名古屋地裁令和元年7月17日判決(自保ジャーナル2054号57頁)

MRI検査上外傷性の画像所見までは認められないものの、事故前の同検査と比して椎間板の突出等が増悪しているとの主治医の所見に基づいて、後遺障害等級14級9号を認めた事例(確定)


【事案の概要】

(1)交通事故(本件事故)の発生
 ア 発生日時 平成25年12月19日午前11時16分頃
 イ 発生場所 愛知県弥富市内の交差点(以下「本件交差点」という。)
 ウ 原告車  原告(本件事故当時41歳)が運転する普通乗用自動車
 エ 被告車  被告会社が所有し、被告Aが運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 南方から本件交差点に進入した原告車と、西方から一時停止することなく本件交差点に進入した被告車が、本件交差点内において、出会い頭に衝突し、原告車が本件交差点の北西にある水田に転落した。

(2)原告の治療の経過
 ア 平成25年12月24日
   原告は、後頭頸部痛及びめまいを訴えて、B病院脳神経外科を受診し、レントゲン検査及びCT検査が施行された。同科のC医師は、傷病名として、頭頸部外傷、頸部挫傷及び頸肩腕症候群と診断した。
 イ 平成26年1月21日
   原告は、左手環指・小指に起床時に痺れが出現する、時に昼も継続する、後頭頸部痛はほとんどないなどと訴えて、B病院を受診した。
 ウ 平成26年1月29日
   原告は、B病院を受診し、MRI検査を受けた(以下「本件1月MRI検査」という。)。C医師は、本件1月MRI検査から、「脊柱管狭窄(+)頸椎のアライメントは直線化しています。C4/5~C6/7椎間板は変性、膨隆し、硬膜嚢を圧迫しています。同レベルで脊柱管は狭細化し、頚髄も軽度圧排されています。頚髄内に異常信号域は指摘できません。前回2011/11/28実施のMRI所見より軽度増大しています。」との所見があると判断して、傷病名に頸部脊柱管狭窄症を追加した。
 エ 平成26年4月9日
   原告は、左手環指・小指に起床時に痺れが出現する、後頭頸部痛はほとんどなかったが毎日痛み出現しているなどと訴えてB病院を受診した。
 オ 平成26年5月15日
   原告は、左手首痛及び頸部痛を訴えてB病院脳神経外科を受診した。
 カ その後、原告は、同月21日から症状固定と診断される平成27年1月23日までの間、B病院脳神経外科を66回(平成25年12月24日から平成26年5月15日までの5回の通院を含めると71回)受診した。
   また、平成26年10月8日には、再度頸椎のMRI検査が行なわれ(以下「本件10月MRI検査」という。)、C医師は、「C4/5~C6/7の椎間板レベルで椎間板、骨棘、後縦靱帯複合物の後方への突出有り、(中略)脊柱管狭窄所見を示す」との所見があるとし、平成23年11月28日に行なわれた前々回のMRI検査(後記本件事故前MRI検査)に比較して狭窄部突出は増悪していると判断した。

(3)原告の後遺障害診断
   C医師は、原告の症状が平成27年1月23日に症状固定したとして、同年6月7日付けの自動車損害賠償責任後遺障害診断書(以下「本件後遺障害診断書」という。)を作成した。本件後遺障害診断書には、傷病名として「頭頸部痛、頭部挫傷、頸肩腕症候群」が、自覚症状として、頭頸部頭痛、めまい及び左手環指・小指の痺れ等が記載されている。

(4)後遺障害認定等級認定結果
   原告が、本件後遺障害診断書を基にいわゆる事前認定手続を行なったところ、平成27年8月20日付けで、後頭頸部痛、めまい及び左手環指・小指の痺れについて、自賠責保険における後遺障害には該当しないとの判断がされた。
   上記事前認定の結果に対し、原告が、被告会社の加入する自賠責保険会社に対し、異議申立てを行なったところ、同自賠責保険会社は、平成28年7月4日付けで、後頭頸部痛、めまい及び左手環指・小指の痺れについて、いずれも後遺障害等級非該当と判断した。

