さいたま地裁平成30年10月30日判決(自保ジャーナル2038号122頁)

本件事故が生じた際の双方車両の位置関係や挙動等並びに双方の供述等ないし指示説明から、すれ違いの際に原告車両が停止していたこと等を認定した事例(甲事件確定)


【事案の概要】

(1)甲事件:原告A、被告B、乙事件:原告C保険会社、被告A

(2)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成26年11月14日午前11時48分頃
   発生場所 さいたま市内の路上(以下「本件事故現場」という。)
   原告車両 A(甲事件原告兼乙事件被告。以下「原告」という。)運転の普通乗用自動車
   被告車両 B(甲事件被告。以下「被告」といい、C保険会社と併せ「被告ら」という。)運転の普通乗用自動車
   事故態様 本件事故現場において、原告車両の右側面後部や被告車両の右側面後部がすれ違い時に接触した(原告及び被告らは、それぞれ、自車の停止中に相手方車両に接触された旨を主張しており、また、接触地点にも争いがある。)。

(3)原告は、不法行為に基づく損害賠償請求として、本件事故による人的及び物的損害(なお、原告車両は、外国製スポーツ車両であり、現存数のごく限られたいわゆる希少車である。)に係る損害金の支払を求めた(甲事件)。
   C保険会社は、被告車両の物的損害に係る保険金をその所有者に支払って代位したことによる求償金請求(原債権である不法行為に基づく損害賠償請求)として、当該物的損害に係る損害金の支払を求めた(乙事件)。


【争点】

(1)本件事故の態様(共通)
(2)原告の損害(甲事件)
(3)消滅時効(乙事件)
   以下、上記(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)前提事実
 ア 本件事故現場のある道路(以下「本件道路」という。)は、中央線の設けられていない幅員6mの対面通行の道路であり、原告車両が保管されていた原告宅(当時)の駐車場からほど近い市街地に位置する。
 イ 原告車両(全長451cm、全幅196cm)は、前後輪のフェンダーが側面外側に膨らみ、中央部が括れた形状となっている。後輪フェンダーの膨らみは前輪フェンダーよりも大きく、後輪フェンダーの中央付近(後輪車軸付近)が側面外側に向かって最も膨らんだ箇所となっている。
 ウ 被告車両(全長360cm、全幅146cm)の側面は、前後に向かっておおむね直線に近いが、本件事故による損傷が生じた箇所の高さでみれば、原告車両ほどではないものの、前後輪フェンダーが、ほぼ同程度、若干側面外側に膨らんでいる。
 エ 本件事故による原告車両の損傷は、右後輪フェンダー前部やや上方付近の高さ10数cm、幅10~20cmほどの浅い擦過痕である。
 オ 被告車両の損傷は、右後輪フェンダー前部の辺縁に沿った付近の幅1.2cmほどの浅い擦過痕である。

(2)本件事故が生じた際の双方車両の位置関係や挙動等
 ア まず、双方車両に前記した以外の損傷がみられないことから、接触の際の双方の車両の相対的な位置関係について、被告車両が原告車両に対して右斜めとなっていたことはなく、また、完全な並行の状態にもなかったことは明らかである(これらの状態であった場合、原告車両には右後輪フェンダー部のより後方にも損傷が生じ、あるいは、被告車両には前記した損傷個所よりも自車前方の他の箇所に損傷が生じるはずである。)。
   そうすると、本件事故での接触の際、被告車両は原告車両に対してわずかに左斜めの確度であったと考えられるが、その場合であっても、いずれかの車両が停止していて、他方の車両が直進進行していたといいう事故態様は、客観的には想定し難い(被告車両が直進進行していたならば、本件事故よりも前の段階で既に接触していたこととなるし、原告車両が直進進行していたならば、右後輪フェンダー部のより後方にも損傷が生じるはずである。)。
   結局、接触の際の状況については、被告車両がわずかに左転把して進行していたか、原告車両が右転把して進行していたか、あるいはその双方であった可能性が残されることとなる。そして、被告車両が左転把していたとした場合、被告車両は原告車両から離れるように進行することとなるし、その点をおくとしても、その右後部が外側にほとんど膨らむことがないことからすれば、通常では考え難いものである。
   本件事故での接触の際は、原告車両が右転把していた可能性が最も高く、また、原告車両が早期に右転把していたとすると、より早い時点で他の箇所が接触すると考えられることからして、比較的低速度でのすれ違いを半ば終えた頃に、わずかに右転把を開始したと考えるのが、最も自然かつ合理的なものということができる(注:被告意見書は、これと概ね同旨をいうものである。)。

