東京地裁平成30年11月21日判決(労働判例1204号83頁)

セブンーイレブン・ジャパン(共同加盟店主)事件(確定)


【事案の概要】

(1)原告は、昭和17年〇月〇日生まれの男性であり、コンビニエンス・ストアの経営等を目的とするA企画有限会社(以下「A企画」という。)が平成7年4月3日に設立されて以降、同社の代表取締役を務めている。
   被告は、「セブンーイレブン・システム」と称するコンビニエンス・ストアのフランチャイズ・チェーンの運営等をしている株式会社である。

(2)原告は、従前より酒屋を経営していたところ、平成5年5月15日、被告との間で、別紙1「加盟店基本契約書」(略)のとおり、被告が原告に対して上記(1)のフランチャイズ・チェーンの加盟店であるセブンーイレブンC店(以下「C店」という。)を経営することを許諾し、かつ、経営指導、技術援助等を行い、原告が被告に対してチャージを支払うことなどを内容とする加盟店基本契約(以下「本件基本契約①」という。)を締結し、同年10年13日、同契約に基づいて、同店を開店した。なお、原告は、本件基本契約①を締結した際、加盟店付属契約書に署名・押印した。
   原告と被告は、平成13年6月25日、C店についての中途解約に関する協定書(以下「本件協定書」という。)を交わし、同年7月1日をもって本件基本契約①を中途解約すること、原告と被告との間には何らの債権債務の関係のないことを確認したことなどを合意した(なお、同合意の有効性については、当事者間に争いがある。)。

(3)原告の長女の配偶者であるB氏(以下「B氏」という。)は、平成8年2月29日、被告との間で、別紙1「加盟店基本契約書」(略)のとおり、被告がB氏に対して上記(1)のフランチャイズ・チェーンの加盟店であるセブンーイレブンD店(以下「D店」といい、C店と併せて「本件各店舗」という。)を経営することを許諾し、かつ、経営指導、技術援助等を行い、B氏が被告に対してチャージを支払うことなどを内容とする加盟店基本契約(以下「本件基本契約②」といい、本件基本契約①と併せて「本件各基本契約」という。)を締結し、同年9年19日、同契約に基づいて、同店を開店した。なお、B氏は、本件基本契約②を締結した際、加盟店付属契約書に署名・押印した。
   A企画は、平成10年12月4日、被告に対し、共同フランチャイジーとしてD店を経営し、本件基本契約②をB氏と連帯して履行することを約した。

(4)被告は、平成16年に、B氏及びA企画(以下「B氏ら」という。)が正当な理由なくD店の売上金等を被告に送金しないとして、本件基本契約②に基づき、被告がB氏らに対し、B氏らに代わり同店について売上及び金銭出納管理をすることができる地位にあることを仮に定める仮処分命令を仙台地方裁判所に申し立て、同裁判所は、同年3月8日、その旨の仮処分決定をした。
   被告は、同年12年30日、E店の売上及び金銭出納管理のため、被告の従業員であるE氏、F氏及びG氏(以下、これらの3名を併せて「E氏ら」という。)をして、同店内に金庫を台車に載せて運び入れさせた。

(5)被告は、B氏らに対し、本件基本契約②に基づき、平成15年7月19日から平成17年4月25日までの間のD店の毎日の総売上金等の合計5332万6787円の支払を求める訴えを仙台地方裁判所に提起し、同裁判所は、同年8月4日、被告の請求を全部認容する旨の仮執行宣言付き判決(以下「前訴判決」という。)を言い渡し、同判決は、その後の仙台高等裁判所による控訴棄却判決、最高裁判所による上告棄却及び上告不受理決定により確定した。
   同月31日、前件判決を債務名義としてD店内の商品等に対する動産執行が行われた。また、被告は、同日、B氏らに対し、B氏らに本件基本契約②第27条第1項及び第2項に違反する行為があり、同第47条第2項第1号に定める被告による契約解除事由に該当することから、同日をもって同契約を解除する旨を通知した(なお、同解除の有効性については、当事者間に争いがある。)。