(5)本件事故前の通院歴
   原告は、平成23年11月28日、B病院放射線科においてMRI検査を施行され(以下「本件事故前MRI検査」という。)、C4/5~C6/7の椎間板の変性と背側への突出が認められること、正中やや左側優位の突出で神経根の圧迫が疑われることなどの所見が確認された。原告は、同日の診察において頭の痛みなどを訴えていたところ、内科の担当医師は、頸椎椎間板ヘルニアと説明した。


【争点】

(1)本件事故との相当因果関係が認められる原告の症状ないし症状固定時期(2)原告の後遺障害等級
(3)原告の損害
(4)過失相殺の適否
   以下、主に上記(2)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)本件事故との相当因果関係が認められる原告の症状ないし症状固定時期
   本件事故後に原告に生じた症状のうち、左手環指・小指の痺れについては本件事故との間の相当因果関係を認めることができるが、後頭頸部痛及びめまいのうち平成26年1月29日より後に原告が訴えたものについては本件事故との間の相当因果関係を認めることはできない(詳細は、省略する。)。

(2)原告の後遺障害等級
 ア 原告は、原告に残存した症状のうち①後頭頸部痛及び②左手環指・小指の痺れのいずれもが後遺障害等級14級9号に該当する旨主張するところ、前記(1)のとおり、①平成26年1月29日より後に原告が訴えた後頭頸部痛についてはそもそも本件事故との間の相当因果関係を認めることはできないことから、本件事故との粗糖因果関係が認められないことから、本件事故による後遺障害を認めることはできない。
   したがって、②左手環指・小指の痺れが後遺障害等級14級9号に該当するか否かを検討する。
 イ 原告には、本件事故前MRIにおいて既にC4/5~C6/7の椎間板の変性と背側への突出が認められ、頸椎椎間板ヘルニアとの診断がされていたが、いずれも本件事故後に行なわれた本件1月MRI検査及び本件10月MRI検査では、本件事故前MRI検査と比して、C4/5~C6/7の椎間板の突出による硬膜嚢の圧迫等が増悪している所見(以下「本件変性所見」という。)が認められた。
   原告は、本件変性所見により左手環指・小指の痺れが生じているとするC医師の意見を基に、後遺障害等級14級9号を主張している。
 ウ これに対し、被告らは、D医師の意見書(以下「D意見書」という。)を基に、本件変性所見は、T2強調画像におけるヘルニアの高輝度、後縦靱帯部の損傷、出血等の外傷性変化を裏付ける画像所見が認められないことから、外傷性ではなく経年性のものと認められ、原告の左手環指・小指の症状が本件事故によって生じた本件変性所見によるものであることについての医学的な説明がされていない旨を主張する。
   確かに、本件変性所見について外傷性のものであることを裏付ける画像所見は確認されておらず、本件事故前MRI検査が行なわれた平成23年11月28日から本件事故まで2年以上が経過していたことからすると、本件変性所見が経年性のものであることを否定することはできないから、本件変性所見が外傷性のものであることが他覚的に立証されているとはいえない。
   しかし、一般に、後遺障害等級14級9号と認定するためには、当該後遺障害の存在が医学的に説明可能であることを要するが、後遺障害等級12号13号の認定におけるのとは異なり、画像所見等に基づく他覚的な証明までは必ずしも要しないと解され、本件においても、本件変性所見が外傷性のものであることが他覚的に証明されることまでは必要でないというべきである。
   そして、原告が本件事故(注:原告車が被告車に衝突された後水田に落下したという事故態様のもの)により相当程度の衝撃を受けたと考えられることに照らすと、外傷性の画像所見が認められないとしても、本件事故による衝撃が本件変性所見に影響し、これにより左手環指・小指の痺れが発現するに至ったと推認することができるから、このような意味で、本件事故により原告の左手環指・小指の痺れが生ずるに至った機序を説明することができるというべきである。
   したがって、本件変性所見について画像上外傷性の所見が認められないとする被告らないしD意見書の前記指摘をもって、原告の左手環指・小指の痺れが後遺障害等級14級9号に該当し得ることを否定することはできない。
 エ 次に、被告らは、D意見書を基に、本件1月MRI検査からすると、原告のC4/5の椎間板ヘルニアにより圧排される可能性があるのはC5神経根であるが、これは原告の手環指・小指の痺れという症状とは整合せず、また、原告の症状と整合するC8神経症状を発生させる第7頸椎/第1胸椎の椎間板には異常所見は認められない旨を指摘する。
   しかし、C医師は、C4/5の椎間板だけではなく、本件変性所見としてC4/C5~C6/C7の椎間板の突出を指摘している上に、第7頸椎/第1胸椎の椎間板に異常がなければ手環指・小指の神経症状はおよそ生じないとの医学的知見までは認められないから、D意見書の上記指摘を踏まえても、本件変性所見により原告の左手環指・小指に痺れが生じたと考えることに矛盾はないというべきである。
 オ 小括
   以上によれば、外傷性の画像所見までは認められないものの、事故態様からすれば本件事故が本件変性所見に影響を及ぼしたものと推認することができ、D意見書を踏まえても、本件変性所見から原告の左手環指・小指の痺れが生じたと考えて矛盾はないから、C医師の意見を基に、原告に残存した左手環指・小指の痺れの存在を医学的に説明することができるというべきである。
   したがって、原告に残存した左手環指・小指の痺れについて、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級14級9を認めるのが相当である。