(3)双方の供述等ないし指示説明についての検討(すれ違いの際に、いずれの車両が停止していたか)
 ア 本件事故に関し、原告は、大要、以下のとおり供述等(陳述書の記載及び尋問手続における供述をいう。以下同じ)ないし指示説明をする。
  a)右折して本件道路に入った際、被告車両が本件道路の中央付近を対向直進しており、先導車両が減速してすれ違いをする様子を見た。
  b)万が一にも接触するようなことがないように、切替しに使ったアパート駐車場よりもb側にある電柱の手前で原告車両を左に寄せて停止し、被告車両をやり過ごすこととした。
  c)被告車両はそのまま中央付近を対向直進してきたが、すれ違いの際に短い衝撃音がして、当てられたことが分かった。
  d)被告車両の動きを確認したところ、被告車両はそのまま加速するように進行して、本件道路のb側にある丁字路付近交差点で、一時停止もせずに右折して走り去った。
  e)直ちに、前方にあるアパート駐車場の空きスペースを使って切り替して追跡し、本件事故現場から200mほどの場所にある交差点で、赤信号待ちをしている被告車両を発見した。
  f)青信号で発進した被告車両のすぐ後方に追い付き、クラクションを鳴らしたが、被告車両が停止しなかったので、追い越して前方に入り、被告車両を停止させた。
 イ 他方、被告は、大要、以下のとおり供述等ないし指示説明をする。
  a)本件道路を進行していたところ、ベンツ(注:原告車両の先導車両)が対向直進してきたので、原告が切替しに使ったとするアパート駐車場よりもa側の付近で、被告車両を左に寄せて減速し、停止する直前頃にベンツとすれ違った。
  b)その際にベンツの後方から原告車両が対向直進してくるのを見て、このまま停止して原告車両をやり過ごすこととした。
  c)原告車両はそのまま進行して通過して行ったが、すれ違いの際に自車後方から軽い擦過音が聞こえて、当てられたことがわかった。
d)原告車両の動きを確認したが、そのままa方面の交差点付近まで走って行ってしまった。
  e)関わり合いになりたくなかったので、追いかけることはせず、そのまま被告車両を発進させ、b側にある丁字路交差点を右折した。
  e)右折した先の交差点で赤信号待ちをし、青信号で発進したところ、後方から来た原告車両が被告車両を追い越して、進路を塞ぐように前方で停止したので、被告車両を停止させた。
 ウ 上記アイの双方の供述等ないし指示説明をみるに、原告車両が、本件事故からさほどの間をおかずに、本件事故現場からほど近い場所で被告車両に追い付き、これを停止させたことは、被告も自任するところであって、証拠(略)によってもこれが認められる。
   そうすると、被告車両の走り去る方角を確認していたため、直ちに反転追跡して追い付くことができたとする原告の供述等ないし指示説明は、ごく自然であるとともに、相応の裏付けを伴うものということができる。また、本件道路に原告車両が急ぎ切り替えせるような場所は、原告が供述等するアパート駐車場の他に見当たらない。
   他方、被告の供述等ないし指示説明を前提とすると、原告車両は、当て逃げをして走り去ったにもかかわらず、かといってそう遠くまで走り去ったわけでもなく、被告車両のその後の進行方向を見届けてこれを追跡したことになるが、仮に、原告が当て逃げをしたとしても、そのような不可解な行動に及ぶべき動機ないし理由は直ちには見出し難い。被告において、当て逃げをされたにもかかわらず、被告車両の損傷状況すらも確認せず、早々に追及を断念してその場を離れたというのも、にわかには得心し難いものである。
   このほか、不測の事態を避けるべく先導車両まで準備していた原告が、肝心のしれ違いの際に、接触の危険を顧みることもなく原告車両を進行させたなどとは、にわかには想定し難いことも併せ考えれば、本件事故の際の双方の車両の挙動の点は、前記(2)にて述べたとおりであるものの、その前後の経緯については、原告の供述等ないし指示説明を採用するのが相当である。

