福岡地裁令和元年9月17日判決(自保ジャーナル2060号54頁)

MRI検査で椎間板突出が認められる頸椎に対応する神経根と頸部痛及び両腕から手のしびれとの間の対応関係を認め、原告の後遺傷害等級を自賠法施行令別表第二第12級相当と判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成28年8月2日午後11時頃
 イ 発生場所 福岡市内
 ウ 車両1  原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)
 エ 車両2  被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)
 オ 事故態様 赤信号で停止中の原告車の後部に、同一方向を後方から直進進行していた被告車の前部が衝突した。

(2)原告は、本件事故により、頸椎捻挫・腰椎捻挫の傷害を負った。
   原告は、本件事故後、次のとおり通院加療を受けた。
 ア A病院 平成28年8月2日
 イ Bクリニック 同月3日~平成29年1月31実通院日数78
 ウ C整骨院 平成28年8月12日~平成29年1月20日(実通院日数23日)

(3)原告は、被告加入の自賠責保険の保険会社から、平成29年5月26日付けで、原告主張の後遺障害のうち頸椎捻挫後の頸部痛及び頭痛等並びに腰痛捻挫後の腰痛等の各症状は、他覚的に神経系統の障害が証明されているとは捉え難いものの、将来において回復が困難と見込まれるとして、いずれも自賠法施行令別表第二第14級第9号に該当し、併合14級と判断する旨の通知を受けた。

(4)原告(昭和42年4月生まれの女性)は、本件事故当時、自宅において母親(当時83歳)と同居し、主にその家事や介護を行っていた。


【争点】

(1)原告に生じた後遺障害(争点1)
(2)本件事故と因果関係のある損害額(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(原告に生じた後遺障害)について
 ア 原告は、症状固定時において、頸部痛、首から肩にかけての疼痛、両腕から手のしびれ及び腰痛(以下「本件神経症状」という。)が生じていることが認められる。
   そして、平成28年9月7日、A病院において実施された頸椎MRI検査(以下「本件MRI検査」という。)の結果(注:A病院のD医師作成の画像診断報告書には、「頸椎には変形性変化が見られます。特にC6/7のレベルで骨棘(注:こつきょく)および椎間板突出が強く、脊柱管は狭窄しています。右優位です。C5/6のレベルでも正中からやや左側優位で狭窄が見られます。髄内に異常信号はありません。」との所見が記されている。)によれば、原告の頸椎について、C6/7及びC5/6において椎間板が突出していることが認められるところ、
   C7が支配する皮膚感覚帯は肩から腕の中央の背部及び人差し指及び中指とされ、
   C6が支配する皮膚感覚帯は肩から腕の外側及び親指とされているから、
   本件MRI検査で椎間板突出が認められる頸椎に対応する神経根と、本件神経症状のうち頸部痛及び両腕から手の知覚障害(しびれ)との間には対応関係があるということができる。
   この判断は、C5/6の左優位の椎間板突出が左上肢のしびれ、C6/7の成中~右優位の椎間板突出が右上肢のしびれの他覚所見となる旨のBクリニックの整形外科医であるE医師の所見にも沿うものである。
 イ また、本件事故は、被告車が原告車の後方から追突したものであり、停止中の原告車の運転席に座っていた原告には、後方から前方にかけて相応の力が加わったことが推認される上、原告は、本件事故前に、頸部痛、背部痛及び腰部痛並びに上肢のしびれの既往があったとは認められないから、本件神経症状は、本件事故によって出現するに至ったものと認めるのが相当である。
 ウ 以上によれば、本件神経症状のうち頸部痛及び両腕から手のしびれ(以下「本件後遺障害」という。)については、C5/6及びC6/7の椎間板突出との他覚的所見があり、一定期間での寛解が具体的に見込まれるといえないため、自賠法施行令別表第二第12級第13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に当たるものと認めるのが相当であり、これは、本件事故との間で因果関係のあるものと認められる。
 エ 腰痛については、その要因となる他覚的所見が認められないものであるが、原告は、Bクリニックにおける初診日(事故翌日である平成28年8月3日)から症状固定日(平成29年1月31日)までの間、頸部や腕部及び手のしびれほどではないものの、継続的に訴え続けていることが認められ、その訴える症状の時期、経過及び内容に特に不自然な点は見当たらないから、自賠法施行令別表第二第14級第9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当するものと認められる。
 オ 以上によれば、本件事故によって原告に生じた後遺障害の等級は、自賠法施行令別表第二第12級に相当することとなる。