【争点】

(1)主位的請求及び予備的請求に共通する争点
   原告が労働基準法第9条の「労働者」及び労働契約法第2条第1項所定の「労働者」(以下、これらを併せて単に「労働者」という。)に該当するか否か(争点1)
(2)主位的請求に関する争点
 ア 被告には、原告が労働者に該当するにもかかわらず、原告に対して、賃金の支払を怠る、使用者としての安全配慮義務に反して傷害を負わせる、無効な解雇を行うといった不法行為があるか否か(争点2)
 イ 被告の不法行為による原告の損害の有無及びその額(争点3)
 ウ 原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権につき、消滅時効の成否等(争点4)
(3)予備的請求に関する争点
   原告の被告に対する労働契約に基づく未払賃金請求権の有無(争点5)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(原告が労働者に該当するか否か)について
 ア 原告が労働基準法第9条の「労働者」及び労働契約法第2条第1項の各規定によれば、労働者とは、使用従属性の要件を満たす者、すなわち、使用者の指揮監督の下に労務を提供し、使用者から労務の提供の対価として報酬を支払われる者をいうと解される。
   しかし、【事案の概要】(1)から(3)までのとおり、原告は、個人もしくはA企画の代表取締役として、被告との間で、本件各店舗の経営に関するフランチャイズ契約である本件各基本契約を締結し、同契約に基づき、独立の事業者(第2条)として、本件各店舗を経営していたものであって(原告自身も、自身が本件各店舗の経営者として、同店舗を経営していたことを自任している(原告本人)。)、このことは、原告が労働者であることと本質的に相容れないものである。
 イ これに対し、原告は、①業務遂行上の指揮監督、②時間的・場所的拘束性、③代替性、④報酬の算定・支払方法等及び⑤その他の事情といった各観点から原告の就労実態をみれば、使用従属性が認められ、原告が労働者に該当すると主張する。
   しかし、以下のとおり、原告が指摘する各事情は、いずれも上記アの原告の事業者性を減殺して、原告の労働者性を積極的に肯定できるまでの事情とはいえず、原告は労働者に該当しないというべきである。
  a)①業務遂行上の指揮監督について
   原告は、本件各店舗の運営に際して、情報システムにより仕入商品及び販売商品の種類・数量まで把握され、商品についても被告の推奨仕入先から被告を通じて仕入れることが事実上強制され、被告の方針と異なることを行えば、すぐに店舗経営相談員(オペレーション・フィールド・カウンセラー。以下「OFC」という。)が店舗事務所に立ち入り監督するなど、被告から業務遂行上の指揮監督を受けていたと主張する。
   しかし、【事案の概要】(2)(3)のとおり、本件各基本契約は、被告が、原告及びB氏らに対して、セブンーイレブン・システムによるコンビニエンス・ストア加盟店(以下「セブンーイレブン店」という。)を経営することを許諾するとともに、本部として継続的に同システムによる経営の指導、技術援助及びサービスを行うことを約し、原告及びB氏らが、被告に対して、セブンーイレブン店の経営を行い、これについて被告に一定の対価であるセブン―イレブン・チャージを支払うことを約することなどを内容とするものであり(第1条以下)、原告及びB氏らの労働それ自体の提供が契約の目的とされているものではない。本件各基本契約の上記内容からすれば、被告が本件各店舗の仕入を援助し、その販売促進に協力すること(第28条)は、同契約に基づく被告の業務の遂行を行うものであり、使用者がその権限において行う労働者に対する指導監督とはその性質がおよそ異なるものである。