 (4)小括
   以上に述べたところからすれば、本件事故の態様は、次のとおりである。
     a)原告は、本件道路を対面直進してくる被告車両を認めてその通過待ちをすることとし、原告車両を左に寄せて停止したところ、
  b)被告は、双方の車両の車間間隔を適切に保持することなく被告車両を進行させ、原告車両に極めて近接した状況下でのすれ違いを開始した。
  c)そして、原告は、少なくともすれ違いを開始した後は比較的低速度で進行していた被告車両がすれ違いを半ば終えて、自車後方に位置した頃に、わずかに右転把して進行を再開し(注:それまで、原告車両は停止していた。)、その直後、被告車両の右後輪フェンダーと原告車両の右後輪フェンダーがわずかに接触した。
   上記に述べた本件事故の態様によれば、被告に、側方の車間距離を適切に保持せずにすれ違いをした点で過失があることは明らかであり、他方、原告については、すれ違いを終える前に原告車両をわずかながら進行させた点に過失が認められ、その過失割合については、原告30、被告70とするのが相当である。

(5)結論
   甲事件:一部認容、乙事件:棄却(注:Aによる消滅時効の抗弁を容れた。)


 

神戸地裁平成30年1月30日判決(交通民集51巻1号108頁)

駐車区画から退出する車両の運転者は、停止状態から発進することから、通路走行車両の運転者よりも重い注意義務があると判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平28年2月17日午後4時30分頃
 イ  発生場所 兵庫県三木市a店(以下「本件店舗」という。)駐車場(以下「本件駐車場」という。)
 ウ 原告車両 自家用普通乗用自動車
   運転者  原告A(事故当時39歳)
   所有者  原告B
   被告車両 自家用普通乗用自動車
   運転者  被告(事故当時65歳)
 オ 事故態様 道路から右折して本件駐車場に進入し、駐車区画に駐車しようとした原告車両の右フロントドア付近と、本件駐車場の駐車区画から後退して駐車場を出ようとした被告車両の後面右側が衝突した。

(2)原告Aは、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右半身打撲と診断され、平成28年2月19日から同年5月14日まで、C整形外科に通院した(原告Aが本件事故により受傷したか否か及び通院期間等の相当性は主要な争点である。)。


 【争点】

(1)本件事故態様及び被告の過失の有無、過失割合
(2)損害の有無及びその算定
   以下、上記についての、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、被告は、(1)に関して、本件事故時に原告車両が停止していなかったことを主張し、(2)に関して、原告Xが受傷するような外力は加わっていないことを主張した。


