上の高さの違いがあるので、衝突したとすればかなり不自然な姿勢となる旨の指摘がある。また、本件車両の損傷はそう大きくないことに加え、上記のとおり、本件事故直後に本件車両の右ドアミラーには擦過痕、払拭痕や微物も認められなかったのであるから、上記証拠(略)のうち相当な力をもって衝突した旨の上記指摘には、疑問が残る。
   以上によれば、上記証拠(略)は採用できず,原告の衝突に係る主張は採用することができない。

 イ 本件車両を避けようとして転倒した事実の有無
   被告らは、
  ・被告Bが本件交差点を右折する際、原判決別紙交通事故現場見取図(以下「見取図」という。)①地点より少し前に出た地点で一時停止して、交差点右方に歩行者等がいなかったことから(以下「主張1」という。)、
  ・見取図②、③の各地点を走行し、見取図④地点に至るまでの間に右ドアミラーを通してCを視認した(以下「主張2」という。)
旨主張し、これに沿う被告Bの供述調書がある。
   しかし、上記被告Bの供述中、
  ・主張1については、被告Bは、本件交差点を右折するに際し、本件交差点北側の横断歩道上及び北側道路の方向を良好に見通すことができたことや、Cが現に本件事故現場にいたことと整合しない。そうすると、被告Bは、Cが現場におりCを見たにもかかわらず見なかった旨虚偽の供述をしているか、あるいは、Cの動向を十分に注意していなかったため気付かなかったものというべきである。
  ・主張2については、被告Bが、本件事故直後に救急隊員に対して「自動車で西進右折しようとしたところ、男の方が避けようとして転倒、その際、家の石垣で頭を打ちつけました。」と説明したことや、本件事故当日の実況見分において、見取図②地点で、見取図【ア】地点(注:同②地点から右方に3.3mの地点)にいるCを見た旨の指示説明をしていることと整合しないから、信用できない。
   そして、本件車両は、ハンドル操作の仕方によっては、本件交差点を右折するに当たって、見取図②地点よりもかなり右側の地点(同【ア】地点に近接した地点)を走行することが可能であり、かつ、当該走行方法は、被告Bの救急隊員に対する上記説明と整合する。そうすると、見取図②地点を走行していた旨の実況見分における被告Bの指示説明には大いに疑問がある。
   また、Cは、(仮に見取図【ア】地点で転倒していたとしても、)本件車両との衝突を避けようとして転倒したことからすれば、本件事故前には転倒地点である見取図【ア】地点よりも本件車両寄りにいたものと推認される。
   以上から、被告Bは、本件車両を運転して、本件交差点を右折して走行したが、交差点北側の横断歩道上又はその付近にいたCに近接した地点を走行したため、Cがこれを避けようとして転倒して、民家の外壁の石垣に後頭部を打ち付けて負傷し、その結果、急性硬膜下出血及び外傷性くも膜下出血により死亡したと認められる。

(2)被告Bの不法行為の有無
   上記(1)イで判断したとおり、被告Bは、少なくとも本件交差点北側の横断歩道上又はその付近にいたCに気付かないまま右折して、Cに近接した地点を走行したため、これを避けようとしたCを転倒させ、本件事故を発生させてCを死亡させたものである。
   したがって、被告Bには、C相続人である原告に対し、民法709条に基づき損害を賠償する責任がある。そして、本件車両の所有者である被告Aにも、自賠法3条1項に基づき、被告Bと連帯して、上記損害を賠償する責任がある。

(3)損害の額 略