大阪高裁平成31年1月22日判決(自保ジャーナル2042号16頁)

医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされていることから、右膝内側半月板損傷の機能障害に関し、後遺障害等級第12級相当の損害を認定した事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(本件事故)が発生した。
 ア 発生日時 平成27年8月7日午前11時36分頃
 イ 発生場所 京都府市宇治市内の道路(以下「本件道路」という。)
 ウ 甲車両  1審原告兼反訴被告(以下「1審原告」という。)が運転する普通乗用自動車
 エ 乙自転車 1審被告兼反訴原告(以下「1審被告」という。1962年3月生)が運転する自転車
 オ 事故態様 1審原告が、甲車両を運転し、本件道路を東から西に向かって走行し、対向車と離合するため道路左側に甲車両を寄せたところ、1審被告も、その頃、同一方向に向かって本件道路左端を走行していたため、乙自転車と甲車両の左側面後部が衝突した。

(2)1審被告(本件事故当時53歳)は、a市交通局b営業所に勤務し、市バス業務を担当する地方公務員であるが、本件事故当時、主にデスクワークを担当していた。
   1審被告は、事故当日の平成27年8月7日、B病院で診察を受け、痛みのため右膝の屈曲が困難であると訴えたところ、同病院のA医師は、同日、本件事故での受傷について、「右膝挫傷」と診断した。
    1審被告は、その後、A医師の容認の下、自宅近くの接骨院で施術を受けていたが、B病院での診療の際には、右膝の違和感、階段降下時の膝崩れ、右膝屈曲時の膝の内側の痛みなどを訴えていた。そこで、A医師は、同年10月9日、MRI検査を行ったところ、右膝内側半月板損傷が疑われる所見があっため、同年10年16日、本件事故での受傷について、「右膝挫傷」に加え「右膝内側半月板損傷」と診断した。

(3)1審被告は、平成27年11月21日、B病院を受診し、マックマレー検査により内側半月板損傷を示す陽性所見が見られた。
   しかし、同年12月16に再度行われたMRI検査では、前回に認められた右膝内側半月板損傷が改善しているとの所見が得られた。そして、平成28年1月27にB病院を受診した際は、右膝間接の可動域が130度であり、マックマレー検査でも右膝内側半月板損傷を示す所見が「陰性」とされた。
   しかし、1審被告は、その後も、痛みや膝崩れといった右膝の症状を訴えており、右膝関節の関節可動域(屈曲)は、平成28年2月13日が90度、同年3月11日が100度であった。

(4)A医師は、受傷から半年以上が経過しても右膝の症状が緩解せず、これ以上保存的治療をしても治療効果が得られる見込みが乏しいと判断し、平成28年4月8日に症状が固定したとする後遺障害に関する診断書を作成した。同診断書では「右膝痛、屈曲位90度を超えると痛み、階段の昇降時に膝くずれ等あり、歩行時力が入りにくい」との自覚症状があるとされ、膝関節の屈曲可動域は健側(左)の130度に対して右が90度(自動、他動とも)とされた。
   損害保険料率算出機構(事前認定)は、同年5月11日までに、1審被告には、上記診断書において診断された後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残存するものと認め、かつ、右膝関節はその可動域が健側(左膝関節)の可動域角度の4分の3以下に制限されるとの機能障害があり、右膝の神経症状は昨日障害に包摂して評価されるべきものであって、本件後遺障害は全体として等級表12級7号に該当するものと認めた。

(5)1審被告の事故前及び事故後の給与収入は、平成26年分が820万9、203円、平成27年分が830万3,904円、平成28年分が817万8,968円であった。
   1審被告は、西暦2022年3月に60歳となり、同月末をもってa市を定年退職することになるが、特段の事情がなければ同年4月1日から5年間は再任用される可能性が高い。しかし、再任用職員に支給される給与は、通常、定年前支給額の半額程度となる。


 【争点】

(1)事故態様、当事者双方の過失の有無及び割合
(2)1審被告の損害(反訴)
 ア 1審被告の後遺障害
 イ 逸失利益
 ウ 慰謝料
   以下、上記についての裁判所の判断を示す(注:1審原告の損害(本訴)に関しては、原判決・本判決とも、甲車両の修理費5万3,028円を認めた。)。