【裁判所の判断】

(1)本件事故態様及び被告の過失の有無、過失割合
 ア 本件事故態様
  a)本件駐車場は、本件店舗側に駐車区画として5区画が設けられ、本件駐車場と本件車道との間には幅員約5.6mの歩道(以下「本件歩道」という。)が設けられ、本件歩道と本件駐車場との間には有蓋側溝が設けられている。本件車道から本件駐車場に出入りするための特別の進入・退出口は設けられていない。
  b)原告Aは、本件車道を南進して本件駐車場手前で右折し、本件車道に進入しようとし、本件歩道上を本件駐車場に向けて走行していた際、本件駐車場の北から2区画目に、車両前方を本件店舗側に向けて駐車していた被告車両が、後進しようとするのを発見した。
  c)原告Aは、本件駐車場の北から4番目の駐車区画手前の通路部分に進入し、被告車両が駐車していた区画の南側(本件駐車場の北から3番目の区画)駐車しようとし、被告車両の動静をうかがったところ、被告車両は、左折後進して原告車両の方へ向かってきており、原告Aは原告車両を別紙図面(略。以下同じ。)の㋐の位置に停止したところ、被告車両は一旦停止したが、なおも後進を続けたため、同図面の✕付近で、被告車両の右後角部辺りを原告車両の右フロント付近に衝突させた。原告車両は衝突後にクラクションを鳴らした。
  d)被告は、被告車両の保有者であるところ、被告車両を本件駐車場から発進するため、上記駐車区画から後進させようとし、その際は、目視で後方を確認したが、その後は被告車両に備え付けられたカメラのモニター画面を見ながら後進を続けた。
   もっとも、被告の供述によれば、本件衝突前にはギアをニュートラルに入れていたため、上記モニター画面は作動しておらず、また被告は、少なくともモニター画面を見始めてからは直接目視で又はルームミラーやドアミラーを通じて、後方を確認することは一切なかった。したがって、被告は、本件事故まで原告車両の存在に全く気付いておらず、制動装置をとることもなかった。
  e)被告車両は、本件事故により右後角部に損傷が生じ、見かけ上損傷は酷くはないが、バックドアパネルの修理、リアバンパカバーの取替等を要し、修理費用として13万5000円を要した。
   他方、原告車両は、右フロントドアに相当の凹みが生じており、右ドアミラーが倒れた際、ミラーベースと接触しミラー内側が損傷する等の損傷を受け、これらの取替を要し、修理費用12万9000円を要した。
イ 被告の過失の有無
  本件事故は、被告車両の保有者である被告が、本件駐車場から発進するため、駐車区画に駐車していた被告車両を後進させる際、後方確認不十分のまま後進を続けて過失により、折から本件駐車場内で被告車両の動静を見るために停止していた原告車両に衝突させたものと認められる。よって、被告には、自賠法3条に基づき原告Aに生じた人身損害及び民法709条に基づき原告Bに生じた物的損害を賠償する責任がある。
ウ 過失割合
 a)店舗駐車場においては複数の車両が出入庫を行い、その動きも複雑となる場合が多い。そのため、駐車のため駐車場内通路を走行する車両及び駐車区画から退出する車両ともに、通路内走行車両や駐車区画出入車両の動静に注意し、衝突を回避できるような速度と方法で通路を走行し又は出入庫すべき義務があるというべきである。そして、駐車区画から退出する車両の運転者は、停止状態から発進することになるから安全確認等がより容易であるといえ、通路走行車両の運転者よりも重い注意義務があるというべきである。
   加えて、本件のように退出車両が後進する場合には、車両後方の視界が前進する際よりも制限されるため、退出車両の運転者は、よりいっそう慎重に走行すべき義務があるといえる。
   さらに、前記認定のとおり、本件駐車場は、通路の左右に駐車区画が設置されているわけではなく、道路の一方(本件店舗側)に駐車区画があるうえ、通路部分は、本件歩道や本件車道に向かって見通しがよいことも考慮すると、駐車区画から退出する車両の運転者である被告は、通路走行車両の有無及び動静をより容易に確認できるということができる。
   しかるに、前記認定のとおり、被告は、自車の進行方向である後方を全く見ていなかった上、通路部分で停止していた原告車両に衝突したのであるから、被告の注意義務違反の程度が著しいといえ、上記のとおり本件事故時には停止状態であった原告Aとしては、事故の発生を未然に防ぎ、これを回避する措置はほぼ期待できなかったといえる。
  b)もっとも、原告Aとしても、本件駐車場の通路に進入する前に被告車両が後進して駐車区画から退出しようとしていることを確認しているのであるから、原告車両停止位置である通路部分まで原告車両を進入させずにその手前で停止させるべきである。また、原告Aは、停止後も被告車両の動静を注視しており、被告車両が原告車両に向かって後進し、危険を感じたのであるから、被告の注意を促すためにクラクションを鳴らすなどの措置をとるべきであったといわざるを得ない。
   よって、これらの過失を斟酌すれば、原告らに生じた損害の5%を過失相殺として減じるべきである。
  c)この点、被告は、原告車両が停止していたことを否認する。
   しかし、被告は、本件事故発生まで原告車両の有無にすら気付いていなかったのであるから、原告車両の動静については、特にその内容等に不自然なところがない限り、原告A本人の供述(陳述書の記載を含む。以下同じ。)に準拠せざるを得ない。そして、同供述に特段不自然なところはない。

