東京地裁平成30年6月12日判決(労働判例1205号65頁)

エボニック・ジャパン事件(控訴後和解)


【事案の概要】

(1)被告は、エボニック・インターナショナル・ホールディングスを親会社とする日本法人である。A(以下「A GM」という。)は、平成24年以降、被告のリージョナル人事部マネージャーを務めている。
   原告(昭和30年3月〇日生)は、平成20年3月17日、被告との間で期間の定めのない雇用契約(以下「本件無期雇用契約」という。)を締結した。

(2)原告は、平成27年3月13日付けで60歳の定年により退職し、同月19日、被告との間で、同年4月1日から平成28年3月31日までの1年間を雇用期間とする有期雇用契約(以下「本件再雇用契約」という。)を締結した。
   本件無期雇用契約の下での定年直前の原告の基本給は月額83万3000円であったが、本件再雇用契約の下での基本給は平成27年4月から平成28年3月まで1年間を通じて月額50万円であった。

(3)ところで、被告の就業規則16条〔定年〕は、1項において、定年は60歳とし定年に達した月の末日をもって退職すると定めている。そして、同条2項において、1項の規定にかかわらず、以下の各年齢(注:平成25年4月1日から平成28年3月31日まで:61歳などと記載されている。)までは、14条退職・17条解雇の事由に該当しない者であって、本人が希望する場合については、定年後再雇用するものとし、同年齢以降は、下記「定年退職後の再雇用制度対象者の基準に関する労使協定」(以下「本件労使協定」という。)1条の基準を準用すると定めている。
   本件労使協定は、平成18年4月25日、平成24年法律第78号(以下「平成24年改正法」という。)による改正前の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、改正の前後を問わず、この法律を「高年法」という。)9条2項の規定に基づき、就業規則16条に定める定年退職後の再雇用制度の対象となる者の基準(以下「本件再雇用基準」という。)に関して、被告と従業員の過半数を代表する者の間で締結されたものである。
   本件労使協定1条は、被告は、下記アのいずれにも該当する者について、下記イに定める労働条件にて再雇用するものと定める。
 ア〔本件再雇用基準〕
  (ア)略
  (イ)定年退職後も勤務に精勤する意欲があること
  (ウ)過去3年間の人事考課結果が普通の水準以上であること(以下「本件人事考課基準」という。)
  以下略
 イ 定年退職後の再雇用制度対象者の労働条件
  (ア)略
  (イ)契約期間:期間1年とし、次年度以降は、健康状態及び精勤意欲、日常の勤務評価により契約の更新を行う
  (ウ)略
  (エ)賃金:年収280万円を下回らないものとする
  以下略  

(4)原告は、平成28年4月1日以降も再雇用の継続を希望していていた。しかし、被告は、同年2月24日、原告に対し、本件再雇用基準を充足しないことを理由として、本件再雇用契約が同年3月31日をもって終了し、同年4月1日以降はこれを更新しないこと(以下「本件雇止め」という。)を、書面をもって通知した。


【争点】

(1)原告の地位確認請求及び未払基本給請求について
 ア 原告が本件人事考課基準を充足していたか否か
 イ 労働契約法19条の適用場面と異なる旨の被告の主張の当否
 ウ 本件再雇用契約の労働条件が維持されることに対する期待に合理性はないとの被告の主張の当否
(2)原告の未払賞与請求について(争点4)
   以下、争点(1)から(3)までについての裁判所の判断の概要を示す。


   なお、上記各争点についての被告の主張の要旨は、以下のとおりである。
 ア (争点2)について
   平成28年4月1日以降の原告の再雇用について、労働契約法19条の適用場面とは異なる。
 イ (争点1)について
   仮に労働契約法19条の適用の余地があるとしても、原告が本件人事考課基準を充足していない。すなわち、本件人事考課基準(過去3年間の人事考課結果が普通の水準以上であること)は、過去3年間のいずれにおいても、達成度評価の評価値(点数)が全従業員の平均点以上であるか、少なくとも3点以上であることを意味すると解するのが合理的であるところ、原告は、平成26年及び27年について、全従業員の平均点未満かつ3点未満であったから、本件人事考課基準を満たさない。
   よって、本件再雇用契約の更新がみなされることはない。
 ウ (争点3)について
   仮に同日以降、原告の再雇用契約が存続するとしても、本件再雇用契約の労働条件が維持されることに対する期待に合理性はないことから、その年収は280万円にとどまる。


