東京高裁平成31年3月14日判決(自保ジャーナル2049号139頁)

第三者を立会人とする実況見分調書は、これに反する内容の同人作成名義の各報告書よりも信用性が高いとして、控訴人には、赤信号で本件交差点に進入した過失があると認めた事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成24年7月20日午後11時55分頃
 イ 発生場所 東京都足立区の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)
 ウ 原告車 原告の運転する原動機付自転車
 エ 被告車 被告の運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 原告が、原告車を運転して本件交差点に進入したところ、交差する右方道路から走行してきた被告車の左側面と原告車の前部が衝突した。

(2)原告は、本件事故により、脳挫傷、右大腿骨頸部骨折、橈骨頸部解放骨折、顔面多発骨折、顔面外傷性異物、外傷性くも膜下出血、頭蓋底骨折等の傷害を負い、B大学附属病院等に入通院した。
   原告の症状は、B大学附属病院神経内科のD医師作成の頭部外傷後遺症の診断日である平成27年7月39日には症状固定するに至った。

(3)原告は、自賠責保険の後遺障害等級認定において、高次脳機能障害については後遺障害等級7級4号に、右下肢の短縮障害については後遺障害等級13級8号に該当し、併合6級に該当すると判断された。
   原告は、被告の加入する自動車損害賠償責任保険から、平成25年7月31日に120万円、平成28年5月26日に1,190万円の支払を受けた。


【争点】

(1)事故態様及び過失の有無・過失割合(争点1)
(2)原告の損害(争点2)


【原審の判断】

   原審(東京地裁平成30年10月23日判決・自保ジャーナル2049号144頁)は、上記(1)について、概要、以下のとおり判示した。
 ア 原告車と被告車は、本件交差点に進入し、【×】1地点(別紙1(略)図面の地点。以下同様。)で原告車の前部と被告車の助手席側ドア付近が衝突した。
   被告車は、原告車と衝突した後、対向車線に進入し、【丙】地点で、Eが運転する普通乗用自動車(個人タクシー。以下「E車」という。)の右側面に衝突した。
   Eは、E車を運転して、本件交差点に向かって走行していた。Eは、対面信号が赤になったため停止した前車に続いて【甲】地点で停止した。Eは、対面信号が青になったため、前者に続き発進した。Eは、(注:【乙】地点まで進行したところで)衝突音を聞いて、交差点内で原告車と被告車が衝突したことに気づき、ブレーキをかけてE車を【丙】地点で停止させた。【甲】地点から【乙】地点(注:Eが交差点で原告車と被告車が衝突するのを見た地点)までの距離は2.9m、【乙】地点から【丙】地点までの距離は1.5mであった。
   原告の対面信号は、被告の対面信号も赤信号となる全赤の状態が2秒続き、赤が32秒表示され、再度全赤の状態が2秒続いた後、青が21秒表示され、黄色が3秒表示され、再び全赤の状態が2秒続くというサイクルの表示であった。
 イ Eは、本件事故現場において、平成24年7月21日午前1時15分から午前1時40分までの間に実施された本件事故の実況見分に立会い、以下のとおり指示説明した。
   「見通しは、別紙1(略)図面の【甲】地点で前方約50m。前車に続き、前方交差点の信号機【S】に従い停止したのは【甲】地点。交差点で車(注:被告車)とバイク(注:原告車)が衝突するのを見たのは【乙】地点、衝突したのは【×】1地点。その時の車は①地点、バイクは【ア】地点。事故を見てブレーキをかけ停止したのは【丙】地点。相手の車と衝突したのは【×】2地点、その時の私は【丙】地点、相手は②地点。私の車は【丙】地点でそのまま停止し、相手の車は③地点に停止。バイクが転倒したのは【イ】地点。バイクの運転手が倒れたのは【ウ】地点。」
 ウ Eは、G共済(注:Eの加入する自動車損害賠償責任共済と思われる)に対し、本件事故につき、以下のとおり報告し、それに基づき報告書(以下「本件報告書①」という。)が作成された。
   「自車、交差点前車に続き赤信号停止中、対向より乗用車が信号無視で通過してきてバイクと衝突し、交差点で車両は停止し。再度更に発進し、自車に衝突してきた。」
 エ Eは、原告の父から依頼され、平成24年11月21日付けの「事故内容報告書」と題する書面(以下「本件報告書②」という。)に署名押印した。同書面には、本件事故につき、以下のとおり記載されている。
   「上記の事故内容は、私、E個人タクシーが前車に続き赤信号停止中、対向より信号無視の○○殿(注:被告。以下同じ。)が無灯火で進行して来た為、左側より進行してきたバイクと衝突し、○○殿が停止した。車両が交差点の中にあり、再度発進させた際、停止中のE車両にハンドル操作ミスで衝突してきて、損害が発生した事故である。○○殿が赤信号で、交差点内に進行して来たことに間違いありません。」
 オ 上記認定の事実によれば、Eは、E車を運転して、対面信号が赤であったため、前車に続いて停止し、対面信号が青信号になったため発進した前車に続いて発進し、2.9mほど進んだ地点において、衝突音を聞いて、交差点内での原告車と被告車が衝突したことに気づいたことから、ブレーキをかけて停止したことが認められ、E車の対面信号、すなわち被告車の対面信号が青信号になってから本件事故が起きるまでの間、それまで赤信号で停止していたE車の前車がまず発進し、その後にE車が続いて発進して一定の距離を進むまでの間、一定の時間が空いていたことが認められることから、被告車は、青信号で本件交差点に進入したものと推認される。
 カ もっとも、Eの対面信号が青信号になってからEが衝突音を聞くまでの間の時間はそれほど長い時間ではなかったものと考えられることからすると、被告車が本件交差点に進入した時点は信号の変わり目であったものと考えられるところ、本件道路から本件交差点に進入してくる車両があることも想定されることから、その車両の有無や動静に注意して安全に進行すべき注意義務があったのに、被告は原告車の動静を注視する義務を怠っており、被告には一定の過失が認められる。一方、原告には、赤信号で本件交差点に進入した過失がある。
   本件事故態様、双方の過失の内容・程度を考慮すれば、過失割合については、原告90%、被告10%とするのが相当である。