(2)損害の有無及びその算定
 ア 原告Aの損害
  a)受傷の有無について
   原告Aは、本件事故によって、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右半身打撲の傷害を受け、その治療のため平成28年2月19日から同年5月14日まで、C整形外科に通院(実通院日数24日)した。
   被告は、原告Aの受傷を否認する。
   しかし、前記認定のとおり、原告車両の右フロントドアは相当程度凹んでおり、被告車両の見た目の損傷状況にかかわらず、原告車両の運転席にいた原告Aに相当の衝撃が加わったことは優に推認できる。また、外力の入力方向が原告の身体の右から左にかけてであることから、原告Aが被告車両の動静を見ていたとしても、なお原告Aに捻挫等を生じさせるような外力が加わったことは否定できないというべきである。
  b)必要な治療期間について
   被告は、平成28年月中(22日ころ)には原告Aの症状は軽快していた旨主張する。
   しかし、カルテには、平成28年2月22日欄に「痛み軽い」と、同月24日欄に「鎮痛剤なくても良いぐらい」との記載があるが、上記「痛み軽い」の後ろには「鎮痛剤少し効果あり」との記載がある。また、同じカルテによれば、原告Aは医師に対し、平成28年2月19日から3月1日まで会社を休んだことを訴えている上、原告Aは、その後も通院治療中、時折痛みを訴えており、医師も物理療法や投薬を継続していることが認められる。よって、被告の上記主張は採用できない。したがって、上記の通院期間は原告Aの受傷を治療するのに必要な期間であったというべきである。
  c)損害の算定
  ①治療費 2万7100円
  ②傷害慰謝料 48万円
   原告Aの受傷内容が他覚的所見に乏しいこと、通院期間が86日(実通院日数27日)であること等を考慮すれば、上記金額が相当である。
  ③休業損害 16万9502円
   前記a)の原告Aの通院状況、受傷内容等を総合すれば、原告Aは、平成28年3月末日まで(通院期間44日)、部分的に休業を余儀なくされ、その間の実通院日数17日について、平成27年度賃金センサスの女子・学歴計・全年齢平均賃金である372万7100円を365日で除した日額1万0211円の50%相当の、その余の27日について上記日額の30%相当の休業損害が発生したと認めるのが相当である。
   (計算式)3,727,100円÷365日=10,211円
        10,211円×(17日×0.5+17日×0.3)=169,502円
  d)合計額及び過失相殺
   上記の合計は、67万6602円となり、その5%を減ずれば、64万2771円となる。
 イ 原告Bの損害
   前記(1)アe)のとおり、原告車両の修理費として12万9000円を要し、これは原告Bの損害と認められる。
   過失相殺としてその5%を減ずれば、12万2550円となる。

(3)結論
   原告Aの請求は64万2771円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告Bの請求は64万2771円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある(一部認容)。


 

東京地裁平成30年7月19日判決(自保ジャーナル2033号128頁)

原告(歩行者)と被告車との衝突地点を、被告車走行車線上の中央線付近と認定した上で、双方の過失割合を、原告30%、被告70%と判断した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成24年10月25日午前3時3分頃
 イ 発生場所 千葉県茂原市の道路(以下「本件道路」という。)
   本件道路は、中央に白色破線の区分線(以下「中央線」という。)が引かれた片側1車線(1車線の幅員約3.3m)の有料道路であり、両側に白色実践で区切られた幅員0.9~1.3m程度の路側帯がある。
 ウ 原告   歩行者
 エ 被告   被告所有・運転の自動車(以下「被告車」という。)
 オ 事故態様 被告車が本件道路を歩行していた原告と衝突した。