【裁判所の判断】

(1)原告が本件人事考課基準を充足していたか否か(争点1)
 ア 本件再雇用契約の終期である平成28年3月31日の時点において、原告は61歳に達しているから、原告が同年4月1日以降も再雇用されるためには。本件労使協定2条(注:略)による場合を除き、就業規則16条に基づき、本件労使協定1条所定の本件再雇用基準を充足している必要がある(【事案の概要】(3))。そして、弁論の全趣旨によれば、原告について、本件人事考課基準以外の本件再雇用基準に含まれる要素については、特段の問題なく充足していたことが認められる。それゆえ、本件人事考課基準を充足していたことが認められれば、原告は、本件再雇用基準を充足していたことになる。
 イ ところで、本件人事考課基準の意味について、被告は、前記被告の主張の要旨イのとおり述べる。
   しかしながら、達成度評価の評価値(点数)が全従業員の平均点以上であるか、少なくとも3点以上であるということは、特に良いとも悪いともいえないような大半の従業員が達成し得る平凡な成績を広く含む趣旨で使用される「普通の水準」という用語の一般的な意味から外れるものである。まして、3年連続で全従業員の平均点以上の成績を収めることのできる従業員は、全従業員の半数を大きく下回る人数にとどまる(証人A)のであり、「普通の水準」という用語の一般的な意味からは大きく逸脱する。
   そもそも、達成度評価の評価値(点数)が全従業員の平均点以上であることを要求する基準を設定する場合には、平均(アベレージ)という用語を使用するのが通常であると考えられるところ、本件人事考課基準において、かかる用語は使用されていない(証人A)。
   また、本件労使協定の交渉段階において検討された「グッドパフォーマンス」という基準ですら、達成度評価の評価値(点数)が4点以上であるなどの高い水準を意味していたとは考えがたい(証人A)ところ、これよりも低い「普通の水準(オーディナリーパフォーマンス)」が基準とされたものである。
   さらに、本件労使協定が締結された当時、被告の社内において、達成度評価の評価値(点数)が全従業員の平均値ないし3点以上でなければ、本件人事考課基準を充足したことにはならない旨の説明がなされたことを窺わせる形跡もない。
   そして、本件労使協定の締結された平成18年4月25日ころから平成28年3月31日ころまでの間、被告において定年を迎えた社員は12名程度はいたにもかかわらず、原告より前に定年を迎えた社員について、本件人事考課基準に照らして再雇用の当否を判断した事例が存在しなかったのであり、本件人事考課基準が再雇用の対象者を厳しく限定する基準として機能してきた実績も存在しない。
   そして、A GMが着任した当時、本件人事考課基準を妥結するに至った経緯等について、詳しく記載された資料も残されておらず、本件人事考課基準の意味に関する、前記被告の主張の要旨イに沿うA GM及びその部下の陳述等(証拠略、証人A)は、本件再雇用契約を更新しない旨の、H氏(注:平成27年3月ころ以降、原告の上司かつ人事評価における一次評価者であった、エボック・チャイナの関係者である。H氏は、平成28年2月5日の少し前ころ、同年4月以降は原告を再雇用すべきでないという意見を示し、これがA GMに伝えられた。)の判断を受けて検討された内容に過ぎないのであって、にわかに採用しがたい。
 ウ 以上検討したところに加え、本件労使協定に基づく再雇用制度は、高年法上の高齢者雇用確保措置の1つである継続雇用制度として設けられたものであることを踏まえると、本件人事考課基準のいう「普通の水準」は、大半の従業員が達成し得る平凡な成績を広く含む趣旨と解すべきであるし、「過去3年間の人事考課結果が普通の水準以上であること」というのは、過去3年間を通じて評価した場合に「普通の水準」以上であれば足りるという趣旨と理解するのが合理的である。
 エ このような観点から原告の達成度評価の評価値を検討すると、原告の人事考課の結果(詳細略)は、平成25年から平成27年までの3年間を通じてみた場合、大半の従業員が達成し得る平凡な成績と同程度以上であるといえるから、本件人事考課基準を充足すると認められる。   

