東京地裁平成31年2月22日判決(自保ジャーナル2045号111頁)

自動二輪車を運転する原告は、必要がないのに急ブレーキをかけた結果、自車のコントロールを失って転倒したとして、原告に8割の過失を認めた事例(控訴中)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成26年6月2日午後8時35分頃
 イ 発生場所 東京都世田谷区(地番略)先の交差点(以下「本件交差点」という。)
 ウ 原告車  原告運転の普通自動二輪車
 エ 被告車  被告運転の普通乗用自動車
 オ 事故態様 原告車が、片側1車線の道路(以下「本件道路」という。)を走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に直進入する際に、左方の交差道路(以下「本件交差道路」という。)から本件交差点に左折進入しようとした被告車との衝突を避けようとして転倒した(なお、被告車が交差点内に進入したかどうかは争いがある。)。

(2)原告(昭和43年7月生、本件事故時45歳。)は、本件事故により、右鎖骨骨折、右第2助骨骨折、右大腿部打撲等の傷害を負った。原告は、Bセンターその他の医療機関及びC整骨院に、平成26年6月2日から平成28年2月2日まで(注:症状固定後の通院を含む。)入通院した。
   Bセンターの医師は、平成27年1月30日、以下の内容を記載した後遺障害診断書を作成した。
 ア 症状固定日 平成27年1月14日
 イ 傷病名 右鎖骨骨折
 ウ 自覚症状 右鎖骨周囲しびれ、右小指前腕にしびれ、右手筋力低下
 エ 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果 感覚神経伝達速度低下、MRIで右肩板部分断裂、右肩しびれ、右手筋力低下
 オ 関節機能障害 肩:屈曲 右100度、左180度 伸展 右30度、左50度

(3)原告は、平成27年12月4日、自賠責保険の後遺障害認定手続において、右肩関節の拘縮による可動域制限については後遺障害等級12級6号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)に、右鎖骨周囲のしびれについては後遺障害等級14級9号(局部に神経症状を残すもの)に、それぞれ該当し(併合12級)、右小指及び前腕のしびれ、右手筋力低下については自賠責保険における後遺障害に該当しないと判断された。
   原告は、平成27年12月8日、自賠責保険金224万円の支払を受けた。


【争点】

(1)事故態様、双方の過失の有無及び割合(争点1)
(2)原告の損害(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、争点1に関する各当事者の主張は、以下のとおりである。
  (原告の主張)
   原告は、原告車を運転して本件道路を時速約50㎞で走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしていたが、被告車が本件交差道路上の横断歩道に車体前方がかかった位置に静止しているのを発見し、本件交差点に進入するために安全確認をしているものと考えて注視していた。そうしたところ、被告車が突然本件交差点に右折進入してきたため、原告は、被告車との衝突を避けるために急制動の措置を講じ、バランスを崩して転倒した。
  (被告の主張)
   被告は、被告車を運転して本件交差道路を走行し、本件交差点手前の停止線で一時停止して左右の安全確認をした上で、時速約5㎞で前進した時に、右方の本件道路から原告車がスピードを出して進行してくるのに気付き、本件交差道路上の横断歩道に車体が差し掛かる地点(注:本件交差点に進入する前の地点)で停止した。被告車は本件交差点に進入しておらず、原告車の進路にも進入していない。