   なお、上記(2)についての1審(京都地裁平成30年6月14日判決)の判断は、以下のとおりである。
 ア 1審被告の後遺障害
   事前認定おいて、右膝の関節機能障害について12級7号該当とされた。しかし、①右膝の半月板損傷は改善していて、器質的変化が残存したとはいえない(平成27年12月16日)。また、②関節可動域についてみても、初診時から約90度の屈曲が可能であったところ、治療期間中にいったん130度程度まで回復した後に、症状固定時の測定値90度に至ったことからすると(同年8月7日、平成28年1月27日、同年4月8日)、症状固定時の測定値をただちには採用し難い。
   そうすると、12裕7号該当は認められない。
   他方、被告の右膝の痛みの訴えは本件事故後一貫していて、かつ、MRI検査において右内側半月板損傷の可能性が認められたことを踏まえると、同症状は医学的に説明可能なものであるから、14級9「局部に神経症状を残すもの」に該当する。
 イ 逸失利益 111万7,765円
   基礎収入を平成26年(本件事故前年)の年収とし、労働能力喪失率5とした上で、今後の症状に対する慣れが期待できるから、労度能力喪失期間3年間(対応するライプニッツ係数は2.7232である。)と定める。
 ウ 慰謝料
  a)通院慰謝料    90万円
  b)後遺障害慰謝料 110万円


【裁判所の判断】

(1)事故態様、当事者双方の過失の有無及び割合
 ア 甲車両は、本件道路を、東から西に向かって走行していたが、1審原告は、前方に対向車を認め、その対向車をやり過ごすため、甲車両を、本件道路左(南)の有蓋側溝に設置された電柱(以下「本件電柱」という。)手前の本件道路左寄りに停止させようとし、ブレーキをかけ、左にハンドルを切って本件電柱の手前の位置に停止した。
   1審被告は、本件道路の左寄りを乙自転車に乗って走行していたが、急に甲車両が左に寄せて来たため、道路を塞がれ、停止することもできず、乙自転車の前かご、ハンドル右側、1審被告の右膝が、甲車両の左側面後部と衝突した。
   前記の事実は、京都府E警察署の警察官が平成27年8月18日に作成した「現場の見分状況書」(注:本件事故の11日後に、1審原告と1審被告の双方が現場に立ち会い、警察官に対してした説明に基づいて作成されたもの)の記載に沿うものである(注:1審原告は、本件事故の発生状況について、乙自転車は、本件電柱を超えて東から西に進行し始めた甲車両に、本件電柱よりも西側で衝突した旨主張していた。)。
 イ 前記認定事実に照らせば、本件事故は、主に、左側を走行する乙自転車に気付かないまま、急に甲車両の進路を変更し、乙自転車の進路を塞ぐように甲車両を走行させた1審原告の過失によって発生したものと認められる。
   ただし、甲車両がブレーキをかけ、すぐに停止している事実に照らせば、甲車両はかなり低速で走行していたものと推認される。1審被告も、本件道路のような狭い道路(幅員約4.5m、その左右(南北)に幅員0.8mの有蓋側溝がある。)を走行する場合には、他の車両の動静にも気を配る必要があるから、本件事故が発生するについては、低速で後方から接近してくる甲車両に対する1審被告の注意が足りなかったことは否定できない。
 ウ 本件事故の発生に寄与した双方の過失割合は、1審原告が9割、1審被告が1と認めるのが相当である(注:原判決と同じ。)。

(2)1審被告の損害(反訴)
 ア 1審被告の後遺障害
  (注:下記イにて、本件後遺障害による労働能力喪失率14%を認めていることから、後遺障害等級12に該当すると判断したものと推認される。)
   1審原告は、平成28年1月27日の右膝関節の可動域が130度であり、マックマレー検査の結果が陰性であったことから、1審被告には客観的な医学的所見によって裏付けられるような後遺障害はないと主張する。しかし、本件事故当日から症状固定時までの検査所見や治療経過を総合考慮して、A医師が、本件後遺障害が残存すると診断し、後遺障害に関する診断書を作成している事実に加え、医学的には半月板の損傷が自然治癒することは殆どないとされている事実(この事実は、当審証拠(略)により認められる。)によれば、平成28年1月27日の上記所見を捉えて本件後遺障害の存在を否定することは相当ではない。
 イ 逸失利益 1,133万4,446円
  a)平成28年簡易生命表によれば、54歳の男子の平均余命は28.91年であるから、1審被告は、平成28年4月8日の症状固定時(当時1審被告は54歳)においてなお14年間は就労可能であったと推認される。
  b)1審被告は、これまでのところ労働能力喪失に伴う減収が現実化していないし、定年退職までは減収が顕在化しない可能性が高いということができる。
   しかしながら、1審原告は、右膝の痛みや不安定さによって業務の支障が生じないように努力しているものと認められ、そのことが減収を食い止めている面も否定はできない。また、本件後遺障害の内容、部位及び程度と1審被告の職務内容に照らせば1審被告が定年退職後に高収入を得るために再任用以外の転職を試みた場合、本件後遺障害が不利益をもたらす可能性があるといわざるをえない。
  c)したがって、1審被告は、本件後遺障害により、上記14年間にわたり、症状固定時の給与収入817万8,968円の14%の得べかりし収入を失ったものと推認すべきであり、年5分のライプニッツ係数(9.8986)を用いて中間利息を控除し、逸失利益につき症状固定時の金額を算出すれば、1,133万4,446円となる。
 ウ 慰謝料
  a)通院慰謝料   130万円
  b)後遺障害慰謝料 260万円