 

神戸地裁平成31年1月16日判決(自保ジャーナル2047号48頁)

主治医作成の照会書に対する回答等の記載は原告の治療経過・症状経過と明らかに矛盾するとして、自賠責の判断と異なり、原告の頸椎の回旋運動は参考可動域角度の2分の1に制限されていないと判断した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
 ア 発生日時 平成23年1月27日午前8時頃
 イ 発生場所 Y県○市付近の東西に延びるアスファルトによる舗装のされた平坦な片側1車線の道路(以下「本件道路」という。)
 ウ 原告車  原告(本件事故発生当時50歳)が所有し,運転する普通乗用自動車
 エ 被告車  被告が保有し,被告に属するY県警察に勤務する警察官が運転する普通乗用自動車(パトカー)
 オ 事故態様 被告車が本件道路の東行車線を緊急走行していたところ,凍結していた路面によりスリップし,対向車線(西行車線)を走行していた原告車に衝突した。

(2)原告は,本件事故により,軸椎骨折,左第1~第4中足骨骨折,左足楔状骨骨折,右第5中足骨骨折,歯牙損傷の傷害を負い,A病院(整形外科),B整形外科クリニック等で入通院治療を受けた。

(3)原告は,平成24年4月18日,B整形外科のb医師から,軸椎骨折,左第1~第4中足骨骨折,左足楔状骨骨折,右第5中足骨骨折を傷病名とする後遺障害診断を受けた。同日測定された頸部の可動域(他動)は,屈曲:50°,伸展:65°,右側屈:45°,左側屈:40°,右回旋:50°左回旋:45°であった(なお,頸部の参考可動域は,屈曲:60°,伸展:50°,右側屈:50°,左側屈:50°,右回旋:60°左回旋:60°である。)。
   原告は,平成24年4月23日,A病院のa医師から,軸椎骨折,両足中足骨骨折,左気胸を傷病名とする後遺障害診断を受けた。同日測定された頸部の可動域は,屈曲:45°(自動他動とも),伸展:30°(同左),右側屈:15°(自動他動不明),左側屈:15°(同左),右回旋:15°(同左),左回旋:15°(同左)であった。

(4)原告は,平成25年11月20日付けで,自賠責保険の後遺障害等級事前認定手続において,下記ア,イの判断に基づき,別表併合11級に該当すると判断された。
 ア 軸椎骨折後の脊柱の障害について
   提出された画像上,椎体に及ぶ歯突起の骨折が認められ,明らかな脊椎圧迫骨折,脱臼等を残しているものと同様に捉えられることから,「脊柱に変形を残すもの」として 別表第二11級7号に該当する。
   なお,頸椎部の運動障害については,B整形外科クリニック及びA病院の後遺障害診断書上,頸椎部の可動域に優意な差が認められることから,後遺障害診断書記載の可動域角度をもって評価することは困難である。
 イ 左足楔状骨骨折及び左第1~第4中足骨骨折後の左足部痛,歩行時痛の症状について
   別表第二14級9号に該当する(詳細については,省略する。)。

