大阪地裁平成30年9月12日判決(労働判例1203号44頁)

パナソニックアドバンステクノロジー事件(控訴中)


【事案の概要】

(1)被告は、コンピュータ関連システム及びソフトウェアの研究・開発・製造・販売等を目的とする株式会社である。
   原告は、昭和63年4月1 日、被告に入社し、被告においてソフトウェアの設計・開発等の業務に従事していた。

(2)原告は、被告に入社して以降、被告とユニオンショップ協定を結んでいるP労働組合に加入しているが、平成24年4月25日、企業外労働組合である電気・情報ユニオン(以下「本件組合」という。)に加入した。

(3)被告は、平成25年5月13日、原告に対し、同月20日から同月28日まで7日間の出勤停止を命じる懲戒処分(以下「本件出勤停止処分」という。)をした。

(4)被告は、平成25年11月27日、原告に対し、原告を同年12月6日付で普通解雇(以下「本件解雇」という。)とし、平均賃金の21日分に相当する解雇予告手当を支給する旨通知した。

(5)本件通知書に記載された原告の懲戒事由(以下、総称して「本件解雇事由」という。)は、概ね以下のとおりである。
 ア 平成24年10月11日に、Dチームリーダー(以下「D TL」という。)の行為によって会社の食堂で「左側胸部打撲傷」(以下「本件傷害」という。)を負ったとの事実に反する内容で、平成25年5月27日に、門真警察署へD TLを加害者とする被害届を提出した(就業規則は省略。以下同じ。以下「解雇事由①」という。)。
 イ 平成25年2月7日、Eグループマネージャー(以下「E GM」という。)及びFグループリーダー(以下「F GM」という。)宛てに、「2012年10月の業務でのG SPLから虚偽説明と情報隠蔽」という件名のメール(以下「本件メール」という。)を送り、原告自身が作成した「gstreamer調査. ppt」というファイルを添付して、Gサブプロジェクトリーダー(以下「G SPL」という。)から虚偽説明、情報隠蔽を受けていると訴えた(以下「解雇事由②」という。)。
 ウ 平成25年9月25日及び同月26日、Hチームリーダー(以下「H TL」という。)及びI主任技師(以下「I SNG」という。)に、「出るところへ出る、既に出るところへ出たこともある。」、「外でHさんを訴える。」、「警察にも行っている。警察に入ってもらう。」等の発言を行った(以下「解雇事由③」という。)。
 エ 上記ウの発言について、平成25年9月27日にJグループマネージャー(以下「J GM」という。)が事情聴取を行おうとしたが、それに応じなかった(以下「解雇事由④」という。)。
 オ 平成25年9月27日、J GMに脅迫されたということを職場内で大声で発し、また、職場内で大きな声で警察に電話をかけ、会社内に警察を呼び、K社長(以下「K社長」という。)に対してJ GMから脅迫を受けた旨のメールを送信した以下「解雇事由⑤」という。)。
 カ 平成25年10月2日、乙山次郎所長(以下「乙山所長」という。)が自宅待機命令の通知を行うために会議室に来るよう指示したが、会議室に入ることを拒否し、原告の席まで呼びに来た乙山社長に対して、自席で、「過去に監禁された」等の内容を大声で発した以下「解雇事由⑥」という。)。
 キ ターゲットプランでの目標設定に従い、管理面のトレーニングのために週間計画を立てるように繰り返し指示したが、根拠のない理由を並べ立て、業務指示に従わなかった以下「解雇事由⑦」という。)。
 ク 就業規則93条3号及び10号(注:上記アからカに関するもの)は、平成25年5月13日付けの本件出勤停止処分の対象となった事由であり、かつ、本件でも複数回挙げられていることから、就業規則94条1号(注:93条各号の行為が数度におよんだとき)にも該当する以下「解雇事由④」という。)。