【裁判所の判断】

(1)事故態様、双方の過失の有無及び割合(争点1)
 ア 認定事実
  a)本件道路は、制限速度が40㎞の片側1車線道路で、両側に外側線が引かれ、歩道が設置されている。走行車線(両側の外側線の間)の幅は対向2車線を合わせて6.1m、両側の外側線と歩道の間は各1.0m、原告車の進路左方の歩道の幅は約3.7mであって、本件交差点において対面に信号機が設置され、本件交差点手前の本件道路上には横断歩道及び停止線がある。
   本件交差道路は、制限速度が30㎞の道路で、両側に歩道が設置されている。車道の幅は4.9mであって本件交差点において対面に信号機はなく、一時停止の規制がされ、本件交差点手前の本件道路上には横断歩道及び停止線がある。
  b)被告は、平成26年6月2日午後8時35分頃、被告車を運転して本件交差道路を走行し、本件交差点に至った。被告は、本件交差点手前の停止線付近で停止した後、徐行して本件道路を走行する車両の動向を見ながら前進したが、その進路右方から本件道路を走行してくる原告車に気付いて停止した。被告車が停止した位置は、本件交差道路上の横断歩道から車体の前部が本件交差点側に約0.9m進入した地点であった。
  c)原告車は、その頃、原告車を運転し、本件道路をa方面からb方面に走行し、本件交差点に至った。原告は、時速約50㎞で走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしていたが、本件交差道路上の被告車を発見し、被告車が本件交差点に向かって進行してきたため、車線の中央付近を走行していた原告車の進路上に進入してくると考え、急ブレーキをかけて被告車との衝突を避けようとしたが、本件道路上の横断歩道及びマンホールで滑って転倒した。
 イ 被告は、本件交差点に進入する前の地点で停止したと主張し、平成26年6月14日に実施された実況見分では同様の指示説明をしているが、本件事故を目撃した第三者が、被告車は横断歩道寄り本件交差点側に進入していたと指示説明していることに反するものであるから、被告車の停止位置に関する被告の主張は採用することができない。
 ウ 以上の事実によれば、被告は、その進路右方から原告車が本件道路を走行してきて対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしているのに、本件交差点に被告車を進入させた過失があり、被告車が本件交差点に進入したことが原告車の転倒の誘因になったと認められる。
   もっとも、左右の見通しの悪い交差点において停止線で一時停止した後に交差道路の状況を見通すことができる位置まで前進すること自体は適切な運転であり、被告は、徐行して前進する間に原告車に気付いて、本件道路の走行車線の延長上にまでは至ることなく、被告車が横断歩道から本件交差点側に約0.9m進入した地点で被告車を停止させたのであるから、被告は一定の注意を払って進行していたといえる。
   他方で、原告は、制限速度を10㎞程度超過して走行してきた上、急ブレーキをかけたため、横断歩道及びマンホールで滑って転倒したものであるが、被告車は徐行して前進し、原告車の進路上にも走行車線にも進入することなく停止しているから、急ブレーキをかけて衝突を避ける必要はなかったといえる。そうすると、原告は、被告車が原告車の進路に進入してくると考え、必要がないのに急ブレーキをかけた結果、原告車のコントロールを失って転倒したといえるから、原告の過失は大きい。
 エ 前記の事故態様並びに過失の内容及び程度を考慮すると、本件事故については原告の過失が大きいというべきであるから、過失割合は、原告8割、被告2とするのが相当である。

(2)原告の損害(争点2)
 ア 治療費     560,525円
 イ 入院雑費      15,000円
 ウ 通院等交通費       34,249円
 エ 文書料      110,480円
 オ 逸失利益   16,780,750円
  a)基礎収入
   証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、
  ①原告が、本件事故当時、柔道整復師として、整骨院を経営し、平日の午前中は同院で施術を行うとともに、株式会社K(原告と代表取締役の2名で各50%出資して設立した訪問マッサージ業を目的とする株式会社である。)の取締役を務め、平日の午後は同社の会議に出席し、マッサージ師に対する施術指導を行っていたこと、
  ②原告の平成25年度の収入が青色申告特別控除前の事業所得46万6,017円及び役員報酬1,440万円であったこと、
  ③同社は、役員が原告と代表取締役の2名、正社員が8名(うちマッサージ師1名)、パートが3名(うちマッサージ師1名)、業務委託先のマッサージ師が23名であること、
  ④同社の代表取締役の報酬は年1,680万円であり、営業職及びマッサージ師に対する給与及び賞与は年500万円から580万円程度であったこと
が認められる。
   以上のことからすれば、株式会社Kの役員報酬1,440万円のうち労務対価分は600万円であると認められ、これと事業所得46万6,017円の合計額646万6,017円を基礎収入とするのが相当である。
  b)労働能力喪失率 14%
  c)労働能力喪失期間 22年間(対応するライプニッツ係数は13.1630)
 カ 入通院慰謝料  1,400,000円
 キ 後遺障害慰謝料    2,900,000円
 ク 小計       21,801,004円
 ケ 過失相殺    ▲17,440,803円(80%)
   コ 損害の填補   ▲1,908,506円
   損害後の残額  2,451,695円
   原告は、平成27年12月8日、自賠責保険金224万円の支払を受けたが、これはまず同日までの遅延損害金(33万1,494円)に充当され、その残額である190万8,506円が元本に充当される。
 サ 弁護士費用      240,000円
 シ 合計      2,691,695円