(2)被告と被告保険会社は、本件事故当時、記名被保険者を被告、契約車両を被告車とする対人補償、車両補償及び人身傷害補償条項を含む自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた。

(3)原告(事故当時28歳)は、本件事故後、B医療センターに救急搬送され、右下腿開放骨折等と診断され、以後、平成26年7月まで、各医療機関に入通院した。

(4)原告は、自賠責保険の後遺障害等級認定において、平成27年1月15日頃までに、①右脛骨開放骨折に伴う右膝関節の機能障害については、後遺障害には該当しないが、②上記骨折に伴う右下腿痛の症状については、自賠法施行令別表第二の14級9号(局部に神経症状を残すこと)に該当すると判断された。
   なお、上記の判断に際しては、G整形外科(注:右下腿のボルト除去手術を施行した医療機関)作成の平成26年8月16日付け後遺障害診断書(以下「当初診断書」という。)が提出されたが、同診断書には、関節機能障害につき、膝関節の伸展・屈曲に関する記載はあったものの、足関節に関する記載はなかった。

(5)本件事故に関し、被告保険会社から原告又は医療機関に対し、合計229万9,848円の任意保険金が支払われた。
   また、本件事故に関し、本件保険契約に基づき、被告保険会社から、被告又は医療機関に対し、車両保険金として89万4,936円が、人身傷害保険金として97万0,082円が、それぞれ支払われた。


 【争点】

(1)事故態様及び過失割合
(2)原告の後遺障害の内容、程度
(3)原告の損害
(4)被告の損害
   以下、上記(ただし、(3)については、逸失利益についてのみ、(4)については、施術費用についてのみ)についての、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、(1)に関する当事者の主張は、以下のとおりである。
 ア 原告の主張
   本件事故は、被告車が時速約60㎞の速度で本件道路の中央線を跨いで走行中に、対向車線側にいた原告と衝突したという事故、あるいは、被告車が、対向車線側の路肩に乗り上げた後、左に急ハンドルを切って同路肩付近を歩行していた原告と衝突したという事故であるから、原告に過失はない。
 イ 被告らの主張
   被告車との衝突時、原告は酒に酔った状態で本件道路の中央線付近を歩行していた。本件道路の両端には歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯が設けられているところ、夜間の事故であること、本件道路は有料道路であり幹線道路に準じるものであること、原告が道路の中央付近をふらつきながら歩行していたことを考慮すれば、その過失割合は50%を下らないというべきである。