(6)原告は、本件解雇が違法無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めて、本訴を提起した。


【争点】

(1)本件解雇の有効性について
 ア 本件解雇事由が本件解雇の客観的合理的理由に当たるか否か(争点1)
 イ 本件解雇が社会通念上相当であるか否か(争点2)
(2)原告主張に係る本件解雇のその他の無効事由(信義則違反、不当労働行為)の有無(争点3)
(3)本件解雇に係る不法行為の成否及び損害額(争点4)
   以下、争点(1)についての、裁判所の判断の概要を示す。 


【裁判所の判断】

   以下、主に解雇事由②についての、裁判所の判断の概要を示す。
(1)本件解雇事由に関する、裁判所の認定事実は、以下のとおりである。
 ア 原告は、平成25年2月7日、E GM及びF GMに対し、本件メールを送信した。
   本件メールには、冒頭に、「2012年10月の担当業務すで(ママ)で、G SPLから虚偽説明、情報隠蔽を受けております。」「②情報隠蔽:プロジェクトにG SPL作成のgstreamer資料がある。①虚偽説明:プロジェクトにgstreamer資料はない」等と記載されていた。
   そして、それぞれの具体的内容として、「①虚偽説明」については、G SPLから、平成24年10月5日に、「gstreamerについては未着手で誰も手をつけていないので、甲野太郎さん(注:原告)に調査を依頼しているので、gstreamerの資料が無くても当然です。」と説明を受けたが、実際には「gstreamer調査」と題する資料が存在する、「②情報隠蔽」については、G SPLの上記説明に反し、「gstreamer調査」は同年10月5日時点で存在する等記載され、最後に「主観ではなく、事実に基づいた客観的な調査をお願いいたします。」と記載されていた。
   そして、本件メールには、「gstreamer調査」と題する資料(以下「本件添付ファイル」という。)の電子データが添付されていた。
 イ しかし、本件ファイルは、原告自身が、平成24年10月5日に作成したものである。
   そして、同資料は、同年5月22日付けで作成された「Android OpenMax IL AVD_ss_OMX.so  Pro 4TV移植検討」と題する資料(以下「別件資料」という。)と4行目以降の内容が全く同一であり、別件資料を一部修正して作成されたものであった。
   G SPLは、同年10月3日、原告に対し、別件資料の電子データが存在するフォルダの場所を教えた上でアクセス権限を設定し、原告は、同月4日に同データをコピーした上で、同月5日に本件添付ファイルを作成していた。
   また、別件資料は、open MAXをAndroid on Pro 4TVに移植させるための仕様書であり、別件資料にはgstreamerについての記載は存在しない。
 ウ G SPLは、平成24年10月9日、原告に対し、Android用gstreamerをビルドするためのファイルがGitと呼ばれる方式で公開されているリンク先のURL及び具体的作業手順当の指示を記載したメールを送信した。
   原告は、同日、G SPLに対し、指示された作業を進めたがエラーが発生した旨のメールを送信した。これに対し、G SPLは、原告に対し、上記エラーへの対応の助言とともに、エラーログを見て原因を調査することも原告の事業内容である旨等を記載したメールを返信した。
 エ 原告は、平成24年10月10日、G SPLに対し、①前日に指示されたことをやったがうまくいかなかった、Android用gstreamerはこの世に存在しない等と述べて、G SPLを非難した。
   これに対し、G SPLはが、①指示に従って調査をすれば、わかるはずである。②Android用gstreamerがこの世に存在しないとまで言うが、どこまで調査したのか、中身をしっかり見ていないのではないか等と反論し、口論となった。
   なお、G SPLは、その後、Android用gstreamerをビルドするために必要なファイル(Android.mkを含むgstreamer)が上記ウ記載のURLから入手できることを確認した(当該確認及び調査は、本来、原告が行うべき業務であった。)。