   このうち商品の仕入については、原告及びB氏らが、本件各基本契約において、被告の推薦した仕入先や被告の関連会社から商品を仕入れ、又は被告の推薦した商品のみを仕入れることを義務付けられていなかった(30条)。しかし、実際には、コンビニエンス・ストアにおいて販売される多種多様な商品について、仕入ルートを独自に開拓して安定的かつ継続的な仕入れを行ったり、いかなる商品をどの程度仕入れるかを適時適切に判断したりすることは困難であると考えられる。そして、そのような実情があるからこそ、原告及びB氏らにとっては、被告との間で本件各基本契約を締結し、被告に一定の対価を支払って迄セブン―イレブン店の経営を行うメリットがあるのである。よって、原告が主張するとおり、被告の推薦する仕入先から被告を通じて仕入れるほかないという実情があるとしても、そのことをもって直ちに原告の事業性が否定されるものではない。
 b)②時間的・場所的拘束性及び③代替性について
   原告は、被告から年中無休24時間での本件各店舗の運営という労務の提供を強制され、時間的・場所的に強い拘束を受けていたなどと主著する。
   しかし、【事案の概要】(2)(3)のとおり、原告及びB氏らが本件各店舗以外の店舗におけるセブン―イレブン店の営業を許されておらず、また、本件各店舗において年中無休24時間の営業が義務付けられていたのは、本件各基本契約(第5条及び第24条)及び加盟店付属契約(第4条の第3項)に基づくものである。
   また、上記a)のとおり、本件各基本契約は、原告及びB氏らの労働それ自体の提供が契約の目的とされているものではなく、原告及びB氏が本件各店舗の店舗業務を自ら行うか、行うとしてどの程度の時間行うかは、経営者である原告及びB氏の判断に委ねられていたものである(第2条)。そして、原告の親族や原告が雇用したアルバイト従業員が本件各店舗の店舗業務を行っていたこと(原告が主張する労務提供の代替性があること)は、原告の労働者性を否定する方向に働く事情である。
  c)④報酬の算定・支払方法等について
   原告は、原告が労働者に該当することを基礎づける事情として、本件各基本契約において、原告(及びB氏ら)が、毎日、本件各店舗の売上金の金額を被告に送金した上で、オープンアカウント(本件各基本契約の付属明細書(ホ)第3項参照)によりこれを管理していた被告から月次引出金、四半期引出金及び利益剰余金の形で送金を受けることとなっていたこと(第19条、第27条、第40条等)、最低保証制度が導入されていたこと(第42条)、本件各店舗の人件費が被告から支払われていたことといった事情を挙げる。
   しかし、本件各基本契約において、いかなる方法により貸借処理を行い、また、最低保証制度を設けるか否かは、原則として、いずれも事業主である原告及びB氏らと被告において当該フランチャイズ契約の内容をどのように設定するかという問題にとどまる。よって、上記の事情から直ちに、原告の事業者性が否定され、原告が労働者に該当するということはできない。
   また、原告が、雇用していた本件各店舗のアルバイト従業員の給与は、本件各基本契約に基づき、被告が支払代行をしていた(第18条第4項及び付属明細書(ホ)第2項)ものの、原告がその額を決定し、その原資を負担するとともに、同給与をA企画の経費として計上していたこと(原告本人)からすると、これらの同給与に関する事情を全体としてみれば、むしろ、原告の労働者性を否定する方向に働く事情であるということができる。
  d)⑤その他の事情について 略
 ウ 以上によれば、原告が労働者に該当すると認めることはできない。