(3)結論
  a)本訴請求については、1審原告及び1審被告の各控訴をいずれも棄却する。
  b)反訴請求については、上記(2)のとおりに原判決を変更し、1審原告の控訴を棄却する。


 

大阪地裁平成30年11月27日判決(自保ジャーナル2040号29頁)

主治医から症状固定日を予告された後の可動域数値が信用できないことを前提に、原告の症状固定日と左肩関節の可動域制限に関する後遺障害等級を認定した事例(甲事件確定)


【事案の概要】

(1)甲事件:原告A、被告B、乙事件:原告B‘保険会社、被告A

(2)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成24年12月25日午前7時50分頃
   発生場所 兵庫県伊丹市内の信号機のない交差点(以下「本件事故現場」という。)
   原告車両 A(甲事件原告兼乙事件被告。以下「原告」という。)運転の原動機付自転車
   被告車両 B(甲事件被告。以下「被告」という。)運転の普通乗用自動車
   事故態様 本件事故現場において、南北に走る道路を北方向に向かって進行する原告車両と東西に走る道路を西方向に向かって進行する被告車両が衝突した。

(3)原告は、事故当日の平成24年12月25日、C病院に搬送され、CTやレントゲン撮影により骨盤骨折及び左上腕骨近位部骨折が指摘され、手術のためにB大学病院に転院して、入院した。原告は、12月26日、骨盤骨折及び左上腕部骨折の手術を受けた。
   原告は、上記手術の後、神経・循環障害なく経過し、平成25年1月4日からリハビリが開始された。原告は、2月5日、C病院に転院して、引き続きリハビリを受けた。B大学病院退院の際のサマリーには、術後経過良好、可動域は120度前後という記載がされた。原告は、3月14日、リハビリ継続のため、D病院に転院した。
   原告は、D病院においては、作業療法士と理学療法士によるリハビリを受けていた。原告は、6月11日、D病院を退院したが、同日付けの診療情報提供書には、経過良好とされ、左肩の現在の可動域は、他動で屈曲、外転ともに170度、自動で屈曲160度、外転150度となっていた。
   原告は、6月12日からE整形外科への通院を開始し、平成27年2月18日まで実日数285日のリハビリを受けた。しかし、同病院でのリハビリは1回当たり10分から15分程度のもので、かつ、D病院と比べてリハビリの種類が少なかった。
   原告は、E整形外科への通院期間中の平成25年7月3日から4日にC病院に入院し、左上腕部の抜釘を受けた。その後、原告は、上腕骨の状態につき、問題があるという説明を受けたことはなかった。

(4)原告が、平成25年6月12日にE整形外科への通院を開始してからの原告の治療に関し、以下の事実が認められる。
  ①E整形外科のEA医師作成に係る平成26年7月30日付け「労災リハビリテーション評価計画書」には、「著名な改善はなく、概ね症状固定と思われる」と記載されている。  
  ②EA医師作成に係る平成26年8月27日付け「意見書と題する書面」には、「左肩の可動域宣言、疼痛、筋力は改善するも、現時点では改善傾向は乏しい」「同年8月末、現時点で概ね症状固定の状態と考える」などと記載されている。
  ③原告は、8月29日、C病院に通院し、CA医師の診察を受けたところ、9月26日を症状固定日とする予定である旨聞いた。
  ④原告は、9月26日、CA医師に対し、9月から週3回、鍼やリハビリに行っており、もう少し続けたいので、11月初旬を症状固定日にしようと思っている旨話した。
  ⑤原告は、11月14日、CA医師から、次回の診察の際に、症状固定の用紙を持参してもらうよう言われ、その際に測定を行うことになった。しかし、原告は、次回の診察に当たる12月19日、CA医師に対し、平成27年1月の第4週に測定し、同年1月末に症状固定したい旨述べた。
  ⑥CA医師作成に係る後遺障害診断書(以下「本件後遺障害診断書」という。)には、症状固定日は平成27年2月20日と記載されている。