(2)以下、解雇事由②が本件解雇の客観的合理的理由に当たるか否かについて検討する。
 ア 本件メールは、上記(1)アの内容に照らすと、G SPLが、原告の業務に関し、「情報隠蔽」及び「虚偽説明」をしたというものであるから、G SPLに対する誹謗・中傷やそれに類する言動であって、G SPLの被告社内における社会的評価を低下させるものであり、かつ、G SPLや被告に、事実の調査その他の業務上の負担を生じさせ、その業務を阻害するものであることが認められる。
 イ そして、本件メールに添付された本件添付ファイルは、原告自身が作成したものであり、G SPLによる情報隠蔽や虚偽説明を何ら基礎付けるものではない。
   この点、原告は、本件メールに別件資料を添付しようとしたところを、誤って本件添付ファイルを添付したにすぎないと弁解する。しかし、別件資料については、G SPLが原告にその所在場所を教えたものであること(同イ)から、いずれにせよG SPLが情報隠蔽等をした根拠にはならず、原告の上記弁解は不合理というほかない。
   また、原告は、gstreamerをAndroid上にビルドするのは不可能な作業であり、G SPLは、gstreamerをAndroid on Pro TVに移植するよう明確に指示すべきで、その意味でもG SPLの指示が不適切であったとも主張する。
   しかし、①原告が調査業務を行っていた平成24年10月時点で、Android用gstreamerが公開されていたこと(同エ)に照らすと、原告の業務は技術的に可能なものであったと認められる。しかも、②G SPLやE GMらは、その旨を原告に対して繰り返し明確に説明していたことが認められる(同ウ、エ等)。したがって、G SPLの指示に不適切な点があったとはいえず、原告の上記主張は採用できない。
   このように、G SPLが、原告に対し、情報隠蔽や虚偽説明をしたとか、不適切な指示をしたと認めることはできないことからすると、本件メールの内容は、客観的事実に反するというべきであり、上記アで認定した内容等を踏まえると、原告が本件メールを送信したことは不適切な内容であって非難を免れないというべきである。
 ウ 他方、原告は、平成24年10月当時から、G SPLらの説明にもかかわらず、E GMやG SPLらに対し、gstreamer をAndroid上にビルドすることは不可能であるとか、原告が行うには高難度、高負荷である等と繰り返し述べていた(上記エ等)ことが認められる。これらの点に照らすと、少なくとも原告の主観において、gstreamer調査についてG SPLから十分な情報を与えられていないと認識しており、E GMも原告のそのような認識を了知していたことが認められる。
   そうすると、原告が上記のような被告の認識と異なる認識を有していたことは、被告において既に把握されており、本件メールの内容についても、被告が把握している客観的事実と異なることは、被告において容易に想定し得る状況であったからすれば、本件メールによって被告やG SPLが受けた影響は限定的なものにとどまるといわざるを得ない。
   したがって、解雇事由②は、本件解雇の客観的合理的理由といえるほどの非違行為に当たるとはいえない。

(3)総合評価(本件解雇事由のうち、解雇事由②以外のものを含む。)及び小括
   以上のとおり、本件解雇事由は、原告の非違行為と認められるものであっても、それぞれ個別にみる限りにおいて、本件解雇の客観的合理的理由ということはできない。
   したがって、本件解雇について、客観的合理的理由があるとは認められず、本件解雇は、その余の点(争点2、3)について判断するまでもなく、無効といわざるを得ない。

(4)結論
   原告の本件請求は、被告に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②平成25年12月以降、毎月25日限り、33万9000円(平成25年12月分については、日割計算した27万3387円)の賃金請求権及び遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(一部認容)。


 

東京地裁平成30年7月5日判決(労働判例1200号48頁)

フーズシステムほか事件(確定)


【事案の概要】

(1)原告は、平成17年2月から、派遣会社との間の派遣労働契約に基づき、被告会社に派遣されて就労を開始したが、後記のとおり、平成24年4月1日、被告会社との間で直接の雇用契約を締結した。
   被告会社は、鮪の卸業等を営む株式会社である。そして、被告Aは、被告会社の取締役である。