(5)原告は,平成26年6月20日,上記事前認定の結果に納得のいかない点があるとして,原告代理人作成の照会状を持参の上,A病院を受診した。同日付けのa医師による「ご照会状」に対する回答では,頸部の可動域角度について,屈曲:45°(自動他動不明),伸展:30°(同左),右側屈:30°(同左),左側屈:30°(同左),右回旋:25°(同左),左回旋:25°(同左)であった。

(6)原告は,平成26年12月15日付けで,上記(4)の事前認定手続における判断に対する異義申立てを行い,上記(5)の測定結果等の後遺障害を裏付ける資料を提出した。原告は,下記ア,イの判断に基づき,別表併合8級に該当すると判断された。
 ア 軸椎骨折後の脊柱の障害について
   頸椎部の運動障害について,新たに提出されたa医師作成の平成26年6月20日付け「ご照会状」の回答によれば,頸部の回旋運動が参考可動域の2分の1に制限されていることが認められ,頸部画像から認められる頸椎の変形癒合環軸椎の狭小化に照らすと,上記回旋運動制限と本件事故との相当因果関係は否定し難く,「脊柱に運動障害を残すもの」として別表第二8級2号に該当する。
   なお,軸椎骨折後の脊柱の変形障害は,上記(4)アのとおり別表第二11級7号に該当するが,自賠責の認定基準に従って,別表第二8級2号の評価に含まれている。
 イ 左足楔状骨骨折及び左第1~第4中足骨骨折後の左足部痛,歩行時痛の症状について
   別表第二14級9号に該当する(詳細については,省略する。)。


 【争点】

(1)事故態様及び過失割合(争点1)
(2)原告の後遺障害の程度(争点2)
(3)損害額(争点3)
   以下,上記(2)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)軸椎骨折後の脊柱の障害について
 ア 原告は,頸部の回旋運動が,参考可動域の2分の1に制限されているから,軸椎骨折により生じた原告の頸部の可動域制限は「脊柱に運動障害を残すもの」として別表第二8級2号に該当する旨主張する。
   確かに,平成24年4月23日の診断に基づいてa医師が作成した後遺障害診断書には,頸部の可動域角度として,回旋が左右とも15°であった旨,平成26年6月20日付けのa医師による「ご照会状」の回答には,回旋が左右とも25°であった旨記載されており,これらに基づいて,異義申立ての手続では別表第二8級2号に該当すると判断されている。
 イ しかし,原告は,平成23年4月5日にハローベストの装着を終えた際に,a医師によって頸部の回旋状態を確認されたが,特段問題にされておらず,フィラデルフィアカラーを外した同年7月頃も問題にされた形跡はなく,a医師が同月30 日頃に作成したB整形外科クリニック宛の照会状にも頸部の可動域制限に関する記載はない。
   また,a医師は,リハビリを不要と判断しており,実際,原告が希望して通院したB整形外科クリニックにおいて,直ちに頸部のリハビリを開始しなければならない状態ではなく,通院から5ヶ月経過した平成24年1月24日から頸部のリハビリが開始された。
   さらに,頸部のリハビリが開始された後,原告は頸部回旋の可動域制限を特段訴えておらず,平成24年2月には,後ろを向くこともできるなどの改善が見られた。
 ウ 仮に頸部回旋の可動域角度が左右とも15°で程度又は25°程度であるとか、原告が陳述書に記載し又は本人尋問において陳述するように頸部の屈曲・伸展に強度の可動域制限があるとすれば、日常生活を営む上で著しい不自由・不具合が生じるはずであるが、B整形外科クリニックやGセンター(注:原告は、平成24年11月30日から平成25年3月27日まで、Gセンター整形外科に通院した。)におけるリハビリの経過において、原告によるそのような訴えはなく、いずれの医療機関においても理学療法士によって日常生活動作は問題ないと評価されている上、これに沿うように、原告は、平成23年9月頃からパン屋の店頭で接客業務に従事している。
 エ a医師作成の後遺障害診断書及び平成26年6月20日付けの照会書に対する回答に記載された可動域角度は、以上の経過に矛盾するかのような内容となっているところ、自動と他動で同一の角度となる部分があるから、同診断書及び同回答に記載された頸部回旋の可動域角度は、自動と変わらない方法で測定された疑いが残る。この点を措くとしても、同診断書及び同照会書に対する回答に記載された頸部回旋の可動域角度は、上記のとおり、上記イ及びウの原告の治療経過・症状経過と明らかに矛盾することから、直ちにこれを採用することはできない。
 オ 原告は、ハローベストやフィラデルフィアカラーを装着していたことによる頸部の拘縮の可能性を指摘する。
   しかし、フィラデルフィアカラーを外してから1年以上経過したGセンターにおけるリハビリの経過及び頸部の可動域測定の結果(注:Gセンターで、平成24年11月30日に測定された頸部の可動域角度は、屈曲:30°、伸展:40°、右回旋:50°左回旋:60°であった。)からは、原告の上記指摘は理由がない。
 カ なお、a医師による平成29年4月5日の測定結果(右回旋:20°左回旋:25°)、Gセンターにおける平成29年2月3日の測定結果(右回旋:20°左回旋:20°)は、上記同様、いずれも上記認定の原告の治療経過・症状経過と明らかに矛盾するから、採用することはできない。
 キ 以上によれば、原告の頸椎の回旋運動が参考可動域角度の2分の1に制限されているということはできない。頸部の可動域角度について、B整形外科クリニックにおいてされた測定結果及びGセンターにおいて平成24年11月30日にされた測定結果は、上記判断に沿うものである。
 ク 他方で、画像上、原告に椎体に及ぶ歯突起の骨折が認められ、明らかな脊椎圧迫骨折、脱臼等を残しているものと同様に捉えられるから、軸椎骨折後の脊柱の障害につき、「脊柱に変形を残すもの」として別表第二11級7号に該当すると認められる。