【裁判所の判断】

 (1)事故態様及び過失割合
 ア 本件道路(1車線の幅員3.3m)は、緩やかな左カーブを描く形状であり、格別視界を妨げるものはない。交通規制はされておらず、最高速度は時速60㎞(道路交通法22条1項、道路交通法施行令11条)であるが、有料道路であり、信号機の設置もあまりないことから、速度超過がされやすいこともあって、「この道路は高速道路ではありません」との看板が立てられている。
   被告は、被告車(車体の幅189㎝)を運転し、本件道路を時速60㎞程度の速度で進行し、助手席に同乗するAとの雑談に夢中になって前方をよく見ていない状態で、格別の事情もないのに前照灯を下向きにしたまま運転をしていたところ、本件道路の自車走行車線上を歩行中の原告を、右前方10m強程度の距離に至って初めて認め、急制動及び左転把の措置を講じたが間に合わず、同人を被告車のボンネット上に撥ね上げてフロントガラスに衝突させ、路上に転倒させた。
 イ 上記アの事実認定に反し、原告は、被告車が中央線を超えて対向車線上にいた原告に衝突したと主張する。
   しかし、原告が中央線を越えて原告に衝突したことを認定するに足りる的確な証拠はない。原告は、上記主張事実に沿うような供述をするが、事故当時の記憶はないことを認めており、同供述は確たる根拠もないままに自身の推測を述べるものにすぎない。
 ウ また、原告は、上記アの認定に用いた、被告の指示説明に基づき作成された実況見分調書、ひいては被告の供述が信用できないと主張する。
   しかし、被告の供述内容は、被告車が中央線を越えて走行するような事情はなかったこと、衝突時に原告が被告車の走行車線上の中央線付近にいたことという主要な点で、本件事故に係る捜査段階から一貫しており、同乗者であるAも、これと同旨の証言をしている。事故状況をみても、上記アで認定した本件道路の形状や走行車線の幅員、被告車の幅当の事情に照らせば、被告がAとの雑談により前方をよく見ていない状況にあったことを考慮しても、被告車が中央線を越えて走行するとは直ちには考えにくく、原告代理人の被告及びAに対する各反対尋問の結果を踏まえても、これを窺わせる事情は見当たらない。
   その一方で、救急搬送先の病院で、救急処置時に測定された原告の血中アルコール濃度が90㎎/dlであったことに照らせば、本件事故当時の原告は、相当程度酒に酔った状態であったことが推認されるから、車道の中央付近を歩行していてもおかしくはない。
   これらの事情を総合考慮すれば、衝突地点は、被告車走行車線上の中央線付近であった旨の被告の供述は十分信用できるというべきである。
 エ 上記アで認定した事実によれば、被告には前方不注視の過失があり、原告にも歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯を歩行せずに、漫然と本件道路の中央線付近を歩行した過失があるから、原告及び被告は、いずれも民法709条に基づき、互いに本件事故により相手方に生じた損害を賠償する責任がある。
   双方の過失の対比のほか、本件事故は夜間に生じたものであること、本件道路は幹線道路とはいえないものの有料道路である上、高速道路ではないことの注意を喚起する看板が立てられていることなどからすると、事実上高速度で車両が往来していることが窺われ、その点で歩行者がいることを予測しにくい面があるのを否定できないこと、その一方で、被告は、夜間、特段の支障もないのに前照灯を上向きにすることなく被告車を運転し、更に同乗者との雑談に夢中になっていたことで、至近距離に迫るまで原告の存在に気付かなかった点で著しい過失があるというべきであることを考慮すれば、双方の過失割合は、原告30%、被告70%とするのが相当である。

(2)原告の後遺障害の内容、程度
 ア 原告は、平成24年10月25日の本件事故により、右下腿(脛骨)開放骨折の傷害を負っており、同年12月27日には骨折に対してプレート固定手術が行われ、その後骨癒合が得られるも、右足関節の拘縮等が生じて残存したことが認められ、これによれば、原告には、本件事故により、右足関節の可動域に制限が生じることの原因となる損傷が生じたと認められる。
   そして、原告の右足関節の可動域角度は、本件事故後一貫して制限された状態にあり、とりわけ伸展(背屈)については、改善した様子が一切見受けられない。
   よって、原告には、本件事故によって負った傷害により右足関節の拘縮等が生じ、これにより右足関節に可動域制限が残存したと認めることができる。
 イ そして、可動域制限の程度については、別紙(略)記載の測定結果の推移をみれば、健側・患双方の可動域が測定され、かつ、測定の正確さを疑わせる不自然さのみられない測定結果は、最後の測定である⑦平成27年2月16日のものであり、これによれば、患側の可動域が健側の可動域の4分の3以下に制限されていると認めることができる(なお、屈曲(屈底)につき健側と患側に格別の差異はないとみても同じである。)。
   よって、原告には、本件事故により、12級に該当する右足関節の可動域制限(以下「本件後遺障害」という。)が残存したものと認められる。その症状固定時期は、当初診断書記載の医師の診断のとおり、平成26年7月22日と認めるのが相当である。