(5)損害保険料率算出機構は、平成27年9月11日、原告の左上腕骨骨折に伴う左肩関節の機能障害につき、本件後遺障害診断書に記載されている数値(他動値で屈曲左80度、右160度、外転左60度、右180度)を採用し、患側(左)の可動域が健側(右)の可動域角度の1/2以下に制限されていることから、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として、後遺障害等級10級10号(併合9級)に該当する旨判断した。

(6)原告は、本件事故により人的及び物的損害を被ったとして、被告に対して、自賠法3条(人的損害に限る)及び民法709条に基づき、損害賠償金等の支払を求めた(甲事件)。
   B‘保険会社は、本件事故により発生した車両損害につき車両保険金を支払ったとして、原告に対し、保険法25条に基づき、支払った保険金等の支払を求めた(乙事件)。


【争点】

(1)原告及び被告の責任原因、過失相殺の可否(争点1)
(2)原告の症状固定時期(争点2)
(3)原告の後遺障害等級(左上腕骨骨折に伴う左肩関節の状態についての後遺障害等級該当性)(争点3)
(4)本件事故と相当因果関係のある原告の損害額(争点4)
(5)被告車両の損害額(争点5)
   以下、上記(1)から(3)までについての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)原告及び被告の責任原因、過失相殺の可否(争点1)
   原告の走行する道路が優先道路であることや、原告車両が原動機付自転車であるのに対し、被告車両が普通乗用自動車であることに照らせば、被告の過失が原告の過失と比較して圧倒的に大きく、過失割合は原告が10%、被告が90とするのが相当である。

(2)原告の症状固定時期(争点2)
   【事案の概要】(4)①ないし③によると、EA医師及びCA医師は、平成26年夏頃には、原告の症状が固定していると考えていたことが認められる。それにもかかわらず、本件後遺障害診断書には、症状固定日が平成27年2月20日と記載されているが、これは、【事案の概要】(4)④及び⑤のとおり、原告が症状固定の判断を先送りしてほしいという意向を有していたためと考えられる。
   これらの事情に加え、後述のとおり、平成26年8月29日に症状固定を伝えられた後の測定から、左肩関節可動域の数値が一層悪くなり、その推移が不自然であることに照らすと、原告の症状は、平成26年8月末には固定していたと認められる。