(2)原告は、平成24年4月1日、被告会社との間で、以下の内容の雇用契約を締結した(雇用契約書。以下「当初雇用契約書」といい、これにより締結された雇用契約を「当初雇用契約」という。)
 ア 雇用形態 嘱託社員
 イ 役職 事務統括(主任)
 ウ 就業時間 午前8時30分から午後5時30分まで(休憩1時間)
 エ 賃金 時給1,700円、賞与あり
 オ 賃金の支払方法 毎月末日締め、翌月25日払い
 カ 手当 事務統括手当 月額1万円
   なお、当初雇用契約書の雇用期間の欄には、平成24年4月1日からとのみ記載されており、終期の記載はない。

(3)原告は、平成24年11月初旬頃、第1子を妊娠し、平成25年6月1日以降、出産のためしばらく出勤せず、同年7月3日に第1子を出産した後の平成26年4月14日以降、再度被告会社で再就労するようになった。
   原告と被告会社との間において平成26年7 月2日付けで作成された雇用契約書(パート雇用契約書(兼労働条件通知書)。以下「パート契約書」といい、これにより被告が締結したと主張する契約を「パート契約」ということがある。)には、以下の趣旨の記載がある。
   雇用期間 平成26年4月1日から同年8月31日まで
   就業時間 9時から16時まで
   時給 1,700円、賞与なし、毎月末日締め、翌月25日払い
   なお、原告は、第1子出産後、被告会社に復帰するに当たり、平成26年4月上旬頃、被告A及びB課長と面談を行った。原告は、同面談において、夕方4時から5時の間に終業できる時短勤務を希望したところ、平成Aは、勤務時間を短縮するためにはパートタイム社員になるしかない旨説明した。被告Aは、嘱託社員の立場のまま時短勤務にできない理由についてそれ以上の説明をすることもなく、原告は、雇用形態が嘱託社員からパート社員へと変更され、賞与も支給されなくなることについて釈然としないまま、有期雇用の内容を含むパート契約書に署名押印した。

(4)原告は、平成26年11月頃、第2子を妊娠し、平成27年5月下旬頃から産休を取得し、同年7月に第2子を出産した後、平成28年4月に被告会社に復帰した。
   被告会社は、平成28年8月20日頃、原告に対し、原告との雇用契約について、同年8月末日をもって雇用期間満了により終了させるとの通知をした。