(2)争点2(本件事故と因果関係のある損害額)について
 ア 治療費 96万6,126円
 イ 通院交通費 3万8,840円
 ウ 文書料 5,400円
 エ 休業損害 47万0,029円
  a)基礎収入
   原告は、高齢の母親と2人暮らしをしながら、母のための家事や介護をしていたことが認められ、その基礎収入は、家事従事者として、本件事故のあった平成28年の賃金センサス女性学歴計全年齢平均賃金である年収376万2,300円と認めるのが相当である。
  b)労働能力喪失率
   Bクリニックの医療記録によれば、原告は、本件神経症状により、平成28年8月中は、頸や腰を動かした際に強い痛みがある旨を訴え、痛みによる不眠を訴えており、前記の母のための家事や介護にも大きな支障が生じる状況であったことがうかがわれる。
   その後、原告は、同年9月7日には自動車の運転を行っていることがうかがわれ、9日には巧緻運動障害なしとされ、同月12日には頸を急にひねる動作ができない、同月16日には無理をすると痛いと述べているものの、特段の可動域制限が生じている状況はうかがわれず、同月23日以降は、E医師から積極的に運動することを勧められていることに照らすと、日常生活上の動作ができる状況となっていたことがうかがわれる。
   そこで、原告の家事及び介護の制約の程度については、平成28年8月については50%同年9月以降は、調子の悪い日や通院加療のための家事及び介護に一定の支障が生じていたことが想定されることから、通じて20%の制約が生じたものと認めるのが相当である。
  c)計算
   367万2,300円÷365×(30×0.5+(30+31+30+31+31)×2)
  =47万0,029円
 オ 後遺症逸失利益 406万7,189円
  a)基礎収入
   前記エa)のとおり、年収376万2,300円を用いるのが相当である。
  b)労働能力喪失率
   前記(1)のとおり、原告が、本件事故によって、自賠法施行令別表第二第12級に当たる後遺障害を残したものと認められることから、14%と認める。
  c)労働能力喪失期間
   原告に認められる後遺障害のうち他覚的所見のなるものが頸部痛及び両腕からの手のしびれであって、原告が本件事故当時49歳であったことにも照らすと、痛みやしびれが就労可能年数(67歳)まで存続するかや、これが存続するとしてもそのすべてを本件事故と相当因果関係のあるものとみることができるかには疑義が残り、これを10年とするのが相当である。
  d)計算
   367万2,300円×0.14×7.7217(10年間のライプニッツ係数)
  =406万7,189円
 カ 傷害慰謝料 89万円
 キ 後遺症慰謝料 290万円
 ク 損害の填補 
  a)任意保険 
   原告は、被告加入の任意保険会社から120万6,126円の支払を受け、これを元本に充当しているから、充当後の金額は812万1,458円となる。
  b)自賠責保険 
   原告は、平成29年5月30日、被告加入の自賠責保険会社を通じて、75万円の支払を受けているところ、これはまず本件事故日から同日までに生じた遅延損害金である33万5,983円(=812万1,458円×0.05÷365日×312日。1円未満切り捨て)から充当されるから、充当後の額は770万7,441円(=812万1,458円+33万5,983円-75万円)となる。
 ケ 弁護士費用 77万円

(3)結論
   以上によれば、原告の請求は、770万7,441円及びこれに対する最終弁済日の翌日である平成29年5月31日からの遅延損害金並びに77万円及びこれに対する事故日である平成28年8月2日からの遅延損害金を求める限度で理由がある(一部認容)。


 

最高裁令和2年7月9日判決(自保ジャーナル2068号1頁)