(3)結論
   原告の請求は、269万1,695円及びこれに対する平成27年12月9日(自賠責保険金の支払日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で理由がある(一部認容)。


 

さいたま地裁平成30年10月30日判決(自保ジャーナル2038号122頁)

本件事故が生じた際の双方車両の位置関係や挙動等並びに双方の供述等ないし指示説明から、すれ違いの際に原告車両が停止していたこと等を認定した事例(甲事件確定)


【事案の概要】

(1)甲事件:原告A、被告B、乙事件:原告C保険会社、被告A

(2)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成26年11月14日午前11時48分頃
   発生場所 さいたま市内の路上(以下「本件事故現場」という。)
   原告車両 A(甲事件原告兼乙事件被告。以下「原告」という。)運転の普通乗用自動車
   被告車両 B(甲事件被告。以下「被告」といい、C保険会社と併せ「被告ら」という。)運転の普通乗用自動車
   事故態様 本件事故現場において、原告車両の右側面後部や被告車両の右側面後部がすれ違い時に接触した(原告及び被告らは、それぞれ、自車の停止中に相手方車両に接触された旨を主張しており、また、接触地点にも争いがある。)。

(3)原告は、不法行為に基づく損害賠償請求として、本件事故による人的及び物的損害(なお、原告車両は、外国製スポーツ車両であり、現存数のごく限られたいわゆる希少車である。)に係る損害金の支払を求めた(甲事件)。
   C保険会社は、被告車両の物的損害に係る保険金をその所有者に支払って代位したことによる求償金請求(原債権である不法行為に基づく損害賠償請求)として、当該物的損害に係る損害金の支払を求めた(乙事件)。


【争点】

(1)本件事故の態様(共通)
(2)原告の損害(甲事件)
(3)消滅時効(乙事件)
   以下、上記(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)前提事実
 ア 本件事故現場のある道路(以下「本件道路」という。)は、中央線の設けられていない幅員6mの対面通行の道路であり、原告車両が保管されていた原告宅(当時)の駐車場からほど近い市街地に位置する。
 イ 原告車両(全長451cm、全幅196cm)は、前後輪のフェンダーが側面外側に膨らみ、中央部が括れた形状となっている。後輪フェンダーの膨らみは前輪フェンダーよりも大きく、後輪フェンダーの中央付近(後輪車軸付近)が側面外側に向かって最も膨らんだ箇所となっている。
 ウ 被告車両(全長360cm、全幅146cm)の側面は、前後に向かっておおむね直線に近いが、本件事故による損傷が生じた箇所の高さでみれば、原告車両ほどではないものの、前後輪フェンダーが、ほぼ同程度、若干側面外側に膨らんでいる。
 エ 本件事故による原告車両の損傷は、右後輪フェンダー前部やや上方付近の高さ10数cm、幅10~20cmほどの浅い擦過痕である。
 オ 被告車両の損傷は、右後輪フェンダー前部の辺縁に沿った付近の幅1.2cmほどの浅い擦過痕である。