【争点】

   本案前の争点を含めて多岐にわたるが、以下、下記の争点に絞って、裁判所の判断の概要を示す。

(1)原告と被告との間で平成26年4月に締結したパート契約の有効性
(2)被告会社による平成28年8月31日の原告に対する解雇又は雇止めの有効性


【裁判所の判断】

(1)原告と被告との間で平成26年4月に締結したパート契約の有効性
 ア 前記【事案の概要】(3)のとおり、原告は、第1子出産後の平成26年4月上旬頃の面談において、被告Aらに対し、育児のための時短勤務を希望したところ、被告Aから、勤務時間を短くするためにはパート社員になるしかないと言われ、パート契約書に署名押印したことが認められる。
 イ 育児休業法23条は、事業主は、その雇用する労働者のうちその3歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないものに関して、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮すること(以下「育児のための所定労働時間の短縮申出」という。)により当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置(以下「育児のための所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならないとし、同法23条の2は、事業主は、労働者が前条の申出をし又は同条の規定により当該労働者に上記措置が講じられたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと規定している。
   これは、この養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、これらの者の職業生活と家庭生活の両立に寄与することを通じてその福祉の増進を図るため、育児のための所定時間の短縮申出を理由とする不利益取扱いを禁止し、同措置を希望する者が懸念なく同申出をすることができるようにしようとしたものと解される。
   上記の規定の文言や趣旨等に鑑みると、同法23条の2の規定は、上記の目的を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり、育児のための所定労働時間の短縮申出及び同措置を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、同条に違反するものとして違法であり、無効である。
 ウ もっとも、同法23条の2の対象は事業主による不利益な取扱いであるから、当該労働者と事業主との合意に基づき労働条件を不利益に変更したような場合には、事業主単独の一方的な措置により労働者を不利益に取り扱ったものではないから、直ちに違法、無効であるとはいえない。
   ただし、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、当該合意は、もともと所定労働時間の短縮申出という使用者の利益とは必ずしも合致しない場面においてされる労働者と使用者の合意であり、かつ、労働者は自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該合意の成立及び有効性についての判断は慎重にされるべきである。
   そうすると、上記短縮申出に際してされた労働者に不利益な内容を含む使用者と労働者の合意が有効に成立したというためには、当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要である。
 エ これを本件についてみるに、
  a) それまでの期間の定めのない雇用契約からパート契約に変更するものであり、期間の定めが付されたことにより、長期間の安定的稼働という観点からすると、原告に相当の不利益を与えるものであること
  b) 賞与の支給がなくなり、従前の職位であった事務統括に任用されなかったことにより、経済的にも相当の不利益な変更であること
などを総合すると、原告と被告会社とのパート契約締結は、原告に対して従前の雇用契約に基づく労働条件と比較して相当大きな不利益を与えるものといえる。加えて、
  c) 被告Aは、平成25年2月の産休に入る前の面談時をも含めて、原告に対し、被告会社の経営状況を詳しく説明したことはなかったこと
  d) 平成26年4月上旬頃の面談においても、被告Aは、原告に対し、勤務時間を短くするためにはパート社員になるしかないと説明したのみで、嘱託社員のまま時短勤務にできない理由についてそれ以上の説明をしなかったものの、実際には嘱託社員のままでも時短勤務は可能であったこと
  e) パート契約の締結により事務統括手当の不支給等の経済的不利益が生じることについて、被告会社から十分な説明を受けたと認めるに足りる証拠はないこと
  f) 原告は、同契約の締結に当たり、釈然としないものを感じながらも、第1子の出産により他の従業員に迷惑を掛けているとの気兼ねから同契約の締結に至ったこと
などの事情を総合考慮すると、パート契約が原告の自由な意思に基づいてされたものと認められるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることはできない。
   以上のとおり、原告が自由な意思に基づいて前記パート契約を締結したということはできないから、その成立に疑問があるだけでなく、この点を措くとしても、被告会社が原告との間で同契約を締結したことは、育児休業法23条の所定労働時間の短縮措置を求めたことを理由とする不利益取扱いに当たると認められる。
   したがって、原告と被告会社と間で締結した前記パート契約は、同法23条の2に違反し無効というべきである。


(2)被告会社による平成28年8月31日の原告に対する解雇又は雇止めの有効性
 ア 既に説示したところによると、原告は、平成28年8月時点で、被告会社において、期間の定めのない事務統括たる嘱託社員としての地位を有していたというべきであるから、被告会社が原告に対してした同月末日で雇用契約関係が終了した旨の通知は、雇止めの通知ではなく、原告に対する解雇の意思表示であると認められる。
 イ そこで、この解雇の有効性について検討するに、被告会社主張の解雇事由である、
  a)原告が殊更に被告会社を批判して他の従業員を退職させたことを認めるに足りる証拠はないこと
  b) 前記認定に係る原告が他の従業員のパソコンを使用した理由(注:知人や親戚に被告会社の商品を送るため、他の従業員のパソコンに入っている住所録から発送先の住所や電話番号等を調べたというもの)は違法又は不当なものとまではいえないこと
  c) 被告会社の経営状況が原告の解雇を相当とするほどに悪化していたことを認めるに足りる証拠はないこと
などの事情を総合考慮すると、被告会社による解雇は、客観的に合理的に理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、労働契約法16条により無効というべきである。
 ウ したがって、原告は、被告会社に対し、期間の定めのない雇用契約上の権利を有する地位にあるところ、前判示(略)のとおり、原告は、事務統括から降格された事実が認められず、事務統括の地位にあることによって事務統括手当月額1万円の支払を受けることができ、事務統括という地位は、事務統括手当の支払を受けるべき職位とみることができるから、その地位にあることを確認する訴えの利益が認められる。
   よって、原告の被告会社に対する事務統括たる期間の定めのない雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は、全部理由がある。
 エ また、原告は、民法536条2項により、当初雇用契約に基づき、前記解雇日以降の賃金請求権を有することになる。原告は、解雇期間中の賃金額について、所定労働時間を8時間とした賃金の支払を請求しているところ、原告が短時間勤務から徐々に勤務時間を延ばすことを希望していたことはうかがわれるものの、所定労働時間を8時間とする合意が成立していたことを認めるに足りる証拠はないから、被告が支払うべき賃金額は、解雇前3か月の賃金額を平均した月額21万2,286円と認められる(注)。