被害者の請求により、将来介護費用の他、逸失利益についても定期金賠償が認められた事例(確定)


【事案の概要】

   以下のとおりであるが、詳細については、札幌地裁平成29年6月23日判決参照

(1)被上告人(平成14年8月生まれ。当時4歳)は、平成19年2月3日、道路を横断していたところ、上告人Y1が運転する大型貨物自動車に衝突される交通事故(以下「本件事故」という。)に遭った。本件事故における過失割合は、上告人Y1が8割であり、被上告人側が2割である。

(2)被上告人は、本件事故により脳挫傷、びまん性軸索損傷等の傷害を負い、その後、高次脳機能障害の後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残った。本件後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表第2第3級3号に該当するものであり、被上告人は、これにより労働能力を全部喪失した。

(3)被上告人は、本件において、本件後遺障害による逸失利益として、その就労可能期間の始期である18歳になる月の翌月からその終期である67歳になる月までの間に取得すべき収入額を、その間の各月に、定期金により支払うことを求めている。
   なお、被上告人の損害のうち将来介護費用(定期金賠償)については、上告人らが、被上告人に対し、連帯して平成28年11月から被上告人が死亡するまで、毎月27日限り、以下の金額を支払うものとされている。
 ア 平成28年11月から平成30年3月まで7万3,000円
 イ 平成30年4月から平成46年6月まで16万1,333円
 ウ 平成46年7月以降19万4,666円


【争点】

(1)後遺障害による逸失利益は、定期金による賠償の対象となるか否か(争点1)
(2)就労期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要するか否か(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、上告人は、上告審において、概要、以下のとおり主張した。
 ア 後遺障害による逸失利益は不法行為時に一定の内容のものとして発生しており、また、定期金による賠償は、賠償をすべき期間が被害者の死亡により終了する性質の債権についてのみ認められるべきである。
 イ (仮に、後遺障害による逸失利益について定期金による賠償が認められるとしても)就労可能期間の終期(注:被上告人が67歳になる月)より前に被害者が死亡した場合には、その死亡時を定期金による賠償の終期とすべきである。


【裁判所の判断】

(1)争点1(後遺障害による逸失利益は、定期金による賠償の対象となるか否か)について   
   同一の事故により生じた同一の身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償債務は1個であり、その損害は不法行為の時に発生するものと解される(最高裁昭和48年4月5日判決、同昭和58年9月6日判決等参照)。
   したがって、被害者が事故によって身体傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合において、労働能力の全部又は一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失したという損害についても、不法行為の時に発生したものとして、その額を算定した上、一時金による賠償を命ずることができる。
   しかし、上記損害は、不法行為の時から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質のものであり、その額の算定は、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないものであるから、将来、その算定の基礎となった後遺障害の程度、賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ、算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きなかい離が生ずることもあり得る。
   民法は、 不法行為に基づく損害賠償の方法につき、一時金による賠償によらなければならないものとは規定しておらず(722条1項、417条参照)、他方で、民訴法117は定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えを提起することができる旨を規定している。同条の趣旨は、口頭弁論終結前に生じているがその具体化が将来の時間的経過に依存している関係にあるような性質の損害については、実態に即した賠償を実現するために定期金による賠償が認められる場合があることを前提として、そのような賠償を命じた確定判決の基礎となった事情について、口頭弁論終結後に著しい変更が生じた場合には、事後的に上記かい離を是正し、現実化した損害の額に対応した損害賠償額とすることが公平に適うということにあると解される。
   そして、不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。
   このような目的及び理念に照らすと、交通事故に起因する後遺障害による逸失利益という損害につき、将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるとともに、上記かい離が生ずる場合には民訴法117条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認められる場合があるというべきである。
   以上によれば、交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。