【裁判所の判断】

(1)上記【原審の判断】カを、以下のとおり改める。
   そうすると、控訴人(注:原告)には、赤信号で本件交差点に進入した過失があり、本件事故は、控訴人の一方的な過失で生じたものと認めるのが相当である(前記のとおり、対面信号の表示が青色に変わった後、一定の時間が経ってから被控訴人(注:被告)は本件交差点に進入したものであるから、被控訴人の側に過失があるとは認められない。)。
   したがって、争点2(控訴人の損害)の点について判断するまでもなく、控訴人の本件請求は理由がないこととなる。

(2)控訴人は、実況見分調書は、警察がEの言い分を聞かずに作成したものであって信用できず、本件報告書①及び本件報告書②の内容の方がより信用できるものであるとして、本件事故は、被控訴人が赤信号無視をしたことによって生じた旨主張する。
   しかし、Eを立会人とする実況見分は、本件事故の直後に実施されており、その調書には、自車の前に存在した車両が発進したことや、それに引き続いて自車も発進した直後に本件事故を目撃してブレーキをかけたこと等、具体的な指示説明の内容が記載されているのであるから、その信用性は高いものということができる。
   仮に、警察が自らの言い分を聞いてくれずに認識と異なる実況見分が行われたというのであれば、実況見分のやり直しを求めてしかるべきであるし、少なくとも、そのことが明確な記憶となって残るのが通常と思われるところ、証人Eは、法廷において、本件事故時の対面信号の色は覚えていないし、実況見分についてもよく分からないといったように、あいまいな供述に終始しているのであるから、実況見分がEの認識に反して作成されたと認めることはできない。
   そして、その後に作成された本件報告書①及び本件報告書②について、証人Eは、事故報告のために形式的な内容を口頭で話したにすぎないとか、控訴人の父親が持ってきた書面の内容を確認することもなく署名押印したものであるといった趣旨の供述をしており、これらの報告書の内容の真実性を明言しているわけではないし、E車に車を衝突させた被控訴人の事故対応に不満を抱いていたことが認められるから、全体として被控訴人に落ち度があると思い込んだ可能性等も否定できないところであって、いずれにせよ、これらの報告書が実況見分調書よりも信用性の高いものということはできない。

(3)結論
   控訴人の請求を棄却した原判決(注:同判決は、損害の填補(自賠責保険金)1,310万円を過失相殺後の損害額に充当すると、損害賠償債務全額が填補されたことになるとして、原告の請求を棄却した。)は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却する。


 

京都地裁令和元年9月27日判決(自保ジャーナル2059号139頁)