(2)争点2(被告には、原告が労働者に該当するにもかかわらず、原告に対して、賃金の支払を怠る、使用者としての安全配慮義務に反して傷害を負わせる、無効な解雇を行うといった不法行為があるか否か)及び争点4(原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権につき、消滅時効の成否等)について
 ア 原告は、原告が労働者に該当することを前提として、被告には、原告に対して、①原告及びその家族の本件各店舗における労務提供について割増賃金等の賃金の支払を怠る、②使用者としての安全配慮義務に反して、その従業員らに強盗致傷行為を行わせる、③無効な解雇を行い、その後の賃金を支払わないといった不法行為があると主張する。
   しかし、上記(1)のとおり、原告は労働者に該当しないから、原告の主張はいずれもその前提を欠き、採用することができない。
 イ なお、原告の上記アの主張のうち②の点については、原告が労働者に該当しない場合であっても、被告が不法行為責任を負うことがあり得るものである。
   しかし、仮に被告が主張するとおり、原告が被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を有していたとしても、原告の主張によっても、本件訴訟提起時点で同請求権について既に消滅時効が完成していることが明らかである。被告は同時効を援用しており、上記請求権に基づく原告の請求を認めることはできない。
   したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく請求を認めることはできない。

(3)争点5(原告の被告に対する労働契約に基づく未払賃金請求権の有無)について
   原告は、原告と被告との間の法律関係が労働契約であることを前提として、平成27年10月3日以降の賃金の支払を求める。
   しかし、上記(1)のとおり、原告は労働者に該当せず、そもそも、原告と被告との間の法律関係が労働契約であるということはできないから、原告の上記請求を認めることもできない。

(4)結論
   以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求(注:主位的請求の請求額は、11億5064万3616、予備的請求の請求額は、6027万8005である。)はいずれも理由がないから、これらを棄却する。


 

札幌地裁平成30年12月25日判決(労働判例1197号25頁)

ベルコ(代理店代表社員)事件 (控訴中)

【事案の概要】

(1)原告は、合同会社A代理店(以下「原告会社」という。)の代表社員である。
   被告は、冠婚葬祭互助会員(以下「会員」という。)の募集及び冠婚葬祭の請負等(以下、併せて「被告事業」という。)を目的とする株式会社である。

(2)被告の営業本部は、地方ごとのブロックに分けられ、それぞれの下に支社が設置されている。そして、支社の下に、被告と代理店契約及び業務執行委託契約を締結した個人事業主や法人である代理店が位置付けられている。
   平成23年6月には支部制が導入され、代理店を支部と称して、代理店の営業地域を原則として行政区画単位で割り振り、代理店はその範囲で営業を行うようになった。
   代理店に所属する従業員には、葬儀執行を担当し互助会入会契約を獲得するFA,各家庭を訪問して互助会入会契約を獲得するPR等の職種がある。

(3)原告は、平成14年10月28日、被告との間で、被告の会員募集業務や互助会入会契約の契約代理業務(以下「本件業務」という。)を受託する旨の代理店契約及び被告の運営する葬儀の役務提供に関する業務執行委託契約を締結し、以後、1年ごとに上記各契約を更新しながら、被告の代理店として札幌市B区で本件業務を行ってきた。
   原告は、平成20年4月、Oとの間で、1年間の期間の定めがある雇用契約を締結し、同契約は1年ごとに更新された。また、原告は、平成21年4月、Nとの間で、1年間の期間の定めがある雇用契約を締結し、同契約は1年ごとに更新された(以下、OとNを併せて「Nら」という。)。

(4)原告は、平成22年12月6日、合同会社A代理店(原告会社)を設立した。
   そして、原告は、被告に対し、代理店契約に基づき保証金(業務委託契約による原告の被告に対する一切の債務を担保する金員)を支払った。
   また、原告は、源泉税、消費税その他の税金及び労働保険料その他の社会保険料を、原告又は原告会社名義で納付した。

(5)原告と被告の間の代理店契約及び業務執行委託契約は、平成27年1月31日に終了した。そして、原告が担当していた札幌市B地区の代理店の経営は、被告の別の代理店を経営していたCが承継して、行うようになった。しかし、Cは、Nらを雇用しなかった。

(6)原告は、Nらが実質的に被告の従業員であることを前提として、Nらが原告の従業員であることを前提として原告が被告に支払ってきた保証金並びに本来被告が負担すべきであるにもかかわらず原告が負担していた税金及び社会保険料相当額が、被告の不当利得に当たるとして、本訴を提起した。