(2)左足楔状骨骨折及び左第1~第4中足骨骨折後の左足部痛,歩行時痛の症状について
   別表第二14級9号に該当する後遺障害と認める(詳細については,省略する。)。

(3)その他の症状等について
   別表第二所定の後遺障害と認めることはできない(詳細については,省略する。)。

(4)争点2についての結論
   原告に別表第二11級7号及び14級9号の後遺障害が認められるから,原告の後遺障害は,併合11級と評価すべきである。


 

大阪高裁平成31年1月22日判決(自保ジャーナル2042号16頁)

医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされていることから、右膝内側半月板損傷の機能障害に関し、後遺障害等級第12級相当の損害を認定した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
 ア 発生日時 平成27年8月7日午前11時36分頃
 イ 発生場所 京都府市宇治市内の道路(以下「本件道路」という。)
 ウ 甲車両  1審原告兼反訴被告(以下「1審原告」という。)が運転する普通乗用自動車
 エ 乙自転車 1審被告兼反訴原告(以下「1審被告」という。1962年3月生)が運転する自転車
 オ 事故態様 1審原告が、甲車両を運転し、本件道路を東から西に向かって走行し、対向車と離合するため道路左側に甲車両を寄せたところ、1審被告も、その頃、同一方向に向かって本件道路左端を走行していたため、乙自転車と甲車両の左側面後部が衝突した。

(2)1審被告(本件事故当時53歳)は、a市交通局b営業所に勤務し、市バス業務を担当する地方公務員であるが、本件事故当時、主にデスクワークを担当していた。
   1審被告は、事故当日の平成27年8月7日、B病院で診察を受け、痛みのため右膝の屈曲が困難であると訴えたところ、同病院のA医師は、同日、本件事故での受傷について、「右膝挫傷」と診断した。
    1審被告は、その後、A医師の容認の下、自宅近くの接骨院で施術を受けていたが、B病院での診療の際には、右膝の違和感、階段降下時の膝崩れ、右膝屈曲時の膝の内側の痛みなどを訴えていた。そこで、A医師は、同年10月9日、MRI検査を行ったところ、右膝内側半月板損傷が疑われる所見があっため、同年10年16日、本件事故での受傷について、「右膝挫傷」に加え「右膝内側半月板損傷」と診断した。

(3)1審被告は、平成27年11月21日、B病院を受診し、マックマレー検査により内側半月板損傷を示す陽性所見が見られた。
   しかし、同年12月16に再度行われたMRI検査では、前回に認められた右膝内側半月板損傷が改善しているとの所見が得られた。そして、平成28年1月27にB病院を受診した際は、右膝間接の可動域が130度であり、マックマレー検査でも右膝内側半月板損傷を示す所見が「陰性」とされた。
   しかし、1審被告は、その後も、痛みや膝崩れといった右膝の症状を訴えており、右膝関節の関節可動域(屈曲)は、平成28年2月13日が90度、同年3月11日が100度であった。

(4)A医師は、受傷から半年以上が経過しても右膝の症状が緩解せず、これ以上保存的治療をしても治療効果が得られる見込みが乏しいと判断し、平成28年4月8日に症状が固定したとする後遺障害に関する診断書を作成した。同診断書では「右膝痛、屈曲位90度を超えると痛み、階段の昇降時に膝くずれ等あり、歩行時力が入りにくい」との自覚症状があるとされ、膝関節の屈曲可動域は健側(左)の130度に対して右が90度(自動、他動とも)とされた。
   損害保険料率算出機構(事前認定)は、同年5月11日までに、1審被告には、上記診断書において診断された後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残存するものと認め、かつ、右膝関節はその可動域が健側(左膝関節)の可動域角度の4分の3以下に制限されるとの機能障害があり、右膝の神経症状は昨日障害に包摂して評価されるべきものであって、本件後遺障害は全体として等級表12級7号に該当するものと認めた。

(5)1審被告の事故前及び事故後の給与収入は、平成26年分が820万9、203円、平成27年分が830万3,904円、平成28年分が817万8,968円であった。
   1審被告は、西暦2022年3月に60歳となり、同月末をもってa市を定年退職することになるが、特段の事情がなければ同年4月1日から5年間は再任用される可能性が高い。しかし、再任用職員に支給される給与は、通常、定年前支給額の半額程度となる。


 【争点】

(1)事故態様、当事者双方の過失の有無及び割合
(2)1審被告の損害(反訴)
 ア 1審被告の後遺障害
 イ 逸失利益
 ウ 慰謝料
   以下、上記についての裁判所の判断を示す(注:1審原告の損害(本訴)に関しては、原判決・本判決とも、甲車両の修理費5万3,028円を認めた。)。


   なお、上記(2)についての1審(京都地裁平成30年6月14日判決)の判断は、以下のとおりである。
 ア 1審被告の後遺障害
   事前認定おいて、右膝の関節機能障害について12級7号該当とされた。しかし、①右膝の半月板損傷は改善していて、器質的変化が残存したとはいえない(平成27年12月16日)。また、②関節可動域についてみても、初診時から約90度の屈曲が可能であったところ、治療期間中にいったん130度程度まで回復した後に、症状固定時の測定値90度に至ったことからすると(同年8月7日、平成28年1月27日、同年4月8日)、症状固定時の測定値をただちには採用し難い。
   そうすると、12裕7号該当は認められない。
   他方、被告の右膝の痛みの訴えは本件事故後一貫していて、かつ、MRI検査において右内側半月板損傷の可能性が認められたことを踏まえると、同症状は医学的に説明可能なものであるから、14級9「局部に神経症状を残すもの」に該当する。
 イ 逸失利益 111万7,765円
   基礎収入を平成26年(本件事故前年)の年収とし、労働能力喪失率5とした上で、今後の症状に対する慣れが期待できるから、労度能力喪失期間3年間(対応するライプニッツ係数は2.7232である。)と定める。
 ウ 慰謝料
  a)通院慰謝料    90万円
  b)後遺障害慰謝料 110万円