注)平成28年10月から本判決確定の日まで、毎月25日限り賃金月額21万2,286円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容した(一部認容)。


 

熊本地裁平成30年2月20日判決(労働判例1193号52頁)

社会福祉法人佳徳会事件(控訴後和解)

【事案の概要】

(1)原告は、平成16年6月、保育士の国家資格を取得し、平成24年頃、特定非営利活動法人〇〇センター熊本(以下「本件NPO法人」という。)が設置運営する認可外保育施設「A園」(以下「旧保育園」という。)でボランティアとして活動していた。そして、原告は、平成26年1月1日、本件NPO法人との間で、保育士として、期間の定めのない雇用契約を締結した(以下「旧雇用契約」という。)。
   旧保育園の園長は、被告代表者である。そして、国立療養所A‘園と本件NPO法人は、平成23年7月15日、A’園の敷地内にある旧看護学校の建物及びその隣接敷地について賃貸借契約を締結し(以下「本件賃貸借契約」という。)、旧保育園は、上記の建物を改修した施設を園舎として使用していた(以下「旧園舎」という。)。  

(2)本件NPO法人は、平成27年12月4日、旧保育園に勤務する全職員に対し、平成28年4月1日から保育園の運営主体が社会福祉法人である被告に変更すること、希望する職員については1月末までには面談を実施すること等について説明をした。原告は、2月13日、被告代表者から個人面談を受け、原告の健康上の理由から4月以降採用できないとして、退職するよう告げられた。そこで、原告は、3月7日、ローカルユニオン熊本(以下「本件労働組合」という。)に加入し、3月10日、旧保育園との間で、団体交渉の申入れを行った。
   被告は、平成28年3月16日、上記団体交渉申入れに対し、本件NPO法人において雇用期間中の職員は、3月31日をもって整理解雇とし、4月1日付で、被告に採用希望の者は、本人の希望する雇用形態(正職員または非常勤職員)で新規採用する、ただし、採用後は、新規採用者全員を試用期間とする、との回答をした(以下「本件回答」という。)。原告は、3月30日、採用後3か月の条件付期間中、被告において勤務成績不良、または職員として適当でないと認められた場合等には、被告から一方的に解雇されても異存はない旨の誓約書を提出した(以下「本件誓約書」という。)。
   被告が設置運営する認可保育園「A園」(以下「本件保育園」という。)は、4月1日、旧園舎を引き続き使用する形で運営が開始された。本件保育園の園長は、被告代表者である。
   被告は、平成28年5月6 日、職員会議の際に労働条件通知書及び確認書(正職員用)と題する書面を各職員に渡し、原告は、同日、同書面(以下「本件労働条件通知書」という。)に署名・押印した。原告が、署名、押印した本件労働条件通知書では、「契約期間 平成28年4月1日から平成29年3月31」、「試用期間契約期間3カ月」とされていた(以下「本件規定」という。)。

(3)被告は、原告に対し、平成28年6月29日付解雇通知書により、原告と被告との間の雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)について、試用期間満了に際して本採用しないことを理由として、同年6月30日付をもって解雇する旨の意思表示をし、同通知は、同日原告に到達した(以下「第1解雇」という。)。
   その後も、被告は、原告に対し、同年11月21日付書面及び平成29年4月24日付で書面により、懲戒解雇及び普通解雇の意思表示をした。