(3)原告の後遺障害等級(左上腕骨骨折に伴う左肩関節の状態についての後遺障害等級該当性)(争点3)
 ア 別紙左肩関節可動域制限表(裁判所認定分)(略。以下同じ。)のとおり、D病院におけるリハビリを経て、同院の最終評価時である平成25年6月10日の時点で、左肩関節の屈曲、外転はともに(自動値)150度(以上)まで改善した。にもかかわらず、その後は、一時的には改善するものの、概ね可動域が縮小していった。そして、最終的には、本件後遺障害診断書のとおり、他動値で屈曲80度、外転60度にまで至っている。このような原告の症状の推移は、一般的な推移とは異なる。
 イ 他方、以下の事情が認められる。
  ①D病院の理学療法士及び作業療法士作成に係る平成25年6月11日付け診療情報提供書には、「現在のROMはpassive肩関節 屈曲170度外転170(中略)となっています。(中略)現時点ではやや外旋位での使用練習を行い上記のような可動域での運動は可能です。しかし、持久性に乏しいこともあり、持続的な空間保持は困難な状態です。」とされていること
  ②EA医師作成に係る平成25年8月27日付けリハビリテーション評価計画書に「現在肩関節可動域に改善がみられるも、リハビリを実施しないと、関節の可動域の制限が著明になる。」、平成26年7月30日付け労災リハビリテーション評価計画書に「リハビリを中断すると、ROM制限が著明になり、運動時の疼痛も増加する。」とされていること
  ③D病院の退院後の可動域が悪化した理由につき、EA医師は、疼痛を伴っており、疼痛域を超えて左肩関節を動かす頻度、左上肢の使用頻度が減ったことが考えられる旨、CA医師は、退院後に継続的な可動域訓練ができなくなり、拘縮が進んだものと思われる旨それぞれ回答していること
  ④E整形外科におけるリハビリは、実日数285日と日数は多かったものの、D病院と比較して、頻度が少なく、1回当たりの時間が短く、リハビリの種類も少なかったことから、D病院で改善した可動域を維持するには不足していたと考えられること
   以上の事情に照らすと、D病院の退院後の可動域が悪化した理由につき、不合理とまでいうことはできない。
 ウ ただし、上記のとおり、原告は、平成26年8月29日に、同年9月26日を症状固定日とする予定である旨CA医師から聞かされているところ、別紙左肩関節可動域制限表(裁判所認定分)のとおり、同年8月27日に測定された可動域が屈曲120度、外転110度だったのが、その後の測定から数値が一層悪化して、屈曲及び外転とも全て100度以下になっているのでありこれはあまりに不自然な推移である。
   そうすると、症状固定日を予告された後の可動域数値は信用することができず、EA医師が、同年8月27日の時点で原告の左肩の改善傾向は乏しく、同年8月末で概ね症状固定と考えていたことも併せ考慮すると、その直近の測定日である同年8月27日の屈曲120度、外転110度を後遺障害認定の基準とするのが相当である。
 エ よって、左肩関節の可動域制限については、患側(左側)が健側(右側。ただし、平成26年8月27日には、計測されていないので、参考可動域である180度を基準とするのが相当である。)の3/4以下となっているので、後遺障害等級12級6「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害と残すもの」に該当する。
 オ そして、骨盤骨折による骨盤骨の変形につき、骨折後の著しい変形癒合が認められ、「骨盤骨に著しい変形を残すもの」として、後遺障害等級12号5号に、骨盤骨折に伴う右股関節の機能障害につき、その可動域が健側(左股関節)の可動域の可動域角度の3/4以下に制限されていることから、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として、後遺障害等級12級7号にそれぞれ該当する。
   よって、原告の後遺障害等級は、併合11級に該当する。

(4)結論
   甲事件:請求額21,630,710円、認容額6,065,715円(一部認容)
   乙事件:請求額175,000円、認容額17,500円(一部認容)


 

大阪地裁平成30年10月16日判決(自保ジャーナル2036号148頁)

左肩と左手関節は、労働者災害補償保険法施行規則14条5項の「同一の部位」とはいえないと判示した事例(控訴中)


【事案の概要】

(1)被告は、消費者生活協同組合法に基づき非営利で共済事業を営む法人である。
   原告と被告は、平成27年1月1日、原告を被共済者、共済期間を平成27年1月1日から同年12月31日とする①交通災害共済契約、②団体定期共済契約(以下、これらを併せて「本件共済契約」という。)を締結した。本件共済契約においては,被共済者が共済期間中に発生した交通事故を直接の原因として共済期間中に身体障害の状態になった場合、身体障害等級に応じた額の障害共済金が支払われる。
   なお、本件共済契約においては、身体障害等級の認定に際して、労働者災害補償保険法施行規則14に準じて行う旨定められている。

(2)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成27年3月30日午前9時8分頃
   発生場所 大阪府枚方市
   原告車  原告が運転する原動機付自転車
   事故態様 原告車が、上記の発生場所で転倒した。

(3)原告は、本件事故により、両足関節捻挫、左手関節捻挫、右足関節挫創等の傷害を負い、医療法人B病院にて治療を受け、平成28年3月18日に症状固定となった。

(4)損害保険料率算出機構は、平成28年8月19日、原告の左手関節痛につき、「局部に神経症状を残すもの」として自動車損害賠償保険法施行令(以下「自賠法施行令」という。)別表第二第14条9号に該当すると認定した。
   また、被告も、原告の左手関節痛につき、本件共済契約の契約規定別表第1「身体障害等級別支払割合表」の第14条9号に該当する旨認定した。

(5)原告は、本件事故前の平成22年10月18日、普通自動二輪車を運転中に転倒し、頸椎捻挫、左前腕打撲擦過傷等にて通院し、左肩打撲後の左肩の痛みにつき自賠法施行令別表第二第12級13号に、頸椎捻挫後の頸部の痛みにつき同別表14級9号に該当するものとされ、同併合12級と判断された。そして、被告は、原告に対し、左肩痛について、本件共済契約の契約規定別表第1「身体障害等級別支払割合表」の第12条12号、頸部痛について同表第14級9号、併合12級の身体障害があると認め、障害共済金70万円を支払った。