【裁判所の判断】

(1)事故態様、当事者双方の過失の有無及び割合
 ア 甲車両は、本件道路を、東から西に向かって走行していたが、1審原告は、前方に対向車を認め、その対向車をやり過ごすため、甲車両を、本件道路左(南)の有蓋側溝に設置された電柱(以下「本件電柱」という。)手前の本件道路左寄りに停止させようとし、ブレーキをかけ、左にハンドルを切って本件電柱の手前の位置に停止した。
   1審被告は、本件道路の左寄りを乙自転車に乗って走行していたが、急に甲車両が左に寄せて来たため、道路を塞がれ、停止することもできず、乙自転車の前かご、ハンドル右側、1審被告の右膝が、甲車両の左側面後部と衝突した。
   前記の事実は、京都府E警察署の警察官が平成27年8月18日に作成した「現場の見分状況書」(注:本件事故の11日後に、1審原告と1審被告の双方が現場に立ち会い、警察官に対してした説明に基づいて作成されたもの)の記載に沿うものである(注:1審原告は、本件事故の発生状況について、乙自転車は、本件電柱を超えて東から西に進行し始めた甲車両に、本件電柱よりも西側で衝突した旨主張していた。)。
 イ 前記認定事実に照らせば、本件事故は、主に、左側を走行する乙自転車に気付かないまま、急に甲車両の進路を変更し、乙自転車の進路を塞ぐように甲車両を走行させた1審原告の過失によって発生したものと認められる。
   ただし、甲車両がブレーキをかけ、すぐに停止している事実に照らせば、甲車両はかなり低速で走行していたものと推認される。1審被告も、本件道路のような狭い道路(幅員約4.5m、その左右(南北)に幅員0.8mの有蓋側溝がある。)を走行する場合には、他の車両の動静にも気を配る必要があるから、本件事故が発生するについては、低速で後方から接近してくる甲車両に対する1審被告の注意が足りなかったことは否定できない。
 ウ 本件事故の発生に寄与した双方の過失割合は、1審原告が9割、1審被告が1と認めるのが相当である(注:原判決と同じ。)。

(2)1審被告の損害(反訴)
 ア 1審被告の後遺障害
  (注:下記イにて、本件後遺障害による労働能力喪失率14%を認めていることから、後遺障害等級12に該当すると判断したものと推認される。)
   1審原告は、平成28年1月27日の右膝関節の可動域が130度であり、マックマレー検査の結果が陰性であったことから、1審被告には客観的な医学的所見によって裏付けられるような後遺障害はないと主張する。しかし、本件事故当日から症状固定時までの検査所見や治療経過を総合考慮して、A医師が、本件後遺障害が残存すると診断し、後遺障害に関する診断書を作成している事実に加え、医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされている事実(この事実は、当審証拠(略)により認められる。)によれば、平成28年1月27日の上記所見を捉えて本件後遺障害の存在を否定することは相当ではない。
 イ 逸失利益 1,133万4,446円
  a)平成28年簡易生命表によれば、54歳の男子の平均余命は28.91年であるから、1審被告は、平成28年4月8日の症状固定時(当時1審被告は54歳)においてなお14年間は就労可能であったと推認される。
  b)1審被告は、これまでのところ労働能力喪失に伴う減収が現実化していないし、定年退職までは減収が顕在化しない可能性が高いということができる。
   しかしながら、1審原告は、右膝の痛みや不安定さによって業務の支障が生じないように努力しているものと認められ、そのことが減収を食い止めている面も否定はできない。また、本件後遺障害の内容、部位及び程度と1審被告の職務内容に照らせば1審被告が定年退職後に高収入を得るために再任用以外の転職を試みた場合、本件後遺障害が不利益をもたらす可能性があるといわざるをえない。
  c)したがって、1審被告は、本件後遺障害により、上記14年間にわたり、症状固定時の給与収入817万8,968円の14%の得べかりし収入を失ったものと推認すべきであり、年5分のライプニッツ係数(9.8986)を用いて中間利息を控除し、逸失利益につき症状固定時の金額を算出すれば、1,133万4,446円となる。
 ウ 慰謝料
  a)通院慰謝料   130万円
  b)後遺障害慰謝料 260万円

(3)結論
  a)本訴請求については、1審原告及び1審被告の各控訴をいずれも棄却する。
  b)反訴請求については、上記(2)のとおりに原判決を変更し、1審原告の控訴を棄却する。