【争点】

(1)原告に対する本件規定の適用の有無
(2)被告の原告に対する各解雇の有効性
(3)期間満了による本件雇用契約の終了の有無
(4)被告の原告に対する不法行為の有無

【裁判所の判断】

(1)原告に対する本件規定の適用の有無
 ア 被告と本件NPO法人との事業譲渡 
   被告は、本件NPO法人から改修後の旧園舎という資産、補助金交付に係る事務報告、A‘園における保有資産の運営事業者としての地位及び本件賃貸借契約の借主としての地位を引き継いでおり、これは有機的一体としての保有事業の譲渡が行われたものでといえる。したがって、被告は本件NPO法人から旧保育園に係る事業について譲渡されたものと認められる。
   もっとも、本件NPO法人と被告との間で事業譲渡があったからといって、当然に従前の雇用契約が被告に承継されるものではなく、従前の雇用契約が被告に承継されているか否かは、本件NPO法人と被告との間で雇用契約の承継について特別の合意がなされているか否かで判断することになる。
   この点、本件NPO法人は、
  ・平成27年12月4日に実施された職員説明会において、職員に配布された事業移管に関する説明資料には、被告での雇用を希望する職員については個別に面談を行った上で、個別の雇用条件、待遇の内示を行うこと、平成28年4月1日付で本件保育園の辞令が交付されること等の説明がされ、被告においては等級制に応じた給与制度であることを説明する給料表が添付されていること
  ・当初、原告は被告において雇用できない旨告げられ、他の2名の職員はパートタイム職員待遇での雇用となる旨告げられていること
   被告は、
  ・平成28年3月16日、本件労働組合に対し、本件NPO法人で契約中の職員は同月31日をもって整理解雇とし、同年4月1日付で被告において新規採用する旨の回答をしていること
等の事実関係からすると、被告と本件NPO法人との間で、雇用契約の承継まで行うとの合意があったとは認定できない。
 イ 被告と本件NPO法人との同一性
   原告は、被告と本件NPO法人が実質的に同一であることを理由に、原告との間では本件NPO法人の雇用関係が承継されているとの主張をしている。これは、被告についての法人格の否認の主張であると思われえる。
   しかし、原告は、法人格の濫用目的や法人格の形骸化について何らの主張をしていない。したがって、この点についての原告の主張は採用できない。
 ウ 試用期間の定めの適用の有無
   本件回答及び本件誓約書等の事実関係からすれば、原告と被告との間には、試用期間の定めについての合意がなかったものとは認定できない。
   もっとも、試用期間の定めが有効とされる理由は、雇用契約において、採否決定の当初は労働者の適格性の有無について必要な調査を行い適切な判定資料を十分に収取できないため、後日の調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で一定の合理性な期間解約権を留保する試用期間を定めることが合理的である点である。
   本件においては、
  ・原告は、事業譲渡を受けた本件保育園において保育士として被告に雇用されたものであるところ、本件NPO法人に平成26年1月から雇用され、旧保育園の保育士として2年以上勤務していること
  ・本件NPO法人と被告との間では代表理事と理事が相互に共通しており、旧保育園と本件保育園の園長はいずれも被告代表者であり、運営体制も従前の体制とほぼ変わりはなく、保育事業の譲渡もほぼ無償で行われる等、保育事業の点においては、実質的に同一の事業者であること
からすると、被告は、原告を雇用するにあたり、原告の保育士としての適格性を判断するための情報は十分に把握していたものといえ、原告と被告との雇用関係において、使用者の解約権を留保するための試用期間を定める合理性はない。
   したがって、被告が留保された解約権の行使として原告を解雇することは試用期間制度の濫用であって認められず、第1解雇については、被告との雇用関係について普通解雇として有効か否かを判断することとする。
 エ 雇用期間の定めの有無
   前記認定のとおり、被告は、原告を採用するにあたり、試用期間の定めについては説明があったものと認められるが、有期雇用期間の説明については、平成28年4月1日の本件保育園での勤務開始まで説明があったものとは認められない。
   そして、
  ・原告らは、本件NPO法人においては期間の定めのない正職員として雇用されており、本件保育園においても従前の雇用関係が継続されることを希望して労使交渉を行っていること
  ・被告は、平成28年3月16日付で、原告らに対し、希望する雇用形態(正職員もしくは非常勤職員)で新規採用する旨を回答し、原告らは正職員として雇用されることになったこと
などからすると、原告と被告との雇用契約は、期間の定めのない正職員としての合意があったものと認められ、期間の定めのある正職員としての合意があったものとは認められない(労働契約法第7条参照)。