(2)労働契約法19条の適用場面と異なる旨の被告の主張の当否(争点2)
   被告の正社員として勤務した後に平成27年3月31日に定年退職し、本件再雇用契約を締結した原告については、同契約が65歳まで継続すると期待することについて、終業規則16条2項及び本件労使協定の趣旨に基づく合理的な理由があるものと認められ、A GMも、本件労使協定1条について、本件再雇用基準に該当する限りにおいては必ず再雇用するという趣旨の規定であると述べている(証人A)。
   そして、本件再雇用契約の終期である平成28年3月31日の時点において、原告は、本件人事考課基準を含む本件再雇用基準に含まれる全ての要素を充足していた。
   よって、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められないものといえ、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で本件再雇用契約が更新されたものと認められる。

(3)本件再雇用契約の労働条件が維持されることに対する期待に合理性はないとの被告の主張の当否(争点3)
   原告が、本件再雇用基準を充足し、特別支給年金受給開始年齢後である平成28年4月1日以降も再雇用が継続される場合において、本件再雇用契約における労働条件が維持されると期待することに合理性はあると認められる。
   よって、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で本件再雇用契約が更新されたものと認められる。

(4)結論
   原告の地位確認請求及び未払基本給請求については、本件判決確定の日の翌日以降に支払期日の到来する基本給の支払を求める部分を除いて認容した。
   原告の未払賞与請求については、一部認容した(詳細略)。


 

東京高裁平成31年2月13日判決(労働判例1199号5頁)

国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】・【争点】

原審である、東京地裁平成30年6月14日判決(労働判例1199号44頁)参照


【第1審原告らの主張】

(1)雇用契約上の地位確認について(第1審原告A,同K及び同Lについて)
 ア 原判決は、定年到達とともに雇用契約を終了したとされ、定年後一度も有期雇用契約を結んでいない者(第1審原告A,同K及び同Lについて)については、労契法19条の類推適用はできず、権利濫用の法理によっても有期雇用契約が締結されたということはできないと判示する。
 イ しかし、本件において第1審被告会社が、第1審原告らから別件訴訟を提起されたことを理由に再雇用を拒否したものであることからすると、(定年後再雇用は、無期契約から有期契約への橋渡しの場面であり、有期契約から有期契約への橋渡しを想定する労契法19条の直接適用はないとしても、)定年後再雇用の場合においても、雇用継続の合理的期待を保護すべきであるから、同条が類推適用され、上記第1審原告らは、定年到達前と同様の隔日勤務のフルタイムの雇用形態での雇用関係が成立するというべきである。
   また、同条を類推せずとも、第1審被告会社の定年後再雇用拒否は、定年制度、労働者供給契約上の権利を濫用するものでありし、労組法7条に反する違法な行為である。よって、第1審被告会社には、信義則上、上記第1審原告らの再雇用の申込みを承諾すべき義務があり、就業規則21条1項の合理的解釈に基づく労働条件により、定年後再雇用契約が成立するというべきである。
 ウ 原判決によれば、定年後に一度でも再雇用契約を締結した労働者には、労契法19条の保護が及ぶ一方で、定年後の再雇用者には、労契法19条や権利濫用論の保護が及ばないことになるが、その結論は余りに不当であり、著しく正義にもとるものである。

(2)雇用契約上の地位確認について(第1審原告D及び同Iについて)
   上記第1審原告らは、有期雇用契約が複数回積み重なっており、第1審被告会社も事前に上記原告第1審原告らに対して雇止めをする意向を示しておらず、実際に、第1審原告Dは、第1審被告会社に雇止めされた後も他社において就労している。
   したがって、75歳という一事をもって上記第1審原告らの雇止めを正当化することはできず、地位確認請求が認められるべきである。


【第1審被告らの主張】

(1)原判決主文2項から5項について(雇用契約及び賃金支払請求権の終期)
 ア 原判決は、「本判決確定の日」までの賃金請求権を認めた。しかし、労契法19条による有期契約を認めるとすれば、同条により直近の有期契約の内容がその労働条件となるから、第1審個人原告らの契約終了時(雇止め時)の翌日から従前の労働契約の内容、すなわち、1年間の有期契約となるはずである。
   したがって、同条に基づき「みなされる」期間を超えて、労働契約上の地位が存在するとか賃金請求権が発生するということはあり得ず、上記期間を超えた部分について労働契約上の地位を認めたり、本件判決確定日まで賃金請求権を認めることは違法である。
 イ また、原判決でも75歳を超えた第1審原告らの期待権は存在しないとされているところ、平成30年4月〇日に74歳となる第1審原告E、同年5月〇日に74歳となる同Fなどは、みなされた契約期間終了時点で75歳を超えてしまい、当然、本判決の確定日において75歳を超えることは明らかである(他の第1審原告においても同様である。)。