被告車のフロントガラスにクモの巣状の割れがある一方、原告が右頭部及び右顔面を打撲していること等から事故態様を推認し、これに反する原告の主張を認めなかった事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成27年3月3日午後6時45分頃
 イ 発生場所 京都市内路上(以下「本件道路」という。)
 ウ 加害車両 被告(当時74歳)運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)
 エ 被害者 自転車に乗るか又は自転車を押して道路を横断中の原告(当時77歳)(以下、この自転車を「原告自転車」ということがある。)
   オ 事故態様 本県道路を南から北に横断中の原告と、東から西に進行してきた被告車が、出会い頭に衝突した。

(2)原告は、本件事故により、右半身打撲、右上腕骨骨折、右腓骨骨折、右外踝骨折、右足関節骨折、右助骨骨折、右頬骨骨折、鼻骨骨折、頸部挫傷、口内切創、顔面多発挫創顔面・頭部皮下血腫顔面瘢痕拘縮等の傷害を負った。
   原告は、本件事故後、各医療機関等に入院(52日)及び通院(期間961日、実日数142日、ただし、2日は重複)をし、治療を受けた。なお、C病院における治療の経過は、以下のとおりである。
 ア 平成27年3月3日~同年4月23日 入院52日(うち同年3月3日~同年4月2日までギプスシーネ固定)
 イ 平成27年4月27日~平成29年12月12日 通院(実日数57日)

(3)原告は、C病院において、平成29年12月12日をもって症状固定とする旨の診断を受けた。
   原告は、本件事故による後遺障害について、自賠責保険の後遺障害等級認定(事前認定)において、自賠法施行令別表第二の後遺障害等級併合12級(注:右前額部及び右頸部の2ヶ所の瘢痕について、12級14号、右顔面のしびれ、つっぱり感、痛み、知覚低下について、14級9号等)の認定を受けた。


【争点】

(1)事故態様(争点1)
(2)過失割合(争点2)
(3)本件事故と相当因果関係のある治療の範囲(争点3)
(4)原告の損害(争点4)
   上記(1)及び(2)についての裁判所の判断は、以下のとおりである。


   なお、争点1(事故態様)に関する当事者の主張は、以下のとおりである。
 ア 原告の主張
   原告は、自転車を押して徒歩で本件道路を南から北に向けて横断中、本件事故に遭った。そのことは、次の事実等により裏付けられる。
   a)原告は、C病院において、自転車を押して歩行中に本件事故に遭った旨説明している。
   b)原告は高齢であり、本件事故現場は南から北に向けて上り坂となっているため、普段から同じ経路を自転車を押して徒歩で通行している。ましてや本件事故当時は雨であったから、原告が自転車に乗って道路を横断しようとしたとは考え難い。
 イ 被告の主張
   原告は、自転車に乗って本件道路を横断中、本件事故に遭った。そのことは、次の事実等により裏付けられる。
   原告は、本件事故時、右側(東側)から来た被告車のフロントガラスで右頭部や右顔面を打撲している。これは、原告が自転車に乗った状態で右から衝突され、自転車だけが左に飛ばされ、原告の身体が被告車のフロントバンパー上に跳ね上げられて生じたことである。原告が説明するように自転車を右側にして徒歩で横断していたとすれば、原告の身体も自転車とともに左に飛ばされ、フロントガラスに頭部等をぶつけることはない。