(2)被告の原告に対する各解雇の有効性
 ア 懲戒解雇の有効性
   本件において懲戒事由に該当する行為は、解雇後のメール送信のみである。当該行為は解雇後の事由ではあるが、被告の職場秩序の維持という一般規程であり、原告の労務提供義務を前提としないから解雇事由として認められる。
   しかし、
  ・その違反については、職務行為を超えての専断的行為としての服務規程違反であり(就業規則21条1号)、秘密の漏洩や被告の信用毀損等は認められないこと
  ・職場の混乱についても、被告の業務量が増えたというもので、企業秩序の破壊の程度が重大とはいえないこと
  ・原告に企業秩序の維持の破壊の意図までは認められず、調査不足という過失に寄り生じた結果であること
  ・当該行為が原告の解雇後の行為で、事前に職場で相談できない状況であったこと
を踏まえると、被告が、他の懲戒の履行をせずに、直ちに懲戒解雇とすることは合理性を欠き、社会通念上相当とはいえない。したがって、当該解雇は解雇権の濫用として無効である。
 イ 普通解雇の有効性
   普通解雇についても、原告の各就業規則違反について、被告が改善、指導を行った事実は認められず、勤務成績が不良で保育士としての就業に適さないとまでは認められない。したがって、普通解雇についても解雇権の濫用として無効である。
 ウ 以上のとおり、本件については、いずれの解雇についても解雇権の濫用であり、無効である。

(3)期間満了による本件雇用契約の終了の有無
   前記(1)で判断のとおり、原告には、有期雇用期間の定めは適用されず、原告と被告との雇用契約は、従前のとおり期間の定めのないものであると認められる。
   したがって、原告が、被告に対し、期間の定めのない労働契約上の権利の確認を求める請求には理由がある。

(4)被告の原告に対する不法行為の有無
 ア 不法行為該当性 略
 イ 原告の損害
   違法な解雇が不法行為を構成する場合、同違法な解雇により侵害されるのは、原告の賃金請求権という財産上の請求権であり、その侵害行為によって権利者が被った財産上の損害がてん補されれば、権利者の精神的苦痛も同時に慰藉されるものである。
   しかしながら、本件においては、
  ・原告は本件労働組合による労使交渉の結果、被告に雇用されたにもかかわらず、わずか6か月で原告の意思に反して解雇されたこと
  ・その解雇の態様も体調不良で欠勤していた原告の自宅に被告代表者らが訪れて解雇の通知をしたものでること
  ・園児や保護者の目に触れる場所である本件保育園の玄関に貼ってある職員一覧に「原告は6月30日付で解雇されました。」と記載して張り出したものであること
等、合理性を欠く悪質な行為である。
   原告が、このような被告の行動により、A‘園内にある本件保育園で保育士として勤務するという希望を絶たれ、長期間不安定な地位に置かれている状況を踏まえると、原告の精神的苦痛を慰藉するには賃金請求権での補てんを除いても、30万円が相当と認められる(注:その他、弁護士費用として10万円を損害として認めた)。

(5)結論
   以上のとおり、原告の請求は労働契約上の地位の確認及び毎月18万9000円の未払賃金請求及び40万円の損害賠償請求を認める限度で理由がある。