(2)争点2(就労期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要するか否か)について
   交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について一時金による賠償を求める場合における同逸失利益の額の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、同死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではないと解するのが相当である(最高裁平成8年4月25日判決、同平成8年5月31日判決参照)。
   上記後遺障害による逸失利益の賠償について定期金という方法による場合も、それは、交通事故の時点で発生した1個の損害賠償請求権に基づき、一時金による賠償と同一の損害を対象とするものである。そして、上記特段の事情がないのに、交通事故の被害者が事故後に死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故により生じた損害の填補を受けることができなくなることは、一時金による賠償と定期金による賠償のいずれの方法によるかにかかわらず、衡平の理念に反するというべきである。したがって、上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずる場合においても、その後就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したからといって、上記特段の事情がない限り、就労可能期間の終期が被害者の死亡時となるものではないと解すべきである。
   そうすると、上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である。

(3)結論
   以上を本件についてみると、被上告人は本件後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めているところ、被上告人は、本件事故当時4歳の幼児で、高次機能障害という本件後遺障害のため労働能力を全部喪失したというのであり、同逸失利益は将来の長期間にわたり逐次現実化するものであるといえる。これらの事情を総合考慮すると、本件後遺障害による逸失利益を定期金による賠償の対象とすることは、上記損害賠償制度の目的(注:原状回復目的)及び理念(注:損害の公平な分担)に照らして相当と認められる。
   また、本件後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たり、被上告人について、上記特段の事情はうかがわれない。
   以上によれば、原審の判断は是認することができる(上告棄却)。


【補足意見】

   裁判官小池裕の補足意見は、概要、以下のとおりである。
(1)事故に起因する後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命じた場合において、その後就労可能期間の終期より前に被害者が死亡したときにも就労可能期間の終期が被害者の死亡時となるものではないとすると、被害者の死亡後もその遺族等に対する定期金による賠償の支払義務が継続することになる。
   しかし、このような場合、被害者の死亡によってその後の期間について後遺障害等の変動可能性がなくなったことは、損害額の算定の基礎に関わる事情に著しい変更が生じたものと解することができるから、支払義務者は、民訴法117条を適用又は類推適用して、上記死亡後に、就労可能期間の終期までの期間に係る定期金による賠償について、判決の変更を求める訴えの提起時における現在価値に引き直した一時金による賠償に変更する訴えを提起するという方法も検討に値するように思われ、この方法によって、継続的な定期金による賠償の支払義務の解消を図ることが可能ではないかと考える。

(2)定期金による賠償に関する実態規定が存しないことから、どのような場合に、あるいは、どのような事情を考慮して定期金による賠償の対象となると解することができるか(相当性の判断)については、解釈に委ねられている。
   この点については、不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らし、定期金による賠償制度の趣旨、手続規定である判決の変更を求める訴えの提起の要件との関連性等を考慮して検討すべきものであると考えられ、定期金による賠償に伴う債権管理等の負担、損害賠償額の等価性を保つための擬制的手段である中間利息控除に関する利害を考慮要素として重視することは相当ではないと考える。


 

名古屋地裁令和元年7月17日判決(自保ジャーナル2054号57頁)

MRI検査上外傷性の画像所見までは認められないものの、事故前の同検査と比して椎間板の突出等が増悪しているとの主治医の所見に基づいて、後遺障害等級14級9号を認めた事例(確定)


【事案の概要】

(1)交通事故(本件事故)の発生
 ア 発生日時 平成25年12月19日午前11時16分頃
 イ 発生場所 愛知県弥富市内の交差点(以下「本件交差点」という。)
 ウ 原告車  原告(本件事故当時41歳)が運転する普通乗用自動車
 エ 被告車  被告会社が所有し、被告Aが運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 南方から本件交差点に進入した原告車と、西方から一時停止することなく本件交差点に進入した被告車が、本件交差点内において、出会い頭に衝突し、原告車が本件交差点の北西にある水田に転落した。