(2)本件事故が生じた際の双方車両の位置関係や挙動等
 ア まず、双方車両に前記した以外の損傷がみられないことから、接触の際の双方の車両の相対的な位置関係について、被告車両が原告車両に対して右斜めとなっていたことはなく、また、完全な並行の状態にもなかったことは明らかである(これらの状態であった場合、原告車両には右後輪フェンダー部のより後方にも損傷が生じ、あるいは、被告車両には前記した損傷個所よりも自車前方の他の箇所に損傷が生じるはずである。)。
   そうすると、本件事故での接触の際、被告車両は原告車両に対してわずかに左斜めの確度であったと考えられるが、その場合であっても、いずれかの車両が停止していて、他方の車両が直進進行していたといいう事故態様は、客観的には想定し難い(被告車両が直進進行していたならば、本件事故よりも前の段階で既に接触していたこととなるし、原告車両が直進進行していたならば、右後輪フェンダー部のより後方にも損傷が生じるはずである。)。
   結局、接触の際の状況については、被告車両がわずかに左転把して進行していたか、原告車両が右転把して進行していたか、あるいはその双方であった可能性が残されることとなる。そして、被告車両が左転把していたとした場合、被告車両は原告車両から離れるように進行することとなるし、その点をおくとしても、その右後部が外側にほとんど膨らむことがないことからすれば、通常では考え難いものである。
   本件事故での接触の際は、原告車両が右転把していた可能性が最も高く、また、原告車両が早期に右転把していたとすると、より早い時点で他の箇所が接触すると考えられることからして、比較的低速度でのすれ違いを半ば終えた頃に、わずかに右転把を開始したと考えるのが、最も自然かつ合理的なものということができる(注:被告意見書は、これと概ね同旨をいうものである。)。

(3)双方の供述等ないし指示説明についての検討(すれ違いの際に、いずれの車両が停止していたか)
 ア 本件事故に関し、原告は、大要、以下のとおり供述等(陳述書の記載及び尋問手続における供述をいう。以下同じ)ないし指示説明をする。
  a)右折して本件道路に入った際、被告車両が本件道路の中央付近を対向直進しており、先導車両が減速してすれ違いをする様子を見た。
  b)万が一にも接触するようなことがないように、切替しに使ったアパート駐車場よりもb側にある電柱の手前で原告車両を左に寄せて停止し、被告車両をやり過ごすこととした。
  c)被告車両はそのまま中央付近を対向直進してきたが、すれ違いの際に短い衝撃音がして、当てられたことが分かった。
  d)被告車両の動きを確認したところ、被告車両はそのまま加速するように進行して、本件道路のb側にある丁字路付近交差点で、一時停止もせずに右折して走り去った。
  e)直ちに、前方にあるアパート駐車場の空きスペースを使って切り替して追跡し、本件事故現場から200mほどの場所にある交差点で、赤信号待ちをしている被告車両を発見した。
  f)青信号で発進した被告車両のすぐ後方に追い付き、クラクションを鳴らしたが、被告車両が停止しなかったので、追い越して前方に入り、被告車両を停止させた。
 イ 他方、被告は、大要、以下のとおり供述等ないし指示説明をする。
  a)本件道路を進行していたところ、ベンツ(注:原告車両の先導車両)が対向直進してきたので、原告が切替しに使ったとするアパート駐車場よりもa側の付近で、被告車両を左に寄せて減速し、停止する直前頃にベンツとすれ違った。
  b)その際にベンツの後方から原告車両が対向直進してくるのを見て、このまま停止して原告車両をやり過ごすこととした。
  c)原告車両はそのまま進行して通過して行ったが、すれ違いの際に自車後方から軽い擦過音が聞こえて、当てられたことがわかった。
d)原告車両の動きを確認したが、そのままa方面の交差点付近まで走って行ってしまった。
  e)関わり合いになりたくなかったので、追いかけることはせず、そのまま被告車両を発進させ、b側にある丁字路交差点を右折した。
  e)右折した先の交差点で赤信号待ちをし、青信号で発進したところ、後方から来た原告車両が被告車両を追い越して、進路を塞ぐように前方で停止したので、被告車両を停止させた。
 ウ 上記アイの双方の供述等ないし指示説明をみるに、原告車両が、本件事故からさほどの間をおかずに、本件事故現場からほど近い場所で被告車両に追い付き、これを停止させたことは、被告も自任するところであって、証拠(略)によってもこれが認められる。
   そうすると、被告車両の走り去る方角を確認していたため、直ちに反転追跡して追い付くことができたとする原告の供述等ないし指示説明は、ごく自然であるとともに、相応の裏付けを伴うものということができる。また、本件道路に原告車両が急ぎ切り替えせるような場所は、原告が供述等するアパート駐車場の他に見当たらない。
   他方、被告の供述等ないし指示説明を前提とすると、原告車両は、当て逃げをして走り去ったにもかかわらず、かといってそう遠くまで走り去ったわけでもなく、被告車両のその後の進行方向を見届けてこれを追跡したことになるが、仮に、原告が当て逃げをしたとしても、そのような不可解な行動に及ぶべき動機ないし理由は直ちには見出し難い。被告において、当て逃げをされたにもかかわらず、被告車両の損傷状況すらも確認せず、早々に追及を断念してその場を離れたというのも、にわかには得心し難いものである。
   このほか、不測の事態を避けるべく先導車両まで準備していた原告が、肝心のしれ違いの際に、接触の危険を顧みることもなく原告車両を進行させたなどとは、にわかには想定し難いことも併せ考えれば、本件事故の際の双方の車両の挙動の点は、前記(2)にて述べたとおりであるものの、その前後の経緯については、原告の供述等ないし指示説明を採用するのが相当である。