【裁判所の判断】

(1)争点1(事故態様)について
 ア 本件事故に至る経緯及び態様は、以下のとおりと認められる(以下の【ア】、【A】等の符号は、別紙交通事故現場見取図(実況見分調書の写し。(以下「別紙見取図)という。)のそれを指す。)。
  a)本件事故の現場(以下「本件現場」という。)は、本県道路の西行き車線の第2車線(右側の車線)上である。
   本件事故当時、【A】地点には駐車車両があり、原告及び被告からの他害の見通しはよくなかった。
  b)原告はK株式会社L店(注:原告は、従前から夫の経営するクリーニング店(株式会社K)の本店での各種業務に従事するとともに、平成27年1月以降は、新たに開店したクリーニング取次店である、K株式会社L店の業務に従事していた。)での勤務を終え、本店に帰るため、原告自転車に乗って本件現場に至った。
   原告が自転車に乗って本件道路を南から北に横断しながら【×】地点に至ったところ、東から西進してきた被告車と衝突した。
  c)被告は、被告車を運転して本件現場の手前の②地点に差し掛かり、前方③地点まで進んだところで、【ア】地点を南から北に横断する原告を発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、【×】地点で原告自転車と衝突した後、⑤地点で停車した。
 イ 原告の主張等の検討
  a)原告は、上記認定に反し、本件事故当時、自転車を押して歩いていたと主張し、これに沿う供述をし、陳述書にも同旨の記載がある。
   そして、C病院のカルテには「自転車を押して歩いている時、軽自動車にぶつけられた」との記載があり、また、D大学病院(注:原告は、C病院入院中の平成27年3月5日及び4月13日、右眼瞼浮腫が強く視力に不安があるとして、C病院の紹介によりD大学病院眼科を受診した。)の眼下の診断書にも「自転車を押して歩いていた際に自転車が衝突」との記載があるところ、これらは原告の上記主張等に沿うものである。
  b)しかし、まず、カルテの記載についてみると、B病院(注:原告は、平成27年3月3日、本件事故で【事案の概要】(2)の傷害を負い、B病院に救急搬送されたが、同病院への入院の適応はないとしてC病院に転送された。)のカルテには「自転車を道路で横断」との記載があり、また、D大学病院のカルテには「自転車に乗っている時に自動車が衝突」との記載があることからすると、これらのカルテ記載と上記a)のカルテ記載のいずれが真実を反映したものであるかは定かではなく、上記a)のカルテ記載を決め手とすることはできない。
   次に、被告車のフロントガラスにクモの巣状の割れがあり、他方で、原告が右頭部及び右顔面を打撲していることからすると、本件事故により原告の身体が被告車のボンネットに跳ね上げられ、フロントガラスで頭部等を打撲したものと推察されるところ、本件事故の態様が、原告が自転車を右側にして歩いている際に右から被告車に衝突されたとすれば、原告は、自転車とともに左側に跳ね飛ばされる可能性が高く、ボンネット上に跳ね上げられる可能性は低いと考えられる。他方で、原告が自転車に乗って走行している歳に被告車に衝突されたとすれば、ボンネット上に跳ね上げられてフロントガラスで頭部等を打撲する状況は容易に起こり得るといえる。
   さらに、本件事故後の原告自転車の写真をみると、頑強に固定されている状態であるという原告自転車のサドルが左(反時計回り)に約90度に回転している様子がみてとれる。この状態がどのようにして生じたかを明らかにする客観的証拠はないが、本件事故の際、被告車の前部のナンバープレート部分と原告自転車の後輪の車軸の突起部分が衝突した痕跡があることからみて、原告自転車の後ろ約半分と被告車の前部が衝突したものと認められるところ、原告が自転車に乗って走行している状態で、自転車の後ろ約半分に右側から被告車が衝突した場合、原告がサドルを両方の大腿で挟んで座っているために、自転車の後部が左側にはじかれると、原告の座るサドルが左に回転することが起こり得るといえるから、上記サドルの状況は原告が自転車に乗って走行していたことを推認させる1つの事情といえる。
  c)以上の諸点を踏まえれば、原告は自転車に乗って本件現場を走行中に本件事故に遭った可能性が高いといえるから、本件事故態様は前記アのとおりと認められ、原告の前記a)の主張・供述等はこの認定を左右しないというべきである。

(2)争点2(過失割合)について
   前記(1)の認定を踏まえると、原告と過失の割合は、次のとおりと判断される。
 ア 原告は、幹線道路である本件道路を横断するに当たり、車両の動静に十分注意して横断する義務があるのにこれを怠り、東側から進行してくる車両の動向を十分確認しないまま横断を開始した点で過失がある。
 イ 被告は、別紙見取図の【A】地点に駐車車両があったとはいえ、②地点からは【ア】地点付近を確認することができる状況にあったといえるところ、前方を横断する歩行者や自転車の有無についての注視を怠ったために、本件道路を横断する原告自転車の発見が遅れ、急ブレーキをかけたが間に合わずに本件事故を発生させた点で過失があったといえる。
 ウ 以上のとおり、本件事故は、原告と被告の双方の過失が競合して発生したといえるが、普通乗用自動車と自転車との間の事故であるから、前者の注意義務がより重く、被告の過失が大きいといえる。
   もっとも、本件現場が自動車の通行量の多い幹線道路上であったことや、夜間でかつ雨天であったために、道路を横断する自転車等の発見が難しい状況であったことは、被告に有利に斟酌すべき事情といえる。他方、原告が当時77歳の高齢者であったこと自転車に乗っていたというものの、本件現場付近は北に向かった上り勾配になっているため、一般的な自転車に比べて低速度であったとうかがわれることは、原告に有利に斟酌すべき事情といえる。
   以上の諸事情を総合考慮すれば、原告と被告の過失割合は30対70とするのが相当である。