【争点】

(1)主位的主張
 ア 原告が被告の商業使用人であるか(争点①)
 イ 原告が被告の商業使用人である場合、原告とNらの間の雇用契約の効力が被告に帰属するか(争点②)
(2)予備的主張①
   原告が被告の代理商である場合、被告が代理商を主張することが信義則に反するなどして許されないか(争点③)
(3)予備的主張②
   原告が被告の代理商である場合、被告とNらとの間に黙示の雇用契約が成立しているか(争点④)
(4)その他
   原告が原告会社の設立後の利得の返還を請求できるか(争点⑤)
であるが、以下、(1)主位的主張(争点①、②)及び(3)予備的主張②(争点④)についての裁判所の判断の概要を示す。

【原告の主張】

(1)主位的主張
 ア 争点①について
   会社法14条1項の商業使用人は、必ずしも営業主と雇用関係にある者だけに限られず、これと委任関係にある者も含まれると解される。ただし、その場合においても、当該営業主の行う営業活動が、営業主の行う本店又は支店の営業活動の一部を成しているといえる必要がある。
   そのため、原告が被告の商業使用人に当たるか否かの検討に当たっては、①被告からの指揮命令の有無が中心的要素となり、この点については、a.仕事の依頼、業務従事の指示に対する諾否の事由、b.業務遂行上の指揮監督、c.場所的・時間的拘束性の観点から、労働力利用の自由を失わせるような拘束性が認められるか(人的従属性)という観点から検討することとなる。
   さらに、②原告が自己の計算と危険負担によって仕事を遂行していたのか、それとも被告の営業補助者にすぎないのかという点を、a.報酬の労務対償性(労務の対価として報酬が支払われているのか)や、b.原告の事業者性の有無ないし専属性の程度(被告の企業組織に組み込まれて労働するという組織的従属性)という観点から検討し、指揮命令関係を補完する要素として考慮すべきである。
   これを本件についてみると、別紙13(略)の「原告の主張」欄の各事実によるならば、原告は、被告の商業使用人であることは明らかである。
 イ 争点②について
   各代理店で採用されたFAら従業員は、被告から被告の従業員として扱われ、FAらが活動して生じた売上げ等は、全て直接被告に帰属している。このような被告の全体像からすると、FAらは被告の従業員という外観を有している。
   Nらは、原告と形式的に労働契約書を取り交わすことにより、以上のような被告の従業員という外観の中に取り込まれるのである。そのため、上記労働契約書の「事業所名 札幌B支部」との標記が被告を意味するものではないとはいえない。
   そうすると、原告が被告の商業使用人として締結したNらとの雇用契約の効力は、会社法14条1項の適用により、被告に帰属する。

(2)予備的主張②(争点④)
   原告が被告の商業使用人ではなく代理商であったとしても、①代理店におけるFAやパート従業員の採用実態、②指揮命令及び労務提供の態様(直接業務指示・指導を行う主体、労務提供の相手方等)、③人事労務管理の態様(勤怠管理、配置、懲戒、解雇等の決定主体等)、④従業員に対する給与の支払の態様を踏まえると、原告が形式上雇用した扱いとされたNらと被告の間には、黙示の雇用契約が成立していたといえる。
   以上のようにいえる具体的な根拠は、別紙14(略)の「原告の主張」欄記載のとおりである。