 【争点】

   本件事故による原告の左手関節痛が、平成22年10月18日の事故による原告の左肩の痛みとの関係で、労災補償保険法施行規則14条5項の「既に身体障害のあった者が、負傷又は疾病により同一の部位について障害の程度を加重した場合」に該当するか否か。
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、上記の争点に関する被告の主張は、以下のとおりである。
 ア 神経系統の機能障害に関しては、神経症状のある身体の部分等を勘案して、新たな身体障害によって既存障害による労働能力の喪失を超えて労働能力の喪失が生じたと認める余地がある場合には、「同一の部位」ではない新たな障害として扱う場合がある。
 イ ところで、労災の障害等級認定上、12級12は、「通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの」、14級9は、それよりも軽度のものが該当するとされ、被告の等級認定もこれに準じている。
   とすると、本件は、時には労務に支障が生じる場合があるという程度の左肩の痛みがあるところに、それよりもさらに軽微な左手関節の痛みが加わったという場合であり、左手関節痛によって既存障害による労働能力喪失を新たに超える程度の労働能力の喪失が生じたとまで認めることは困難である。
 ウ したがって、本件事故による原告の左手関節痛は、既存障害と「同一の部位」についてのものであって、別の新たな障害が生じたとも、「加重」に該当するとも認められず、共済金発生の余地はない。


【裁判所の判断】

 (1)本件共済契約においては、身体障害等級の認定に際して、労働者災害補償保険法施行規則14に準じて行う旨定められている。そこで、共済金交付の可否を判断するに当っては、同条の解釈がまず重要となる。
(2)労働者災害補償保険法施行規則14条は、障害補償給付を支給すべき身体障害の障害等級は、別表第1の障害等級表によることを定めている。
   そして、障害等級表は、まず、解剖学的観点から身体を「部位」に分け、次に、それぞれの部位における身体障害を機能の面に重点を置いた生理学的観点から一種又は数種の機能群に分けており(「障害の系列」)、障害の系列は、別紙「障害系列表」のとおり、35種の系列に細分されている。
   既存障害のある者につき新たな障害が発生した場合に問題となる同条5項の「同一の部位」とは、同一系列の範囲内の障害をいい、「障害の程度を加重した場合」とは,新たな障害が加わった結果、障害等級上、既存の障害よりも現存する障害が重くなった場合をいう。

(3)前記【事案の概要】(5)の2つの後遺障害は,いずれも「神経系統の機能又は精神の障害」(別紙「障害系列表」系列区分13)に該当する。そうすると、形式的にみれば、左肩の痛みと左手関節痛は、労働者災害補償保険法施行規則14条5項の「同一の部位」に関するものとなる。
   しかし、被告も自認するとおり、「神経系統の機能又は精神の障害」については、全てを「同一の部位」として扱うのは狭きに失し相当ではなく、損害として一体的に評価すべき身体の同一の類型的な部位に該当するか否かによって決するのが相当である。

(4)この点、
 ア 左肩と左手関節は、ともに左上肢であるものの、近接しているとまではいえない上、原告の左肩の痛みと左手関節痛は、中枢神経系の障害ではなく、いずれも局部に限定した神経症状を主体とする障害である。
 イ 運動機能の点からしても、肩は上肢の運動において全般的な役割を果たすのに対し、手関節はより狭い範囲の運動や細かい運動において役割を果たすのであり、両者はそれぞれ果たす役割が異なっている。
   これらの事情に照らすと、左肩と左手関節は、損害として一体的に評価すべき身体の同一の類型的な部位に該当するとは認められず、労働者災害補償保険法施行規則14条5項の「同一の部位」とはいえない。

(5)被告は、本件事故による原告の左手関節痛につき、本件共済契約に基づき、共済金を支払う義務を負う(全部認容)。


【参照条文】

労働者災害補償保険法施行規則
14条1項 障害補償給付を支給すべき身体障害の障害等級は、別表第1に定めるところによる。
14条5項 既に身体障害のあった者が、負傷又は疾病により同一の部位について障害の程度を加重した場合における当該事由に係る傷害補償給付は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付とし、その額は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付から,既にあった身体障害の該当する障害等級に応ずる傷害補償給付の額(括弧書き略)を差し引いた額による。