 

東京地裁平成31年2月22日判決(自保ジャーナル2045号111頁)

自動二輪車を運転する原告は、必要がないのに急ブレーキをかけた結果、自車のコントロールを失って転倒したとして、原告に8割の過失を認めた事例(控訴中)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成26年6月2日午後8時35分頃
 イ 発生場所 東京都世田谷区(地番略)先の交差点(以下「本件交差点」という。)
 ウ 原告車  原告運転の普通自動二輪車
 エ 被告車  被告運転の普通乗用自動車
 オ 事故態様 原告車が、片側1車線の道路(以下「本件道路」という。)を走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に直進入する際に、左方の交差道路(以下「本件交差道路」という。)から本件交差点に左折進入しようとした被告車との衝突を避けようとして転倒した(なお、被告車が交差点内に進入したかどうかは争いがある。)。

(2)原告(昭和43年7月生、本件事故時45歳。)は、本件事故により、右鎖骨骨折、右第2助骨骨折、右大腿部打撲等の傷害を負った。原告は、Bセンターその他の医療機関及びC整骨院に、平成26年6月2日から平成28年2月2日まで(注:症状固定後の通院を含む。)入通院した。
   Bセンターの医師は、平成27年1月30日、以下の内容を記載した後遺障害診断書を作成した。
 ア 症状固定日 平成27年1月14日
 イ 傷病名 右鎖骨骨折
 ウ 自覚症状 右鎖骨周囲しびれ、右小指前腕にしびれ、右手筋力低下
 エ 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果 感覚神経伝達速度低下、MRIで右肩板部分断裂、右肩しびれ、右手筋力低下
 オ 関節機能障害 肩:屈曲 右100度、左180度 伸展 右30度、左50度

(3)原告は、平成27年12月4日、自賠責保険の後遺障害認定手続において、右肩関節の拘縮による可動域制限については後遺障害等級12級6号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)に、右鎖骨周囲のしびれについては後遺障害等級14級9号(局部に神経症状を残すもの)に、それぞれ該当し(併合12級)、右小指及び前腕のしびれ、右手筋力低下については自賠責保険における後遺障害に該当しないと判断された。
   原告は、平成27年12月8日、自賠責保険金224万円の支払を受けた。


【争点】

(1)事故態様、双方の過失の有無及び割合(争点1)
(2)原告の損害(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、争点1に関する各当事者の主張は、以下のとおりである。
  (原告の主張)
   原告は、原告車を運転して本件道路を時速約50㎞で走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしていたが、被告車が本件交差道路上の横断歩道に車体前方がかかった位置に静止しているのを発見し、本件交差点に進入するために安全確認をしているものと考えて注視していた。そうしたところ、被告車が突然本件交差点に右折進入してきたため、原告は、被告車との衝突を避けるために急制動の措置を講じ、バランスを崩して転倒した。
  (被告の主張)
   被告は、被告車を運転して本件交差道路を走行し、本件交差点手前の停止線で一時停止して左右の安全確認をした上で、時速約5㎞で前進した時に、右方の本件道路から原告車がスピードを出して進行してくるのに気付き、本件交差道路上の横断歩道に車体が差し掛かる地点(注:本件交差点に進入する前の地点)で停止した。被告車は本件交差点に進入しておらず、原告車の進路にも進入していない。