(2)原判決において、第1審被告会社との間で労働契約上の地位を認められた第1審原告らについて
 ア (第1審原告B,同E,同Gについて)
   第1審被告会社は、原判決言渡後の平成30年7月11日付けで、原判決において雇用契約上の地位が認められた第1審原告ら7名(同B,同C、同E、同F、同G、同H及び同J)に対し、仮就労の指示命令を行ったが、第1審原告B、同E及び同G(他社就労者)は全くこれに応じていない。
   この点、タクシー業務適正化特別措置法に基づき、タクシー乗務員は、1社しか登録できないことからしても、同業他社でタクシー乗務員として就労している者については、第1審被告会社との関係で労働契約上の地位を認めることはできないはずである。上記第1審原告らが仮就労命令に応じていないことからすれば、同人らに第1審被告会社に対する労務提供の意思も能力もないことが立証されたというべきである。
 イ (第1審原告Jについて)
   第1審被告会社と第1審原告C、同F,同H及び同Jとの間では、平成30年9 月13日、仮処分命令申立事件(東京地裁平成30年(ヨ)第21050号)の中で、同年10月18日から就労を行う旨の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。しかし、同Jは、他社で就労しているからとして労務提供を行なっておらず、第1審被告会社に対する労務提供の意思がないことが具体的に明らかである。よって、同人については、労働契約上の地位及び賃金請求権が発生しない。少なくとも、(原審で中間収入の控除が認められた、第1審原告E,同G及び同Hと同様に)民法536条に基づき中間収入の控除がされるべきである。
 ウ (第1審原告C,同F及び同Hについて)
   第1審被告会社との間で本件和解の成立した第1審原告ら(第1審原告Jを含む。)については、上記和解において、平成30年10月18日から仮就労することや労働条件(処遇)が具体的に定められているから、仮に上記4名の雇止めが無効となったとしても、和解対象期間は原判決の認定した賃金請求権は発生しない。
 エ (第1審原告Bについて)
   第1審原告Bは、平成27年2月16日から平成28年2月15日までの契約期間に約9か月間欠勤したのであるから、労務の提供が不可能であることは明らかである(なお、同第1審原告は、期間満了が同日であり、その半年後の同年10月28日になって初めて労災申請を行ったが、労基署は11日間の休業のみ業務に起因すると認めたに過ぎない。)。
   この点、原判決は第1審原告Bの欠勤が「業務による疾病」であるから、長期の欠勤をもって労契法19条にいう客観的合理的な理由に該当しないとする。しかし、第1審原告Bの上記9か月間の休業(欠勤)のうち、業務上の疾病とされた(みなされた)期間は11日間に過ぎないから、これを除く期間の欠勤は私傷病欠勤である。
   したがって、上記の長期間の欠勤は、第1審被告会社が同第1審原告の契約更新をしない理由となり、労契法19条にいう客観的合理的理由となるというべきである。