【裁判所の判断】

(1)主位的主張(争点①、②)
 ア 原告は、原告が被告の商業使用人であったと主張するので、以下検討する。
 イ 確かに、被告は、被告事業の推進のため、代理店を被告の支社の下に位置付けて、これらが被告と一体的な組織であるかのように運用しようとし、代理店となる者に対し被告所定の条件で代理店契約を締結させた上で、代理店の営業目標や代理店と従業員との雇用条件等についても方針を定め、それを支部長会議棟の場を通じて相当程度強く代理店に指示するなどしていたことは否定し難い。
 ウ しかしながら、その指示を受けていた原告は被告と代理店契約を締結した上で本件業務を行い、被告の意向を踏まえつつも、原告自身の判断において従業員の採否や雇用条件の決定を行っていたものである。また、原告は、相当数の従業員を雇用した上で、従業員に対し各種指示を行って本件業務を行い、しかも、平成22年12月からは、本件業務を行うために原告会社を設立し、同社において確定申告を行って公租公課を負担していたのである。そうすると、原告が被告の指揮監督に従って本件業務を行っていたとみることは困難である。
   そして、原告は、代理店契約上、本件業務を再委託することこそ禁止されていたものの、原告のみにより本件業務を遂行することは何ら予定されておらず、むしろ、基本的には原告が従業員を雇用して本件業務を行うことが予定されており、現に、原告らはNらを含む相当数の従業員を雇用して本件業務を遂行していたのであるから、業務の代替性があったといえる。
   さらに、原告が被告から支払を受ける本件業務の遂行の対価は、原告が互助会入会契約を獲得した数に応じて定める募集手数料にその他の所定の手数料を加えた手数料であり、基本的には原告が獲得した互助会入会契約の数に応じて定まるものといえ、それ自体原告が提供する労務の時間や量と相関関係があるものではない。しかも、互助会入会契約の獲得は、原告だけが行うものではなく、原告の従業員も行うものであるから、手数料には、原告の従業員が提供する労務により得られる部分が含まれている。そうすると、被告から支払われる手数料が原告の提供した労務それ自体の対価であるとはいい難い。
 エ 原告は、被告との代理店契約に基づき、独立した事業者として本件業務を行っていたというべきであって、原告が被告の商業使用人であるということはできない。したがって、争点②について判断するまでもなく、原告の主位的請求は採用できない。 

(2)予備的主張②(争点④)
 ア 原告は、原告が被告の代理商であったとしても、被告とNらとの間に黙示の雇用契約が成立していたと主張するので、以下検討する。
 イ 原告は、自ら面接した上でNらの採用を決定し、Nらとの間で雇用契約を締結したものであり、その過程に被告が関与したとは認められない。また、被告からの指示については、一部、書面によりNらに伝えられたり、Nらが直接指示等を受けたりしていたものもあるとはいえ、基本的には、支部長会議等において原告が被告から伝達を受け、それを更に原告が従業員らに伝達していたものであって、被告からNらに対し直接の指揮命令が行われていたものではない。
   また、被告がNらの労務管理を行っていたと認めるに足りる証拠はなく、Nらの給与も、原告に代わって被告が振込業務を代行していたにすぎず、原告によって支払われていたものである。
   加えて、Oは、被告に対し、自身が被告の従業員ではなく原告の従業員である旨の発言を行っており、O自身もそのような認識であったことがうかがわれる。
 ウ 被告とNらとの間に黙示の雇用契約が成立していたみることは困難である。したがって、その余の点(注:争点⑤のことと思われる。)について判断するまでもなく、原告の予備的主張②は理由がない。

(3)結論
   原告の請求は理由がないから、棄却する。

東京高裁平成27年11月11日判決(労働判例1129号5頁)

発注者・元請人及び元請人・下請人の各業務委託契約並びに下請人・原告の雇用契約が、二重偽装請負(労働者供給契約)にあたるとの原審の判断を覆した事例

【事案の概要】

(1)被控訴人株式会社DNPファインオプトロニクス(以下「被控訴人A」という。)は、訴外株式会社DNPミクロテクニカ(以下「訴外B」という。)と、訴外Bは、被控訴人日本ユニ・デバイス株式会社(以下「被控訴人C」という。)と、それぞれ基板製造に関する業務委託契約(以下「本件各業務委託契約」という。)を締結した。

(2)控訴人は、平成17年2月4日、被控訴人Cと雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結し、被控訴人AのD工場にて、勤務していた。

(3)控訴人は、平成21年1月31日、被控訴人Cから解雇された後、被控訴人Aに対し、本件契約及び本件各業務委託契約はいわゆる偽装請負であるから公序良俗に反して無効であり、控訴人と被控訴人Aとの間に黙示の雇用契約が成立しているとして、控訴人が被控訴人Aとの間で雇用契約(労働契約)上の権利のあることの確認等を求めた。