(2)原告の治療の経過
 ア 平成25年12月24日
   原告は、後頭頸部痛及びめまいを訴えて、B病院脳神経外科を受診し、レントゲン検査及びCT検査が施行された。同科のC医師は、傷病名として、頭頸部外傷、頸部挫傷及び頸肩腕症候群と診断した。
 イ 平成26年1月21日
   原告は、左手環指・小指に起床時に痺れが出現する、時に昼も継続する、後頭頸部痛はほとんどないなどと訴えて、B病院を受診した。
 ウ 平成26年1月29日
   原告は、B病院を受診し、MRI検査を受けた(以下「本件1月MRI検査」という。)。C医師は、本件1月MRI検査から、「脊柱管狭窄(+)頸椎のアライメントは直線化しています。C4/5~C6/7椎間板は変性、膨隆し、硬膜嚢を圧迫しています。同レベルで脊柱管は狭細化し、頚髄も軽度圧排されています。頚髄内に異常信号域は指摘できません。前回2011/11/28実施のMRI所見より軽度増大しています。」との所見があると判断して、傷病名に頸部脊柱管狭窄症を追加した。
 エ 平成26年4月9日
   原告は、左手環指・小指に起床時に痺れが出現する、後頭頸部痛はほとんどなかったが毎日痛み出現しているなどと訴えてB病院を受診した。
 オ 平成26年5月15日
   原告は、左手首痛及び頸部痛を訴えてB病院脳神経外科を受診した。
 カ その後、原告は、同月21日から症状固定と診断される平成27年1月23日までの間、B病院脳神経外科を66回(平成25年12月24日から平成26年5月15日までの5回の通院を含めると71回)受診した。
   また、平成26年10月8日には、再度頸椎のMRI検査が行なわれ(以下「本件10月MRI検査」という。)、C医師は、「C4/5~C6/7の椎間板レベルで椎間板、骨棘、後縦靱帯複合物の後方への突出有り、(中略)脊柱管狭窄所見を示す」との所見があるとし、平成23年11月28日に行なわれた前々回のMRI検査(後記本件事故前MRI検査)に比較して狭窄部突出は増悪していると判断した。

(3)原告の後遺障害診断
   C医師は、原告の症状が平成27年1月23日に症状固定したとして、同年6月7日付けの自動車損害賠償責任後遺障害診断書(以下「本件後遺障害診断書」という。)を作成した。本件後遺障害診断書には、傷病名として「頭頸部痛、頭部挫傷、頸肩腕症候群」が、自覚症状として、頭頸部頭痛、めまい及び左手環指・小指の痺れ等が記載されている。

(4)後遺障害認定等級認定結果
   原告が、本件後遺障害診断書を基にいわゆる事前認定手続を行なったところ、平成27年8月20日付けで、後頭頸部痛、めまい及び左手環指・小指の痺れについて、自賠責保険における後遺障害には該当しないとの判断がされた。
   上記事前認定の結果に対し、原告が、被告会社の加入する自賠責保険会社に対し、異議申立てを行なったところ、同自賠責保険会社は、平成28年7月4日付けで、後頭頸部痛、めまい及び左手環指・小指の痺れについて、いずれも後遺障害等級非該当と判断した。

(5)本件事故前の通院歴
   原告は、平成23年11月28日、B病院放射線科においてMRI検査を施行され(以下「本件事故前MRI検査」という。)、C4/5~C6/7の椎間板の変性と背側への突出が認められること、正中やや左側優位の突出で神経根の圧迫が疑われることなどの所見が確認された。原告は、同日の診察において頭の痛みなどを訴えていたところ、内科の担当医師は、頸椎椎間板ヘルニアと説明した。


【争点】

(1)本件事故との相当因果関係が認められる原告の症状ないし症状固定時期(2)原告の後遺障害等級
(3)原告の損害
(4)過失相殺の適否
   以下、主に上記(2)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)本件事故との相当因果関係が認められる原告の症状ないし症状固定時期
   本件事故後に原告に生じた症状のうち、左手環指・小指の痺れについては本件事故との間の相当因果関係を認めることができるが、後頭頸部痛及びめまいのうち平成26年1月29日より後に原告が訴えたものについては本件事故との間の相当因果関係を認めることはできない(詳細は、省略する。)。