【裁判所の判断】

(1)雇用契約上の地位確認について(第1審原告A,同K及び同Lについて)
 ア 期間の定めのない雇用契約が定年により終了した場合であっても、労働者からの申込みがあれば、それに応じて期間の定めのある再雇用契約を締結することが就業規則等で明定されていたり、確立した慣行となっていたりしており、かつ、その場合の契約内容が特定されているということができる場合には、使用者が労働者一般に対して、特段の欠格事由のない限り、再雇用する旨の黙示の意思表示をしていると解されるときはもちろん、そうでなくても、労働者において雇用契約の定年による終了後も再雇用契約により雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があるから、労働者から再雇用契約締結の申込みがあったにもかかわらず、使用者が再雇用契約を締結せず、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、使用者が再雇用契約を締結しない行為は権利濫用に該当し、その場合に、労契法19条の基礎にある法理や解雇権濫用法理の趣旨ないし使用者と労働者との間の信義則に照らして、期間の定めのない雇用契約が定年に終了した後、上記の特定されている契約内容による期間の定めのある再雇用契約が成立する余地はあるものというべきである。
 イ しかしながら、本件において、第1審被告会社を定年退職した従業員は、雇用継続のために第1審被告会社と新たに再雇用契約を締結するのであり、その場合には、従業員は、その勤務形態について、定年前から存在する隔日勤務と日勤勤務とのどちらかを選択することに加え、定年前から存在するフルタイム(11出番)と定年前には存在しなかった短時間勤務(8出番)のどちらを選んで希望し、従業員の希望と第1審被告会社の車両の空き状況を踏まえて、両者の合意により勤務形態を含めた労働条件が決定されるのである。すなわち、定年後の再雇用の場合には、定年前にはない短時間勤務という勤務形態がある一方で、車両の空き状況等によっては、従業員の希望どおりの勤務形態では第1審被告会社が再雇用契約を締結できない場合もあるから、従業員からの申込みと希望があれば、そのとおりの条件の再雇用契約を締結することが確立した慣行となっていたとまでは認め難い。
 ウ また、上記第1審原告3名は、再雇用契約における勤務形態についての希望等を何ら示していないから、上記第1審原告ら3名と第1審被告会社との間で成立するとみなされる再雇用契約(有期雇用契約)の内容を特定することができないといわざるを得ない。
 エ もっとも、上記第1原告ら3名と第1審被告会社との間の定年後の有期雇用契約の成立を認めることはできないものの、第1審被告会社における本件雇止め等の主要な動機が、第1審個人原告らが第1審被告会社に対し残業代の支払を請求し、その支払を求めるために別件訴訟を提起したことにあると認められることなどからすると、上記第1審原告ら3名についても、労働条件はともかく再雇用契約が締結される相当程度の可能性はあったものというべきである。それゆえ、第1審被告会社の本件再雇用拒否によってこれが侵害されたことについて、上記第1審原告ら3名はその精神的損害の賠償を求めることができるというべきであって、この点は、同人らが請求している慰謝料額の算定において考慮すべきである。

(2)雇用契約上の地位確認について(第1審原告D及び同Iについて)
   原判決が説示するとおり、本件において75歳以降の者について有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないのであって、上記第1審原告らについては労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。

(3)原判決主文2項から5項について(雇用契約及び賃金支払請求権の終期)
 ア 労契法19条の適用がある場合には、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件での労働契約が成立することになるから、本件雇止め時に成立した有期労働契約はそれぞれ1年間のものとなる。しかし、その際に成立した1年間の有期労働契約が終了する時点でも、当該第1審原告らが75歳を超えるまでは労契法19条が適用され、同条の要件を満たせば、更に1年間の有期労働契約が成立することになるというべきである。
   したがって、本件においてはなお当該第1審原告らが有期雇用契約が更新されるものと期待することに合理的な理由があるというべきであり、また、本件雇止め時とは異なって第1審被告会社がこれを拒絶することについて客観的合理的な理由が生じるとは認められないから、労働契約上の地位及び賃金請求権が1年間を超えて認められないとする第1審被告会社の主張は採用することはできない。
 イ もっとも、第1審被告会社との間で本件和解の成立した第1審原告ら(同C,同F,同H及び同J)については、和解条項の中で平成30年10月18日から仮就労することを目指し、その際の労働条件についても定めているところ、和解成立後タクシー労働に従事した日から1年を経過した日(ただし、更新することができる。)又は本案事件確定までは上記第1審原告らと第1審被告会社との間の雇用契約における賃金支払は、本件和解に従って行われるというべきであり、一方、同和解の中で、和解金として同月27日支払分までの仮払金相当額(後に清算するもの)を支払う旨取り決められていることからすると、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき期間は、同月分(同月27日支払分)までとするのが相当である。
 ウ 原判決が説示するとおり、75歳を超えた者について有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないから、第1審原告E及び同Gについても、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権は、それぞれ75歳を超えた時点で成立していた有期雇用契約が終了するその最終月の賃金支払日と、本判決確定の日のうちいずれか早く到来する日までとするのが相当である。