(3)原告の損害(逸失利益、認定額:1,015万4,475円)
 ア 証拠(略)によれば、以下の事実が認められる。
  ①原告は、平成24年3月にK大学の大学院を卒業し、同年4月1日付でL県に採用されて、同県のM部所属の職員として勤務していたが、平成30年3月31日付けで辞職したこと
  ②原告の給与所得は、平成24年(就職前のアルバイト代を含む。なお、本件事故による休職にかかわらず全額の支給がなされている。)は、320万0,153円、平成25年は332万7,354円(本件事故による休職のために減額された37万5,260円を加えた額は370万2,614円)、平成26年は422万8,945円、平成27年は465万4,338円と推移したこと
  ③上記②のとおり、症状固定時(平成26年7月22日)以降減収がなく、むしろ増収しているのは、L県の給与体系(原告の属する年代では成績不良であっても昇給していくことになる。)等が主な原因であること
  ④原告は、農業コンサルタントなどの農業の現場での仕事に従事することを希望してL県に就職したもので、本件事故以前にはその希望どおり農業の指導担当としての職務に従事しており、田んぼ等の現場に毎日出て農家の指導等に当たっていたこと
  ⑤原告は、本件事故後もしばらくは上記④と同じ職務に従事していたが、本件後遺障害のために、足元の悪い現場での歩行やしゃがみこんでの草丈や葉数の生育調査等に支障が生じ、相応の肉体的、精神的負荷を被っていたところ、平成29年度からは内勤に配置転換されたこと
  ⑥原告は、公務員として農業コンサルティング等の現場での仕事を続けていくことの限界を感じるなどしたことから、上記①のとおりL県職員を辞職したこと
  ⑦原告は、本件後遺障害の症状固定時の前後頃より、フットサルやジョギングを行っているが、いずれもリハビリ目的であり、質量ともに本件事故以前と同じようにはいかないと感じていること
 イ 以上を踏えて検討するに、まず、原告は、必ずしも公務員としての安定した地位や収入に拘っていたものではなく、むしろ農業の現場で自身の考えに沿った内容の仕事を行うことに価値を見出していたものである。そうすると、本件後遺障害の有無にかかわらず、将来、転職をした可能性は相当程度あったものと考えられる。よって、原告が定年まで公務員を続けることを前提に基礎収入や労働能力喪失率を定めるのは相当ではない。
   転職することも含め、農業コンサルティング等の仕事を行うことで、自己実現を図っていくという希望を原告が有していたことを前提に、症状固定時の原告の年齢や事故以前の健康状態、原告の学歴や職歴、その収入状況、本件後遺障害の内容等を考慮すると、原告の逸失利益については、基礎収入は430万円(平成26年男性労働者・全年齢学歴計平均賃金である536万0,400円の8割相当額)、労働能力喪失期間は67歳までの38年間(ライプニッツ係数16.8679)、労働能力喪失率は14%として算定するのが相当である。
   (計算式)430万×14%×16.8679

(4)被告の損害(施術費用、認定額:8万4,500円)
 ア 被告は、本件事故翌日の平成24年10月26日から平成25年3月19日までの間、負傷名及び部位を頸椎捻挫、右肘関節捻挫及び腰部捻挫として(ただし、右肘関節捻挫については平成24年12月28日まで)、C整骨院に合計61回通院し、各部位ことに電療、あんま及び後療の各施術を受け、合計28万1,691円の施術費を要したことが認められる。
 イ 上記(1)アで認定したとおり、時速60㎞程度で走行中に原告との衝突を避けるべく急制動と左転把の措置をとったという事故態様のほか、本件事故により、被告車にも右フロントフェンダー及びフロントバンパに凹損が生じ、フロントガラスの右半分程度がクモの巣状に破損したと認められ、これらの事情によれば、本件事故の被告に対する衝撃も相応のものであったことが推認される。
   よって、被告は、本件事故により、頸部捻挫、右肘関節捻挫及び腰部捻挫の傷害を負ったと認められる。
 ウ もっとも、被告は、医師による診断と治療を一切受けておらず、本件事故直後に実施された実況見分にも立ち会っていて、本件事故における捜査の過程で自身の受傷の事実を申告した形跡もみられないことからすれば、その受傷の程度は比較的軽いものであったことが推認される。また、整骨院の施術証明書上も受傷の程度は判然としないから、被告に施された施術のすべてが必要かつ相当なものであったとは認め難く、上記施術費の全額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
   以上に指摘した諸事実を勘案すれば、本件事故と相当因果関係があるのは、その3割に相当する上記金額と認めるのが相当である。