(2)原告の後遺障害等級
 ア 原告は、原告に残存した症状のうち①後頭頸部痛及び②左手環指・小指の痺れのいずれもが後遺障害等級14級9号に該当する旨主張するところ、前記(1)のとおり、①平成26年1月29日より後に原告が訴えた後頭頸部痛についてはそもそも本件事故との間の相当因果関係を認めることはできないことから、本件事故との粗糖因果関係が認められないことから、本件事故による後遺障害を認めることはできない。
   したがって、②左手環指・小指の痺れが後遺障害等級14級9号に該当するか否かを検討する。
 イ 原告には、本件事故前MRIにおいて既にC4/5~C6/7の椎間板の変性と背側への突出が認められ、頸椎椎間板ヘルニアとの診断がされていたが、いずれも本件事故後に行なわれた本件1月MRI検査及び本件10月MRI検査では、本件事故前MRI検査と比して、C4/5~C6/7の椎間板の突出による硬膜嚢の圧迫等が増悪している所見(以下「本件変性所見」という。)が認められた。
   原告は、本件変性所見により左手環指・小指の痺れが生じているとするC医師の意見を基に、後遺障害等級14級9号を主張している。
 ウ これに対し、被告らは、D医師の意見書(以下「D意見書」という。)を基に、本件変性所見は、T2強調画像におけるヘルニアの高輝度、後縦靱帯部の損傷、出血等の外傷性変化を裏付ける画像所見が認められないことから、外傷性ではなく経年性のものと認められ、原告の左手環指・小指の症状が本件事故によって生じた本件変性所見によるものであることについての医学的な説明がされていない旨を主張する。
   確かに、本件変性所見について外傷性のものであることを裏付ける画像所見は確認されておらず、本件事故前MRI検査が行なわれた平成23年11月28日から本件事故まで2年以上が経過していたことからすると、本件変性所見が経年性のものであることを否定することはできないから、本件変性所見が外傷性のものであることが他覚的に立証されているとはいえない。
   しかし、一般に、後遺障害等級14級9号と認定するためには、当該後遺障害の存在が医学的に説明可能であることを要するが、後遺障害等級12号13号の認定におけるのとは異なり、画像所見等に基づく他覚的な証明までは必ずしも要しないと解され、本件においても、本件変性所見が外傷性のものであることが他覚的に証明されることまでは必要でないというべきである。
   そして、原告が本件事故(注:原告車が被告車に衝突された後水田に落下したという事故態様のもの)により相当程度の衝撃を受けたと考えられることに照らすと、外傷性の画像所見が認められないとしても、本件事故による衝撃が本件変性所見に影響し、これにより左手環指・小指の痺れが発現するに至ったと推認することができるから、このような意味で、本件事故により原告の左手環指・小指の痺れが生ずるに至った機序を説明することができるというべきである。
   したがって、本件変性所見について画像上外傷性の所見が認められないとする被告らないしD意見書の前記指摘をもって、原告の左手環指・小指の痺れが後遺障害等級14級9号に該当し得ることを否定することはできない。
 エ 次に、被告らは、D意見書を基に、本件1月MRI検査からすると、原告のC4/5の椎間板ヘルニアにより圧排される可能性があるのはC5神経根であるが、これは原告の手環指・小指の痺れという症状とは整合せず、また、原告の症状と整合するC8神経症状を発生させる第7頸椎/第1胸椎の椎間板には異常所見は認められない旨を指摘する。
   しかし、C医師は、C4/5の椎間板だけではなく、本件変性所見としてC4/C5~C6/C7の椎間板の突出を指摘している上に、第7頸椎/第1胸椎の椎間板に異常がなければ手環指・小指の神経症状はおよそ生じないとの医学的知見までは認められないから、D意見書の上記指摘を踏まえても、本件変性所見により原告の左手環指・小指に痺れが生じたと考えることに矛盾はないというべきである。
 オ 小括
   以上によれば、外傷性の画像所見までは認められないものの、事故態様からすれば本件事故が本件変性所見に影響を及ぼしたものと推認することができ、D意見書を踏まえても、本件変性所見から原告の左手環指・小指の痺れが生じたと考えて矛盾はないから、C医師の意見を基に、原告に残存した左手環指・小指の痺れの存在を医学的に説明することができるというべきである。
   したがって、原告に残存した左手環指・小指の痺れについて、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級14級9を認めるのが相当である。