(4)原判決において、第1審被告会社との間で労働契約上の地位を認められた第1審原告らについて
 ア (第1審原告B,同E,同Gについて)
   雇止めによって収入が途絶えた上記各第1審原告らは、生計を維持するためにやむなく就労していることが伺われなくもないし、第1審被告会社は、上記第1審原告らに対して仮就労命令を通知しながら、他方で当審においては上記各第1審原告らの労働契約上の地位についても争っているものであるから、上記第1審原告らがその地位に不安を感じて他社での就労をやめて第1審被告会社において就労することをしないこともやむを得ないものと認められ、これをもって第1審被告会社に対する労務提供の意思も能力もないということはできない。タクシー業務適正化特別措置法についていう点も、上記認定を左右するものということはできない。
 イ (第1審原告Jについて)
   第1審原告Jが他社で就労していることをもって、直ちに第1審被告会社に労務提供する意思がないとはいえないことは、上記アで他の第1審原告らについて説示したところと同様であるが、第1審原告Jは、第1審原告Cらとともに仮処分命令申立事件の中で和解をしており、平成30年11月分(同月27日支払分)以降の第1審被告会社との雇用関係における賃金支払は上記和解に従って行われるべきであり、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき終期は、同月10月分(同月27日支払分)迄とするのが相当であることは、上記(3)イにて説示したとおりである。また、他社での収入について民法536条により中間収入を(平均賃金の4割を限度として)控除すべきという点については、第1審被告会社の主張は理由がある。
 ウ (第1審原告C,同F及び同Hについて)
   上記第1審原告ら3名及び同Jについては、本件和解が成立していることから、有期雇用契約が更新されたものとみなされることにょる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき期間は、平成30年10月分(同月27日支払分)までとするのが相当であることは、上記(3)イにて説示したとおりである。
 エ (第1審原告Bについて)
   第1審原告Bの欠勤が長期間に及ぶこと、欠勤は業務中の交通事故に起因する部分があるものの、その欠勤期間のうち上記事故に起因する療養のため労働できなかったと認められたのは、診療実日数の11日間に過ぎないこと、本件雇止めの時点でも休業が続いている状況であったものであり、本件雇止め等の主要な動機が別件訴訟の提起にあると認められることを考慮しても、第1審被告会社が第1審原告Bを雇止めとすることについては客観的に合理的な理由があるということができる。
   したがって、同人については、有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。


 

東京地裁平成30年6月14日判決(労働判例1199号44頁)

国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)原告Aから同Lまでの原告らは、いずれも被告会社に勤務していたタクシー運転手である。原告Bから同Jまでの原告らは、別紙2(略。以下、同じ)の「定年到達日」記載の日に、就業規則第21条1項に基づき65歳の定年となったところ(原告D及び原告Eは、もともと有期雇用であった。)、以後、同原告らは、被告会社との間で有期雇用契約を締結して引き続き就労していた。
   原告組合(原告組合以外の原告らを「個人原告ら」ともいう。)は、kmグループ傘下の被告会社らの従業員で組織される労働組合である。
   被告会社は、平成23年1月、kmグループの傘下に入った会社であり、平成26年9月1日、商号を現在の「国際自動車株式会社」に変更した。
   被告乙山は、遅くとも平成18年4月から平成28年6月28日まで、被告丁原は、平成28年6月28日から平成29年3月31日まで、それぞれ被告会社の代表取締役の地位にあった者である。

(2)原告組合は、平成26年6月17日、被告会社との間で、労働者供給に関する基本契約(以下「本件供給契約」という。)を締結した(平成27年4月1日、同内容の契約を締結済)。本件供給契約第同2条2項では、「原告組合は、被告会社の申込みに応じて随時組合員を供給する。」と定められている。

(3)原告Aから原告Lまでの原告らを含む原告組合の組合員56名は、平成27年7月15日、被告会社に対して、未払賃金(残業代)の支払を催告し、平成28年1月12日、被告会社に対し、未払賃金(残業代)支払請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。
   被告会社は、別紙2の「雇止め等の日」欄記載の日までに、個人原告らに対し、定年後の再雇用をしない旨又は有期雇用契約を更新しない旨を通知し、同日付けで原告Bから原告Jまでを雇止めした(以下、「これらの雇止めを一括して「本件雇止め」ともいう。)。 
   また、原告A、原告K及び原告Lについては、定年後に有期雇用契約を締結することなく、定年に達した時点で雇用関係を終了させた(以下、この再雇用契約を締結しなかったことを一括して「本件再雇用拒否」ともいう。また、本件雇止め及び本件雇用拒否を合わせて、「本件雇止め等」ともいう。)。

