東京高裁平成30年4月25日判決(判例時報2416号34頁)

車両保険金は、まず物的損害の全体のうち被害者の過失割合に相当する部分に充当され、その残額が加害者の過失割合に相当する部分に充当される旨判示した事例(一部変更)


【事案の概要】

  以下、【事案の概要】においては、「上告人」を「控訴人」と、「被上告人」を「被控訴人」と称する。

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平27年4月2日午前10時頃
 イ 発生場所 東京都目黒区〇〇先路上
   首都高速中央環状線内回りの本線(大井方面行き)から高速3号渋谷線(東名方面行き)に接続する車線が分かれる分岐点(ゼブラゾーンが始まる位置。以下「本件分岐点」という。)付近
 ウ 控訴人車 控訴人X1が運転し所有する普通乗用自動車
 エ 被控訴人車 被控訴人会社が所有し被控訴人Y1が運転する中型貨物自動車
 オ 事故態様 控訴人車が首都高速中央環状線内回りの本線2車線中の第2車線(以下、単に「本線」という。)から高速3号渋谷線に接続する分岐車線(第1審判決別紙図面の斜線部分。以下、単に「分岐車線」という。)に進路変更したところ、控訴人車の後方で本線から分岐車線に進路変更した被控訴人車の左前角付近と、控訴人車の右後角付近が接触した。

(2)控訴人X2は、控訴人X1との間で、被保険者を控訴人X1、被保険自動車を控訴人車、保険金額を30万円とする自動車保険契約を締結しており、平成28年11月4日、同契約に基づく車両保険金として、本件事故による控訴人車の修理費用として28万9200円を支払った。

(3)被控訴人Y2は、被控訴人会社との間で、被保険者を被控訴人会社、被保険自動車を被控訴人車とする自動車保険契約(以下「本件契約」という。)を締結しており、平成27年7月1日、同契約に基づく車両保険金として、本件事故による控訴人車の修理費用77万8850円(免責分10万円を控除した額)を支払った。
   なお、本件契約に適用される普通保険約款中の代位に係る規定において、被上告人Y3に移転せずに被保険者又は保険金請求権者が引き続き有する債権は、被上告人Y3に移転した債権よりも優先して弁済されるものとする旨が定められている。

(4)原審の争点は、以下のとおりであった。
 ア 本件事故の態様と双方の過失の有無及び割合(争点1)
 イ 控訴人X1の損害(争点2)
 ウ 被控訴人会社の損害(争点3)
   原審は、争点1につき、双方の過失割合を、控訴人側7割、被控訴人側3割と判断した。
   また、原審は、争点2につき、控訴人X1の損害(車両損)を41万0550円であり、これに7割の過失相殺(△28万7385円)をすると12万3165円となると判示した上で、前記(2)のとおり、控訴人X2が車両保険金として28万9200円を支払済みであるが、そのうち28万7385円は控訴人X1の損害のうち過失相殺分の填補に充てられるから、控訴人X1が請求できる額は、41万0550円であり(過失相殺分28万7385円を含む。)から28万9200円を控除した12万1350円となり、控訴人X2の代位取得額は12万3165円から12万1350円を控除した1815円となると判示した(以上については、原審判決が確定した。)。
   他方、原審は、争点3につき、被控訴人会社の損害を、①修理費用87万8850円、②休業損害11万7988円の合計99万6838円であり、これに3割の過失相殺をすると、69万7787円(修理費用61万5195円、休業損害8万2592円)となると判示した上で、前記(3)のとおり、被控訴人Y3が車両保険金として上記修理費用から免責分10万円を控除した77万8850円を支払済みであるから、被控訴人会社が請求できる額は、修理費用のうち損害の填補がされていない10万円と過失相殺後の休車損害8万2592円の合計18万2592円となり、被控訴人Y3は、過失相殺後の修理費用61万5195円から免責分10万円を控除した51万5195円の限度で、被控訴人会社の控訴人X1に対する損害賠償請求権を代位取得したことになると判示した。


【争点】

   被上告人Y3による損害賠償請求権の代位取得の範囲  
   以下、上記の争点(以下「本件争点」という。)に関する、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、原判決の争点3に関し、被上告人(被控訴人)会社が請求できる額については、争われていない。


【裁判所の判断】

1 本件争点に関する原審の判断は、是認することができない。その理由は、以下のとおりである。

(1)交通事故の被害者が損害保険会社との間で締結した自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、特段の事情がない限り、交通事故によって生じた当該自動車に関する損害賠償請求権全体を対象として支払われるものと解するのが、当事者の意思に合致し、被害者の救済の見地からも相当である。
よって、車両損害保険条項に基づいて支払われた車両損害保険金は、当該交通事故に係る物的損害の全体を填補するものと解するのが相当である。

(2)本件事故においては、被上告人車に係る①修理費用87万8850円、②休業損害11万7988円の合計99万6838円が、被上告人車に関して被害者である被上告人会社が被った物的損害である。
   よって、被上告人Y3が支払った保険金は、これらの物的損害の全体を填補するものであるというべきである。

(3)そして、本件保険契約の被保険者である被上告人会社に本件事故の発生について過失がある場合には、車両損害保険条項に基づき、被保険者が被った損害に対して保険金を支払った被上告人Y3は、被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)が保険金請求権者に確保されるように、支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が、裁判基準損害額を上回るときに限り、その上回る部分に相当する額の範囲で、保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である(最高裁平成24年2月20日判決、同平成24年5月29日判決参照)。

(4)そうすると、過失相殺がされる場合には、被害者に支払われた保険金は、まず損害額のうち被害者の過失割合に相当する部分に充当され、その残額が加害者の過失割合に相当する部分に充当される(いわゆる裁判基準差額説)。  
   本件において、被上告人Y3が支払った車両保険金77万8850円は、被保険者である被上告人会社が被った過失相殺前の損害額99万6838円の、被上告人会社側の過失割合である3割に相当する29万9051円(99万6838円×0.3)にまず充当され、これを控除した残額である47万9799円(77万8850円―29万9051円)が、加害者の過失割合に相当する部分に充当される。
   結局、被上告人Y3は、被上告人会社に代位して、上告人X1に対し、47万9799円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることができるものである。

(5)したがって、原判決は、被上告人Y3が上告人X1に対して請求することができる金額を過大に算定しているから、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 2 結論
   以上のとおり、上告人X1の論旨には理由がある。そこで、以上に説示したところに従い、原判決中X1及び被上告人Y3に関する部分を、前記1(4)のとおり変更する(一部変更。なお、原判決中X1及び被上告人会社に関する部分は、変更されていない。)。