 (4)小括
   以上に述べたところからすれば、本件事故の態様は、次のとおりである。
     a)原告は、本件道路を対面直進してくる被告車両を認めてその通過待ちをすることとし、原告車両を左に寄せて停止したところ、
  b)被告は、双方の車両の車間間隔を適切に保持することなく被告車両を進行させ、原告車両に極めて近接した状況下でのすれ違いを開始した。
  c)そして、原告は、少なくともすれ違いを開始した後は比較的低速度で進行していた被告車両がすれ違いを半ば終えて、自車後方に位置した頃に、わずかに右転把して進行を再開し(注:それまで、原告車両は停止していた。)、その直後、被告車両の右後輪フェンダーと原告車両の右後輪フェンダーがわずかに接触した。
   上記に述べた本件事故の態様によれば、被告に、側方の車間距離を適切に保持せずにすれ違いをした点で過失があることは明らかであり、他方、原告については、すれ違いを終える前に原告車両をわずかながら進行させた点に過失が認められ、その過失割合については、原告30、被告70とするのが相当である。

(5)結論
   甲事件:一部認容、乙事件:棄却(注:Aによる消滅時効の抗弁を容れた。)


 

神戸地裁平成30年1月30日判決(交通民集51巻1号108頁)

駐車区画から退出する車両の運転者は、停止状態から発進することから、通路走行車両の運転者よりも重い注意義務があると判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平28年2月17日午後4時30分頃
 イ  発生場所 兵庫県三木市a店(以下「本件店舗」という。)駐車場(以下「本件駐車場」という。)
 ウ 原告車両 自家用普通乗用自動車
   運転者  原告A(事故当時39歳)
   所有者  原告B
   被告車両 自家用普通乗用自動車
   運転者  被告(事故当時65歳)
 オ 事故態様 道路から右折して本件駐車場に進入し、駐車区画に駐車しようとした原告車両の右フロントドア付近と、本件駐車場の駐車区画から後退して駐車場を出ようとした被告車両の後面右側が衝突した。

(2)原告Aは、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右半身打撲と診断され、平成28年2月19日から同年5月14日まで、C整形外科に通院した(原告Aが本件事故により受傷したか否か及び通院期間等の相当性は主要な争点である。)。


 【争点】

(1)本件事故態様及び被告の過失の有無、過失割合
(2)損害の有無及びその算定
   以下、上記についての、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、被告は、(1)に関して、本件事故時に原告車両が停止していなかったことを主張し、(2)に関して、原告Xが受傷するような外力は加わっていないことを主張した。


【裁判所の判断】

(1)本件事故態様及び被告の過失の有無、過失割合
 ア 本件事故態様
  a)本件駐車場は、本件店舗側に駐車区画として5区画が設けられ、本件駐車場と本件車道との間には幅員約5.6mの歩道(以下「本件歩道」という。)が設けられ、本件歩道と本件駐車場との間には有蓋側溝が設けられている。本件車道から本件駐車場に出入りするための特別の進入・退出口は設けられていない。
  b)原告Aは、本件車道を南進して本件駐車場手前で右折し、本件車道に進入しようとし、本件歩道上を本件駐車場に向けて走行していた際、本件駐車場の北から2区画目に、車両前方を本件店舗側に向けて駐車していた被告車両が、後進しようとするのを発見した。
  c)原告Aは、本件駐車場の北から4番目の駐車区画手前の通路部分に進入し、被告車両が駐車していた区画の南側(本件駐車場の北から3番目の区画)駐車しようとし、被告車両の動静をうかがったところ、被告車両は、左折後進して原告車両の方へ向かってきており、原告Aは原告車両を別紙図面(略。以下同じ。)の㋐の位置に停止したところ、被告車両は一旦停止したが、なおも後進を続けたため、同図面の✕付近で、被告車両の右後角部辺りを原告車両の右フロント付近に衝突させた。原告車両は衝突後にクラクションを鳴らした。
  d)被告は、被告車両の保有者であるところ、被告車両を本件駐車場から発進するため、上記駐車区画から後進させようとし、その際は、目視で後方を確認したが、その後は被告車両に備え付けられたカメラのモニター画面を見ながら後進を続けた。
   もっとも、被告の供述によれば、本件衝突前にはギアをニュートラルに入れていたため、上記モニター画面は作動しておらず、また被告は、少なくともモニター画面を見始めてからは直接目視で又はルームミラーやドアミラーを通じて、後方を確認することは一切なかった。したがって、被告は、本件事故まで原告車両の存在に全く気付いておらず、制動装置をとることもなかった。
  e)被告車両は、本件事故により右後角部に損傷が生じ、見かけ上損傷は酷くはないが、バックドアパネルの修理、リアバンパカバーの取替等を要し、修理費用として13万5000円を要した。
   他方、原告車両は、右フロントドアに相当の凹みが生じており、右ドアミラーが倒れた際、ミラーベースと接触しミラー内側が損傷する等の損傷を受け、これらの取替を要し、修理費用12万9000円を要した。
イ 被告の過失の有無
  本件事故は、被告車両の保有者である被告が、本件駐車場から発進するため、駐車区画に駐車していた被告車両を後進させる際、後方確認不十分のまま後進を続けて過失により、折から本件駐車場内で被告車両の動静を見るために停止していた原告車両に衝突させたものと認められる。よって、被告には、自賠法3条に基づき原告Aに生じた人身損害及び民法709条に基づき原告Bに生じた物的損害を賠償する責任がある。
ウ 過失割合
 a)店舗駐車場においては複数の車両が出入庫を行い、その動きも複雑となる場合が多い。そのため、駐車のため駐車場内通路を走行する車両及び駐車区画から退出する車両ともに、通路内走行車両や駐車区画出入車両の動静に注意し、衝突を回避できるような速度と方法で通路を走行し又は出入庫すべき義務があるというべきである。そして、駐車区画から退出する車両の運転者は、停止状態から発進することになるから安全確認等がより容易であるといえ、通路走行車両の運転者よりも重い注意義務があるというべきである。
   加えて、本件のように退出車両が後進する場合には、車両後方の視界が前進する際よりも制限されるため、退出車両の運転者は、よりいっそう慎重に走行すべき義務があるといえる。
   さらに、前記認定のとおり、本件駐車場は、通路の左右に駐車区画が設置されているわけではなく、道路の一方(本件店舗側)に駐車区画があるうえ、通路部分は、本件歩道や本件車道に向かって見通しがよいことも考慮すると、駐車区画から退出する車両の運転者である被告は、通路走行車両の有無及び動静をより容易に確認できるということができる。
   しかるに、前記認定のとおり、被告は、自車の進行方向である後方を全く見ていなかった上、通路部分で停止していた原告車両に衝突したのであるから、被告の注意義務違反の程度が著しいといえ、上記のとおり本件事故時には停止状態であった原告Aとしては、事故の発生を未然に防ぎ、これを回避する措置はほぼ期待できなかったといえる。
  b)もっとも、原告Aとしても、本件駐車場の通路に進入する前に被告車両が後進して駐車区画から退出しようとしていることを確認しているのであるから、原告車両停止位置である通路部分まで原告車両を進入させずにその手前で停止させるべきである。また、原告Aは、停止後も被告車両の動静を注視しており、被告車両が原告車両に向かって後進し、危険を感じたのであるから、被告の注意を促すためにクラクションを鳴らすなどの措置をとるべきであったといわざるを得ない。
   よって、これらの過失を斟酌すれば、原告らに生じた損害の5%を過失相殺として減じるべきである。
  c)この点、被告は、原告車両が停止していたことを否認する。
   しかし、被告は、本件事故発生まで原告車両の有無にすら気付いていなかったのであるから、原告車両の動静については、特にその内容等に不自然なところがない限り、原告A本人の供述(陳述書の記載を含む。以下同じ。)に準拠せざるを得ない。そして、同供述に特段不自然なところはない。