(4)原告B,原告E、原告G及び原告Hは、被告会社による雇止めの後、別紙3から別紙6(いずれも略)の「他収入」欄記載のとおり、他社で就労し、賃金を得た。


【争点】

(1)個人原告らと被告会社との雇用契約が、本件雇止め等にもかかわらず、労働契約法(以下「労契法」という。)19条の適用又は類推適用等により更新又は締結されたものとみなされるか。
 ア 本件供給契約に基づき供給された労働者に係る各有期雇用契約について、労契法19条が適用されるか。
 イ 個人原告らごとの争点について
 (ア) 定年到達とともに雇用契約関係を終了したとされ、一度も有期雇用契約を締結していない原告A、原告K及び原告Lについて
  a)労契法19条の類推適用又は権利濫用の法理により、有期雇用契約が締結されたとみなされるか。
  b)被告会社の上記原告らに対する再雇用拒否が、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められるか。
 イ) 原告Bから原告Jまでの各有期雇用契約について、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされるか。
(2)個人原告らの賃金請求権の有無及び額
(3)本件雇止め等の原告らに対する不法行為該当性及び原告らの損害額
であるが、以下、(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点(1)ア(本件供給契約に基づき供給された労働者に係る各有期雇用契約について、労契法19条が適用されるか)について
 ア 被告会社は、本件供給契約においては、被告会社が労働者供給の申込みを行うことが前提となっており、これを行うか否かは被告会社の裁量に委ねられているので、供給される労働者には有期雇用契約の更新についての合理的期待が生じる余地がないから、労契法19条の適用の基礎を欠く旨主張する。
 イ まず、本件供給契約は、被告会社が供給の申込みをした供給労働者と被告会社との間で、別途雇用契約を締結することを当然の前提としている。とすると、本件供給契約に基づく被告会社からの供給申込みが契機となるとしても、原告らと被告会社との契約関係は雇用契約であるから、その限りでは、労働契約法及び労働基準法の適用を否定すべき理由はない。 
 ウ 次に、被告会社の上記主張について検討する。
   本件供給契約は、契約書の2条2項に「甲(被告)の申込みに応じて」との文言はあるものの、被告会社に労働者供給を申し込むか否かの自由裁量を与え、申込みがなければ雇用契約が締結、更新されないという内容を合意したものではなく、有期雇用契約の契約期間の終了に伴う更新に当たっては、被告会社からの労働者供給申込みがなされなくても、他に同契約の更新を妨げる勤怠、健康等の問題がない限り、同契約が更新されるという、従前の有期雇用契約の更新手続や定年後の継続雇用の運用等を前提とした契約とみるのが、当事者の合理的意思解釈として妥当であり、その旨の黙示の合意があったと認められる。そうすると、上記の更新された有期雇用契約には、労契法19条が適用されると解される。

(2)争点(1)イ(ア)(定年到達とともに雇用契約関係を終了したとされ、一度も有期雇用契約を締結していない原告A、原告K及び原告Lについて、労契法19条の類推適用又は権利濫用の法理により、有期雇用契約が締結されたとみなされるか)について
 ア 労契法19条は、有期雇用契約について、同条1号、2号所定の要件があると認められ、当該労働者において遅滞なく当該有期雇用契約の更新申込み等を行った場合で、使用者の当該申込み拒絶が、客観的な合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、当該使用者は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすものであって、一定の要件の下に使用者の意思表示を擬制して、有期雇用契約につき、一種の法定更新を認めるものである。
  本件においては、上記原告ら3名の期間の定めのない雇用契約は定年により当然に終了したものであることや、原告らにおいて定年前の期間の定めのない雇用契約が定年後に有期雇用契約に転化すると主張していることを踏まえると、本件に労契法19条が類推適用されるとする原告らの主張は、同条の定める有期雇用契約の法定更新という枠組みとは大きく異なるものであり、類推適用の基礎を欠くというべきである。
 イ また、上記原告ら3名は、被告会社による再雇用拒否が権利濫用に該当するとして、期間の定めを除いて従前と同一の条件での有期雇用契約が成立したとみるべきであるとも主張する。
   しかし、定年後の再雇用の場合には、定年前にはない短時間勤務という勤務形態がある一方で、車両の空き状態等によっては、労働者の希望どおりの勤務形態(注:隔日勤務か日勤勤務か、フルタイムか短時間勤務か)では被告会社が雇用契約を締結できない場合もありうる。そして、被告会社は、上記原告ら3名との再雇用契約締結を拒否しており、再雇用契約における労働条件についての希望等は何ら示されていない。
   よって、本件再雇用拒否が権利濫用に当たるか否かを問うまでもなく、上記原告ら3名と被告会社との間で締結される再雇用契約の主要な労働条件である上記各勤務形態のいずれであるかという点を定めることができない以上、上記原告ら3名と被告会社との間で再雇用契約が成立したと認めることはできない。
 ウ 以上によれば、上記原告ら3名の、労働契約法上の権利を有する地位の確認及び労働契約に基づく賃金支払請求は、その余の点(注:争点(1)イ(ア)b)について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