(4)原審が控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が本件各控訴をした。

【争点】

(1)控訴人と被控訴人Aとの間の黙示の雇用契約の成否
(2)被控訴人らによる共同不法行為の成否
(3)被控訴人A、訴外B及び被控訴人Cの各取締役らによる任務懈怠の有無
であるが、以下、(1)についての裁判所の判断のみを示す。

【裁判所の判断】

(1)判断枠組みについて
   控訴人は、本件雇用契約及び本件各業務委託契約について、いわゆる偽装請負であり、職安法44条及び労基法6条に違反し、ひいては公序良俗に反するから、いずれも無効であると主張する。
   控訴人と被控訴人Aとの間に黙示の雇用契約が成立したか否かを判断する上で、本件雇用契約及び本件各業務委託契約の効力が直接関連するものではないけれども、請負契約という法形式に沿う実態があるか否かは、黙示の労働契約の成否について判断する際に考慮すべき事情とも重なるものといえるから、当事者の主張に即して検討を進めることとする。

(2)本件雇用契約及び本件各業務委託契約について、いわゆる偽装請負であることを前提として、いずれも無効であるといえるか否かについて
 ア 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人に委ねられているから、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない(最高裁平成21年12月18日判決・パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件参照)。
 イ 被控訴人Aは、基本的に、バンプ印刷工程のように製造条件が完全に標準化されていない作業や、目視による微細な品質判定が要求される作業等については、「コア業務」として被控訴人Aの従業員に行わせており、作業内容が標準化された比較的単純定型作業であるバンプ後工程については、コア業務以外の業務(製造付帯業務)として訴外Bや被控訴人Cの従業員に行わせていた。そして、控訴人が担当した工程はバンプ後工程である貫通工程等であり、作業に当たって作業予定表及び製造指示書を参照するほかに逐一指示を要しないものであって、一つの設備において同時に複数人が作業することはなかった。
   また、被控訴人Cの従業員の勤怠管理は専ら同社が行っており、同社は、現場管理者、工程リーダー及びシフトリーダーを配置し、独自にスキル評価を実施したり教育を行ったりして、班編成に意見を反映させ、配置転換を行うなど、基本的な労務管理を行っていた。
   さらに、本件D工場のバンプ工程で使用する設備や機材は、訴外大日本印刷又は被控訴人Aが所有するものであり、被控訴人Cの従業員が使用するクリーンスーツ等も被控訴人Aから無償で貸与されたものであったけれども、作業着やネームプレートについては被控訴人Cの指定したものがあり、被控訴人Cの従業員が使用するクリーンルーム前室やエアシャワーゾーンについても、基本的に被控訴人Aの従業員が使用するものと区別されていた。
 ウ 以上の事実によれば、被控訴人Cは自らその従業員に対する指揮命令を行っていたということができる。
   したがって、本件について、本件雇用契約及び本件各業務委託契約について、いわゆる偽装請負であることを前提として、いずれも無効であるという控訴人の主張は、採用できない。

(3)控訴人と被控訴人Aとの間に、使用従属関係があり、実質的に控訴人が被控訴人Cに労務を提供し、同社が控訴人に賃金を支払う雇用契約関係が黙示に成立していたものと評価することができるか否かについて
   被控訴人Aが控訴人に対して具体的な指揮命令をする関係にあったといえないことは、上述したとおりである上、被控訴人Cは独自に採用手続を行っており、控訴人の採用手続についても被控訴人Aは関与していない。
   また、被控訴人Cは、その従業員の賃金についてそれぞれ雇用契約で定めるとともに、リーダー手当や慰労金等の独自の制度に基づいて賃金を支給しており、被控訴人Aにおいて被控訴人Cの従業員の賃金を決定していたことをうかがわせる事情は見当たらない。
   さらに、被控訴人Cはその従業員の配置転換等を行っていたほか、同社が控訴人を解雇し、控訴人が被控訴人Cを相手方として雇用契約上の地位確認等を求める旨の労働審判を申し立てたなどの本件紛争に至る経緯を見ても、本件において被控訴人Cが控訴人の具体的な就業を管理していたことは明らかである。
   以上の事実を総合すれば、本件において、控訴人と被控訴人Aとの間に雇用契約関係が黙示に成立していたものと評価することはできない。

原審では、本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、二重偽装請負(労働者供給契約)であり、職安法44条及び労基法6条に違反すると認定していた。

以下、上記の争点に関する、原審(さいたま地方裁判所平成27年3月25日判決 労働判例1129号16頁)の判断を示す。

【原審の判断】

 (1)本件雇用契約及び本件各業務委託契約は、二重偽装請負(労働者供給契約)であるか否かについて
 ア 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人に委ねられている。したがって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。
   そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職安法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないというべきである(最高裁平成21年12月18日判決参照)。
   これに対し、注文者、元請負人、下請負人、下請負人の雇用する労働者の4者の関係において、下請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとえ注文者と元請負人との間で請負契約という法形式が採られ、かつ、元請負人と下請負人との間で下請契約という法形式が採られていたとしても、これらを請負契約と評価することはできない。そして、この場合において、注文者と労働者との間及び元請負人と労働者との間にそれぞれ雇用契約が締結されていないのであれば、元請負人は、自己が雇用していない下請負人の雇用する労働者を、さらに業として注文者に派遣していることとなるというべきである。そうすると、上記4者間の関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当せず、職安法44条に違反することとなり、当該労働者が就業するのに介入して利益を得ることは労基法6条に違反することとなるものと解される。
 イ 本件では、以下の事実が認められる。
  ・原告ら被告Cの従業員は、被告Aの正社員が班長やサークル長を務める班体制において、被告Aの正社員らと混在した状況において業務を行っていた。
  ・原告ら被告Cの従業員は、基本的には被告Aが作成・配布する作業予定表や製造指示書に基づいて作業を行っており、種々の場面において被告Aから業務上の指示を受けていた。
  ・被告Aのサークル長が原告ら被告Cの従業員も含めて作業員全員のスキル評価をするなど、被告Aが被告Cの従業員のスキルを相当程度把握していた。
  ・原告が休日出勤した際に作業内容の指示等を行っていたのは、被告Aの正社員であった。
  ・被告A又はその親会社である訴外大日本印刷が必要な設備、機材及び作業員のクリーンスーツ等を準備し、提供していたほか、被告Aが被告Cの従業員による生産過程や生産結果について相当程度管理していた。
 ウ 以上によれば、注文者である被告A、元請負人であるB、下請負人である被告C、下請負人の雇用する労働者である原告の4者の関係において、被告Aがその事業所内において原告に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせていたということができるから、本件各業務委託契約を請負契約と評価することはできず、Bは、自己が雇用していない被告Cの雇用する原告をさらに業として被告Aに派遣していたこととなるというべきである。そうすると、上記4者の関係は、職安法4条6項にいう労働者供給を業として行うものとして、職安法44条に違反することとなり、原告が就業するのに介入して利益を得ることは労基法6条に違反することとなるものというべきである。

(2)本件雇用契約の有効性について
   しかし、職安法44条及び労基法6条の趣旨並びにその取締法規としての性質、さらには労働者を保護する必要性等に鑑みれば、職安法44条及び労基法6条に違反する行為がなされた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによって本件雇用契約が無効になることはないと解される。
   この点、本件雇用契約及び本件各業務委託契約が、二重偽装請負であり、職安法44条及び労基法6条に違反するとしても、本件においては、それを超えて、上記特段の事情の存在を肯定し得るだけの主張立証はないと言わざるを得ない。
   したがって、平成17年2月4日から平成21年1月31日までの間、本件雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。