(2)損害の有無及びその算定
 ア 原告Aの損害
  a)受傷の有無について
   原告Aは、本件事故によって、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右半身打撲の傷害を受け、その治療のため平成28年2月19日から同年5月14日まで、C整形外科に通院(実通院日数24日)した。
   被告は、原告Aの受傷を否認する。
   しかし、前記認定のとおり、原告車両の右フロントドアは相当程度凹んでおり、被告車両の見た目の損傷状況にかかわらず、原告車両の運転席にいた原告Aに相当の衝撃が加わったことは優に推認できる。また、外力の入力方向が原告の身体の右から左にかけてであることから、原告Aが被告車両の動静を見ていたとしても、なお原告Aに捻挫等を生じさせるような外力が加わったことは否定できないというべきである。
  b)必要な治療期間について
   被告は、平成28年月中(22日ころ)には原告Aの症状は軽快していた旨主張する。
   しかし、カルテには、平成28年2月22日欄に「痛み軽い」と、同月24日欄に「鎮痛剤なくても良いぐらい」との記載があるが、上記「痛み軽い」の後ろには「鎮痛剤少し効果あり」との記載がある。また、同じカルテによれば、原告Aは医師に対し、平成28年2月19日から3月1日まで会社を休んだことを訴えている上、原告Aは、その後も通院治療中、時折痛みを訴えており、医師も物理療法や投薬を継続していることが認められる。よって、被告の上記主張は採用できない。したがって、上記の通院期間は原告Aの受傷を治療するのに必要な期間であったというべきである。
  c)損害の算定
  ①治療費 2万7100円
  ②傷害慰謝料 48万円
   原告Aの受傷内容が他覚的所見に乏しいこと、通院期間が86日(実通院日数27日)であること等を考慮すれば、上記金額が相当である。
  ③休業損害 16万9502円
   前記a)の原告Aの通院状況、受傷内容等を総合すれば、原告Aは、平成28年3月末日まで(通院期間44日)、部分的に休業を余儀なくされ、その間の実通院日数17日について、平成27年度賃金センサスの女子・学歴計・全年齢平均賃金である372万7100円を365日で除した日額1万0211円の50%相当の、その余の27日について上記日額の30%相当の休業損害が発生したと認めるのが相当である。
   (計算式)3,727,100円÷365日=10,211円
        10,211円×(17日×0.5+17日×0.3)=169,502円
  d)合計額及び過失相殺
   上記の合計は、67万6602円となり、その5%を減ずれば、64万2771円となる。
 イ 原告Bの損害
   前記(1)アe)のとおり、原告車両の修理費として12万9000円を要し、これは原告Bの損害と認められる。
   過失相殺としてその5%を減ずれば、12万2550円となる。

(3)結論
   原告Aの請求は64万2771円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告Bの請求は64万2771円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある(一部認容)。