(3)争点(1)イ(イ)(原告Bから原告Jまでの各有期雇用契約について、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされるか)について、
 ア 75歳までの雇用契約更新に対する合理的期待
   平成19年7月24日の安全自動車労働組合(注:現原告組合)とANZENグループ(注:現被告会社)との団体交渉において、当時のM社長が、定年後の再雇用契約について、乗務員の安定的な確保と稼働率の上昇を図るために75歳まで契約更新を可能とし、60歳定年者の継続雇用について、勤怠、健康状態等に問題がない限り自動的に再雇用となることなどについて発言したなどの事実が認められる。上記のM社長の発言以降、定年到達後、被告会社に再雇用された労働者については、勤怠、健康状態等に問題がない限り75歳まで契約更新が可能となるという限度において、有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な期待(労契法19条)があると認められる。
 イ 75歳を超える原告ら(原告D、原告I)について
   上記の原告ら2名については、有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないから、その余の点について検討するまでもなく、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。
 ウ その余の個人原告らについて
 (ア) 定年後の有期雇用契約が複数回更新された原告ら(原告C、原告F、原告G、原告H及び原告J)について
   上記の原告ら5名については、労契法19条により有期雇用契約が更新されると期待することについて合理的な理由があるとみなすことができる。
 (イ) 定年後の有期雇用契約が1回も更新されていない原告Bについて
   有期雇用契約の更新が一度もされていない原告Bにおいても、一度再雇用としての有期雇用契約を締結した以上、契約更新への期待は既に現実化しているといえ、同様に更新を期待する合理的理由があると認められる。
 (ウ)  採用時から有期雇用契約を締結しそれが複数回更新された原告Eについて
   原告Eは、採用時から有期雇用契約が複数回更新されているから、有期雇用契約が更新されると期待されることについて合理的期待があると認められる。
  エ  被告会社による本件雇止めの動機について
   以下の経緯に加え、後記(略)の各原告の雇止めについての判断を併せ考慮すると、個人原告ら(原告Bから原告Jまでを含む)が残業代の支払を請求し、その支払を求めるために別件訴訟を提起したことが、本件雇止め等の主要な動機であることが認められる。
  (a)原告らが平成27年7月15日付けで被告会社に対して未払残業代の支払を催告する通知を送付した後、同年12月に入り、原告Aが、被告会社のN課長から別件訴訟の委任状への署名の趣旨を確認され、引き続き、平成28年1月16日に定年後再雇用をしない旨通告されたこと
  (b)この後原告組合が申し入れた団体交渉の場において、被告会社の当時の社長であった被告乙山が、会社に裁判を提起するような従業員については、信頼関係が保てないので再雇用や雇用継続をしない旨明言し、東京都労働委員会の調査期日においても、同様の内容を述べたこと
  (c)個人原告らが平成28年1月12日に別件訴訟を提起した後、被告会社が個人原告ら充てに、同訴訟が提起されたとの通知に接した旨の確認書を送付したこと
  (d)被告乙山の指示により、同訴訟の原告となった従業員らに対し個別面談が行われ、複数の原告が同訴訟を取り下げたこと
  (e)被告会社の一連の行為により、残業代請求を断念した労働者が相当数に及んでいること
 オ 他社において就労している原告ら(原告B,原告E、原告G及び原告H)について
   雇止めによって収入が途絶えた上記の原告ら4名は、生計を維持するためにやむなく就労していることがうかがわれなくもなく、本件全証拠によっても、上記原告らの就労の各事実をもって、被告会社における就労の意思及び能力を喪失したと認めることはできない。
 カ 75歳未満の各原告ら(原告B、原告C、原告E、原告F、原告G、原告H、原告J)についての小括(争点(1)の結論)
   それぞれの個別事情(略)に加えて、本件雇止めの主要な動機が別件訴訟の提起にあると認められることも考慮すると、被告会社主張に係る各事実をもって雇止めとする客観的合理的理由があるということはできず、社会通念上相当であるとも認められない。
   よって、上記の原告ら7名については、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされる。