大阪高裁平成30年12月21日判決(労働判例1198号32頁)

ハマキョウレックス(第二次差戻後控訴審)事件(確定)

【事案の概要】

(1)被控訴人は、一般貨物自動車運送事業等を営む株式会社である。
   控訴人は、平成20年10月6日頃、被控訴人との間で、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「契約社員」又は「有期契約労働者」という。)であり、乗務員(トラック運転手、配車ドライバー)として被控訴人の業務に従事している。上記労働契約は、その後順次更新されている(以下「本件労働契約」という。)。

(2)契約社員である控訴人については、被控訴人と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「正社員」又は「無期契約労働者」という。)と比較すると、それぞれ異なる就業規則が適用されることにより、賃金の内容が相違している。
   そして、控訴人の勤務しているD支店においては、労働契約法の一部(注:同法20条を含む。)を改正する法律が施行された、平成20年4月1日から同27年11月30日までの期間(以下「本件期間」という。)中、正社員である乗務員に対して月額1万円の皆勤手当が支給されていたが、契約社員である乗務員の控訴人には支給されなかった。

(3)第一次差戻後控訴審は、正社員に支給された諸手当のうち、住宅手当及び皆勤手当の不支給については、労働契約法20条違反とは認めず、同支給額相当の損害賠償請求を棄却した(大阪高裁平成28年7月26日判決・労判1143号5頁)。

(4)これに対し、第一次差戻後上告審は、正社員に対し上記皆勤手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働契約の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断した。
   そして、同上告審は、控訴人の平成25年4月1日以降の皆勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し、控訴人が皆勤手当の支給要件を満たしているか否か等について、更に審理を尽くさせるため、同部分につき大阪高等裁判所に差し戻す旨の判決をした(最高裁平成30年6月1日判決・ハマキョウレックス(差戻審)事件・労判1179号20頁)。
   よって、第二次差戻後控訴審である当審の審判の対象は、不法行為に基づく本件期間の皆勤手当に係る損害賠償請求の当否のみである。

【争点】

(1)本件労働契約に基づく控訴人の労働条件である皆勤手当の不支給の不合理性
(2)被控訴人の故意又は過失の有無
(3)控訴人の損害額
   以下、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(1)に係る控訴人の主張は、以下のとおりである。
   有期労働契約である本件労働契約と、被控訴人の正社員である乗務員と被控訴人との無期労働契約においては、①労働時間について相違はなく、②配車担当者の指示に基づいて配送業務を行うという点で業務内容も同一で、かつ配送業務の地域も異ならず、③配送業務を行う者の間に配転の有無や責任についての相違もない。
   にもかかわらず、皆勤に対してインセンティブを付与することで皆勤を奨励する趣旨の皆勤手当を、正社員である乗務員にのみ支給するという労働条件の相違は、業務内容及び業務に伴う責任の程度(以下、併せて「職務の内容」という。)や、職務の内容及び配置の変更の範囲等の事情を考慮しても,不合理と認められるものであるというべきである。
   かかる不合理な相違のある本件労働契約上の労働条件は、労働契約法20条によって無効である。それゆえ、控訴人に対し皆勤手当を不支給とした被控訴人の行為は、控訴人に対する不法行為を構成する。

【裁判所の判断】

(1)本件労働契約に基づく控訴人の労働条件である皆勤手当の不支給の不合理性
 ア 不合理性の判断基準
   労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより、労働条件に相違があり得ることを前提に、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の程度その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。
   また、同条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。
   そして、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に労働条件の相違が、不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
   なお、ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合もあり得るところ、そのような事情も、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり考慮されることになるものと解される(最高裁平成30年6月1日判決。長澤運輸事件・労判1179号34頁)。
 イ 以下、皆勤手当の趣旨を踏まえて、契約社員と正社員との間で皆勤手当の支給の有無につき相違のあることが、労働契約法20条の定める考慮要素に照らし、「不合理と認められるもの」であるか否かを検討する。
  ①皆勤手当の趣旨
   皆勤手当は、正社員のうち乗務員のみに対し、全営業日を出勤したときに限り支給されるものである。この皆勤手当は、被控訴人が運送業務を円滑に進めるためには、実際に出勤する乗務員を一定数確保する必要があることから、乗務員に皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解される。
  ②考慮要素からする不合理の有無
  a)職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲
   被控訴人のD支店における乗務員(トラック運転手)の主な業務は、配車担当者の指示に基づいて配送業務を行うものであり、同業務及び同業務に伴う責任の程度において、契約社員と正社員との間で異なるところはない。したがって、皆勤手当の趣旨である運送業務を円滑に進めるために、実際に出勤する乗務員を一定数確保する必要性について、契約社員と正社員との間で差異が生じるものではない。
  b)その他の事情(他の賃金項目の有無及び内容との関連)
   被控訴人は、契約社員の時間給増減の評価のために、評価表作成基準及びそれに基づく支給基準(以下「本件運用基準」という。)を作成し、各項目の達成度を評価する制度を設けている。この制度に基づく時間給の増加が、前記アでいう「ある賃金項目の有無及び内容が、他の賃金項目の有無及び内容を踏まえて決定される場合」という事情、すなわち、契約社員である乗務員への皆勤手当不支給に対する合理的な代償措置と評価できるのであれば、かかる代償措置を踏まえて皆勤手当不支給が決定されているということができる(長澤運輸最高裁判決参照)、契約社員である乗務員に皆勤手当が支給されないことが、「不合理であると認められるもの」と評価するについての評価障害事実になる。
   しかし、本件運用基準による時給の増加は、そもそも皆勤の評価が直ちに賃金に反映するのか不確実な制度であるというだけでなく、控訴人のように再雇用がなされ、他の評価項目も年間を通じて高評価であり、皆勤の事実が事実上昇給に反映されていると見得る余地がある場合であっても、皆勤手当(月額1万円、年額12万円)と比べると、わずかの金額(最大でも月額504円(=15円(本件運用基準上の最大昇給額)×168(時間/月)×4点/20点)、年間6048円程度)に過ぎないのである。それゆえ、契約社員である乗務員について、皆勤を奨励する趣旨で翌年の時給の増額がなされ得る部分があることをもって、皆勤手当を不支給とする合理的な代償措置と位置付けることはできない。
   したがって、本件運用基準による時給の増額は、契約社員である控訴人に皆勤手当が不支給とされることが「不合理と認められるもの」と評価するについて、評価障害事実にはならない。
 ウ 以上から、皆勤手当の趣旨を踏まえると、契約社員と正社員との皆勤手当の支給における相違は、労働契約法20条に定める考慮要素(職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情)に照らし、不合理と認められるものに当たる。
   したがって、労働契約法20条に違反する皆勤手当の不支給は、均衡待遇を要求する控訴人の法的な利益を侵害するものとして、不法行為になり得る。

(2)被控訴人の故意又は過失の有無
 ア 以下の各事情によると、被控訴人は、労働契約法20条の施行時までには、同条の趣旨に合致するように、契約社員である乗務員の労働条件について、正社員である乗務員の労働条件と均衡のとれた処遇とするように取り組むべき注意義務があった。
  ・労働契約法20条は、規定の内容や趣旨からして、強行法規として私法上の効力を有し、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となると解されること。
  ・同条に違反する場合には、有期労働契約のうち上記のとおり労働条件の相違を設ける部分が無効になるだけでなく、不法行為となり得ることが、同条施行時(平成25年4月1日)よりも前に、厚生労働省労働基準局長の平成24年8月10日付け基発0810第2号「労働契約法の施行について」と題する通達や多数の文献によって指摘されていたこと。
  ・被控訴人は、労働契約法20条の施行前から、会社の業種や規模に相応する労務管理能力を有していたと推認されること。
  ・被控訴人と労働組合との交渉において、度々組合員である契約社員(パート労働者)の待遇改善を要求され、平成24年7月17日には、格差是正の件(手当支給)として、団体交渉の内容となっていたこと(控訴人本人(原審・第一次差戻後一審))。
 イ しかし、被控訴人が労働契約法20条の施行時までに何らかの形で上記取組みをしたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被控訴人は、控訴人に対して皆勤手当を支給しないという違法な取扱いをしたことについて、過失があったというべきである。
   そうすると、被控訴人は、控訴人に対し、上記不法行為により控訴人が被った損害を賠償すべき義務がある。

(3)控訴人の損害額
 ア 控訴人には、本件期間中、年次有給休暇を取得した日を含めて、欠勤扱いになった日はなく、皆勤手当の支給要件である「組合員が全営業日を出勤したとき」に該当するか又はそれと同視できる事情がある。したがって、控訴人は、本件期間の皆勤手当相当額32万円(=1万円×32(月))の損害を被った。
 イ この点、被控訴人は、控訴人が本件期間のうち、4日間について、当日欠勤(注:出勤日当日になって被控訴人に欠勤を申し出て欠勤すること)をしており、事後的に年次有給休暇が認められる場合であっても、4か月分については支給要件を満たさないなどと主張する。
   しかし、年次有給休暇を取得した場合に、賃金の減額その他不利益な取扱いをすること(このような不利益な取扱いには、本件において年次有給休暇取得を理由に皆勤手当を支給しない取扱いをすることも含まれる。)は、労働基準法附則136条(努力義務を定めたものと解される。)からすると、できるだけ避けるべきものである(最高裁平成5年6月25日判決・沼津交通事件・労判636号11頁)。
   そして、年次有給休暇の取得の場合に、事前の届出と事後の届出の場合で、皆勤手当の支給を区別することは、正社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規程(以下「本件正社員給与規程」という。)上明記されていない上、正社員である乗務員については、事後的な届出による年次有給休暇の場合であっても、皆勤手当が支給されていることが認められる(弁論の全趣旨)。したがって、本件正社員給与規程は、正社員である乗務員について、年次有給休暇の取得に関し、事後の届出であっても、皆勤手当の支給要件を充たすものとして取り扱われていると解される。そして、契約社員である乗務員についても、この点について別意に解する根拠はない。したがって、控訴人は、年次有給休暇を取得した上記4日の属する4か月分についても、皆勤手当の支給要件を充たすというべきである。

(4)結論
   平成25年4月1日から平成27年11月30日までの皆勤手当に係る損害賠償を求める控訴人の請求(当審における追加請求を含む。)は理由がある(認容。原判決一部変更)。