【裁判所の判断】

(1)事故態様、双方の過失の有無及び割合(争点1)
 ア 認定事実
  a)本件道路は、制限速度が40㎞の片側1車線道路で、両側に外側線が引かれ、歩道が設置されている。走行車線(両側の外側線の間)の幅は対向2車線を合わせて6.1m、両側の外側線と歩道の間は各1.0m、原告車の進路左方の歩道の幅は約3.7mであって、本件交差点において対面に信号機が設置され、本件交差点手前の本件道路上には横断歩道及び停止線がある。
   本件交差道路は、制限速度が30㎞の道路で、両側に歩道が設置されている。車道の幅は4.9mであって本件交差点において対面に信号機はなく、一時停止の規制がされ、本件交差点手前の本件道路上には横断歩道及び停止線がある。
  b)被告は、平成26年6月2日午後8時35分頃、被告車を運転して本件交差道路を走行し、本件交差点に至った。被告は、本件交差点手前の停止線付近で停止した後、徐行して本件道路を走行する車両の動向を見ながら前進したが、その進路右方から本件道路を走行してくる原告車に気付いて停止した。被告車が停止した位置は、本件交差道路上の横断歩道から車体の前部が本件交差点側に約0.9m進入した地点であった。
  c)原告車は、その頃、原告車を運転し、本件道路をa方面からb方面に走行し、本件交差点に至った。原告は、時速約50㎞で走行し、対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしていたが、本件交差道路上の被告車を発見し、被告車が本件交差点に向かって進行してきたため、車線の中央付近を走行していた原告車の進路上に進入してくると考え、急ブレーキをかけて被告車との衝突を避けようとしたが、本件道路上の横断歩道及びマンホールで滑って転倒した。
 イ 被告は、本件交差点に進入する前の地点で停止したと主張し、平成26年6月14日に実施された実況見分では同様の指示説明をしているが、本件事故を目撃した第三者が、被告車は横断歩道寄り本件交差点側に進入していたと指示説明していることに反するものであるから、被告車の停止位置に関する被告の主張は採用することができない。
 ウ 以上の事実によれば、被告は、その進路右方から原告車が本件道路を走行してきて対面信号機の青色表示に従って本件交差点に進入しようとしているのに、本件交差点に被告車を進入させた過失があり、被告車が本件交差点に進入したことが原告車の転倒の誘因になったと認められる。
   もっとも、左右の見通しの悪い交差点において停止線で一時停止した後に交差道路の状況を見通すことができる位置まで前進すること自体は適切な運転であり、被告は、徐行して前進する間に原告車に気付いて、本件道路の走行車線の延長上にまでは至ることなく、被告車が横断歩道から本件交差点側に約0.9m進入した地点で被告車を停止させたのであるから、被告は一定の注意を払って進行していたといえる。
   他方で、原告は、制限速度を10㎞程度超過して走行してきた上、急ブレーキをかけたため、横断歩道及びマンホールで滑って転倒したものであるが、被告車は徐行して前進し、原告車の進路上にも走行車線にも進入することなく停止しているから、急ブレーキをかけて衝突を避ける必要はなかったといえる。そうすると、原告は、被告車が原告車の進路に進入してくると考え、必要がないのに急ブレーキをかけた結果、原告車のコントロールを失って転倒したといえるから、原告の過失は大きい。
 エ 前記の事故態様並びに過失の内容及び程度を考慮すると、本件事故については原告の過失が大きいというべきであるから、過失割合は、原告8割、被告2とするのが相当である。

(2)原告の損害(争点2)
 ア 治療費     560,525円
 イ 入院雑費      15,000円
 ウ 通院等交通費       34,249円
 エ 文書料      110,480円
 オ 逸失利益   16,780,750円
  a)基礎収入
   証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、
  ①原告が、本件事故当時、柔道整復師として、整骨院を経営し、平日の午前中は同院で施術を行うとともに、株式会社K(原告と代表取締役の2名で各50%出資して設立した訪問マッサージ業を目的とする株式会社である。)の取締役を務め、平日の午後は同社の会議に出席し、マッサージ師に対する施術指導を行っていたこと、
  ②原告の平成25年度の収入が青色申告特別控除前の事業所得46万6,017円及び役員報酬1,440万円であったこと、
  ③同社は、役員が原告と代表取締役の2名、正社員が8名(うちマッサージ師1名)、パートが3名(うちマッサージ師1名)、業務委託先のマッサージ師が23名であること、
  ④同社の代表取締役の報酬は年1,680万円であり、営業職及びマッサージ師に対する給与及び賞与は年500万円から580万円程度であったこと
が認められる。
   以上のことからすれば、株式会社Kの役員報酬1,440万円のうち労務対価分は600万円であると認められ、これと事業所得46万6,017円の合計額646万6,017円を基礎収入とするのが相当である。
  b)労働能力喪失率 14%
  c)労働能力喪失期間 22年間(対応するライプニッツ係数は13.1630)
 カ 入通院慰謝料  1,400,000円
 キ 後遺障害慰謝料    2,900,000円
 ク 小計       21,801,004円
 ケ 過失相殺    ▲17,440,803円(80%)
   コ 損害の填補   ▲1,908,506円
   損害後の残額  2,451,695円
   原告は、平成27年12月8日、自賠責保険金224万円の支払を受けたが、これはまず同日までの遅延損害金(33万1,494円)に充当され、その残額である190万8,506円が元本に充当される。
 サ 弁護士費用      240,000円
 シ 合計      2,691,695円

(3)結論
   原告の請求は、269万1,695円及びこれに対する平成27年12月9日(自賠責保険金の支払日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で理由がある(一部認容)。